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育児支援型集合住宅における現代家族の生活行動パターンについて~人間環境の変容と再構築に関する一考察~-香川大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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1.はじめに  現代は、ファミリーライフステージの進展と共に住まいや住まい方を変えていくというライフス タイルが中心的になっており、ファミリーライフステージの進展や住まい方の変化に伴って、家族 関係や生活時間、近隣関係や地域社会との関係などが変容していくケースが増大していると考えら れる。現代における家族関係や近隣関係の弱体化を背景とすれば、持続可能な21世紀型のライフス タイルとして、生活空間の選択と共に近隣関係や地域社会との関係の再構築を図る必要があるとい えるのではないか。さらにミクロな視点からは、家族関係の変化に伴う再構築についても検討する 必要があるのではないだろうか。  一方で、近年の少子化高齢化を背景として、育児支援型集合住宅やセルフコーディネート型住戸 など、従来にはみられなかった新しい住まい方が社会的にも注目されている。たとえば、東京都杉 並区で2005年から入居している育児支援型集合住宅は、分譲マンションの1階部分に託児室や遊び 場として使用できる共有室と屋外の共有スペースを確保し、それらを居住者が共同で管理し使用す るものである。香川県高松市で2006年から入居しているものでは、住戸空間に間仕切りをなくして 居住者の空間づくりを前提とした斬新な間取りや、子どもの成長に合わせて個室を増やすことを想 定した可変型住戸で、各家族のファミリーライフステージの進展に配慮した空間づくりが求められ るものとなっている。筆者らは、これらが結果的に家族のライフスタイルの変容をもたらすことに なる実態を事例として紹介している(川田・大久保2009、時岡2008)。新しい住まい方が家族の生 活時間や家族関係、地域との繋がりに影響を及ぼし、これらがさらに家族のライフスタイルの変容 をもたらすといえよう。そこで、本研究では、周囲の状況や環境の変化によるものではなく、生活 者自身が新しいライフスタイルを選択し新たな生活を営むことで結果的に生じる生活の変容につい て、特に家族関係や人間環境の変化と再構築の面から明らかにする。  調査対象として、前述した香川県高松市の育児支援型集合住宅を取り上げる。筆者らが産学連 携共同研究の一環として2005年より継続して調査を実施してきた対象であり(平成17・18・19年度産 学連携共同研究「住まいと子育てに関する研究」、研究代表者:川田学)、入居時点での可変型住戸 の家族による住みこなしの実態については既に報告している(時岡2008)。本報では、入居直後と 2年後の比較も加えながら、家族の生活行動パターンを明らかにし、住まい方の変化に伴って生じ る家族関係や人間環境の変容、あるいは再構築について考察する。なお、可変型間取りの例、共有 ルームの現況については、図1∼3に示すとおりである。

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2.研究方法  香川県高松市内の子育て支援型集合住宅2棟を対象として、2008年12月に居住者アンケート、 2008年11月に共有ルームの観察調査を実施した。対象の集合住宅は、2006年入居の分譲マンション で、各住戸は可変型、1階には共有ルームと遊具を備えたプレイロットがあり、管理人が常駐して いる。居住者アンケートは世帯票および子ども票とし、設問項目は、家族構成、ふだんの家族の過 ごし方、可変型住戸の使われ方、共有ルームの利用時間・頻度・利用内容・要望などで、62世帯全 戸に配布し、回収数は42票であった(回収率67.7%)。共有ルームの観察調査は、A棟について2008 年11月5∼16日に行った。対象とした集合住宅は、一戸あたりの平均専有面積86.0㎡、入居時にお ける世帯主の平均年齢37.4歳、世帯主の平均所得547万円であった。また、家族構成とファミリー ライフステージは、図4および図5に示す。 3.住戸内における家族の過ごし方  まず、アンケートの分析から、住戸内における家族の生活行動についてみることにする。ふだん の家族の過ごし方について、家族が一緒に過ごすか、おもに住戸内のどこにいるかの2点に注目す ると(図6)、おもにリビングで家族一緒に過ごしているとの回答が多い。対象世帯の多くはライ フステージが子ども乳幼児期という影響が考えられるが、小学校高学年や中学生でも多くがリビン グで過ごすとしている。室仕切りの状態から住戸内空間の使い方をみると(図7)、壁の仕切りは 最小限にしていてリビングを戸で時々仕切る世帯がもっとも多い。仕切りをせず開放的に使用して いる世帯も多く、壁や戸でリビングを常時仕切っている世帯はさほど多くない。ふだん家族がリビ ングで過ごしているという認識と、リビングの開放的な使用状況の相関が考えられる。 図1 可変型間取りの例 図2 共有ルーム(A棟) 図3 共有ルーム(B棟) 図4 対象世帯の家族構成 図5 対象世帯のファミリーライフステージ 核家族 (夫婦のみ) 核家族 (親子) 三世代家族 その他 0 50 100 2 年後 入居直後 0 50 100 乳幼児 2 年後 入居直後 小学校低学年 N. A. 小学校高学年 中学生 高校生以上 子どもなし

