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スマートフォンを用いた路面平坦性の簡易診断手法の開発

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Academic year: 2021

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Title スマートフォンを用いた路面平坦性の簡易診断手法の開発(本文(Fulltext) ) Author(s) YILIGUOQI Report No.(Doctoral Degree) 博士(工学) 工博甲第558号 Issue Date 2019-12-31 Type 博士論文 Version ETD URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/79133 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

(2)

博 士 論 文

スマートフォンを用いた

路面平坦性の簡易診断手法の開発

二〇一九年十二月

(3)
(4)

i

目 次

図表一覧...(ⅰ―ⅵ) 第1章 序論 ... 1 1.1 研究背景 ... 1 1.2 点検指標および点検における簡易評価手法に関する既往研究 ... 4 1.2.1 点検指標 ... 4 1.2.2 点検における簡易評価手法に関する既往研究 ... 8 1.3 研究目的および位置づけ ... 9 1.4 本論文の構成と概要 ... 11 第2章 計測条件および計測・蓄積システム ... 13 2.1 概説 ... 13 2.2 計測条件 ... 13 2.2.1 計測車両 ... 13 2.2.2 計測器機 ... 13 2.3 計測・蓄積システム ... 16 第3章 車両の振動特性および路面縦断プロファイルの算出 ... 17 3.1 概説 ... 17 3.2 車両の振動特性 ... 17 3.2.1 車両振動について ... 17 3.2.2 路面走行時の車両の上下方向加速度 ... 18 3.3 路面縦断プロファイルの算出 ... 20 3.3.1 概説... 20 3.3.2 計測概況 ... 22 3.3.3 単体データによる検証... 22 3.3.4 複数回走行による検証... 24 3.4 結語 ... 27 第4章 計測値の分布特性から評価指標の導出 ... 28 4.1 概説... 28 4.2 計測概況 ... 28 4.3 上下方向加速度データの分布特性 ... 28 4.4 結語... 31 第5章 角速度を考慮した路面状況の評価 ... 32

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ii 5.1 概説 ... 32 5.2 計測概況 ... 32 5.2.1 選定区間 ... 32 5.3 角速度を用いた路面状況の評価の可能性 ... 34 5.3.1 分布特性に着目した路面状況の評価の可能性 ... 34 5.3.2 ユークリッドノルムを用いた路面状況の評価 ... 35 5.4 結語 ... 38 第6章 サポートベクトルマシーンによる路面平坦性の簡易診断手法 ... 39 6.1 概説 ... 39 6.2 SVM について ... 40 6.3 SVM の実装 ... 46 6.4 SVM の適用 ... 47 6.4.1 上下方向加速度の分布特性のみを用いた簡易診断 ... 47 6.4.2 換算 IRI と標準偏差を用いた簡易診断 ... 52 6.4.3 説明変数に角速度を取り入れた簡易診断手法 ... 59 6.4.4 異なる区間での検証 ... 65 6.5 結語 ... 66 第7章 結論 ... 68 7.1 研究成果 ... 68 7.2 今後の展望と課題 ... 69 謝辞 ... 70 参照文献 ... 71 付録……...75

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iii 図 表 一 覧 図一覧 第1章 図-1. 1 日本の道路種別と延長割合………..………..1 図-1. 2 維持管理・更新費用の推計………..………..1 図-1. 3 高齢化の推移と将来推計………..………..2 図-1. 4 市町村における職員数の推移………..………..2 図-1. 5 人工知能の進化と研究開発の変遷………..………..3 図-1. 6 情報通信機器の世帯保有率の推移………..………..3 図-1. 7 ハードウェアの進化………..………..3 図-1. 8 路面性状測定車………..………..5 図-1. 9 クォーターカー(QC)モデル……….6 図-1. 10 IRI によるラフネス尺度……….7 図-1. 11 多機能路面測定車の概要……...……….8 図-1. 12 加速度の標準偏差と IRI の関係(20m区間毎)……….………8 図-1. 13 Vrms と IRI の関係………...……….9 図-1. 14 本研究の構成 ……….12 第2章 図-2. 1 スマートフォンの設置および内蔵の加速度・ジャイロセンサーの軸(例)……….14 図-2. 2 計測データのサンプル………..…..………14 図-2. 3 IRI 計測装置……….15 図-2. 4 道路パトロール支援システムの概要………16 第3章 図-3. 1 サスペンション上部の座標軸………17 図-3. 2 スマートフォンの設置(加速度と角速度)……….18 図-3. 3 計測区間………19 図-3. 4 車両に伝わる上下方向振動波形………19 図-3. 5 パワースペクトル密度………20 図-3. 6 計測区間………22 図-3. 7 ハイパスフィルタ適用前………23 図-3. 8 ハイパスフィルタ適用後………23 図-3. 9 換算 IRI と IRI の相関関係………..……….24 図-3. 10 換算 IRI および IRI の分布……….………..24

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iv 図-3. 11 相対誤差………..25 図-3. 12 路面状況 ………26 図-3. 13 路面状況 …..……….26 図-3. 14 相対誤差の分布……….26 第4章 図-4. 1 IRI 値が 4 (mm/m)以上の平坦性の悪い路面を走行時(例)…….……….28 図-4. 2 IRI 値が 4 (mm/m)以上の平坦性の良い路面を走行時(例)……..……….28 図-4. 3 各指標の分布 ……….……….29 図-4. 4 正規化前の標準偏差 …..………30 図-4. 5 正規化後の標準偏差 …..………30 図-4. 6 分布特性 …..………31 第5章 図-5. 1 区間Ⅰ…..……….……….32 図-5. 2 路面状況(区間Ⅰ)……….33 図-5. 3 区間Ⅱ………33 図-5. 4 路面状況(区間Ⅱ)………34 図-5. 5 標準偏差(ピッチング・ローリング・上下加速度)……….………..35 図-5. 6 平均値(ピッチング・ローリング・上下加速度)………..………..35 図-5. 7 正規化後のデータ……….………36 図-5. 8 ユークリッドノルム………..………37 第6章 図-6. 1 機械学習技術の精度と解釈性 ………..39 図-6. 2 SVM の概念図………..……….40 図-6. 3 ソフトマージンへの緩和イメージ………43 図-6. 4 Leave-One-Out 交差検証法の概要………..46 図-6. 5 2 次元散布図(車両 C)……….48 図-6. 6 計測区間………51 図-6. 7 各セクションの MCI 値およびクラス設定……….51 図-6. 8 計測区間………53 図-6. 9 各セグメントの IRI とクラス分け………54 図-6. 10 特徴量分布……….55 図-6. 11 ROC 曲線………56 図-6. 12 各セグメントの IRI とクラス分け……….58

