―基礎的能力と汎用的能力・資質を高める美術科学習の展開―
Practices of 21st Century Art Department Cooperation Project Learning That the
Regional Theme
―Expansion of the Art Family Learning to Enhance the Basic Skills and General
Abilities and Qualities―
馬淵 哲
Satoshi MABUCHI
滋賀大学教育学部附属中学校 1. “21 世紀型スキル”からとらえる中学校のカリキュ ラムと美術科の課題 時代がめまぐるしく変わる中で,問題に対する解や 新しい物事のやり方,考え方,まとめ方,さらに深い 問いなど,「知識」を生み出し,活用するスキルが社 会全般に求められるようになった。問題解決,論理的 思考,コミュニケーション,チームワークなどの主に 認知や社会性に関わる能力や,意欲や情動制御などの 主に情意に関わる能力,メタ認知(自己調整や内省, 批判的思考等を可能にするもの)など汎用的能力育成 が求められている。今後は,人格の完成という視点で, 能力に加え,陶冶すべき資質も含めて目標設定し,育 成することが課題となる。 美術科の授業においては,価値を生み出そうとする 情意・情操を基盤に知性と感性を養い,美術科特有の 能力を身につけさせていると推測される。また,学習 内容はアクティブであり,主体的に生徒が取り組み, 汎用的能力は高められていると推測される。しかし, それらが十分に実証さえてきたとは言い難い。現カリ キュラムの中で最も高められると期待される創造的思 考力についても,教員の指導・支援法をもって,意識 的に育成されているとは言い難い。汎用的能力または 創造的思考の基盤となる資質・態度を定義し,具体的 な指導・支援法(鑑賞やワークショップ型の学習体験) を確立し,その効果を検証することによって,課題と なっている実証が可能となるであろう。 中学校のカリキュラムにおいて,最も創造的思考力 を高められ,アクティブに学べる学習は,総合的な学 習の時間と美術科であると考えられる。しかしながら, 研修などカリキュラムの交流から得た情報を根拠に, 一般的な事例から推測すると,総合的な学習の時間は アクティブであり,主体的に生徒が取り組んでいるが, それが具体的な手立てや指導法をもって実践され,創 造的思考力や汎用的能力を育てる基盤が充分に備わっ ているとは言い難い。教科や他の教育活動を横断しな がら汎用的能力を高め,また,美術科と連携しながら, 相乗効果によって創造的思考力を高めることが,今後 の大きな課題となるであろう。 2.創造的思考法・検証法 (1)仮説 美の観念は体験により形成される。その 一方,観念が固定化することで創造的思考が妨げられ ることも起こり得る。俯瞰と焦点化など多角的・多面 的な思考を促す指導・支援法によって,固定観念や観 念形態を揺さぶり,柔軟で創造的思考を促せるであろ う。 仮説 観念を揺さぶって,思考の柔軟性を取り戻させ る指導や支援によって創造的思考力は高められる。 (2)仮説検証法 創造的思考の基盤となる資質・態 度(Ⅰ)を定義し,具体的な指導・支援法(鑑賞やワー クショップ型の学習体験)(Ⅱ)を確立する。題材や指 導・支援法を開発・実践し,成果物やアンケート,生 徒観察によって,その有効性・適切性について検証を 行う。 (3)創造的思考力を発揮するために必要な資質・態 度(Ⅰ),指導・支援法(Ⅱ)〕 <キーワード> 創造的思考 批判的思考 論理的思考 思考ツール (Ⅰ)創造的思考力を発揮す るために必要な資質・態度 A アイデアを創造する技 法に関する幅広い知識。 B 新しい考え方に対して 柔軟で敏感であること。 C 革新的で創造的な考え 方や価値あるアイデアを生 み出す。 (Ⅱ)指導・支援法 (学習体験) 思考ツール,ブレーン・ス トーミング,KJ法 教師や生徒同士の受容性 柔軟性などの雰囲気 比較・対話型鑑賞など資料 提示や問答による先入観・ 固定観念の揺さぶり。価値 評価・分析。3.題材・指導・支援実践1 (1)題材名,対象学年,授業時数
