欧州の温暖化対策 : 排出量取引を中心にして
著者
木船 久雄
雑誌名
名古屋学院大学論集 社会科学篇
巻
41
号
2
ページ
49-73
発行年
2004-10-31
URL
http://doi.org/10.15012/00000816
名古 屋学 院大学論集 社会科学篇 第41巻 第2号 (2004年 10月)
欧州 の温暖化対策
―
排出量取引を中心 にして 一
木 船
久
雄
目 次 はじめに 1.京都議定書の現状 2.欧州諸国の温暖化対策 3.欧州の排出量取引制度 4.排出量取引制度の理論的検討 おわ りに はじめに わが国は,2002年
6月に京都議定書を批准 した。 しかし,そ
の後の1年余 りの時間において,日本 国内における温暖化対策に関する議論は「凪」状態で,対
策に向けた議論は遅 々として進んでいない。 その典型は,2003年
度に行われた産業構造審議会地球環境小委員会の議論であり,そ
こでは「京都議 定書」がまるで悪者かのように扱われた1)。 これには2004年が米国 。ロシアともに大統領選挙の年であり,両
国において地球温暖化が大 きな 争点にならないことや,京
都議定書発効のカギを握るロシアの態度が不透明であることも関係 してい よう。 しかし,今
を「凪」 と認識 し,問
題解決を先延ばしするだけでは,近
い将来 日本が窮地に立つ ことは必至である。なぜなら, ロシアが議定書に批准する可育齢生は高いからである。そうなれば否が 応でも,わ
が国は地球温暖化ガス削減に向けた強攻策を打たざるを得ず, タイムスケジュールから見 れば,第
1約束期間の2008年∼ 2012年 はすぐ目の前にあるからだ。 既に欧州では着々と温暖化対策を進め,2005年
にはEU大
での 聰F出量取引制度」が開始 されよう としている。制度導入を呼びかけて以来,数
年の懐妊期間を要 した。新 しい制度を構築 しようとすれ ば,そ
れなりに時間が必要であることをEUの
実験が教えて くれている2)。 本稿は,欧
州の温暖化対策に向けた議論を整理 しなが ら,わ
が国が検討すべ き環境政策への含意を 探 ることを目的としているのである。なお,本
論の構成は, まず京都議定書の現状を確認 し,次
いで 欧州の温暖化対策の概要を述べる。 さらに,温
暖化対策のカギを握る排出量取引制度について英国お よびEUで
の状況を整理 し,最
後にわが国へのインプ リケーションをまとめる。 1)産業構造審議会・環境部会地球環境小委員会 (2003) 2)米国においても,自 発的な温暖化ガス排出量取引市場が成立している。名古屋学 院大学論集
1.京
都議定書の現状1.1
温暖化対策の取 り組み 欧米で異常気象が観測 された1988年は,米国や英国の議会 において,ハンセンなど高名な科学者達 による温暖化現象についての証言が行われた。 そのため,そ
の年の メデ ィアはこぞ って この問題を と りあげ,地
球 の危機 とい うキ ャンペーンを張 った。翌1989年には国連の場にIPCC(気
候変動 に関す る政府間パ ネル)が
設置 され, この問題は実務家によって対処 され るべ き問題 として位置付けられ る よ うにな った。 それ以降,
リオ・ サ ミッ ト(1992年),気
候変動枠組 み条約 の発効 (1994年),京
都 会議 と同議定書 の採択 (1997年),米
国 によ る同議定書 の離脱 (2001年),同
議定書 の 日本 の批准 (2002年)と
い った動 きは,広
くマスメデ ィアに も取 り上げ られて きた。 こうした地球温暖化問題 に対す る国際的な取 り組みの主な ものを列挙すれば,以下 のよ うになる3)。 1989年 1992年 1994年 1995年 1997年 2001年 2002411 2003`年:IPCC(気
候変動 に関す る政府間パ ネル)の
設置UNCED(環
境 と開発 に関す る国連会議)地
球 サ ミット 「気候変動枠組み条約 (UNFCCC)」 の発効 同条約 の第1回締約国会議 (COP1 3月,ベ
ル リン)COP3(12月
京都会議,京
都議定書 の採択) 米国の京都議定書か らの離脱 (3月)COP7(11月
マ ラケシュ,京
都議定書 の運用細則合意) 日本の京都議定書批准 (6月)COP9に
て京都議定書が発効か と観測 された。 しか し,同
年 9月 に ロシアで行 われた世界 気候会議を前 に, ロシアのプーチン大統領は態度を保留。 米 口の大統領選挙 2004`年:1.2
京都議定書の数値目標 と発効要件 1997年 12月に第3回締約国会議(COP3,京
都会議)で
採択 された京都議定書は,先
進国に対 し, 法的拘束力を持つ温暖化ガス排出抑制の数値 目標が明記 されている。同議定書の第3条は,2008年∼ 2012年 の5年間の約束期間において,附
属書B国
(先進国)全
体で 1990年 の水準の少な くても5%
削減することを記 した。 また,日本は6%,米
国7%,EU8%,ロ
シア0%と
いった削減目標が設定 されている。 この京都議定書が国際条約 として発効するには,二
つの要件がある。現在 (2004年7月)の
とこ ろ,そ の要件は満たされていないため,条
約 として発効 していない。その発効要件 とは,①55ヶ国以 上の批准,②
批准国のC02排出量が全体の55%以
上,で
ある。 第1の「55ヶ国以上の批准」 とは,気
候変動枠組み条約附属書 I国(=京
都議定書の附属書B国
, 3)京都議定書の交渉経緯については, 日引 (2004)が 詳 しい。欧州 の温 暖化対策
いわゆる先進国
)+非
附属書 I国 (いわゆる途上国)合
わせて55ヶ国以上が批准すること,で
ある。UNFCCC事
務局の集計では,附
属書I国が32,非
附属書I国が 88の 合計120ヶ国が批准 している(2004年7月末)。 そのため
,第
1の 要件は満たされる。 第 2の「批准国のC02排出量が全体の55%以
上」とは,京
都議定書を批准 した附属書 I国 のC02排 出量合計が,附属書 I国全体のC02排 出量の55%を
超えること,で ある。附属書 I国 は38ヶ国 (地域) あるが,2001年
に米国が議定書離脱を表明 した後,オース トラリアもこれに追随 している。 この他に 未だ批准に至 っていない国は, ロシア・ モナコ・ リヒテンシュタインの3ヶ国である。 日本を含めた 既に批准済み諸国のC02排 出量合計は,附属書 I国 全体の44.2%を占める。それゆえ,未批准国でC02 排出量が大 きなロシアの決定が,京
都議定書が発効するか否かのカギとなる。1.3
京都議定書の問題点 議定書に対するロシアの態度を見極められないため, 日本国内では,相
変わらず議定書に対する批 判的な議論が散見 される。例えば山口光恒慶応大学教授は,京
都議定書に次の三つの欠陥があるた め,議
定書を組替えるべきだと指摘する4)。 三つの欠陥とは,①削減の数値目標,②コス トヘの配慮の 無 さ,③
議定書が持つカバー率,で
ある5)。 氏の主張に従えば,お
よそ次のようになる。議定書で定められた削減数値 目標は,根
拠が希薄な政 治的妥協の産物に過ぎないい。 また,削
減 コス トは経済状況によって変わるものなのに,議
定書は絶 対値で数値目標を定めており,遵
守 コス トを配慮 していない。 さらに,米
国が離脱 した段階で,議
定 書によって削減義務を負 う国は世界のC02排出量からみたら3分の1に過ぎない。 これでは,グ
ロー バルな対応を迫 られるべき温暖化対策に実効力に欠けるのではないか, というものだ。 産業構造審議会 。地球環境小委員会の報告書でも同様な見解が示 され,京
都議定書が国際条約 とし て異色であることを指摘 している。つまり,国
際条約では各国の行動規範を定めるのが通例であり, 京都議定書のように結果責任を定めているのは異例である, という7)。 確かに,京
都議定書には幾つかの問題が存在する。 とりわけ,上
で示 した中では,「カバー率」が最 大のそれであろう。それ以外の問題点は,例
え政治的妥協の産物であろうが, コスト配慮に欠けよう が,そ
れを採択 したのは日本政府であり,国
会が承認 している点を忘れてはならない。正当な手順を 踏み, しかも採択から批准 までには5年もの時間をかけてきたのであるから,議
定書の問題点や特徴 は十分承知の上である。 問題は米国不参加後のカバー率の低さであり, これによって,途
上国へ排出源が移転 され,そ
れを 通 じた世界の温暖化ガス排出量増加が懸念 されることである。 4)山口光恒 (2003)日 本経済新聞,『経済教室』,2003年 11月 19日 5)①や②から, 日本の産業界から「 日本の省エネルギーは,既に乾いた雑巾を絞 る状況にあり,追加的な余地が小 さく, これ以上の経済的な負担は国際競争力を著 しく損なう可能性がある」と指摘 されている。 6)澤。菊川 (2004)は,京都議定書の形成に至る過程を政治ゲームとして分析 している。 7)産業構造審議会 。地球環境′lヽ委員会 (2004)名古屋学 院大学論集
1.4
京都議定書は発効するか?
