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現在における AO の骨折治療原理とは 骨組織の血行を温存すること 関節面とアライメントを整復すること そして安定した固定性を得 早期に痛みのない可動を獲得するということです 過去と比較して最も変化しているのはこの血行温存の点につきます そして これらの AO 法の知識を習得し 骨折治療の技術を習得

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AO 法の理論

10:00-10:20 土田芳彦

この一連の講義の最初に、47 年の歴史を有する 「AO 法の治療哲学」についてお話させていただ きます。時代の要請に合わせて変革と遂げてきた のが「AO 法」の特徴であり、この講義を通して、 昔のAO 法と今の AO 法との相違点がお分かりい ただければ幸いです。最も重要なKey word は「生 物学的骨接合術」であります。 さて、AO とはドイツ語の Arbeitsgemeinschaft fur Osteosynthes Fragen の略語であり、英語で いうところのASIF-Association for the Study of Internal Fixation であります。いわゆる「骨接合 術の学術団体」というわけです。 さて、少しばかり歴史を紐解いてみます。第二次 世界大戦後にベルギーの外科医である Robert Danis がこう提唱しました。「解剖学的整復と強 固な内固定により骨幹部骨折は仮骨形成を見る ことなく治癒していく」のだと。そのことに興味 を持ったスイスの革新的外科医である Müller が 1950 年 3 月に Danis のもとを訪れたのが全ての 始まりでした。 Müller は理解者を集め 1958 年に スイスにおいて「AO グループ」を結成したので す。一方、日本におけるAO のドアを開いたのは 神戸大学の柏木教授であります。先生は 1987 年 に日本で始めて AO コースを開催し、その後 18 年が経過しました。AO コースは今では日本の外 傷整形外科教育の重要な地位を確立しています。 これはAO の革新的進歩を理解するためのスライ ドです。AO は以前提唱していたことと異なるこ とを言っている、節操がないなどと陰口を言う整 形外科医もおられます。しかし、そうではありま せん。「我々が未来に備えるためには現在に生き なければいけない。そしてそのためには過去から 学ばなければならない」というわけです。過去に どのような過ちがあったのか、それを詳細に分析 することでAO は発展してきました。

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現在におけるAO の骨折治療原理とは、骨組織の 血行を温存すること。関節面とアライメントを整 復すること。そして安定した固定性を得、早期に 痛みのない可動を獲得するということです。過去 と比較して最も変化しているのはこの血行温存 の点につきます。そして、これらのAO 法の知識 を習得し、骨折治療の技術を習得し、またインプ ラントに習熟していただくことが教育を最も重 視しているAO の目的であります。 もちろん全ての骨折が手術を必要とするわけで はありません。たとえば鎖骨骨幹部骨折や脊椎圧 迫骨折、小児の骨折などは保存的治療が原則であ ります。しかし、転位した関節内骨折や肘頭や膝 蓋骨骨折など伸展機構の破綻したものは手術治 療の絶対的適応であります。それに対して脛骨の 骨幹部骨折などは保存的にbrace などで治療でき るけれども手術で治療してもよいという相対的 な適応であります。 いずれにしても、どのような治療を選択施行する にせよ、治療結果をきちんと記録し評価する。そ して何が悪かったのかを考え次に生かすことが、 常に治療成績を向上させるために必要なことな のです。そしてそれが生体力学などの基礎研究を 発達させ、より良いインプラントを開発すること につながっていきました。 スライド左下の大腿骨は骨折が完全に癒合した 状態ではありますが、著しく曲がっています。骨 折は癒合すれば良いというものではなく、機能が 最も重要なことであります。「生きているという ことは動けるということであり、動けるというこ とが生きているということであります」。すなわ ち外傷後に完全に復活するということは疼痛の ない関節可動を持ち、健全な精神で社会に適応す るということです。

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先に、過去から学ぶのだと述べましたが、スライ ド左は100 年前の Thomas splint による大腿骨骨 折の治療です。この100 年の間に骨折治療のパラ ダイムは変化してきました。まず第二次世界大戦 の頃までは全てが保存的治療だという時代があ りました。それがKuntcher や AO の台頭により 積極的に手術をするという時代となり、さらに月 日が流れ手術的治療と保存的治療のバランスが とられる時代となってきました。そしてさらに新 しい 21 世紀になり血行を温存する生物学的手法 による手術治療の時代となりました。 繰り返しになりますが、AO とは全ての骨折を手 術することを意味してはいません。観血的な整復 固定術は早期可動を可能にする魅力的な手法で すが、これには同時に大きな責任を伴います。メ スを入れて手術をするのであれば、本当に患者に とって利点がなければなりません。 ということで手術の適応です。これには多くの因 子が関与してきます。まず患者の年齢や既往症な どの問題。それに骨折の形態や軟部組織の状態。 そしてこれが実は大切なのですが、外科医の技量 や病院の設備・人的能力なども大きく関わってき ます。患者と、医師、病院によって、手術の適応 は個々に決められるものなのです。 手術の適応は個々に決められるというのはそう なのですが、絶対的手術適応というものが存在し たのでした。全てを解説しませんが、例を挙げれ ば関節内骨折は解剖学的整復が必要な骨折であ り手術の絶対的適応と言えます。また多発外傷な どの際に看護を容易にするために手術が必要と なることもあるのです。

