Yoshinao TANAKA
, Kosuke OGAKI
, Yoshiyuki MAEDA
*Itami City Museum of Insects *1 Faculty of Bioscience, Nagahama institute of Bio-Science and Technology
*2Graduate School of Science and Engineering, Kagoshima University
問い合わせ先 〒 6640015 兵庫県伊丹市昆陽池 31 伊丹市昆虫館 e-mail:[email protected] (2013 年 1 月 19 日受理) はじめに 近年、生体展示を行う動物園等の博物館はその使命と して、希少野生生物の生態解明及び保護増殖等に関する 研究の一翼を担うようになっており、伊丹市昆虫館も その例外ではない。奄美群島請島(図 1)に分布するウ ケジママルバネクワガタ(Neolucanus protogenetivus hamaii)(図 2)は、環境省の 2012 年版レッドデータリ ストで絶滅危惧 IB 類とされ、鹿児島県指定希少野生動 物かつ瀬戸内町指定天然記念物である。つまり多重にそ の希少性をうたわれているが、その理由は本種の生息域 が極めて小面積なためと考えられる(田中 2011)。今回、 図1 請島の位置とウケジママルバネクワガタの生息地
ウケジママルバネクワガタの生息環境保全に関する資料 を得るため、その生息環境及び生息状況について調査を 行った。その際、島内において確認できた上記種を含む 昆虫類について報告する。尚、請島は島外からはもとよ り島内に於いても交通の便が悪く、昆虫相についての 調査は行き届いていない(中峯 2006)ものの、トンボ 類、セミ類、クワガタムシ類やカミキリムシ類について は、近年報告がなされつつある(村山 2004; 岡崎 2008, 2009, 2010; 龍田・堀濱 2010)。 調査期間 2012 年 9 月 6 日∼ 9 月 12 日(7 日間) 期間中晴天でほぼ降雨はなく、また風も弱い穏やかな 天候だった。但し、調査を行うおよそ1週間前には当地 を強力な台風が直撃しており、林道上の 10 ヶ所以上で 土砂崩れや倒木があった。 調査地及び方法 ウケジママルバネクワガタについての調査は、請島の 西部にある大山山塊で行った。その他の昆虫類について は主に、大山周辺の他、池地(いけぢ−鹿児島県瀬戸内 町池地)集落周辺で観察・採集を行った。また、島の東 部にある請阿室(うけあむろ−瀬戸内町請阿室)集落に おいても、極短時間だが観察を行った。 観察・採集場所は林内、林道周辺、草地や住居周辺で、 目視により発見または採集した昆虫類について記録し た。夜間、ウケジママルバネクワガタの探索中に、筆者 らが携行していた6W蛍光灯に誘引された昆虫について も記録した。 尚、ウケジママルバネクワガタの累代飼育を試みるた め、その採集について、鹿児島県及び瀬戸内町教育委員 会の許可を事前に得た。 調査結果 今回の調査の主目的であるウケジママルバネクワガタ については、15 ♂ 1 ♀の計 16 個体(のべ 20 個体)確 認することができ、そのうち 1 ♂ 1 ♀を採集した。ウケ ジママルバネクワガタを含め、確認できた昆虫類の種及 び個体数をリストにした(表1)。調査地にて確認でき た昆虫類は、計 56 種だった。 尚、表1の和名及び学名については、コガネムシ類は 日本産コガネムシ上科標準図鑑(岡島秀治・荒谷邦雄監 修 2012)に、クワガタムシ類は世界のクワガタムシ大 図鑑(藤田 2010)に、その他の昆虫は国土交通省 web サイトの「河川水辺の国勢調査のための生物リスト」に 従った。 考察 ウケジママルバネクワガタの生息環境及び生息状況に ついての調査が今回の主目的だったが、その他にも多 数の昆虫類を確認することができた。2004 年に行われ た、鹿児島県立博物館による調査(中峯 2006)で記録 されていない昆虫類の種数は、44 種に上る。特筆すべ 図3 センダングサ類で吸蜜するクロマダラソテツ シジミ 図2 ウケジママルバネクワガタ (2012 年 9 月 9 日撮影)
※1 捕獲せず、飛翔する個体を目視により確認した種 ※2 請阿室集落で確認した種 Meimuna oshimensis 1 Tanna japonensis 2 Pygolampis Pygolampis sp. 1 Dysdercus poecilus 2 Leptocorisa chinensis 1 Graptostethus servus 1 Dieuches Dieuches sp. 1 Radena similis 3 Chilades pandava 13 Everes argiades 1
Papilio dehaanii amamiensis 1
Papilio helenus nicconicolens 1