(1)ロ
シアの批准可能性 上述 したように,京
都議定書が発効するか否かは, ロシアが同議定書を批准するか否かにかかって いる。そこで,「ロシアは批准するか?」 という問いを考えてみよう。 2003年9月の世界気象会議を機にロシアは議定書批准を発表するのではないかと仄聞されていた が,そ
の直前にプーチン大統領は態度保留を発表 した8)。 ロシアにとって,議
定書批准に前向きでな い理由として,次
のような点が指摘 されている9)。 それらは,①
米国離脱で,ホ
ット・ エアーの期待収入が減少 (排出量取引やJIといった財の高い価 格での取引が期待できない),②
ロシア国内の経済が好転 し, ホット・エアーの分量自体が減少,③
温 暖化の放置はロシアの国益につながる (石油輸出国であるロシアには高い原油価格が望 ましい,温
暖 化で食糧増産が期待できる),④
排出量取引やJIには,ま ず国内整備が必要であり,そのための財政負 担が過重, といったものである。 しかし, このような指摘は,現
実的な利益を重視するプーチン大統領の立場からすれば,批
准か否 かの問題ではな く,批
准するにしてもいかに実益の大 きなものにするかの問題であろう。なぜなら, ①や②のようなホット・ エアー分による期待収入が一過性であることは誰 もが承知 している,③
ロシ アにとって石油は現下の最大輸出商品であるものの,将
来的には天然ガス輸出を志向する可能1生が高 い(環境重視は石油を天然ガスにシフトさせ,ロ シアは世界第2位の天然ガス埋蔵量を誇る),④国内 整備のための資金は,EUが
供与 しようと働 きかけている,か
らである。 東欧諸国がEUに
加盟するにあたり,ロ シアは京都議定書の批准問題をWTO加
盟問題 との取引材料 に使 っているという観測 もあった。 しかし,結
局のところ, ロシアにとって議定書を批准するか, し ないかは米国とEUと
どのように付 き合 うか, これをどの様に利用するか, という問題であるのだろ う。双方 ともの顔を立て,同
時に最 も大 きな実利を得ようとするならば,で
きるだけ遅いタイミング に批准 し,な
おかつ2013年以降は全 く新 しい枠組みを用意 しよう, というものであろう。(2)最
悪シナ リオ この結果,問
題を先送 りしようとしている日本には,最
悪のシナ リオが待ち受けている。つまり, ロシアの批准が第1約約束期の直前 までズレ込み,そ
の時点で議定書が発効 されるというシナ リオで ある。そうなると, 日標遵守のために日本が打てる施策は極めて限定 されている。 国内では高率の環境税の追加や自主協定の強化,海
外では,炭
素基金への資金供与,CDMや
Iの
活 用,国
際的な排出量取引市場への参加,が
考えられる。高率な環境税は政治的に無理があり,仮
に導 入されたとしても大 きな省エネ効果は期待できない。そのため,約
束当事者である政府は税金を用い て,海
外市場から排出枠を購入 して帳尻を合わせようとするだろう。 しかし,現
実的利益を重視する ロシアはJIや排出枠を2012年まで売 り渋 り,か
なり高額なものにするといった行動 も予想 される。8)例えば, AP電VLADIMIR ISACHENKOVに よる「Putin Casts Doubt on Kyoto Protocol」 (2003年9月 29日)。 9)例えば,工藤 (2003)な ど
欧州 の温暖化対策 結局
,準
備不足の日本だけが,海
外市場から排出枠を高額で買い取 り,そ
れでも目標達成に至 らな い, といった事態 さえ想定 されるのである。 これは,わ
が国政府にとって外交上の失点 となるばか り か,公
衆からも批難 される。つまり,短
期間で目標達成を行おうとすれば,一
段 と①過度な財政負担 と②国内産業の競争力喪失をもたらしかねない。加えて,排
出量取引やCDM/JIプ
ログラムといっ た国際環境 クレジット市場への出遅れも招来することになりかねないのである。2.欧
州諸国の温暖化対策2.l GHG排
出抑制目標と実績 第 1約 束期間におけるEUの
温暖化ガス排出抑制の数値 目標が,1990年
比マイナス8%で
あることは既に述べた。ただし
,EU加
盟国の各国目標は
,EU内
での「負荷配分
(Brden shannυ」によって
定 め られている10)。 削減 目標 の基準年 とな った1990年のEUに
おける温室効果ガス排 出量 は,C02換
算42億トンである。主要国のシェアは ドイツが29%,イ
ギ リス18%,フ
ランス13%で
あ り,これ ら 3カ 国でEU全
体 の60%を
占め る。 これ に続 くのは イタ リア (12%), スペ イン(7%)で
あ る。EU内
での負荷配分 による国別の削減 目標 は,率
の大 きな国か ら順 にル クセ ンブル クー28%,デ
ン マー クとドイツが-21%,
オース トリアー13%,英
国-12.5%である。 フランスは±0%で
ある。逆 に,排
出量増加が許 された国は,ポ
ル トガル+27%,ギ
リシ ャ+25%,ス
ペ イン+15%,ア
イル ラン ド+135%,
スウェーデ ン+4%な
どが あ る。 これ らは,各
国が抱え るエネルギ ーや経済発展段階 と い った事情を反映 している。 このような目標に対す る2000年実績は,EU全
体で1990年比-3.4%である (表1参照)。 ドイツ・ イギ リス・ フランスの主要 3カ 国についてみれば,順
に-19%,-13%, -2%で
あ り,第
1約束期 の 目標 にほぼ近 い水準にまで及んでいる。 ただ し, これ までの削減速度が今後 とも維持 され るかど う か は極 めて不透明であ り,逆
に2000年以降の温暖化ガス排出量 は増加 に向か う可育帥生さえ指摘 され る。 実績上で際立 って削減率 の大 きな国はル クセ ンブル ク (1990年比-28%)で
あ り,その大半はC02 の削減 とな っているが, これが何 に由来す るか不明である・)。2.2 EUの
温暖化対策(1)EU気
候変動プログラム(ECCD
EUに
おける環境政策は,1992年
に決定 された第5次環境行動計画 (1993∼ 2000年)で
示 された 「持続可能な開発 (Sustainable Development)」 を基本 とする。 この行動計画の成果は,「グローバル・ アセスメン ト」 という報告書に盛 られ (2000年5月),そ
れを受けて第6次環境行動計画 (2001∼ 2010年)が
策定 された。10)Protocol and Council Decision 2002/358/EC 5
名古 屋学院大学論集 表
l EU内
の温暖化ガス消減の負荷配分 と実績 値 (MiC02) オー ス トリア ベルギー デ ンマー ク フ ィンラン ド フランス ドイッ ギ リシ ャ ア イル ラン ド イタ リア ル クセ ンブル ク オ ランダ ポル トガル スペ イン ス ウェーデ ン 英 国EU合
計 80 152 69 74 550 991 130 67 547 6 217 85 386 69 649 118.5 115.4 125.0 95。 9 98.3 102.6 99.2 110.4 112.4 61.7 109.7 102.7 117.2 94.5 99.9 2000年 排出量実績 90年比 消減率 (%) 目標 (目標=100) 105.0 3.1 6.7 -1.2 -4.1 -1.7 -18.9 24.0 24.8 5.1 -55.6 3.1 30.4 34.8 -1.7 -12.6 4,072 -3.4 (出所)Europe Commission,UNFCCC 2001年 から2010年 を対象期間とした第6次環境行動計画があげる優先分野は,次
の 4つ である。 それらは,①
気候変動,②
自然 と生物多様性,③
環境 と健康,④
天然資源と廃棄物であり,以
下の5 つの対策を打ち出した。 ○既存の環境関連法を確実に実施すること ○すべての関連分野に環境への配慮を結びつけること ○解決策を見極めるために企業や消費者 と密接に協力すること ○環境について,適
