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Share(共有と共用)-「公(Public)」と「私(Private)」の間で-

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アドミニストレーション 第 25 巻第 1 号 (2018) ISSN 2187-378X

Share(共有と共用)

-「公(Public)

」と「私(Private)」の間で-

熊本県立大学総合管理学部 藤井資子 1.はじめに 我々の生活において、「シェア(Share)」という言葉が良く耳にされるようになった。カーシェ アリングであったり、自転車のシェアであったり、シェアする対象は様々なものがある。形があ って、有限な資源であれば、多くの物がシェアされているのではないか。 Airbnb1というプラットフォームを用いて、アパートや自宅など,空いているスペースを他人と シェアすることが容易になった。また、Uber2では,自家用車の空き時間の稼働が可能になった。 Airbnb や、Uber といったシェアリングのプラットフォームでは、他人の空き時間や、居住空間、 自家用車の空き時間を活用するだけではなく、自分の空き時間の提供も可能としているところが ポイントである。 人の物を安く使える、有効活用できる、という側面に、貸す側のインセンティブがうまく伴っ ているといえよう。 なぜ、「シェア(Share)」という言葉は、怪しく魅力的な様相を見せて、「シェアリングエコノ ミー」が台頭してきたのであろうか。本稿では、共用と共有の概念について整理することで、有 限のものを多様なニーズをもった大勢の人で、満足度高く使う方法を探索的に模索する。 2.「シェア(Share)」は、なぜ怪しく魅力的なのか 「シェア」とは、なぜ怪しく魅力的な響きがするのであろうか。シェアリングエコノミーのも と、いろいろなモノがシェアされている。 みんなで使えそうなイメージ、エコな感じがするイメージなど、「持たないこと」で共同利用し 1 Airbnb ホームページ. https://www.airbnb.jp/host/homes?af=43720035&c=.pi0.pk55492458226_273701510590_c_120264642 16&gclid=EAIaIQobChMI9NjJy__03AIVxAcqCh0UWAeyEAAYASAAEgJV0_D_BwE(閲覧日:2018 年 8 月 17 日) 2 Uber ホームページ.https://www.uber.com/ja-JP/(閲覧日:2018 年 8 月 17 日)

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たり、環境に配慮したりすることに貢献しているようなイメージがある。

我々の身の回りで、シェアできそうなものをあげてみると、学校設備、図書館、道路、バス、 電車、自転車、家、Internet といったものから、Google や YouTube のようなプラットフォームも あげることができる。 みんなで使えて、エコなイメージがする「シェア」は、「共有」と「共用」の側面を有している といえる。先に列記したものの中ででも、所有する必要があるものと、そうでないものが混在し ていることが、「共有」と「共用」の存在を示唆していると言えよう。 3.共有と共用 東日本大震災以降、熊本地震や西日本豪雨等、自然災害が頻発し、我々の日常生活は危機にさ らされることが多くなった。災害の影響は、電力、食物、医療、行政、教育等、様々な分野にお よんでいる。例えば、電力供給においては、環境保護等の目的ではなく、電力需給バランスの調 整といった最も根源的な必要性から、節電対策等が求められ、我々の生活スタイルが大きく変わ ろうとしている。

このような状況下においては、share(共有)ないしは shared use(共用)といった概念を有用 に活用することが必要であろう。 Share(シェア)には、共有という側面と、共用という 2 つの側面がある。モノを複数人で共同 で所有して使うことを「共有」(共に有して使う)と整理すると、モノを共有しなくとも、共に利 用するだけの緩やかな関係性が「共用」(共に用いる)である。前者の例として、家族で 1 台の車 を共有して使用することがあげられる。この場合、自らが所有するモノを他人のために供する持 ち寄り参加型の側面に注目したい。後者の例として、レンタカーがあげられる。 電気・ガス・水道・通信といったライフラインの確保においては、有限の資源を有効活用する 観点から「シェア」という概念が有用となろう。基盤となる通信インフラの研究をしてきた筆者 にとって、シェアリングエコノミーをそのようなものとして理解した時に、それが通信インフラ そのものの歴史と重なって見えてくる。通信インフラは、旧世代ネットワークといえる電話ネッ トワークの頃から、共通の通信基盤を多数の利用者で活用する共同利用型のサービスであった。 さらに、インターネットが登場することで、利用者や地域オペレーターが自らの用途で構築した インフラを他者のネットワークと相互接続し、資源を持ち寄りあう参加型経済の両側面を兼ね備 えている。つまり、通信インフラそのものが(少なくともネットワーク社会における)シェエア リングエコノミーの元祖だと言えるのだ。「持たざる経営」という概念が存在するが、ライフラ イン系のビジネスには、多額の固定資産が必要となる。「持つこと」をやめるわけにいかない産 業においても、シェアという概念が根付いていることは興味深い。この概念は、現在台頭してい るシェアリングエコノミーに代表されるように様々なビジネスにおいても有用である。 公(Public)と私(Private)のはざまにある、共という概念、とりわけ「共用」に着目すること で、既存のビジネスの新たな側面を発見したり、台頭してくる新規ビジネスの根底にあるものを より鮮明に理解することが可能となろう。誰もが容易に利用可能な(オープン・アクセスな)公 的サービスと、私人によって所有される私的な財がもたらす効用が両極にあると仮定すると、そ

