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韓国の移民現象に見る跨境的生活 : 国境を跨ぐ家族の実態 (<特集>跨境コミュニティにおけるアイデンティティの継続と再編) 利用統計を見る

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韓国の移民現象に見る跨境的生活 : 国境を跨ぐ家

族の実態 (<特集>跨境コミュニティにおけるアイデ

ンティティの継続と再編)

著者名(日)

井出 弘毅

雑誌名

白山人類学

15

ページ

73-93

発行年

2012-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00002422/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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研究ノート

韓国の移民現象に見る跨境的生活

       国境を跨ぐ家族の実態 井 出 弘  毅* South Korean Migrants and their Transnationa1 Way of Life:        ANote on“Transnational Family” IDE Kohki★ Abstract This research note aims to describe some general patterns of transnational way of life among the South Koreans in their own country and abroad. It also tries to show a case of“transnational family”in Geoje, an island off the southern coast of South Korea.    The emigration movements have become drastically extensive in South Korea in these ten years. According to the of6cial statistics, the migrants’destinations have also varied. Most of the South Korean emigrants migrated to Japan, China and America in the past. Meanwhile, the emigrants to America, Canada and Australia have noticeably increased in number recently. More and more emigrants now move to the above-mentioned countries in search of better educations or international adoption, On the other hand, the inflows of marriage migrants and foreign workers into South Korea have increased in number too.    This paper firstly reviews the definitions of the term of“transnational”in the precedent studies, Secondly, it shows general patterns of the immigration/e皿igration in South Korea based on the official statistics。 Thirdly it introduces a Christian missionary’s family in Ge()je island as a case of“transnational family”in South Korea. Here, the author tentatively tries to depict the transnational way of lives of the family members and the mutual socio・economic interaction among them. キーワード:巨済島,トランスナショナル,アイデンティティ,移民,国際結婚 Keywords:Geoje Island, transnational, identity, migration, international marriage * 東洋大学アジア文化研究所客員研究員;Visiting scholar, Asian Cultures Research Institute, Toyo University, Hakusan 5-28-20, Bunkyo, T()kyo,112・8606/e-mail:kowkide@br4.fiberbit.net

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白山人類学 15号 2012年3月

1 は じめに

 本稿では,トランスナショナルな動きを見せる韓国の現状の一端についてとり上げる。まず 韓国におけるトランスナショナルな現象について先行研究や統計等からその概略を示す。次に キリスト教会の牧師家族の「トランスナショナル・ファミリー」とも言えるような移住・移民・ 移動する生活実態について紹介する。そして現代韓国における国境を越えて行く,だけではな く国境を跨ぐ動きについて考察する1)。  まずトランスナショナルという用語にっいてであるが,本稿ではこの用語を「跨境的」とい う意味において用いることとする。ただしトランスナショナルという用語に関わる以上,ある 程度の定義づけが必要だと思われる。基本的には,国民国家の枠組みである国境を越える現象 を説明する際によく用いられる用語であるが,いくつかの先行研究から整理してみよう。  例えばトランスナショナルという言葉については,「トランスナショナル(国境横断的)」[吉 川2003:4]や,「トランスナショナリズム(脱国家主義)」,「トランスナショナル関係論(脱国 家関係論)」[吉川2003:6]とカッコ内に日本語訳を入れて示されている。ここでは,国境を横 断する(越えて向こうに行く)という意味と,国家を脱するという意味の2つが指摘できる。 さらに「トランスナショナル関係論」とは,「国家と非国家的行為主体との間での,あるいは非 国家的行為主体相互での,国境横断的な恒常的相互作用」[吉川2003:6]を意味するとしてい る。ここで言う「非国家的行為主体」の中身に関しては,グローバリゼーションと対比させた 次の記述がより具体的に表していると思われる。  「トランスナショナルな生活世界は,政治・経済・社会のグローバリゼーションによって, 生み出された」[杉浦2009:9]ものである。「グローバリゼーションは,企業を始めとする経済 機構,国連等の政治機構,スポーツ・宗教等の各種国際団体のワールドワイドな展開によって 生じる現象」であり「社会の中心的で支配的な諸機構・諸組織・諸機関が主体となって生み出 した現実である」[杉浦2009:10]。これに対して「トランスナショナルな現実は,人々の労働 や生活の営みが生み出す現象である。しかも,多くの場合,エリートとは異なる,『普通の』人々 がその中心となる」としている[杉浦2009:10]。つまりグローバリゼーションは企業などの団 体がその主体であり,トランスナショナルな生活世界は人々が主体であるとの指摘である。  また似た用語と比較することにより,その意味を確定しようとするものもある。「国際化」と 「グローバル化」との比較である。どれも「国境を越えた関係を表す言葉であり,いずれも国家 の空間的枠組みの変化を示すもの」[吉川2008:350]である。その中で「トランスナショナル 1) 本稿は白山人類学研究会第5回研究フォーラム「跨境コミュニティにおけるアイデンティティの持続   と再編一束アジアと東南アジアからの展望」の「セッション1 東アジアの跨境コミュニティー国際  化とアイデンティティの動態」における報告内容を元に大幅に加筆修正したものである。

