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帯水層を用いた空調システムの適切な運用手法に関する研究 [ PDF

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帯水層蓄熱を用いた空調システムの適切な運用手法に関する研究

馮 元沢 1. はじめに 東日本大震災を契機に省エネルギーの一層の推進 が求められており、地中熱は都市内に広く賦存し、季 節や昼夜を問わず利用可能な再生可能エネルギーの一 つとしてその価値が認識されつつある 1)。現在、日本 で普及している昼夜間蓄熱システムは、主に水蓄熱シ ステムと氷蓄熱システムである。しかし近年は、地下 水で飽和された地層である帯水層を用いた帯水層蓄熱 システムが注目されている。 本研究では、帯水層蓄熱システムを用いた空調シス テムを対象として、空調システムシミュレーションモ デルを構築し、空調システム全体の適切な運用手法を 検討することを目的とする。 2. 対象システム概要 本研究の対象建物は、平成 28 年 4 月に竣工した香 川県高松市に位置する建物である。敷地面積は 14,060 ㎡、延床面積は 11,613 ㎡であり、5 階建の事務所であ る。 2.1 システム全体の概要 対象空調システム全体の系統図を図 1 に示す。一次側 で氷蓄熱システム、水冷 HP が連携し、二次側の冷暖 房負荷を処理する。また、熱交換器(以下:HEX)HEX-11 と HEX-21 は一階の AHU の熱源となる帯水層蓄熱シ ステムに接続されており、蓄熱時浅井戸から地下水を 汲上げ、HEX-11 で熱交換を行い、蓄熱井戸に貯めら れる。放熱時は、蓄熱井戸から揚水され、HEX-21 で 熱交換されて、還元井戸から地中に戻される。対象空 調システムでは各機器の出入口温度、流量、消費電力 などについて BEMS によりデータを収集している。 2.2 一階 AHU の概要 一階にある AHU 内のコイルの配置について図 2 に 示す。HEX-21 で熱交換を行った冷温水は予冷・予熱 コイルに送られ、室内からの還気を予冷・予熱する。 熱交換された空気は氷蓄熱システム、水冷 HP システ ムを熱源とする冷温水コイル(以下: HC コイル)で 最終的な温度コントロールが行われたのち、室内に送 られる。 2.3 帯水層蓄熱システムの概要 帯水層蓄熱システムの概念図を図 3 に示す。帯水層 図 1 対象システム全体系統図 予冷・予熱 コイル HCコイル HEX-21より 還ヘッダーへ 還気 給気 HEX-21へ 往ヘッダーより 空気 図 2 一階 AHU 系統図 浅井戸 蓄熱井戸 還元井戸 HEX-11 水冷HP チラー 帯水層 HEX-21 1階AHU 系統 図 3 帯水層蓄熱システム

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46-2 注水・揚水 第1槽 第n槽 ・・・ ・・・ 注水流量: Li 注水温度: Ti Ti1 Tin 上下不透水槽への熱損失 移流による伝熱 隣槽との伝熱 第1槽 第n槽 ・・・ ・・・ To1 Ton 揚水流量: Lo 揚水温度: To 槽間隔 d 図 4 帯水層蓄熱システム円筒モデル概念図 とは、地下水で満たされた砂層等の透水性が比較的良 い地層のことを指し、地下水取水の対象となり得る地 層である。帯水層蓄熱システムは、この帯水層を水蓄 熱システムの蓄熱槽のように利用するもので、夜間の うちに冷温水を注水して蓄熱し、昼間に揚水して使用 するシステムである。地下水が豊富に得られることか ら、運用方法を工夫することで、地下水自体が持つ熱 も利用することができる。 3. シミュレーションモデルの構築 3.1 帯水層モデルの構築 帯水層蓄熱システムのモデル 2)は幾つかの槽に分けら れた円筒モデル(図 4)を想定する。注水時熱量は円 筒の中心である第 1 槽から流入した水が外部の槽へ拡 散し、揚水時は逆に第 1 槽から汲み上げられる。その 際に上下不透水層への熱損失や隣槽との伝熱も含めて 考慮している。帯水層内では実際には地下水流がある ことが多いが、計算では一定方向の広域的な地下水流 はないものとしている。 3.2 コイルモデルの構築 コイルモデルのフロー図を図 5 に示す。コイル入口 の空気温湿度、風量、水温、流量などを入力し、空気 状態量計算と対数平均温度差の概念に基づく熱交換計 算を組み合わせて、コイル出口の空気温湿度と水温を 算出する。なお同様の考え方で水-水熱交換器モデルも 構築している。 3.3 全体システムモデルの構築 シミュレーションモデルのフロー図を図 6 に示す。 モデルは HEX-11・HEX-21 モデル、水冷 HP モデル 3)、 帯水層モデル、コイルモデルから構築されている。蓄 END 入力 (入口水温度、入口空気温度、流量、 室内相対湿度、風量) 湿りコイル仮定 エンタルピー計算 (TRXH) START 絶対湿度計算 (TRXH) 乾きコイル仮定 出口水温、空気温度計算 (HEX) 空気の比重計算 (TRXH) 風速、流速計算 乾きコイルの熱貫流率計算 湿りコイルの熱貫流率計算 エンタルピー計算 (TRXH) 風量、流量判断 出口水温、空気温度計算 (HEX) コイル乾湿判断 (TRXH) YES YES NO NO 図 5 コイルシミュレーションモデルフロー図 START 入力(蓄・放熱・停止運 転時間、蓄熱水温、蓄・ 放熱流量 蓄・放熱・停止運転時間 停止運転時間 蓄熱時間帯 放熱時間帯 <蓄熱> 水冷HP運転 <浅井戸> 汲み上げポンプ運転 HEX-11 帯水層蓄熱 <放熱> 揚水ポンプ運転 HEX-21 室内AHU(コイル) END 図 6 帯水層蓄熱システム全体フロー図 熱運転時は、水冷 HP から冷温水温度・流量と浅井戸 から汲上げた水の温度(19.1℃)・流量を HEX-11 モデ ルに入力し、帯水層への注水温度を計算して帯水層モ デルに入力する。また、放熱時は、帯水層モデルによ り汲み上げられる水の温度を計算し HEX-21 に入力す る。HEX-21 モデルで計算された冷水温度をコイルモ デルに入力して、予冷・予熱量を計算する。