「Happy Design Policy ~協同で街のデザインを 構想しよう~」,第2学年,10時間(第3学年,2時間) (2)題材の概要 昨今,子どもの社会性の低下がよく言われる。また, これから益々複雑化する社会の中で,問題解決,論理 的思考,コミュニケーション,チームワーク等の主に 認知や社会性に関わる能力や,意欲や情動制御等の主 に情意に関わる能力,メタ認知(自己調整や内省,批 判的思考等を可能にするもの)等が求められている。 美術科においても以上の能力を身につけさせることは 十分可能であり,課題解決型デザイン学習を通して, それらの能力を発揮し,積極的に社会に関わる子ども を育てたい。 本題材は,現実的で身近な課題についてグループで 討議し,よりよいデザインについて意見を交流する。 そして,グループ討議を通して,人や環境によいデザ インを追究し,提案していく。協同でデザインについ て考える体験ができ,身近なデザインの課題を通して 社会に参画する意識が生まれること,他人を思いやり, 社会や人に役立つといった社会に生きる提言が行える こと等,デザイン学習を通して豊かな社会性や,人間 性を育むといったよい面があり,子どもの協調性を育 てる一つのよい実践になる。また,生活を美しく豊か にする美術の働きについての理解や見方を深めること ができ,今後の表現において,的確に判断し,適切に 表現するための基礎的能力が身につくと考えられる。 指導としては,思考ツール(バタフライチャート, 座標軸)の活用により,論点を焦点化し,論理的思考 を促す。そして,KJ法によって課題をとらえ,発想 を広げさせた後,フィッシュボーンで構想を構造化さ せ,その他の資料も提示しながら人に分かりやすく提 案させる。また,気づきを与える資料提示や価値観を 揺さぶる発問により,多面的・多角的思考やメタ認知, 情意に関わる能力を身につけさせる。 (3)題材の目標 ・街のデザインに興味・関心を持ち,友達と協力して, 積極的に学習に取り組むことができる。 【美術への関心・意欲・態度】 ・身近な街のデザインの課題を発見し,改善点やデザ インについて,豊かに発想し構想を練ることができる。 【発想や構想の能力】 ・感性や造形感覚等を働かせて,材料の特性を生かし, グループや自分の意図に合う新たな表現方法を工夫し たり,制作の順序等を総合的に考え,見通しをもった りしながら,創造的に表現できる。 【創造的な技能】 ・感性や想像力を働かせて,デザインのよさや美しさ, 創造力の豊かさ等を味わったり,生活における美術の 働きについての理解や見方を深めたりすることができ る。 【鑑賞の能力】 (4)題材の評価規準 関① ・街のデザインや目的を考えて表現することに 関心をもち,造形的な美しさ等を総合的に見出しなが ら,友達と協力して,積極的に構想を練ろうとしている。 関② ・街のデザインを鑑賞し,生活を美しく豊かに する美術の働きに関心をもち,主体的に見方や理解を 深めようとしている。 【美術への関心・意欲・態度】 発 ・感性や想像力を働かせて,デザインのコンセプ ト,イメージ,人の気持ち等を基に形や色彩の効果を 生かして造形的な美しさ等を総合的に発想し,表現の 構想を練っている。 【発想や構想の能力】 創 ・感性や造形感覚等を働かせて,材料の特性を生 かし,グループや自分の表現の意図に合う新たな表現 方法を工夫したり,制作の順序等を総合的に考え,見 通しをもったりしながら,創造的に表現している。 