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 住戸内が入居直後と比較してどのように変化したか、使われ方の変化をみると(図8)、家具配 置などのレイアウト変更や、子ども室の使い方が変化した世帯が発現している。入居後の家族の生 活行動に合わせて変更が行われたと考えられる。特に、子ども室の変化では(図9)、入居直後に比 較して子ども室のない世帯が減少しており、短期間ではあるがファミリーライフステージが進展し たことがうかがえる。「個室」、「きょうだいで使用」、いずれも戸を開けて使用している世帯が多い。  以上から、家族は開放的に使用しているリビングで一緒にいることが多く、子どもたちも家族と のつながりを確保して過ごしていることがわかる。 4.共有ルームにみる家族の過ごし方  共有ルームの使用頻度をみると(図10)、入居直後に比して「週4∼5回は使用」が増加、「週1回 程度」が減少し、徐々に使いこなしている様子がうかがえる。入居直後の調査結果で「行ったこと がない人は行きにくい」という傾向がみられたことから、その後の棟内イベントなどによる利用を 契機として定期的に使用する人が増えたことがわかる。一緒に使用するメンバーとしては(図11)、 「子どもだけで」「母と子で」が圧倒的に多い。 図8 住戸内の使われ方の変化 図9 子ども室の使われ方の変化 図10 共有ルームの使用頻度の変化 図11 共有ルームを一緒に使用するメンバー 家具配置レイアウト変更 0 5 10 15 0 10 20 30 各個室、 戸を閉めて 2 年後 N. A. その他 変わっていない 仕切り、 戸を閉めた 仕切り、 戸を開放 子ども室の使い方変化 入居直後 各個室、 戸は開けて きょうだいで閉めて きょうだいで開けて 子ども室なし 40 週 4 ~ 5 回 0 2 年後 入居直後 20 40 60 N. A. 週 2 ~ 3 回 週 1 回程度 利用なし 子だけで 0 10 20 30 親だけで 家族で 母 + 子 父 + 子

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 また、世帯主の配偶者の勤務形態別にみた使用状況をみると(図12)、常勤の世帯で「週4∼5回」 と「利用なし」に二分されており、末子の年齢別では(図13)、子どもが乳幼児あるいは小学校低学 年の世帯はよく使用するが、子どもがいないか中学生以上の世帯はほとんど使用していない。 5.共有ルームの使用にみる行動パターン  観察調査の結果を用いて、共有ルームの使用にみる行動パターンから、家族の生活行動の特徴に ついて検討する。 図12 世帯主の配偶者の勤務形態別にみた 共有ルームの使用状況    図13 ファミリーライフステージ別にみた 共有ルームの使用状況    図14 時系列にみた共有ルームの使用者数(事例A、11月15日(土)13∼19時) 図15 時系列にみた共有ルームの集団人数(事例A、11月15日(土)13∼19時)