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AO の骨折治療原則の繰り返しになりますが、治 療の目的はこのアスリートのように完全な関節 可動性を獲得することでした。そのためには安定 した解剖学的整復固定により、疼痛のない可動性 を獲得しなければならない。さらに血行を温存し なければならないのでした。 これから何人かの先生により手術的固定法につ いてレクチャーがあると思います。例えば plate とか髄内釘とかの用いる骨接合材料や、絶対的固 定とか相対的固定などの骨接合方法によってさ まざまですが、それぞれが生物学的・生体力学的 特徴を有しています。そして、これが重要なこと ですが、どのような方法を用いるにしても、固定 性というのは骨癒合が得られるまで、その安定性 を維持していなければならない、そしてこれが合 理的で、合併症の少ない快適な方法であれば最も 良いということです。 脛骨の骨折一つを例に挙げても、その治療法には functional brace や plate、髄内釘、創外固定など などいくつかの方法があります。それぞれに特徴 があり、色々な要因によって選択されるわけであ り、決して画一的なものではない。こう言っては 「料理人」にお叱りを受けるでしょうが、実際の 患者の治療は料理本のように画一的ではないの です。患者治療の原則・目的は同じであっても、 そこにいたる道にはさまざまな方法があるので す。逆に言えば、どんな方法であっても、合理的 な方法であればよいのです。 さて、AO は 47 年の間に何を学んできたのでしょ うか。過去の失敗をどのように分析し、どこが変 わってきたのでしょう。

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これは昔の固定術の写真です。大きく創を展開し て、一つ一つの骨片を正確に整復し、沢山の金属 を入れて固定してきました。これが早期関節可動 を得る最良の方法だと思っていたのです。しかし 軟部組織のトラブル、感染の併発などの問題によ り、大きく反省することになりました。すなわち 生物学的側面の認識です。安定性を獲得すること は必要だったのですが、そのために生体活性を失 ってはならなかったのです。 「生きた骨しか治癒しない」ということを忘れて はいけないのです。沢山の金属で固定することが 良いわけでは決してない。生物学的に正しい手技 をとらなければならない。かつてGardlestone は こう言ったそうです。「骨というのは、その根を 軟部組織に伸ばした植物のようなものである」と。 骨は軟部組織と連結している、そしてそこから血 行を得ているということが治癒するために重要 なわけです。侵襲性の高い手術でさらに血行を阻 害することは骨にとって残酷なことであります。 生物学的配慮に基づいた骨接合法とは、骨への血 行を保持し、軟部組織を破壊しない、さらに全身 に与えるストレスを最小限度に抑えるものであ ります。それはMinimal invasive osteosynthesis ということになるわけですが、その概念はこの有 名なモデルに現れています。AO の有名な外科医 Chris Colton がデザインした Banana model です。 初期の頃軟部組織を大きく剥いで、骨片を一つ一 つ正確にとめていました。それが最小の剥離で止 めるように変わってきました。そして今日、小切 開でプレートをすべらせて挿入し固定するMIPO となったのです。 生体活性を重視した固定法といえば、小さな切開 でピンを刺入し固定する創外固定や reaming の しない髄内釘が今までにもありました。そして、 MIPO テクニックにより plate をすべらせて挿入 する方法があり、しかも骨との接触を最小限度に 抑える、あるいは全く接触しないplate を用いて 行うようになってきました。

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これはplate を骨に圧迫することにより、いかに 骨の血行が障害されるかということを説明する スライドです。左のような従来のplate では接触 した部分の骨皮質の血行は著しく減少しますが、 右のような接触面積を抑えたplate を使用すれば 骨皮質の血行はある程度温存されます。LC− DCP の登場というわけです。 そして、さらに全く骨と接触しないで固定する plate が開発されました。これがその locking compression plate LCP です。従来の dynamic compression 機構 と角 状 安定性 を合わ せ持 つ plate です。Plate と screw にねじが切ってあり、 挿入することで一体となってしまう原理ですが、 これについてはあとで小幡先生より講義がある と思います。 角状安定性を有する利点を示したスライドです が、screw と骨との間の緩みを生じづらい、また 骨の形状に完全に合っていなくともよい、また先 ほどから述べている骨に圧迫しないので血行を 障害しないなどの特徴を持ちます。これは近年の 骨接合材における革命と言ってよいかと思いま す。

これはLess invasive Stabilization System LISS と呼ばれるものですが、解剖学的形状に合わせて 作られたplate をアウトリガーによって小さな切 開から挿入するというものです。スライド右のX 線写真を見てわかるとおり、plate は骨との距離 を保っており接触していません。

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髄内釘においても、unreamed テクニックを使う ことにより髄内の血行を温存するということが できます。しかし、周囲軟部組織の状態が良い場 合には reaming をしても速やかに血行は改善す ることがわかっています。個々の症例に応じて使 い分ける必要がありそうです。 また髄内釘の刺入点も変わってきました。以前は 髄腔の延長である梨状かから刺入していました が、骨頭への血行阻害をきたさないように、より 外方に刺入点は移ってきています。 まとめです。AO が生まれてから 47 年が過ぎまし た。その間にどのようなことが変わってきたでし ょうか。AO の根底に流れる概念は変わっていま せん。それは早期関節可動を許容する固定です。 しかし、さまざまな時代の求めに応じて変化して きました。骨折治癒に関する知識も変わってきて いるし、診断の技術も進歩しました。また損傷の パターンも変化し、治療の技術、インプラントに も改良が加えられてきました。それに患者の治療 に対する要求度も変わってきました。怪我をした から仕方がないという時代ではなくなったので す。 最後になりましたが、有名なSchank の言葉を引 用したいと思います。力学的、生物学的、臨床的 側面を大事にし、外科医がそのために論理的な治 療法をするのなら、あとは生物が治してくれると いうわけです。 過去はこのようでした、多くの外傷患者は結果的 に切断を受け障害を負ってしまったのです。でも 今は違います。たとえ重度の損傷を受けたとして も、その機能を温存することができるようになっ たのです。高度のスポーツ活動もできるわけです。 今日の講義を通して、四肢外傷治療の基礎を学ん でいただければ幸いです。 ご清聴ありがとうございました。

