色彩画像分析における色変化の構造抽出と可視化
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(2) そこで,まず画像の色変化の構造を抽出する ための新しい手法を述べる.さらに,実際の絵 画作品に対し,その手法を適用した結果につい て述べ,有効性を示す.. 理論. 2 2.1. 色彩画像の区分的線形近似. 画面は,簡単のため矩形とし,縦,横の幅を それぞれ H および W とする.この画面を,縦 横それぞれ m(≥ 1) および n(≥ 1) 分割し,合 計 n × m 個の区画を形成する. 区画ごとに,原点を区画の中心にとり,横方 向に x 軸 (右が正の向き) を,縦方向に y 軸 (上 が正の向き) をとる. 画 像 は ,画 面 上 の ほ と ん ど の 点 に 対 し , 色空間内の色を対応させる写像と考え ら れ る .そ こ で ,区 画 内 の ほ と ん ど の 点 (x, y) に対応する色空間内の色を f (x, y) = {f1 (x, y), f2 (x, y), f3 (x, y)} と書き.この色の 各成分 fi (x, y) (i = 1, 2, 3) を,変数 x,y の 1 次式 (1) fˆi = ai x + bi y + ci. ci =. 1 ∆x∆y. D. fi (x, y)dxdy.. ここで,D は,横幅 ∆x (≥ 0),縦幅 ∆y(≥ 0) とする区画を表わす.式 (2) の右辺には,∆x, ∆y が分母に現れているが,f がなめらかな関 数ならば,D における積分の項がやはり ∆x, ∆y の式となり,けっきょく ai ,bi ,ci の主要項 は ∆x,∆y に依存しないことがわかる.しか し,D 内に f の飛びなどがある場合には,式 (2) の分母の ∆x,∆y が消去されない. 得られた ai , bi , ci を用い,式 (1) により区画の 色を近似する.なお,式 (1) の定数項 (c1 , c2 , c3 ) は,区画内の平均色,いわゆるモザイク画の色 となることに注意する. この方法を用いて,グラデーション領域をも つサンプルの画像に対し,画像の分割数を変え て近似画像を作成した結果が図 3 である.画像 の分割数は,長辺に対する分割数 m を与え,短 辺の分割数 n は,出来上がる区画が正方形に近 くなるよう決定した: m + 0.5 n= H . W. で近似することにする (図 2).. 画面空間 W. ^. fi. fi. y. n 分 割. H. Δx. (a) 原画像. Δy. x. m分割. 図 2: 初期分割と線形近似 すなわち,i = 1, 2, 3 について,残差平方和 . Ri =. D. 2. fi (x, y) − (ai x + bi y + ci ) dxdy. を最小にする係数 ai ,bi ,ci を求めると,次が得 られる: 12 ai = xfi (x, y)dxdy, ∆x3 ∆y D 12 yfi (x, y)dxdy, (2) bi = ∆x∆y 3 D. (b) 長辺 10 分割. (c) 長辺 50 分割. 図 3: サンプル画像に対する線形近似の結果 図 3b と図 3c の画像の色は,式 (1) および式 (2) から計算される近似色である.(b) が長辺を. 2 −10−.
(3) 10 分割した結果,(c) が長辺を 50 分割した結果 であり,黒い線は分割のようすを示している. 長辺 10 分割の結果に注目すると,グラデー ション領域に含まれる区画に対しては,1 次式 の当てはめの精度が良いことがわかる. 逆に,複数の領域で構成されている区画,す なわち境界が含まれている区画は,区画内の全 色を一つの 1 次式で表現することに無理がある. 分割を細かくすれば,境界を含む区画の総面 積は小さくなり,したがってグラデーション領 域に含まれる区画の総面積は大きくなり,近似 が良くなっていくことがわかる.. 2.2. 適応的分割. 境界が存在する区画に対してのみ,区画を細 分することを考える.初期分割を粗くしておけ ば,この方法により無駄な分割を避けることが でき,より少ない情報量で画像の構造を表すこ とが可能となろう. 区画内の境界の有無を,近似 1 次式の x, y の 係数,すなわち近似平面の傾きに注目して判断 する. 簡単のため画面を 1 次元として考えよう. ひとつのグラデーション領域に含まれる区画 で,区画内の色が 1 次式 (直線) で近似可能だと する.この場合,この区画内で分割数を細かく しても,直線の傾きはほぼ一定である (図 4a). 逆に区画内に境界が存在する場合,区画内で 分割を細かくしていくと,境界付近で直線の傾 きが急になる (図 4b).. fi. fi. Δx → 0. Δx → 0. x (a). x (b). 図 4: (a) 区画が単一領域のみの場合と (b) 区画 内に境界が存在する場合 このような状況がどういう条件で起こるかを 数学的に検討したところ,区画内で色 f (以降,. 