切かつ入手 しやすい環境情報を市民に提供すること ○土地利用に関 して,よ
り環境を意識 した育成を行なうこと 4大優先分野の一つである①気候変動に関 しては,次
のような目標を掲げている。それらは,①
京 都議定書を批准 し実行すること,②京都議定書の公約に対 し,極めて明らかな進捗を 2005年 までに実 現すること,で
ある。 上記の第6次環境行動計画を確実に実行するために,EUで
は,2001年
10月 23日 に「気候変動プ ログラム (ECCD」 をまとめた12)。 気候変動プログラムは,次
の 4つ の分野を温暖化対策の中心に据 えている。それらは①横断的な施策,②
エネルギー分野の施策,③
輸送分野,お
よび④産業分野への 施策である。12)EU,Climate Change Proram (COM 0001))580 第 1約 束期 目標 1990実績 (`4κ 02) 値 率 (%) (iM£02) 77 143 69 77 559 1,223 105 54 521 13 210 65 286 71 742 67 132 55 77 559 966 131 61 487 10 198 82 329 73 650 -13.0 -7.5 -21.0 0.0 0.0 -21.0 25.0 13.0 -6.5 -28.0 -6.5 27.0 15.0 4.0 -12.5 4,216 3,877 -8.0
欧州 の温 暖化対策
① 横断的な施策
横断的な施策 として
,統
合汚染防止管理指令 (IPPC:the interated poHution prevention andcontЮl)13)がある。 これは
,エ
ネルギー効率に関する指令 (エネルギー効率改善行動計画)と も 対応 してお り,さ
らには,CDMや
JIといったプロジェクトベースの京都 メカニズムに関する指 令,加
えてC02や 他の温暖化ガス排出のモニタリングが含 まれる。 ② エネルギー分野の施策 エネルギー分野に関する施策として,次
のような項目が示される。それらは,①
最終ユーザが用い るエネルギー消費機器に関する効率値,②
DSMの
促進,③
コージェネレーションに関する指令,④
公 共部門におけるエネルギー効率的技術の調達規範,⑤
省エネ啓蒙キャンペーンなど,で
ある。 ③ 輸送分野の施策EUの
交通政策に関する白書は,次
のような温暖化ガス排出抑制のための施策を包含している。そ れらは,①
鉄道と船舶のような公共交通機関にモーダルシフトを図ること,②
そのための輸送 インフ ラの改善を進めること,③
輸送燃料としてのバイオ燃料の導入促進を図ること,で
ある。 ④ 産業分野の施策 産業分野については,IPPC指
令 。省エネルギー行動計画 。自主協定を用いながら,温
暖化ガスの排 出抑制に努める。具体的には,エ
ネルギー多消費型産業との自主協定, フッ素系ガスの抑制,モ
ニタ リング制度の強化などがあげられる。 ⑤ 追加的な施策 温暖化ガス排出量を8%削
減するという京都目標を達成するためには,上
のような施策だけでは十 分ではなく,次
のような追加的な施策が提案されている。それは,ECCPに
よって確認された42の施 策1・)であり,①
再生可能エネルギーによる熱発生,②
エネルギー監査,③
管理計画の販売,④
エンジ 13)IPPC指令 (96/61/EC)と は,産業汚染を根源か ら総括的に管理する指令である。空気,水質,土壌の汚染管理 を対象 とする本指令は,エネルギー使用,廃棄物および事故防止に関する条項を規定 されてお り,対象 となる設備 は操業許認可が必要なうえ,継続的な監査や許認可条件の更改の対象になる。 また,IPPCの操業許認可には 麻ll用可能な最善技術 (Best Available■ chnique:BAT)」 を基にした排出基準および操業条件が規定 される。
14)42の施策には,次のようなものが含まれる。① エネルギー供給:環境への配慮を盛 り込んだEU内電カガス市場 の開発促進,再生可能エネルギー比率を増大 させなが ら,分散型発電のための高圧送電線網の導入, コージェネ レーション(熱電併給)の利用促進,採掘抽出産業におけるメタン排出量の削減,二酸化炭素の回収 と地下貯蔵庫 への廃棄,高効率で クリーンな化石燃料変換技術の促進,電力およびガス供給産業におけるエネルギー効率の向上, ②産業部門 :電機機器のエネルギー効率基準の引き上げ,工業プロセスにおける効率基準の引き上げ,二酸化炭素 排出量を抑制するためのエネルギー効率改善(ボイラー,建築物などが対象),中小企業へのエネルギーサービス促 進,フ ッ化ガス
(HFC,PFC,SF6)を
対象とするEC政策ガイドラインの策定,排出量取引に関する政策ガイド ラインの策定自主協定に関するガイドラインの策定,③政府および第ニセクターにおける工不ルギー消費;エンド ユーザー技術に高いエネルギー効率技術を民間から調達,エネルギー監査 と熱効率照明,建築物及び照明の効率改 善,建築設計及び インフラ企画,④交通部門のエネルギー消費:航空輸送業の料金設定 と機器類の経済化,「二酸化 炭素 と自動車」政策の一端 として財政枠組み設定,環境にやさしい車両 コンセプ トの対象を乗用車および軽自動車 まで拡大(排出および燃料規格の改善,新技術 と新燃料),燃料効率の高い運転マナーの欧州キャンペーン,⑤交通名古屋学 院大学論集 ン改良施策
,⑤
小型商用車に関する自動車業界との環境協定などが含められる。(2)環
境税EU加
盟国では,「汚染者負担」原則を実現 しながら, コス ト効果の高い手段として,環
境税が8カ 国15)で導入 されている。ただし,それはEU大
としての統一課税ではない。EU大
のエネルギー/C02
税 といった統一課税は 1992∼ 97年に提案 。検討 されてきたが,加
盟国間の合意に至 らず,実
現には 至 っていない。そのため,環
境税は名称や税率を異なえなが ら,加
盟国独自で導入 されている。 統一的な課税に関する規則は,鉱物油のみに対 して 1998年 より最低税率が規定 された。 また,1997 年から協議が重ねられてきたエネルギー税の共通枠組みについては,2003年 3月 20日のEU蔵
相理事 会において合意を得て,2004年
1月から実施 されている。指令案では,これを石炭,天
然ガス,電
力 に拡大する一方,石
油製品に対する現行最低税率を引き上げることになっている。EU統
一の最低税 率の導入は,加
盟国間およびエネルギー製品間の競争のゆがみを減少 させること,EU全
体でエネル ギー価格を上昇 させて,よ
り効率的なエネルギー利用を図ることが目的である。 しかし,同
指令案では,特
定の加盟国や産業向けなどに対 して多 くの移行措置や優遇措置が設定 さ れていることから,短
期的にはEU現
加盟国におけるエネルギー税はほとんど増税につながらない。 また,税
率の初回見直しも2012年 まで行われないなど,そ
の実効性に対 しては批判 も多い。 しか し, 15ヵ国間での協議に6年の時間を要 したエネルギー税が 2004年 のEU拡
大前に合意 されたことは重 要, との見方 もある16)。 各国の環境税・エネルギー税の現況は,表
2に示 した。国によって税率や課税対象は異なるものの, ①税収が一般財源とされること,②導入にあたっては税制改正の一環を担 ってきたこと,③そのため, 全体 として税負担が加重にならないこと,な
どが共通 している。 さらに,各
国では製造業の域内競争力の喪失につながらないよう,大
幅な減免税措置が講 じられて いることも共通 している。(3)排
出量取引制度EUは
加盟国を対象 としたC02排出量取引制度を2005年1月 1日 か らスター トさせ るべ く,取
引体 制 の整備を急速 に進 めている。詳細は次節で述べ るが,そ
の制度について,概
