香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),20:111−124,2010
はじめに
今日の学校現場において,児童生徒にわかる 授業,楽しい授業を展開することは,学力の向 上はもとより生徒指導面からも重要な課題と なっている。教師の実践的指導力が強く求めら れているのである。 こうした問題意識から,先の論文において, より望ましい授業づくり・授業改善に向けた自 らの授業を自己点検する力を「評価力」として 捉え,一人一人の教師が,より望ましい授業づ くりに向け,自らの授業実践を振り返りつつ, よりよい授業改善を行っていく可能性を探っ た。その結果,校内授業研究(校内研修)の在 り方が,「評価力」の向上に大きな影響を与え ていることが明らかになった。 本稿では,附属中学校及び附属特別支援学校 における校内授業研究の改善の試みを示すとと もに,そこから「評価力」向上に向かう校内授 業研究の在り方について検討し,一般化(共有 化)できる視点の抽出を行う。授業づくり・授業改善に向けた教師の 「評価力」の
向上に関する研究(2)
授業づくり・授業改善に向けた教師の「評価力」の向上に関する研究プロジェクト
(附属教育実践総合センター)
760-8522 高松市幸町1−1 香川大学教育学部The Development of Teachers' Skill of Evaluation for the
Purpose of Class Planning and Improvement (2)
Research Project on the Development of Teachers' Skill of Evaluation for the
Purpose of Class Planning and Improvement
(Center for Educational Research and Teacher Development)
Faculty of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522
要 旨 本研究では,「評価力」(より望ましい授業づくり・授業改善に向けた自らの授業を 自己点検する力)に着目し,教師の実践的指導力向上に関わる研究を行った。とりわけ校内 授業研究(校内研修)に焦点を当て,そこでの「評価力」の向上について検討を行うととも に,これからの校内授業研究の在り方についても言及した。本稿では,附属高松中学校,附 属坂出中学校及び附属特別支援学校の研究成果を中心に検討を行った。 キーワード 授業づくり 授業改善 評価力 校内授業研究 実践的指導力
Ⅰ.附属高松中学校における生徒の実態
に応じた「評価力」の視点とT・Tや
ペア実践を生かした授業づくり・授業
改善
1.はじめに 中学校においては,各校の生徒の実態や教育 課題によって教師に求められる授業力が大きく 変わってくる場合がある。授業づくりの段階で の学習内容や目標は,学習指導要領が基にな り,学校間の差がないことが本来であるが,現 実的には,生徒の実態を優先した単位時間での 授業づくりを行う必要性に迫られる場合が多く 出てくる。教師集団の授業に対する「評価力」 についても,学習の展開や指導の手立て,指導 上の工夫などは一般性の高いチェック項目のみ では判断が難しいことがある。授業改善に向け た「評価力」の基準や見方は,学校や生徒の実 態に応じた視点を加味することが大切であると 考える。 2.本校での授業づくり・授業改善に向けた「評 価力」の視点 本研究プロジェクトに際して,本校では全教 員にアンケートを実施し,教育課題や生徒の実 態に応じて,どのような視点を持って授業を評 価していけばよいか全体で考え,意見を集約し た。本校では,研究開発で総合的な新教科の研 究を進めており,平成20年度11月∼2月にかけ て研究授業が続くことから,以下のような視点 が焦点化された。 ○今後の社会を展望し,生徒の将来に生き て働くような学習内容になっているかど うか。 ○内容を通して,個々の生徒の資質・能力 を育てる授業になっているかどうか。 この2点を授業を評価する視点とし,「内容」 と「資質・能力」をキーワードにした授業づく りや授業改善を実践した。