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の中間に位置する「シェア」という形態で提供される財やサービスがもたらす効用の活用が望ま れる。 4.先行研究レビュー シェアリングエコノミーに関して、Sundraragan[2016]は、シェアリングエコノミーで提供さ れているサービス(家を借りる、送迎してもらう、車を借りる等)が、目新しいものではなく、 注目すべきは、それが「贈与型経済」の無償の行為ではなく、金銭授受が伴う点であると指摘し ている3。そして、Chandler の The Visible Hand: The Managerial Revolution in American Business4を参

照しながら、経済活動の変遷について次のように述べている。「産業革命前までは、大部分の経済 的関係が個人対個人の形を取り、コミュニティに根ざし、社会的関係と密接に絡み合っていたこ とがわかる5」と Chandler のアメリカ経営史を振り返ったうえで、「シェアリングエコノミーの特 徴とされている取引・商売・雇用の形態が目新しいものではない6 」ということを指摘している。 Sundraragan[2016]によれば、「かつて存在した共有体験、自己雇用、コミュニティ内での財貨 の交換が、デジタル技術によって復活しつつある7」と述べられている。そのうえで、シェアリン グエコノミーの「新しさ」を、デジタル技術によって可能になった、全世界の人々との取り引き であることに言及している8。そして、これが、「ストレンジャー・シェアリング(赤の他人との 共有)」に参加できることだと指摘している9,10 シェアリングエコノミーで我々が使用するまたは、他人の用に供する財・サービスは、オープ ン・アクセス(誰もが容易にアクセス可能)なものとなる。オープン・アクセス財については、 Tisdell[1999]が利用に関する排除性と競合性に着目して、財を図 4-1 のように分類している11。 3

Sundraragan, Arun, The Sharing Economy: The End of Employment and the Rise of Crowd-Based

Capitalism, MIT Press, 2016, pp.3-4.(邦訳:アルン・スンドララジャン著,門脇弘典訳,『シェア

リングエコノミー:AirBnb、Uber に続くユーザー主導型の新ビジネスの全貌』,日経 BP 社,2016 年,pp. 12.)

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Chandler, Alfred D. Jr, The Visible Hand: The Managerial Revolution in American Business, Belknap Press, 1977.

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Sundraragan, Arun, The Sharing Economy: The End of Employment and the Rise of Crowd-Based

Capitalism, MIT Press, 2016, p. 4.(邦訳:アルン・スンドララジャン著,門脇弘典訳,『シェアリ

ングエコノミー:AirBnb、Uber に続くユーザー主導型の新ビジネスの全貌』,日経 BP 社,2016 年,p. 13.) 6 op. cit. p. 5.(邦訳:前掲書,pp. 14-15.) 7 op. cit. p. 5.(邦訳:前掲書,p. 15.) 8 op. cit. pp. 5-6.(邦訳:前掲書,p. 15.) 9 op. cit. pp. 5-6.(邦訳:前掲書,p. 15.) 10

Schor, Juliet, “Debating the Sharing Economy,” Oct. 2014. (Web 記事)

https://www.greattransition.org/publication/debating-the-sharing-economy(閲覧日:2018 年 8 月 20 日)

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Tisdell, Clem, “Economics, Aspects of Ecology and Sustainable Agricultural Production,” In Sustainable Agriculture and Environment: Globalisation and the Impact of Trade Liberalisation, Andrew. K. Dragun and Clem Tisdell (Eds.), Edward Elgar, 1999, pp. 41-42.