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46-3 R² = 0.9173 20 21 22 23 24 25 20 21 22 23 24 25 AH U 予冷コイ ル 冷温 水出口温度( SIM )[ ℃ ] AHU予冷コイル冷温水出口温度(実測)[℃] 図 7 AHU 予冷コイル冷温水出口温度精度検証 3.4 精度検証 二つのコイルで構成される AHU の計算精度を確認 するため、構築したモデルに実測値の予冷・予熱コイ ル冷温水入口温度・流量、HC コイル冷温水入口温度・ 流量、AHU 空気入口温湿度・風量を入力し、各出口温 度を算出した。2017 年 10 月 3 日の実測データを用い、 シミュレーションで算出された出口温度を実測値の出 口温度と比較し、精度検証を行った。 AHU 予冷コイルの精度検証結果を図 7~図 8 に示す。 予冷コイルでは、23 度付近で冷温水出口温度の計算結 果が実測値とほぼ同値である。HC コイルでは、温度 は高い時、冷温水出口温度の計算結果の誤差が大きく なる。AHU コイル空気出口温度では、風量は少ない時 の計算結果が実測値より高くなり、風量が大きくなる 時には、実測値と同一である。 4. ケーススタディ 帯水層蓄熱システムの適切な運転方法を検討する ため、蓄熱運転の有無、注揚水量及び夜間蓄熱時水冷 HP の出口温度設定についてパラメータを変更した 表 1 冷房運転方法のケース設定 R² = 0.8146 0 5 10 15 20 25 30 0 5 10 15 20 25 30 AH U HC コイ ル冷温 水出口温度( SIM )[ ℃ ] AHU HCコイル冷温水出口温度(実測)[℃] 図 8 AHU HC コイル冷温水出口温度精度検証 R² = 0.8786 0 5 10 15 20 25 30 0 5 10 15 20 25 30 AH U コイ ル空気 出口温度( SIM )[ ℃ ] AHUコイル空気出口温度(実測)[℃] 図 9 AHU コイル出口温度精度検証 ケーススタディにより、システム全体の消費電力量や ピークカット効果に与える影響を計算する。なお、実 システムでは予冷・予熱コイルが建物一階にある 5 台 の AHU のみに設置されているが、シミュレーション では、建物内全ての AHU に予冷・予熱コイルを設置 されているとして計算を行う。計算では、2017 年 7 月 や 2017 年 1 月の実測データを入力値として用いる。検 討ケースを表 1、表 2 に示す。蓄熱なしの場合では、 夜間蓄熱を行わず、昼間に直接地下水を汲み上げ、 AHU の予冷に利用する。また、蓄熱ありの場合では、 表 2 暖房運転方法のケース設定 ケース 運転方式 注水流量 [L/min] 揚水流量 [L/min] 水冷 HP 出 口温度[℃] ケース C_0_0 帯水層不使用 0 0 7 ケース C_0_30 蓄熱停止、直 接地下水を利 用する 0 30 ケース C_0_65 0 65 ケース C_0_100 0 100 ケース C_1_30 蓄・放熱運転 30 30 ケース C_1_65 65 65 ケース C_1_100 100 100 ケース C_T_5 夜間水冷 HP 出口温度制御 30 30 5 ケース C_T_6 30 30 6 ケース C_T_7 30 30 7 ケース 運転方式 注水流量 [L/min] 揚水流量 [L/min] 水冷 HP 出 口温度[℃] ケース W_0_0 帯水層不使用 0 0 45 ケース W_1_30 蓄・放熱運転 30 30 ケース W_1_65 65 65 ケース W_1_100 100 100 ケース W_T_35 夜間水冷 HP 出口温度制御 30 30 35 ケース W_T_40 30 30 40 ケース W_T_45 30 30 45