【創造的な技能】 鑑① ・感性や想像力を働かせて,デザインのよさや 美しさ,作者の意図と創造的な表現の工夫,目的と美 しさの調和等を感じ取り,味わい,生活を美しく豊か にする美術の働きについての理解や見方を深めてい る。 【鑑賞の能力】 (5)学習計画 主たる学習活動 評価 規準 1.課題の把握と鑑賞(1時間) ●建物や街並みを鑑賞し,そのデザインの 意義や適切性について批評し合う。 ・バタフライチャートに感じたことや批評 し合った内容をまとめる。 2.鑑賞,表現の発想・構想(1時間) ●他者の気持ち,社会への影響等を考えて, 都市景観デザインを発想し,構想を練る。 ・グループで決定したデザインテーマにつ いてKJ法を用いて,よりよいアイデアを 出し合う。 ・街の性格を意識し,デザインのねらいを 明確にして,デザインの構想を練る。 ・効果的な提言方法を構想する。 ・発表の役割分担を行う。 ●各グループの構想を交流し,デザインの 意義や適切性について批評し合う。 ・ワークシートに,グループの作品につい ての説明や批評を記述する。 ●構想を深める。 ・構想に改善を加え,構想を練り直す。 3.制作(7時間) ●構想を基にグループや自分の表現意図に 関② 関① 発 鑑 関② 創
合う表現方法を工夫する。 ・材料等の特性を生かし,表現方法を工夫 して制作をする。 4.鑑賞(1時間) ●お互いの完成作品を鑑賞し,批評し合う ことにより,表現の工夫等を感じ取る。 ・ワークシートに,グループの作品につい ての説明を記述する。 (6)授業の展開例*鑑賞・構想指導・支援法(Ⅱ) 視点 ユニバーサルデザインや安全機能,全体と部分 の色調・形・材質・イメージ・美等景観の与える心理 的影響や工夫・配慮。政策,歴史・文化等 C (Ⅱ)資料提示 比較・対話(問答)型 色に注目*色の三要素やトーンを既習 発問「行ってみたい街はどちら?なぜ?住んでみたい 街はどちら?なぜ?」 *居住か観光か,目的・条件を換え,評価・判断を揺 さぶる。 発問「駅の昔と今と近未来どう思う?」「機能性重視 のモダン建築でよいか?他に方法はないか?」「昔は どうだったか?今は…」*資料提示や問答による先入 観・固定観念の揺さぶりを行う。 A(Ⅱ)思考ツール(座標軸) 発問「各街の景観はどのようにしてできたのか?」 回答例「規制,事業,自然発生的に」*座標軸を活用 し,街を分析させる。 A(Ⅱ)ブレーン・ストーミング ある問題やテーマに対し,参加者が自由に意見を述 べることで,多彩なアイデアを得るための会議法。批 判禁止*B (Ⅱ)受容性。5 ~ 8人で1時間程度行う。本 題材は身近な街をテーマとする。 課題提示「みんながハッピーになれる美しい街にしよう!」 C (Ⅱ)発問「みんなって誰のことか? ハッピーの中 身は?機能性?元気?癒やし?美しいってどんな美し さか?」 A(Ⅱ)KJ法 収集した多量の情報を効率よく整理。収 集した情報をカード化し,グループ化,分析する方 法。ブレーン・ストーミングによって収集した情報 を,KJ法を用いて整理することが多い。本題材では, フィッシュボーンによさ・課題・改善策を整理する。 (7)成果~生徒観察・生徒の自由記述・アンケート グラフより分析・評価~ A(Ⅱ) 【生徒記述】フィッシュボーンを活用することによっ て,「誰にとって」や「色はどんな」等をわかりやすく まとめることができた。私たちが考えたのは水のまち にするにはどうすればいいのかだったので,それにつ いて詳しく考えることができた。/バタフライチャー トを使うことによって様々な意見を吸収し,色んな視 点から物事を見つめることができた。他の街の工夫を 見て,ときめき坂の構想につなげることができた。 