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AO 分類

10:20-10:40 小幡浩之

何故 AO 分類なのでしょうか? 分類の意義は汎世界的に骨折治療における共通 言語をもつことであります。つまり、AO分類は言 語の世界の「英語」のようなものであると言えま す。 「分類は骨傷の重症度を考慮し、治療の拠り所と なり、結果の評価に役立ってこそ有用である」。 これはAO foundation成立時のmemberの一人であ るMaurice E. Mullerの言であります。右に挙げ たのは皆さんの手許にあるCCF(系統的骨折分類) ですので、これを参照しながら講義を聴いてくだ さい。 AO分類は、共通言語として、骨折分類のコード化 を し ま し た 。 そ れ は Location( 局 在 ) と Morphology(形態)からなります。 まず、局在のコード化ですが、このスライドは (Orthopaedic Trauma Association:OTA分類)によ る骨折分類(部位)のコード化をあらわしたもの です。それぞれの骨には番号がつけられています。 先に配布した小冊子のp4を見てもらいたいので すが、そこの図と比べて若干のminor changeがあ ります。しかし、本日話す長菅骨については、変 わりがないのでこのまま話を進めることとしま す。

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続いて形態のコード化ですが、骨折の形態学的特 徴を表現するためにA,B,Cの3つの型に分類しま した。そして、それぞれの型は、さらに3つの群 に分けられA1,A2,A3、B1,B2,B3、C1,C2,C3と細分 類されました。。 以上をまとめますと、4つの長管骨骨折に対して、 それぞれ部位と形態に応じて、数字とアルファベ ットの組み合わせにより、コード化したわけです。 それでは、コード化を具体的に説明していきます。 まず、長管骨は上腕骨を1、橈骨/尺骨を2、大 腿骨を3、脛骨/腓骨を4としました。ここで橈 骨/尺骨、脛骨/腓骨は一つの長管骨と見なしてい ることに注意してください。 部位(Segment)は近位部を1、中間部(骨幹部)を 2、遠位部を3に分類し、さらに果部(脛腓骨遠 位部)を4に分類しました。 近位部および遠位部の定義の仕方ですが、これは 正方形のルールに基づいています。すなわち近位 部、遠位部は骨端部の最大幅を一辺とする正方形 に囲まれた部分と定義するわけです。 しかし、いくつかの例外があります。これはその 一つである大腿骨近位部(31)ですが、小転子 下端を横切る線より近位を31としました。

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また、脛腓骨遠位部の果部骨折は43-には含めず、 44として別の部位に分類しました。そして、さら に靭帯結合部より遠位をtype A、靭帯結合部を type B、靭帯結合部より近位をtype Cに分類しま した。 続いて、骨幹部における型(type)分類について説 明します。Type Aは単純骨折であり、骨幹におけ る一か所の全周性の破綻、type Bは楔状骨折であ り、骨幹における一つまたはそれ以上の中間骨片 を有する骨折で、整復後、近位・遠位主骨片が部 分的に接触するもの、そしてtype C:は複雑骨折 であり、骨幹における一つまたはそれ以上の中間 骨片を有する骨折で、整復後、近位・遠位主骨片 が全く接触しないものとしました。 また近位部・遠位部における型(type)分類につい て説明します。Type Aは関節外骨折であります。 ここで、顆上骨折などは関節包内の骨折である可 能性がありますが関節面は含まないので関節外 骨折と分類していることに注意してください。 Type Bは部分関節内骨折であり、関節面の一部の み損傷されたもので、残りの関節面は骨幹部と連 続しているものです。そしてtype Cは完全関節内 骨折で関節面が骨幹部からから完全に分離して いるものです。 さらに進んで、骨幹部における群(group)分類に ついて説明します。Type A1は螺旋骨折 A2は斜 骨折(30°以上) A3は横骨折(30°未満)、type B1 は螺旋楔状骨折 B2は屈曲楔状骨折 B3は多骨 片楔状骨折、type C1は螺旋骨折、C2は分節骨折、 C3は不規則骨折です。各々の定義については小冊 子のp10の下を見て下さい。

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近位部・遠位部における型(type)分類にはいくつ かの例外があります。11の上腕骨近位部骨折です が、type Aは関節外単極骨折で、大結節または小 結節の骨折、あるいは骨幹端骨折です。type Bは 関節外双極骨折で、大結節または小結節の骨折と 骨幹端骨折です。type Cは関節内関節面を含むも のです。また、31の大腿骨近位部骨折ですが、type Aは転子部骨折で上縁は転子間線、type Bは頚部 骨折、type Cは骨頭骨折です。 さて、骨折部位を決めるのに、骨折中心のルール というものがあります。単純骨折では骨折線の中 点とします。楔状骨折では楔状骨片の最大幅の levelとします。複雑骨折では整復後に決定しま すが、粉砕部の中点とします。 また、転位がある場合には関節内骨折としますが、 転位がなく亀裂が及んでいる場合には骨折の中 心位置によって骨幹部、近位・遠位部に分類しま す。 ここでもう一度、診断のコード化を思い返して下 さい。例えば脛骨/腓骨骨折で、近位端骨折で、 関節外、そしてこれが単純骨折であった場合はど ういう風に分類するでしょうか。41-A1というこ とになりますね。 実はAO分類は分類しやすいように二者択一方式 を採択しています。すなわち、関節外か関節内か で分類し、関節外であれば単純か多骨片か、多骨

