雇用保険法における給付制限規定の検討―「自己都
合」退職とは何か
著者
上田 真理
著者別名
Mari Ueda
雑誌名
東洋法学
巻
57
号
1
ページ
119-184
発行年
2013-07
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006017/
目次 はじめに Ⅰ問題の所在 Ⅱ「就業の喪失」とは Ⅲ積極的行為による自己都合退職 Ⅳ自己都合退職の「重大な理由」 Ⅴ給付制限の効果の制約 おわりに はじめに 労働者は、労働契約に期間の定めがない限り、いつでも退職の申し入れができ、退職の自由は保障される。しか し、雇用保険法では、被保険者が正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合には、自己の責めに帰すべき 《 論 説 》
雇用保険法における給付制限規定の検討―「自己都合」退職とは何か
上
田
真
理
「重 大 な 理 由」 に よ っ て 解 雇 さ れ た 場 合 と 同 様 に、 三 カ 月 の 給 付 制 限 が な さ れ る (雇 用 保 険 法 三 三 条 一 項) 。 ま た、 失業した被保険者の退職事由によって基本手当の給付日数が区別され、自発的退職については給付日数が短縮され た。本稿では、 「自発的退職」に対する給付が過剰に制約されていないのかを批判的に検討したい。 I L O の レ ポ ー ト (二 〇 〇 八 年) に よ れ ば、 雇 用 保 険 を 受 給 し て い な い 失 業 者 の 割 合 は わ が 国 で は 七 七 % で あ り、雇用保険が所得保障として多くの失業者に機能していないことが改めて突き付けられ ( 1) た 。雇用保険が機能を縮 小しているのは、受給者比率の低下、とくに短すぎる受給期間に加えて、事業主の適用手続の懈怠、保険加入期間 が短い等の多くの原因があ ( 2) る 。本稿は、その原因の一つである、自己都合退職による給付制限に対象を限定し、わ が 国 の 雇 用 保 険 法 三 三 条 に 匹 敵 す る、 ド イ ツ 雇 用 保 険 法 (社 会 法 典 三 編) [以 下、 社 会 法 典 三 編] の 解 釈 を 検 討 す る。検討対象を限定するのは、わが国では、雇用保険の受給資格があるのに給付制限にかかる人が多く、しかも受 給 権 へ の 制 約 が 大 き い か ら で あ る。 厚 生 労 働 省「雇 用 保 険 事 業 年 報」 (平 成 二 三 年 度) に よ れ ば、 初 回 受 給 者 数 が 一 六 四 万 人 に 対 し、 給 付 制 限 八 〇 ・ 九 万 人 で あ り、 ほ ぼ 半 数 が 給 付 制 限 に か か っ て い ( 3) る 。 社 会 法 典 三 編 の 給 付 制 限 を検討することで、わが国に重要な示唆を得ることにしたい。 注 ( 1)
ILO, The Financial and Economic Crisis:A Decent Work Response?,
2008,16. ( 2) 失 業 者 に 占 め る 受 給 者 割 合 の 低 下 要 因 の 経 済 的 分 析 と し て、 酒 井 正「雇 用 保 険 の 受 給 者 割 合 は な ぜ 低 下 し て き た の か」 IPSS
Discussion Paper Series
(
No.2011-J02
( 3) 雇 用 保 険 改 革 の 課 題 を 検 討 す る も の と し て、 さ し あ た り、 布 川 日 佐 史「失 業 時 生 活 保 障 の セ ー フ テ ィ ネ ッ ト: 雇 用 保 険 制 度 改 革の課題」 『静岡大学経済研究』四巻三号(二〇〇〇年)一九頁以下。 Ⅰ問題の所在 1 積極的行為による退職か わ が 国 の 失 業 保 険 法 (一 九 四 七 年) が、 自 己 都 合 退 職 に 対 す る 給 付 制 限 と し て 一 ヵ 月 以 上 二 ヵ 月 以 内 に 給 付 を し な い 期 間 を 設 け た の は、 惰 眠 要 請 の 危 険 を 防 ぐ 意 図 か ら で あ り、 同 法 は、 「失 業 者 を 職 に 就 か し め る こ と を 第 一 義 と し、 給 付 を 第 二 義 と し て い る」 も の で あ っ た ( 1) 。 雇 用 保 険 法 (一 九 七 五 年) も、 同 様 の 給 付 制 限 規 定 を 定 め、 自 発 的に失業状態をつくり出した者を「当面一応労働の意思を欠くと推定することが妥当な者」とし、労働の意思及び 能 力 は 時 の 経 過 と と も に 変 化 す る の で、 「当 初 は 任 意 的 失 業 が 一 定 の 期 間 の 経 過 に よ り 非 任 意 的 失 業 に 転 化 し ( 2) た 」 と捉えられている。一九八四年改正は、停止期間を一ヵ月から原則として三ヵ月間に延長し、安易な離職を防止し ようとした。現在も行政の運用では、正当な理由のない自己都合退職であれば、基本手当は原則として三ヵ月間停 止 さ れ る。 し か し、 失 業 後 に 劣 悪 な 雇 用 に つ か な い よ う に、 労 働 者 に 失 業 時 の 所 得 を 保 障 し、 求 職 を 支 援 す る に は、給付制限の要件と効果を批判的に検討することが必要である。数カ月間再就職できない者だけが雇用保険を必 要とする失業者であるという考え方をとることはできない。 また、二〇〇〇年の雇用保険法改正により、離職理由による区分が導入され、予見可能な失業とそうでない失業
に応じて、所定給付日数が異なっている。そもそも解雇・倒産等による離職の特定受給資格者に該当しないと、多 くが自発的退職として給付制限の対象になる。自発的退職者は再就職の準備が可能であると強調され、給付制限や 給付日数の短縮が正当化されている。行政の運用によれば、有期雇用の期間満了による終了までもが自発的退職に 含まれている。しかも、給付制限規定が適用されると、失業後に三カ月間は基本手当がなくても生活が可能な労働 者しか、雇用保険を実際には利用できな い ( 3) 。 給付制限を対象にするのは、次の二点からである。一つは、わが国では自己都合退職による雇用終了が多いが、 そもそも「自己都合退職」の判断基準が明確ではないことである。期間満了による終了と使用者の圧力に耐えかね て退職したという二つの離職事由を例にしよう。まず、わが国の行政の運用では、期間の満了をもって雇用契約が 終了すれば、雇用保険法の自己都合退職であり、給付制限がかかる。二〇一三年四月施行の労働契約法により有期 雇用の期間満了による失職が増加することが見込まれる。しかも、契約の更新回数を設定する有期労働契約を締結 し て お く と、 そ れ を 超 え た 雇 用 へ の 期 待 が 生 じ な い た め、 特 定 受 給 資 格 者 に 該 当 し な い ケ ー ス が 多 く な る で あ ろ う。さらに、原則半年のクーリング期間を設ければそれ以前の契約期間は計算しないので、労働者は五年未満の有 期雇用と、クーリング期間の失業を繰り返すことになる。労働契約法がもたらす影響に雇用保険法はどのように対 応するべきであるのか、解決が求められ ( 4) る 。そもそも、期間満了による終了は「正当な理由のない自己都合退職」 なのだろうか。 他 方、 使 用 者 の 圧 力 に 耐 え か ね て 退 職 届 を だ し た 場 合 に は、 形 式 的 に は 労 働 者 の 意 に 反 す る 退 職 で あ る の に、 「自 己 都 合 退 職」 と な り、 雇 用 保 険 法 上 は 給 付 制 限 に か か る。 雇 用 保 険 法 に お け る 給 付 制 限 過 程 に お い て 労 働 者 の 行為・態度が適切に評価されていない。これらの二つの「自己都合退職」に対するわが国の運用を検討する上で、
類 似 の 規 定 を 定 め る 社 会 法 典 三 編 の「重 大 な 理 由 の な い 自 己 都 合 退 職」 の 基 準 は 重 要 な 示 唆 を 与 え る (Ⅲ・ Ⅳ 章 参 照) 。 と く に 注 目 さ れ る の は、 自 己 都 合 退 職 と 認 定 さ れ る の は、 労 働 者 が 離 職 に「積 極 的 な 行 為」 に よ り 関 与 し て いることが必要とされる点である。時間の経過をもって雇用が終了する場合に、労働者の「積極的な行為」が介在 しているといえるのだろうか。本稿では、雇用保険の給付制限手続過程においても被保険者・要保障者の行為・態 度を評価することが重要であることを解明したい。 二つに、自己都合退職に正当な理由がない場合には、給付制限により原則三カ月停止する。しかも、二〇〇〇年 雇 用 保 険 法 改 正 の「特 定 受 給 資 格 者」 の 導 入 に よ り、 「非 特 定 受 給 資 格 者」 に と っ て、 実 質 的 に は 給 付 日 数 が 短 縮 する結果になる。わが国ではそれほどの不利な結果を甘受しなければならない状況で多くの労働者が退職している のだろうか。安定した雇用がみつからず期間満了により終了する、又は過密労働に耐えられない、いじめ等を受け る、さらに使用者に退職をするように圧力をうけるといった状況におかれ、退職届を書くとすれば、それはまさに ディーセント・ワークではない状況からの脱却である。そうした局面も雇用保険法は「失業」として捉え、求職時 の所得保障を基本手当が担うと考えられる。給付制限の適用対象は、少なくとも、そうしたイン・ディーセント・ ワ ー ク か ら 脱 却 す る 労 働 者・ 被 保 険 者 で は な い。 受 給 権 へ の 制 約 を 比 例 原 則 に 照 ら し て 検 討 す る 必 要 が あ る (後 述) 。 2 給付制限の意義 ( 1 )社会法典三編における給付制限規定 わが国の雇用保険法は基本手当の受給要件を、被保険者が「失業した場合」に、離職の二年間に被保険者期間が