色の成分を表す i は省略) が Lipschitz 連続かど うかによることがわかった.1 次元画面での近 似 1 次式の傾き a は. a=. 12 ∆x3. . xf (x)dx. で表わされる. 関数 f が Lipschitz 連続ならば, . xf (x)dx = O(∆x3 ). となり,幅 ∆x → 0 で a は一定の値に収束する. 連続ではあるが Lipschitz 条件を満たさない 関数,たとえば √ − −x + 1 (x < 0) f (x) = √ x+1 (x ≥ 0) といった場合では,x = 0 での傾きは a = 1 ) となり,幅 ∆x → 0 で発散する.も O( √∆x ちろん,f が連続でない (飛びがある) 場合に 1 は,傾きは a = O( ∆x ) となり,∆x → 0 でや はり発散する. 実際のアルゴリズムで は,境界が存在する区 画に対して,縦と横を 2 等分して 4 つの子区 画を作成し (図 5),も との区画 (親区画と呼 ぶ) と子区画における 傾きの変化を調べる.. y Δy/2. D2 -Δx/2. D1 Δx/2. D D3. D4 -Δy/2. 図 5: 区画の分割. 以下 x 軸方向のみについて考える.親区画の 傾きを a,子区画の傾きを ak (k = 1, 2, 3, 4) と する.a は式 (2) で表され,ak は a と同様にし て求めることができる. a と ak がほぼ等しければ,子区画はグラデー ション領域であると判断し,|ak | が |a| よりある 程度大きいならば,境界が存在すると判断する. ここでは,傾きに区画幅をかけ,色の単位に して比較することにした. ∆x 2 |a − ak | は,子区 画内での色の成分の差であり,これがある値 µ より大きいならば,子区画は単一領域ではない, すなわち境界が存在すると判断して,分割を進 める.. 3 −11−. x.
(4) 2.3. 実際の計算では,子区画の幅があまり小さく なる場合 (∆x, ∆y ≤ τ ) は分割を止めるように した. 以上に示した適応的分割のアルゴリズムをま とめると,図 6 のようになる.. グラデーションの分類. 画面上の 1 点は 2 つの独立変数で表せるの で,グラデーション領域を色空間に写すと,一 般に 2 次元の曲面を形成する.ただし特別に 1 次元の曲線や,0 次元の点を形成することもあ る.色空間で曲面となる場合を 2 次元グラデー 1) 画面を n × m 個の区画に初期分割する. 1 次元グラデーショ ション,曲線となる場合を 2) 各区画について, ン,点となる場合を 0 次元グラデーション (単 2-1) i = 1, 2, 3 について,式 (2) により 色) とよぶことにする (図 8). ai , bi , ci を求める.. 2-2) 区画の縦幅,横幅がいずれも τ より 小さければ終了,そうでないなら, • 区画を 4 等分し子区画を作成する. • 4 つの区画全てに対して, - i = 1, 2, 3 について, aki , bki , cki を求める. - i = 1, 2, 3 について,|ai − aki | ∆x 2 または |bi − bki | ∆y の一つでも 2 µ より大なら,2-2 以降を再帰的 に行う.そうでなければ終了.. . 図 8: グラデーション領域とその色分布 . 図 6: 適応的分割のアルゴリズム 図 4 のサンプル画像に対して,適応的分割 を行った結果を図 7 に示す.初期分割は長辺を 5 分割とし,分割の判定のパラメタは µ = 3, τ = 3 とした.ただし,τ はピクセルを単位と している.境界を含む区画は白く抜いて描いた. 境界付近が細分され,グラデーション領域と 境界を含む領域とに分けられている.また,グ ラデーション領域はよく近似できていることが わかる.. 前節では,グラデーション領域の色を x と y の 1 次式で近似した.これらの近似色が色空間 ではどのように表されるかを考えてみる. 式 (1) より,. l1 = a2 b3 −a3 b2 , l2 = a3 b1 −a1 b3 , l3 = a1 b2 −a2 b1 とおいたとき,l1 , l2 , l3 の 1 つでも 0 でなけれ ば,x, y を消去して,. l1 (fˆ1 − c1 ) + l2 (fˆ2 − c2 ) + l3 (fˆ3 − c3 ) = 0 (3) という平面が得られる.このとき区画は 2 次元 グラデーション領域を表わす. l1 , l2 , l3 がすべて 0 の場合は,直線あるいは 点になるが,a1 , a2 , a3 , b1 , b2 , b3 がすべて 0 なら ば,近似色は一点. fˆ1 = c1 , fˆ2 = c2 , fˆ3 = c3. (4). となり,区画は単色領域を表わす.それ以外 (ai , bi のうち 1 つでも 0 でない) ならば,近似 色は直線: 図 7: 適応的分割の結果. a2 b3 (fˆ1 − c1 ) = a3 b1 (fˆ2 − c2 ) = a1 b2 (fˆ3 − c3 ) (5). 4 −12−.