そして,それを討議 会等の全体の場で評価することで教師の授業力 が向上すると考えた。 3.「評価力」の視点を生かした実践内容 (1)一つの単元に対して,複数の教師で指導 案を作成し,T・Tで授業実践を行う 授業研究を行う際に,個人が行う研究授業を 全体で検討・評価するだけでなく,複数の教師 の力によって単元や授業をつくり,実践もT・ Tで行うことで,互いの授業力を補うことがで きるのではないかと考えた。授業づくりに関わ る話し合いでは,論点を明確にし,前述の「内 容」と「資質・能力」を重視した指導案づくり や学習指導の工夫について意見を出し合った。 <評価する視点を生かした授業づくりの過程> 生徒の将来に生きて働く学習内容(領域) について討議→領域や単元の決定(8月) ↓ 同じ内容(領域)に対して,2∼3人の教師 がそれぞれ指導案を作成する(8月∼9月) ↓ 指導案の検討→「内容」や「資質・能力」 を中心に話し合う(9月) ↓ 研究授業を行う教員(2名)が話し合った ことをもとに指導案を作り直す(10月) ↓ 授業者2人が共同で教材研究を行う (例)個人のルートで資料収集→2人で共 有化(10月) ↓ 授業実践を行う――T・Tのよさを柔軟に 取り入れ,12回の授業の中で指導のあり方 を考えながら,改善すべき点を積極的に変 えていく(11月∼12月) (例)二人で学習内容が授業で身に付いて いるかを生徒の反応から授業後に分析 し,その支援や援助のあり方を考える。授業実践や研究授業を終えた1月に,個々の 教員に対して,複数の教師で指導案を作成し, T・Tで実践を行うことに関する聞き取りを 行った。「評価力」の視点を生かした授業づく りについて,次のような成果があげられた。 (2)全体での討議会は「内容」「資質・能力」 に論点を絞って討議する 研究授業を1日に2本行った後の研究討議で は,授業説明や討議の時間がじっくりと確保で きにくいことがあり,授業研究の深まりに欠け る面があったので,論点を絞った討議を行うよ うにした。(新しい教科の設立ということで, あれもこれもと視点がばらけると何について話 し合っているのか見えにくくなり,授業者自身 も評価されたことが,その後の改善に結びつき にくい) 授業者の授業説明や全体討議,指導のいずれの 場面でも,徹底して「内容」と「資質・能力」を 取り上げることで,全体として何を目指すべきな のかを討議を通して明確化させた。また,授業者 も評価を受けて,何を改善すればよいのかを具体 的に考え,修正点を次回の実践につなげた。 (3)生徒評価を取り入れた形成的授業評価 学習内容を通して資質・能力が育っているか どうかを把握するために,単元展開の中で生徒 による授業評価を取り入れた。生徒による評価 の視点を教師間の視点と同様に「内容」と「資 質・能力」とし,授業で身に付いたことを書か せた。図1のワークシートは単元展開(全6時 間)の中で前半部分が終了した後に書かせた生 徒評価(アンケート)である。 →内容を通して力が付かないような展 開は授業のどこに問題点があり,何 を変えていけばよいかを話し合い, 指導方法を大幅に見直す。 T・Tによる授業実践の様子 ○生徒の将来に生きて働くような学習内容 をつくっていくことが苦しかったが,そ れぞれの教師の担当教科の特性や専門性 をともに出し合うことで価値のある内容 や学習活動を構成できた。 ○他教科の教師とともに授業をつくりあげ る中で,自分の中にある偏ったものの見 方や考え方に気付くことができた。そし て,それは自教科のあり方を見直すこと にもつながった。 ○内容を通して資質や能力を育てる支援に おいて,個々の生徒を伸ばすための視点 に違いがあったが,話し合いを通してそ れを共有できた。 ○二人で行う単元展開を通して,教材提示 や発問,板書などの授業の基本技術を見 直すきっかけとなった。 ○学習の内容や活動に応じた二人の役割分 担や指導の連携がスムーズにできるよう になり,効果的な学習指導に向けての攻 めの実践ができた。(教師自身の意欲的な 取り組み)