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v 図-6. 13 計測区間……….……….59 図-6. 14 各セグメントの IRI とクラス……….60 図-6. 15 ローリング………..……….60 図-6. 16 上下方向加速度………..……….60 図-6. 17 特徴量分布……….……….62 図-6. 18 検証区間………..……….64 図-6. 19 各セグメントの IRI とクラス……….64 図-6. 20 検証区間(市道)各セグメントの IRI とクラス……….……….66 付録 付録D 図-1 標準偏差(上下加速度)……….………..66 付録D 図-2 標準偏差(ローリング)……….………..66 付録D 図-3 標準偏差(ピッチング)……….…….………..66 付録D 図-4 平均値(上下加速度)……….………..66 付録D 図-5 平均値(ローリング)……….……..66 付録D 図-6 平均値(ピッチング)……….…..66 表一覧 第1章 表-1. 1 IRI の算出方法………...7 第6章 表-2. 1 計測車両諸元………13 表-3. 1 相関係数………25 表-3. 2 相関強さ………25 第6章 表-6. 1 特徴量データセット………47 表-6. 2 最適パラメータ………49 表-6. 3 判別結果………49 表-6. 4 正確度………50 表-6. 5 判別結果………52 表-6. 6 正確度………52 表-6. 7 IRI による区分……….53

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vi 表-6. 8 特徴量データセット………54 表-6. 9 TP・FP・FN・TN の定義……….55 表-6. 10 AUC の評価基準………56 表-6. 11 パラメータCとγ………..57 表-6. 12 分類結果(同一区間)………..57 表-6. 13 分類結果(異なる区間)………..58 表-6. 14 特徴量データセット……….61 表-6. 15 パラメータCとγ……….62 表-6. 16 判別率……….63 表-6. 17 正確度……….63 表-6. 18 判別率……….65 表-6. 19 正確度……….65 付録 付録 A 表-1 IRI 測定結果一覧(下り線)………75 付録 A 表-2 IRI 測定結果一覧(上り線)………81 付録 B 表-1 MCI 測定結果一覧……….……….………87 付録 C 表-1 特徴量データセット(車両 D)………107 付録 C 表-2 特徴量データセット(車両 D)………107 付録 C 表-3 特徴量データセット(車両 D)………107 付録 D 表-1 上下加速度の相関係数………110 付録 D 表-2 ピッチングの相関係数………111 付録 D 表-3 ローリングの相関係数………111

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1 第1章 序論 1.1 研究背景 日本では,高度経済成長期に建設された数多くの道路構造物の老朽化が進み, 今後,社会資本が更新時代を迎えている。平成25 年 2 月,国土交通省は,笹子 トンネル天井板落下事故を受けて,道路ストックの総点検実施要領(案) [1]が 公表された。これを受けて,道路管理者には 122 万キロにも及ぶ道路舗装を含 めた総点検が求められている。これらの総点検は,供給期間中に一度実施すれば 十分なものではなく,何度も繰り返し実施することでこそ,有意義なものとなる。 このような総点検を通して,社会資本の安全性を担保し,安心・安全な生活を実 現することが道路管理者の責務であることから,適切な施策の実現が管理者に 求められる。 道路を対象とすると,現在利用されている道路のうちの約95%は,都道府県や 市町村道など地方自治体が管理する道路である [2](図-1.1)。一方,国と地方の 公共事業は年々減少しており,特に,地方において減少は顕著である。インフラ にかけられる予算(投資可能総額)を2010 年度の水準のまま固定した場合,2037 年度には維持管理・更新費だけで予算を超過すると推計される [3]。また,日本 の人口において,2030 年の約 1.16 億人から 2045 年の約 1.02 億人へと,少子高 齢化に伴い人口減少が進むとされており,労働力人口(15 歳~64 歳とする)は, 2015 年と 2045 年を比較すると,63.3%から 58.1%へと減少すると予測されてい る(図-1.3) [4]。地方自治体における総職員数が減少しており [5],特に,市町 村における土木部門の職員数は,平成8 年度の 124,685 人をピークに 19 年連続 で減少しており,平成27 年度は 90,967 人(平成 8 年度比約 27%減)である [6]。 このように,財源や技術者不足な地方自治体が大多数の道路構造物を管理し ている現状であり,適切な道路点検が求められ,点検による現状の確認とその結 図-1. 1 日本の道路種別と延長割合 [2] 図-1. 2 維持管理・更新費用の推計 [3]

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2 果に基づく補修の実施といった計画的な維持管理の確立が急務となっている。 道路舗装の維持管理の現状として,通常,路面性状測定車 [7]を使用して,ひ び割れ・わだち掘れ・平坦性を測定し,路面性状の点検を実施している。この点 検は,定期的に行うことが一般的であり,主に,幹線道路(高速自動車道,直轄 国道など)についてはこのような路面性状調査による道路舗装の状態把握が実 施されている。路面性状調査による点検は,専用機器を用いた点検のため,定量 的で高精度な診断が可能であり,信頼性の高い点検方法である。政令都市や地方 中核都市などの比較的予算規模の大きな自治体では,全管理道路の路面性状を 定期的に計測し,その健全度を診断することは可能である。しかし,初期導入費 用・運用費ともに非常に高額であり,コスト面でデメリットが大きく,一般的な 市町村などの地方自治体では,生活道路まで行き届かず,幹線道路への導入に留 まっていることが多く,道路管理者の巡回による道路舗装の状況把握や,住民か らの通報等に基づいた対症療法的な維持管理を行っている。このように,予算減 少・技術職員不足の地方自治体において,膨大な延長の生活道路の維持管理を効 率的・合理的に行うには,簡易かつ低コストで生活道路(「舗装点検要領」 [8] における道路の分類でのC および D を対象とする)まで網羅することができる 点検技術の開発が望まれる。 一方,近年,人工知能(AI:Artificial Intelligence)などのテクノロジーが急速 な発展を見せており,第 3 次ブームが到来したと言われている。この発展を牽 引しているのは機械学習技術の進化といわれている [9]。図-1.5 に示すように, 機械学習の研究自体は,1980 年代から本格化し [10],多くのアルコリズムが開 発されてきたものの,今になって,その能力が格段に向上した。その背景には, スマートフォンやタブレットなどの情報端末の普及 [11]やコンピューター性能 の向上 [9]があるといわれている。図-1.6 に情報通信機器の世帯保有率の推移を 示す。2017 年の情報通信機器の保有率をみるとスマートフォンの保有率が 75.1%となり,普及率が急上昇している。また,図-1.7 に示すように,CPU の速 図-1. 3 高齢化の推移と将来推計 [4] 図-1. 4 市町村における職員数の推移 [6]

