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高信頼性携帯電話基地局用GaN HEMTの開発

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Academic year: 2021

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情報通信

2. GaN HEMT 技術

2 − 1 材料物性 表 1 に無線通信用に使われる主要な

半導体材料の物性値を示す。GaN は Si や GaAs と比較して

2 倍以上の飽和電子速度(Vsat)と、Si の 10 倍、GaAs の 7.5

倍の絶縁破壊電界強度(Ec)を有する。高周波、高出力素

子の性能比較には飽和電子速度と絶縁破壊電界強度に対し

て、Vsat・Ec/2πを指標とする Johnson 性能指標が用いられ

るが、この Johnson 性能指標で比較すると、GaN は Si と 比較して 27 倍、GaAs と比較しても約 15 倍と圧倒的な優 位性を有している。

2 − 2 GaN HEMT 構造 熱伝導性に優れた半絶縁性

SiC 基板に GaN HEMT を形成することで、良好な放熱特 性を実現できる。また AlGaN/GaN ヘテロ接合と、GaN の

1. 緒  言

携帯電話などの無線通信システムは、W-CDMA※ 1に代 表される第 3 世代システム以降、音声通信だけでなくデー タ通信量も増加の一途をたどっている。近年は、さらに高 速大容量のデータ通信が可能な WiMAX*、LTE※ 2サービ スも開始され、加えてスマートフォンの普及もあり、通信 量は今後爆発的に増加すると予測される。このような状況 において、携帯電話基地局に使われる増幅素子にも、高速、 高出力かつ高効率特性が要求され、従来おもに使われてき

た Si-LDMOS※3、GaAs FET※4ではその要求性能を満たす

ことが難しくなってきている。 バンドギャップが大きく、高破壊電圧、高飽和電子速度 と言った優れた特性をもつ窒化ガリウム高電子移動度トラ ンジスタ GaN HEMT※5は高速、高出力増幅素子に適して おり、製品化され始めている。一方で、GaN HEMT の信 頼性に関する詳細な報告(1)は少ない。 当社は、世界で初めて携帯電話基地局用 GaN HEMT を 製品化(2)、(5)し、製品出荷数はこれまでに 100 万個を越えて いる。今後は携帯電話基地局用途に限らず、携帯電話基地 局間通信や衛星通信、レーダーなどといったアプリケー ションへの応用も検討されており(3)、ますます需要の伸び が期待されている。 本論文では、これまでに検証したさまざまな耐久性、信 頼性に注目して報告するとともに、GaN HEMT を使った ドハティーアンプ※6の特性も紹介する。

Development of High Reliability GaN HEMT for Cellular Base Stations─ by Fumikazu Yamaki, Hiroaki Deguchi, Norihiko Ui, Kaname Ebihara, Hitoshi Haematsu, Masahiro Nishi, Atsushi Nitta, Kazutaka Inoue and Seigo Sano─ In the 3rd generation mobile communication systems such as W-CDMA, data traffic by cellular phones and other

wireless tools has been steadily increasing. The data traffic is expected to further increase due to the wide spread

use of smartphones and the introduction of WiMAX and LTE services that offer high-speed, high-capacity data

transmission. A GaN (gallium nitride) HEMT (high electron mobility transistor) is suitable for the speed,

high-power application owing to its excellent material properties. Although the actual products have been released for the

cellular base station application, there are few reports studying the reliability of the GaN HEMT in detail. In this

paper, we demonstrate the ruggedness and reliability of the GaN HEMT in several tests and describe the

performance of the latest 500W class asymmetric Doherty amplifier with the GaN HEMT.

Keywords: GaN HEMT, base station, reliability, ruggedness, amplifier

高信頼性携帯電話基地局用

GaN HEMT の開発

八 巻 史 一

・出 口 博 昭・宇 井 範 彦

蛯 原   要・生 松   均・西   眞 弘

新 田   敦・井 上 和 孝・佐 野 征 吾

表 1 主要な半導体材料物性一覧

Si GaAs SiC GaN

バンドギャップ(eV) 1.1 1.4 3.2 3.4 飽和電子速度(×107cm/s) 1.0 1.3 2.0 2.7 絶縁破壊電界強度(MV/cm) 0.3 0.4 3.0 3.0 電子移動度(cm2/V・s) 1300 6000 600 1500 熱伝導率(W/cm・K) 1.5 0.5 4.9 1.5 Si を 1 としたときの Johnson 性能指標 1.0 1.7 20 27

(2)