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化」が「空間的枠組みと同時に相関関係の枠組みを含むものとして用いられた」[吉川2008:350] のに対し,「国際化」は「相関関係を通じて生起するようになる変化を含意して用いられるよう になった」[吉川2008:350-351]としている。そして「グローバル化」は「空間的広がりを単 に表すよりも,むしろ広がりを通じて国民国家システムに変化をもたらすこと,特に世界の一 体化を含む概念として用いられるように」なったという[吉川2008:351]。  また「transnational mother:mothering from a Distance」,「transnational parenting」を それぞれ「トランスナショナル・マザー」,「トランスナショナル親業」と訳し「母子,あるい は親子が国を隔てて,関係を保っている,保とうとしている実態」を表すとしている[松本2011: 146]。この点は重要である。なぜなら国境を越えている場合,なかなか帰国できない,すなわ ち会うことができないという生活実態が考えられるが,それで関係性が切れているとみなすの はいささか早計である。目に見える行き来がないからということだけでは,関係性がないと断 定することはできない。そして「transnational families(トランスナショナル家族)」につい ては,「①家族員みな同居しているけれど,それぞれ国籍が違ったり,重国籍者がいたりという 国籍複数状況,②国際結婚で配偶者が帰化して,国籍は同じだが,文化的同化が進行中,ある いは葛藤があったりという場合,等々」様々なバリエーションがあると指摘している[松本2011: 146]。これについては後述する事例とも深く関わりがあるが,これら2つに加え3つ目のパタ ーンとして,本稿で取り上げる複数の国に跨って生活する家族という姿も想定できるだろう。  またこのtransnationalについては,「20世紀からの語で,当初は政治・経済・宗教などの国 境を越えた拡張,拡張主義に対して用いられていたのが,近年はグローバル化の状況の中での 個人や家族の生活展開における動き(国境を跨いだ生活)に対して用いられるように変わって 来ている」[松本2011:145]との指摘もある2)。ちなみに筆者が参加している東洋大学アジァ 文化研究所の研究所プロジェクト「アジア境域における跨境的生活様式の研究一束アジア・ 東南アジアの比較」のタイトルにもある通り,トランスナショナルというカタカナ英語をでき るだけ日本語化したものとして「跨境的」という用語を使用している。この「跨境」という単 語は,中国において「跨境貿易」(国境貿易)という使用が以前からされており,今後用法の調 査と意味内容の確定に努めたいと考える。  以上を踏まえ本稿では以下,トランスナショナルという用語を,国境を越えて向こう側に行 くということだけではなく,複数の国に跨っているという意味において用いることとする。 2)この論考では,OED(Oxford English Dictionary)や販売中の洋図書名から拾った語句の例が紹介さ  れている。        75

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白山人類学15号2012年3月

II先行研究の検討

 韓国の移民に関する先行研究を概観すると,以前は出移民(emigration)としての在外コリ アン研究から,ここ最近では入移民(immigration)としての韓国内の結婚移住者や外国人労 働者の研究へとその関心がシフトしてきていると思われる。  在外韓人研究については,「1960年代から始まったが1990年代に入って本格的に活性化した。 1960~1970年代には在日韓人に関する研究が主流をなし,1980年代には在米韓人に関する研 究が活発になり,1990年代からは朝鮮族に対する研究が幅広く進行された。」[暑(ユン)2010: 327]とあり3),時期による研究動向の変化がうかがえる。  しかしながら,出移民に関する研究内容については,次に示す通り韓国政府の移民政策に関 係したものがほとんどである。すなわち「韓国の移民政策の必要性をその国力増大のために論 じたものがほとんど」[原尻1993:101]であり,「丹念な資料の蓄積に裏打ちされた基礎研究 の不在と,移民による経済的,政治的利益の増大の可能性を韓国の国益から論じることが一般 的1生格」[原尻1993:101]であるとの指摘である。これに関連して原尻は「政策を下から支え る韓国の『民衆感情』についての分析も必要」[原尻1993:101]との認識を示した。なぜ海外 移民するのかということについて,人々を移民へと駆り立てる要因が存在するはずだとの指摘 である。  確かに個別的には在米コリアン,在日コリアン,中国朝鮮族などの在外コリアンに関する研 究は数多くあるが,ホスト社会における移民の不適応などの民族問題としてとらえられたもの がほとんどである。  移民という現象を見ていく上で,ホスト社会のプル要因だけではなく,韓国内のプッシュ要 因の双方に目を配る必要があるだろう。例えば「住み慣れた国を離れ,異国の地へと移り住ん だ人々に注目することによって,むしろ当時の韓国の文化,制度を見て取ることが出来る。な ぜならば,彼らが祖国を後にしなければならなかったということそれ自体が,当時の韓国が文 化的・制度的に大きなひずみを抱えていたということの証明であるからである」[野口2005: 237]との指摘は重要である。またより詳細に,「北の脅威,政局の不安定,暴騰する不動産価 格,急増する犯罪,環境汚染,劣悪な公的教育,高い私的教育費負担,50代で使い捨てにされ る雇用の現状など」[池2003:27]韓国内の社会問題を移民の理由とする視点も重要である。  さらに,いわゆる「キロギアッパ」という言葉に示される母子の海外留学も上げることがで きよう。この「キロギ」とは雁のことで,「韓国では昔から家族愛や父性愛の象徴とされている」 [李2007:218]。「アッパ」とはお父さんのことで,これらを合わせると雁のお父さんという 3) 韓国語から訳出。

