アルマ望遠鏡による太陽系研究
佐 川 英 夫
〈京都産業大学理学部 〒603‒8555 京都市北区上賀茂本山〉 e-mail: [email protected] アルマ望遠鏡(ALMA)の高い空間分解能力や集光能力は,太陽系天体の研究においても非常 に有効である.従来のミリ波・サブミリ波での太陽系観測では,空間分解を伴った観測という視点 に立つと,金星や木星といった大きな天体の惑星大気科学に関連する研究に限定されてきた.しか し,ALMAの登場によって,彗星やタイタンといった小天体の空間分解観測が実現され,さらに は視直径が0.1
秒角前後の小惑星すらも空間分解をした観測が成功している.本稿ではミリ波・サ ブミリ波帯を利用した太陽系天体観測の長所および短所を述べ,さらにALMA
がもたらした太陽 系研究の新展開についてレビューを行う.1.
はじめに:「近く」の「明るい」天
体を
ALMA
で調べる
私の研究分野を自己紹介する際に「ALMA
で 太陽系の惑星を観測しています」と言うと,「系 内の,しかも惑星のような明るい天体がALMA
の観測対象になるのですか?」という質問を受け ることがある.確かに,ALMA
はその圧倒的な 集光能力と空間分解能力によって,天文学者が今 まで到達できなかった遠方天体の姿を映し出すこ とに成功している.その一方で,ALMA
が達成 するこれらの観測性能は,「近場の」太陽系天体 に対しても唯一無二の研究機会を与えるものなの である.本稿では,これまでのALMA
よる太陽 系天体の観測結果を紹介するとともに,それらの 観測の背景に存在する「ALMA
で観測しなけれ ばならない意義」を説明していきたい.ミリ波・ サブミリ波帯の観測が太陽系の研究にとってどの ようにユニークなのか,そして,ALMA
がいか に強力かということが,この紹介記事を通して皆 様に伝われば幸いである.2.
惑星観測におけるミリ波・サブミ
リ波の利点
ミリ波・サブミリ波を利用した太陽系天体の観 測はALMA
以前から存在し,宇宙望遠鏡の利用 および宇宙空間から地球を観測した事例も含めれ ば,先行研究の数は決して少なくはない.これら 従来のミリ波・サブミリ波帯観測においては,特 に惑星の大気に関するテーマが主な研究対象と なってきた.具体的には,単一鏡の観測装置で は,欧米のIRAM-30 m
鏡やJCMT
(注:2014
年 度より東アジア観測所が運用中),日本のASTE
望遠鏡などにより,金星・火星・木星・土星・海 王星といった惑星や,タイタン・イオなどの衛星 の大気組成や気温場,大気力学,さらには彗星コ マのガス組成などが観測されているe.g., 1)‒3).単 一鏡による観測では空間分解能に限界があるた め,1990
年代からは干渉計を用いた観測も実施 さ れ て お り, 欧 米 のOVRO, CARMA, SMA
やIRAM-PdBI
,日本の野辺山ミリ波干渉計などが 利用されている4)‒7).また,2009
‒2013
年に運用されたサブミリ波・遠赤外線天文衛星ハーシェル
宇宙望遠鏡でも,太陽系における
H
2O
の分布を 探る長時間観測プログラムが実施されている8). 宇宙空間から地球を観測している例としては,近 年では国際宇宙ステーション搭載サブミリ波放射 計SMILES
の例が挙げられ,成層圏大気化学の研 究が実施されている. ミリ波・サブミリ波帯で惑星(特に惑星大気) を観測するねらいは何であろうか? その答え は,この波長域には惑星大気中に存在するさまざ まな分子のラインが豊富に含まれるという点と, 電波観測で採用されるヘテロダイン技術の特性に 見いだすことができる. 太陽系の惑星・衛星の大気を構成する主要な分 子種の中で,無極性分子である二酸化炭素やメタ ンなどの分子を除けば,たいていの分子はミリ 波・サブミリ波帯において振動・回転遷移の吸収 線をもつ.惑星大気中の微量成分(体積混合比で ∼10
−9から10
