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011887 医用画像‐28‐3/★28‐3‐03教育講演資料‐永井様

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[教育講演資料]

法医学における検査の役割

−DNA 型判定の基礎から死後画像診断まで−

永井

岐阜大学大学院医学系研究科法医学分野 〒501-1194 岐阜市柳戸 1-1 (2011 年 5 月 28 日受理)

Roles of Examinations in Legal Medicine

− From the Basics of DNA Typing to Postmortem Imaging −

Atsushi NAGAI

Department of Legal Medicine, Graduate School of Medicine, Gifu University 1-1 Yanagido, Gifu 501-1194, Japan

(Received on May 28, 2011)

Abstract : This review describes the roles of examinations, particularly DNA typing and postmortem imaging, in legal

medicine. DNA typing of the short tandem repeat(STR)locus is useful for personal identification because it can analyse a small amount of and/or degraded forensic sample by polymerase chain reaction(PCR). The conventional procedure followed for DNA typing is multiplex STR analysis with capillary electrophoresis. Mitochondrial DNA analysis is an effective method for analysing small amounts of and/or degraded forensic samples in which even STR loci cannot be detected. Postmortem imaging by computed tomography(CT)is useful for forensic casework because it easily reveals bone fractures, pneumothorax and specific haemorrhagic lesions such as cerebral haemorrhage, subarachnoid haemorrhage and subdural haematoma. Thus, DNA typing and postmortem imaging will increasingly play vital roles in legal medicine.

Key words : legal medicine, personal identification, DNA typing, death investigation, postmortem imaging

1.はじめに

法医学とは,「医学的解明助言を必要とする法律上の案 件,事項について,科学的で公正な医学的判断を下すこと によって,個人の基本的人権の擁護,社会の安全,福祉の 維持に寄与することを目的とする医学」である[1].法医 学の活動は,死体検案や法医解剖による死因の究明をはじ め,生体における創傷の診断,個人識別・親子鑑定,薬毒 物の生体・組織への影響や死体での所見の解析,書類の鑑 定など,多岐にわたる[2, 3].本稿ではその中から特に「個 人識別」と「死因の究明」を取り上げ,それに関わる法医 学的検査として,それぞれ DNA 型検査と死後画像診断を 中心に解説する.

2.個人識別における法医学的検査

2.1 個人識別 個人識別とは「生体および死体またはその一部から個人 を特定すること」をいう[4].個人識別の対象となるのは, 生体では記憶喪失者のような自己を認識できない人,黙秘 者,幼児,産院での取り違えの新生児など,死体では白骨 死体,焼死体,バラバラ死体などであり,人体の一部に由 来するものとしては血液,唾液,精液などの体液や体液斑, 毛髪,骨,歯,指紋などがある[4, 5]. 2.2 個人識別の手順 身元不明者に対しては,まず指紋の検査が行われる[4]. 指紋は万人不同・終生不変であるため,身元不明者から指 紋が採取可能であれば個人を特定することは容易である [4].現在,わが国では,指紋の照合・確認に指紋を電子 データとして記録する指紋自動識別システム(auto finger-print identification system,AFIS)が利用されている[5, 6]. 白骨死体や焼死体など,指紋を採取できない場合には, 歯の治療痕と歯科カルテとの照合による個人識別が行われ る[4].最近では,歯科 X 線画像を活用した個人識別法も 検討されている[7, 8]. 歯の治療痕がない死体や人体由来の試料については,血 液型や DNA 型の検査が行われる[4].血液型には赤血球型 (ABO 式血液型,Rh 式血液型など)のほか,血清型(HP 型,GC 型など),酵素型(ESD 型,ACP 型など),白血球 型などがあるが,各種の体液斑や毛髪,骨などから安定し て検出できるのは ABO 式血液型だけである[9].一方, DNA型は PCR 法(後述)を用いることにより,さまざま な人体由来試料からの検出が可能である. 2.3 DNA 型検査 2.3.1 DNA の構造 DNA(デオキシリボ核酸)は,糖にリン酸と塩基が結 合したヌクレオチドと呼ばれる構成単位が長く鎖状に連 なった物質であり,この長い鎖が 2 本対をなして二重らせ ん構造を形成している.DNA を構成する塩基にはアデニ ン(A),グアニン(G),チミン(T),シトシン(C)の 4 種 類があり,対をなす 2 本の鎖の間で A と T,G と C が相 補的に結合している. DNAは細胞内の核のほか,ヒトなどの動物細胞では, 細胞小器官であるミトコンドリアにも独自の DNA として 存在している.核 DNA は両親から 1 コピーずつ受け継ぐ ため,1 個の細胞中に 2 コピー存在する.形状は線状をな