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片であれば楔状か複雑かという風に分類してい きます。そして、関節内骨折なら部分関節内か完 全関節内か、部分関節内であれば矢状面か前額面 かそして、矢状面なら外側か内側かというわけで す。さらに完全関節内なら関節面単純か関節面多 骨片か、関節面単純であれば骨管端が単純か多骨 片かということです。 複雑になってきたような印象を受けるかも知れ ませんが、小冊子を見ながら、いくつか例題をや ってみると理解が深まると思います。

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整復手技

10:40-11:00 辻 英樹

この講演では、直接的整復法と間接的整復法の 違いというものを知ること、それから両整復法 の適応、そして両整復法の手術テクニックと臨 床応用についてお話いたします。 それではまず、何故骨折を整復するのでしょう か?それは骨折の治癒環境を改善して、その後 固定をして、機能的な骨折治癒をめざすためで あります。そして他の構造物、例えば神経や血 管といった組織を保護するといったことも目 的となります。 それでは外科的に骨折を整復する原則とは何 でしょうか?これはまず関節面を含む骨片は 正確に整復しなくてはいけません。また整復操 作では骨と周辺軟部組織の血流が温存されな くてはなりません。また血管、神経、腱などの 重要組織を保護する、といったことが挙げられ ます。これには経験と綿密な計画が必要となり ます。 ここで言葉の定義ですが、「整復」とは、「正し い」位置に骨をもってくる行為を言います。そ の中で解剖学的整復 Anatomical reduction と は骨片を元の位置にもどし、骨面を正確に再建 する。より正確にあたかも骨折がなかったかの ようにぴったりと戻すことを言います。 それに対して機能的整復Functional reduction とは、骨折治癒が完了した時、正常の機能が得 られるような位置に骨片を戻すことを言いま す。すなわちぴったりと元の位置に戻す必要は ないのであります。 よってどちらも「正しい」位置なのであります。

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関節内骨折は解剖学的に整復しなくてはなり ません。ぴったりと合わせるということです。 正常な関節機能の獲得には解剖学的整復が不 可欠でありますし、関節軟骨の治癒にはperfect な整復が必要です。不十分な整復ではOA が引 き起こされてしまいます。 ですから関節内に至る骨片の機能的整復とは すなわち解剖学的整復ということになります。 それに対して骨幹部骨折はいわゆる機能的整 復をすべきということになります。・個々の骨 片は、特に粉砕しているような場合は、解剖学 的に整復する必要はなく、骨長、軸、回旋を整 復すればよいということになります。しかし関 節近傍の骨片は、関節面のアライメントに影響 しますので正確に整復する必要があるかもし れません。 こちらは大腿骨の粉砕骨幹部骨折に対して、 hip screw plate を bridging plate すなわち架橋 plate として橋渡しさせて固定しています。こ こでは粉砕部は展開されておらず、アライメン トのみの整復ということになり、機能的整復に よる相対的固定をしております。 今述べましたように、骨幹部の粉砕骨片は解剖 学的整復しないで、骨長、軸、回旋の整復を行 います。しかし関節面は解剖学的にWater tight に整復して骨片間に圧迫を加えた絶対的固定 をする必要があります。 次にこの解剖学的整復、機能的整復を得る為の

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直接的整復法と間接的整復法について述べま す。両者は根本的に異なるものです。 直接的整復法とは、骨片を直接操作し、元の位 置に戻すことを言います。骨折部はいつもでは ありませんが、通常露出されることになります。 骨折部の血流の障害は避けられません。しかし 上手な手術操作法により最小限にとどめるこ とが出来ます。またこの整復法により通常は解 剖学的整復がなされることになります。という よりそうしなければなりません。 ここからは具体的な整復のテクニックですが、 まずこれは通常よく行われる点型の整復鉗子 を用いた方法ですが、利点としましては、直接 骨を見て整復できるということ、また鉗子自体 は直接骨折部はさわらないということであり ます。欠点はくりかえし把持操作を行うことが あることや、骨の上で鉗子が滑ってしまうこと、 また骨膜などの軟部組織をはさむことになる こと、などがあります。 これもよく行われる方法ですが、二つの整復鉗 子を使って把持して、骨に直接牽引をかけて、 整復しています。 これもよく行われる方法ですが、点型整復鉗子 を用いて twisting ひねることにより得た整復 位を別の鉗子で保持する、といったテクニックです。 これはホーマン鉤を使った直接的整復法です が、利点は小さい展開で大きな力を加えられる こと、欠点はHohmann 鉤を抜く時に整復がず れることなど、が挙げられます。

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直接的整復に対する間接的整復ですが、これは 骨折部を直接展開せず、骨片に付着する軟部組 織を破壊しない骨折部のbiology を保つ方法と いえます。通常はいわゆる機能的整復がなされ ます。しかしこの操作で単純骨折では解剖学的 整復も可能でしょう。 通常はX 線透視を使用します。骨折部から離れ たところから力を加えて間接的に骨片を整復 する方法です。大きい点把持型の整復鉗子など、 特殊な器材の使用することもあります。 間接的整復ではまずは牽引力をもって骨折を 整復します。Fracture table や distractorr、創

外固定などがあります。 これは牽引台を用いた間接的整復、皆さん日常 でやっている方法です。 次はdistractor を用いて牽引する方法です。ま ず近位と遠位の骨片にschantz screw を入れて 長軸方向に牽引することで間接的に整復でき ます。 次は創外固定を用いて牽引する方法です。これ はAO のモジュラーシステムの図ですが、この 型の創外固定は多くの異なった形態をとれる ので、融通性があって応用が利くシステムであ