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意味になる。これは最近の韓国における英語教育重視による動きで,母親と共に子どもが幼い うちからアメリカやカナダなど英語圏に留学し,それを父親が韓国本国で働いて経済的に支え るというものである。この「キロギ家族は『外貨の浪費』および『家族の崩壊』の恐れをはら んでいることから深刻な社会問題と見なされ」[李2007:218]ており,特に本国に残された父 親の孤独がクローズアップされることが多い。この現象の背景としては,IMF危機以後の「英 語資本論」という言葉に示される英語力への憧れや,情報化により支えられる別居家族間のコ ミュニケーションツールの充実,「家族間の衝突や葛藤を回避する方法として機能」することな どがあげられている[李2007:224-227]。  また移民ではないが,出国する動きとして国際養子があげられる。韓国は1999年から2008 年までの10年間で合計15,967人の児童をアメリカに養子として送り出している。2010年は 863人で,これは世界で第4位である4)。  他方,入移民についても基本的には政策に関する研究が多く,結婚移住者及びその子らの韓 国社会への同化のための政策に資するもの,または逆に移民のオリジナルな文化を重要視して 文化的多様性を維持できるのか,といった関心が強い。特に移民を支援する施設等を中心に調 査した報告集には,資料として施設の担当者へのインタビューのやり取りも含まれており,実 務の中における様々な内実や葛藤についてうかがい知ることができる[新矢ほか2010a;2010b; 2011a;2011b]。  この他に中国の朝鮮族を中心とする外国人労働者の流入も大きな存在である。  また北朝鮮からのいわゆる脱北者も入移民の1っの姿である。「韓国では北朝鮮からの難民の ことを「北韓離脱住民」(略称:脱北者)と呼んでいるが,そうした脱北者たちに対して「新た な土地で暮らす人」という意味を持たせた「セトミン」(「セ」は新しい,「ト」は土地,「ミン」 は民を意味する)という呼称が用いられている」[朝倉ほか2010:15]とある。  そして最近見られる現象として詳細は後述するが,一度海外に移民した在外コリアンが韓国 に戻ってくるといういわゆる還流が徐々に増えている。  韓国における在外コリアン研究に特化した在外韓人学会の学会誌『在外韓人研究』に掲載さ れている論文を見ても,在米コリアン,在日コリアン,中国朝鮮族,高麗人(カレースキ)な ど個別の在外コリアンに関する研究がほとんどを占めており,直接的に家族の海外展開という 視点から取り組まれたものにっいては現在のところ見つけることができていない。  以上,韓国の移民に関する研究を概観したが,それぞれのホスト社会における移民の流入と 定着等についての研究は数多くあるが,家族を1つのユニットとして扱い,成員の海外への展 開,成員相互の関係,変容について取り組んだ研究は未だ少ないのが現状である。 4) サーチナニュース2011年2月3日。

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白[」」人類学 15号 2012年3,月

III韓国におけるトランスナショナルな現象の概要

 ここでは基礎資料として,韓国のトランスナショナルな現象について統計資料等から窺える ことを整理する。  現在韓国には多くの移民を海外に送り出すという外向きの現象(出移民と出国者)と,多く の外国人を内部に取り込むという内向きの現象(入移民)が認められる。 1外向きの現象(出移民と出国者)  まず外向きの現象について,出移民の状況を見てみよう。図1を見ると,時代による移民先 のトレンドの変遷を辿ることができる。全体としては出移民は,1976年をピークに,1986年 に一度増加したが,その後ずっと減少してきている。移民先としてはアメリカが圧倒的に多い。 もちろんアメリカ以外への移民も数は少ないが見られる。1970~80年代中頃にはヨーロッパへ, 1980年代にはオーストラリアへ,1970年代(1976年にはアメリカ以外では最大の46,533人) 及び80年代後半には南米へ,1990年代中盤にはニュージーランドへ,1990年代終わり頃から はカナダへと移民先にも変遷が見られる。しかしここ最近は海外移民が急減し,年間1,000人 を下回るようになった。 50000 45000 40000 35000 30000 25000 20000 15000 10000 5000  0 ロアメリカ ■カナダ ロオーストラリア 国ニュージーランド Dラテンアメリカ oヨーロツパ Vアジ7などその他 ξξき書きξ曇ξE;き昔‥き茎曇已ききき曇書曇曇曇き菖きき昔墾曇§§§§蕪§§§§§       図1 【外向き】海外移民の変遷 その1 出典:司五暑甘早「司到。1手暑刈司司。12FN]ヱス国青」(外交通商部「海外移住統計 海外移   住申告者現況」)(1962-2010)を元に筆者が作成  2000年代の初めまでは年間1万人以上であったが,一転2003年から昨年までの10年足ら ずの間に90%も急激に減少した。  次に海外移民の統計について,先程の外交通商部の把握した海外移住申告者に加え,在外公 館が把握した現地移住申告者を合わせた人数について見てみよう。図2は海外移住目的で出国

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前に外交通商部に申告した人数と,外国居住中に現地で永住権(または,長期滞留証)を取得 して現地の在外公館に海外移住を申告した人数とを合計したものである。  これを見ても,移民先としてはアメリカが圧倒的に多いことが分かる。2005年をピークに概 ね減少傾向にある。アメリカに次いでカナダへの移民が多いが,ここ数年首都ソウルや釜山の 大きな書店に並ぶ本のタイトルを見ても,カナダの文字が圧倒的に多いことからもそれが裏付 けられている。この行き先については「カナダ希望者が多いのは,アメリカ移住には厳しい条 件など制約が多いからで,カナダに行っても,究極の行き先はアメリカだ」[池2003:28]とあ るように,韓国から外国に出て,さらにそこから他の国に移住するという移民の現象もある。 35,000 30、000 25000 20000 15,000 10000 5,000 0 9その他 ,ラテンアメリカ ロニュージーランド 臼オーストラリア ■カナダ ロァメリカ 2002     2003     2004     2005     2006     2007     2008     2009     2010          図2 【外向き】海外移民の変遷 その2 出典:到立号甘早「胡司01手号剤司到01子ス十書月1」(外交通商部「海外移住統計 海外移住   者総計」)(2002・2010)を元に筆者が作成 i4000000 12.000.000 lO.eoe.000 8000.000 6.000,000 4000000 2.000000     0

     ξ£;き巽き鑓鑓甦鑓き匡§饗きき雑き蕪§蕪雛§§§§

       図3 【外向き】出国者数の推移 出典:酎号已晋晋斗「司可剋書可望呈曽号対L(韓国観光公社 「内国人出国年度別統計」)    (1975・2010)を元に筆者が作成