略を まとめてお く。 政策および インフラ :交通政策の改定 (鉄道,道路輸送,モーダルシフ ト,海運,航空機),「都市交通に関するグ リーンペーパー」のなかで渋滞問題に対 し懸念を表明 (価格政策,財政措置,駐車に関する取 り組み,公共交通の 改善),持続可能な移動手段 とモーダルシフ ト,衛星を利用 したナビゲーション・ システム(GALILEO),⑥廃棄 物 :生物分解性廃棄物の生物学的処理の促進, EEC/86/278下水ヘ ドロに関する指令書の改正,包装及び包装廃棄 物,⑦研究活動:第五次枠組み計画の実施 (特にエネルギー,環境,持続可能な開発計画を対象),EU加盟国及び その他RTDの気候変動に対す る取 り組みを ネットワー ク化,③国際協力:国際協力を通 じて発展途上国の能力 育成 と技術移転を図 る。EU(2000),http:〃www.eel.nνindex10.htm15)スウェーデン, ノルウェー, フィンランド,テンマーク, オラング, ドイツ, イギ リス, イタリア。
欧州 の温暖化対策 表
2 EU加
盟国の環境税・ エネルギー税 国 名 名称 導入時期 使 途 英 国 炭化水素税 1979 一般財源 気候変動課徴金 2001 一般財源 (雇用者の国民保健負担の引 き下げ,一
部 再生可能 エネルギー導入,省
エネルギー政策に活用) ド イツ 鉱油税 1930 一般財源 鉱油税増税 (温暖f敏寸策) 1999 一般財源,(年金保健負担の軽減,一
部は再生可能 エ ネルギー利用促進 に利用) 電力税 (温暖化対策) フ ラ ン ス 石油製品税 1982 一般財源 汚染活動包括対象拡大 (最高裁判所によ り破 2000予定 一般財源 (雇用対策に充当予定) ス ウ ェーデ ン エネルギ ー税 1957 一般財源 電力税 1951 一般財源 二酸化炭素 1991 一般財源 (所得税減税 に充当) オ ランダ 鉱物油物品税 1978 一般財源 燃料税 1992 一般財源 エネルギー規制税 1996 一般財源 (所得税減税に充当,企
業の社会保険料負 担,省
エネ・ エネルギー効率改善への補助に活用) デ ンマ ー ク 鉱物ユ税 1979 一般財源 石炭税 1992 一般財源 天然ガス・ 都市 ガス税 1995 一般財源 電力税 1979 一般財源 二酸化炭素 1992 一般財源 (社会保険雇用者負担 の軽減分 に充 当, 協定締結企業 のエ ネルギ ー効率 改善 に対 す る補助 に活用) (出所)工藤 (2004) 2004年 7月 現在,欧
州諸国で排 出量取 引制度 を実施 しているのは,英
国の他 にデ ンマー クがあげ ら れ る。 ただ し,デ
ンマー クのそれは発電会社8社に限定 され, しか も取引は相対契約である。 そのた め,広
範囲な経済主体 による排 出量取引制度 を導入 しているのは,実
質的に英国だけであ る。 ただ し,先
行的な幾 つかの企業が民間ベースで 自主的に取引機会を提供 している。例 えば, ロンド ンに本拠を置 くShen■
adingは,2002年
か ら欧州を中心 にC02排出量の先物取引を実施 している。(4)自
主協定 温暖化対策 としての産業界の自主協定は,ほ
とんどの国で取 り入れられている。 自主協定のメリッ名古屋学 院大学論集 卜は
,文
字通 り企業は自分自身で自主的な目標設定ができることから,導
入 し易いことである。 しか し,そ
の実効性や目標設定の水準が問題 となる。 そのため,多
くの国で実効性を担保する目的から成果の公表措置が講 じられている。 また,成
果評 価を第二者機関に委ねたり(ド イツやフランス),日 標未達成には罰則を設けたり(フランス)し てい る。加えて,自
主協定の実効性を高める方策 として,他
の政策手段 との協働がある。 イギ リスでは, 政府 と合意 した自主協定が一つの排出量取引市場への参加要件であり, 日標を達成すれば,気
候変動 税が8割還付 される。 また,デ
ンマークでは省エネルギー行動計画の策定が炭素税率軽減の要件であ る。3.欧
州の排出量取引制度 本節では,EUお
よび英国の排出量取引制度について概説する。3.l EUの
排出量取引(1)概
要EUの
排出量取引制度は,先
に述べた「気候変動プログラム」にその端緒がある。 これを受けて,EU大
での排出量取引制度 (EU ETS:EU Emission■ ading System)の 導入が検討 されてきた。具体的には
,2002年
12月 9日に欧州環境委員会で導入が決定 され,2003年
6月に制度の具体案が欧州議 会 とEC委
員会により修正 。決議 された。 これによって明文化 されたものがEU ETS指
令である17)0 本制度は,2005年
1月から実施予定 となっている。 排出量取引制度の実施期間は,第
1フェーズ (2005∼ 2007年)と第2フ ェーズ (2008∼ 2012年) とに区分 される。2005年 からの第1フ ェーズの3年間はいわば先行期間である。第2フ ェーズの5 年間は完成期間であり,京
都議定書で示 された第 1約束期間と対応する。EU内
で排出量取引を行 うためには,EU加
盟各国は自国の排出量総枠を定め,そ
れを基にして,各
排出源に対 して排出量の配分を行 う必要がある。配分方法は,各
国政府による国家配分計画 (NAP: National Allocation Plan)に委ねられるものの,EUの
承認が必要になる。EU指
令による配分原則は,グランド・ ファザー リング¬8)による無料配賦 とし
,部
分的に競売方式 (第1フ ェーズでは最大5%,
第2フェーズでは
10%)を
認めている。対象 となる温暖化ガスは,C02の
みである。また
,割
当てられた排出枠を遵守できなかった事業所 (施設)に対する罰則規定 も設けられてお り,その課金は第1フェーズで 40ユ ーロ/t―
C02,第
2フ ェーズで 100ユ ーロ/tC02で
ある。排出割当の対象 となる事業所 (施設
)は
,発
電設備 と製造業施設である。具体的には,第
1フ ェー17)排 出量取引に関するEU指令は,EC e003)。
18)初 期配分の方法としては,グランド・ ファーザ リング(grand fathennυ と入札方式とがある。前者は,過去の
排出実績を配分基礎とする方法であり,後者はそれを競売に求める。実績 という既得権を重視するグランド・ ファーザ リングは,新規規制に対する既存事業者からの反発を抑え易いため政治的に受けいれられ易い。しかし,
欧州 の温暖化対策 ズでは
,20MW以
上の燃焼装置,石
油精製,鉄
製金属,鉱
物,紙
・ パルプ施設である(表3参照)。 こ の対象範囲は,2004年
と2006年 に見直 しが行われる予定であり,見
直 しの際には,化
学 。アル ミ・ 運輸部門などに拡張 される可育旨陛がある。 部門における全てまたは一部施設の除外 (Opt out)規定については,第
1フ ェーズについては可能 とし,第
2フ ェーズでは認めないものとしている。 さらに,同
種の企業間 (業界内)で
割当て量を共有する方法であるPoolngに ついては,担
当者や部 門の裁量によるものとしている。(2)参
加国と京都 メカニズムEUの
排出量取引への参加国は,2004年 5月に新 しく加盟 した中東欧10ヶ国を含む25ヶ国である。 既に京都議定書から離脱を決めたアメリカ 。オース トラリアを除外すれば, この排出量取引市場に参 加する国のC02排出量規模は,議
定書がカバーするそれの半分を占める。そのため,EU大
の排出量取 引市場は,量
においても参加者数においても,一
つの標準モデルとなるのは必至である。 また,京
都 メカニズムと言われるCDMや
JIのプロジェクトベースのクレジットも利用可能 として いる。 これ らは,京都議定書が発効するかしないかに拘わらず,EU大
の制度を基に目標遵守の手段 と して認知 される。そのため,CDMや
JIと いったプロジェクト案件は,日 本を含めた他の地域や国に先 駆けて,そ の取組に拍車がかか りそうである。 とりわけ,新規加入 した東欧諸国とのJI案件は,伝統的 表3 EU ETSの