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3 度・ストレージの容量・ネットワークの速度は指数関数的に進化しており,コン ピューターの演算速度の向上と相まって,より大容量のデータを伝送・蓄積し, より短時間での分析が可能となっている。 このようなことから,日本では,人口減少などにより今後国を支える人的資本 が縮小していくと考えられており,積極的に情報資源の活用の推進を図ること の重要性が指摘されている [12]。点検に基づく診断の分野においても例外では なく,これまでに蓄積された点検・診断結果を教師データとすることで,計測デ ータを用いた診断の可能性が高まっている。このような状況から,地方自治体に おける予算・技術職員の不足などの課題解決に向け,日々進化する情報端末およ び機械学習技術を中心としたAI 技術の利活用が期待されている [13]。 図-1. 6 情報通信機器の世帯 図-1. 7 ハードウェアの進化 [11] 保有率の推移 [11] 図-1. 5 人工知能の進化と研究開発の変遷 [9]

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1.2 点検指標および点検における簡易評価手法に関する既往研究

上記のような背景を踏まえ,現在における道路維持管理に重要な点検指標と その点検方法,点検方法に関する既往の研究を以下に述べる。

現在,道路舗装の維持管理指標として,国土交通省より開発された「道路維持 管理指数MCI(Maintenance Control Index)」が用いられている [14]。また,舗装路 面と道路利用者の乗り心地を関連づけた指標として,1986 年に世界銀行より提 唱された国際ラフネス指数IRI (International Roughness Index)があり,平成 25 年 2 月に国土交通省が発表した総点検実施要領(案)では,路面の縦断凹凸評価は IRI を用いることとされた [1]。

1.2.1 点検指標

1) MCI(Maintenance Control Index)

MCI は,ひび割れ・わだち掘れ・平坦性の 3 種類の路面特性値から算出する ことが基本であり,データの未整備や特定の路面特性値だけが著しく増加する 舗装の存在を想定して,以下の4 式のうち最小値をもって MCI とすることとし ている。 MCI の値が低いほど舗装状態が悪く,3 以下で「早急に修繕が必要」, 4 以下で「修繕が必要である」,5 以下で「望ましい管理水準」となる。 MCI =10-1.48C0.3-0.29D0.7-0.47σ0.2 MCI0=10-1.51C0.3-0.3D0.7 MCI1=10-2.23C0.3 MCI2=10-0.54D0.7 (1.1) ここで,C:ひび割れ率(%):路面に発生したひび割れの程度で, 調査対象面積 に対するその面積中のひび割れ面積を百分率で示したもの [15]。 D:わだち掘れ量(mm):路面の横断方向の凹凸量でわだち掘れ深さ の最大値の平均値 [15]。 σ:平坦性(mm):車両走行時における乗り心地に影響する道路の縦 断方向の凹凸の度合い [15]。ただし,σ が未測定の場合は MCI の代わりにMCI0を用いる。

MCI が 開 発 さ れ る ま で は AASHO(American Association of State Highway Officials:アメリカ合衆国州政府道路担当官協会)道路試験によって開発された, ド ラ イ バ ー の 立 場 を 中 心 と し た 車 両 の 乗 り 心 地 を 評 価 し た PSI(Present Serviceability Index)を用いていた。しかし,舗装の供用性に影響を及ぼす要因は 多様であり,供用性を評価する者の立場および主観によって重要視する要因が

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5 異なるため,道路利用者の視点からの評価を維持管理に反映させることは困難 であるという判断があった [16]。そのため,MCI は舗装の供用性に対する管理 者の視点による総合評価に代替しうる評価式として開発された。つまり,MCI は 道路利用者よりも管理者側の視点に立った指標である [17]。道路利用者の視点 から見れば,利用者に直結するのは舗装の機能と関連したサービス性能であり, ラフネス(平坦性)に大きく影響される [17]。 また,現在,ひび割れ・わだち掘れ・平坦性の3 種類の路面特性値は,主に路 面性状測定車 [18](図-1.8)を使用して計測されている。路面性状測定車は,所 有会社ごとに開発が行われているが,依然とコストが非常に高い。政令都市や地 方中核都市などの比較的予算規模の大きな自治体では,全管理道路の路面性状 を定期的に計測し,その健全度を診断することは可能である。しかし,一般的な 市町村などの地方自治体では,生活道路まで行き届かず,幹線道路への導入に留 まっていることが多い。財源・技術職員不足な一般的な市町村などの地方自治体 では,生活道路まで行き届かず,幹線道路への導入に留まっていることが多い。

2) IRI(International Roughness Index)

IRI(国際ラフネス指数)は,1986 年に世界銀行により提案された,路面の平 坦性を評価するための世界共通指標である。

(1) IRI の定義および算出方法 [19]

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6 IRIの算出方法は表-1.1に示す4種類がある。これらのうち最も実用的なのは, 任意の測定装置で路面の縦断プロファイルを測定し,クォーターカー(Quarter Car:以降 QC とする)モデルを用いたクォーターカー(QC)シミュレーションに よってIRI を算出するクラス 2 の方法である。QC シミュレーションを用いて実 際にIRI を算出する場合の定義は以下のようになっている。 ① IRI は 1 本のプロファイルを基に算出される。サンプル間隔は,正確な算 出のためには 300mm 以上としてはならない。必要な分解能はラフネスの レベルに依存し,滑らかな道路ではより細かな分解能を必要とする。分解能 が0.5mm であればあらゆる条件に対して適切である。 ② プロファイルは路面測点間の勾配を一定であると見なしている。 ③ プロファイルを平滑化する際の移動平均のベース長は250mm である。 ④ 平滑化したプロファイルにQC シミュレーションを適用する。特性パラメ ータには基準車の値を適用する。シミュレーション速度は 80km/h である。 ⑤ シミュレーションによる車体懸架装置の運動を一次加算し,プロファイル の延長で除してIRI を得る。したがって,IRI は mm/m あるいは m/km とい った勾配の単位を持つ。 QC モデルとは,通常用いられている 2 軸 4 輪の乗用車の 1 輪だけを取り出し 抽象化した仮想車両モデルであり,路面上を走行するクォーターカーは,図-1.4 に示すような力学系で表現される。ここで,c s:車体懸架装置の減衰率,k s:車 体懸架装置の弾性率,k t:タイヤの弾性率,m s:ばね上重量(車輪 1 個によっ 図-1. 9 クォーターカー(QC)モデル [20]