通 算 し て 十 二 箇 月 以 上 で あ る と き と 定 め て い る だ け で あ り (雇 用 保 険 法 十 三 条) 、 受 給 要 件 と し て の「失 業」 を 定 め ておらず、議論の蓄積もほぼない。ドイツでは、社会法典三編によると、わが国の雇用保険の基本手当に匹敵する 失 業 手 当 Ⅰ の 要 件 は、 「失 業」 し て い る 者 が、 労 働 行 政 に 失 業 を 届 け 出 て、 資 格 取 得 期 間 を 充 足 す る こ と で あ る (一 三 七 条、 一 三 八 条) 。 資 格 取 得 期 間 は、 原 則 と し て、 失 業 前 の 二 年 の 枠 期 間 (一 四 三 条) の う ち 保 険 加 入 義 務 期 間 が 少 な く と も 十 二 ヵ 月 必 要 で あ る (一 四 二 ( 5) 条 ) 。 失 業 手 当 の 要 件 を 充 足 す れ ば、 被 保 険 者 の 保 険 加 入 期 間 に 応 じ た 受給期間が定められている (一四七条) 。 もっとも、社会法典三編一五九条は、給付制限が認められる、保険に違反する行為に対し「重大な理由」がない 場 合 に は、 失 業 手 当 は 給 付 制 限 の 期 間、 停 止 す る 旨 を 定 め て い る (一 項 一 文) 。 停 止 の 始 期 は、 給 付 制 限 を 生 じ さ せ た 事 柄 の 翌 日 で あ り (一 五 九 条 二 項 一 文) 、 自 己 都 合 退 職 の 停 止 期 間 は、 原 則 と し て 一 二 週 間 で あ る が (三 項 一 文) 、 給 付 制 限 を 生 じ さ せ た 事 柄 か ら 六 週 間 経 過 後 に、 給 付 制 限 が 生 じ な け れ ば 労 働 関 係 が 終 了 し た で あ ろ う 場 合 に は、 三 週 間 に 短 縮 さ れ る (三 項 二 文 一 号) 。 受 給 期 間 は 支 給 停 止 期 間 の 日 数 分、 短 く な る が、 給 付 停 止 期 間 が 一 二 週間に及ぶ場合には請求できる日数の四分の一が短縮される (一四八条一項四号) 。 社会法典三編 一三八条 失業 ( 1 ) 労働者である者が次の各号を充足する場合には、失業である。 一号 就業関係にない (就業の喪失) 二号 自己の就業喪失を終了させる努力をしていること (自己努力) 三号 連邦労働エージェンシーの紹介努力を受け入れることができること (紹介を受ける能力)
(以下、省略) 一五九条 給付制限期間 ( Sperrzeit ) の停止 ( 1 ) 労働者が、保険に違反する行為を「重大な理由」がないのにとった場合には、請求権は給付制限の期間につ き停止する。保険に違反する行為は以下の各号に定める場合をいう。 一号 失業者が就業関係を解消し又は労働契約に違反する行為態度を通じて就業関係の解消のきっかけを与え 又はそれを通じて故意又は重大な過失により失業を惹起した場合 (退職の給付制限) 二号ないし七号 (省略) 保 険 に 違 反 す る 行 為 を と っ た 者 は、 「重 大 な 理 由」 を 判 断 す る 基 準 と な る 事 実 が 自 己 の 領 域 又 は そ の 責 任 領 域 に あ る場合には、それらの事実を説明し ( darlegen ) 、そして証明しなければならない。 ( 2 ) 給 付 制 限 の 期 間 は、 給 付 制 限 を 理 由 づ け る 事 柄 ( Ereignis ) の 生 じ た 翌 日 を も っ て 開 始 し、 又 は 当 該 発 生 日 が給付制限期間に含まれている場合には、進行している給付制限期間の終了をもって開始する。複数の給付制限期 間が同一の事柄により生じる場合には、一項二文一号ないし七号の順による。 ( 3 ) 離職についての給付制限の期間は、一二週間とする。給付制限の期間は、次の各号に定めた場合には、短縮 する。 一号 給付制限を生じさせる事柄から六週間以内に、労働関係が、それがなければ終了した場合には、三週間 に短縮する。 二号 次の各号に該当する場合には、六週間
⒜ 給付制限を理由づける事柄が生じた後一二間以内に、労働関係が、給付制限が生じなくても終了したであろう 場合 又は ⒝ 給付制限の発生の基準となる事実から判断すれば失業者にとり一二週間の給付制限が特別に過酷である場合 ( 4 )から( 6 )省略 確 か に、 日 本 に 限 ら ず、 任 意 失 業 に 対 す る 制 裁 を 規 定 す る 国 は 少 な く な い。 あ る 研 ( 6) 究 は、 O E C D 又 は E U の 三六カ国の雇用保険制度を、資格取得の条件、求職活動への要求、求職活動の証明、職業紹介の拒否に対する制裁 の 四 グ ル ー プ を 九 項 目 に 分 け、 五 段 階 の ス コ ア (三 が「標 準」 と さ れ、 厳 し い ほ ど ス コ ア が 大 き く な る) を つ け て い る。 給 付 制 限 は、 「受 給 に 必 要 な 雇 用 期 間 (項 目 一) 」 と 並 ん で「任 意 失 業 の 制 裁 (項 目 二) 」 と し て 資 格 取 得 の 条 件 のグループに含まれる事柄であり、わが国は「標準」である。その研究によれば、日本は、保険加入要件は厳しく は な く (ス コ ア 二) 、 給 付 制 限 の 要 件・ 効 果 も 標 準 (ス コ ア 三) と さ れ て い る。 ド イ ツ の 給 付 制 限 も わ が 国 と 同 じ 評 価をうけている。給付制限の項目は労働者に失業を生じさせた責め、過失がある場合に適用される制裁を示すが、 「正 当 な 理 由」 の 定 義 は 国 に よ り 多 様 で あ る、 と い う。 定 義 の 多 様 さ だ け で は な く、 争 訟 を 通 じ た 事 後 審 査 の あ り 方が、少なくとも日独の給付制限規定による失業者の受給権の制約に大きな相違をもたらしているのではないだろ うか。わが国では給付制限に対する争訟が少な ( 7) く 、事後審査を通じたルールが形成されていない。 ( 2 )給付制限の検討の視点 (ⅰ)比例原則及び過剰介入の禁止
自己退職に対する給付制限規定の適用にあたっては、失業者の受給権を過度に制約することは法治国家原理に抵 触しないのかが基準になる。ドイツでは、給付制限規定要件及び効果の審査でも強調されているのが、法治国家原 理 (基 本 法 二 〇 条 三 項) に 基 づ く 比 例 原 則 と 過 剰 介 入 の 禁 止 ( Übermaßverbot ) で あ ( 8) る 。 詳 細 は 二 章 以 下 で 紹 介 す る ことにし、ここでは比例原則について簡潔に言及しておきたい。比例原則とは、一般的には、 「適合性原則」 「必要 性 原 則」 「狭 義 の 比 例 原 則」 を 含 む も の で あ る。 と り わ け 社 会 保 障 法 で 争 点 に な る の は 狭 義 の 比 例 原 則 で、 総 合 的 に 評 価 を す る さ い に 適 切 で ( angemessen ) 、 そ れ ゆ え に 当 事 者 に 過 度 の 負 担 で は な く、 期 待 可 能 な ( zumutbar ) も のであるのか否かである。比例原則は、警察権限の制約のために用いられてきたが、しだいに公法のみならず、民 法、 労 働 法 な ど 個 別 領 域 に も 適 用 さ れ て い る。 自 由 の 制 約 は、 正 当 な ( legitim ) 目 的 の 達 成 に 適 合 し た 手 段 で あ り ( geeinget ) 、目的達成に必要なもので ( erforderlich ) 、措置による侵害が目的である利益と均衡 ( Proportionalität ) を 失わないものでなければならない。つまり、立法者が意図した目的を達成する介入は、適性があり、かつ必要なも のでなければならない。それは、当該目的が、個人にほぼ負担を与えない他の方法では達成することができないこ と、かつ個人に生じる負担は、本人及び公共に生じる利益と合理的な関係が保たれていることを意味する。過剰介 入の禁止により、介入は、その対象になる当該基本権の重要性及び意義と適切な関係にあることが必要にな る ( 9) 。 (ⅱ)給付制限の意義 給付制限規定は、その目的と、憲法上の過剰介入の禁止を考慮しなければならな ( 10) い 。連邦社会裁判 ( 11) 所 は、自己都 合退職に給付制限を設けている目的は、失業の発生に対する責任を被保険者自身が負っている、又は失業を克服す る 協 力 を、 被 保 険 者 自 身 が 理 由 な く 行 わ な い と い っ た リ ス ク か ら、 被 保 険 者 集 団 (被 保 険 者 共 同 体 と よ ば れ る) を ま