排出量割 り当て対象施設 経済活動 対象GHG
(1)エ
ネルギー関連施設 ・20MWを
超える燃焼施設 (廃物廃電を除 く) ・ 石油精製所 ・ コークス炉 0 0 0 C C C 0 0 C C 0 0 0 0 0 0 C C C C C C 0 0 C C(2)鉄
鋼関連施設 ・ 金属鉱石を加熱 または焼結 させる設備 ・ 銑鉄あるいは鉄鋼設備 (生産能力2.5ト ン/時
以上)(3)鉱
物産業関連設備 。セメントクリンカー (500ト ン//日以上) 。石灰生産設備 (50ト ン/日以上) 。その他の加熱炉 (50ト ン/日以上) 。ガラス製品やガラス繊維製造の溶解設備 (20ト ン/日以上) ・ 窯業設備で加熱炉 (75ト ン/日以上) 。キルン(4m=以
上、設定密度300kym'以上)(4)そ
の他施設 ・ パルプ製造設備 。紙・ 板紙設備 (20ト ン/日以 上)(11ワ7)EC(2003),Directive 2003/87/EC of European lhrliament and Ofthe cOuncil of 12 0ctober 2003, Annex l
名古屋学 院大学論集 な西欧諸国にとって魅力的なプ ロジェクトとなることに違 いない。
(3)NAP策
定の現状EU加
盟各国は,2004年
3月末までに,初
期割 り当てに関する国家配分計画(NAP)の
提出を求め られていた。当初,期
日までに提出できる国はかなり限定的であろうと考えられていた19)。 しかし,進
捗度は異なるものの,2004年
7月末の段階で21ヶ国がNAP策
定にこぎつけている。そ の内訳は,EUの
承認をうけた国が8ヶ国,提出して承認待ちの国が1lヶ国,検討中が2ヶ国である20)。 各国のNAPを
見れば,割
り当て方法のオプションはかなり多様である。例えば,新
規参入者を考慮 した排出量の リザーブ率は, ドイッの0.9%か ら英国の7.7%まで広が りがあるし,過
去に行 ってきた 対策への考慮の仕方 も様 々である21)。 いずれにしても,参
加国の体制がここまで整備 されて くれば, この制度は絵に描いた餅に留まるこ とな く,確
実に実験 とその成果を獲得するに違いない。3.2
英国の排出量取引 英国は,デ
ンマー クとな らび世界に先駆 けて,排
出量取 引制度 (ETS)22)を 2002年 4月 か ら実施 して きた。(1)概
要 この制度検討は,1998年
のマーシャル卿の報告書23)で提案 され,そ
の具体化は産業界 も参加 したETG(排
出量取引グループ)21)を中心に進められてきた。 この制度にはつぎのような目的が包含されて いる25)。 それらは,①
費用効果的に,温
室効果ガスの大幅な削減を実現すること,②
国際レベルで同 様な制度が開始 される前に,英
国企業が制度運用の経験を持つこと,③
ロンドンが国際的排出量取引 市場の中枢になること,で
ある。 当面の実施期間は2006年までが予定 され,5年
間で総量330万トンの炭素排出量(=C02換
算 1,210万 トン)の
削減を目指 している。ただ し,2005年
1月にはEU大
での排出量取引制度が開始 さ 19)2003年11月のフランスEDFとの意見交換では,多くて4ヶ国が提出で きる程度ではないか, との観測があっ た。 20)承認済みは,オース トリア・デンマーク・ ドイツ・ アイル ランド・ オラング・ スロベニア・ スウェーデン・ イギ リスの8ヶ国,承認待ちが, フィンランド・ ルクセンブルク・ リトアニア・ スロバキア・ エストニア・ ラトビア・ ポル トガル・ ベルギー・ スペイン・ イタリア・ フランスの1lヶ国,検討中がチェコとハンガ リーの2ヶ国である。ht":〃europa.eu.inνcomm/environmenプclimat/emission plans.htm
21)石坂 (2004)に 詳 しい。 22)ETS:Emission f■ ading Scheme
23)Government Task Force on the lndustrial Use of Energy(1998),chaired by Sir Colin Marshall,Econolnic lnstruments and the Business Use of Energy
24)ETGは非営利団体であり,CBI(Confederation of British industw:英 国産業連盟)の下に形成 されている。
欧州 の温暖化対策
れる予定であるため
,規
模の縮小や制度変更が予想 される。(2)参
加企業英国の排出量取引制度への参加者は
,大
きく3種類がある。それらは,①
直接参加者 (DP:Direct Participants),②気候変動協定参加者 (CCAP:Climate Change Agreements hrticipants),③ トレーダーである。売買差益や仲介マージンを取引動機 とする トレーダーを除けば
,実
質上の参加者は,①
と②である。市場への参加者数について初年度の実績を見れば,①直接参加者が34社,②気候変動協 定参加者が44業界0856社 (業界内の企業は約5,000社),③
トレーダーが 35社 であった。 ①直接参加者 (DP) 直接参加者は,1998か
ら2000年の自社の排出量に対 して,C“
and■adeの方式に従い,温
室効果 ガスの削減量を自主的に引き受けた企業をいう。各企業の排出削減目標量は入札制度を通 して設定 さ れ, これが排出量取引の初期割当量になる。その目標値を期間内に達成すれば,参
加企業は英国政府 から報奨金を受け取る。つまり,報
奨金を得 るというインセンティブによって,排
出削減 目標量の初 期割当てが行われている。 報奨金の総額は5年間で2億 1,500万ポンドであり,2002年
1月に実施 されたオークションでは, 排出権の落札価格は12.5ポ ンド(約2,500円)/ト
ンーC02で あつたo直接参加者 34社 のうち,日本企業では英国三菱商事(Mitsubishi Coっoration(UK)PLC)の 1社 が参 加 している。
②気候変動協定参加者(CCAP)
気候変動協定参加者 とは
,政
府 と気候変動協定を結び,排
出目標値が設定 されている企業や業界の ことである(表4参照)。 協定上の排出目標値は,Baseline and CКdit方式が採 られており,そ
れらは必ずしも絶対量で設定 されたものばか りではな く
,原
単位ベースで算定 されたものもある。いずれに しても,協
定に参加 し排出目標値が設定 されている企業は,排
出量取引市場に参加する資格を得る。 協定参加企業は2年毎に目標達成を証明する義務があるため,実
績 と目標値を見比べながら,余
剰 分や不足分の売買,後の利用の為のバンキングを行 う。CCAPは
,削減目標を達成すれば,気候変動税 の80%が
減免 される。(3)排
出量取 引の成果 排出量取引制度 によりもたらされ る削減効果 は,2006年までの計5年間で,総量330万トンーC(=
1,210万 トンーC02)と
推定 されている。初年度 であ った2002年については,合
計約 3,158万 トンー C02の排 出権が売 りだ され,取
引量 は722万トンーC02,削
減効果は81万 トンーC02とされている。 また, トンーC02あた りの排出権価格は,2002年
5月 に5ポンドであ ったが,そ
の後徐 々に上昇 し て,同
年 11月 には最高値 の12.5ポ ンドをつけた。 しか し,2003年
2月 には急落 して 2ポ ンドにまで 低下 している。 その後 も3∼ 4ポ ンド程度で推移 し,2003年末では,1∼
2ポ ンド程度である(図1参 照)。 2002年 11月 の高値は,CCAPの
最初 の 目標達成時期が同年 12月 であ ったため,その前月の買いが名古 屋学 院大学論集 表
4
気候変動協定を締結 している団体 業務内容No.
