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subsequent reference position Stivers formal Sacks & Schegloff Sacks & Schegloff Ford & Fox Hayashi Fox Schegloff Stivers referential Stivers CallHome

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1.はじめに

直示表現(deictic expression)は,発話のコンテクストを特定することによってはじめて指示対 象を認識することができる表現である(cf. Fillmore(1975), Lyons(1977)Levinson(1983)).例 えば,(1)の2行目の「わたくし」は,Bが用いることによって話者B自身を指示していることを聞き 手に伝達する直示表現である.しかしながら,自然会話では,直示表現が本来の直示的機能を果た すものとして用いられないことがある.例えば,(1)の4行目でAは「わたくし」という表現形 式を用いているが,話者A自身を指示しているわけではない.もしAがこの表現形式を用いてA 自身を指示することを意図しているなら,「付いて来る」という直示述語との関係が不整合な文を 構築していることになる.そこで,この「わたくし」は直前のターンでBが用いた「わたくし」 と同じ対象(すなわちB)を指示するものとみなすことによって,発話の意味を理解することが できる. (1)CallHome Japanese 16291 [アメリカ在住の女性Aと日本在住の女性Bとの電話による会話.Bは息子のあきらから現在の職場を早期退職後家族 でアメリカに移住する計画を最初に聞いたときには反対したが,今は認めていると話す]  1   B :. hhhh > (ほ)ん<で まあ あきら達はいいけど:   2 →   . hhh <わたくし>をどうしようか[と (h)思って]    3   A :          [hhhh hh .hh]h  4 ⇒   わ:た [く]しは付いて来なく[ちゃ hhahhaha ]a:ta このように,ある話者の視点に基づいて用いられた直示表現形式を別の話者が再び用いて同じ 対象を指示することを直示表現の「再使用(reuse)」と呼ぶことにする.(以後,直示表現を最初 に用いる話者を「先行話者」,それを「再使用」する話者を「後続話者」と呼ぶ).2そして, 本稿では指示を社会的行為とみなす立場から,直示表現の「再使用」によって何が成し遂げられ ているのかについて考察することを目的とする. 2.考察の観点 直示表現の「再使用」は有標な指示行為である.(1)の4行目で「わたくし」という直示表現 の「再使用」はBの「問題提起」に対するAの「応答」という隣接対(adjacency pairs)の第二句 で起こっている.これは,Schegloff(1996)が発話連鎖の観点から定義している後続指示位置 ―  13― *比較文化学専攻

会話における直示表現の「再使用」について

須 賀 あ ゆ み

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(subsequent reference position)に相当する.したがって,日本語では通常明示的な指示表現形式 が生起しない場所にもかかわらず明示的な指示表現形式が用いられているという点で,「わたく し」の「再使用」は有標である.さらに,話し手が聞き手を一人称の直示表現形式を用いて指示 しているという点でも有標である. 実際にこの会話の他の場面でそうであるように,AはBを 「おかあさん」という親族名称を表す語で指すこともできる.では,このように他の選択肢があ りながら,あえて有標な指示が行なわれるのはなぜなのだろうか.それは,無標の指示を行わな いことによって,話者が単に指示対象を聞き手に認識させること以上の何かを行なっているとい うことを伝達している(Stivers(2007))からだと考えられる. 先行話者の指示もまた有標である.(1)の2行目で,Bは「わたくし」という改まった(formal) 直示表現形式を用いている.この会話で普段BはAを「あんた」と呼んでいるが,そのような間 柄でBがAに対して自分のことを「わたくし」という改まった表現で指示することは有標である. 実際,他の会話場面では「あたし」や「わし」という表現形式を用いている.仮に先行話者がこ のような無標の指示表現形式を用いたとしたら,後続話者は同じようにそれを「再使用」するだ ろうか. 直示表現の「再使用」は後続話者が行う行為ではあるが,後続話者のみに関わる問題で はないように思われる.つまり,後続話者による指示行為が,その元となっている先行話者の指 示行為の影響を受けるという側面を考慮する必要があるのではないだろうか. 3.本研究の位置付け 相互行為を視野に入れた指示研究において,指示は次のような側面を有するものとして捉えら れている.