複数の教員で個々の生徒の反応や評価を確か め,意見交流を行ったり,課題を見出したりす ることは,総合的な新教科の取り組みを振り返 るだけでなく,自己の指導技術や指導の工夫も 見つめ直すよいきっかけともなった。 (4)日常の教科の授業をいかに充実したもの にするか 新教科での複数教員による授業づくりの場だ けでなく,日ごろの毎時間の授業での授業力 アップが個々の教員にとっても,生徒にとって も非常に重要である。教える側,教えられる側 の双方がただ授業を消化していくだけにならな いように教科指導においても,評価力の視点を もって授業づくりを行うようにした。ここで は,授業を評価する視点を「授業に必要な基本 的な力」に重きを置き,次の①∼③の過程で授 業実践と評価を行った。 図1 身に付いた内容や力についての生徒評価 2人の先生による授業の進め方はよかった か? ・授業の進め方はよかった 71% ・授業の進め方はよくなかった 14% ・どちらともいえない 15% 図2 授業に対する生徒アンケート (質問事項) (おもな意見) 図2のような意見が出た。 授業の進め方については,多くの生徒が概ね よい評価を行っているが,一方で進め方(指導) についてよくなかったと回答し,問題点を具体 的にあげる生徒も見られた。授業を見る評価力 の視点については,こちらが明確な視点をもっ て授業づくりを行うことが大切であるが,対象 となる生徒からの反応や意見を生かしたより多 様な見方も求められていると感じた。 新教科の実践では,教材開発や単元展開にお いて新たな試みが多く,試行錯誤の連続であっ たが,個々の生徒の授業評価を見ていくと, 「内容」と「資質・能力」がいかに身に付いて いるかを把握することができた。生徒の反応や 授業評価がその後の学習指導のあり方を考える うえで大きな材料となった。 また,視点を変え,二人の教師による授業 の進め方についての生徒評価を行ったところ, 120人の生徒評価から次のような結果が出た。
↓ ②教科内の教師がペアとなって,共に授業づ くりや授業実践を行う(ペア実践) ○1時間の授業におけるねらいを共有 ○教材開発や教材研究を共同で行う ○授業の展開は,実態に応じて多様な形 で行う(T・Tで行う,同単元の中で 授業者が交互に変わる,同じ内容を違 う展開で行う) ↓ 中学校の現場では,生徒指導上の問題等で授 業の成立が優先される場合があり,授業評価の 視点としては,基本技術以上に求められるもの が多々出てくる。しかし,①で設定した「授業 に必要な基本的な力」はどのような実態であっ ても教師として持っておきたいものであるし, 授業実践の中でプロの技量として具現化されな くてはならないものだと考える。 今回の教科指導における実践では,教師の授 業づくりの基本を改めて見つめ直し,ペアで実 践することで授業が改善され,生徒の立場に 立った充実した授業・学習指導をつくりあげる ことができるのではないかと考えた。 ペアで実践し,教師同士で意見を交換し合う と,これまでの日々の授業実践で気付かなかっ た課題が明らかになってきた。授業者が持つ感 覚ではうまくできていると思っている基本的な 技術も客観的に見ていくと雑になっているよう ①教科指導における評価力に関わる視点を 設定する――「授業に必要な基本的な力」 ○学習指導のねらいと教材開発(教材研究) ○教材の提示と意欲化 ○発問や指示の工夫 ○反応や発言の取り上げ方 ○板書の構造化 <ペア実践の流れと授業の様子> ③「授業に必要な基本的な力」の視点に沿っ て,授業を自己評価する ↓ ペア実践を行った教師が共に授業を振り 返る。①で設定した5つの視点に沿った 振り返りを行うが,一つ一つの視点を振 り返るよりも総合的な見地から授業を振 り返り,特に課題となることに重点を置 いて話し合う。
なケースがよくあり,ペアとなって互いに指摘 し合うことでそれを修正するよい機会となっ た。また,ペア実践を通して,他教師の長所か ら学び取ることが多く出てくるといった声も聞 かれ,後の授業実践に向けての意欲を高めるう えでも効果的であった。 4.「評価力」の視点を生かした実践を振り返っ ての成果と課題 (1)実践を通しての成果 各教師が評価力の明確な視点をもって,T・ Tやペアによる授業づくりを行う中で,自主的 な教員同士の連携が生まれ,それぞれの専門性 を交流したり,学び合ったりすることができ た。図3のような感想がみられた。
Ⅱ.附属坂出中学校における校内研修の
取り組み