(5) で表わされる.このとき区画は 1 次元グラデー ション領域を表わす. 実際のプログラムでは,0 ではなく小さい値 ε (≥ 0) を用い,. l1 2 + l2 2 + l3 2 ≥ ε2 ならば面 (2 次元グラデー ション), それ以外で, a1 2 + a2 2 + a3 2 + b1 2 + b2 2 + b3 2 ≥ ε ならば線 (1 次元グラデーション), それ以外は点 (単色) として分類を行う.. 2 次元グラデーション領域 10.1%,1 次元グ ラデーション領域 9.4%,単色領域 80.5%から 構成されている 300 × 300 ピクセルのサンプル 画像 (図 8 左の画像) について,適応的分割を条 件を変えて行なった.画面は,グラデーション 領域の区画と境界を含む区画に分けられる.さ らにグラデーション領域について,ε を 0.05 と して,分類を行なった.その結果を表 1 に示す. 表 1: サンプル画像に含まれる グラデーションの分類. τ =3 9.11% 8.23% 82.66%. µ=5 τ =5 8.87% 8.07% 83.06%. τ = 10 8.39% 7.97% 83.64%. τ =3 9.52% 9.98% 80.50%. µ = 10 τ =5 9.38% 9.91% 80.71%. τ = 10 9.54% 9.92% 80.53%. 色分布の形状. (グラデーション). 面 (2 次元) 線 (1 次元) 点 (単色) 色分布の形状. (グラデーション). 面 (2 次元) 線 (1 次元) 点 (単色). (a) F. Marc : “風景の中の馬” (1910 年) 原画像の画面上部に,黄色から白に向かうグ ラデーションがある.代表色分布 (図 9b) から では,それを読みとることは困難であるが,図 9d のように背景部分のみを取り出すと,色の 変化の様子がよくわかる. 図 9e は馬の体とたてがみの部分をとりだし た画像と色分布である.馬の体の茶色とたてが みの青の直線的な色変化がわかる. 2 次元グラデーションを主に用いている作品 である (図 9f).. (b) P.Klee : “ポリフォニックにはめ込 まれた白” (1930 年) 図 10c から,赤の色相方向に立った形でいく つかの彩度の違うかぎ状の面が作られているこ とがわかる. 図 10d から,色空間上で鈎状となっている鮮 やかな赤の色は,画面上でも右と下の部分にか ぎ状に描かれている. 2 次元グラデーションを多く用いている作品 である.. 傾きの差 µ,細分を止める最小区画幅 τ を変 化させても,面,線,点の割合が安定している. 画像の構成要素の割合をとらえることに成功し ている.. 3. るための可視化プログラムを作成した. 境界を含む区画は描画せず,グラデーション 領域の区画のみ描画した. 色空間内の図形 (平面,直線,点) を平均色 (c1 , c2 , c3 ) で塗りつぶして色空間上に描画した. 前述の理論を,19 人の画家 252 点の作品に 適用し,画像の色変化の構造抽出を試みた. 以下では,代表色分布からでは読みとれない 構造が,グラデーション領域の色を色空間上で, 可視化することにより明らかになった例を示し, 考察を行なう.. 絵画画像に対する適用例 画像の空間的色変化に関する構造を実際に見. (c) Rembrandt : “ダビデ王の手紙を読む バテシバ” (1654 年) この作品は単色領域の多い (52.38%) 例であ る.図 11b の代表色分布では,背景である黒の 部分が 1 つの色にまとめられ,ている (51%を 占めている).画像のグラデーション分類によ る点の領域の割合とほぼ等しくなったことは興 味深い.. 5 −13−.
(6) L* 9. 10. 8. L*. 6. 9. v*. 3 1. 10. 7. 5. 4. 2. 8 7. 4 5. 0. 1. 6. 2 3. u*. (a) 原画像. 0. (b) 代表色分布 u*. (a) 原画像. (b) 代表色分布. (c) 適応的分割による近似画像と色分布 v*. L*. L*. u*. u*. (d) 背景部分とその色分布. (c) 適応的分割による近似画像と色分布. (e) 馬の体の部分とその色分布 2 次元 1 次元 単色. v*. (d) 鮮やかな赤の部分の色分布. 72.47%. 2 次元 1 次元 単色. 23.01% 4.53%. 57.19% 33.29% 9.51%. (初期分割数 20,µ = 5, τ = 5, ν = 0.05.) (f) グラデーションの割合. (初期分割数 20,µ = 5, τ = 5, ν = 0.05.) (e) グラデーションの割合. 図 9: F. Marc : “風景の中の馬” の画像に 対する適用例. 図 10: P.Klee : “ポリフォニックにはめ込 まれた白” の画像に対する適用例. 6 −11−. v*.