(a)聞き手の知識想定に基づいてデザインされる(Sacks & Schegloff(1979)など) (b)会話のその場その場の状況に応じて行われる(Sacks & Schegloff(1979)など) (c)言語表現のみならず非言語表現を伴って行われる(Ford & Fox(1996)など)

(d)会話の主活動を遂行するための副次的な活動である(Hayashi(2005),串田(2008)など) (e)対象を指示すること以上の何かを成し遂げる

(Fox(1987),Schegloff(1996),Stivers (2007)など)

本研究対象は(a)− (e)のすべての側面に関わっているが,本稿では,特に,先行話者の指示 行為が後続話者の指示行為に影響を与えるという側面と,話者が単に指示的 (referential)に対象 を同定するだけでなく,その対象をどのような視点で捉えているかを伝達するという側面 (井出・ 櫻井 (1997),Stivers (2007))に焦点を当てる.

本研究を遂行するにあたり,資料として,アメリカ滞在中の日本語母語話者と日本在住の家族 や友人との電話による会話を収録した CallHome Japanese コーパス(Linguistic Data Consortium 作 成)を用いた3.直示表現の「再使用」は,15分間の会話10組分 (計25時間) にわずか数例しか現

れないというタイプの現象ではあるが,指示が社会的相互行為として成立するという側面を顕著 に示す現象のひとつである.そして,会話のいかなる場面においても,話し手は意味のある発話 を構築するためになんらかの方策を用いていると仮定するならば,このような有標な指示現象に

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ついて議論することには意義があると思われる.そこで本稿では,先に述べた観点から,(1)の 事例を中心に検討することにする. 4.「再使用」された直示表現の指標性 4.1 事例 (1)の前後の部分を含めた抜粋を (2)に示す.   (2)CallHome Japanese 1629      1   B:だから:  . hh んー まあ あきら達::  幸いとゆうか その      2     . hhそういうまあ希望を持てる:  . hh u-仕事があるっていう事が     3     いいんじゃないかなっと [思ってね]     4   A:         [ほ::んと:]よ↑ね::     5   B:. hhhh> (ほ)ん<で まあ あきら達はいいけど:      6 →   . hhhh<わたくし>をどうしようか [と (h)思って]       7   A:            [hhhh hh .hh]h     8 ⇒   わ:た [く]しは付いて来なく [ちゃ hhahhaha]a:ta     9   B:    [he]         [. hh hhahhaha]     10 ⇒ A:わ [たくしだけ日]本に [いる]訳にいかない [でしょ hohoho]     11 → B:[. hhe (.)he(.)he][hh]        [わたくしが.hh]     12     (. hh もう段々年取っ [て]いく n[(.

    13   A:        [hu]    [. he]     14   B:[. hhh]  [言葉]は分からない [の に]

    15   A:[he:he] [. hehe]      [hh ha]haha[hahahahahe]     16   B:         [付いて行って]

    17     h [h] あ [の] hh 自分の:  . hh お− おり場所が (h)ない [hh h]     18   A:[he]h   [hh]      [hh .h]     19   B:[と hehe]

    20   A:[そんな事] ↑ない [じゃない ha hahahahahahahaha . hhhe]     21   B:      hha   [hhaha.hhh h ha hehahaha . ha hah]     22 ⇒ A:それ [こ]そ わたくしの腕を持って来てくれれ [ばみ:ん]な      23   B:    [()]          [hhehaha]     24   A:[仕事が]いっぱいある [と思うよ]::   ha ha  [hahaha]     25   B:[hahaha]       [. hh hh . hh] aha . hh . hh[も::う] ここで行なわれている活動を概観すると,1行目から3行目で,話者Bはこれまで話題にしてき た息子達の移住計画について最終的な感想を述べている.それに対して4行目でAが同意を示し た後,Bは5行目で息子達の話題を終了し,6行目では,「わたくし」という1人称の直示表現を 明示して自分自身に関する話題を導入している.「<わたくし>をどうしようかと (h)思って」と ―  15―