結晶構造に由来した自発分極とピエゾ分極により、1 × 1013cm-2以上の高濃度の二次元電子ガスを発生でき、 GaAs を用いたデバイスと比較して 10 倍の高出力化も実現 可能である。ゲート長は携帯電話基地局用デバイスとして 十分な利得が得られる最適値に設定した。 さらに GaN HEMT の信頼性確保のための重要なポイン トがゲートリーク電流の制御である。これまでの技術開発 過程において、10-6A/mm オーダーにゲートリーク電流を 抑制することが必要と判断し、当社の GaN HEMT は素子 の最表面を適切にプロセス処理して、これを実現している。 次に電流-電圧特性を図 1 に、三端子耐圧特性を図 2 に 示す。最大飽和電流 Imax は 600mA/mm、三端子耐圧は 250V である。最大飽和電流と三端子耐圧はトレードオフ の関係にあり、これらの特性は Si や GaAs を材料にした他 の半導体素子では実現し得ない。GaN HEMT が高出力素 子として非常に優れていることを証明している。 3 − 1 安全動作領域の検証 一般的に信頼性を論ず る場合、平均故障時間 MTTF※7に代表される長期信頼性が 注目されるが、製品化においてはさまざまな動作環境にお ける負荷耐久性が重要である。 負荷耐久性を検証するにあたり、まず RF 動作時にデバ イスに印加される電圧を評価した。実際に動作中の印加電 圧を測定することは難しいため、シミュレーションにより 見積もった。このときの RF 動作は高効率アンプの回路方 式に用いられる逆 F 級動作※8を想定した。 周波数 2.1GHz、ドレイン電圧 50V、5dB 利得圧縮時出 力電力 P5dB でのドレイン電圧波形を図3 に示す。最大ドレ イン電圧は 160V と見積もられた。従ってデバイスの三端 子耐圧は少なくとも 160V 以上必要であるが、図2 で示した とおり GaN HEMT の三端子耐圧は 250V であり、RF 動作 時の最大ドレイン電圧に対して十分な耐圧を有している。

次に安全動作領域 ASO(Area of Safe Operation)に ついて述べる。半導体素子はその材料やプロセス技術に依 存して、印加できる電圧と温度が制限され、破壊せずに動 作できる領域を安全動作領域と呼ぶ。言い換えれば、安全 動作領域が広い素子ほど、高出力、高温動作に適した増幅 素子と言える。 図 4 に、一般的に無線通信用の高出力素子に要求される 保証温度である 200 ℃での GaN HEMT の安全動作領域 と、逆 F 級動作時のロードラインを示す。ロードラインは、 前述のドレイン電圧波形のシミュレーションと同様、ドレ イン電圧 50V、出力電力は P5dB を想定した。なおデバイ スの自己発熱によるチャネル温度の上昇を避けるため、 DC バイアスはパルス印加して安全動作領域を評価してい る。200 ℃という高温においても、逆 F 級動作時のロード ラインは安全動作領域内にあり、デバイスは破壊すること なく動作可能なことを証明する結果である。

3. 耐久性と信頼性

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 ド レ イ ン 電 流 (A /m m ) ドレイン電圧(V) Vgs = -3 to +2V 0.5V step 0.E+00 2.E-04 4.E-04 6.E-04 8.E-04 1.E-03 0 50 100 150 200 250 300 ド レ イ ン 電 流 (A /m m ) ドレイン電圧(V) Vgs = -7V 図 1 電流−電圧特性 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200

0.E+00 2.E-10 4.E-10 6.E-10 8.E-10 1.E-09

ド レ イ ン 電圧(V ) 時 間(秒) 図 3 逆 F 級動作での P5dB 出力時ドレイン電圧波形 図 2 三端子耐圧特性

(3)

3 −2 負荷変動および過入力信号に対する耐久性 ここ までは、GaN HEMT の特性を最大限に引き出すために最適 なインピーダンスに整合をとった状態で評価を行った。しか し実際に市場に出た場合は、予期しない状態に対する耐久性 も考慮しておく必要があるため、最悪負荷条件(高VSWR※9 を想定して、ロードプル※10測定系でVSWR10:1、RF 連続信 号、飽和動作条件で位相を変化させてデバイスを評価したが、 破壊、特性劣化は見られなかった。 さらに、通常は設計時に規定した電力以上の RF 信号が デバイスに入力されることはないが、市場においては予期 しない信号が過入力される可能性もある。そこで 13dB 利 得圧縮時出力電力 P13dB まで RF 信号を過入力してデバイ ス特性を評価した。図 5 に過入力試験での出力電力の変動 を示すが、デバイスの破壊や特性劣化は見らなかった。 これらの結果は、当社の GaN HEMT が市場における予 期しない負荷変動や信号の過入力においても十分な負荷変 動強度を有し、安定動作が可能なことを示している。 3 − 3 長期信頼性 最後に長期信頼性について述べ る。デバイスのチャネル温度を 250 ℃、275 ℃、300 ℃、 315 ℃の 4 条件に振って高温 DC 通電試験を行った。この 試験から活性化エネルギー Ea は 1.6eV と見積もられた。 図 6 にこの Ea を用いて MTTF を計算した結果を示す。デ バイスのチャネル温度が 200 ℃のときの MTTF は 1.07 × 106時間(約 122 年)と見積もられた。