Papilio polytes 1 Hebomoia glaucippe 1 Agathia lycaenaria 1 Celenna festivaria 1 Thyas juno 1 Milesia oshimaensis 1 Myriochile specularis 4 Dorcus metacostatus 1
Neolucanus protogenetives hamaii 16
Anomala albopilosa gracilis 2
Anomala chloroderma 1
Anomala edentula amamiana 1
Apogonia major bicavata 1
Eophileurus chinensis irregularis 1
Onthophagus shibatai 11 Protaetia exasperata 1 Protaetia pryeri 5 Chrysodema lewisii 1 Diaperis lewisi 1 Euhemicera japonica 3 Strongylium shibatai 1 Tetraphyllus latior 1 Acalolepta oshimana 1 Cephalallus ryukyuensis 1 Eurypoda batesi 1 Pterolophia gibbosipennis 1 Aulacophora loochooensis 1 Notosacantha ihai 1 Sipalinus gigas 1 Camponotus amamianus 1 Megacampsomeris mojiensis 1
Amegilla senahai subflavescens 1
き種としては、日本産蝶類標準図鑑(白水 2006)によ れば奄美群島では偶産種とされているツバメシジミを確 認することができた。クロマダラソテツシジミについて は、前述の鹿児島県立博物館による調査では記録されて いないが、今回は多数を確認している(図 3)。本種は 2007 年以降、鹿児島県下で毎年発生しているようであ る(岡崎 2008)。カメムシ目では、国内3個体目となる Pygolampis属の一種(未記載種)を採集することがで きた(図 4)。 実際には、ウケジママルバネクワガタ以外の昆虫類の 観察・採集のために、あまり時間と労力を割くことがで きなかった。しかし、前述のような未記載種の発見など、 興味深い記録を残すことができた。請島の昆虫相の解明 のため、今後、本格的に昆虫類の調査が当地で行われる ことを期待したい。 今回の調査で、計 16 個体のウケジママルバネクワガ タを確認することができたが、現在の時点でこの数につ いて多寡を評価することはできない。しかし、林内の広 範囲を毎夜5∼8時間探索した結果から考えると、そう 簡単には観察できないという印象を受けた。島民からの 聞き取りにより、数十年前に大山中腹の緩傾斜地の原生 林がクワ栽培のため切り開かれたようだが、現在ではそ のような場所はうっそうとした二次林、もしくは若いス ダジイを中心とした原生植生回復途上林となっており、 伐採の面影はほぼ残っていない。また、面積は絶対的に 小さいものの、スダジイの巨樹を擁する原生林・原生植 生回復林は未だ健在である。ウケジママルバネクワガタ を容易に観察できない理由はどこにあるのだろうか、今 後の調査で明らかにしたいと考えている。 懸念すべき点は、2011 年頃より大山山頂部への遊歩 道が整備され、また林道のコンクリート舗装化が進んで いることである。これは周辺林の乾燥化を促し、そこに 生息する生物に何らかの、おそらく負の影響を与える可 能性が考えられる。例として、今回の調査では多数のア マミエンマコガネを観察したが、本種は、コンクリート 舗装された林道上や側溝で乾燥し死亡したミミズ類に集 まっていた(図5)。今後、請島の山林に、人の手があ まり加わらないことを望むばかりである。 奄美群島の生物地理に関する調査結果は蓄積されつつ あるが、地史的な成立過程のさらなる解明のため、今後 も本調査のように生物相についての調査が継続されるこ とが必要だと考えられる。 謝辞 ウケジママルバネクワガタの採集を許可していただい た鹿児島県、ウケジママルバネクワガタの生息地への 立入り及び採集を許可していただいた瀬戸内町教育委 員会、ハチ目昆虫の同定をしていただいた井上治彦氏、 Pygolampis属の一種について知見をご教示いただいた 石川忠博士(東京大学大学院総合文化研究科)、バッタ 目昆虫の同定をしていただいた伊丹市昆虫館副館長の坂 本昇氏、カメムシ目他昆虫の同定をしていただいた伊丹 市昆虫館学芸研究員の長島聖大氏に感謝申し上げる。 尚、本調査は平成 24 年度独立行政法人環境再生保全 機構地球環境基金の助成を受け行った。 図5 林道上のミミズの死体に集まるアマミエンマ コガネ 図4 Pygolampis 属の一種
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