1.校内研究のテーマにそった校内研修の現状 と課題 (1)本校の研究テーマ 主体的に学び続ける集団の育成−「つなげる」 「広げる」「深める」交流活動を核として− (2)研究テーマについて 生徒個人の成長は,学校教育において一人一 人の生徒を支える学級,学年,学校という集団 によって大きな影響を受ける。主体的に学び続 ける個によって集団が成長し,またその集団に よって個がいっそう成長する。この点において 個と集団は相互に影響し合いながら高まり,成 長していくものであると考える。今回の研究で は集団の活動を意図的に展開することによっ て,個の成長を促すことを目的とする。そのた めには,交流を必要とする場面設定など教師に よる綿密なカリキュラム構築とその方法の明確 化が必要である。サブテーマとして「つなげる」 「広げる」「深める」交流活動をあげ,個と集団 が相互作用をもたらす場をしかけることを通し て,主体的に学び続ける集団の実現を図ろうと 考えている。 2.校内研修の改善案とその取り組み (1)教科提案および指導案事前検討の実施 新研究テーマにそって,各教科で教科テーマ を設定し,主体的に学ぶ集団づくりをめざし て,交流活動を核とした授業実践を平成20年度 後期より行った。 その際に,今年度より,授業実施の1週間前 の研究集会において教科提案及び指導案を提出 し,それについての質疑応答を実施した。 (2)若年教員による授業研究 基本的授業力,指導力の向上に焦点をあてた 授業実践及び研究討議を行った。 授業は6校時に実施し,若年研メンバーおよ び副校長,研究部(1名)は必ず参加すること とし,他の教員については授業の空き時間であ れば参観する形をとった。さらに,教員全員が 図3 ペア実践を通しての感想 今回の実践は,目新しい提案ではなく,教師 が授業研究や授業討議で本来,自主的に行うべ きことである。しかし,その質を重視して意識 的に実践していくことで,個々の教師が授業の あり方を振り返るきっかけとなった(自己の授 業づくりにおいて何を改善すべきか,他教員と の連携の中で客観的に認識する)。 (2)実践の課題 T・Tなどの小グループによる積極的な実践 によって,実践の成果が個々や小グループのレ ベルで確認できたが,全体での共有が不十分で ある。 「評価力」の視点を生かした実践内容という ことで4つの取り組みを行ったが,それぞれの 実践の相互の関連性を考えていくと,より効果 が高まると考える。「授業評価シート」(図4)を記入し,授業者に 渡すとともに,全体として保管している。 授業には本校OBを指導者としてお招きし, 授業討議では,基本的指導力に焦点をあてて議 論をし,教科内容については討議後に個人的に 指導を受けるシステムで行った。 (3)生徒による授業評価の実施 公立校等でも実施されている生徒による授業 評価(図5)について新たに実施した。これま で,保護者対象の学校評価アンケートは行って いた。今年度あらたに,教員各自が自らの授業 を振り返る場として活用したいと考えた。 3.取り組みの結果とその分析 (1)教科提案および指導案事前検討から 授業実施1週間前の事前検討については,そ こでの質疑により,授業案の見直しだけでな く,授業参観する際の視点を明確にすることが できるなどの効果が見られた。 一方,後期からの実践であったため,研究授 業日程が過密であった時期は,十分に検討する 時間が確保できなかった点が課題である。 次年度については,時間の確保とともに,研 究内容を深めるためにも,提案や授業における ポイントを明確にできる書式も作成し,より研 究が深められる形を模索したい。 (2)若年教員による授業研究から 9月からの実践,また本校研究における授業 実践と並行して行ったため,事前検討や事後の 分析の時間の確保が困難であった。しかし,実 践の中で,お互いが授業の基本となるねらいの 明確化,発問や助言,板書,資料といったポイ ントから,基本的授業技術について見直す機会 となった。6回の実践の結果をまとめ,授業づ 図4 授業評価シート 図5 生徒授業アンケート
くりの基本的視点としたい。 見つめ直す場をもつことが重要であると感じ る。 成果は成果として評価するのはもちろん,課 題について真摯に受け止め,その原因を分析し 改善に生かすといったPDCAサイクルを確立 していくことが「評価力」の向上につながって いく。 次年度以降も研究の推進と同時に,教師の 「評価力」の向上についても,その方法を模索 していきたい。