−3程度の存在量)は,その存在量 が僅少でも,大気化学に多大な影響を及ぼすもの も多い.加えて,分子によっては大気中で凝結し 雲を形成する.惑星における雲層は太陽からの入 射エネルギーを吸収もしくは遮る役割を果たし, 惑星の熱収支を考えるうえで非常に重要なもので ある.ミリ波・サブミリ波帯を用いて惑星大気中 の微量成分の空間分布および時間変動を観測する ことで,こうした大気化学や雲物理の議論が可能 となる.また,大気中に比較的一様に分布し,か つ,光学的厚みが適度に大きい分子(例: 金星・ 火星大気における一酸化炭素など)を用いれば, その分子スペクトルから大気温度の情報を求める こともできる. さらに,ミリ波・サブミリ波帯の観測ではヘテ ロダイン技術を用いることで非常に高い周波数分 解能力が実現される.この周波数分解能は,惑星 大気の研究に非常に好都合なものである.その大 きな利点の一つが,惑星大気を高度方向に分解し て研究できるという点である.大気中の分子が作 る吸収線は,分子の熱運動や分子同士の衝突など の理由により,特有の線幅で広がっている.特に 大気の分子密度がある程度以上大きい場合,吸収 線の線幅は気圧の大きさに従って大きくなる.観 測視線内の惑星大気の気圧が非一様な場合,視線 内の各地点でその場所の気圧に応じた異なる線幅 をもつ吸収線が形成され,それらを観測視線方向 に積分したものが一本の吸収線として観測される こととなる(図1a
).こうした吸収線を周波数分 解能がν/
Δν
=10
6‒7にも達するヘテロダインで観測 すると,分子の吸収線の形(line shape
)を高い 図1 (a)ALMA(Cycle-3)で観測された金星の12CO(2‒1)スペクトルの吸収線中心部分.金星全球のデータを平 均したもの.なお,周波数オフセット3‒4 MHz付近は地球大気中のCO吸収が重なっているためにデータをマ スクしている.(b)異なる周波数オフセットでの輝度に対して金星大気のどの高度からの放射がどの程度含ま れているのか(荷重関数)を示すグラフ.異なる線は異なる周波数オフセットに対応しており,荷重関数の ピークが高高度に来ているものから順に,周波数オフセットが0.0, 0.4, 1, 2, 4, 8, 16, 32 MHzのものである.精度で計測することができる.この
line shape
の 情報を反転解析することで,観測視線に沿った各 地点での分子存在量や気温が求まる.地上から惑 星を観測する場合,その観測視線は惑星大気を鉛 直方向に通過する.したがって,このline shape
を利用した解析から,惑星大気の高度方向の情報 が取得可能になるのである.どの高度にどの程度 の感度が存在するのかは,観測をする分子吸収線 の光学的な厚みで決まる(図1b
).ALMA
は従来 のミリ波・サブミリ波帯望遠鏡よりも広い領域の 観測周波数(84
‒950 GHz
帯)での観測が可能で あり,観測対象として選択できる分子吸収線の種 類もより豊富である.例えば,金星・火星大気に おいて,回転準位の異なる一酸化炭素の吸収線 (230, 345, 691 GHz
など)を複数観測することで, より幅広い高度領域の情報が取得可能となる. ヘテロダインの高い周波数分解能の二つ目の利 点は,惑星大気の分子スペクトルのドップラーシ フトを検出することで,その分子を含んだ大気塊 が観測者に対してどのように運動をしているのか を知ることができる点である.これは金星や火星 の大気循環の研究で非常に大きな成果をもたらし ている観測手法であり5)‒7),ALMA
を利用するこ とで,視直径のより小さな惑星(天王星,海王星 など)や衛星(イオ,タイタンなど)における大 気循環の観測も可能となる.3. Resolve Out
の問題
前章では惑星観測に関するALMA
の利点につ いて述べたが,逆に,観測を行う際の問題点も存 在 す る.ALMA
の利 用 経 験 を も つ 研 究 者 は,ALMA
の観測性能には干渉計の合成ビームの大 きさで定義される空間分解能とともに,MRS
(maximum recoverable scale
)という空間スケー ルが定義されているのに見覚えがあるであろう.MRS
というのは,「干渉計が観測できる最大の空 間スケール」であり,この大きさ以上の広がりを もつ電波源の輝度分布に対しては観測感度が著し く低下するというものである.これは,天空上の 電波源に対して二つのアンテナ間の距離(基線 長)に対応した空間周波数成分を測定するという 干渉計の観測原理に起因する現象である.詳細な 説明はここでは割愛するが,つまりは一番短い基 線長のアンテナペアが測定する空間周波数成分よ りも大きく広がった輝度分布構造(空間周波数成 分がより小さい情報)は,そもそも観測ができな い(uv