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出典:Tisdell, Clem, “Economics, Aspects of Ecology and Sustainable Agricultural Production,” In Sustainable Agriculture and Environment: Globalisation and the Impact of Trade Liberalisation, Andrew K. Dragun and Clem Tisdell (Eds.), Edward Elgar, 1999, pp. 42.

図 4-1 排除可能性と競合性による財の分類

純粋公共財(Pure Public Good)は大勢の人が同時に利用できるため、排除性が低く、競合性も 低い。この対極に位置するのが私有財(Pure Private Good)で、排除性、競合性ともに高い。競合 性は高いが、排除性が低いものがオープン・アクセス財(Open Access Commodity)である。オー プン・アクセス財の対極に位置するのが王権の財(Crown Commodity)であり、王族が排他的に 利用するため、排除性が高く、競合性が低い。Tisdell[1999]は、私的財以外では市場の失敗が 発生し、持続的提供に悪影響が出る可能性を指摘している12 オープン・アクセス財の持続的な提供には大きな問題が 2 つある。 1 つめが、資源の過剰利用に関する問題である。誰もが利用可能(オープン・アクセス)な資 源は、過剰利用が起こり、やがて枯渇する。Hardin[1968]は、共有の牧草地を例に、オープン・ アクセスな資源の過剰利用による資源枯渇メカニズムを「コモンズの悲劇」として説明している13 誰もが利用できる牧草地では、牧夫が家畜を一頭追加することによる利益(家畜の売却によって 得られる利益)は家畜の所有者である牧夫に帰属するが、家畜一頭を追加することによるコスト (牧草の消費速度が速くなること等)は牧草地を利用する全ての牧夫に分散される。牧夫が得ら れる利益がコストよりも大きい状態で、各牧夫が利益の最大化を目指す結果、過放牧が起こり、 牧草地が荒廃する。資源の枯渇を防ぐための方策として、牧草地の私有化や、アクセス制限の付 加があげられている。オープン・アクセスな資源の過剰利用防止のために、資源へのアクセスを コントロールするという概念は様々な分野で導入されている。例えば、水産資源へのアクセスを 12

Tisdell, Clem, “Economics, Aspects of Ecology and Sustainable Agricultural Production,” In Sustainable Agriculture and Environment: Globalisation and the Impact of Trade Liberalisation, Andrew. K. Dragun and Clem Tisdell (Eds.), Edward Elgar, 1999, p. 42.

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Hardin, Garrett, “The Tragedy of the Commons,” Science, Vol. 162, No. 3859, pp. 1244-1245.

Ex cl ud a bi lit y P erce nt 0 100 100 Mixed Cases Crown Commodity Pure Private Good Pure Public

Good Open-AccessCommodity Percent Rivalry

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漁業権によって制限することがこれにあたる。

2 つめが、資源の提供メカニズムに関する問題である。図 4-1 に示したそれぞれの財が提供さ れるメカニズムを考えると、オープン・アクセス財の提供メカニズムが、他の財に比べて複雑な ものであることがわかる。王権の財(Crown Commodity)は、そもそも市場メカニズムを通じた 提供が想定されておらず、王権の範囲で供給・利用が行われる。純粋公共財(Pure Public Good) は、市場に委ねると供給が過少になるため、税収等を財源として市場メカニズムの外で供給され る。私的財(Pure Private Goods)は、基本的に市場メカニズムを通じて提供されるが、米や塩な どの生活に必須である食料品、タバコや酒などの嗜好品では価格規制が行われる場合もある。オ ープン・アクセス財(Open Access Commodity)は、市場メカニズムを通じて提供される場合もあ れば、市場メカニズムを介さずボランタリーに提供される場合もある。いずれの場合も、不特定 多数の利用者がアクセス可能であるため、何の管理もされないと過剰利用や混雑問題が発生する。 しかし、公共財ではないため、政府による税収を財源とした一元的な供給体制にはなじまない。 また、サプライサイドからみると、不特定多数が利用する場合、財の利用対価の回収が難しいた め、持続的な財の維持・提供に関するインセンティブが働きづらいという問題がある。 このオープン・アクセス財がデジタル技術の進歩によって、赤の他人とシェアされるようにな るようなインセンティブを組み込んだ Airbnb や Uber 等のプラットフォーム設計には大きな意義 があると言えよう。 5.シェアリングエコノミーと共有と共用 本章では、インターネット上や、リアルな生活上で起こっている共有や共用について考察する。 まず、現実に発生している様々な現象を理解するため、Open・Closed・公・私の軸で「共用」と 「共有」を図 5-1 に整理した。 図 5-1 Open・Closed・公・私の軸と「共用」と「共有」 まず、Open と Closed の軸からみていく。これらは、他者との関係が有るか、無いかで分けら れる。他者との関係があるものが Open なもので、無いものが Closed な財やサービスである。 図 5-2 に示したように、Open と Closed の概念には、幅があるのが特徴である。財やサービス の提供にあたり、どれだけ Open になるのか、Closed になるのか、度合いが異なることが想定さ れる。Open、Closed とも、軸の両端が最も際立った状態を表し、中間に寄るほど、Open や Closed