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白山人類学 15号 2012年3刀  また出移民ではないが,その他の外向きの動きとして,出国者数について見てみよう。なぜ ならば先述の通り,出国者が出先において出移民に変わる場合が見られるからである。図3を 見ると,1989年の海外旅行自由化が大きな転機となっている。これは日本の場合も同様であっ たが,1988年のソウルオリンピックを契機に海外旅行の完全自由化が行なわれ,概ね年々増加 傾向にあることが分かる。 2内向きの現象(入移民としての在韓外国人と結婚移住者)  では反対に韓国への入移民について見てみよう。まず在韓外国人の増加があげられる。図4 を見ると,在韓外国人が90年代以降急増しているのが分かる。外国人住民は現在1,265,006人 であり,これは全住民登録人口の約2.5%を占めている5)。日本の場合は2,134,151人で全人口 に占める割合は約1.7%であり6),日本と比べ韓国は短い期間に外国人が急増しており,全人口 に対する割合の点では既に日本を追い抜いている。  次に入移民としての外国人との国際結婚について見てみたい。これらの人々について韓国で は「結婚移住者」という用語が使われている。図5は国際結婚のパターン別の内訳である。一 番上が「韓国女性+外国男性」であり,二番目が「韓国男性+外国女性」,一番下が「韓国男性 +韓国女性」である。 140.OOO 1)0330 ・ ,100003 ・ s3.ooo ’ 603DO ’ 402:0 + 203SD     。 ■  ■      lgsoEla前   1980年it    1990年t¶   2000~2004    ZDO5       2DO6       ?OOプ       100S       2009       1DIO        図4 【内向き】在韓外国人数の推移 出典:暑力閣「勺,琶ス‖号司喫留号咀丘曽司号剋一入1E1(統計庁「性,現在国籍及び入国年   度別外国人」)」を元に筆者が作成

1.1

5) 祖る牡忍早「司号剋子剋126尺}5勾噌,〒剋号号剋干912.5%」 (行政安全部「外国人住民126万5千   名,住民登録人口の2.5%」)。 6) 法務省入国管理局「平成22年末現在における外国人登録者統計について」。 80

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韓国女性+ 外国男性 韓国男性+ 外国女性 韓国男性+ 韓国女性       図5 【内向き】国際結婚件数のパターン別割合 出典:「社刈吾匂ql川斜可匂叫司菩剋司音(全体婚姻対比 外国人との婚姻比率)」 r2mu.)uu E l2D㎜ 1i KX) 1{〕㎜ 503D o 2000200ユ 2CC‘22003 20〔}42005 200620072008200S ZD10 中中国女性 十ぺ、ナム女性 +フィ)ピン女性 _日本女性 _カンポディラ女性 +タイ女件 一アメリカ女性 __モンコルy性  その他女性   図6 【内向き】国際結婚件数 その1(韓国男性+外国女性) 出典 暑剤ヨ「号刈召喜竜喜}」(統計庁「国際結婚現況」)を元に筆者が作成  韓国における国際結婚は,2005年をピークに増加したが,その後は一度減少しある程度の割 合を維持してきている。ピーク時には実に7組に1組が国際結婚であり,現在は概ね10組に1 組で推移している。これに対して日本の場合は23組に1組であり,先に見た在韓外国人の増加 と同じく,日本と比べて短い期間に急増していることが分かる。

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白LL|人類学 15号 2012年3月  こうした国際結婚の中でも特に韓国人と日本人の結婚ということについて着目してみると, 統一教会によるいわゆる合同結婚の影響も考えられる。しかしながら教団のオフィシャルウェ ブサイトに掲載されている数字と統計の数字を照らし合わせても食い違いが多く,統計の数字 はあくまでも法律婚に限定されていることから,現実の一部分を反映した数字であるというこ とが指摘できるのみである。ただこうした統計からは,ある程度の傾向性を辿ることができる ため,現象を傭‖敢するためには有効であると考える。  さらにより詳細な内容について見てみよう。図6と図7は,それぞれ韓国人の男性と女性が どこの外国人と結婚したのか国籍別に分けたものである。図6を見ると,韓国人男性の結婚相 手として,中国人女性とベトナム人女性が群を抜いて多いことが分かる。ただしこの中国人女 性の中にどのくらいの中国の朝鮮族が含まれているのかについては資料がないため判別できな いが,韓国人と近い言語・文化を有する者との結婚が望まれることからは,その割合はかなり 大きいのではないかと推測できる。他方,ベトナム人女性については,その多くがいわゆる農 村部への外国人花嫁の流入としてとらえることができる。日本でもかつて農村部の嫁不足から, 農村の独身男性への外国人花嫁の斡旋が多く行なわれ,問題も多かったことがあったが,韓国 では現在こうした現象がかなり広範かつ多く見られる。  図7では逆に韓国人女性の国際結婚についてである。2005年に中国人男性との結婚が急増し てその後急減しているが,この理由については現在のところ不明である。次いで日本人男性, アメリカ人男性が多い。 一◆●日本男性 +中国男性 一叡一アメリカ男性 一.・一カナダ男性 ・…一オーストラリア男司 +ee国男性 dy 1:イツ男性 _パキスタン男性 一tサの他男性  図7 【内向き】国際結婚件数 その2(韓国女性+外国男性) 出典:暑却禎「可刈召菩竜暑」(統計庁「国際結婚現況」)を元に筆者が作成 82