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ります。 そ の ほ か 関 節 を ま た い だ 創 外 固 定 bridging external fixator ですが、これは関節面に骨折 が 近 い 場 合 に 使 用 さ れ ま す 。 骨 片 を ligamentotaxis による整復しよう、というもの であります。 牽引と整復鉗子を併用したこのような間接的 整復方法もあります。これは前のスライドでも お見せしたように、libamentotaxis である程度 整復したのち、関節面骨片に圧迫を加えるもの です。 初めのほうのスライドで関節内骨折は解剖学 的整復が必要である、というお話をいたしまし た。それでは関節内骨折における間接的整復の 位置づけとはどうなのでしょうか?スライド は脛骨関節面の陥没をきたした脛骨高原骨折 であります。あくまで治療のゴールは関節面を 解剖学的に整復することにあります。 このような関節内骨折でも間接的整復を行う ことで、関節面の解剖学的整復が容易になりま す。まず distraction をかけて ligamentotaxis で靭帯がついている骨片を整復します。これは typeB すなわち部分関節内骨折ですが、typeC の場合はこの distactor による整復で軸のアラ イメントも整復することができます。陥没骨片 を丁寧に持ち上げて、再び陥没がおこらないよ うに骨移植をして、内固定しました。関節鏡を 併用して行う、というoption もあります。この ように関節内骨折でも間接的整復を行うこと で靭帯が付着している骨片の整復が可能です し、軸のアライメントも整復できるのでありま す。 いづれにしても間接的整復は徒手的な力が必 要となります。助手が女性であった場合はちょ っと苦しいかもしれませんが、いろいろな器機

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を使うことで可能となるでしょう。 そ の ほ か 間 接 的 整 復 法に は plate を用いた push-pull 法 が あ り ま す 。 こ れ は 骨 折 部 を spreader などで distraction 伸ばしていくと、 軟部組織の緊張が増して骨片が元の位置に戻 ろうとする性質を利用したものであります。特 に前腕骨などでこの方法が応用されます。 これもpush-pull 法を用いた間接的整復法であ ります。 他に単純かつゆっくりと整復する方法として はplate を滑り止めとして使う方法があります。 主に骨幹端部の斜骨折に使われるテクニック です。正確にプレートをbending しておくことで、screw を入れるに従って整復 位が得られる方法です。 最後になりますが、本講演では直接的整復法と 間接的整復法について、その違いと、一般的な 適応、手術手技についてお話致ししました。強 調したいことは骨幹部粉砕骨折はジグソーパ ズルではない、ということであります。 まとめになりますが、外科的整復法として 直接的整復というのは、骨折部を露出し鉗子な どを用いて骨片同士を直接操作し整復する方 法であります。このような整復法をとった時に は絶対的整復がなされるべきであります。一方 間接的整復とは骨折部を露出せずに離れたと ころから牽引力などを加えて整復する方法で あります。この方法をつかってMIO(minimum invasive osteosynthesis)が行われます。 いわゆるBiological な整復とは、、、この logical が大きくなっていますが、 上記 の2 つのバランスをとって、骨折部位と型に応 じて使い分けることであります。 関節面骨片などに直接的整復法をとるにして も、血行を阻害せ骨片を上手に操作することが

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必須であります。 整復手技はGentle そして atraumatic に血流を 温存し、軟部組織付着部を保護するように行わ なくてはなりません。そのような手技をとって 初めて骨折治癒のbiology を assist することに なります。Viability は Stability よりもむしろ 重要である、ということを肝に銘じておく必要 があると思います。

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圧迫固定法

11:10-11:30 佐藤 攻

本日のお話は Lag screw 法と圧迫固定法について ですのでそれに関連した基本原理として、固定性 の 概 念 と い う こ と で Relative stability と Absolute stability、そして骨片間圧迫について お話いたします。 まず Relative stability、相対的固定についてで すが、定義は負荷がかかると、骨癒合を妨げない 程度の多少の骨片間の動きがあるものというこ とになります。具体的には創外固定、髄内釘、架 橋プレート、ロッキングプレートなどいわゆる創 内固定、ギプス、シーネなど、いわゆるスプリン トというものが Relative stability ということ になります。Relative stability はあくまで骨癒 合を妨げない範囲内ですから Instability とは違 います。 一 方 そ れ に 対 す る 概 念 と し て 、 Absolute stability、絶対的固定というものは機能的負荷 をかけても骨片の転位がおきないものと定義さ れます。 転位が生じないためには圧迫によって生じる摩 擦力を基盤とする骨片間の圧迫が原理的に必要 となります。つまり Absolute stability = 圧 迫固定法となります。DCP、Lag screw, Tension band 法は代表的な方法です。髄内釘は基本的には Relative stability ですが例外的に T2 nail で 横骨折に圧迫を書けた場合は Absolute stqbility といえるでしょう。基本的には圧迫固定法以外は すべて Relative stability となります。

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このように骨片間を整復して力学的前負荷であ る圧迫を加えることによって絶対的な安定性が 得られます。 さて、骨片間圧迫という考え方についてお話いた します。 このように骨片間を整復して、力学的前負荷であ る圧迫を加えることによって整復位を保持しよ うという考え方が骨片間圧迫です。 骨片間の圧迫には具体的には静的な圧迫、動的な 圧迫があります。 静的な圧迫によってもたらされる効果は具体的 にはここにあげる3つです。絶対的安定性と負荷 に対する遮蔽、そして一次性の骨癒合が剛性のあ る静的な圧迫によって得られる効果です。 Absolute stability というのはこのように骨片間 に圧迫がくわわることによって力学的に安定す ることを示します。この積み木をもっているのは うちの息子ですが、このように両端から圧迫を加 えることによって真ん中の積み木は力学的に安 定した状態となります。