もることにあるという。それゆえ、給付が制限されるのは、あらゆる個別事情を考慮に入れ、被保険者自らの利益 と被保険者共同体の利益を衡量すれば、別の行動をとることが被保険者である労働者に期待できる場合である、と 判 示 し て い る。 た と え ば、 使 用 者 の 圧 力 を う け、 解 雇 に 瀕 し て い た 労 働 者 が、 解 雇 さ れ る 前 に 自 ら 退 職 し た 場 合 に、自己都合退職となることがある。そうした場合でも、連邦社会裁判所 ( 12) は 、連帯による被保険者共同体にとって 使用者による解雇に利益があることが明白でないとすれば、労働者が有している利益、とくに労働関係の終了を自 己に有利に形成することへの固有の利益を考慮しないのであれば、過剰介入の禁止に抵触する疑いが生じると判示 している。 本稿は、給付制限の前提となる「失業している」状況の判断を次章で検討し、そして、給付制限の「自己都合」 退 職 の 基 準 を 明 確 に し た 上 で、 「自 己 都 合」 退 職 で あ る と し て も 個 別 事 例 ご と に「重 大 な 理 由」 の 有 無 が な お 審 査 さ れ る こ と を 確 認 す る。 そ れ に は 個 別 の 決 定 に つ い て の「適 切 性 ( Angemessenheit ) 」 が 審 査 さ れ る 意 義 が あ ( 13) る 。 最 後 に、 「重 大 な 理 由」 が な い「自 己 都 合」 退 職 で も、 と く に 失 業 者 の 行 為 に 照 ら し て 給 付 制 限 の 効 果 も「適 切」 であるといえるのかが問題になる。 注 ( 1) 労務行政研究所『逐条解説 失業保険法の詳解』 (労務行政研究所、一九四八年)八三頁。 ( 2) 加藤孝『改正雇用保険の理論』 (財形福祉協会、一九八五年)二八六頁。 ( 3) 木下秀雄「失業労働者の生活保障と雇用保険法」 『労働法律旬報』一六九七号(二〇〇九年)五六頁。
( 4) こ の 論 点 に つ い て、 丸 谷 浩 介「失 業 労 働 法 の 今 日 的 意 義 ― 求 職 者 法 試 論 ―」 良 永 彌 太 郎、 柳 澤 旭 編『労 働 関 係 と 社 会 保 障 法、 荒木誠之先生米寿祝賀論文集』 (法律文化社、二〇一三年)一二一頁以下。 ( 5) な お、 短 期 就 業 者 に つ い て は、 例 外 と し て 保 険 加 入 期 間 を 六 カ 月 と し て い る が、 な お 十 分 で は な い と す る 研 究 も あ る( Elke/ Gesine,Leistungsansprüche bei kurzen Beschäftigungszeiten: Arbeitslosengeld - wie lange man dafür arbeiten muss,IAB-Kurzbericht, 19/2012 )。 ( 6) Venn, Eligibility Criteria for Unemployment Benefits: Quantitative Indicators for OECD and EU Countries ” , OECD Social,
Employment and Migration Working Papers, No. 131,2012,15,36.
( 7) 平 成 二 四 年 三 月 三 一 日 現 在 の 労 働 保 険 再 審 査 関 係 統 計 表 に よ れ ば、 雇 用 保 険 全 体 の 再 審 査 の 請 求 数 は 平 成 二 二 年 度 で 五 七 件、 二 三 年 度 三 八 件 で あ り、 区 分 別 に み れ ば「給 付 制 限」 は 二 二 年 度 二 件、 二 三 年 度 七 件 で あ る。 特 定 受 給 資 格 該 当 性 に つ い て は「そ の 他」 の 区 分 に 含 ま れ る が、 再 審 査 裁 決 一 覧 を み れ ば、 有 期 雇 用 労 働 者 の 期 間 満 了 に よ る 離 職 が 特 定 受 給 資 格 に 該 当 す る か 等 も 争 いになっている。 ( 8)
BSG Urt.v.09.02.1995 E 76,12,15.Auch BSG Urt.v.15.11.1995 E 77,
61,64;BSG Urt.v.25.04.2002 E 89,243,248. ( 9) Vgl. BVerfG Urt.v.20.6.1984 E 67,157,173. ( 10) BSG Urt.v.09.02.1995 E 76, 12, 15;BSG Urt.v.05.08.1999 E 84,225;BSG Urt.v.25.04.2002 E 89, 243.Bieback,Sperrzeiten im SGB III
und ihre Verhältnismäßigkeit, Soziales Recht 2011,21ff..
( 11) BSG Urt.v.26 10.2004 SozR 4-4300 §144 Nr.9. ( 12) BSG Urt.v.25.04.2002 E 89,243,248. ( 13)
Schluz, Die Sperrzeit beim Bezug von Arbeitslosengeld,SGb 2005,
Ⅱ 「就業の喪失」とは 1 事実上の失業 ( 1 )「失業」を捉える視点 ま ず、 就 業 の 喪 失 = 失 業 の 捉 え 方 の 特 徴 を 確 認 し た い。 日 本 で は、 雇 用 関 係 が 解 雇 に よ ら な く と も、 使 用 者 の 「圧 力」 や 過 酷 な 労 働 条 件 に よ り、 労 働 者 が 退 職 を 余 儀 な く さ れ る 場 合 に、 退 職 届 を だ し、 雇 用 関 係 が「自 発 的」 に終了する形式が容易にとられる。労働法では雇用終了をいかに制限し、雇用存続をはかるのかが重要な課題にな るのに対し、雇用終了=失業を前提に、失業労働者の所得をいかに保障するのかが社会保障法では生存権の観点か ら、 確 か に 重 要 に な る。 換 言 す れ ば、 労 働 者 の 意 に 反 す る 雇 用 終 了 を い か に 制 限 す る の か、 と い う 労 働 法 の 課 題 と、雇用終了を前提にいかに失業時に失業手当を保障するのかという社会保障法の課題は、一見両立しない。しか し、これを同時に解決する解釈論を連邦社会裁判所が展開してきた。ドイツでは、雇用関係が容易に終了せず、存 続 す る。 社 会 保 険 で も 事 業 主 に 対 す る 被 用 者 保 険 の 保 険 料 徴 収 関 係 が 存 続 す る。 そ れ ゆ え に、 「失 業」 は 容 易 に は 生じないことになる。雇用終了を制限するルールが確立しているからこそ、少なくとも形式上は失業ではない一方 で、しかし現実には、たとえば使用者による受領拒否がなされると、労働者が就労していない場合に、使用者と賃 金を支払う合意に至らない限り、賃金も雇用保険も当然に請求できるわけではない。だからこそ、ドイツでは、雇 用保険の基本手当に該当する失業手当の受給権により、労務不提供のため事実上は失業している労働者にいかに所 得を保障するのか、が争われてきた。具体的には、就業関係が事実上終了している、いわば「事実上の失業」状態