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7 て支持された車体の重量),m u:ばね下重量(車輪・タイヤの各重量と車体懸架 装置・車軸の各1/2 重量)である。 このモデルに含まれているのは力学的な動作の基本部分であり,これによっ て路面のラフネスが車両の振動をどのように引き起こすかが決まる。IRI は,こ のクォーターカーを一定の速度(80km/h)で路面上を走行させたときのばね上重 量とばね下重量の間のシミュレーション運動の累計であり,これをプロファイ ル長L で割って基準化した量である。以下の式で表せる。 IRI={∫ |żs-żu|dt L/V 0 } L ⁄ (1.2) ここで,𝑧𝑠:ばね上質量の高さ(mm),𝑧𝑢:ばね下質量の高さ(mm),𝑧̇𝑠・𝑧̇𝑢:𝑧𝑠・ 𝑧𝑢の時間の導関数(mm/s),L:走行距離(m),V:走行速度(22.2 mm/s =80km/h),t: 時間(s)である。 IRI によるラフネス尺度は図-1.5 [20]に示されるように,全く維持作業が行わ れていない未舗装道路から非常に高い平坦性が要求される滑走路まで評価でき る。 表-1. 1 IRI の算出方法 [19] クラス 算 出 法 1 測定間隔250mm以下で高水準の測定装置を用い て縦断プロファイルを測定し,QCシミュレー ションによりIRIを算出する. 2 任意の測定装置で縦断プロファイルを測定し, QCシミュレーションによりIRIを算出する. 3 RTRRMS(レスポンス型道路ラフネス測定装置) で任意尺度のラフネス指数を測定し,相関式に よりIRIに変換する. 4 パトロールカーに乗車した調査員の体感や目視 によりIRIを推測する. 図-1. 10 IRI によるラフネス尺度 [19]

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8 1.2.2 点検における簡易評価手法に関する既往研究 MCI に基づいた維持管理に関する研究において,金子ら [21]は,対象道路網 全体の路面状態を推定する方法として,推定に必要な抽出区間のMCI を算出し, 全管理区間のMCI の分布を推定することによって全体の舗装状態の把握や将来 の維持補修費の推定している。しかし,現時点においては,「路面性状測定車」 を代替できるような,ひび割れ・わだち掘れ・平坦性を高精度で計測方法に関す る既往研究は乏しい。 IRI に関する研究において,富沢ら [22]の研究では,図-1.11 に示すように,車 両前輪の左右端部に加速度センサーを取り付け,サンプリングレート 2(kHz)で ばね下加速度を取得している。走行速度を変化させて計測し,車軸に生じる加速 度と走行速度の関係から,式 1.3 に示す加速度の速度補正方法を提案している。 また,図-1.12 に示すように,加速度の標準偏差と IRI との間に寄与率 R2=0.57 の 相関が見られることを示している。 補正後の加速度=加速度×標準速度 測定速度 (1.3) 国分 [23]らの研究では,車両エンジンの振動の影響を避けるため,左側後輪の サスペンション下部に加速度センサーと取り付け,走行速度に応じてサンプリ ングレート 2~5(kHz)で変化させながらばね下加速度を計測し,重力加速度を除 図-1. 11 多機能路面測定車の概要 [22] -1. 12 加速度の標準偏差と IRI の関係 (20m 区間毎) [22]

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9 いた加速度の実効値(Vrms)を求めている。図-1.13 に示すように,Vrms と IRI の寄 与率 R2=0.53~0.64(相関係数=0.72~0.80)の相関が見られることを示している。 朝川ら [24]らの研究では,加速度計・GPS 受信機・小型 PC を一般車両に設置 し,車両の鉛直加速度応答を計測し,式 1.4 により IRI を推定している。また, 計測車両や走行速度が異なる際,キャリブレーションを行うことでその影響を 抑制している。 IRI=α×RMS (1.4)

ここで,IRI:IRI 推定値[mm/m],RMS:QC ばね上質量の加速度 Rms(Root mean

square) [gal],α=0.0476 これらの研究では,加速度センサーなどの計測機器を車両に設置してばね上 もしくはばね下の加速度を計測し,加速度からIRI を推定しており,計測時にお ける簡便性・即時性を図っている。また,計測条件(計測車両など)が異なる際 は,キャリブレーション行うことで,計測データ毎の計測精度を保証している。 これらの方法では,計測機器の設置および計測車両毎のキャリブレーションを 行う必要がある。 1.3 研究目的および位置づけ 前述したように,一般的な市町村などの地方自治体において,熟練技術者の減 少や人材確保の困難が予想されている中,これまでに蓄積された熟練技術者に 図-1. 13 VrmsとIRI の関係 [23]

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10 よる点検・診断結果を基とし,新しい点検データに対して診断を行うことで経験 の浅い技術者を支援するといったアプローチが有効と考える。 本研究では,舗装の維持管理においての「技術者を支援する」ことを目的とし, 機械学習による路面平坦性の簡易診断手法の開発を目指す。また,研究対象を, 路面平坦性とする。舗装供給機能の一つである路面平坦性は,舗装構造が有すべ き必須の性能評価であり,道路利用者の乗り心地や走行時の安心感に直結影響 を与える [25]。日本においても,「総点検実施要項(案)」において,平坦性の 評価には乗り心地と関連したIRI が導入されており,今後,舗装を効率的に管理 する上で,道路利用者の意識に関連した平坦性の評価は非常に重要である。 本研究では,岐阜大学と民間企業が共同開発したアプリケーションを使用し て,計測を行う [26] [27]。具体的には,アプリケーションをインストールしたス マートフォンを車内のダッシュボード上に設置し,スマートフォンに搭載され たセンサーにより走行車両の動的応答を計測する。この計測方法は,専門知識を 必要とせず,普通乗用車とスマートフォンがあれば,道路管理者に限らず一般利 用者による計測も可能であるため,データの収集源を容易に増やすことができ る。この観点からすると,データ収集源を広く開放することで,機械学習技術を 効果的に使用するために必要な,教師データの量を確保することが可能と思わ れる。計測精度の観点では,アプリケーションの動作確認というレベルでのキャ リブレーションを実施するため,単体データの計測精度の低下は否めない。ただ し,データの収集源を増やすことができることを考えれば,収集源が異なる大量 データから成るデータ群の生成が可能である。計測データには誤差などバラツ キが含まれるものの,解析を行うことによってバラツキの要因を極力抑制する ことが可能であれば,ある程度の精度を保証したデータ群を生成することが可 能といえる。このように,計測においては,高精度を追求しないが,最終的に, 診断結果における精度を担保する。この点においては,既往研究とは異なるもの である。 なお,本研究で提案する手法は,MCI および IRI など既存の評価指標に代替 するものではない。また,高速道路や幹線道路に用いる高精度の健全度診断と比 べ,診断精度が落ちるものの,平坦性の低い区間を抽出するといったスクリーニ ングの観点からみれば,以下の点が提案手法のメリットとして考えられる。すべ ての道路に対して従来のような詳細な点検・診断を実施するのでなく,まず簡易 診断で路面平坦性を俯瞰し,修繕が必要な区間においては,必要な点検・調査を 行い,対策を実施するというフローが可能となる。そのため,本手法は,総点検 の補助的な診断手法として提案するものである。