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問題提示するBに対して,Aは6行目のBのターンの終盤に重複して笑い,B の TCU(turn construction unit)が終わると同時に「わ:たくしは付いて来なくちゃ」とあたかもBの悩みを一 掃するかのように即座に解決策を示している.そして,10行目ではその理由を説明している.こ うしてBの問題が解決に向い,話題が収束しかかると,11行目でBは「わたくしが」と明示的表 現を用いて話題を継続し,渡米に伴って予測される事態を具体的に述べることで問題を再提示し ている.しかし,それに対してもAはBのターンの途中で笑って反応し,20行目ではBのターン の終盤に重複してBの発言内容を否定し,さらに22・24行目ではその根拠を述べている. 注目する現象は,隣接するターンで起こっている.6行目の「わたくし」が8行目と10行目で 「再使用」され,11行目の「わたくし」が22行目で「再使用」されている.以下に,まず,先行 話者による最初の指示(6行目)と,それに対応する「再使用」(8,10行目)の特徴をみること にする. 4.2 先行話者の指示の特徴 6行目で話者Bは「わたくし」という改まった表現形式を比較的遅い速度で発声し,言語表現 の面でも韻律の面でも有標な形式を用いている.そうすることで話者Bは,単に自分という対象 を指示的に指すだけでなく,発話場面において話者が指示対象をどのように捉えているかという 話者の視点を伝達している.普段AはBのことを「おかあさん」と呼び,BはAのことを「あん た」と呼ぶ間柄であるにもかかわらず,Bはここでこれまでとは異なるスピーチ・レベルの「わ たくし」という改まった表現形式を選択している.そうすることによって,Bは自分の立場を年 長の親族としてではなく,アメリカ暮らしの経験者であるAに対して悩みを告白する相談者とし て位置付けていることを示している.4 4.3 後続話者の「再使用」の特徴 8行目で後続話者Aは,先行話者Bが用いた「<わたくし>」と同一の言語形式を同様の韻律 (LHHH)を用いて「再使用」している.「再使用」時には「わ:たくし」というように第一音節 を伸ばすことで,先行話者の「<わたくし>」(6行目)のゆるやかな速度に表されている有標な 音韻的特徴を再現しようとしている.この「再使用」によって後続話者Aは「わ:たくし」が, 先行話者Bの「<わたくし>」と同じ対象を指すことを表すだけでなく,「わ:たくし」という表 現形式が指標する相談者としての視点は先行話者Bに帰属するものであるということを伝達して いる. 後続話者Aは10行目でも「わたくし」を「再使用」している.このことは,いったん「再使用」 された直示表現は繰り返し同じ機能を果たしうるということを示している.同一話者が「再使用」 を繰り返すことで,「解決策の提示」(8行目)と「理由説明」(10行目)という行為連鎖の結びつ きが言語表現の面でも支えられている. 5.直示表現の「再使用」の会話活動への貢献 5.1 後続話者のターン構成 直示表現の「再使用」は,会話で行われる活動にどのような貢献をしているのだろうか.ここ ―  16―

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で,後続話者のターンの構成に注目してみよう.(3)に示すように,直示表現の「再使用」によ って,後続話者のターン内には先行話者の視点を指標する要素が混在することになる. (3) ⇒ A :hhhh hh .hhh わ:たくし は付いて来なくちゃ hhahhaha]a:ta        後続話者視点   先行話者視点    後続話者視点     10 ⇒ A :わたくし   だけ日本にいる訳にいかないでしょ hohoho        先行話者視点   後続話者視点     22 ⇒ A :それこそ   わたくし   の腕を持って来てくれればみ:んな        後続話者視点   先行話者視点    後続話者視点     24      仕事がいっぱいあると思うよ::       後続話者視点 一方,後続話者のターンの冒頭や末尾には笑いや「∼なくちゃ」「∼でしょ」「思うよ」という 主観性を示す要素が生起しているため,ターン全体としては後続話者の視点から述べたものとし て認識されるように構成されている. 5.2 笑いの発生 それでは,ひとつのターンに異なる話者の視点が混在することによって成し遂げられることと は何だろうか.まず,会話参与者間に笑いが生まれるということである.(2)では,先行話者B が有標な指示を行ったことによって,そのターンの終盤に重複して後続話者Aの笑いが生じてい る(7行目).そして,その有標な指示行為に呼応して後続話者Aが「再使用」を行ったターンの 終わりで会話参与者双方から笑いが起こっている(8,9行目).特にこの事例では,直示名詞「わ たくし」が直示述語「付いて来る」や「持って来てくれる」と整合しない発話が行なわれたこと とも相まって,一見すると直示表現の誤用とも受け取れる言語使用のおかしさゆえに笑いが生ま れている.そして,この笑いによって,会話者は悩み相談という場の深刻さを軽減しながら会話 を行なうことが可能となっている. 5.3 直示表現形式の取り込みと指標性 第二に,「再使用」された直示表現の指標する視点は先行話者に帰属するということが伝達され るため,後続話者は先行話者の視点にコミットせずに意図した活動を実行することができるとい うことである.この点に関して,まずは,第3者を指示する事例をみてみよう.(4)の19行目で Bは「あんな人」という直示表現を用いている.その直後の20行目のターンで指示対象と面識が ないAが「あんな人」という表現形式を用いているが,これは先行話者Bが用いた直示表現の 「再使用」である. (4)CallHome Japanese 1237 [アメリカ在住の女性Aと,そのおばで,日本で教員をしているBとの電話による会話.Bは勤務先の校長が嫌いである 7・8 ―  17―