実際に当社 GaN HEMT の市場故障率は 5Fit 以下と非常 に小さく、市場実績からも十分な負荷変動強度と長期信頼 性を有することが実証されている。

4. 2.6GHz 高出力 GaN HEMT デバイス

300W 級と 200W 級の GaN HEMT デバイスを組み合わ せた 500W 級の非対称ドハティーアンプを作製した。写真1 にドハティーアンプの写真を、図 7 と図 8 に入出力特性及 び効率特性を示す。2.6GHz 帯において飽和出力 57.3dBm (537W)、13.5dB の線形利得、50 %以上のドレイン効率 を達成した。 一方で、携帯電話などの無線通信システムでは高効率特 性を維持しつつ歪み特性を向上させる必要があり、そのた めに DPD(Digital Pre-Distortion)による歪み補償を行 うことが一般的である。図 9 に、市販されている DPD 装置 を用いた W-CDMA 信号入力時の歪み補償時の特性を示す。 飽 和 出 力 電 力 か ら 7dB バ ッ ク オ フ し た 平 均 出 力 電 力 50.3dBm(107W)において、歪み特性を示す隣接チャネ ル漏洩電力比 ACLR(Adjacent Channel Leakage Ratio) は 5MHz 離調時に-50.6dBc を達成し、そのときのドレイ ン効率は 48 %が得られた(4)。これらは今後さらに高周波、 高出力、低消費電力化することが予想される携帯電話基地 -1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 initial P5dB P7dB P9dB P11dB P13dB 出 力 電 力 の 変 動 量 ( dB ) 過入力した出力電力(dBm) 周波数2.1GHz ドレイン電圧50V 図 5 RF 過入力試験での出力電力の変動 1.E+03 1.E+04 1.E+05 1.E+06 1.E+07 1.E+08 1.E+09 1.E+10 120 140 160 180 200 220 240 260 平 均 故障時 間 ( 時間 ) デバイスのチャネル温度(℃) 図 6 高温 DC 通電試験から予測した平均故障時間 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0 50 100 150 200 250 ド レ イ ン 電流(A /m m ) ドレイン電圧(V) ASO line 図 4 P5dB 出力時ロードラインと 200 ℃での安全動作領域

(4)

局システムにおいて、当社の GaN HEMT の優位性を示す 特性である。

5. 結  言

携帯電話をはじめとする無線通信用のデバイスにはます ます高周波、高出力、低消費電力化が要求されており、 GaN HEMT はその材料物性からこれらのアプリケーショ ンに適したデバイスである。一方で製品化のためには、従 来以上に詳細な信頼性検証が必須になってきている。 本論文は、GaN HEMT の耐久性、信頼性に注目して報 告するとともに、2.6GHz 帯 500W 級非対称ドハティーア ンプを作製し、当社の GaN HEMT が十分なデバイス特性 を有していることを示した。今後も WiMAX、LTE をはじ めとする次世代携帯電話基地局システムに適した技術開 発、製品化を進めていく。 *WiMAX は、米国 WiMAX Forum の米国及びその他の国における商標ま たは登録商標です。 用 語 集ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※ 1 W-CDMA

Wideband Code Division Multiple Access :第 3 世代携 帯電話の通信方式の 1 つ。第 2 世代に比べて高品質な通話 と高速データ通信が特徴。