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11 1.4 本論文の構成と概要 本論文の構成(図-1.14)と概要を以下に示す。 第 1 章「序論」では,道路舗装の維持管理における点検・診断の現状など本研 究の背景,点検指標に関する既往の研究,研究目的と本研究におけるシステムの 概要,研究手順を述べる。 第2章「計測・蓄積システムおよび計測条件」では,本研究におけるデータ収 集・蓄積などのデータ集録システム,使用する計測車両・計測器機について説明 する。 第3章「計測車両の振動特性および縦断路面プロファイルの算出」では,まず, 車両の振動特性を把握し,その後,路面走行時の応答の特性を示し,上下加速度 から縦断路面プロファイルを算出する。次に,IRI に相当する物理量を算出し, 路面平坦性の評価を行う。 第4章「車両応答から点検指標の導出」では,角速度の分布特性を解析し,路 面平坦性の評価指標の導出について考察する。 第5章「車両応答から点検指標の導出」では,角速度の分布特性を解析し,路 面平坦性の評価指標の導出について考察する。 第6章「サポートベクトルマシーンの手法による路面平坦性の簡易診断手法」 では,第3・4・5章で導出した指標を説明変数として用い,サポートベクトル マシーンを適用した,路面平坦性の簡易診断手法について述べる。 第7章「結論」では,第2章から第6章において得られた研究成果をまとめる, 今後の課題と将来の展望について言及している。

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12 第3章 車両の振動特性および 路面縦断プロファイルの算出 3.1 概説 3.2 車両の振動特性 3.3 路面縦断プロファイル の算出 3.4 結語 第5章 角速度データを 用いた路面状況の評価 5.1 概説 5.2 計測概況 5.3 分布特性に着目 した路面状況の評 価の可能性 5.4 結語 第6章 サポートベクトルマシーンによる 路面平坦性の簡易診断手法 6.1 概説 6.2 SVM について 6.3 SVM の実装 6.4 SVM の適用 6.5 結語 第4章 計測値の分布特 性から評価指標の導出 4.1 概説 4.2 計測概況 4.3 上下方向加速度 データの分布特性 4.4 結語 第7章 結論 7.1 研究成果 7.2 今後の展望と課題 第2章 計測条件および計測・蓄積システム 2.1 概説 2.2 計測条件および計測・蓄積システム 2.3 計測・蓄積システム 第1章 序論 1.1 研究背景 1.2 点検における簡易評価手法に関する既往研究 1.3 研究目的および位置づけ 1.4 本論文の構成と概要 図-1. 14 本研究の構成

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13 第2章 計測条件および計測・蓄積システム 2.1 概説 本章では,データの取得に必要な計測条件および蓄積システムについて説明 する。計測条件では,使用する車両・器機について述べる。また,これらを用い て収集した計測データの蓄積システムについて説明する。 2.2 計測条件 2.2.1 計測車両 本研究では,主に普通乗用車を用いることを想定し,車種による応答の違いを 検討するため 4 台の異なる車両(A・B・C・D)を使用した。車両の諸元を表-2 .1 に示す。4 車種の諸元の違いから,4 車種は違う特性の応答を示すことが考 えられる。 2.2.2 計測器機 本研究では,計測装置としてスマートフォンを用い,スマートフォン搭載の GPS・加速度センサー・ジャイロセンサーを使用してデータ収集を行う。スマー トフォンのよる計測は,専用機器と比較して,精度は落ちるものの,信頼性ある 程度高いものと考えられ [28],車両の挙動を捕らえることができることが確認 されている [29]。 図-2.1 に示すように,スマートフォンを車両内のダッシュボード上に,画面が 地面に対して垂直になるように設置する。3 軸加速度センサーは,図-2.1 に示し 表-2. 1 計測車両諸元 車両A 車両B 車両C 車両D 車体形状 クーペ ワゴン ミニバン セダン 車両重量(kg) 1230 1340 1300 1330 車両総重量(kg) 1310 1430 1390 1410 全長(mm) 4240 4665 4560 4400 全幅(mm) 1775 1695 1695 1725 ホイルベース(mm) 2570 2700 2750 2670

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14 たように,スマートフォンのX・Y・Z の三軸方向成分の加速度をセンシングす ることができる。この加速度センサーのよって,車両の挙動の前後・左右・上下 方向への加速度が収集可能となる。図-2.1 のように設置した場合,車両の前後方 向の加速度はZ 軸方向の成分,左右方向の加速度は X 軸の成分,上下方向の加 速度(重力を含む)はY 軸の成分として取得される。 ジャイロセンサーは,図-2.1 に示した各軸の角速度を取得する。このジャイロ センサーによって,車両の姿勢変化の情報が収集可能となる。図のように設置し た場合,ピッチ動作をした際,X 軸を軸とした回転動作として取得される。ロー ル動作をした際,Z 軸を軸とした回転動作として取得される。ヨー動作をした際, Y 軸を軸とした回転動作として取得される。 これらのデータは,専用のアプリケーションによって収集される。使用するア プリケーションは Android OS が搭載された端末で動作するものである。この ため,加速度・ジャイロセンサー・GPS が搭載された Android スマートフォンで あれば,どの機種でもインストールできる。本研究で用いるスマートフォンは, 図-2. 1 スマートフォンの設置および内蔵の加速 度・ジャイロセンサーの軸(例)