【分析・評価】鑑賞における読解・分析・批評は思考ツー ルの活用により,読解・分析のポイントが明確化され, 思考が可視化されることで,各自の見方や感じ方等, 批評の交流を円滑にする。交流の中で多様な感じ方や 意見に触れ,その学習活動の中で,生徒は視野を広げ たり,深めたりしていること,それが構想・表現に活 用され,その後の探究に導かれたことがアンケートの 記述やグラフから読み取れる。生徒はこの学習体験を 通して,A(Ⅰ)アイデアを創造する技法に関する幅広 い知識を得ていると考えられる。 B(Ⅱ) 【生徒記述】いろいろな人の視点から物事を考えられ た。/それぞれの班で何を重視するかが違って,それ によって構想も全然違って,おもしろいと思った。実 際にこのような構想を立てるのを仕事にしている人は 何に気をつけているか気になった。/自分が考えてい ないアイデアもたくさんあって,面白かった。安全, 外観,利用者等を考えて,それに合わせて作っていて 興味深かった。 【分析・評価】構想におけるグループ討議やワークシー ト,鑑賞における分析・批評では各自の見方や感じ方 等,批評を認め合う雰囲気が記述やグラフから読み取 れる。生徒はこの学習活動を通して,B(Ⅰ)新しい考 え方に対して柔軟で敏感であると考えられる。 鑑 鑑 関② 本校2年生 HDP 構想 思考ツール(フィッシュボーン) 本校2年生 HDP 模型制作の様子
2年全10時間 「Happy Design Policy ~協同で街の デザインを 構想しよう~」 鑑賞・構想 ●模型制作 3年全2時間 ●昨年度 協同プロジェクト 「三方善し」 広告制作 ●アイデア スケッチのみ 2年生 作品① 2年生 作品② 2年生 作品③ 2年生 作品④ 2年生 作品⑤ 2年生 作品① 2年生 作品② 2年生 作品③ 2年生 作品④ 2年生 作品⑤ 3年生構想スケッチ③ 【授業実践概要比較】 3年生構想スケッチ② 3年生構想スケッチ③ 3年生構想スケッチ②
C(Ⅱ) 【生徒記述】普段何気なく通っている膳所駅前やとき めき坂について改めて考えることで,都市景観デザイ ンの大切さを感じた。今のときめき坂の特徴を良さと 捉える人も,課題と捉える人もいて,一人ひとりに合っ た都市景観を考えることが大切だと思った。 【生徒観察】都市景観の鑑賞において,大半の生徒は 日本と他国の街のデザインの違いを明確に読み取って いた。そして,イメージの違いがどこから生まれるの か共通事項の色や形を根拠に述べることができた。ま た,それらのデザインが公的事業や規制の有無によっ て生まれたり,生活者が主体となって自然発生的に生 まれたり,街のつくられ方は様々であることをおおよ その生徒が理解できていた。鑑賞の中で盛り上がった 場面は,イメージの統一が重要なグローバルチェーン 店の,街の性格に合わせたデザインの変化を見る場面 であり,生徒は一応に驚きを見せていた。構想の中で は,グループでよさや課題を話し合い,フィッシュボー ンでねらいや方法を構造化して,適切に構想を練れて いた。パソコンの画像資料を参考にしながら,イメー ジの共通理解を図っているグループも多々あった。 【分析・評価】焦点化と俯瞰による読解・分析のポイ ントを明確にした比較型鑑賞や生徒の観念を揺さぶる 対話(問答)型鑑賞によって,他者・他文化への想像力 が働き,多面的な視点を獲得しながら,理解を深めて いることが読み取れる。また,社会の中で経済も含め てダイナミックに生き生きと展開されるデザインの鑑 賞活動や生活に根ざしたデザインを表現の題材として 改めて取りあげることで,見慣れたものの中にあるよ さや美を生徒が新たに発見していることが記述やグラ フから読み取れる。生徒はこの学習活動を通して,C (Ⅰ)革新的で創造的な考え方や価値あるアイデアを生 み出すための資質を陶冶されていると考えられる。 