の労働者が、労働行政に失業手当の申請をした場合に、当初は、行政はこれを認容しなかったため、多くの訴訟が 提 起 さ れ た。 雇 用 関 係 の 存 続 中 に 現 実 に は 労 務 の 提 供 を し て い な い 状 態 に 対 し て (受 領 拒 否 を 含 む 解 雇、 私 傷 病 労 働 者 の 休 職 期 間 満 了 後、 退 職 前 の 労 務 の 停 止 等) だ れ が 所 得 を 保 障 す る の か が 争 い に な っ て き た。 ド イ ツ 連 邦 社 会 裁 判 所は、雇用関係及び保険料徴収にかかる保険関係存続中でも、事実上仕事をしていない状態を、失業=「就業の喪 失」と評価してきた。 ( 2 )事実上の失業=「給付法上の就業関係の不存在」の意義 一 九 九 七 年 ま で 施 行 さ れ て い た 雇 用 促 進 法 ( Arbeitsförderungsgesetz ) [A F G] は 一 〇 一 条 に 失 業 概 念 を 定 め、 そ の 一 項 一 文 に「こ の 法 律 で 失 業 と は、 一 時 的 に ( vorübergehend ) 就 業 関 係 ( Beschäftigungsverhältnis ) に な い 又 は 些 少 の (一 九 七 六 年 一 二 月 二 三 日 法 に よ る 変 更( BGBl. Ⅰ S. 3845 ) 一 九 七 七 年 か ら「短 時 間 の」 就 業 に 変 更 さ れ た) 就 業 に し か つ い て い な い 労 働 者 で あ る」 と し て い た。 社 会 法 典 三 編 一 三 八 条 (二 〇 一 二 年 三 月 三 一 日 ま で 一 一 九 条) は失業手当の支給要件である失業を一項二文に定義している。そこでは、労働者が次に掲げる状態にある場合に、 失 業 で あ る と し、 一 号 に 就 業 関 係 にな い こと (「就 業 の 喪 失( Beschäftigungslosigkeit )」 ) 、 二 号 に 就 業 の 喪 失 を 終 了 さ せ る 努 力 を し て い る こ と (自 己 努 力) [ Eigenbemühungen ]、 三 号 に 労 働 エ ー ジ ェ ン シ ー の 紹 介 の 努 力 に 対 応 で き る こ と (紹 介 を 受 け る 能 力 が あ る こ と) [ Verfügbarkeit ] を 定 め て い る。 一 三 八 条 一 項 二 文 一 号 の「就 業 関 係」 に な い こ と = 就 業 の 喪 失 と は ど の よ う な 状 態 を い う の だ ろ う か。 そ の 具 体 的 判 断 を み る 前 に、 雇 用 保 険 法 の 受 給 に 関 わ る就業関係についての裁判所の判示を確認しておこう。 「就業関係」は、 「就業関係にないこと」のとらえ方に加え て、 給 付 制 限 が 行 わ れ る 労 働 者 に よ る「就 業 関 係 の 解 消 ( Lösung der Beschäftigungsverhältnis ) 」 の 要 件 (三 編
一 五 九 条 一 項 一 号) 及 び 効 果 (一 五 九 条 二 項・ 三 項) を 理 解 す る 上 で、 か か る 就 業 関 係 の 解 釈 を 確 認 し て お く こ と が 有意義である。 失 業 手 当 受 給 権 の 要 件 の 一 つ で あ る「就 業 関 係 に な い」 も、 給 付 制 限 の 要 件 で あ る「就 業 の 解 消」 も、 「就 業 し ていない」状態を捉えるものであり、労働関係が存続していたとしても、それとは別に実際に就業しておらず、賃 金 も 受 け 取 っ て い な い 場 合 を 対 象 に し て い る。 一 般 的 な 概 念 と し て は、 労 働 関 係 と 区 別 し、 「就 業 関 係」 が 用 い ら れ ( 1) る 。 保険料に関する法的関係はいったん成立すると、雇用関係が短期的に断続的に中断する場合にも、保険の保護機 能を発揮するために存続が認められている。そうであれば、失業時の生活保障機能を果たす失業手当の受給権は成 立しない、ということになるのではないか。というのも、就業関係が存続しているならばそれは失業していないか ら で あ る。 そ こ で、 裁 判 所 は、 「就 業」 と い う 同 一 の 文 言 (二 五 条 一 項、 一 三 八 条 一 項 一 号) を 機 能 に 応 じ て 区 別 す る 立 場 を と り、 一 方 で 保 険 料 支 払 い 期 間・ 加 入 期 間 に か か わ る 法 的 関 係 (こ れ は 労 働 関 係 に 類 似 す る) を「保 険 料 法 上の就業関係」とよび、他方で、受給にかかわる法的関係を「給付法上の就業関係」とよんでいる (後述) 。 労 働 関 係 は ま だ 終 了 し て い な い が、 事 実 上、 労 務 提 供 を し て い な い 場 合 に (例 え ば、 使 用 者 の 受 領 拒 否) 、 労 働 関 係も「保険料法上の就業関係」も存続しているが、失業している=「給付法上の就業関係」はない、という考え方 である。この考え方により労働者が失業手当を受給する要件の「失業」を充足することにもなる。この受給権を生 じさせる「失業」を、雇用関係が形式的に存するのかではなく、事実上労務提供をしていたのか、賃金が支払われ ていたのかを実際の機能から判断することで、賃金も失業手当も何ら提供されていない状態を回避できるわけであ る。
2 就業関係の二面性 ( 1 )二つの就業関係 連 邦 社 会 裁 判 所 は、 就 業 関 係 を 二 つ の 概 念 に 分 け て い る。 す な わ ち、 「給 付 法 上 の 就 業 関 係」 (三 編 一 三 八 条 一 項 二 文 一 号) と「保 険 料 法 上 の 就 業 関 係」 (三 編 二 五 条) で あ る。 本 稿 で は、 「給 付 法 上 の 就 業 関 係」 を 中 心 に と り あ げるが、 「保険料法上の就業関係」について簡単に確認しておきたい。 「 保 険 料 法 上 の 就 業 関 係 」 は 、 労 働 関 係 と ほ ぼ 一 致 し 、 被 用 者 保 険 が 、 就 業 者 に 保 険 加 入 義 務 を 課 す こ と に よ り 、 保険による保障機能を果た ( 2) す 。就業者は原則としてその職業生活の全体の期間の間、稼得能力の減少のリスクや失 業に中断なく保護されるべきであ ( 3) る 。その必要性は、労務を実際に提供しない間に小さくなるわけではない。した がって、就労しない期間が一定続くとしても、そのつど労働関係を終了させないのと同様に、保険関係も存続させ る。労働関係と、失業手当の受給に必要な加入期間を規定する「保険料法上の就業関係」が、原則として一致する のは、使用者が労働関係の終了前に一方的に「保険料法上の就業関係」から解消することができないことを、明ら かにするものである。労働者の意思に基づき就業関係を終了させることは自由であるのに対し、使用者の恣意によ り社会保険の保護が奪われないように、労働関係が存続する限り、労務提供がなくとも、就業関係は存続す ( 4) る 。 ( 2 )雇用保険の機能と「事実主義」 雇用保険では「事実主義」を貫徹して、労働者の失業に適切にかつ適時に保障する法理が蓄積されている。ドイ ツ被用者保険法では、被保険者資格の取得時を判断する際には、保険者と事業主間での保険料上の法的関係が主た
る 問 題 に な る の で、 そ れ を「保 険 料 法 上 の 就 業 関 係」 と 呼 ん で い る わ け で あ る。 連 邦 社 会 裁 判 所 一 九 八 一 年 九 月 二五日判 ( 5) 決 が「保険料法上の就業関係」の存続を示したように、労働者が要保障事故である失業、障害、傷病、老 齢が生じた場合に、立法者は被保険者に所得保障を予定しているが、その保障機能を可能にするには被保険者の資 格取得期間を充足することが条件になる。その点をさして被用者の社会保険加入義務には「保護機能」があると表 現されている。他方で、雇用保険法ではそうした解釈だけでは、むしろ労働者の受給権からみれば不利に機能する ことがある。それは、保険関係が存続する=失業していない、と解されるならば、雇用保険の対象になる「失業」 の 要 保 障 事 故 は、 ま だ 生 じ て い な い こ と に な り、 三 編 一 三 八 条 一 項 二 文 一 号 の「就 業 関 係 に な い」 (「就 業 の 喪 失」 ) という要件を充足していないことになる。そこで、連邦社会裁判所は、保険者の事業主に対する保険料の徴収にか かる適用とは別に、保険者の被保険者との受給にかかる関係を「給付法上の就業関係」とよび、就業関係を二元的 に 捉 え る 解 釈 を 示 し て き た。 雇 用 保 険 法 で は 事 実 上 の 4 4 4 4 「就 業 の 喪 失」 (傍 点 筆 者) を 認 め る こ と に よ り、 「給 付 法 上 の就業関係」はない、と帰結され ( 6) る 。連邦社会裁判所は就業関係をこのように解釈することは「機能的に区別され た解釈 ( funktionsdifferente Auslegung ) 」であり、必要である、と強調している。 連 邦 社 会 裁 判 所 一 九 七 九 年 九 月 四 日 事 ( 7) 件 で は、 使 用 者 の 受 領 遅 滞 が 生 じ て い る が、 失 業 手 当 の 支 給 要 件 で あ る 「失 業」 が 当 該 労 働 者 に 生 じ て い な い の か が 争 点 に な っ て い る。 そ こ で、 連 邦 社 会 裁 判 所 は、 社 会 保 険 加 入 関 係 そ して保険料支払い関係とは別に、受給する局面を「給付法上の就業関係」という概念を用いて、事実上「給付法上 の就業関係」が不存在=事実上の失業である、という判断を示した。本件では、事実上の就業の喪失は、使用者が 指揮命令権の行使する意思を有しておらず、被用者の労働力が事実上求められない場合にすでに認められる、とし ている。