X

Y

Z

ヨーイング

ピッチング

ローリング

-2. 2 計測データのサンプル

加速度

速度

高度

角速度

GPS

精度

日付・時刻 緯度経度

2017/08/22T120940.198 35.515734 136.725408 3 1.892683 0.05884 8.325846 41.4 64 -0.01658 0.066114 -0.08721 2017/08/22T120940.297 35.515734 136.725408 3 1.863264 -0.37265 9.149604 41.4 64 0.1406 -0.14327 -0.01748 2017/08/22T120940.397 35.515734 136.725408 3 3.206775 -1.11796 6.913688 41.4 64 0.00099 -0.00359 -0.08776 2017/08/22T120940.495 35.515734 136.725408 3 3.442134 -0.22555 9.561483 41.4 64 -0.38405 0.101016 0.034285 2017/08/22T120940.597 35.515734 136.725408 3 1.039505 -0.46091 9.581097 41.4 64 -0.05236 0.170903 -0.0013 2017/08/22T120940.696 35.515734 136.725408 3 0.421686 -0.41188 11.47378 41.4 64 -0.00086 -0.05604 -0.07163 2017/08/22T120940.798 35.51573 136.725279 3 -0.80415 -0.21575 11.56204 41.4 63 0.051531 -0.03841 0.0499 2017/08/22T120940.896 35.51573 136.725279 3 -0.03923 -0.83357 12.68 41.4 63 0.173306 0.101323 -0.02032 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

(24)

15 富士通製の「ARROWS M357」である。他社の端末を使用する場合は,キャリブ レーションなどの事前検討が必要となる可能性が残されている。このアプリケ ーションは0.1 秒ごとにデータを計測しており,CSV 形式で記録される。収集さ れたデータは,スマートフォンからサーバーに送信され,電子情報として蓄積さ れる。収集されたデータのサンプルを図-2. 2 に示す。 本研究で提案する簡易診断手法による診断結果を既存の評価指標と比較して, その精度について検討する。既存の指標として,IRI(付録 A 表 A1.1 を参照) およびMCI(付録 B 表 B1.2 を参照)を用いた。IRI の算出には,2016 年 11 月 に(一財)土木研究センターにおける性能確認済(平成28 年度 性能確認証番 号2809 号)の路面性状自動測定装置(路面プロファイラ)(図-2. 3)を用いた。 図-2. 3 IRI 計測装置

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16 2.3 計測・蓄積システム スマートフォンで計測されたデータは,クラウドに送信され,「道路パトロー ル支援システム」に蓄積される。 本システムは,岐阜大学と民間企業の共同研究を基に,道路維持管理の効率化 を目的として「道路パトロール支援サービス」を開発し,2013 年 6 月よりサー ビスの提供を開始した。全体の構成を図-2.4 に示す。特徴として,汎用品である スマートフォンを活用することで,点検コストを抑えることが可能であり,専用 のコンピューター等は不要で,通常のパソコンがあればサービスを利用可能で ある。また,何気なく記録できるデータを収集・解析,新たな情報(価値)を提 供という点になる。 本研究では,「道路パトロール支援システム」に蓄積された計測データをダウ ンロードし,解析を行う。 図-2. 4 道路パトロール支援システムの概要 [26]

(26)

17 第3章 車両の振動特性および路面縦断プロファイルの算出 3.1 概説 前章で述べた計測手法を用いて,車両の応答を計測し,計測データを解析する ことで路面平坦性の評価を行う。路面平坦性を評価するためには,計測車両の振 動特性を把握することが必要であり,本章では,一般道において走行したときの 車両応答に対して考察する。 3.2 車両の振動特性 3.2.1 車両振動について 車両の応答を用いる手法であるため,車両の基本的な振動特性についてまと める。 車両は,機能面からの構成として,車体・懸架系・車軸・タイヤに分類され, 車軸の上にある懸架ばね系で車体が支えられており,またタイヤを介して路面 に接する。走行する車両振動の主な原因として路面凹凸が挙げられるが,車両振 動には車体懸架系の振動や駆動系の振動があり,前者の振動にもばね上ばね下 振動や車体・車台の弾性振動などがある。 自動車を用いた多くの研究では,車両振動としてばね上ばね下振動が一般的 に考えられている [30]。しかし,本研究においては,スマートフォンをダッシュ ボード上に設置して計測するため,サスペンション上部(ばね上)のみの応答を 計測されることとなり,ばね下の応答が計測されない。そのため,本研究では, サスペンション上部(ばね上)のみの振動データを用いる。 サスペンション上部を剛体として考えた場合,図-3.1 の車の例で示すように, 図-3. 1 サスペンション上部の座標軸 [31] Y軸 X軸 Z軸 ヨーイング ローリング ピッチング

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18 車両の左右,前後,上下方向をX・Y・Z 軸とすれば,サスペンション上部の振 動モードは一般的に次の6 種類 [31]に分類される。 (1)左右方向振動:X 軸成分 (2)上下方向振動:Y 軸成分 (3)前後方向振動:Z 軸成分 (4)ピッチング:X 軸を軸とした回転動作 (5)ヨーイング:Y 軸を軸とした回転動作 (6)ローリング:Z 軸を軸とした回転動作 これらの挙動のうち,走行車両の振動としては(2)の上下方向振動・(4)のピッ チング・(6)のローリング振動が重要と考えられており,多くの研究で検討され ている [22] [32] [33]。 本研究における計測では,図-3.2 に示すように,ダッシュボードの中央部分に 設置しているため,上下方向加速度に対する角速度の影響を考慮しないものと し,それぞれ独立したものとして扱う。また,ひび割れ幅が通常,車輪の接地幅 に比べて狭いため,ひび割れ幅は車両の運動に影響を及ぼさないとしている [34]。ひび割れに関して,別途研究が行われており,本論文では,検討しない。 3.2.2 路面走行時の車両の上下方向加速度 本研究で用いる計測方法は,車両のダッシュボードにスマートフォンを設置 するため,振動波形が車両固体差の影響を受けることが想定される。路面平坦性 の評価に当たっては,このような車両固体差の影響を極力抑制することが必要 である。そのため,まず,車両が路面を走行した際の路面の凹凸が車体に及ぼす 影響が最も計測データに現れる値として,上下方向加速度に対して周波数分析 を行い,車両固体差の影響を抑制することを試みた。 図-3. 2 スマートフォンの設置(加速度と角速度) スマートフォン 上下方向加速度に対す る角速度の影響:なし 上下方向加速度に対す る角速度の影響:小 上下方向加速度に対 する角速度の影響:大 上下方向加速度に対 する角速度の影響:大