(7) 図 11d は,女性の体の部分を取り出した画像 とその色分布である.暗い茶色から明るい茶色 への変化をし,そこから黄色の方への色相の変 化という 2 次元的なグラデーションが見られる.. L* 10. 7. (d) 小野竹喬 : “暑き日を海にいれたり 最上川” (1976 年) 単色と 1 次元グラデーションが多く用いられ ている作品である. 太陽の中心のオレンジから周辺の薄いピンク へ,さらに空の紫や青へと色が変化していく様 子が見られる (図 12d).この変化は代表色抽出 の色分布 (図 12b) から読み取ることはできない.. 9 8. L*. 6 12. 3. 4. 5. 10. v*. 8 5 6. 9. 0 2. 7. v*. 3. 0. u*. (a) 原画像. 1. 4. u*. (b) 代表色分布. (a) 原画像. (b) 代表色分布. (c) 適応的分割による近似画像と色分布. (c) 適応的分割による近似画像と色分布. (d) 体部分とその色分布. (d) 太陽と空の部分の色分布. 2 次元 1 次元 単色. 2 次元 1 次元 単色. 26.79% 20.82% 52.38%. 21.08% 37.76% 41.16%. (初期分割数 20,µ = 5, τ = 5, ν = 0.05.) (e) グラデーションの割合. (初期分割数 20,µ = 10, τ = 10, ν = 0.05.) (e) グラデーションの割合 図 11: Rembrandt : “ダビデ王の手紙を読む バテシバ” の画像に対する適用例. 図 12: 小野竹喬 : “暑き日を海にいれたり最上 川” の画像に対する適用例. 7 −15−.
(8) (e) P. Gauguin : “マンゴーをもつ女” (1892 年) L* 10 9 7. 8. v* 21 3. 5. 4. 6. 0. u*. (a) 原画像. (b) 代表色分布. 1 次元グラデーションが多い例はまれであっ た.この作品以外では,R. Dufy の作品「自画 像」(43.87%) が挙げられる. 図 13d から,顔の部分の茶色は,明るさはあ まり変化せず,彩度の方向へ直線的に変化して いることがわかる. 1 次元グラデーションと 2 次元グラデーショ ンを多く用いている作品である.. 4. (c) 適応的分割による近似画像と色分布. L* u*. L*. v*. u*. v*. (d) 顔の部分の色分布 2 次元 1 次元 単色. 34.16% 40.27% 25.57%. (初期分割数 20,µ = 5, τ = 5, ν = 0.05.) (e) グラデーションの割合 図 13: P. Gauguin : “マンゴーをもつ女” の 画像に対する適用例. おわりに. 色彩画像におけるグラデーション領域を,数 量的に表わし抽出する手法を提案した. 可視化プログラムを作成し,実際に絵画作品 に適用して見たところ,従来の代表色抽出など の手法では捉えられなかった情報を得ることが できた. グラデーション領域を 3 種類に分類し,それ ぞれが含まれる割合について調べることにより, より詳細に色彩的特徴を見られるようになった. さらに,グラデーションに対応する色分布を, 少数の代表面・代表線・代表点で表わすことが できれば,より抽象化したシンプルな構造が得 られる.画像の分類などにこのような構造を利 用することにより,応用範囲を広げることがで きよう. 今回は,色のなめらかな変化すなわちグラ デーションに注目したが,色の急激な変化すな わちコントラストについても調査すること,ま た,分析において重要な可視化プログラムを充 実させることも,今後の課題である.. 参考文献 [1] 小林光夫,鈴木卓治:画像の数量的色彩分析シス テムの開発,人文科学とコンピュータシンポジ ウム (じんもんこん 1999) 論文集, IPSJ Symposium Series, Vol.99, No.13, pp.29-36(1999-9). [2] Tie Qi Chen,Yi Lu:Color image segmentation — an innovative approach,Pattern Recognition, 35,pp.395-405(2002). [3] 市村直幸:ロバストクラスタリングに基づいた特 徴空間と画像空間の併用による領域分割,電子 情報通信学会論文誌,Vol.J80-D-II No.7,pp.111(1997-7).. 8 −16−.
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