平面の中心付近を観測値で埋めることが できない)ということである. このことをresolve out
と呼んでいるが,地球 に近い金星・火星や巨大ガス惑星の木星・土星と いった視直径が大きな惑星を干渉計で観測する際 には非常に厄介な問題となる.図2
に一様な輝度 分布をもつ視直径30
秒角の惑星をALMA
の口径12-m
アンテナの干渉計で観測した場合の初期合 成画像(dirty map
と呼ばれるもの)のシミュ レーション結果を示した.12-m
アンテナの配列 だけで観測した場合,本来惑星の輝度分布がディ スク状に現れるべき部分に大きな穴が開いている のが分かる.干渉計のデータ解析ではこのdirty
map
をデコンボリューション(clean
)解析する ことでより正しい電波画像を合成するが,今回の ようにresolve out
してしまっている部分を埋め るには,観測データとは別に何らかの輝度分布情 報を外部から与える必要がある.過去の干渉計に よる惑星観測では,「惑星全体に一様に広がった 輝度分布成分」を後から付け足すことでこの問題 に対応している9).Resolve outの度合いが小さい
場合はこの補填方法でも支障がないと考えられて きたが,ALMA
の12-m
アンテナを利用した干渉 計観測の場合はその大規模なアンテナ配列ゆえにresolve outの程度も著しく大きくなる.
この問題を解決するのが,12-m
アンテナ干渉 計よりも規模が小さい基線長で構成されたACA
(モリタアレイ)を併用し,12-m
アンテナ干渉計 では観測できない短い基線長に対応する空間周波 数成分をACA
で観測することである.図2
下図に,
12-mアンテナ干渉計と
ACA
を同時利用した 場合のdirty may
を示した.正円の一様な輝度分 布を得るまでには至っていないが,それでも, ディスク内部の輝度が十分な割合で観測されてい る. 現在観測が実施されているCycle-4までの
ALMA
の共同利用観測では,12-mアンテナ干渉計と
ACA
の完全同時観測は約束されていない.そのため,12-m
アンテナ干渉計とACA
を併用した際に,両 者の観測時間に時差が生じることもある.その場 合は観測対象が時間変動してしまい(例えば,木 星大気の自転周期は10
時間である),二つの干渉 計データの正しい結合ができなくなるという問題 点も残っているが,それでもある程度の精度でresolve out
を解決できるであろう.こうした観測 技術面の発展も今後のALMA
での惑星観測を通 して実現されると考えられる.4. ALMA
による観測成果
彗星コマにおける有機分子の非一様分布ALMA
による太陽系観測の最初の成果は,2013
年に実施されたレモン彗星およびアイソン彗星の 観測であった10).彗星の核は太陽系形成の初期 段階の物理的・化学的情報を保持した始原天体で あると考えられている.その核から放出されるガ スやダストは一時的な彗星大気(コマ)を形成す るが,そのコマに含まれるガスの組成や生成率, あるいは核周辺への空間的な広がり具合などを観 測することで,彗星の核そのもの,延いては太陽 系形成の歴史への理解を深めることができる.ALMA
の観 測 で はHCN, HNC
お よ びH
2CO
(ホルムアルデヒド)の空間分布構造が得られた.HCN
が彗星核の周りにほぼ等方的に広がってい たのに対して,HNC
は極めて非一様な空間分布 構造をしており,太陽とは反対側の方向に塊状に 集まっている様子が示された.この観測事実から は,HCN
が彗星核から直接的に噴き出している 一方で,HNC
はコマ内部で(おそらくは有機物 を含むダストをソースとして)生成されているで あろうことが考えられる.ホルムアルデヒドに関 しては,レモン彗星ではアイソン彗星と比較して 核の周りでより大きく広がった領域に分布してい た.両彗星は太陽からの距離が異なっており(ア イソン彗星が0.54 AU
,レモン彗星は1.5 AU
),そ 図2 ALMA観測シミュレーターを利用した面光源 のresolve outの様子.視直径30秒角の一様な輝 度分布をもつ面光源を干渉計で観測した際の 初期合成画像(dirty map)を示す.上図は,合 成ビームサイズが1.0秒角になるようなALMA の口径12-mアンテナ配列で観測した場合であ り,下図は12-mアンテナの配列に加えてACA を併用した場合の例.の太陽放射の差によってホルムアルデヒドの親分 子がアイソン彗星では核近傍で素早く光解離して しまうことが両彗星間でのホルムアルデヒドの分 布の差異を作っていると考えられる. これらの発見は