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と述べ,一般に校長職はこどもを見ようとしているというより体裁を繕っている人が多く,人が良い先生は一生こどもと 一緒にいたいから管理職にはならないと述べる.AはBが校長になればよいと言う]   1   A:>だから<いくおばちゃんが: [. hhh]    2   B:        [駄目.   3   A:な [って::]   4   B: [>私 (絶対)<]駄目.心が狭い [け 絶(.)対    5   A:         [hh hh hh hha hha]   6   B:駄目.         7   A:[. hhh]       8   B:[. hhh]>私< [あ−] 今の女校長見て思った.   9   A:        [ahaha]   10   B:  . hhhもう なんかさ:(.)心の狭さ−    11     女性(.)特有 >って言ったら< おかしいんかね,   12   A:あん   13   B:あ:  女性でもおっきい人 [おるわよ]   14   A:         [>女性<特]有じゃないよ=   15   B:=じゃないね   16   A:うん   17   B:人に依って違うんだよね.   18   A:はい   19 → B:あんな人みたいになったらいけ (h)んと (hh)思 (hh)うけ (h)さ. hhh<なれない>.   20 ⇒ A:. hh>いや<. hhhなって あん [な][じゃ]ないようになったら=   21   B:         [hu] [hu]        22   A:=い [いん]じゃ [ない]   23   B:   [. hh]  [. hh]   24   A:それで 女の人− そ [の:下] の人をちゃんと引っ張って. hhh [いい方に伸ばすと].   25   B:           [. hhe::] [(できるの)かな:::]ね::    26   A:そういう風に考えて管理職になったらどんどん . hhいい方向 [に 1行目でAはB自身が校長になればよいと提案しようとするが,その TCU が終わらないうち に,Bはそれを拒否している.その理由として,4行目で自分の「心が狭い」ことに言及し,8行 目では自分は校長にはなれないということを「今の女校長を見て思った」と述べている.勤務先 の校長を「女校長」と表現していることや,10・11行目で「もうなんかさ:心の狭さ−女性 (.)特 有」と述べていることから,この時点で,Bは,心の狭さは女性特有のものであり,女性は校長 職には向かないため,同性の自分も校長にはなれないと考えていることがわかる. しかし,Bは11行目の途中で,「心の狭さ」が「女性特有」であるという考え方は「おかしい」 のかもしれないと気づく.11行目後半の「>って言ったら<おかしいんかね」から18行目のAの 「はい」までの副次連鎖(side-sequence)によって,「心の狭さ」は「女性特有」ではないという ―  18―