4.題材・指導・支援実践2 (1)題材名,対象学年,授業時数 「アートの市場価値とは…!? ~社会におけるアート を考察・構想する~」,第2学年,2時間 (2)題材の概要 本題材は,アートの市場価値を読解・考察し,グ ループで意見を交流しながら,目的や条件に応じた適 切なアート・プロジェクトを構想する。そして,ワー クショップを通して,アートのコレクションやディレ クション,キュレーションについて理解を深めさせる。 このアート・プロジェクトの課題を通して,社会に参 画する意識が生まれること,社会や人に役立つといっ た社会に生きる提言が行えることなど,豊かな社会性 や,人間性を育むといったよい面があり,生徒の協調 性を育てる一つのよい実践になる。また,生活を美し く豊かにする美術の働きについての理解や見方を深め ることができ,今後の表現において,的確に判断し, 適切に表現するための基礎的能力が身につくと考えら れる。 指導としては,レーダーチャート,マトリクス,バ タフライチャートの活用により,作品を分析・評価し たり,論点を焦点化したりして,論理的思考を促す。 そして,課題をとらえ,KJ法によって発想を広げさ せた後,フィッシュボーンで構想を構造化させ,その 他の資料も提示しながら人に分かりやすく提案させ る。また,気づきを与える資料提示や価値観を揺さぶ る発問により,多角的多面的思考やメタ認知,情意に 関わる能力を身につけさせる。 (3)題材の学習目標 ・社会におけるアート・プロジェクトに興味・関心を 持ち,友達と協力して,積極的に学習に取り組むこと ができる。 ・社会におけるアートの課題を発見・考察し,アート・ プロジェクトについて,豊かに発想し構想を練ること ができる。 ・感性や想像力を働かせて,アートのよさや美しさ, 創造力の豊かさなどを味わったり,生活における美術 の働きについての理解や見方を深めたりすることがで きる。 (4)題材の評価規準 関① ・社会におけるアート・プロジェクトに関心を もち,造形的な美しさなどを総合的に考えながら,友 達と協力して,積極的に構想を練ろうとしている。 関② ・アートを鑑賞し,生活を美しく豊かにする美 本校2年生 HDP 構想スケッチ④
術の働きに関心をもち,主体的に見方や理解を深めよ うとしている。 発 ・感性や想像力を働かせて,アート・プロジェク トのコンセプト,イメージ,人の気持ちなどを基に形 や色彩の効果を生かして造形的な美しさなどを総合的 に考え,表現の構想を練っている。 鑑 ・感性や想像力を働かせて,アートのよさや美しさ, 作者の意図と創造的な表現の工夫,目的と美しさの調 和などを感じ取り味わい,生活を美しく豊かにする美 術の働きについての理解や見方を深めたりしている。 (5)学習計画 主たる学習活動 評価 規準 1.課題の把握と鑑賞・考察 本時1/2 ●様々なアートを鑑賞しながら,アートの市 場価値とその活用について読解・批評する。 ・様々なアートやその活用によって生まれ る効果や価値について批評し合う。 2.表現の発想・構想 ●他者の気持ち,社会への影響などを考え て,アート・プロジェクトを発想し,構想 を練る。 ・KJ法を活用し,アート・プロジェクトの 方針について,グループで話し合う。 ・フィッシュボーンを活用し,ねらいを明 確にして,アート・プロジェクトの構想を 練る。 3.交流と批評・分析 ●各グループの構想を交流し,アート・プ ロジェクトの意義や適切性について批評し 合う。 ・バタフライチャートに,グループの作品 についての説明や批評を記述する。 4.表現の構想 ●構想を深める。 ・構想に改善を加え,構想を練り直す。 (6)授業の展開例*鑑賞・構想指導・支援法(Ⅱ) 視点 全体と部分の色調・形・材質・イメージ等アー トが与える心理的影響や工夫・配慮。経済,政策,歴 史・文化等 C (Ⅱ)資料提示?比較・対話(問答)型 発問「日本人は美術鑑賞が好き?」 *国内美術展の動員数を提示する。アートの価値につ いて考察する。アートが社会に及ぼす影響について, 身近な例をもとに読解・分析する。 発問「同額の場合,どちらの作品を購入するか?なぜ? あなたがもし膳所の美術館学芸員ならどちらを購入す る?なぜ?」 *様々なアートを鑑賞しながら,アートの市場価値と その活用法について読解・批評する。参考アート作品 を評価し,その購入目的や効果と費用を照らし合わせ てアート作品購入の適切性について,判断する。アー トの維持費や活用性・将来性について分析する。様々 なアート作品やプロジェクトを評価し,それらによっ て生まれる効果や価値について批評する。 (7)成果?生徒観察・生徒の自由記述・アンケートグ ラフより分析・評価? 関② 関② 関① 発 鑑 鑑 本校2年生 VAP 構想の様子 本校2年生 VAP 構想ワークシート
A(Ⅱ) 【生徒記述】伝統的なものにするか現代的なものにす るか,革新的か保守的かを考えるのは構想を練る上で とても大切だと思った。 【分析・評価】発想・構想を共有し議論する上で,フィッ シュボーンや座標軸などの思考ツールが有効に働いて いることがアンケートの記述から読み取れる。生徒は この学習体験を通して,A(Ⅰ)アイデアを創造する技 法に関する幅広い知識を得ていると考えられる。 B (Ⅱ) 【生徒記述】“水を使った展示” の具体化を図っていき たいと思った。他の班の視点で,アンティークなど私 たちにはなかったものがあり,違う角度から見ること ができるようになったのが良かった。/他の班のアイ デアを聞いて,色々な工夫がされていて成る程と思っ た意見がたくさんあり,おもしろかった。またこれか ら自分が構想するイメージがふくらんだ。 【分析・評価】構想におけるグループ討議やワークシー ト,鑑賞における分析・批評では各自の見方や感じ方 等,批評を認め合う雰囲気が記述やグラフから読み取 れる。生徒はこの学習活動を通して,B(Ⅰ)新しい考 え方に対して柔軟で敏感であると考えられる。 C (Ⅱ) 【生徒記述】今日は美術館について,たくさんのこと を考えた。何気なく見ている,そこらの建物でもたく さんの工夫がなされているのかもと思うと,毎日見て いる景色も変わりそうだ。/この学習を通して,絵画 の価値について考えたり,いろいろな都市の良さや課 題を考えたりしました。今まで学習してきたことや他 の美術館の良さを参考にしてよりよい新たな美術館の 案を考えることができました。他の班の意見も参考に して今後に活かしていきたい。 【分析・評価】焦点化と俯瞰による読解・分析のポイ ントを明確にした比較型鑑賞や生徒の観念を揺さぶる 対話(問答)型鑑賞によって,普段見慣れている街や美 術館・作品などについて,新たな視点を獲得しながら, 理解を深めていることが読み取れる。また,社会の中 で経済も含めてダイナミックに生き生きと展開される アートや生活に根ざしたデザインを表現の題材として 改めて取りあげることで,見慣れたものの中にあるよ さや美を生徒が新たに発見していることが記述から読 本校2年生 VAP 協働構想(KJ 法・フィッシュボーン) 本校2年生 VAP 構想・交流・批評 本校2年生 街の事業開発賛否 バタフライチャート) 本校2年生 街の規制賛否 バタフライチャート)