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し,1 コピーあたりの長さは約 30 億塩基対である.一方, ミトコンドリア DNA の形状は環状で,16,569 塩基対から なる.ミトコンドリアは細胞内に多数存在し,それぞれに 複数のミトコンドリア DNA が含まれているため,1 個の 細胞には数百から数千コピーのミトコンドリア DNA が存 在している.また,核 DNA が両性遺伝するのに対し,ミ トコンドリア DNA は母性遺伝する特徴を有する. DNAは遺伝子の本体であるが,すべてが遺伝子として 働いているわけではなく,核 DNA の約 90∼95%,ミトコ ンドリア DNA の約 7% が非遺伝子領域である. 2.3.2 DNA 多型 多型とは,同一集団内において,ある遺伝子座にアレル (allele,対立遺伝子)が 2 種類以上存在し,変異遺伝子の 頻度が 1% 以上である場合をいう[9].DNA の非遺伝子領 域には,遺伝子領域に比べ多型性を有する領域が多数存在 しており,個人識別ではそのような多型領域を DNA 型と して利用している.主な DNA 多型には次のようなものが ある(Fig.1).

(1)VNTR(variable number of tandem repeat)

縦列反復配列またはミニサテライトとも呼ばれる.十数 ∼数十塩基を 1 単位とする配列が何回も繰り返したもので, その繰り返し数に個人差が認められる(Fig.1).核 DNA に数千ヵ所ほどあると推定されている[10].代表的なもの に第 1 染色体に局在する D1S80[11]がある.これは 16 塩 基を 1 繰り返し単位としており,日本人では 14∼43 回の 繰り返し数を示すアレルが見つかっている[12].

(2)STR(short tandem repeat)

短い縦列反復配列のことで,マイクロサテライトとも呼 ばれる.2∼5 塩基程度を 1 単位とした繰り返し配列であ り,VNTR と同様にその繰り返し数が人によって異なって いる(Fig.1).核 DNA に 100 万ヵ所存在することが確認 されており[10],ミトコンドリア DNA の HV3 領域の一部 にも認められる.Table 1 に個人識別に利用される STR の 一部を示す.

(3)SNP(single nucleotide polymorphism)