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力学的に安定した状態のところに機能的負荷が かかる場合、これを遮蔽することによってこの丸 でかこんだあたりは力学的に安全地帯とするこ と が で き ま す 。 こ う い っ た こ と を Stress protection というふうに表現いたします。 こういった絶対的安定性のもとでは骨折部は一 次性骨癒合と表現する特殊な修復が発生します。 骨折部は Havers 管の再生により内部から修復さ れ、仮骨が発生しない治癒となります。 動的な圧迫は動的な負荷と、これによる骨片間の 圧迫、その結果として二次性の骨癒合を生じます がこれについてはあとで Tension band 法でお話 いたします。 実際の固定法ですが、まず Lag screw 法について お話いたします。 Lag screw は骨折治療の基本となるテクニックで、 2つの骨片間にスクリューで圧迫をかけること によって絶対的安定性を獲得する方法です。

Lag screw の原理はスクリューのねじ山、Thread の部分で対側の骨片をとらえ、スクリューのシャ フト部分では骨を把持しないことで対側骨片を Screw head のほうへ引き寄せて圧迫力を生み出し ます。

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Glind hole を近位骨片に、Thread hole を対側骨 片につくることで骨片間圧迫が加わります。

近位骨片に Glind hole を作成しないで Cortical screw を挿入するとねじの部分が両方の骨片にか かってしまい圧迫力は発生しません。

Lag screw 専用のスクリューとして Shaft screw があります。Head があり、Gliding hole 部分に 相当する Shaft があり、Thread があります。この 特徴は Shaft と Thread の径がほぼ同じにつくら れていることです。

Shaft screw の特徴は Gliding hole でのぐらつき がないため Cortical screw より圧迫力が強く、 Shaft が太い分強度が強いことです。

Shaft screw 使用時の注意点は Shaft が骨折線を 超えている必要があることです。そうでないと圧 迫はかかりません。

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Screw の刺入方向についてですが、骨の断面で見 た場合最適な刺入方向は骨折線に対して垂直方 向です。もし斜めに挿入すると剪断力が発生して 骨折部の転位を来たします。 骨の長軸方向で見た場合はどうなのでしょうか。 骨折線に垂直に刺入すると圧迫力は最大限に発 揮しますが、長軸方向の軸圧には弱く転位をきた しやすい欠点があります。 それでは骨軸に垂直に刺入するとどうなるので しょうか。骨折部に対しては斜めになるので圧迫 力が弱い、圧迫がかかるにつれて転位するという 欠点があります。ただし軸圧には強いです。 推奨される刺入角度は両者の間をとって骨折線 の垂線と骨長軸の垂線の二等分線ということに なります。 ただし、刺入角度には限界があります。一般に挿 入角度が骨折線の垂線から20度以上傾くと骨 折部の転位が生じます。そのため骨折線が骨長軸 から40度以上傾斜すると二等分線の法則は適 用できません。 Lag screw 単独で使用する場合、果たして何本つ かえばよいのでしょうか。

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Lag screw の圧迫がかかる範囲は広くはありませ ん。そのため1本では十分な安定性を発揮できま せんが、2本使うことで回旋力にたいする抵抗性 は格段にあがります。 Lag screw 単独で使用する場合、すなわち1本で はなく、2本、できれば 3 本使うことが望ましい と考えられます。 つまり、Lag screw 単独での固定はらせん、長斜 骨折はよい適応ですが、横骨折、短斜骨折などは Lag screw を2本以上使用できないため不適とい うことになります。 Lag screw の特徴は圧迫力は強いが、その範囲は 狭いということでしょう。 また Lag screw は屈曲、回旋力などの多方向から の力には弱い弱点があります。そのため、機能的 負荷を遮蔽する Stress protection として中和プ レートとの併用が望ましいことがわかります。 それでは次に plate による圧迫固定法についてお 話いたします。

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プレートによる圧迫固定法の適応は骨幹部、骨幹 端部骨折と、横骨折、短斜骨折、そして圧迫を加 えると骨折部が安定化する場合の3つといえる でしょう。 方法は DCP の Gliding hole の原理を用いる、圧 迫固定器を用いる、プレートの Prebedning、これ と先ほどお話した Lag screw との組み合わせとな ります。 DCP の Glind hole には傾斜がついておりスクリ ューを閉めるにつれて Head が Glind してプレー トが動き圧迫をかける仕組みになっている。 DCP 用 の ド リ ル ガ イ ド は そ れ ぞ れ Neutral, compression, Buttress とあり目的によって選択 します。

Universal drill guide はばね式になっており、 軽く押し当てると偏心性、押し付けることで中心 性にスクリューが入ることになります。

Gliding hole を用いたスペシャルテクニックとし て Compression drill hole を利用して圧迫をか けてから一旦1本をゆるめてプレートが骨に対 してスライドするようにしてからもう一本スク リューを追加して圧迫をかける方法があります。

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Tension device は一方をプレートの端にフックで 引っ掛け、もう一方を捨てねじで骨に固定します。 フックの位置により圧迫、牽引にも使えます。 斜骨折の場合、プレートと固定された骨片の間の 三角形の場所に、移動する骨片の鋭角な部分がは まり込んで圧迫がかかるようにしなければなり ません。これを逆にすると下の図のように骨片が 転位します。 また、まっすぐなプレートで圧迫をかけるとプレ ート直下では大きな力がかかりますが、対側には 小さな力しかかからずギャップができることが あります。このよう場合にはあらかじめプレート をすこし曲げておくことで、張力をかけるとプレ ートがまっすぐになるにつれ対側の骨皮質に圧 迫がかかり安定化します。ただしプレート対側の 粉砕がないことが条件です。 Prebending したものとしないものを比べると、 あきらかに Prebending したほうが均等な圧迫力 がかかっていることがわかります。 Lag screw によって骨片間の圧迫を得て、プレー トによって Stress protection を行いスクリュー にかかる剪断力など遮蔽することで強固な固定 を獲得することができます。