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 こうした国際結婚の家庭のことを韓国では「多文化家族」または「多文化家庭」と呼び,行 政も様々なサポートを用意しているが,まだまだ多くの問題を抱えている。それは韓国社会が 日本と同様,非常に強い「単一民族」的特徴を持つことに起因する,外国人嫁や生まれた子ど も達へのまなざしなどである。いずれにせよ韓国国民の中身が大きく急速に変容してきている 現状がある。  最後に,先述した出移民の減少と同じ期間に海外から永住帰国した在外韓国人の数を見ると, 03年の2,962人から4,199人に41.7°/・増加している7)。いわゆる還流現象が見られる。  ここから言えることは,「脱韓国」を図る国民の急減と,海外移住者の還流の増加である。か つて活発に行なわれた海外への移民が減少し,逆に一度出た者が帰ってきている。これについ ては,「韓国の経済力と国としての力が向上したなか,世界経済危機などによる経済状況の悪化 を受け,韓国と先進国間の格差が相当部分解消されてきたため」と分析されている8)。 3在外コリアンに対する韓国本国からのインパクト  具体的な事例に入る前にもう1つ,韓国本国からのインパクトについても見ておきたい。最 近韓国においては,戸主制の廃止などそれまで変わるはずがないと思われていたことが大きく 変わり始めている。それは国内のみにとどまらず,在外コリアンに対しても変化を及ぼすこと になってきている。  まず第1に最近始まった在外韓国人(韓国籍者)への在外投票権の付与であるが,これは登 録制であるため本国により把握されることを意味する。つまり在外韓国人としてメンバーシッ プを持つこととなる。在日韓国人の中でも現在までに若干名が登録しているようであるが,こ れにより本国の政治への意思表示ができるということになり,外国で暮らす韓国人にとっては, これまでには考えられなかった政治的権利の付与となる。特に在日韓国人の場合,こうしたメ ンバーシップは本国への帰属意識の一部ともなりえるものである。類推すると,在日1世など 本国との結びっきを他世代よりも重要視する傾向にある世代が多く登録するのではないかと思 われるが,若い世代でも民族団体に積極的に所属するような者は登録するだろう。  第2に二重国籍の容認があげられる。これは韓国人の国外流出を阻止するために「限定的」 に,多重国籍を認めて韓国離れを食い止める意図のあるものだと思われる。これまで移民等に よって流出していった人材を繋ぎとめるものだと理解することもできよう。対象は主としてス ポーツ選手,学者などが想定される。日本の場合には,国籍の出生地主義を採用する国々にお ける出生による二重国籍状態については,22歳までにいずれかを選択するなど事実上ある程度 許容されている。これに対して韓国の場合には,韓国内で外国籍を行使しない誓約をすれば多 7)聯合ニュース「韓国国民の海外移民が急減,年間1千人下回る」。 8)聯合ニュース「韓国国民の海外移民が急減,年間1千人下回る」。 83

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白山人類学 15号 2012年3月 重国籍が容認されている。先にも述べた通り,「単一民族」的な特徴の極めて強く,国籍を民族 と同一視する傾向の強い両国ではあるが,重国籍を容認するというのは限定的ではあれ非常に 意外なことであると思われる。  第3に韓国の南海岸に在日韓国人のための「日本集落」の建設推進が言われ始めてきた。既 に日本のいくつかの都市において説明会も行なわれ,若干名ではあるが移住希望者も出てきて いる。つまり終の棲家として本国の景観の良い田舎で過ごしたいというニーズに応えるもので ある。  これら本国からの在外韓国人に対するインパクトは果たしてどのくらい影響力を持つのであ ろうか。在外であるが故に,そのアイデンティティに与える影響は少なくはないと思われる。 IV 「トランスナショナル・ファミリー」  第III章ではマクロ的に統計資料等に基づいて韓国におけるトランスナショナルな現象につ いて見てきたが,ここでは具体的な事例を紹介する。トランスナショナルな展開を見せるある 家族の姿である。          図8 Google Mapより転載。 巨済島の位置  最初に事例の背景について若干の説明をしておきたい。今回紹介する事例のキーパーソンは, 韓国南東部の慶尚南道の島である巨済島にあるキリスト教会の牧師である。巨済島は韓国の島 の中で最大の済州島に次ぐ第2位の面積を持つ島である。図8の地図を見ると一目瞭然である が,巨済島は北九州から対馬を挟んでちょうど反対側に位置する島である。地理的には巨済島 は韓国の中でも最も日本に近く,対馬から直線距離で49.5Kmである。条件が良ければ対馬か 84

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ら釜山の街並みや巨済島の島影を見ることができる。逆に巨済島からも条件が良ければ対馬が 見えるという。その近さゆえに日本との歴史的な関係も深く,古くは元冠,また文禄・慶長の 役(韓国では壬辰倭乱(イムジン・ウェラン)と言う)の際に日本の水軍に勝利した「玉浦(オ ッポ)大勝」を記念する公園もある。日本による植民地時代には島内に日本人村がいくつか作 られており,代表的なものは長承浦(チャンスンポ)にあった入佐村(いりさむら)である。 島内経済の面では,三星と大宇の2大造船所により島内景気は良好で,島民の4人に1人がい ずれかの造船所関連の仕事に就いている。島内で聴いた話では,本十よりも景気が良いため, 物価が高いという。  巨済島の中心街から少し離れた山のふもとに 写真1の巨済J教会がある。周囲は住宅がいく つかある程度で,田畑も多くのどかな田舎の風 景が広がる。巨済J教会は長老派(プロテスタ ント)のキリスト教会である。表1は巨済J教 会の沿革である。特に現在の担任牧師である KHG牧師が1990年に赴任してからは,教会創 立100周年を迎え,その記念として南インドに 教会を建設するなど海外布教を積極的に進めて いる。 写真1 巨済J教会 表1 巨済J教会の沿革 1910.3 HDW氏の行廊房でHDW氏と8,9名の青年が創立礼拝(英国人宣教師A(SAR)参席) 1920. 家屋3つを購入,敷地120坪を確保 1920. 1920年からオーストラリア人宣教師OTS, MD, RYI氏らが統営,固城,巨済を1区として n山老会に所属 1935. KID牧師 復興会と献金で床面積24坪の礼拝堂を建築 1960. KTY氏の70万ウォン献金で礼拝堂38坪に拡張 1971.01. 教会創立60周年記念教会新築期成会を組織 1974.06, 敷地3筆地119坪を買い取り (総敷地340坪) 1975.OL28 S復興会と建築献金270万ウォン(HCI勧士全財産金カンザシなど)貴金属を貢献 1975.05. 礼拝堂敷地中300坪を慶南老会維持財団編人 1990.03.15 80周年記念礼拝(地域指導者招待昼食祈祷会) 1990.09.11 KHG牧師赴任 1994.04.Ol 伝道師館及び教会スペースの敷地を購入 1995.03.15 分教会敷設第一宣教院を設立,開院 2010.3 創立100周年記念礼拝 2010.11 南インドK教区に教会建築 出典:印琶叫午ヱ看呈司る甘土司『る廿土司91CEI入ト』(大韓イエス教老会慶南老会『慶南老会の歴史』)370    ページから抜粋。人名のうち韓国名は姓名を複数の英字にて表現した。