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ことが双方の了解事項となる.したがって,ここでは,先にBが考えていた自分が校長にはなれ ない理由は成り立たないということが両者共通の認識となる.その直後の19行目で,Bは「あん な人みたいになったらいけ (h)んと (hh)思 (hh)うけ (h)さ.」と再び理由を挙げて,自分は校長に 「<なれない>」と主張する.この主張に反論する20行目のAのターンで「あんな人」が「再使 用」されている. 「あんな」という指示詞は,話者が直接体験に基づいて指示対象の何らかの属性を認識し,そ のような属性をもつ指示対象に対して話者が抱いている評価・感情を聞き手にも理解できると想 定していることを伝達する.しかし,対象人物と面識がないAがここまでの会話で認識している ことは,その人物がBの勤務先の校長であり,女性であり,Bに心が狭いと評価され,Bが嫌っ ている人物であるということだけである.したがって,AにとってBの発話は,Bがすでに理由 として成立しないことが確認されているにもかかわらず,再び同じ理由で同じ主張をしているよ うにきこえるのである. 一方Bは,「あんな人」という指示表現形式を,具体的にどのような属性を持った人物であるの かを描写せずに,「自分の体験から認識している校長職には適さない人物」という意味を伝達する 方策として用いている.そうすることによって,Bは自分が校長には「なれない」という主張が もはや通用しない理由によるものかどうかをあいまいにしたまま,それを固持しようとしている のである. 20行目で後続話者Aは,「あんな人」を「再使用」することによって,「あんな人」が指標する 視点は先行話者Bに帰属するということを伝達する.したがって,この「再使用」された「あん な人」は,「どんな人物であれ,先行話者Bがそのように認識・評価している人」という意味を表 す.つまり,AはBが対象人物をどのように捉えているのかということにコミットする意思がな いということを伝達しているのである. 仮に後続話者Aが「そんな人」を用いていたらどうだろうか.「そんな人」を用いた場合は,B が対象人物をどのような人物であると捉えているかをAも理解できたということを示すことにな る.しかし,実際は「あんな人」という表現形式によってBがどのような人物を意図しているの かがあいまいであるので,Aにそれを理解することができるはずはない.そこでAは,直示表現 の「再使用」という手段を効果的に用いて,理由をあいまいにしたまま自分の主張(Aの提案に 対する拒否)を固持しようとするBに即座に反論するという目的を達成しているのである. では,ここで (2)の事例に戻ろう.(2)の11行目の先行話者Bのターン冒頭では,最初に指示 を行った6行目と同様の速度,同様の韻律で「わたくし」という表現形式が用いられている.そ うすることによって,Bは6行目の「わたくし」と同一の指示対象を同じ視点から捉えているこ とを伝達し,一度収束しかけた悩み相談という活動が継続中であることを示している.そして, 12行目から19行目にかけては,自分が渡米したら健康面でも言葉の面でも家族に心配をかけるだ けの厄介な存在になると懸念していることを具体的に説明し,Bが提示した問題はAが即答で簡 単に解決できるようなことではなく,もっと深刻な問題であるということを伝えようとしている. それに対して後続話者Aは,Bのターンの途中で笑って反応し(15・18行目),その直前のター ンの終盤に重複して「そんなことないじゃない」とBの懸念を否定している(20行目).さらに, ―  19―

(8)