最近も雇用保険に関して、連邦社会裁判所二〇一二年七月四日判 ( 8) 決 は、雇用保険法では「給付法上の就業関係」 概念と保険料法上の概念を区別しており、給付法上の「就業の喪失」は、労働関係の存続とは別に、実際にその労 務給付をもはや提供していない者に認められている、という。使用者が指揮命令権を放棄している又は労働者のそ れ 以 降 の 労 務 の 受 領 を 拒 否 し て い る 場 合 に は「就 業 の 喪 失」 で あ る。 「保 険 料 法 上 の 就 業 関 係」 は、 契 約 又 は 法 律 上 は 賃 金 の 継 続 支 払 い 請 求 権 が 存 す る 限 り、 労 働 関 係 の 法 的 終 了 に い た る ま で 存 続 し う る。 他 方 で、 「給 付 法 上 の 就業関係」は、雇用関係とは別に判断され、労務提供と賃金が実際に提供されていなければ終了していると判断さ れ る。 前 者 の「保 険 料 法 上 の 就 業 関 係」 は 保 険 加 入 義 務 及 び 個 々 の 社 会 保 険 の 加 入 者 ( Mitgliedschaft ) の 基 準 に な る の に 対 し、 給 付 法 上 の 就 業 関 係 は「就 業 の 喪 失」 (三 編 一 三 八 条 一 項 二 文 一 号) の 問 題 に か か わ り、 雇 用 保 険 に よ りカバーする「失業」を規定する。 このような就業関係の二面性の把握は、一方で、保険者が被保険者に対して保障する機能を、雇用保険法での失 業を「事実主義」に基づき、雇用関係とは別に認定することにより果たす意味がある。他方で、だからといって、 使用者が恣意的に雇用関係を終了することは許されるわけではなく、むしろ容易に終了させて失業を惹起させる使 用者は、雇用関係の存続と一致させた、保険料にかかわる、保険者との保険関係を切断することは許されない。そ れ を 裁 判 所 は、 「保 険 料 法 上 の 就 業 関 係」 は 存 続 す る と 判 示 し て き た。 具 体 的 に は、 例 え ば、 事 業 主 は、 た と え 労 働者が労務不提供でも、雇用関係の存続に基づき契約又は協約により、あるいは法令により賃金支払義務を負うこ と が あ り (例 え ば、 BGB 六 一 五 条、 六 一 六 条、 有 給 休 暇 法 一 条、 一 一 条、 賃 金 継 続 支 払 法 三 条 一 項 一 文 に よ る 私 傷 病 労 働 者 に 対 す る 賃 金 継 続 支 払 い 義 務) 、 そ う で あ れ ば、 賃 金 支 払 い に 基 づ き 当 該 被 保 険 者 に 対 し て 雇 用 保 険 法 の 保 険 料 支 払い義務から事業主は免れない。というのも、賃金支払い義務を基本として、当該被保険者は、雇用保険法上の関
係 が 強 制 保 険 と し て 成 立 し て い る の で あ り (三 編 二 五 条 一 文) 、「保 険 料 法 上 の 就 業 関 係」 は 終 了 し て い な い か ら で あ ( 9) る 。 社会保険のなかでも雇用保険法での「給付法上の就業関係」は失業の要件の認定が問題になるので、労働者の保 障 の た め に、 「保 険 料 法 上 の 就 業 関 係」 の 有 無 に つ い て の 判 断 か ら 独 立 し て お こ な う、 と い ( 10) う 。 す な わ ち、 失 業 手 当請求権の要件の失業の判断は、連邦社会裁判所は事実上の関係を基準とすることを強調してき ( 11) た 。その点を「事 実 主 義 ド グ マ」 と 批 判 的 に よ ぶ 立 場 も あ ( 12) る 。 し か し、 一 貫 し て 連 邦 社 会 裁 判 所 は、 「機 能 に 応 じ た 解 釈」 が 必 要 で あると強調し、雇用保険法上の受給の局面について展開してきたわけである。これは社会保険の中でも雇用保険で は 重 要 な 意 味 を も っ て い る。 と い う の も、 被 保 険 者 が 失 業 手 当 を 受 給 す る に は 資 格 期 間 を 充 足 す る 必 要 が あ る の で、被保険者を社会的に保障するためには、そのような保険法上の加入資格期間の面では使用関係の存続の思考が 極めて重要になる。他方で、雇用保険の保険事故である失業は使用関係の終了を意味するため、使用関係が存続し て い る な ら ば 保 険 事 故 は 生 じ て い な い、 と 解 さ れ る か ら で あ る。 そ こ で、 連 邦 社 会 裁 判 所 は、 「就 業 関 係」 と い う 概念を機能に応じて解釈するべきであるとの立場を明確にとり、労働者の「保護の必要性」から雇用保険法におい て「給付法上の就業関係」概念を示し ( 13) た 。 ( 3 )「就業の喪失」の一時 ( 14) 性 (ⅰ)就業と不就業の反復 雇 用 保 険 の 守 備 範 囲 の「就 業 の 喪 失」 = 失 業 は、 一 時 的 な も の で な け れ ば な ら な い。 失 業 が 予 測 さ れ て い る、 又 は繰り返される場合、失業は一時的ではなく、雇用保険の保障に適していないのだろうか。わが国では「予定され
た失業」に対して保障は消極的である。 短期間の雇用と失業を繰り返している状態は、確かに、安定した雇用関係にあった労働者に予測不可能に失業が 生 じ た の と は 異 な る。 失 業 手 当 が「一 時 的 な ( vorübergehend ) 」 失 業 に 対 応 す る (二 〇 一 二 年 三 月 ま で 三 編 一 一 八 条 一 項 一 号) と い う 規 定 か ら す れ ば、 不 安 定 な 断 続 的 な 雇 用 労 働 者 に と っ て 失 業 は、 「一 時 的」 と は い え ず、 予 測 さ れうるならば、失業手当受給権の要件を満たさないのだろうか。二〇〇四年一二月三一日まで社会法典三編は、就 業 の 喪 失 は「一 時 的」 (三 編 一 一 八 条 一 項 一 号) で あ る 場 合 に 限 定 す る 旨 の 規 定 を お い て い た。 そ の 後、 三 編 一 三 八 条 か ら、 就 業 の 喪 失 が「一 時 的」 で あ る こ と は 削 除 さ れ て い る。 し か し、 「就 業 の 喪 失」 の 定 義 を 変 更 し て い る わ けではな ( 15) い 。したがって、従来の判決を踏まえて、就業の喪失の「一時性」についての判断を確認しておきたい。 わが国の「予定される失業」に対する保障を排除しようとする考えを見直すことにもなる。 一 方 で、 「一 時 的 な」 就 業 の 喪 失 か 否 か は、 個 々 の 事 情 に よ り 判 断 さ れ る が、 重 要 な の は、 退 職 の 理 由 が 労 働 者 4 4 4 4 4 4 4 4 4 個人の事情によるものではないならば 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 、就業の喪失の一時的性格も否定されない。 労働市場の状況によって 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 労働者 が長期にわたり、しかも仕事に就くまでの期間が不確定で予測できない場合に、だからといって失業ではない、と はいえない (傍点、筆 ( 16) 者) 。相対的に長期の、予測できない失業というリスクも、それを保障するのは雇用保険の目 的であるからである、と。他方で、労働が一時的で、有期の就業関係しか成立していない場合でも、短期就業の間 に生じる就業の喪失も、失業として捉えられ ( 17) る 。連邦社会裁判所の判示によれ ( 18) ば 、失業は、労働者の業務が、将来 に対して、期間が限定されていない又は一定の意味ある期間に達成されることは必ずしも前提にされない。予定さ れた就業の喪失は、保障されるべき失業ではない (「予定された失業」は失業ではない) 、とはいえない。