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 共有ルームの使用者数および集団人数の日内変化について、A棟の11月15日(土)を事例として 図14、15に示した。なお、観察した概要は次のとおりである。  13時から観察するが当初は無人。14時03分に小2女児と父親が来室しプレイロットでキャッチ ボールを始める。25分に別の小2女児が来室し3人でおしゃべりの後、55分に父親が帰り、女児2 人でキャッチボール。15時16分に小2女児と弟の3歳男児が来室してキャッチボールに合流した 後、52分に室内に入り同メンバーで折り紙。55分には小学校高学年の男児5人が来室し持参した ゲームで遊ぶ。16時13分には別の小2女児が来て女児グループに合流し、ごっこ遊びになる。32分 に3歳男児が小学校男児グループに合流して遊ぶが、41分に元のグループに戻る。16時50分に最初 に来た女児が帰る。52分には残った女児の妹である4歳女児が来て女児グループと合流し「ままご とセット」(備品)で遊ぶ。17時00分に小2女児と4歳女児の姉妹が帰り、17時04分には小2女児 と3歳男児きょうだいの父親が迎えに来て一緒に帰る。17時38分に女児たちが帰り、最後まで継続 してゲームをしていた男児グループが18時34分に帰る。19時に観察を終了した。  観察調査の全記録から、利用状況として共通する点を抽出すると、①平日、土日とも15時頃から 利用が増加し、18時以降ほとんどが帰宅していく、②利用人数のピークは16∼18時頃、③2・3人 から5・6人グループが多く、在室者は最大で20人程度である、ことがわかる。  次に、共有ルームでの行動内容と発現時間について、平日と土日の例として、A棟11月13日 (木)、15日(土)を図16および17に示す。平日は一人遊びや宿題が比較的多くみられるが、土日に は集団遊びやゲームなどが多い。前述の観察記録にみられるとおり、後から来室した子どもや別グ ループが合流して一緒に過ごす場面も多くみられた。  これらの観察記録の分析から、共有ルームの使用に現れた家族あるいは人間関係の特徴として、 ①きょうだい一緒に遊ぶ場面が多く、住戸内では一緒に遊ばないが共有ルームでは一緒というケー スもある、②夕方に母親が迎えに来る、あるいは母子が待ち合わせて帰宅するケースが多い、③土 日には、父子での利用がある、④同年齢や同学年集団が多いが、きょうだいや別グループと合流す ることで異年齢集団の関わりが生じている、⑤中学・高校生では、年少者がいなくなる夕方以降か ら、宿題や読書に来ることが多い、⑦共有ルームでの親同士の交流が生じている、といった点にま とめることができる。すなわち、共有ルームは家族のコミュニケーション場面の一部となってお り、入居前とは異なる関わり方が発現していること、また、棟内を中心とする近隣関係を築く貴重 な機会となっており、子どもの異年齢や他グループとの交流や、親世代にとっても棟内の他世帯と の交流が生じるようになっていることがわかる。 図16 平日の共有ルームの行動時間(単位:分) (事例A、11月13日(木)13∼19時) 図17 土曜日の共有ルームの行動時間(単位:分) (事例A、11月15日(土)13∼19時)

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6.子どもの意識からみた行動パターン  子ども用アンケートの回答から、共有ルーム利用に関する行動パターンについて検討する。  共有ルームを使用する理由では(図18)、特定の友人・知人など「誰かいる」との期待が、「おも ちゃ」や「広さ」よりも高い。共有ルームにおけるおもな行動では(図19)、圧倒的に「友だちと遊ぶ」 ことが多く、共有ルームの特徴としても(図20)、「友だちと遊べる」がもっとも多く挙げられた。 共有ルームに望むことは(図21)、現在までに共有ルームを使用した経験のある子どもたちが回答 したと考えられるため、現状をふまえての要望とみることができる。友だちとの遊びを期待して、 または待ち合わせて共有ルームに来室するが、前項で指摘したとおり、他のグループや来室者と 一緒に遊ぶことも多く、新たな友だちができることも期待していることが読み取れる。すなわち、 「友だちをつくれて楽しく遊べる安全な空間」を求めているといえる。  また、本調査対象者のうち、2008年に筆者が行ったケース研究の対象Mさん、Aさんでは、子ど もたちの家族への関わり方の変化にともなって共有ルームの使用に変化が生じ、友人との関わり方 が変化するという実態が認められた。いずれも、両親と子ども2人の核家族である。Mさんの場合 (長男9歳、長女6歳)、リビングから子ども室までの空間をできるだけ広く使用するという母親の 意向で、子ども室は二人共有として仕切りを入れず、リビングからの入口となる引き戸も常に開け ておくことにより、リビングから子ども室までの全体を見渡すことができるようになっている。こ の広い空間を使って、きょうだいでボール遊びをしたり走り廻ったりして遊んでおり、きょうだい で遊ぶことが増えた。その反面、共有ルームの使用はあまり多くなく、特に長女は共有ルームを好 きではないためほとんど使用せず在宅していることが多い。長男は、友人と誘い合わせれば共有 ルームに行くこともあるが、その際にも長女はあまり同行しない。一方、Aさんの場合(長女11歳、 長男9歳)、子どもの自立を促すために個室をそれぞれに与えたいという両親の意向があり、子ど も室の仕切りや使い方を子どもに任せたところ、きょうだいが自主的に相談して仕切りを入れて個 図18 子どもが共有ルームを使用する理由 図19 共有ルームにおけるおもな行動 図20 共有ルームの特徴と思うこと 図21 子どもが共有ルームに望むこと