み取れる。生徒はこの学習活動を通して,C (Ⅰ)革新 的で創造的な考え方や価値あるアイデアを生み出すた めの資質を陶冶されていると考えられる。 5.美術科における論理的思考・批判的思考 ~授業実践例1・2の生徒自由記述・成果物から分析・ 考察~ 【生徒自由記述】フィッシュボーンでいろんな意見を まとめることができて良かった。/まちづくりには, 明確なコンセプトが必要だと思いました。/ときめき 坂の構想では若い女性は流行り物好きでお金を動かし てくれると考え,対象にしました。現代らしくする中 で滋賀らしさを忘れないような構想にしました。 【生徒成果物】街の事業開発や規制についての賛否を 問い,その理由・根拠を発表させる。思考ツール(バ タフライチャート)に意見や理由を記述させる。 【分析・考察】6W1H等,社会的な視点を与える指 導によって,生徒に多角的多面的な視点をもって,作 品を読解させることが容易になったと考えられる。ま た,バタフライチャートを活用し他者との交流を通し て,多様な視点や価値に気づき,批判的思考力を働か せながら課題について論理的思考を働かせていること が成果物や自由記述から読み取れる。 フィッシュボーンの活用によって,ブレーン・ス トーミングやKJ法によって拡散したアイデアを構造 化したり,構想を方向付けしたりすることが容易にな り,各グループが円滑にコミュニケーションを進めら れた。そして,それらに意義や価値を感じながら発想・ 構想を進められたと感じている生徒が多数いた。 6.研究成果と課題 (1)成果 鑑賞における読解・分析・批評は思考ツールの活用 により,読解・分析のポイントが明確化され,思考が 可視化されることで,各自の見方や感じ方等,批評の 交流を円滑にする。交流の中で多様な感じ方や意見に 触れ,その学習活動の中で,生徒は視野を広げたり, 深めたりしていること,その視野の広がりや深まりが 構想・表現に活用され,その後の探究に導かれること が確認できた。読解・分析のポイントを明示する指導・ 支援法は論理的思考力・批判的思考力を高める上で, 効果的であることがわかった。 鑑賞授業においては,生徒に多角的多面的な作品の 読解を促し,批判的思考力を高める上で,思考ツール の活用と6W1Hの視点をもった分析法が有効であっ た。その指導法によって,他者・他文化への想像力が 働き,理解が進むと考えられる。また,社会の中で経 済も含めてダイナミックに生き生きと展開されるデザ インの現場を垣間見ることができるような鑑賞活動や 生活に根ざしたデザインを表現の題材として改めて取 りあげることは,見慣れたものの中によさや美を新た に発見したり,多面的な視点を与えたりすることがわ かった。そして,協同によるデザインの企画開発は, 自分の思考を広げ,新しい発想を生むなど創造的思考 を促し,それらが,生活をよくしようと提案したり, 表現したりする意欲や動機を高めることにつながるこ とが確認できた。 以上,授業実践・成果物・評価の分析から,協働的 思考による問題解決型の学習および思考ツールを活用 した指導・支援法は,創造的思考力や論理的思考力・ 批判的思考力などの汎用的能力を高める適切であり, 効果的に働いていると言える。 (2)課題 創造的思考力をはかるための検証法が十分に確立さ れていないため,実証が十分とは言えない。その検証 法を確立し,数値として実証していくことが今後の大 きな課題である。 【参考・引用文献】 ■「環境・景観デザイン百科」,彰国社,彰国社編,2001年 ■「緑水風を生かした建築・都市計画」,建築技術, クールシティ・エコシティ普及促進勉強会著,尾島俊 雄監修,2010年 ■「景観からの道づくり」,道路環境研究所,堀繁著 ,2008年 ■「日本の広場」,彰国社,都市デザイン研究体編著 ,2009年 ■「新・都市計画マニュアル」,丸善出版,日本都市 計画学会編,2002年 本研究の一部は,平成27年度科学研究費補助金(奨 励研究,課題番号15H00132)の助成を受けて行った。 本校2年生 街の規制賛否 バタフライチャート)