Ⅲ.附属特別支援学校における改善案に
基づく授業づくり−評価シートの活用
を通して−
1.現状と課題 本校では,研究テーマを中心とした授業研究 を行っている。これまでにも,外部への公開授 業をはじめ,小・中・高等部の教師が縦割りの 2グループに分かれて各学部の授業を参観し, 討議会のなかで意見を交換してきた。 課題として,児童・生徒の変容には教師の授 業力向上をめざす必要があることから,実践力 を養うために,討議で終わるのではなく,その 後に改善した授業をすることが大切であること があげられた。 そこで,平成19年度より教師の専門性,授業 力の向上を目指した授業研究に重点的に取り組 むことにした。 2.改善案と取り組み (1)改善の方法 同単元(題材)で2回の公開授業を行い,1 回目の授業の改善点をもとに2回目の授業を行 う。2回目は外部公開とし,改善点を中心に外 部の参観者からの意見や香川大学教育学部特別 支援教育講座の先生方の指導を受けることによ り,本校教師の授業力向上を目指す。 また,公開授業時には本校作成の評価シート (図6)により評価を行い,それをもとに討議 の視点を決め,改善案を話し合う。2回の授業 各々の評価についてデータをグラフ化すること 若年研討議の様子 (3)生徒による授業評価から 12月から1月にかけて,全教員が自分自身の 授業の成果と課題を振り返る材料として,生徒 アンケートを実施した。 対象は授業を実施した全学級とし,10項目で 4段階評価とした。結果は各学年ごとにまと め,そこから今年度の授業の成果と課題をまと め,教員自身が謙虚に自らの授業を振り返る場 となった。 本校では初めての試みであり,結果分析が十 分でない面も否めないが,次年度の実践へ向 け,教員自身が課題を持って取り組めるよう, 管理職との面接などを通して,次年度の目標設 定に生かしていきたい。 また,アンケート項目数や内容についてもさ らに検討していく予定である。 4.まとめ 本校研究の推進と授業力向上については切り 離して考えることはできない。しかし,ややも すると授業討議においては限られた時間でもあ り,基本的な授業技術等の面があまり議論され ない傾向にある。この点においては,今年度実 施した若年研のように,指導技術の面に特化し た討議の場などを持つことが有効であることが わかった。 また,生徒による評価なども組み合わせるこ とで,様々な面から自分自身の授業力についてで,結果を客観的に分析するとともに,改善点 についての意見や児童・生徒の変容から結果を 考察する。 (2)取り組みの実際 公開授業研究を行うにあたって,図7のよう な流れで授業研究を行う。 ○指導案検討①・② 本校では,授業は主にTTで行われる。児 童・生徒の実態についても共通理解を図り,よ りよい授業づくりを行うために学部全員で指導 案検討を行う。 ○公開授業Ⅰ(外部非公開) ・研究授業…ビデオ2台で撮影 ・研究討議…本校教師が2班に分れて,各学部 の授業をビデオ視聴しながら評価表による評 価を行う。また,場面ごとに改善案(代案) を付箋に記入し,整理・分類して話し合う。 授業者はそれをもとに改善場面を決めて次時 の指導案を作成する。 ビデオによる振り返りの様子 付箋を使っての討議の様子 図7 公開授業研究の流れ
○公開授業Ⅱ(外部公開) ・授業説明…各学部の研究部員が,外部参観者 に対して前回の授業の改善点について編集し たビデオを用いて説明し,参観の視点をはっ きり示す。 ・研究授業…外部参観者とともに本校教師も授 業を参観し,評価シートに記入する。 ・研究討議①…改善点やその他環境設定や支援方 法等について外部参観者とともに討議する。 ・研究討議②…研究討議①での討議をもとに, 放課後本校教師でさらに討議を行う。最後に 香川大学教育学部特別支援教育講座の先生に 指導を受ける。 ○評価シートの分析・まとめ 1回目と2回目の授業について,評価シート によるデータ分析や参観者からの意見をもと に,成果と課題をまとめる。 3.評価シートによる結果と分析 (1)評価シートによるデータ分析 校内の教師が授業を参観し,図6の評価シー トを使って,9項目について4段階で1回目の 授業と2回目の授業の評価を行った。