団体名No.
団体名 アル ミニウム連盟 醸造・ 小売免許協会 英国衣料識維連盟 英国セ メン ト協会 英国窯業協会 英国鶏卵産業会議 英国ガ ラス製造連盟 英国皮革連盟 英国石灰協会 英国食肉連盟 英国食用飼鳥肉連盟 同上 英国印刷産業連盟 英国ゴム製造協会 セ メン トスラグ協会 化学産業協会 英国金属製造連盟 牛乳産業連盟 Eurisol 食品飲料連盟 同上 ギプス製品加工協会 アル ミニウムの製造 ビール生産の原料加工 識維・敷物の製造・加工 セ メン ト製造 陶磁器製造 鶏卵加工 ガ ラス製造 皮革加工 石灰製造 食肉加工 食用飼鳥育成 食用飼鳥加工 リソグラフ・ 活版印刷 新ゴムタイヤ製造 粒状高炉 スラグ研磨 化学製品 金属加工 牛予助日工 鉱物性羊毛 食品 。飲料製造 スーパー ぐ苫内での加ID ギプス製造の燃料燃焼 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 業務内容23
大英モル ト協会食用 モル ト製造
24
金属梱包製造協会金属梱包品の製造
25
全国パ ン職人協会パ ン製造
26
全国農業者組合養豚業
27
同上食肉用の家禽養育業
28
同上鶏卵 用の家禽養育業
29
全国マイクロ電子団体 半導体30
同上陰極線 チューブ製造
31
非鉄連合非鉄金属
32 Reprotech
廃棄物燃料の製造33
英国航空機企業会航空機産業のA工程
34
表面処理加工協会有機溶剤表面処理
35 Spirits Energy Efficiency Colmpany
EC規則
157m9で
規定 され るスピ リッツ生36
自動車製造販売会自動車製造
37
Ъrget2010
鋳物工場38
紙連合会製紙業
39 UKASTA
動物飼料製造40
英国 レングラーズ協会 動物向け材料の提供41
英国鉄鋼協会鉄鋼
42
車両建造修理協会車両の建造・ 修理
43
壁面 カバー製造協会 有機溶剤壁面製造44
木製版製造業連盟木製材料の生産 (出所)ETG(2003) 原因 とされ る。 また
,上
のような推移を見れば,市
場価格 は短期的 な需給変動 に左右 され,必
ず しも 限界費用を反映 させ るものではないことを物語 る。 さらに,最
高値が 12.5ポ ン ドであ った ことは,報
奨金のオー クシ ョン価格が上限価格 にな ったと見て も良 いだろう。(4)削
減量 の審査方法排 出量取引制度 に参加 している企業 は,UK Accreditation Service(英 国認可 サービス
)が
認定 した6社の うち1社を通 して, 日標値の達成および超過分を証明
,審
査 して もらうことになる。 これ らが 証明 された後に,直
接参加者(DDは
奨励金,気
候変動協定参加者(CCAP)は
気候変動税 の削減権 を受 け取 ることがで きる。 直接参加者 は,最
初 に基礎排 出量 を審査 して もらう必要があ り,そ
れに対 しての達成,超
過分が後 に審査 され る。(5)EUの
排出量取引制度 との調整 ①NAP(国
内割 り当て計画)EUの
排出量取引制度の実施に向け,英
国政府は,2004年
1月 19日,NAP(国
内割当計画)の
草案欧州 の温 暖化対策 £14 £12 £10 £8 £6 £4 £2 £0
ゃ
´
゛
ヾ
l,ゞ´
も
,ヾ群
ぷ
se'群■。
心
CS´ *j、F´騨´
`
6
図1
英国の排出量取引価格(出所)ク リスティーナ・スタントン(2003),原典はPoint Carbono www.point“ぬon.cOm
を発表 し
,成
案 に向け関係者 との協議を進めて きた。EU制
度 の第1期 (2005∼ 2007年)に対応す る この草案では,2010年までに英国のC02排出量 の総枠を1990年に比べて 16.3%削 減を 目標 とする。 こ れは,国
内の「気候変動プ ログ ラム」の目標値 よ りも緩やかであるものの,京
都議定書をベースに し たEU各
国への割 り当て られたそれ よ りも厳 しい。 この総枠を基本 として,排
出量取 引の対象 として リス トされた電力,石
油精製,鉄
鋼,窯
業,製
紙・ パルプなどの各施設 に排 出量が割 り当て られた。 第2期 (2008∼ 2012年)の
目標 につ いては,「 気候変動 プ ログ ラム」の 目標値である「20%の
削 減」を目指す としている。ベケ ット環境大臣は,「野心的だが,達
成可能 なレベル」であることを強調 している26)。 ②ポ リシー・ ミックスヘの影響EU大
で排出量取引制度が導入 されると,英
国独自の取引制度は変更を余儀な くされる。なぜなら, 国内と国外 とで二つの異なる制度が存在 し,制
度が持つ参加者への取 り扱いに差異があれば,不
公平 をもたらすからである27)。 例えば,現
行の英国の国内制度では,気
候変動協定参加者(CCAP)が
排出量取引市場を利用 して, 削減目標を達成すれば,気候変動税の8割が免除される。削減目標を達成する手段 として,EUの
取引 市場を利用 した場合に同様な特典が得 られる保証はない28)。 その不公平性を回避するためには,①
減 免制度の廃止 (制度の廃止,EU排
出量市場に参加する企業のCCA廃
棄),②
気候変動税そのものの廃 止,③
課税対象を下流部門 (ユーザーサイド)で
はな く上流部門とする,④
EUの
取引市場を利用 し た場合にも同様な特典を与える,⑤
CCA企
業はEUの
排出量取引市場には参加 させない, といった制 26)EICネ ットより。 '京 典は, DEFRAフ・レスリリース:http://www.de"a.govuVnews/2004/040119a.htm(2004,2,4) 27)Steve SOrrell,(2003)な どの議論を参考にした。 28)国際的な排出権市場が成長 し,アカウントなど帳簿上の振替といった制度 も成熟 して くれば,排出量制度は国際 的に標準化 されるであろうの しか し,国内の温暖化ガス抑制を優先的に考える英国政府が,すぐにEUの排出権取 引制度に対 しても国内制度 と同等な特典を付与することは難 しい,と考えられる。 もちろん,標準化を進めてゆか ない限 り,排出権市場の国際的な拡張は期待できない。 気 〇 〇 く ロ ー 可 ‐■■■■■■‐2002年物 鞭鶉艤麟鶉 2003年物名古屋学 院大学論集
度の修正や追加が必要 となる。
また
,二
つの取引市場の並存に対 して,SPRUの
ソレル氏は,①
英国の直接参加(DP)型
市場は,2006年 をもって廃止すべきこと
,②
当面,EU制
度と英国制度 とのインタフェースの開発が必要なこ と,③
JIやCDMの
プロジェクト型 クレジットの取 り込みも必要なことなどを提案 している。そして,EUの
制度が構築 されても,英
国内でこれまで実施 されてきたIPPC(総
合汚染抑制指令),RO(再
生 可能エネルギー利用義務),EEC(エ
ネルギー効率協定)に
ついては,制
度的矛盾は無いため,継
続 し て促進 させるべきだとする2"04.排
出量取引制度の理論的検討 上で見てきたように,排
出量取引制度が英国では既に導入 され,欧
州大でも実際に稼動を開始 しよ うとしている。世界に先行することから,欧
州の仕組みが先々の標準モデルになる可育齢生を秘めてい る。そこで,本
節では, このモデルの問題点などを理論的に検討 しておこう。4.1