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白山人類学 15号2012年3月  韓国の長老派キリスト教会は,現在世界169力国に約22,014人の活動家を派遣するなどかな り積極的な海外布教を行なっている9)。これは世界一のアメリカに次ぐ規模である。韓国の教会 が海外布教に強い関心を持っている理由としては,いくつかあげられる。まず教会側からの説 明である。「韓国人は海外から来た宣教師たちの伝えた福音によって救いが与えられた為に,こ れに報答する意味で宣教を熱心に遂行すべきだと思って」いることと,「聖書が全世界にイエス の救いの福音を伝えるよう命じて」おり,それを「神の絶対的命令と信じている」からである という。その結果,「韓国の教会が21世紀において世界宣教運動ならびにエキュメニカル運動 の中心的な役割をなすべき使命を神から与えられた,と信じるヴィジョン」を韓国の教会の指 導者達がもったという[李2002:163]。これはあくまでも教会側からの理由付けであるが,教 会側自身がこうしたヴィジョンを持つということからは,これ自体明らかに1つの動因である と思われる。しかしながら韓国のプロテスタント教会の海外布教が積極的に行なわれているこ との理由としては,牧師の大量養成による牧師の余剰という海外布教へのプッシュ要因が指摘 されていることも事実である。っまり国内への宣教拡大が困難になったため,海外へと宣教の 方向を変えたという点である。さらに言えば,キリスト教会自体の内包する国際性,言い換え ると普遍的な宗教であるという点からも,こうしたトランスナショナルな動きについて説明す ることもできよう。  ところで海外の派遣先には危険なまたは紛争国である40力国も含まれる。こうした中で強硬 的な布教による事件もいくつかあった。2007年にはアフガニスタンにおいてタリバンによって 韓国人宣教団23人が拉致され,うち2人が殺害された。タリバンは仲間の釈放と身代金の支払 いを要求したが,韓国政府が直接交渉した結果,残りの21名が解放されたという事件があった。 今回対象とする巨済J教会はこうした強硬派ではない。もちろん派遣先が中東ではなく南イン ドということもあって,むしろ現地の状況とうまく折り合いをつけながら布教を進めている様 子が見てとれる。セレモニーの際にKHG牧師が現地の教会(恐らく英国の聖公会の流れを汲 むもの)のビショップの衣装を自ら身に纏うなど,現地のしきたりに合わせた柔軟な姿勢を示 している。  このKHG牧師に家族についての聴き取り調査をしたところ,あたかも「トランスナショナ ル・ファミリー」とも言えるような実態を知ることができた。これについてまとめたものが図 9である。  まずKHG牧師自身もアメリカ留学経験を持ち,先述した通り現在は海外布教のため外国に 行く機会が多い。 9) 「世界第2位の「宣教大国」韓国:イスラム圏で頻繁に摩擦」  年2月15日]から。 [朝鮮日報日本語版webサイト2011 86

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一一

s-一一T-一一T

△韓国人

一    韓国在住

O姉2

ムァメリカ人

一    アメリカ在住

○姉1

▲在日韓国人

一    日本在住

○姉3

韓 韓国人 アメリカ留 験

0マレ

シア帰り

O韓国人

オーストラリア在住 ムケニア留学帰り 図9 「トランスナショナル・ファミリー」  出典:聞き取りに基づいて筆者作成  牧師の姉1はアメリカ在住である。就職と良い生活を送るためにアメリカに渡った。彼女は まだ韓国において海外旅行が自由ではない時にアメリカに行ったため,当時かなり苦労した。 彼女は世界銀行の試験を受けて合格し入社した。彼女の夫はアメリカ人ではあるが,東洋的思 考を持った方で家庭生活も円満であった。夫は今は引退したが以前は国家公務員として仕事を していた。彼女は1970年代の移民である。先述の図1で見ると,1970年代に入ってからピー クの1976年にかけてちょうど大きく増加している時期にあたる。これにより圧倒的にアメリ カへの移民が多くなる。図7では2000年以降の妻が韓国人,夫が外国人の国際結婚について 示してあることから,このケースは範囲外である。  牧師の二番目の姉2と兄は共に韓国在住である。巨済島ではなく,韓国の本土に住んでいる。  牧師の三番目の姉3は在日韓国人と結婚して日本の下関に在住である。彼女は平凡な主婦で, 下関に居住してからもう約30年くらいになる。夫とは死別している。このケースの場合は上記 姉1の場合とは違い国際結婚ではない。結婚相手は在日ではあるが同国人である。80年代以降 多くなったニューカマーの韓国人と在日との結婚である。  牧師の弟は現在オー一・ストラリア在住で,大学院の博士課程に在籍し博士論文を執筆中である。 2011年は調査のため,韓国に一時的に戻っていた。調査は主にソウルと釜山において行なった ため,兄である牧師には何回か電話はしたが,訪問はしなかったという。彼は数ヶ国語を自由 に操り,以前日本に住んでいたこともあるため,日本語もかなり堪能である。交際中の外国人 女性がオーストラリアで仕事をしていたため,彼自身も韓国における公務員の立場を辞してオ 87