ALMAの高い空間分解能力(空
間分解能がおおよそ0.5
秒角)があって初めて実 現されたものである. タイタン大気中の微量成分分布 前述の彗星観測成果の発表と時を同じくして, タイタン大気中の有機分子HNC
およびHC3N
の 空間的な偏在がALMA
によって明らかにされて いる11)(図3
).これは,アイソン彗星観測デー タのフラックスキャリブレーション用に観測され た,しかも僅か158
秒間の観測時間のタイタンの データを解析することで得られた発見であった. タイタン大気には大規模な大気循環が存在し, 主にその大気循環の影響で大気中の特定の微量成 分が極域に濃集することがカッシーニ探査機の観 測などからも知られている.ALMA
で得られたHC
3N
のデータ(図3b
)はまさにその様相を示し ていたが,一方で,HNC
に関しては極域から少 しずれた領域に濃集している予想外の結果が得ら れた(図3a
).HNC
の観測に用いられた合成ビー ムが斜めに歪んだ楕円となっている影響は無視で きないが,もしも両者の空間分布が本当に異なっ ているのであれば,それは非常に興味深い結果と なる.過去,タイタンの大気循環は東西方向に一 様な構造をしていると考えられていたが,そうし た大気循環モデルでは今回観測されたHNC
とHC
3N
の空間分布が異なっている理由が説明でき ない.この点に関しては,今後の追加観測で精度 の高いデータを取得し,議論を深めていくことが 期待される. こうした科学的に大きなインパクトをもった発 見が,サイエンスターゲットとしての本観測では なく,他天体を観測する際のキャリブレーション 用データから得られたということは,ALMA
の 性能の高さを如実に示す驚くべきニュースであっ た.実は,タイタンは,フラックスキャリブレー ション用の参照データとしてALMA
で相当な頻 度で観測されている.ALMA
のデータアーカイ ブには,サイエンスターゲットとしての観測デー タ以外にもこれらのキャリブレーション用の参照 データがすべて収録されている.この原稿の執筆 時点(2017
年1
月)で,ALMA
データアーカイブ にはすでに500
件以上のタイタンデータが一般研 究者に公開されている.このデータセットはALMA
の観測バンド全域にわたるさまざまな観 図3 タイタン大気中の(a)HNCおよび(b)HC3Nの空間分布を等値線で示したもの.色付部分は連続波でのマッ プ(タイタンの電波画像)であり,視直径の大きさが線で示されている.Cordiner et al. (2014)の論文11)よ り引用(American Astronomical Societyの許可を取得したうえでの転載).測周波数でのデータが含まれており,それらの中 にはサイエンス用途への転用が十分に可能なデー タが少なくない量で埋もれているのである.実 際,このキャリブレーション用のタイタンデータ から,
C
2H
5CN
という分子がサブミリ波帯におい て初めて検出され,南極上空へ偏って分布してい る様子も報告されている12). タイタンに限らず,太陽系天体(特に視直径の 小さい海王星・天王星や氷衛星など)はキャリブ レーション用天体としてALMA
で多数観測され ている.データアーカイブで公開されているそれ らを真面目に掘り下げていき,新たな科学的解析 を行う,いわば「宝探し」をしていく価値および 必要性は十分に高いと考えられる. 金星上層大気の力学ALMA
以前の単一鏡および干渉計観測でしば しば研究されてきた金星大気であるが,ALMA
に おいても金星大気中のSOや
SO
2, HDO
の空間分 布がCycle-0
の時点で早くも観測されている13). 本稿では,その後のCycle-3
で筆者らが観測提案 を行った,金星の上層大気の大気力学にも焦点を 当てた研究について紹介したい. 金星大気には「スーパーローテーション」とし て知られる高速(風速が100 m/s
に達し,4
‒5
日 で金星を一周する)の西向きの風が全球的に存在 している.しかし,このスーパーローテーション の存在がはっきりと分かっているのは,地表から 高度70 km