排出量取引の基本的なモデル(1)分
析フレームワーク 分析を行 うためのモデルの前提は,以
下である30)。 現在,市
場にはA社
,B社
が存在 しC02を 排出している(国単位の場合は,A国,B国
でも同じ)。 両 者の排出量はともに同じであり,そ
の量はそれぞれEO∼ EOBである(図2参照)。 ここで,政
府は排 出量の総枠を現在の半分 と定め,そ
れをA社
とB社
に割 り当てたとする。各々の排出割当ては順に,El、 ElBであり
,A社
の排出割当量の線分OA ElAと B社
のそれの線分OB― ElBは等 しいとする。両企業の排出削減限界費用は
,そ
れぞれEOAおよびEoBを始点 とした左上が りの曲線で,A社
のそれ はEOA F∼B社
のそれはEoB― FBである。ただし,限
界費用の大小から,両
者の傾 きは異なる。(2)排
出量取引のメカニズム排出量取引が無い状態では
,A社
は排出量をE OAからElAまで減少 させるために,自己費用で対策を 行 う。その際,対
策に要する費用は,図
上の△E lA EOA aA(黒
塗 り△の部分CDで
ある。一方のB
社 も,同
様に,排
出量をEOBからElBに減少 させるため,△
EIB― EOB―aB(黒塗 り△の部分CB)の費 用をかけて対策を実行する。両者合計の対策費用は,CAと CBの面積になる。 ここで,排
出量取引制度を導入 し,両
者が自由に排出権を売買できるとすれば,両
者の行動は先 と 違 ったものになる。図上の「③排出量取引」がそれを表 している。 この図では,B社
の原点は右下に 移 され,図
中の「②B社
」の図とは左右が逆に描かれている。そして,両
者合計の排出枠 (政府が設 定 した総排出量)は
二つの原点OAと OBとを結んだ線分の長 さである。 29)Steve Sorrell,(2003) 30)排出量取引制度の理論的検討には諸富 (2000)な どを参照。欧州 の温暖化対策 ②B社 臥 ①A社 ←A社の限界費用 ←B社の限界費用 bB ③排出量取引 g FB P FB ・0 P P
OA ElA
・a)A tOB ElB EOB
ElA+ElB 図2
排 出量取引制度 El*の 点は,両
者の排出枠であるが, この点での排出削減限界費用は,A社
に比べB社
の方が安 い (A社 の費用はaAの高 さ,B社
のそれはa3)oそ のため,B社
はA社
に代わって対策を施 し,そ
れをA社
に売る。 この対策代行が可能な範囲は,A社
とB社の限界費用が等 しい交点gから垂線を下ろした 点 E*ま で続 く。両者が実際に削減す る量は,A社
が線分EOA(OB) E*で
あ り,B社
は線分EOB(OD一
E*と なる。排出権の売買価格は,交
点gの高 さを示すPとなり,売
買量は線分El*― E*の長 さである。(3)排
出量取 引 と厚生 。所得再配分こうした取引を通 じて
,A社
,B社
双方 ともに利益を得 る。A社
の場合,売
買を含めた対策費用は,自
社対策費用 (△E*-OB-0と
排 出権購入額 (□El*―E*―g―
Dの
合計(台形El*-OB―
g― h)で ある。排 出量取引が無ければ,面積 CA(△El*-OB―
aDの費用を余儀 な くされたのであるか ら
,差
し引 き△ h― g―aA(面積W)分
だけ コス トを削減で きる(機会便益)。 一方
,B社
は排出権の供給者 となることか ら,自
社 の対策費用は増加す るが,そ
れ以上に排出権販売収入を得 るために
,利
益 を得 る。B社
の追加削減量 はEl*―E*であ り,そ
れに伴 う追加 費用 は台形El*― E*―g―aB,その販売収入 は□El*― E*―g―hであ る。 そのため,△
aB―g― h(面積
Z)分
が,B社
の純利益 となる。 社会全体 として,取
引によ ってWと
Z分の費用が削減で きるために,排
出量取 引制度が資源配分上, 望 ましいといわれ るゆえんである。 この とき,両
者間の所得移転 は,Z分
の面積 となるが,これ も一方的にA社
が損失を被 っているわけ ではない。前述 したように,A社
は,取
引が無 ければ負担 したであろう費用の うち面積W分
を回避で きたか らであ る。名古屋学 院大学論集
4.2
ポ リシー・ ミックス上の理解 欧州の先行事例を見ると,温暖化対策 として導入 され る政策手段は,必ず しも単一の ものではない。 む しろ,手
段 の幾 つかを組 み合わせ ることが一般的である。例 えば,環
境税 と排 出量取引, 自主協定 とその約束担保 としての税還付,環
境税 と対策補助,な
どである。 そこで次に, こうしたポ リシー・ ミックスが もたらす意味を解釈 してお きたい。(1)排
出量取引と環境税 ①前提 とする政策 まず初めに,国
内で環境税 と排出量取引が同時に導入 されているケースを考えてみよう。 この企業 は,現在,0-EOの
排出量を出しており,そ れに対 して政府は排出割当量 としてETを設定 したとする。 また,政
府は,排
出量に対 して, 1単
位当 りtの炭素税率を賦課 させるとしよう(図3参照)。 排出枠 の遵守に関する罰則は特段設定 されておらず,割
当量よりも多い排出量には,そ
の分の環境税が賦課 されるものとする。 ②政策効果と企業行動 このとき,当
該企業はどのような行動をとるであろうか。それを,①
排出権価格(Dが
税率 ① より高い場合,②
排出権価格が税率より低い場合の二つに分けて考えてみる。 まず,①
の場合には,企
業は排出量割当てを無視 して,納
税することを選択する。図上のEOか らEx までは,自
社内での対策を行 う(面積C)が
,税
率t以上に費用がかかる対策は行わない。 また,排
出 量割当てを達成 しないことによる罰則が,ET―
Ex分に税率tを乗 じた環境税を支払 うことであれば, 当該企業はそれを選択する。なぜなら,排
出枠を遵守するために必要な対策費用 (自社で実施する費 用や排出権を購入する費用)は
,納
税額より大 きいからである。その結果,当
該企業の負担額は,図
の①内で示 した税額(TX)と
自社対策費用 (C)の合計になる。 一方,②
排出権価格が税率より低い場合には,当
該企業は多量の排出権を購入し,環
境税を全 く支 ①排出権価格が税率より高い場合価格 ②排出権価格が税率より低い場合 税 率 税 率 F ←排出削減限界費用 ←排出削減限界費用 排出割 当量 排 出割 当量 b 価 格 F
EP Ex
恥 排出量0
P t t P u 勁Ex EP
助 図3
環境税 と排 出量取引の導入 による企業行動 ヽ Cヽ E II 0 耽 排出量欧州 の温 暖化対策 払わない行動に出る。 これは
,納
税額よりも排出権購入額の方が小 さいからである。 ③税率 と排出権価格の一致 上のような結果を見れば,究
極的には排出権価格 と税率が一致することが結論付けられる。なぜな ら,排
出権価格Pが税率tより高価であれば (上記①のケース),排
出目標が遵守できない企業 といえ ども,排
出権を購入 しようとはしない。逆に,排
出権価格Pが税率tよ り安価であれば (上記②のケー ス),排出権の売 り手は,も っと高い価格で排出権が販売できることに気がつき,排
出権価格の上昇を 狙 う。 こうした裁定が働 くために,結
局,税