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有ルームであるから生じた変化とみることができる。 7.おわりに  可変型間取りと共有ルームを有する育児支援型の集合住宅を対象として、入居後に定着していく 家族の生活行動パターンを明らかにし、住まい方の変化に伴って生じる家族関係や人間環境の変 容、再構築について検討してきた。  住戸内では、可変型間取りの特徴を生かして、開放的な家族共生型の空間を構成していることが 確認された。子ども室には個室としての完全な閉鎖性を与えず、家族の共有空間であるリビングと 緩やかに繋がっている空間構成が、個を尊重しつつ家族が一緒に過ごすという場面を創出している のではないかと考えられる。また、それぞれが期待する家族関係の実現ということが入居の際の意 向として現われていたが、住まい方の変化によって家族の生活行動パターンが変化し、家族関係や 人間環境が変容している事例が認められた。  共有ルームの使用実態からは、家族のコミュニケーション場面の一部となっており、入居前とは 異なる家族の関わり方が発現していること、また、棟内を中心とする近隣関係を築く貴重な機会と なっており、子どもの異年齢や他グループとの交流や、親世代にとっても棟内の他世帯との交流が 生じたことが明らかにされた。子どもたちは友人との遊びを期待して、あるいは待ち合わせて共有 ルームに来室するが、他のグループや来室者と一緒に遊ぶことも多く、新たな友人ができることへ の期待を持っている。一方、母子が待ち合わせて帰宅するケースも多く、幼少の子どもたちか母子 が過ごす空間となっている傾向がみられた。父や家族での使用は少ないことから、家族の個別化や 父親不在といった現代家族の特徴の一端とみることができる。与えられた安全で安心な環境の中で あるからこそ、新たな関係が構築できているということもいえるのではないか。  本調査対象者は、育児支援型集合住宅を選択していることから、住意識が高く、家族関係への思 いが比較的強い特徴を有していると考えられる。そこで、今後、これらの普遍性の検証と、さらに 地域社会との関係の構築についても検討していく必要があると考える。  本研究は、平成20年度科学研究費補助金基盤研究(C)「家族と近隣の人間環境からみた21世紀 型市民のライフスタイルとその支援策」(課題番号20500650)の一部として行ったものである。  なお、調査にあたって、穴吹興産株式会社にご協力いただきました。ここに記して謝意を表しま す。

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文 献 川田学・大久保智生(2009)集合住宅における幼児の遊びと生活行動−子育て支援型マンションと従来型マンショ ンの比較を通して−、香川大学教育学部研究報告第Ⅰ部第131号、pp.41∼49. 時岡晴美(2008)居住空間のセルフコーディネートからみた現代家族のライフスタイル変容−育児支援型集合住 宅における可変型住戸を事例として−、香川大学教育学部研究報告第Ⅰ部第130号、pp.37∼46. 平手小太郎・金銀照・宗方淳(2006)コミュニケーションの機会を促す家族共用空間内のテリトリー構成に関す る研究(その1)、日本建築学会大会学術講演梗概集2006年、pp.57∼58. 丸茂みゆき・浅沼由紀・沢田知子・宮宇地一彦(2007)都市居住者の世代別・生活行動タイプ別にみた地域との 関わり−熟年・高齢期における地域生活と交流形成に関する研究 その2−、日本建築学会大会学術講演梗 概集2007年、pp.347∼348. 三村浩史(1991)住まい学のすすめ、彰国社. 山崎さゆり(2008)集合住宅居住者の生活行動と人付き合いについて−その2、日本建築学会大会学術講演梗概 集2008年、pp.167∼168.

参照

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