付近までの領域である.それより上空 ではどういった大気循環になっているのかはいま だに解明されていない.近年の金星大気大循環モ デルでは,大気内部で生じる波が角運動量を上向 きに伝播し,高度100 km
付近においても西向き の帯状流が生成される可能性が言及されている. そこで筆者らはALMA
で金星大気中の一酸化炭 素をマッピングし,その吸収線のドップラーシフ トから金星上層大気における大気の運動を可視化 した.同様の観測は過去にも行われているが,実 効的な空間分解能力を確保するために,金星の視 直径がそれなりに大きくなる内合付近の時期に観 測をするのが常であった.この状況では地球から 見えるのは主に金星の夜面となってしまい,言い 換えると,過去の観測では主に夜面(あるいは金 星ディスク上に昼夜が半々の状態で見えている状 態)の風速場しか観測されていない.ALMA
での観測では,先行観測例が皆無の金 星昼面での風速の様子を調べることを目的として おり,金星が外合付近に位置するタイミングで観 測が行われた.このときの金星の視直径は10
秒 角程度であり,内合付近の30
‒50
秒角という大き さと比較すると随分と小さい.しかしALMA
の 高い空間分解能(0.6
秒角)のお蔭で,金星ディス
クを十分に空間分解することができた. この観測から求めたドップラーシフトの結果 (速報値)が図4
である.観測者から遠ざかる向き を風速の正の向きとしており,この結果からは, 紙面の表側の半球から裏側の半球に流れていくよ うな風速場を考えることができる.これは,昼面 図4 Cycle-3で観測された金星12CO(2‒1)のデー タから,ドップラーシフトの速度マップを求 めたもの.観測者から遠ざかる向きを正とし ている.ディスク中央付近の黒点は太陽直下 点を示し,金星の赤道を破線で示した.ドッ プラーシフト導出時の誤差が一定のレベルよ り大きな領域に関してはこの図中からは省い てある.から夜面に流れる大気循環(昼夜間循環)の存在 を強く示しているものであり,西向きの帯状流の 影響は昼面では弱いということが考察される. 長基線配列による小惑星ジュノー観測 本稿では最後の紹介となるが,科学的なインパ クトではむしろ最大の部類に入ると考えられるの が,
2014
年のALMA
長基線試験観測キャンペー ンで取得された小惑星ジュノーの波長1.3 mm
の 連続波帯画像である14).小惑星ジュノーは,メイ ンベルト小惑星帯に位置する直径約240 km
の天 体であり,地球から見たときの視直径は0.08
‒0.2
秒角程度にしか達しない.この小天体を,基線長 が最大で13 km
にも達するアンテナ配列を用いて 観測したのである.この観測では空間分解能0.04
秒角が達成され,4
時間の観測時間の間に小惑星 ジュノーが自転する様子も明瞭に観測されてい る. この小惑星ジュノーの観測のように,太陽系天 体の表面から発せられるミリ波・サブミリ波帯連 続波を観測したときに得られる輝度温度は,天体 の地表面温度のみを単純に反映したものではなく, 地表面のやや下方(一般的には観測波長の10
倍程 度の深さ)からの熱放射の輝度温度が含まれる. そのため,観測される表面輝度温度に対していく つかの仮定や他波長による補助データを併用する ことで,地表面の温度あるいは地表面物質の複素 誘電率の情報を求めることができる.図5
には ジュノーの表面輝度温度の非一様性(全域一様な 輝度温度モデルからの残差)が自転の各段階で示 されている.これを見ると,ジュノーの表面輝度 温度は,同じ太陽直下点でも場所によってその増 え方が異なっている.これはジュノーの地表面物 質が空間的に非一様であり,熱慣性などの熱的性 質が場所によって異なっていることを示唆してい る. こうした超高空間分解能観測はALMA
でしか 成し得ないものであり,今までほとんど詳細観測 がされてこなかったエッジワース・カイパーベル ト天体などの観測が一気に現実のものとなったと 言える. 図5 小惑星ジュノーの輝度温度非一様性.自転周期7.2時間のうち,連続した約4時間分を観測したもの(ϕは自転 の位相を示す).○と●はそれぞれ太陽直下点と南極点を示す.ALMA Partnership et al.(2015)の論文14)よ り引用(American Astronomical Societyの許可を取得したうえでの転載).5.