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(29)

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PSD (m/

s

2

)

2

/Hz

(30)

21 ね下重量の加速度を計測せず,ばね上重量の加速度のみの計測となる。すなわち, ばね下重量の高さが計測されない。そのため,サスペンション上部(ばね上)の みの加速度から上下変位量を求め,これを路面縦断プロファイルとみなしてIRI に相当する物理量を算出することを試みた。 車両固体差の影響を極力抑制するため,まず,上下加速度データに対して正規 化(標準偏差=1,平均=0)を行う。次に,加速度から変位量を求める。しかし, 単純な二階積分では重力は登坂上昇速度・計算上の丸め誤算などの影響で値が 発散し実用に堪えないことが指摘されている [36]。そのため,加速度から変位 量を算出する際に補正する必要があり,本研究では,八木により提案されている 補正手法 [36]を用いる。 この手法では,まず,直前1 秒間の上下方向加速度の平均を静加速度成分とみ なして減じ,動的加速度成分 dZ(i)(m/s2)を式(2.1)で求める。Z(i)を式(2.2)で和分 することで上下方向速度Vz(i)(m/s)を求める。次に,速度から変位量の積分時の 補正については,Vz(i)から登坂時の上昇速度のような路面性状に起因しない速 度成分を除去し,直前直後の1 秒ずつ(計 2 秒間)の上下方向速度の平均を静的 な速度成分とみなし,路面性状に起因する動的な上下方向速度dVz(i)を式(2.3)で 求める。そして,dVz(i)を式(2.4)で和分することで上下変位量 Lz(i)(m)を求める。 ここで,Z(i):i 番目の上下方向加速度(m/s2),H:観測周期 (Hz),dZ(i):動的 加速度成分(m/s2),Vz(i):上下方向速度(m/s),dVz(i):動的上下速度(m/s),Lz(i): 上下変位量 (m)である。 上下変位量Lz(i) (m)を路面縦断プロファイルとみなし,走行距離L(m)で割算す ることで換算IRI (mm/m)を式(2.5)より求める。 ここで,Lz(i):上下変位量(m),L:走行距離(m)である。 dZ(i)=Z(i)-ij=i-H+1H Z(j) (2.1) Vz(i)=Vz(i-1)+dZ(i)H (2.2)

dVz(i)=Vz(i)-i+Hj=i-H+12HVz(j) (2.3)

Lz(i)=Lz(i-1)+dVz(i)H (2.4)

換算IRI=Lz(i)×1000

L

(31)

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(32)

23 タを適用し,路面凹凸のみを振動波形を抽出することとし,ハイパスフィルタを 通過させた後の加速度を積分して上下変位量を求めた。 図-3.8 にハイパスフィルタを適用後の換算 IRI と IRI の比較結果を示す。図-3. 7 と比べると,換算 IRI の値が小さくなり,全体的に,傾向が類似しつつ,IRI と 容易に比較できることがわかる。図-3.9 に示すように,相関係数は,車両 A が 0.67 と車両 D が 0.69 となり,車両によってバラツキがあるものの,換算 IRI と IRI にやや強い相関関係がある結果が得られた。 図-3. 7 ハイパスフィルタ適用前 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 IRI( mm/m ) 換算 IRI(mm/ m) セグメント番号 車両A 車両D IRI(プロファイラ) 図-3. 8 ハイパスフィルタ適用後 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 IRI( mm/m ) 換算 IRI 値 (mm/m ) セグメント番号 車両A 車両D IRI(プロファイラ)

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のような高い値を示すものもある。IRI 値が高いセグメントでは,相対誤差が負 の値を示す(青色四角内)が,セグメント6・10・11・36・40 のような高い値を 示すセグメントが見られない。これは,図-3.12 に示すように,IRI 値が高いセグ メントにおいて,全体的に,OWP(Outer Wheel Path,外側車輪位置)の損傷が IWP(Inner Wheel Path,内側車輪位置)より進行しており,OWP と IWP を通過す るスマートフォンによる計測に対して,OWP のみを通過する路面プロファイラ に伝わる振動が大きいことから,IRI の値が高く,換算 IRI の値が比較的に小さ い値を示したと考えられる。なお,セグメント6・10・11・36・40 の IRI 値がそ れぞれ1.8・1.8・1.1・1.8・1.1(mm/m)である。このような平坦性の高いセグメン トにおいて,図-3.13 に示すような構造物やマンホールなどを通過するスマート フォンによる計測では,計測車両の振動が大きくなり,換算IRI が高い値を示し たことが考えられる。 なお,各セグメントにおける相対誤差(絶対値)を整理したものを図-3.14 に 示す(セグメント15 ~ 23 を除く)。図に示すように,相対誤差が 13.9 ~ 43.3%に 図-3. 14 相対誤差の分布 50% 75% 25% 5% 95% 図-3. 13 路面状況 -3. 12 路面状況

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27 集中し平均34.7%になった。ここで,富山ら [40]の研究では,Dipstick(クラス 1 プロファイラ)によって計測された基準プロファイルから求めた IRI に対して, 専用測定装置を用いて算出されるIRI の相対誤差が約 0.0~50.0%の範囲内にばら つくことが示されており,本研究においても同程度の傾向が認められた。 3.4 結語 本章では,サスペンション上部(ばね上)の上下加速度のみを用いて,路面縦 断プロファイルを算出し,走行距離 L(m)で割算することで算出される換算 IRI により,IRI を推定することが可能であることを示した。しかし,換算 IRI は, 確立された手法であるIRI と比較して,相関関係があるものの,精度の面で改良 の余地がある。そこで,統計的視点から,上下加速度の計測値(振幅)の分布特 性に着目し,分布特性に関する指標による路面平坦性の評価を試みる。これにつ いては,次章で述べる。