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白山人類学 15号 2012年3月 一ストラリアへと渡った。彼のこうした海外における活躍は,次に述べる牧師の子どもたちに も影響を与えているが,彼自身は姪と甥にっいては,自分のような学問的な志向性を持ってい ないと嘆いていた。  牧師には娘と息子の2人の子どもがいる。息子は大学生で,ケニアの大学に交換留学生とし て行き,現在は帰ってきて復学している。留学の前に兵役を終えているが,兵役の際には父親 である牧師は大変心配したそうである。留学先にアフリカのケニアを選んだのには,アフリカ とインドに強い関心を持つ父親の影響があると思われる。  牧師の娘は現在は釜山在住である。マレーシアにある韓国観光公社のインターンシソプとし て国費を貰って行き,現在は帰ってきて釜山にある幼稚園で英語担当の仕事をしている。ちな みに先述した牧師の弟(彼女の叔父)が調査のため韓国に帰ってきた際には,釜山の彼女のア パートに泊まったそうである。一般的な日本人の感覚から言うと,叔父が姪の1人暮らしのア パートに泊まるということには多少の違和感が感じられるかも知れないが,韓国の親族の親密 度は日本のそれよりも概して強い場合が多い。こうした機会に彼女は海外で活躍する優秀な叔 父に対して自分の将来像についてなど話をしている。この際,彼女は叔父のように学問の世界 への希望を話したが,先述の通り,叔父からすれば彼女は学問をするには向いていないとそれ となしに伝えたそうである。  以上がこの牧師家族の海外展開の概要であるが,家族以外にもこうした海外への指向性は強 く見られる。例えば巨済J教会の長老の1人も「子弟の海外留学は当然」との考えを明確に持 っており,こうした人々に支えられてこの教会の海外布教が実現している。この教会の信徒の 中には牧師の進める海外布教に反対する者もいたそうであるが,牧師や長老による話し合いの 中で解決してきたという経緯もあった。  ではこうした海外で暮らす家族は韓国に戻ってくることはあるのだろうか。牧師から聴いた ところでは,一時的に帰ってくるだけでも時間もお金もかかってしまうため,アメリカと日本 で暮らす姉達(姉1,姉3)はここ最近は韓国には戻ってきていない。そして彼女達はそれぞ れ現地で長く生きてきたし,それぞれ市民権と永住権を持っているので,韓国には永住帰国は しないだろうとのことだった。  しかし牧師の場合は海外布教業務によって頻繁に外国へ出たり帰ったりしている。牧師はこ れまでにインドとアフリカに強い関心を持っており,それが現在の仕事と直結している。単に 仕事と言っても,牧師にとっては神から与えられた使命であるため,こうした活動について牧 師は大きな喜びを感じている。今後は南米のエクアドルにも関心を持っているとのことである。 そのため,もしも牧会において早く引退することになったならば,海外へ行ったり来たりする 時間が今よりも多くなるので,さらに熱心に行き来ができるようになるだろう,と今後への希 望を述べている。 88

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Vまとめと今後の課題

 はじめにでは,トランスナショナルという概念にっいて,いくつかの先行研究からその意味 する内容について考察した。その上で単に「越えて向こう側に行く」というだけではなく,「跨 境的」という語から「両方に跨る」というニュアンスを強調した。この「跨境」については, 今後用法の確認と意味内容の確定を行なっていく予定である。  第II章では,韓国における移民に関する先行研究の検討を行った。個々のホスト社会(国) における移民の状況についての研究は多いが,家族というまとまりを単位として,その海外展 開の動態を捉えるという視点に立つ研究は未だ少ないのが現状である。  第III章では統計からマクロ的に,韓国のトランスナショナルな現象について大きく2つに 分けて見た。1つは外向きの現象としての出移民と出国者数の推移であり,もう1っは内向き の現象としての在韓外国人と国際結婚の増加についてである。現在移民は毎年約2万人で推移 し,出国者数は年1,200万人で推移している。これらからは多くの韓国人が国境を越えて外に 出ていることが分かる。移民には様々な理由はあるだろうが,移民先のホスト社会において文 化的同化が進行し,そのエスニック・アイデンティティもホスト社会のものから影響を受け変 容していく。留学等による短期間の海外経験もまた同様であるが,近い将来韓国に戻るため移 民のそれとは比べものにならないだろう。逆に在韓外国人数は90年代以降急増し120万人に 至った。国際結婚も2005年から2006年あたりをピークとして男女のパターン合わせて年間約 24,000件で推移している。こちらの方が韓国人のエスニック・アイデンティティの変容に直接 関係している。特に国際結婚においては違う者同士が家族として共に生活をする中で,大きな エスニック・アイデンティティの変容があるだろう。ましてやその間に生まれた子どもたちに 至っては,そのエスニック・アイデンティティが,韓国のものなのか,それとも外国人の親の ものなのか,葛藤が予想される。こうした韓国と外国とのミックスの子どもたちの存在は,最 近韓国社会が直面している国民内容の急激な変化であり,かなり大きな社会問題となってくる ことが予想される。国民としてのメンバーシップ(権利だけではなくもちろん兵役などの義務 も伴う)が,韓国民の中身が大きく変わろうとしている中,今後どうなっていくのか,しっか りと見ていくことが重要である。  また最近の韓国本国からの在外韓国人に対する3つのインパクトについて言及した。特にこ れらのインパクトについては,今後在外韓国人の持つエスニック・アイデンティティに少なか らず影響を与えていくだろうと思われる。本国における選挙権と重国籍の容認,これらは韓国 民であるというメンバーシップに,そしてこれは在日韓国人に限定されるが「日本集落」の実 現は在日韓国人のメンバーシップに直結する。 89

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白山人類学15号2012年3月  第IV章では,跨境的生活の一例としてKHG牧師家族の「トランスナショナル・ファミリー」 とも言うべき実態について紹介した。  牧師という立場のバックグラウンドとしてキリスト教という世界宗教であるがゆえに自ずと 有する普遍的な宗教イデオロギーによる国民民族を越えた共同性の一端が影響している。も ちろんプッシュ要因としての韓国内の牧師の余剰という点も見逃すことはできないが,国境を 越えていく現象を見ていく上で大変興味深いものがある。そして韓国人の海外移民と国際結婚 の現象が牧師家族の中にも見られることを示した。かなり多くの海外移民が出ていることから も,これは韓国においては当然のことのように見えるかも知れない。ただ家族が国を跨いで生 活しているという現実は,何かしら相互に影響を与えあっているのではないかと思われる。特 に牧師の弟が海外で活躍していることが,牧師の娘と息子の海外留学や海外へのインターンシ ップにも影響を与えている。  今後は,このような家族の海外展開について,様々な事例を蓄積していく予定である。移民 を見ていく上で,移民と祖国,移民とホスト社会という関係ももちろん重要ではあるが,家族 という単位を元にして,その海外展開を見ていくことにより,目に見えにくい繋がりや成員相 互の及ぼし合う影響についてなど,より詳細なあり様について把握することができると考える からである。 参 考 文 献 〔日本語〕 朝倉美江・原史子・中尾友紀・新田さやか   2010「韓国の移民政策と移民支援活動の現状と課題」『金城学院大学論集社会科学編』6(2):     1-24. 新矢麻紀子・山田泉・大谷晋也・三登由利子   2010a 「韓国における移民関連施策および支援状況に関する実態調査報告(1)」『大阪産     業大学論集人文・社会科学編』9:177・197. 新矢麻紀子・大谷晋也・三登由利子・春原憲一郎   2010b 「韓国における移民関連施策および支援状況に関する実態調査報告(2)」『大阪産     業大学論集人文・社会科学編』10:101-127. 新矢麻紀子・山田泉・窪誠・大谷晋也・三登由利子   2011a 「韓国における移民関連施策および支援状況に関する実態調査報告(3)」『大阪産     業大学論集人文・社会科学編』11:187・212. 90