さ
い
ご
に
本稿ではALMA
を利用した太陽系科学の現状 および今後の可能性についての紹介を行った.な お,スペースの関係上,本稿では紹介し切れなかっ た研究成果も多数存在していることを言及してお く.もちろん,現行の観測サイクル(Cycle-4
)で も太陽系カテゴリーの新規観測提案が複数採択さ れており,この先もさまざまな新発見がもたらさ れることは疑いの余地がない. ミリ波・サブミリ波帯で観測される太陽系天体 の姿は,可視光や赤外で見えている姿とはまた異 なるものとなっている.ALMA
とほかの光・赤 外望遠鏡を連携させて観測し,複数波長を用いた サイエンスを展開するということもこれから数多 く実施されていくであろう.また,太陽系天体の 場合,地上からの観測に加えて,探査機による至 近距離からの観測やサンプルリターン探査が行わ れる.日本の金星探査機「あかつき」しかり,小 惑星探査機「はやぶさ2
」しかりである.こうし た探査機と地上観測のシナジーもALMA
に期待 される研究トピックの一つである. 今後,ALMA
がもたらす太陽系サイエンスの ブレイクスルーに大きな期待を込めたい. 謝 辞 この原稿を書くにあたり,筆者の関係するALMA
観測の共同研究者でもある大阪府立大学の前澤裕 之氏および国立天文台チリ観測所の西合一矢氏, また,東京農工大学の飯野孝浩氏との議論を参考 にさせていただいた.ここに謝意を述べる.参
考
文
献
1) Marten A., et al., 1993, ApJ 406, 285 2) Lellouch E., 1996, Icarus 124, 1 3) Clancy R. T., et al., 2003, Icarus 161, 1 4) Gurwell M. A., et al., 1995, Icarus 115, 141 5) Moreno R., et al., 2009, Icarus 201, 549 6) Moullet A., et al., 2012, A&A 546, A102 7)佐川英夫,2007,博士論文(東京大学) 8) Hartogh P., et al., 2009, PSS 57, 15969) Butler B. J., Bastian T. S., 1999, in ASP Conf. 180, in Synthesis Imaging in Radio Astronomy II, eds. Taylor G. B., et al., p. 625.
10) Cordiner M. A., et al., 2014, ApJ 792, L2 11) Cordiner M. A., et al., 2014, ApJ 795, L30 12) Cordiner M. A., et al., 2015, ApJ 800, L14 13) Encrenaz T., et al., 2015, PSS 113, 275 14) ALMA Partnership, et al., 2015, ApJ 808, L2
Recent Results on the Solar System
Observation with ALMA
Hideo Sagawa
Kyoto Sangyo University, Motoyama, Kamigamo, Kita-ku, Kyoto 603‒8555, Japan
Abstract: The unprecedented capabilities of the Ataca-ma Large Millimeter Array(ALMA)open a new era in the solar system science. This article describes the characteristics of millimeter- and submillimeter-wave observation of the solar system objects, and reviews new findings that were recently achieved with ALMA.