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31 に正規化後の標準偏差を示す。図-4.4 では,平坦性の低い路面おいては,車両毎 の値の差が顕著であり,平坦性の高い路面においても,値の差が見られる。一方, 図-4.5 では,値の差が小さくなっていることがわかる。よって,車両固体差の影 響を完全に解消することが困難であるが,正規化を行うことで,極力抑制するこ とが可能と考える。 標準偏差・範囲・平均値・四分位範囲の分布を図-4.6 に示す(標準偏差・範囲・ 平均値・四分位範囲は第一軸に従い,IRI は第二軸に従う)。図に示すように,ど の指標においてもIRI と傾向が類似しており,相関係数がそれぞれ 0.56・0.53・ 0.52・0.46 であり,相関性が顕著に現れる指標が見られないが,表-3.2 に基づく と,中程度の相関がある結果となり,いずれの指標も路面平坦性の評価に用いる ことが可能と考える。 4.4 結語 本章では,上下方向加速度データの分布特性に着目し,ある程度の精度で路面 平坦性の評価を行うことが可能である結果が得られた。 しかし,上下方向加速度データでは,路面縦断方向の凹凸に起因する応答のみ を捕捉し,わだち掘れを損傷として検出できないという事例が確認されている [41]。このことから,本研究で用いるスマートフォンに搭載されたジャイロセン サーで取得可能な 3 軸方向の角速度を用い,角速度を考慮した路面損傷の検出 精度の向上を図る。これについては,次章で述べる。 図-4. 6 分布特性 標 準 偏 差・ 範囲 ・平均 値・ 四 分 位 範囲 (m /s 2)

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32 第5章 角速度を考慮した路面状況の評価 5.1 概説 本章では,3 軸角速度(ピッチング・ローリング・ヨーイング)データを用い, 路面状況評価の可能性を探る。3 軸角速度を用いた多くの研究 [32] [39]が行われ ており,路面状況を評価するためには,ピッチング・ローリングを把握する必要 があることから,本章では,ピッチング・ローリングを対象とする。 5.2 計測概況 区間Ⅰ・Ⅱの2 つの区間を選定した。計測は,2013 年 12 月~2018 年 12 月の データを用いるが,角速度データは2015 年から計測されたため,上下加速度デ ータは2013 年~2018 年,角速度データは 2015 年~2018 年に計測されたもので ある。また,本章で用いるデータは,すべて車両A によるものである。 5.2.1 選定区間 図-5.1 に示す区間Ⅰ(富士橋から佐野交差点の約 500 (m))は,路面損傷の種 類が多く,図-5.2 に示す路面状況によって,4 つのセグメントに分類できる。 ① 補修工事が行われた平坦性の高い路面 ② 2018 年 3 月 26 日から 27 日に補修工事が行われた区間 舗装工事前:平坦性の低い路面(わだち掘れ・ひび割れが生じている) 舗装工事後:平坦性の高い路面 ③ 平坦性の低い路面(わだち掘れ・ひび割れが生じている) ④ 平坦性が低くないが,わだち掘れが生じている路面 図-5. 1 区間Ⅰ

*上記の地図は株式会社ゼンリンの著作物である。Copyright2015 ZENRIN CO.,LTD.(許諾番号:Z13LD 第748号)

富士橋 佐野交差点

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33 図-5.3 に示す区間Ⅱ(小倉四日市交差点付近の約 70(m))では,2018 年 3 月に 補修工事が行われた。図-5.4 に示す路面状況によって,以下のように分類でき る: 補修工事前:ひび割れが生じているが,わだち掘れが生じていない路面 補修工事後:平坦性の高い路面 図-5. 2 路面状況(区間Ⅰ) ① ②工事前 ②工事後 ③ ④ 図-5. 3 区間Ⅱ

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34 5.3 角速度を用いた路面状況の評価の可能性 5.3.1 分布特性に着目した路面状況の評価の可能性 角速度の分布特性に着目した路面状況の評価の可能性を探るため,補修工事 前後の路面状況の違いが顕著に現れる区間が望ましい。そのため,補修工事が行 われた区間Ⅱを対象とし,ローリング・ピッチングによる路面状況の評価を行う。 区間Ⅱにおける,補修工事前の 6 件と補修工事後の 3 件の計測データを用い る。解析過程として,まず,計測した全延長のデータを対象に,標準偏差=1・平 均値=0 になるように正規化する。次に,正規化したデータの基本統計量を算出 する。なお,本節では,分布特性による路面状況の評価の可能性を検討するため, 基本統計量の中から,データ集団のばらつき具合を示す標準偏差およびデータ 集団の代表値を示す平均値(振幅の絶対値)を用いる。 図-5.5 と図-5.6 に上下加速度・ローリング・ピッチングデータの標準偏差と平 均値(振幅の絶対値)を示す。図に示すように,補修工事後(青色四角内)と補 修工事前(黄色四角内)の値を比較すると,どの指標においても,補修工事後の 値が小さくなっており,補修工事前の値との差が明確であることが分かる。また, 上下加速度においても,同様な傾向が見られる。このことから,ピッチング・ロ ーリングデータの分布特性により,路面状況の評価が可能と考える。 図-5. 4 路面状況(区間Ⅱ)

工事後

工事前

(44)

35 5.3.2 ユークリッドノルムを用いた路面状況の評価 上下加速度・ピッチング・ローリングを用い,平坦性とわだち掘れの両方の路 面特性値による,路面状況の評価の可能性について検討する。 まず,上下加速度・ピッチング・ローリング,それぞれのデータに対して,標 図-5. 6 平均値(ピッチング・ローリング・上下加速度) 平均値(上下加 速度) ( m /s 2) 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 0.00 0.03 0.06 0.09 0.12 0.15 0.18 0.21 0.24 20 18 /11 /20 20 18 /11 /22 20 18 /11 /24 20 18 /11 /26 20 18 /11 /28 20 18 /11 /30 20 18 /12 /2 20 18 /12 /4 20 18 /12 /6 計測日 ピッチング ローリング 上下加速度 平均 値( ピ ッ チン グ・ ロ ー リ ン グ )( d eg /s ) 図-5. 5 標準偏差(ピッチング・ローリング・上下加速度) 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 20 18 /11 /20 20 18 /11 /22 20 18 /11 /24 20 18 /11 /26 20 18 /11 /28 20 18 /11 /30 20 18 /12 /2 20 18 /12 /4 20 18 /12 /6 計測日 平均角速度P 平均角速度R 平均加速度 ピッチング ローリング 上下加速度 標準 偏差 (ピ ッ チ ン グ ・ ロ ー リ ン グ )( d eg /s) 標準偏差 (上下 加速度) (m /s 2)

(45)

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図 -1. 8   路面性状測定車 [18]

参照

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