(ⅱ)争訟事例 「給 付 法 上 の 就 業 関 係」 の 解 消 に つ い て、 連 邦 社 会 裁 判 所 一 九 九 八 年 九 月 一 〇 日 事 ( 19) 件 で は、 原 告 の 労 働 者 は 大 学 食堂で働いていたが、春休みの一九九六年二月八日から三月一二日は労働関係が停止していたため、失業手当の申 請 を し た と こ ろ、 被 告 の 労 働 行 政 は、 原 告 の 業 務 は 停 止 ( Ausseztung ) し て い る が、 期 間 の 定 め の な い 就 業 関 係 が なお存続中であり、失業しているわけではないという理由で、失業手当の支給拒否処分を行った。これに対して、 連邦社会裁判所第七小法廷は、被告の上告を棄却している。本件では労働者に就業の準備 ( dienstbereich ) がなく、 使用者の事実上の指揮命令権に従っていない場合である。労働関係がなお存続していても、就業が実際に終了して い る と 判 断 さ れ れ ば、 「給 付 法 上 の 就 業 関 係」 は 終 了 し て い ( 20) る 。 一 九 九 八 年 判 決 で は、 労 働 関 係 は 存 続 し て い る が、就業が事実上終了している場合、つまり就業者の就業関係を形成する人的従属性、それは使用者の実際の指揮 命令権と労働者の就労の準備に現れているが、人的従属性がない場合には雇用促進法一〇一条の就業関係はない、 としている。その際に重要な意味があるのは、個別事例におけるあらゆる事実上の諸事情の総合的判断である、と 一九九三年九月九日判 ( 21) 決 を確認している。そして、本件の原審の事実認定によれば、原告の労働義務及び使用者の 賃金支払い義務は当該争われている期間につき停止している点で一致している。原審は、そして、原告の労働義務 も 使 用 者 の 賃 金 支 払 い 義 務 も な く、 そ し て 就 業 関 係 は (一 時 的 に) 実 際 に 終 了 し て い る と 評 価 し た。 当 該 期 間 に つ い て 使 用 者 の 処 分 の 可 能 性 ( Zugriffsmöglichkeit ) は な い と い う。 さ ら に 本 判 決 は、 雇 用 促 進 法 一 〇 一 条 一 項 一 文 の いう「就業の喪失」は一時的なものである、とし、そのことは、労働契約上の停止期間であり、失業の予見される ( voraussichtlich ) 期 間 が 約 五 週 間 に 限 定 さ れ て い る こ と と 矛 盾 し な い、 と い う の も 失 業 は 予 見 さ れ る 就 業 の 喪 失 が 単に僅かな期間だけではない場合にはじめて存するわけではない。一時的というのは、従属労働者としての職業生
活から永久に排除される人と区別するものであると、と判示する。 こ う し た 連 邦 社 会 裁 判 所 の 判 断 は、 例 え ば バ イ エ ル ン 州 社 会 裁 判 所 二 〇 一 〇 年 五 月 五 日 判 ( 22) 決 で も 確 認 さ れ て い る。本件事件では、長期の私傷病の労働者と使用者は雇用関係を存続させる意思をもっていたが、従来の労務を提 供できない労働者に別の職場を提供したところ、これを労働者が拒否し、失業手当を申請している。本件では、労 務の提供されていない期間中も使用者はさらに別の職場を探す努力をしていたが、労働者は就労していないし、使 用者も賃金を支払っていなかった期間を「就業の喪失」といえるのか否かが争点になり、失業手当を拒否した労働 行政を相手に支払いを求めた。バイエルン州社会裁判所は行政の控訴を棄却し、上告を却下している。 労 働 者 が 負 傷・ 疾 病 で 一 時 的 に 働 く こ と が で き な い 場 合 に、 そ の つ ど 就 業 関 係 (わ が 国 の 使 用 関 係) も 存 続 し な いならば、雇用保険はもとより被用者保険による保障はきわめてその機能が脆弱になる。同様に、労働する能力が あるのに、使用者が受領を拒否する、あるいは短期の雇用期間と不就労期間を反復するような関係でしか働くこと ができないとすれば、労働力に依拠して生活している労働者とその家族に対して被用者の社会保険として機能する はずの失業や傷病等の保障は実現しにくい。その典型例が、細切れ雇用と呼ばれる、定期的に安定して就労できず に、就労と不就労の期間を繰り返す働き方であり、労働者が不就労の期間につき失業手当を求めている。行政の運 用では、就労期間の終了と同時にそのつど保険関係が終了していると評価され、失業手当の請求は資格期間不充足 を 理 由 に 認 め ら れ な か っ た。 そ れ に 対 し て、 連 邦 社 会 裁 判 所 一 九 九 八 年 一 二 月 三 日 判 ( 23) 決 は、 労 働 者 が 就 労 し た 後 に、賃金が支払われない不就労の期間が続き、その後また同様に就労・不就労を繰り返す、継続的な労務の提供で ない場合に、それぞれの短期の就労ごとに保険料法上の就業関係を切断することを否定している。 そうした考え方を示した前掲連邦社会裁判所一九九八年一二月三日判決を基に、州社会裁判所も失業手当の請求
権を認めたものがある。ザクセンアンハルト州社会裁判所二〇一二年二月一六日判 ( 24) 決 は、失業手当の申請を拒否し た被告側の控訴を棄却している。本件は労働者の原告が失業手当を約一年間受給した後に、数日間の就労と不就労 を反復していた事例である。原告はマスメディアのプロデューサーとして翌月の業務を事業者から申し入れがあれ ば個別の合意によりはじめて契約が具体的に成立するものであり、月の三分の一から半分程度の日数を就業してい た。争点は原告の不就労を失業と評価できるのか、そうした短期の不就労を予定した就労であるのかであり、労働 行政は後者の立場から就労の開始を理由に支給処分を取消した。それに対して、原告は、就労を開始したのではな く、むしろ不就労期間につき失業手当を支給する義務が行政にあると主張している。州裁判所は、原審と同様に、 不就労を「失業」と評価し、支給拒否処分の取消しと支給の義務づけを認容している。本件では、月のかなりの日 数を業務に従事している場合に、不就労期間も含む継続的な労働関係の成立を認めるには、その期間が六カ月以上 継続する場合であること、さらに不就労期間も支払いの対象であることが月収から評価できること、具体的には月 収が二〇〇〇から八〇〇〇ユーロに至ることである、とし、本件原告の月収からすれば不就労期間を予定した額は 一 度 も な い、 と (八 月 は 六 三 九、 七 六 ユ ー ロ、 九 月 は 一 三 六 五、 九 四 ユ ー ロ 等) 。 つ ま り、 全 体 と し て 当 該 就 業 に つ く こ 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 とが生計を確保できる就業関係ではない 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 、と (強調、筆者) 。結論として三編一一九条の「就業の喪失」であり、失 業手当の要件を充足するとしている。 以上のように、労働者が老齢又は傷病・障害により年金生活に入らない限り、一時的な雇用喪失は雇用保険法上 の要保障事故であること、また細切れ雇用は不就労を含む働き方ではなく、一定の収入が確保されていない限り、 就業していない期間は「失業」であることが確認できた。 本 章 で 取 り 上 げ た「給 付 法 上 の 就 業 関 係」 の 解 釈 は、 給 付 制 限 規 定 の 自 己 都 合 退 職 の 要 件 で あ る「 『就 業 関 係』
の 解 消 ( Lösung des Beschäftigungsverhältnis ) 」 に も 継 承 さ れ て い る。 そ こ で、 次 章 で は 労 働 者 の 行 為・ 態 度 に 注 目 して給付制限を検討したい。 注 ( 1) BSG Urt.v.28.9.1993 E 73, 126. Auch vgl. Schweiger, Die Auswirkungen des §623 BGB auf das Recht der Lohnersatzleistun -gen im SGB III, NZS 2001, 519, 521; Wilke, Das Verhältnis des sozialversicherungsrechtlichen Beschäftigungsverhältnisses zum zivilrechtlichen Arbeitsverhältnis, 2009, S.266. な お、 上 田 真 理「被 用 者 保 険 法 に お け る 保 険 関 係 の 成 立 及 び 存 続 に 関 す る 法 的 課 題」 『東洋法学』五六巻一号(二〇一二年)一二七頁以下参照。 ( 2) Gagel, Probleme mit Anfang und Ende des Beschäftigungsverhältnisses, der Mitgliedschaft und der Beitragspflicht, SGb 1985, 268ff.. Auch BSG a.a.O., E 73, 126, 128; BSG Urt. v. 05. 02. 1998, SGb 1999, 85ff.; BSG Urt. v. 03. 06. 2004, SozR 4-4300 §123 Nr. 2; BSG Urt. v. 24. 09. 2008 SozR 4-2400
§ 7Nr 9; LSG Niedersachsen Urt. v. 13. 12.2001 L 8AL 368/00.