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46-4 ケースC_0_0 ケースC_0_30 ケースC_0_65 ケースC_0_100 ケースC_1_30 ケースC_1_65 ケースC_1_100 30 32 34 36 38 40 42 134 135 136 137 138 139 ピーク時間帯消 費電 力量 [G J] 総消費電力量[GJ] ケースC_0_0 ケースC_0_30 ケースC_0_65 ケースC_0_100 ケースC_1_30 ケースC_1_65 ケースC_1_100 図 10 冷房時期ピークカット効果計算結果(流量) ケースW_0_0 ケースW_1_30 ケースW_1_65 ケースW_1_100 0 5 10 15 20 25 0 10 20 30 40 50 60 70 80 ピーク時間帯消 費電 力量 [G J] 総消費電力量[GJ] ケースW_0_0 ケースW_1_30 ケースW_1_65 ケースW_1_100 図 12 暖房時期ピークカット効果計算結果(流量) いずれのケースも夜間 10 時間蓄熱を行い、昼間に揚水 し、予冷・予熱コイルに利用する。実測時、暖房時期 の室内温度は約 23℃であり、約 19℃の地下水では、部 屋を暖めることができないため、暖房運転では地下水 の直接利用は検討しない。ピークカット効果について は、二次側負荷が最大となる午前 8 時~12 時をピーク 時間帯として分析を行う。 5. シミュレーション計算結果の検討 冷房期における総消費電力量とピークカット効果 の計算結果を図 10、図 11 に示す。直接地下水を利用 するケースは、総消費電力量やピーク時間帯消費電力 量がわずかに削減されているが、効果は高くない。そ れに対し、蓄熱したケースでは、予冷コイルの負荷処 理能力の限界があり、蓄えられた熱量の一部が還元井 戸に捨てられるため、総消費電力量は増えている。ピ ーク時間帯にケース 1_30 は約 5.2GJ の消費電力量削減 効果を得られ、約 1GJ 総消費電力量が増加した。夜間 蓄熱時水冷 HP 出口温度を 7℃から 5℃まで下げると、 約 1.5GJ のピークカット効果を得られるが、システム 全体では約 2.7GJ 消費電力量が増加している。以上か ら、冷房運転時には、30L/min の注揚水量とし、ピー クカット効果を優先する場合には水冷 HP の出口温度 を低く設定するのが良いと考えられる。 暖房期におけるピークカット効果計算結果を図 12、 図 13 に示す。冷房期と同様に、暖房期でも帯水層蓄熱 ケースC_T_5 ケースC_T_6 ケースC_T_7 33 34 35 36 128 128.5 129 129.5 130 130.5 131 131.5 132 ピーク時間 帯消 費電 力量 [G J] 総消費電力量[GJ] ケースC_T_5 ケースC_T_6 ケースC_T_7 図 11 冷房時期ピークカット効果計算結果(温度) ケースW_T_35 ケースW_T_40 ケースW_T_45 12 13 14 15 50 52 54 56 58 60 ピー ク時間帯消 費電 力量 [GJ] 総消費電力量[GJ] ケースW_T_35 ケースW_T_40 ケースW_T_45 図 13 暖房時期ピークカット効果計算結果(温度) を行うと、総電力消費量が増加したが、ピーク時間帯 には 10.4GJ の電力消費量を削減できている。注揚水量 を増加させたケースでは、ピーク時間帯消費電力量が 増加している(ケース W_1_100)。揚水量の増加は、 多くの熱量が還元井戸に捨てられる上に、ポンプの消 費電力量が増える。夜間蓄熱時水冷 HP 出口温度を 35℃から 45℃まで上げると、1.2GJ のピークカット効 果が得られるが、4GJ 総電力消費量は増加している。 以上から暖房運転時には、水冷 HP の夜間蓄熱時出口 温度は 40℃と設定し、30L/min の注揚水量で帯水層蓄 熱を行うケースが、最も適切な運転方法と考える。 6. まとめ 本研究では、帯水層蓄熱システムを用いた空調シス テムを対象とし、シミュレーションモデルを構築した。 さらに、注揚水流量や水冷 HP 出口温度制御がピーク カット効果に対する影響を検討し、冷暖房時期それぞ れの適切な運転方法を提案した。 【参考文献】 1) 山本真平, 他:帯水層を利用した蓄熱空調システムの研究―季節間蓄熱 の直接利用・熱源水利用併用システムの検討―,空気調和衛生工学会大 会学術講演論文集(高知),No.248,2017 年 11 月 2) 伊藤貴之, 帯水層を利用した昼夜間蓄熱システムの研究—帯水層の温 度応答を予測する集中定数モデルの構築—,大阪市立大学大学院 工学 研究科修士論文,2011 年 3) 呉濟元, 他 4 名:複合化蓄熱方式とハイブリット空調を採用した事務 所建物における エネルギーの評価・改善に関する研究(第 3 報)シ ミュレーション構築及び運転方法の検討,日本建築学会大会 (広 島),2017 年 9 月

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