率tと排出権価格Pは 同一水準になる。それゆえ,排
出量取引 と環境税 とを同時に制度化 した場合には,排
出割当てを遵守 させるためのインセンテ ィブが必要にな る。それは,遵
守 しない場合の反則金か,遵
守 した場合のご褒美として制度内に組み込 まれる。(2)排
出量取引と税の還付 ①前提とする政策 排出削減 目標を遵守するための具体的な制度 として,英
国では先に述べた「気候変動税」の8割還 付がある。 これは,企
業が自主協定をベースとした温暖化ガス排出削減目標について政府 と取 り決め を行い,そ
の企業が目標を達成すれば,気
候変動税の8割が還付 されるという制度である31)。 つまり,税
金還付 というアメが,企
業に排出削減目標を遵守 させることを狙 ったインセンテ ィブで ある。排出枠水準を設定 した出所が「自主協定」であるとしても,一
旦政府 と協定を結べば,そ
れは 公的契約 として成立する。 この場合の企業行動は,次
のようになる (図4参照)。 ②企業行動 企業は,排
出削減限界費用が排出権価格 (P)あるいは税率 (t)に 等 しくなる点 まで,自
社で対策 を行い,この点を越えると排出権の購入を行 う。それは,自 社対策費用が図の三角形Cの 面積,排出権 購入費用は四角形EMで
示 される。 問題は,納
税額の8割の還付が,必
ず排出目標を遵守 させるのに有効であるか否かである。結論か ら言えば,税
還付分 (図の自抜 き四角形u― g―f―Dが
この企業の対策費用 (自社分のCと 排出権購 入額EMの
合計)よ
りも大 きくなければ, 目標遵守はされない。 図 3の ①のケースでは,EM+Cの
面積が,税
還付の面積よりも大 きいため, この企業は, 日標遵 守を行わないで,環
境税全額 (四角形0-Ex―
c-0を
納付することが得策 となる。一方,図
3の ② の場合には,EM+Cが
税還付よりも小 さくなっているので,企
業は約束遵守のためにC+EMの
費用 をかけ,排
出割当てを達成する。 ③含意 英国で行 っている「目標が達成できたら税還付」という「 アメ」は
,あ
くまでも「対策費用<税
還 付」の状況下でしか,有
効に機能 しない。逆の場合には,何
の排出削減行動を採 らないままに,税
額 だけを納める企業行動が想定 される。つまり, この制度は目標を達成するよう努力するか,全
く何 も 31)制度の詳細は,第2節を参照のこと。価格 税率 ①排出権価格が税率より高い場合 ←排出削減限界費用 排出割当量 名古 屋学 院大学論集 価格 税率 F ②排出権価格が税率より低い場合 ←排出削減限界費用 排 出割 当量 F b 十 、 p ■ u P ・ t 税還付 税還付 TX TX o ET EP Ex EO 排 出 量 O ET Ex EP 恥 排 出 量 図
4
税の還付 と排出割当て しないか, といったオール・ オア・ ナッシングに至る可能性を潜在的に有 している。ナッシングの場 合には,政
府は排出量削減 という政策 目標が達成できないし,企
業にとっても納税回避のフリーハン ドもないまま納税義務だけが負わされる。 上のようなナッシングの状況を回避する方策は,税
の還付額が対策費用よりも常に大 きなものにす ることである。それは,環
境税 (気候変動税)の
税率を高めてゆ くことを示唆している。あるいは, 「アメ」をゃめて,罰
則的な「ムチ」を用意するという方策 もある。EUで
検討 されているように,排
出枠が遵守 されなか った場合,未
達成分の排出削減量 に対 してC02 tあ
たり40∼ 100ユ ーロの罰金をかけるという懲罰規定がそれである。 これは,「対策費用<罰
金」の状況を意図的に作 り出すことに他ならない。上記の図 3の ①のケースでは,企
業が排出枠を遵 守 しなかった場合,「P以上の価格 ×未達成部 (線分EO―ET)」 の四角形の面積分を罰金として,企
業 に求めることである。その面積は,EM+Cの
面積よりも大 きいため,企
業はEM+Cの
実行を選択す るだろうということなる。(3)低
率の環境税と国際的な排出量取引 ①制度前提 次に,国
内では環境税 (炭素税)が
導入 されているが,国
内には排出量取引市場は存在せず,海
外 においてその市場が創設 されているケース考えてみよう。 また,約
束義務を持つ国家は,京
都議定書 で示 された排出量枠の遵守に努力するものとする。 国内における炭素税のような課税は,中
央環境審議会において追加的な温暖化対策 として「温暖化 対策税」の導入試案が検討 されているから,このケースは日本において現実的にありえそうである32)。 国内には,税
率tの環境税 (炭素税)が
導入 されている。 また,個
別企業には,排
出量割当てがあ 32)中 央環境審議会専門委員会では,炭素 トン当たり3,400円の「温暖化対策税」が試案 として検討 されている(2003 年8月 29日)欧州 の温 暖化対策 価格 税率 F ←排出削減限界費用 京都議定書 によ る国 の排 出枠 d P t 0 助 恥
Ex E。
排 出量 図
5
低率炭素 と国際排 出権価格 るわけではな く,京
都議定書の遵守義務は政府が担 うとする。一方,海
外における国際的な排出量取 引市場では,排
出権価格Pが成立 していたとしよう。 ここで,図
5を 用いて分析を試みるが,本
図の 「排出削減限界費用」は,一
企業のそれではな く,一
国全体のそれと捉えてお く。 ②企業と政府の行動このとき
,国
内企業が採 る行動は,排
出量をEOか らExまで削減 し,0-Ex分
につき炭素税を納税 するというものである。それゆえ,企
業の負担金額は,自
社対策費用 (三角形Ex―E。―cで示されるCの面積
)と
納税額 (四角形0-Ex―
c―tで示 されるTXの
面積)の
合計になる。一方,政府は
TXの
税収を確保 し,そ れを議定書 目標遵守のための財源に使 う。議定書の総排出量枠 はETであるから,炭素税の効果だけでは,日 標達成 までにまだ線分ET― Ex分が不足する。 これに対処 するために,政
府は海外の排出量取引市場33)から不足分を購入する。図 5で は,その費用が四角形ET ―Ex― b一a(面
積EM)で
示される。③含
意
これは
,二
つの意味で重要な経済損失の姿を提示 している。その第一は
,国
内に排出量取引市場が設置されていないままで,低
率の炭素税を導入することは,制度的な損失をもたらすことである。 このケースでは
,国
全体の対策費用は,面
積C十 面積EM(四
角形ET― Ex―b―a)で
あった3●。仮に
,低
率ではな く高率の税 として,排
出権価格Pと同一の税率 を設定すれば ∈=Pと
した場合),企
業はEOか らEPまでの削減努力を行い,政
府財源で購入する排出 権の費用は,四
角形ET― EP― d― aで済む。そして,国
全体の対策費用は,台
形ET一 EO一 d― aであ33)こ こでは,海外からの調達分を排出量市場 として捉えたが, これはCDMでもJIでも同 じである。重要な点は,
海外のプロジェクトや排出量取引価格よりも,国内税率が小 さいという前提である。
34)企業の対策費から見れば,税金 も対策費であるが,政府から見れば収入であるため,納税額=税収は,支出とし ては中立である。そのため,国全体の対策支出は,あくまでも企業の自主対策費+排出権購入額 となる。