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創外固定法

11:30-11:50 廣瀬聰明

AO の 創 設 者 の 1 人 M.E.Muller は ”Life is movement. Movement is life.”と、人生において 四肢が自由に動かせることが大切だと言ってい ます。骨折の治療においては解剖学的整復と安定 した内固定、血行の維持、早期無痛性授動を原則 として掲げてきました。当初は内固定に対して考 えられていたこの原則も次第に軟部組織の重要 性やインプラントの特徴が理解されるようにな ってきて、骨折治療の総合的な原則とされるよう になりました。 骨片間固定には絶対的安定性と相対的安定性を 得る方法があります。この中で創外固定法は相対 的安定性を得るための手段となっています。 骨折部を固定せず不安定な状態のままにすると 偽関節が生じます。また、DCP プレートによる骨 接合術は骨片間に強い圧迫力が働きほぼ 10 に近 い安定性が得られ、一次性骨化による骨癒合が得 られます。 創 外 固 定 は 3 程 度 の 安 定 性 で 、 二 次 性 の 、 non-osteonal、間接的な骨癒合が得られます。 では創外固定にはどれくらいの安定性が必要な のでしょうか?最も安定した状態では一次性の 骨癒合が起こります。これは仮骨形成を認めない のでbone remodeling が起こるまでほとんど固定 性が得られません。そのため早期に創外固定をは ずすと再骨折の危険性が高くなります。一方、コ ントロールできない過度の不安定性がある状態

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では遷延治癒や偽関節を生じてしまいます。その ためコントロールできる限られた不安定性があ る状態が最も良好な骨癒合が得られると考えら れます。 創外固定の強度に関係する因子としてはまずピ ンまたはSchanz スクリュー間の距離が挙げられ ます。図のx で示した骨折線からより近い方が固 定性が強く、またy で示した各主骨片内では距離 が離れた方がより固定性が強くなります。Z で示 した骨から縦の連結チューブまでの距離は近い 方が強固な固定性が得られます。バーの数は1 本 よりも2 本の方が良く、形態は片側、両側、三角 フレームなどがあり、また内固定との組み合わせ によっても強度が違ってきます。

形態にはunilateral frame, one plane、unilateral frame, two planes、bilateral frame, one plane などがあります。 Unilateral frame は神経血管損傷の危険性が少な くなっています。患者さんの不快感も少なく、装 着が容易で筋・腱構造を介した固定の可能性が低 いという利点があります。 一方、bilateral frame では良好な圧迫力が得られ るものの、神経血管損傷の危険性が高くなってい ます。また患者さんの不快感も強く、筋・腱構造 に損傷を与える可能性が高いため、現在ではほと んど用いられていません。 創外固定法の適応ですが、軟部組織損傷を合併し た骨折や小児の骨折、多発外傷における緊急処置、 関節固定、感染性または欠損性偽関節、変形の矯 正・延長などが挙げられます。

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創外固定法の利点は骨の血行障害が少ないこと、 軟部組織への障害が最小であること、開放骨折の 安定化に有用であること、手術をせずに調整がで きる強固な固定性が得られること、感染のリスク がある状況下での良い選択肢となります。また標 準的なORIF よりも経験や外科的技術が少なくて すむこと、骨感染例での高い安全性などが挙げら れます。一方、欠点としては軟部組織をピンやワ イヤーが穿孔すること、関節可動域制限、長期に わたる創外固定でのピン挿入路合併症、かさばっ て扱いにくく、常に患者さんが許容可能ではない こと、成人の大腿骨など特定の部位では固定力に 限界があることなどが挙げられます。 Hannover の施設で 1982 年から 1986 年の間に創 外固定を行った脛骨骨幹部骨折の202 例における 合併症は感染が 3.4%、感染性遷延治癒が 8.8%、 再骨折が7.4%、5°以上の変形治癒が 20%に見ら れました。

Interface problems としては pin loosening と pin tract infection が挙げられます。これについては 1982 年に Behrens が radial preload をかけるこ とによって改善されると報告しています。Radial preloading とはドリルホールよりも径が大きい ピンを刺入することでピンと骨との圧迫力を強 くし、loosening や infection を減少させるという 考え方です。 ドリルホールと同径のピンを刺入すると radial preload が働かず、ピンの micro-motion により loosening が起こります。 一方、ドリルホールよりも径が大きいピンを刺入 するとradial preload が働き loosening が起こり ません。

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Smooth pin 刺入後 6 週の骨の断面ですが、ドリ ルホールと同径のピンの方では骨吸収と骨破壊 が起こっており、pin loosening が起こりました。 一方、ドリルホールより径が 0.1mm 大きいピン を刺入した方は radial preloading がかかってお り、ピンが骨とpress fit していて loosening が起 こりませんでした。 これらのピンによる合併症をなくすため、AO で は新しい Schanz スクリューを開発しました。 SelDrill といって selfdrilling、selftapping、そし て radial preloading を順番にワンステップで行 うスクリューです。 スクリューの先端からドリル、タップ、スクリュ ーとなっており、これらを順番にワンステップで 行います。 Selfdrilling から selftapping の過程では適切な長 さのドリル先があることが重要です。従来のセル フドリリングスクリューは骨破壊を起こすと言 われていましたが、これはドリリングとタッピン グを同時に行うため、起こるものです。SelDrill はサイズごとに適切な長さのドリル先を持って いて、ドリリングが終了してからタッピングが行 われるため、骨破壊を起こしません。 ドリル先が短い従来のセルフドリルスクリュー ではドリリングとタッピングを同時に行うため、 刺入部の骨破壊を起こします。 Bone thread を見ると、他社製のセルフドリリン グ・ハーフピンでは刺入部の骨のネジ山が破壊さ れていますが、SelDrill ではその損傷はほとんど 見られません。