それをも とにデータ比較をしてみると,次頁の図8のよ うになった。 全体的に1回目より2回目の方の数値が上 がっており,授業の改善がなされたと考えられ る。しかし,授業討議のなかでは改善が図られ たという意見が多かったにもかかわらず,デー タのみで比較すると数値が下がっている場合も 見られた。その点について再度,改善点を試し てみてどうだったかというアンケートを実施す ると,ほとんどの意見において効果があったと いう結果であった。また,数値が下がった点に ついては,授業者だけでなく授業を評価する側 の意識も高くなり,評価の基準が厳しくなった ことで数値的には下がってしまったことが分 かった。 データによる比較は,客観的に授業を振り返 るよい機会になるが,これだけで評価するので はなく,討議での意見やアンケートなどによる 生の声も評価の大きな材料になると考えられ る。 (2)参観者からの代案による改善の分析 評価シートにおいて改善案(代案)を記入す る欄を設けた(図6参照)。 2月に行った中学部の公開授業「見て!聞い て!私の提案」の授業比較において大きく改善 された項目(A−2,C−2)について詳しく 分析した。 1回目の授業では,生徒同士で行う活動場面 (プレゼン,おやつの試作)で,教師がそばに いたため生徒と教師のやり取りが多かったので はないかという意見が出た。そこで,2回目の 授業では,教師が生徒と離れた距離にいて,生 徒からの行動を待ち,必要な時にだけ支援をす るという代案を立てた。その結果,A−2「子 どもたちは意思を表出していたか?」,C−2 「教師は子どもの反応を見ながら授業を進めて いるか?」の項目について,図9のように大幅 な(4∼5ポイント)改善が見られた。 また,評価シートにおいて,外部参観者から も多くの意見をいただいた。(抜粋) 「A 子どもの様子から」 ・ウォーミングアップのときに自分の目標 を示し友達から評価,アドバイスしてい たのがよい。 ・困ったときの意思表示がなかなか言葉に 出てきにくかった。 「B 環境設定について」 図9 改善項目(A−2,C−2)
・やりとりが発生するように仕組まれてい たのがよかった。 ・少し板書が整理されていない感じがした。 「C 教師の支援」 ・一息待つというのは難しい。私もしゃべ りすぎてしまう。 「改善案」 ・記録者が書いていた内容を提案者に「い いですか?」と確認するのはどうか? ・意図的にトラブルが発生する場面を作り, 考えさせることもよいのでは。 ・友達同士,目を見て話す機会がもう少し あればよかった。 参観者から代案として,具体的な場面で具体 的な方法を示してもらうことで,改善のポイン トがはっきり示され,取り組みの方向性が明確 になったと考える。 4.まとめ 2回の公開授業を短期間の内に行うことは授 業者にとってかなり負担があったと思われる が,改善した授業を実際に行うことによって反 省が生かされ,児童・生徒が授業に対して意欲 を表し,積極的に授業にかかわろうとする姿勢 がみられるようになった。これからも,児童・ 生徒の育ちや学びを中心に考え,児童・生徒の 変容によって授業改善が図られたかどうかを点 検していきたい。 今後,2回の公開授業という形は変わるとし ても,授業討議で評価を受けた内容を取り入 れ,改善授業を実施するという形式は,引き続 き行っていきたい。また,討議の際にビデオに よる振り返りを行うことや,付箋紙や評価シー トによって代案を考えて改善点を話し合うとい う方法は大変効果があったので今後も継続して いきたい。 評価シートについては,項目の内容や評価の 段階,改善点についての評価欄等について今後 見直していくことが課題である。また,普段の 授業から自己チェックできる評価表の活用も考 えていきたい。 今回の「評価力」の向上に関するプロジェク トを通して,学部や学校全体でよりよい授業づ くりの視点についての共通理解を図ることで, 教師全員の「評価力」が高まったのではないか と考える。
おわりに