( 3) BSG Urt. v. 25. 09. 1981 E 52, 152, 156. ( 4) Wilke, a. a. O., S. 432 u. S. 433. ( 5) BSGE 52, 152. ( 6) BSG Urt. v. 18. 09. 1973 SozR Nr 73zu §165 RVO; BSG Urt. v. 25. 09. 1981 E 52, 152; BSG Urt. v. 26. 11. 1985 E 59, 183, 185 ;BSG Urt. v. 15. 06. 1976 E 42, 76, 81f.. ( 7) USK 79268. ( 8) SozR 4-4300 §123 Nr. 6. 本 件 で は 早 期 に 老 齢 年 金 を 受 給 し た 被 保 険 者 が 失 業 手 当 の 資 格 取 得 期 間( Anwartschaftzeit ) を 充 足 し て い る の か が 争 い に な り、 当 該 期 間 は 充 足 し て い な い と、 原 告 側 の 請 求 を 棄 却 し て い る。 な お、 本 件 の 原 審 で あ る L S G N R
W二〇一一年六月三〇日( L 16 ( 1 ) AL 33/09 )は、使用者は一方的に提供された労務の受領を拒否して社会保険保護の存続( Be -stand ) を「恣 意 的 に 使 う( disponieren )」 こ と は 許 さ れ な い。 典 型 的 に は 非 自 立 的 業 務 の 遂 行 と 結 び つ い た 労 働 者 の 保 護 の 必 要 性 ( Schutzbedürfnis ) は、 使 用 者 が 労 働 関 係 存 続 中 に 労 働 力 を 求 め る こ と を 拒 否 す る こ と で、 小 さ く な る わ け で は な い、 と 強 調 し て いる。 ( 9) BSG Urt.v.24.09.2008 SozR 4-2400 §7 Nr. 9. ( 10) 二 つ の 就 業 関 係 に つ い て、 Ockenga, Das Arbeitsverhältnis- Wechselwirkungen von SGB III und Arbeitsrecht, in: Mittag/ Ockenga/ Schierle/ Vorbau/Wischnath ( Hrsg. ), Die Sicherung von Arbeitnehmerrechten, 2008, 56, 60ff. が あ る 。 Auch vgl. Geiger, Die Beschäftigungslosigkeit als Anspruchsvoraussetzung für den Bezug von Arbeitslosengeld,info also 2009, H. 6, S. 243ff.; Rolfs Anmerkung zu BSG Urt. v. 21. 07. 2009 SGb 2010, 307, 308. ( 11)
BSG Urt. v. 09. 09. 1993E 73, 90, 94; BSG Urt. v. 28. 09. 1993E
73, 126, 128; BSG Urt. 17. 10. 2002 SozR 4-4300 §144 Nr. 12. ( 12) Hanau/Greiner, Fortsetzung des Beschäftigungsverhältnisses bei Unterbrechung der Beshäftigung, in:Bieback/Fuchsloch/ Kohte, Arbeitsmarktpolitik und Sozialrecht, Zu Ehren von Gagel, 2011, 103, 116 では、二〇〇九年七月二一日判決をあげて、従来 の判決を変更し、給付制限の期間を法的に終了する時点から起算させるとしている。 ( 13) BSGE 59, 183, 185. 学説でも特に雇用保険では機能により区別された解釈がおこなわれるべきであると解されている( Wilke,a. a.O.,S.338ff. )。 ( 14) 本 稿 で は 検 討 で き な い が、 労 働 者 の「失 業」 の 認 定 に、 「障 害」 年 金 と の 継 続 性 が 視 野 に 入 れ ら れ て い る 点 に ド イ ツ 法 の 特 徴 が あ る。 「失 業」 に 対 す る 雇 用 保 険 は、 継 続 的 に 長 期 に わ た り 労 務 が 提 供 で き な い 場 合 に は 適 用 さ れ な い た め、 そ こ に 本 来 は「障 害」 年 金 と の 画 定 問 題 が 生 じ る、 と い う こ と で あ る。 雇 用 保 険 の 対 象 の「失 業」 は、 被 用 者 保 険 の 対 象 で あ る 高 齢、 障 害、 傷 病 と ち が っ て、 労 働 能 力 を 有 す る こ と が 前 提 に な っ て い る。 わ が 国 の 雇 用 保 険 法 四 条 三 項 に 失 業 の 定 義 が「意 思 及 び 能 力 を 有 し て い る」 と さ れ て い る が、 「労 働 能 力 を 有 す る」 と い う 要 素 に 関 連 す る 論 点 で あ る。 わ が 国 で は 労 働 能 力 が 十 分 に あ る と は 言 え な い 失 業 者 に 関 心 が 小 さ い こ と か ら、 あ ま り 争 点 に な っ て い な い が、 わ が 国 で は 老 齢 年 金 の 開 始 に は ま だ 早 い 世 代 の 非 労 働 力 人 口 の 増 加
に 関 連 し て い る の で は な い だ ろ う か。 労 働 能 力 は、 健 康 状 態 に よ る だ け で は な く、 健 康 状 態 が 良 く な い た め に フ ル タ イ ム で 仕 事 が で き な い 場 合 に、 労 働 市 場 の 状 況 に よ り 職 場 数 が 十 分 に 提 供 さ れ な い と い う 事 情 に も 影 響 を 受 け る。 そ こ で、 労 働 能 力 の 有 無 を 判 断 す る 際 に は、 健 康 状 態 か ら 能 力 が あ る と い え る だ け で は な く、 労 働 者 に 提 供 さ れ る 職 場 が あ る の か も 勘 案 す る こ と が、 重 要 な ポ イントになっている。 ( 15) BT-Drucks.15/1515 Nr.62 §119. ( 16)
Steinmeyer, in: Gagel
( Hrsg. ), SGB II/SGB III, 2013, §119 Rn. 60. ( 17)
Steinmeyer, in: Gagel
( Hrsg. ) a. a. O., SGB III §119Rn. 61. ( 18) BSG Urt. v. 03. 06. 1975, 7RAr 81/74,juris; BSG Urt. v. 15. 06. 1976, E 42, 76, 7RAr 50/75, SozR 4100 §101 Nr. 2; BSG Urt. v. 20. 03. 1984, 7RAr 7/83, Juris. ( 19) BSG Urt. v. 10. 09. 1998 SozR 3-4100 §101 Nr. 9. Auch vgl. BSG Urt. v. 05. 02. 1998 SGb 1999, 85ff.. ( 20) BSG Urt. v. 09. 09. 1993 E 73, 90, 93; BSG Urt. v. 28. 09. 1993
E73, 126, 128; BSG Urt. v. 10. 09. 1998 SozR 3-4100
§101 Nr. 9. ( 21) BSG a. a. O., E 73, 90, 94. ( 22) L 9AL 303/07. Auch vgl. Sächsisches LSG v. 19. 11.2009. 本件では同一の使用者に、停止、中断を挟んで雇用されている場合 に、停止期間を「就業の喪失」=失業であるとしている。 ( 23) BSG Urtv. 03. 12. 1998 SozR 3-4100
§104 Nr. 16. Auch vgl. BSG Urt. v. 10. 09. 1998 SozR 3-4100
§101 Nr. 9. ( 24) L 2AL 42/08. 本 件 原 告 の 不 就 労 の 期 間(二 〇 〇 四 年 一 〇 月 五 月 か ら 七 日、 一 〇 日 か ら 一 四 日 等) を 失 業 と し て 認 定 し、 行 政 の支給義務を認めている。
Ⅲ 積極的行為による自己都合退職 1 給付制限の要件としての「自己都合」退職 ( 1 )給付制限の運用 わ が 国 の 雇 用 保 険 法 三 三 条 に よ る 給 付 制 限 の 趣 旨 は、 「離 職 し た 被 保 険 者 が 基 本 手 当 の 支 給 を 受 け る こ と が で き るためには、失業が非任意的なものであると社会的に是認され、それに対する保護の必要性が社会的に要求される べ き も の で な け れ ば な ら な い」 、 と さ れ て い ( 1) る 。 わ が 国 で は「自 発 的」 退 職 と 認 定 さ れ る 割 合 が 高 い ( 2) が 、「任 意」 で、保護の必要性が求められない失業に果たして給付制限が限定されているのか、改めて検討が必要である。 ド イ ツ で は 二 〇 一 一 年 の 統 計 に よ れ ば、 約 八 割 の 労 働 者 が 雇 用 保 険 の 失 業 手 当 請 求 権 を 有 し て い ( 3) る 。 し か し、 二 〇 一 一 年 の 失 業 者 総 数 二 九 七 ・ 六 万 人 の う ち 失 業 手 当 Ⅰ 受 給 者 は 七 二 万 八 〇 〇 〇 人 で あ り、 そ れ に 加 え て 一九九万二〇〇〇人の失業者が失業手当Ⅱという租税による給付を受給してい ( 4) る 。なお、後者の失業手当Ⅱは雇用 保 険 の 受 給 資 格 を 充 た さ な い 又 は 所 定 給 付 日 数 を 過 ぎ た 場 合 に 最 低 生 活 を 保 障 す る が、 失 業 手 当 Ⅱ 受 給 者 の 四 三 ・ 二 % が 失 業 者 で あ る。 失 業 者 全 体 で み れ ば、 約 九 割 の 失 業 者 が 失 業 手 当 Ⅰ か Ⅱ を 受 け て い ( 5) る 。 雇 用 保 険 の 基 本 手 当 に 該 当 す る 失 業 手 当 Ⅰ の 受 給 資 格 者 に 対 す る 給 付 制 限 が 適 用 さ れ た 失 業 者 の う ち (二 〇 一 一 年、 七 二 万 八 二 二 三 人) 、 自 己 都 合 退 職 を 理 由 と す る の は 失 業 者 の う ち 二 五 ・ 七 % で あ り、 届 け 出 の 懈 怠 が 三 三 ・ 九 %、 求 職 届 の 遅 滞 が 三 二 ・ 九 % で あ ( 6) る 。 三 編 で は 届 け 出 の 懈 怠 は 二 〇 〇 五 年 か ら、 求 職 の 届 け 出 が 二 〇 〇 六 年 か ら の 統 計 であり、それまで給付制限規定の大半を一号の離職が占めていた。とくに二〇〇〇年までは給付制限の約八割が自