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次にpreloading の過程では適切な press fit が重 要になってきます。先程述べたようにドリルホー ル と 同 径 の ス ク リ ュ ー を 刺 入 し た の で は loosening が起こってしまうので、ドリルホール よりも径の大きいスクリューを刺入する必要が あります。そこで刺入すれば刺入するほどRadial preloading がかかる、テーパー型のハーフピンが ありますが、このようにドリルホールと谷径の差 が大きすぎると周囲に微小骨折を生じ、loosening が起こってしまいます。ドリルホールと谷径の差 は一般的に 5∼10%が限界と言われています。 SelDrill はピン先端部のドリル先の径に比べてス レッド部の谷径が約 2%大きい構造になっており、 適切なpress fit がかかります。 ま た他 社製の セル フドリ リン グスク リュ ーと SelDrill の骨破壊、発熱量とトルクを調べると、 粗いピッチで完全にネジ山のついたドリル先で は骨に過度の損傷を起こし、細かいピッチで部分 的にネジ山のついたドリル先では部分的な損傷 が見られました。一方、細かいピッチで適切な長 さのネジ山のないドリル先を持ったSelDril では ほとんど損傷が見られませんでした。 スクリュー刺入時の発熱量においてもSelDrill が プレドリルタイプのものと比べても最も発熱量 が少なく、骨壊死を起こしにくくなっていること がわかりました。 このようにSelDrill は骨破壊を起こさず、適切な press fit が得られ、刺入時に発熱量が少なく骨壊 死を起こしにくいため、骨との密着性が高く pin loosening や pin infection を起こしにくいことが 期待されます。 創外固定を装着した後、そのまま骨癒合が得られ るまで装着する場合と、途中でインプラントを変 更する場合があります。そのまま治療する場合は 骨癒合に時間がかかったり、ピン挿入部のトラブ ルがあったり、感染という合併症が起こる可能性 があります。また、インプラントを変更する場合 はできるだけ早期に行うのが望ましく、遅くなる と感染率が高くなってしまいます。

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治療法の変更は、髄内釘またはプレート固定に変 更する場合はできれば創外固定後2 週以内にピン 挿入路の感染兆候がないことを確認し、なるべく リーミングをしないで行います。ただしプレート 固定に変更する場合はこれよりも 1∼2 週長く固 定してもいいとされています。ピン挿入路感染例 では創外固定を抜去後、ピン挿入路を掻爬して感 染兆候がなくなるまでギプス固定とするか、ピン レス創外固定に変更します。また、多発外傷では ダメージコントロール時に装着した創外固定を 受傷後 5∼10 日の時期に訪れる、window of opportunity に予定最終手術を行います。 現在 AO から出ている創外固定器には modular external fixator の large、midium、small、pinless external fixator、Hybrid external fixator、distal radius fixator、mini external fixator、MEFiSTO があります。

こ れ ら は 大 き く 、rod system 、 monolateral system、hinged system に分けられますが、 hynged system は現在のところ、ヨーロッパでし か利用できません。 安全なピン、Schanz スクリューの刺入位置です が、ノンブリッジ固定の場合の橈骨遠位端では各 コンパートメントの間、脛骨では筋の走行により その高さによって変わってきます。 次にそれぞれの創外固定器を簡単に紹介します。 まずmodular external fixator ですが、利点とし てモジュラータイプなのでピンを好きな位置に 打つことができるため、ピンの設置が容易である こと、整復が容易であること、二期的な整復も可 能であること、神経血管損傷がほとんどないこと、 患者さんの満足度が高いこと、装着が容易である こと、筋腱構造を介した固定の必要がないことな どが挙げられます。一方、欠点としては使用する

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材料が多くなることがあります。 手術手技ですが、Schanz スクリューを刺入後、 ロッドを組み立て、ロッド用クランプを締める前 にロッドをハンドルとして使用し、整復操作を行 います。整復位が得られたところでロッド用クラ ンプを締めます。 Pinless fixator の原理は経皮的骨鉗子による整復 です。 利点は髄腔への侵襲を加えないことで、これによ り髄腔への感染の危険性が少なくなり、また創外 固定器をつけたままで髄内釘との併用も可能に なります。ドリルを使わないためすばやく簡単に 装着でき、適切な固定性があり、あらゆる面での 再整復が容易なことが挙げられます。一方、欠点 としてはskin / implant interface が増えること、 手技にlearning curve があること、強固な固定力 は得られないことが挙げられます。 適応は脛骨骨折の初期固定です。全身状態の悪い 患者さんの緊急固定や重篤な軟部組織損傷、患者 搬送の際の早急な固定、髄内釘挿入後の補助的固 定などが挙げられます。 まとめです。創外固定は骨折の最終的な治療法で、 Hybrid fixator は重篤な軟部組織損傷を伴った非 常に近位または遠位の脛骨骨折に用いられます。

Distal radius fixator はブリッジ固定の創外固定 器で、ロッドの太さも 8mm と modular fixator のmedium と同じ太さとなっています。

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Mini external fixator は指節骨・中手骨の粉砕骨 折、転位の大きい関節内骨折、骨欠損、強固な内 固定のできない開放骨折、重篤な軟部組織損傷を 合併した骨折、腫瘍切除の際などに用いられます。 MEFiSTO は下肢における骨折治療、骨延長術、 および矯正骨切術に用いる創外固定器です。 軟部組織の状態が悪かったり、多発外傷患者に対 して骨折を安定化させるために一時的に用いた り、内固定と併用したり、術中の整復操作に用い たりします。これらは固定操作が容易で合併症の 割合が少ないといった特徴を持っています。

参照

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