我が国の中学校は,教科担任制であり,また 放課後の部活動の指導もあるなど,さまざまな 要因によって,校内授業研究が推進しにくいと 言われている。しかし,生徒に楽しく,わかる 授業を行うことは,すべての教師が願っている ことである。我が国では,主に小学校において 校内授業研究が日常的に行われており,そのこ とで児童の学力の高さを保障してきたという経 緯がある。まずもってこうした点を理解してお く必要がある。 また近年,特別支援教育への着目が高まり, そこでの教育思想や指導方法が,小学校や中学 校の教師にも不可欠なものになってきている。 特別支援学校における校内授業研究を通した教 員の「評価力」の向上にも学びつつ,それぞれ の教師の「評価力」を高めていくことが重要に なる。 附属高松中学校では,全教員にアンケート調 査を実施し,新教科に関わる授業研究を志向 した。複数教師での授業実践の可能性を探り, T・Tを用いることによって他教科の教員との 協働的な授業を行い,そのことが,それぞれの 教員にとって視野を広げることになったとのこ とである。またそのプロセスで,授業の基本技 術を見直す契機ともなったと指摘されている。 中学校における教科を越えた教員の関わりは 「評価力」向上に大きな可能性を拓くものであ る。また,「内容」「資質・能力」に焦点化して 議論することで,これまでとは異なる明確な討 論を行うことができている。校内授業研究にお ける焦点化した議論の重要性が明らかになって いる。 附属坂出中学校では,学ぶ集団づくりを目指 し,そこに焦点を当てて校内授業研究との関わりの中で研究を進めている。とりわけ示唆的で あったのは,平成20年度からはじまった若年教 員による授業研究である。こうした取り組みを 通じて,授業の基本となるねらいの明確化,発 問や助言,板書などの授業を支える基本的な授 業技術について見直す契機となっている。こう した同年代教員による授業研究の在り方は示唆 的であり,さらに今後,全体との関連で検討さ れていく必要がある。 なお,中学校の授業づくりに関わり,次の2 点を指摘しておく。一つは,生徒指導との関わ りである。とりわけ中学校の場合,授業の成立 の前提として生徒指導が必要な場合がある。学 級経営をも視野に入れた授業研究が求められ る。もう一つは,近年進められている生徒アン ケートに関わってである。アンケートの文章に は表れていない生徒の「声」を読み取る力が求 められてくる。これは,前述の生徒指導・学級 経営と大きく関連するものであり,よりこうし た視点を持ちながら「評価力」の向上が求めら れよう。 特別支援学校では,年間を通じた系統的な校 内授業研究が行われている。授業討議で評価を 受けた内容や,付箋紙や評価シートに基づく代 案を考えて改善点を話し合うという方法は,非 常に有効なものである。また,日常的な自己 チェック評価票の活用も計画されており,今 後,こうした個人的なものが,全体に生かされ るかたちで展開されることが期待され,そうし た中でこそ,より「評価力」の向上につながっ ていくと思われる。 それぞれの校種の事情はあるものの,年間を 通じた計画的な校内授業研究の在り方や,児童 生徒また外部の方からのアンケートやアドバイ スを取り入れることが「評価力」向上にとって 大きな意味をもつものであると言えよう。 [謝辞] 本プロジェクト研究を進めるにあたり,附属 学校の先生方,また話題提供・アドバイスをい ただきました香川県教育センターの先生方に厚 く御礼申し上げます。 本研究プロジェクトメンバー <平成20年度> 七條正典,山岸知幸,宮前義和,松下幸司(附 属教育実践総合センター)/笠潤平(香川大学 教育学部)/高尾明博,福家弘康,廣瀬貴志, 長町裕子(附属高松小学校)/三宅永哲,金﨑 知子,樽本導和,大山貴久,福家光洋,山内秀 則,小出泰弘,小西寛,中田祐二,西岡由都, 久米亜弥,北村篤子(附属坂出小学校)/三野 健(附属高松中学校)/半山章人,北岡隆(附 属坂出中学校)/樫尾由美子,伊藤宏美,木下 博美,藤澤重美子,永井均,有家由佳子,大西 祥弘,岡野一子,紅野真弓,奈良早苗,中澤佐 知,滝澤健,荒井桂子,小松万里子(附属特別 支援学校)/濵 良重,北堀礼子(香川県教育 センター) <平成19年度>(転出等により,平成20年度の メンバーではなくなった方のみ記載) 森山敬三,東条直樹(附属坂出小学校)/岩本 豊(附属特別支援学校)/竹本惠一(香川県教 育センター)