※ 2 LTE

Long Term Evolution :第 3 世代携帯電話の後継システム で第 3 世代と同一の周波数帯を利用して、より高速なデー タ伝送を特徴とする。 300W 300W 300W 200W 200W 200W 写真 1 500W 級非対称ドハティーアンプ 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 利 得 ( dB ) 出力電力 ( dB m ) 入力電力(dBm) 周波数2.655GHz ドレイン電圧50V 図 7 非対称ドハティーアンプの入出力特性 20 25 30 35 40 45 50 55 60 -14 -13 -12 -11 -10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 ド レ イ ン 効 率 ( % ) 飽和出力電力からのバックオフ量(dB) 2.62GHz 2.655GHz 2.69GHz 図 8 非対称ドハティーアンプのドレイン効率特性 0 10 20 30 40 50 60 70 80 -65 -60 -55 -50 -45 -40 -35 -30 -25 44 45 46 47 48 49 50 51 ド レ イ ン 効率 ( % ) 隣 接 チ ャ ネ ル 漏 洩 電 力 比 ( dB c) 平均出力電力(dBm) DPD-off ACLR(5MHz離調) DPD-on ACLR(5MHz離調) DPD-on Drain Effi. 図 9 非対称ドハティーアンプの DPD 補償時の特性

(5)

※ 3 Si-LDMOS

Si-Laterally Diffused Metal Oxide Semiconductor : Si 横方向拡散 MOS 型トランジスタの略で Si を使った半導体 デバイス。

※ 4 GaAs FET

Gallium Arsenide Field Effect Transistor :素材にガリ ウム砒素を用いている高周波増幅に適した電界効果型トラ ンジスタ。シリコンに比べ、電子が 5 倍近いスピードで移 動できることから、マイクロ波増幅用等に適している。

※ 5 HEMT

High Electron Mobility Transistor :高電子移動度トラ ンジスタ。半導体ヘテロ接合界面に二次元電子層を形成し たことを特徴とする。低雑音、高利得の特性を持っている。 ※ 6 ドハティーアンプ 増幅器の高効率化技術の 1 つ。2 つのデバイスを用い、出 力が小さい領域でも高効率が得られることが特徴。2 つの デバイスの出力が異なる場合は非対称ドハティーアンプと 呼ぶ。 ※ 7 MTTF

Mean Time to Failure :半導体素子が稼働開始してから 故障するまでの平均時間。 ※ 8 逆 F 級動作 増幅素子の動作方式の 1 つで、電圧振幅波形が半波正弦波、 電流振幅波形が方形波で、それぞれの振幅波形が重ならな いため増幅器の高効率化が図れる。 ※ 9 VSWR

Voltage Standing Wave Ratio :電圧定在波比のことで、 電圧定在波の極大、極小の比。負荷整合状態を示すパラ メータとして用いられる。 ※ 10 ロードプル 大信号特性の評価方法の 1 つ。チューナーと呼ばれる機械 式のインピーダンス可変装置を用いて、インピーダンス整 合条件を変えながらデバイス特性を評価できる。 参 考 文 献 (1) F. Yamaki, et al.,“Ruggedness and Reliability of GaN HEMT”, IEEE EuMIC Digest, pp. 328-331, Manchester, UK(October 2011) (2) 井上和孝 他、「携帯電話基地局用窒化ガリウム電力増幅器(GaN HEMT)の開発」、SEI テクニカルレビュー第 177 号、pp.97-102 (July 2010) (3) 水野慎也 他、「マイクロ波無線通信用 GaN HEMT の開発」、SEI テク ニカルレビュー第 180 号、pp.65-68(January 2012) (4) H. Deguchi, et al.,“A 2.6GHz Band 537W Peak Power GaN HEMT Asymmetric Doherty Amplifier with 48% Drain Efficiency at 7dB BO”, IEEE Int. Microwave Symposium Digest, pp. 1-3, Montreal, Canada(June 2012) (5) http://www.sedi.co.jp/products/wireless/index.html 執 筆 者---八巻 史一*:住友電工デバイス・イノベーション㈱ 電子デバイス事業部 マネージャー 出口 博昭 :住友電工デバイス・イノベーション㈱ 電子デバイス事業部 マネージャー 宇井 範彦 :住友電工デバイス・イノベーション㈱ 電子デバイス事業部 マネージャー 蛯原  要 :住友電工デバイス・イノベーション㈱ 電子デバイス事業部 課長 生松  均 :住友電工デバイス・イノベーション㈱ 電子デバイス事業部 マネージャー 西  眞弘 :住友電工デバイス・イノベーション㈱ 電子デバイス事業部 新田  敦 :住友電工デバイス・イノベーション㈱ 品質保証部 マネージャー 井上 和孝 :伝送デバイス研究所 グループ長 佐野 征吾 :住友電工デバイス・イノベーション㈱ 電子デバイス事業部 プロジェクトリーダー ---*主執筆者

図 3 逆 F 級動作での P5dB 出力時ドレイン電圧波形

参照

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