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新矢麻紀子・山田泉・春原憲一郎   2011b 「韓国における移民関連施策および支援状況に関する実態調査報告(4)」『大阪産     業大学論集人文・社会科学編』13:115-140. 李鍾聲   2002 「韓国キリスト教会の実態  過去・現在・未来」『東京神学大学紀要』5:151-172. 李壇   2007 「『キロギ家族』から見た韓国家族の現在」『亜細亜大学アジア研究所紀要』34:    217-232. 杉浦章介   2009 『在日ブラジル人の労働と生活』(講座トランスナショナルな移動と定住:定住化す     る在日ブラジル人と地域社会,第1巻)東京:御茶の水書房. 池東旭   2003「ネガとポジのコリア・ルポ(83)韓国で起きている移民ブーム」『世界週報』84(40):    26・28. 野口佳美   2005 「『アメリカ』へ向かった移民たち  3つの映画にみる韓国移民たちの姿」『英米文     学』65:201・243. 原尻英樹   1993 「韓国朴政権以後の移民政策に関する韓国内の資料及びその研究動向について」『調     査と研究』24(1):99-104. 松本誠一   2011 「transnationa1ノート」『東洋大学アジア文化研究所研究年報』45:145・150. 吉川元   2003 「序章国境を超える国際関係論」『国際関係論を超えて:トランスナショナル関係論     の新次元』吉川元(編),3・26ページ,東京:山川出版社. 吉川宏   2008 『国民国家システムの変容:トランスナショナル化した世界』(学術叢書)東京:学術     出版会. 〔韓国語〕 巨済市誌編纂委員会   2002『巨済市誌』(上巻・下巻)巨済:巨済市. 胡る}叫午正吾豆司召廿と司(大韓イエス教長老会慶南老会)

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白山人類学 15号 2012年3月   2006『る甘土司司『斗(慶南老会の歴史)』ソウル:クムラン出版社. 音(ヨ忍(ユン・インジン)   2010  「ス‖≦916LV({)(註二}Oj吾聾三1}」牛ス刊」 『ス‖≦司6Ll(翌(蛸1三工』 21:326・356.     向と課題」『在外韓人研究』) (「在外韓人研究の動 〔インター・一ネット資料〕 サーチナニュース2011年2月3日「『恥じるべき世界4位』…米国への養子縁組が863人=韓 国」   http:〃news.searchina.ne.jp/disp.cgi?yニ2011&d=0203&f=nationa1_0203_139.shtml)     (2011年12月15日閲覧) 司立暑甘早「司司。1!F{}11司斜。1iftス}書力1」(外交通商部「海外移住統計 海外移住者総計」) (2002・2010)   http:〃www.mofat.go.kr/webmodule/htsboard/hbd/hbdread.jsp?typeIDニ6&boardid    =232&seq no=274443&c=&tニ&pagenumニ1&tableName=TYPE_DATABOARD     &pc=&dc=&wc=&1uニ&vu=&iu=&du=(2011年12月15日閲覧) 司正号せ早「6ng1。1手号月1胡司。1手忍ヱ叫竜尋」(外交通商部「海外移住統計 海外移住申告 者現況」) (1962“2010)   http:〃www.mofat.go.kr/webmodule/htsboard/hbd/hbdread.jsp?type ID=6&boardid=     232&seqno=274443&c=&t=&pagenum=1&tableName=TYPE_DATABOARD&pc=     &dc=&wcニ&lu=&vu=&iuニ&duニ(2011年12月15日閲覧) 量号丑著晋入}「司号剋苦可望王曽暑対1」(韓国観光公社「内国人出国年度別統計」)(1975-2010)   http:〃korean.visitkorea.or.kr/kor/tt!download/year_stat(1975・2010).xls(2011年12月     15日閲覧) 胡召♀}忍早「s21苛(~ユ!F EI 126剋…5る]噌,三〒:vJ号一号OLIこ子912.5%」(行政安全部「外国人住民126 万5千名,住民登録人口の2.5%」)   http:〃www.mopas.go.kr/gpms/ns/mogaha/user/userlayout/bulletin/userBtView.action?    userBtBean.ctxCd=1012&userBtBean.ctx Type=21010002&userBtBean.bbsSeqニ     1020461(2011年12月15日閲覧)。 「社剤吾剋q1司司可剋叫司吾剋司音(全体婚姻対比外国人との婚姻比率)」(「♀司可剋司導迂 主菩但唱」≧実畳望η}皇?吾OJ暑1)呈せ司甚♀司入国到里卦杢}」“喫昔叫1召菩司鎮司且?” (「私たち国民の平均初婚年齢は何歳でしょうか? 婚姻統計で調べた私たちの社会の変化像」 “何歳で結婚しましたか?”)   http:〃blog.naver.com/hi_nso/130107233686(2011年12月15日閲覧)

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   0882.HTML(2011年12月15日閲覧)

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