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が混在したり、明確な線引きが難しい財・サービスも存在することが想定される。例えば、Facebook は、基本的に Open なものと捉えることができるが、その中には、招待制のページを作れたり、 自分自身のプライバシー設定をコントロールすることで、Closed な部分の割合を多くしていくこ とができる。 自治体が提供するオープン・データは、誰にでも開かれた Open なものである。行政の公開情 報も完全に Open なものであろう。行政機関が提供するサービスは、概ね Open なものが多い。一 方で、ビジネスは、Open と Closed をうまく取り混ぜて行っている点が面白い点である。 図 5-2 Open と Closed

次に、Open と Closed に、公(Public)と私(Private)の概念を加えて整理したのが図 5-3 であ る。公(Public)な財やサービスは、Open なものでも、Closed なものでも、公共のものであり、 多くの人が使える「みんなモード」のものである。一方、私(Private)な財やサービスは、Open なものでも、Closed なものでも、個人や一部の人が使える私的な「自分モード」のものである。

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こ こ で は 、 公 が 「 Public」 な 概 念 で 、 私 が 「Private」 な 概 念 と 考 え 、 こ こ に 、Open と Closed の軸を加えたと考えることもできる。Open な時は、他者との関係が開かれ て い る も の で あ る が 、Closed な時は、他者との関係がなく、自分の中で完結してしま う 時 を 想 定 し て い る 。 公 益 モ ー ド の 時 は 、Open であっても、Closed であっても、「みんなモード」になる ( 図 5-3)。一方、私的便益モードの時は、Open であっても、Closed であっても、「自 分 モ ー ド 」に な る( 図 5-3)。ここでいう「自分」は、経済活動の主体となる「私」と し て の 企 業 体 も 含 ま れ る 。 シ ェ ア リ ン グ エ コ ノ ミ ー の 市 場 規 模 が 拡 大 の 途 上 に あ る が 、 公 益 モ ー ド で 事 業 を し て い る の か 、 私 的 便 益 モ ー ド で 事 業 を し て い る の か で 、 ビ ジ ネ ス モ デ ル が 大 き く 分 か れ る。Airbnb や Uber、カーシェアリングは「みんなモード」で「 Open」なもの、Yahoo! 知 恵 袋 や モ ノ シ ー14, 15( 様 々 な モ ノ を 個 人 間 で 貸 し 借 り で き る サ ー ビ ス ) は 、「 自 分 モ ー ド 」で「Open」なものかもしれない。一方、Public であって、Closed なものはあ ま り 存 在 し な い と 言 え る 。 次 に 、Open・Closed・公・私・の軸で「共用 」と「共有」の概念を 用いて実際のサ ー ビ ス を 分 類 し て み る と 、 図 5-4 のようになる。 図 5-4 Open・Closed・公・私とインターネット上の情報 イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の 情 報 で は、「 私 」 的 な も の が 共 有 さ れ る こ と が あ る 。 例 え ば 、 図 5-5 に 示 し た よ う に 、 闘 病 日 記 や 、 個 人 的 な blog の 記 事 が 共 感 を よ び 、 共 有 ( share) さ れ る こ と が あ る 。 ま た 、 図 5-6 に示したように、感染症の拡大予防のため、インフ ル エ ン ザ 等 の 受 診 記 録 が 個 人 情 報 に 配 慮 し た う え で 医 療 機 関 間 で 共 用 さ れ 、 感 染 経 路 を 可 視 化 し た う え で 、 そ の 情 報 が 共 有 さ れ る こ と が あ る 。 こ の 場 合 は 、 公 益 性 を 重 視 し た 情 報 の 共 有 と い う こ と が で き る 。 こ こ で 注 目 し た い の が 、 図 5-5、図 5-6 に示した「Share」が、一旦「共用」される と い う 過 程 を 経 て 、結 果 的 に 、利 用 主 体 に 所 有 さ れ る よ う に な り、「 共 有 」さ れ る と い う 現 象 が 起 こ っ て い る こ と で あ る 。 共 用 の 動 機 は 様 々 で あ り 、 図 5-5 のように、闘病 14 モ ノ シ ー ホ ー ム ペ ー ジ . https://creww.me/ja/startup/monosea( 閲 覧 日 : 2018 年 8 月 20 日 ) 15 株 式 会 社 株 式 会 社 プ ラ イ メ ッ ジ ホ ー ム ペ ー ジ . https://primedge.net/?p=524( 閲覧 日 :2018 年 8 月 20 日)