己都合退職によるものであったが、二〇〇三年に五六 ・ 二%に、二〇〇五年に四三 ・ 九%と、減少し、二〇〇八年以 降はほぼ二五%である。 連邦議会の資料からも最近の給付制限規定の適用に関する動向をみれば、二〇一〇年に給付制限にかかったのは 総数七六万五四九七件であり、そのうち離職又は契約違反の行為によるものが一九万四九四三件、労働拒否を理由 と す る 給 付 制 限 が 二 万 四 一 六 四 件、 自 己 努 力 の 不 十 分 さ に よ る も の 一 万 四 三 八 九 件、 統 合 措 置 の 拒 否 は 一万二五八五件、統合措置の中断六二九四件、求職の届け出の遅滞によるのが二五万三八一〇件、届け出の懈怠に よるのが二五万九三〇九件であ ( 7) る 。二〇〇五年までは、多くは自己の都合による退職であった。給付制限規定が適 用されるなかで自己都合を理由とするものは一九九〇年に八三%、二〇〇四年に五七%を占めている。近年、届け 出 の 懈 怠 や 求 職 の 遅 滞 を 理 由 と す る 給 付 制 限 規 定 の 適 用 が 総 数 の 約 三 分 の 二 以 上 を 占 め て い る と い う 変 化 が あ る が、自己都合退職によるものも少なくはない。しかし、ドイツでは、争訟が多く提起され、しかも二〇〇七年から 受給者の請求の認容率が高くなっているのも特徴である。たとえば、二〇一〇年に給付制限をめぐる提訴は、給付 制 限 全 体 で 五 二 一 三 件 あ っ た が、 そ の う ち 二 二 六 〇 件 は 原 告 側 の 主 張 が 認 容 さ れ て お り、 ほ ぼ 四 三 ・ 三 五 % の 認 容 率になってい ( 8) る 。 ( 2 )「自己都合」退職に対する給付制限の要件 給付制限は、労働者が自ら失業を過失又は重過失により惹起した場合に適用されるが、その性格について、連邦 社会裁判所は次のように判示している。雇用保険法の資格を取得している労働者は、被保険者として、保険関係の 成立により同一の被保険者共同体の仲間に故意又は重過失により「損害」を生じさせることを回避する義務を負っ
て い る。 そ の よ う な 保 険 関 係 か ら 生 じ る 一 般 的 な 義 務 ( Obliegenh ( 9) eit ) を 負 っ て い る に も か か わ ら ず、 「重 大 な 理 由」なく退職する場合に、義務違反に対する制裁的効果が認められる。要件と効果を概観しておこう。 雇用保険の失業手当は、一方で、労働者又は労使の双方がその合意により公的な社会保険を濫用して事業所のリ ス ト ラ を す る 危 険 を 内 在 し、 そ れ を コ ン ト ロ ー ル す る こ と が 課 題 に な る。 他 方 で、 失 業 者 が 新 た に 雇 用 を 探 す 際 に、失業者が不本意な職業に就くことを事実上強制されないことが求められる。 雇用関係を終了する際に、日本とちがって、雇用関係の終了についての契約を締結し、文書で条件について取り ま と め る こ と が 課 さ れ て い る (B G B 六 二 三 条) 。 他 方 で、 雇 用 保 険 法 の 給 付 請 求 権 に か か わ る「失 業」 は、 雇 用 関 係 (労 働 契 約) の 解 消 と は 独 立 し て 判 断 さ れ る た め、 三 編 は「就 業 関 係 の 解 消」 と い う 文 言 を 用 い て い る (一 三 八 条、 一 五 九 条 一 項 一 号) 。 し た が っ て、 雇 用 関 係 の 終 了 の 条 件 を 満 た し て い な い た め、 形 式 的 に は 雇 用 関 係 は 存 続 し ているにもかかわらず、就業関係は「解消」している、つまり失業していると判断されることがある。 連邦社会裁判所は、二〇〇二年一〇月一七日判決で、事実上の「就業の喪失」と認められる場合には、失業手当 の 請 求 権 が 成 立 す る、 と し て い る ( 10) が 、 本 件 は、 雇 用 関 係 を 法 的 に 終 了 す る 前 に 労 務 の 停 止・ 免 除 ( Freistellung ) に ついて合意し、事実上就業していない事案であり、その時点に失業が発生しているとしている。一一小法廷は、す で に 事 実 上 の「就 業 の 喪 失」 に つ い て、 雇 用 促 進 法 一 一 九 条 一 項 一 号 も 三 編 一 四 四 条 一 項 一 号 (二 〇 一 二 年 四 月 か ら 一 五 九 条 一 項 一 号) も 客 観 的 事 実 に 結 び 付 け て 判 断 す る、 と し て い ( 11) る 。 そ れ は 同 時 に、 社 会 法 典 三 編 が 自 己 都 合 退職による給付制限規定の失業者とはだれかを規定する際にも依拠すべき考え方である、という。つまり、給付制 限 に よ る 効 果 が 生 じ る の は、 客 観 的 に 判 断 し て、 事 実 上 の 失 業 が い つ 生 じ て い る の か (就 業 関 係 の 喪 失) が 基 準 に なる。
社 会 法 典 三 編 一 五 九 条 は、 わ が 国 の 雇 用 保 険 法 三 三 条 に よ る 自 己 都 合 退 職 に 類 似 の 規 定 を 定 め て い る (一 項 一 号) 。 そ れ に よ る と、 「保 険 に 違 反 す る 行 為」 の 一 つ に、 自 己 都 合 退 職 が あ り、 す な わ ち、 失 業 者 が 就 業 関 係 を 解 消 し ( lösen ) 又 は 労 働 契 約 に 違 反 す る 行 為 に よ り 就 業 関 係 の 解 消 の き っ か け を 作 り、 そ れ を 通 じ て 故 意 又 は 重 過 失 に より失業を惹起した場合に、退職に際する給付制限 ( Sperrzeit bei Arbeitsaufgabe ) が生じる。その要件は、まず、 「就 業 関 係 の 解 消」 (ⅰ) 、 そ の 結 果 と し て の 失 業 の 発 生、 つ ま り 離 職 と 失 業 の 因 果 関 係 ( Kausalität ) が あ る こ と (ⅱ) 、失業が故意又は重過失によること(ⅲ)である。その上で、自己都合退職に「重大な理由」があれば、給付 制 限 は 生 じ な い た め、 「重 大 な 理 由」 の 有 無 が 審 査 に 加 わ る。 な お、 三 編 一 五 九 条 は、 保 険 に 違 反 す る 行 為 を し た 者 は「重 大 な 理 由」 の 判 断 の 基 準 と な る べ き 事 実 が 自 ら の 領 域 ( Sphäre ) 又 は 自 ら の 責 任 領 域 ( Verantwortungs -bereich ) に あ る 場 合 には、 そ れ ら の 事 実 を 主 張 し ( darlegen ) 、 か つ 立 証 し ( nachweisen ) な け れ ば な ら な い、 と す る (一 項 三 文) 。 以 下 で は、 失 業 者 の 積 極 的 な 行 為 に 基 づ く 就 業 関 係 の 解 消(ⅰ) 、 因 果 関 係 の 存 在(ⅱ) 、 重 大 な 過失があること(ⅲ) 、についての判断を、順に検討し、 「重大な理由」の有無については次章で扱う。 2 「自己都合退職」概念の捉え直し ( 1 )「就業関係の解消」 (ⅰ)契約期間の満了による終了は自己都合か 社会法典三編は、自己都合退職についての詳細な基準を明文化しているわけではなく、連邦社会裁判所が判例を 蓄積することによりルールが形成されてきた。退職が「自己都合」か否かについて、最初のメルクマールは、被保 険 者 が「 『就 業 関 係』 を『解 消』 し て い る」 の か 否 か で あ る。 こ こ で は、 失 業 者 の「就 業 関 係」 が 終 了 し、 そ れ が
失 業 者 の「積 極 的 な 行 為・ 態 度 ( Verhalten ) 」 に よ る の か 否 か が 争 点 に な っ て い る。 「『就 業 関 係』 の 解 消」 と い う 場合には、 「就業関係」は労働関係と区別され、事実主義に基づく判断であることは上で確認した通りである。 「就 業関係の『解消』 」という文言を用いられていることからも、 「解消」とされるような積極的な行為により、労働者 が 失 業 に 強 く 関 与 し て い る の か、 が 争 わ れ る こ と に な る。 こ こ で は、 「解 消」 に つ い て 争 い に な っ た 事 例 を み て い こう。 まず、被保険者による「解消」と評価される行為が必要であるとしても、どのような事態をもって「積極的な関 与」といえるのかが問題になる。最初にとりあげたいのは、わが国に重要な示唆を与える、有期労働契約の期間満 了による退職である。有期労働契約が締結されると、期間満了により雇用関係が終了する。わが国では、定年退職 も 有 期 労 働 契 約 も、 将 来 の 一 定 の 時 期 に 雇 用 関 係 の 終 了 が 予 定 さ れ て い る こ と を 捉 え、 「予 定 さ れ た 失 業」 に つ い ては保障の必要性が大きくない、とされている。また、それは雇用保険法三三条が適用される自己都合退職である こ と に 疑 い が も た れ て い な い。 し か し な が ら、 一 定 の 時 間 の 経 過 に よ り 雇 用 関 係 が 終 了 す る な ら ば、 被 保 険 者 の 「積 極 的 な 行 為・ 態 度」 が あ る と い え る の で あ ろ う か。 む し ろ、 労 働 者 は 失 業 の 惹 起 に 積 極 的 に 関 与 し て い な い、 と評価されるべきであり、自己都合による「離職」ではない、と捉え直すことが必要である。ドイツでは、有期労 働 契 約 の 期 間 満 了 に よ る 退 職 は、 雇 用 保 険 法 (社 会 法 典 三 編) の 給 付 制 限 が 生 じ る「自 己 都 合」 の 要 件 を 満 た さ な いという点に何ら争いがない。有期労働契約の期間の満了は、雇用関係の終了についての「合意」が存していない ため、合意退職ではない。 見解が一致していないのは、契約更新の可能性があった場合に労働者がそれを利用しないで雇用関係を終了した とすれば、契約更新をしなかったのは「解消」と認められるとする立場がある一方 ( 12) で 、有力説は、有期労働契約の