今回はBひとりだけが日本にいる訳にはいかないという消極的な理由ではなく,周囲の人々が助 かるという積極的な理由から渡米を勧めている(22・24行目).AはBとともに笑いながら,Bの 人生にとっての重大問題に楽観的な回答をもって対処している.22行目においてAは,「わたく し」を「再使用」することによって,先行話者Bが用いた直示表現形式を取り込みつつも,Bが 指標する相談者の視点にはコミットする意思がないということを伝達している.そうすることに よって,Bが提起した問題に真正面から取り組むことなく問題解決に向けて話題を収束していく という活動を進めることが可能になっているのである. 6.まとめ 本稿では,会話にみられる直示表現の「再使用」という有標な指示行為が,社会的相互行為の 一環として会話活動に寄与する側面について論じた.具体的には,話者が異なる話者の視点を指 標する直示表現形式をターン内に取り込むことによって,)会話参与者間に笑いを生む,) 後続話者が先行話者の視点にコミットせずに意図した活動を達成する,という有標な指示行為な らではの貢献がなされていることを考察した.  この考察は,直示表現の「再使用」が,先行話者の指示行為が後続話者の指示行為に影響を与 えるという特徴と,単に指示対象を認識させる以上のことを成し遂げるという特徴を有する現象 であるということに注目することから得られたものである.そのような意味において,本稿では, 指示が社会的相互行為の一環として成立していることを示唆する事例のひとつを提示することが できたといえるのではないだろうか.   謝辞 本研究は平成21年度科学研究費補助金基盤研究 (C)「相互行為における指示に関する研究」(課 題番号:21520405 代表:須賀あゆみ)の支援を受けている.本研究を遂行するにあたり,内田 聖二先生,吉村あき子先生より貴重なご意見を頂いた.また,大阪教育大学 串田秀也先生主宰の 会話分析研究会データセッション(平成21年8月4日開催)において参加者の方々よりデータに 関する有益なコメントを頂いた.さらに,第24回社会言語科学会研究大会における研究発表(平 成21年9月20日)において聴衆の方々から示唆的なご意見を頂いた.心から感謝の意を表したい. 注 1 資料に関しては,3節および注3を参照. 2 この現象は,後続話者が先行話者の発話の一部を「直接引用」したものとみなすことができ る.「引用」という用語は元発話全体を引用対象にする場合を念頭において用いられることが多 いので,本稿では「再使用」と呼ぶことにする. 3 本稿に記載するトランスクリプトは,コーパス既存のトランスクリプト(Wheatley,Barbara, Nasayo Kaneko & Megumi Kobayashi(1996−1997)を参考にして,音声データをもとに筆者 が転記したものである.転記記号が示す意味は下記のとおりである.→は先行話者による指示, ⇒は後続話者による「再使用」が行われている箇所を示している. ―  20―

(9)

 転記記号とその意味   [ 重複の始まり   ] 重複の終わり   = 切れ目ない接続   (.) 0.1秒前後の間隙   :       音声の引き延ばし   − 音声の中断   ./?/, 下降調・上昇調・継続を示す抑揚   文字 周辺と比べて大きい音量   hh 呼気音   . hh 吸気音   <文字> 周辺と比べて遅い速度   >文字< 周辺と比べて速い速度   (   ) 音声が不明瞭 4 ただし,話者Bの声色やターン終盤の笑いから,BはAに文字通り相談をもちかけていると いうよりは,相談者としての役割を演じているようにきこえる. 参考文献  安藤貞雄(1986a).「日英語のダイクシス(上)」『英語教育』2月号,70-75.   安藤貞雄(1986b).「日英語のダイクシス(下)」『英語教育』3月号,74-79. Fillmore, Charles J. (1975) Lectures on Deixis. Reproduced by CSLI, Stanford.

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Linguistic Data Consortium, Philadelphia.

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―  23―

This paper deals with a marked phenomenon of person reference, what I call the “reuse” of deictic expressions. In Japanese conversation there are cases where the speaker intends to refer to a person with the same deictic expression that has been used by the previous speaker. For instance, in the following interaction, the first speaker B uses a first-person deictic expression watakushi to refer to the speaker B herself. On the other hand, the second speaker A uses the same expression to refer to the same referent that the previous speaker has referred to, i.e. the previous speaker B.

(1) B: .hhh <watakushi> o  doo shiyoo ka [to (h) omotte]

I OBJ how do Q QT think “I wonder what to do.”

(1) A: [hhhh hh .hh]h

watakushi wa tsuite-ko nakucha

I TOP follow-come must “I (=B) must come.”

The purpose of this paper is to discuss what is being done by this particular type of reference through the analysis of data extracted from the corpus of telephone conversation CallHome Japanese, especially focused on the indexical nature of deictic expressions. We assume that the referential form selected by the first speaker itself is a marked form and thus encourages the second speaker’s “reuse” of the form of the deictic expression.

We can observe that the second speaker’s turn consists of the elements with the two different speakers’ points of view. Therefore the apparently grammatically incorrect use of a deictic expression invites laughter between participants in conversation. We can also observe that the speaker “reuses” a deictic expression to perform the intended activities without being committed to the previous speaker’s point of view.

The implication of this study is to describe a phenomenon where the first speaker’s referential action can affect the next speaker’s referential action. This phenomenon suggests that reference is an action which makes a contribution to socially interactive activities.

On the “Reuse” of Deictic Expressions

in Japanese Conversation

参照

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