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日 記 や blog 記事への共感の場合もあれば、図 5-6 のように、感染症の拡大防止という 応 益 性 を 重 視 し た 場 合 も あ る 。 図 5-5 共感を通じた共有 図 5-6 公益性を重視した共有 我々が利用する Wikipedia16やフリーのソフトウェア、Linux17等は、図 5-7 に示す通り、それら が生成される過程が、前述のインフルエンザの受診記録の共有に似ている点が面白いところであ る。 私的な時間をボランタリーに供出することで協働が起こり、その成果物が公に共有されている。 図 5-7 Wikipedia や Linux 等のプラットフォーム これらから考えられる含意は、有限のリソースを有効活用したいとき、必ずしも「所有」する 必要はなく、「使えればいい」という発想に着目することが重要な時もあるということである。 16 Wikipedia ホームページ. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%82%AD%E3%83%9A%E3%83%87% E3%82%A3%E3%82%A2(閲覧日:2018 年 8 月 20 日) 17 Linux ホームページ.https://www.linux.org/(閲覧日:2018 年 8 月 20 日)

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図 5-8 リソースの共有(1) レンタカーや貸しオフィス、レンタサイクル、シェアハウス等、所有せずして、必要な時だけ 対価を払って利用することができることを我々は十分に認識している。 また、図 5-8 の構図を応用して、コインパーキングを経営するタイムズが、カーシェアリング サービス18を提供している例がある。これは、自社が所有する駐車場という資産を使用して、共 用に供する車を置くスペースと、レンタカーを利用するプラットフォームを構築したものである。 また、リソースの共用事例として、図 5-9 のような例も考えられる。これは、シェアハウスに 代表されるものであるが、海外転勤時に、自分が所有する家を他人に対価を貰って貸すというこ とも考えられる。この場合の貸し手が、海外転勤をする人だとすると、借り手は、一人でも良い し、家族等、数人というケースも発生することが想定される。 図 5-9 リソースの共有(2) 6.おわりに 誰かが所有する有限のリソースであっても、稼働していない時間がある。それを「共用」、「共 有」という概念、とりわけ、「共」に「用いる」という「共用」という緩い概念に、「対価」とい 18 「タイムズ カー プラス」ホームページ.https://plus.timescar.jp/(閲覧日:2018 年 8 月 20 日)

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うインセンティブを有効に組み込むことにより、シェアリングエコノミーが発展してきている。 何らかの財・サービスの提供において、Open と Closed を組み合わせることは既存のインター ネットを介して提供されているプラットフォーム上で多く行われている。 ここで注目したいのは、公(Public)と私(Private)の間で供される個人や法人の財やサービス が、対価を介してビジネスになっている点のみならず、私的な情報を公にすることで、情報の共 用を介して共有が起こったり、情報が拡散されて多くの人の手に渡ることである。ここでは、公 (Public)と私(Private)の間で行われている、有償・無償の活動に注目したい。財・サービスが、 公(Public)なものなのか私(Private)なものなのか、その中間のものなのか、財・サービスの Open・Closed に関わらず、公と私の間にある「共用」がシェアリングエコノミーの一翼を担って いる。 「Share(共有 or 共用)」が持つ可能性は大きい。「公」と「私」の間に、社会で発生している 様々な問題を解く鍵がある。例えば、自然災害で損壊した不採算地域のライフライン整備を、多 額の補助金を投入するのではなく、持ち寄り型で民間の活力を利用して効率的に行うことが考え られる。共に利用するものを持ち寄り型で構築している今のシェアリングエコノミー(Uber であ れば、ドライバーは、私的な車と時間を利用者に対価を得て供していることになる。)が示唆する ものは、かつて巨大な固定資産産業と呼ばれてきた通信や電力などのライフライン構築の構造を 根底から覆す可能性を持つことである。 具体的には、通信会社や電力会社が「規模の経済性」を利用して構築してきたインフラを、地 域単位で持ち寄り型で構築し、それを相互に接続しあうことで巨大な通信ネットワークや電力ネ ットワークを構築する可能性を秘めている。各地で行われている小水力発電に関する取り組みが つながった時に大きな力を発揮するだろう。電力会社から買っていた電力が、自家発電できるよ うになるのだ。とりわけ、「規模の経済性」の働かない過疎地域等の条件不利地域では、小水力発 電同士のつながりや、持ち寄り型の通信ネットワーク構築が可能になれば、大きな可能性が開け る。動機は私的なもの、供する時間も労力も私的なもの、しかし、取り組む課題は公的なもので ある。 身近な事例で考えるならば、カーシェアリングにシェアライドを組み合わせることで、通勤時 の道路の混雑緩和が可能になる。私有する車を、同方向に行く人々に運転という私的労力のもと に供することで、混雑問題の緩和に繋がることが考えられる。 シェアすることで、有限な資源の有効活用が可能になるのみならず、公と私の間にある共用の 概念を用いて、様々な資源を人々が持ち寄ることによって、資本集約型産業が担ってきた役割を 果たすことも可能になってきたといえよう。 謝辞:本稿を執筆するにあたり、熊本学園大学の吉川勝広教授から、有益なコメントを多数いた だいた。ここに記して、感謝申し上げる。

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[参考文献]

[1] Botsman, Rachel, and Roo Rogers, What’s Mine Is Yours: The Rise of Collaborative Consumption,

HarperCollins, 2011.(邦訳:レイチェル・ボッツマン著,小林弘人監修・解説,関和美訳,『シ

ェア:<共有>からビジネスを生み出す新戦略』,NHK 出版,2010 年.)

[2] Chandler, Alfred D. Jr, The Visible Hand: The Managerial Revolution in American Business, Belknap Press, 1977.

[3] Hardin, Garrett, “The Tragedy of the Commons,” Science, Vol. 162, No. 3859, pp. 1244-1245.

[4] Jarvis, Geff, PUBLIC PARTS: How Sharing in the Digital Age Improves the Way We Work and Live, Simon & Schuster, 2011.(邦訳:ジェフ・シャービス著,関和美訳,『パブリック:開かれたネ

ットの価値を最大化せよ』,2011 年.)

[5] Sundraragan, Arun, The Sharing Economy: The End of Employment and the Rise of Crowd-Based

Capitalism, MIT Press, 2016.(邦訳:アルン・スンドララジャン著,門脇弘典訳,『シェアリン

グエコノミー:AirBnb、Uber に続くユーザー主導型の新ビジネスの全貌』,日経 BP 社,2016 年.)

[6] Tisdell, Clem, “Economics, Aspects of Ecology and Sustainable Agricultural Production,” In Sustainable Agriculture and Environment: Globalisation and the Impact of Trade Liberalisation, Andrew. K. Dragun and Clem Tisdell (Eds.), Edward Elgar, 1999.

図 4-1  排除可能性と競合性による財の分類
図 5-3  公益モードと私的便益モード
図 5-8  リソースの共有(1)  レンタカーや貸しオフィス、レンタサイクル、シェアハウス等、所有せずして、必要な時だけ 対価を払って利用することができることを我々は十分に認識している。    また、図 5-8 の構図を応用して、コインパーキングを経営するタイムズが、カーシェアリング サービス 18 を提供している例がある。これは、自社が所有する駐車場という資産を使用して、共 用に供する車を置くスペースと、 レンタカーを利用するプラットフォームを構築したものである。   また、リソースの共用事例として、図

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