DNA上のある塩基が人によって別の塩基に置き換わっ ているもの(Fig.2)で,一塩基多型とも呼ばれる.核 DNA では遺伝子領域のほか,非遺伝子領域にも多数存在してお り,平均して数百塩基に 1 ヵ所の割合で認められる[10]. SNPを利用した代表的な解析例として ABO 式血液型の遺 伝子型判定がある[13]. (4)ミトコンドリア DNA 多型 ほとんどが塩基置換による多型であり,SNP としてと らえることもできる.ミトコンドリア DNA の非遺伝子領 域の約 1,100 塩基対は D ループ領域もしくは制御領域と呼 ばれ,塩基置換の発生頻度が高いため,高変異領域とも呼 ばれる.この高変異領域の中でも特に多型性に富む領域を HV1,HV2,HV3 として,法医学では個人識別に利用し ている。なお,前述のように HV3 領域の一部には STR も 存在する. 2.3.3 DNA 型検査の実際 DNA型の検査は次のようにして実施される. (1)DNA の抽出・精製 DNAは細胞内でタンパク質と結合して核タンパク質の 状態になっているため,DNA の抽出では除タンパク質操 作が主な目的となる[14].具体的には,プロティナーゼに よってタンパク質を分解し,次いでフェノール・クロロホ ルム抽出法によりタンパク質を変性・除去し DNA を抽出 する。その後,エタノール沈殿法により DNA を精製する. このような従来からの方法に加え,さまざまな市販の DNA 精製キットも活用されている.また,DNA 抽出操作を自 動化し,同時に多検体を処理できる機器も利用されている. STR 染色体上の位置 繰り返し単位 TH01 vWA CSF1PO TPOX F13A01 LPL FGA D16S539 D7S820 D13S317 D18S51 D21S11 DXS8378 DYS456 11p15.5 12p12-pter 5q33.3-34 2p23-2pter 6p24-25 8p22 4q28 16q24-qter 7q11.21-22 13q22-q31 18q21.3 21q11-21q21 Xp22.31 Y AATG TCTA AGAT AATG AAAG AAAT TTTC GATA GATA TATC AGAA TCTA CTAT AGAT Table 1 個人識別に利用される主な STR Fig.1 VNTRと STR. VNTR では 16 塩基が,STR では 4 塩基が 1繰り返し単位となり,それがどちらも 10 回繰り返して いることを示している.VNTR と STR では,繰り返し単 位の塩基数が違うため,同じ繰り返し数であっても繰り 返し領域全体の長さが異なる. Fig.2 SNP.

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(2)PCR(polymerase chain reaction,ポリメラーゼ連鎖 反応)法 PCR法とは,DNA の特定の領域を短時間に数十万倍か ら百万倍量に増幅する方法である.この PCR 法の登場に より,微量で劣化していることの多い法医学試料について も DNA 分析が行えるようになった. PCR法には,増幅したい DNA 領域の両端部分に相補的 に結合する 20 塩基程度の短い DNA 配列(プライマー) のほか,DNA の材料となる 4 種類の塩基,酵素(DNA ポ リメラーゼ)などが用いられる.それらと DNA とを反応 させることで目的の DNA 領域のみが増幅する. 個人識別においては,以前は個々の DNA 型ごとに PCR 増幅を行うシングルプレックス(singleplex)PCR 法が広 く用いられていたが,現在では,特に STR や SNP に関し ては,同時に複数の DNA 型を増幅するマルチプレックス (multiplex)PCR 法が中心であり,各種のキットも市販さ れている.なお,マルチプレックス PCR 法では,検出の 際に同じような分子量を持つ DNA 型が重なってもそれぞ れを判別できるように,あらかじめ DNA 型ごとに異なる 蛍光色素で標識したプライマーが使用される. (3)フラグメント解析 主に VNTR や STR に対して行われる解析方法である. 電気泳動法を用い,PCR 増幅した試料(PCR 産物)をそ の繰り返し数の違い,すなわち増幅サイズの差によって分 離し,検出する. シングルプレックス PCR による PCR 産物の分離は平板 ゲル電気泳動にて行い,泳動後にエチジウムブロマイド染 色や銀染色などで DNA バンドを検出するのが一般的であ る.検出後は,同時に泳動したアレリックラダーマーカー の移動度との比較により,肉眼的に DNA バンドの持つ繰 り返し数を判定(型判定)する. 一方,マルチプレックス PCR で得られた PCR 産物に関 しては,まず平板ゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動に て分離した PCR 産物にレーザー光や特定の波長の紫外線 を照射し,PCR 産物に取り込まれている蛍光色素分子が 発する蛍光をゲルイメージ上の DNA バンド(Fig.3)やエ レクトロフェログラム上のピーク(Fig.4)として検出す る.次いで,コンピュータ上でソフトウェアによりアレ リックラダーマーカーや内部標準マーカーと対比し,コン ピュータが自動的に型判定を行う. フラグメント解析は SNP に対しても用いられる.その 際にはプライマーの長さを SNP の型により変えて,PCR 産物の長さの違いで型判定を行う[9, 13]. (4)シーケンス解析 直接,PCR 産物の塩基配列(DNA シーケンス)を解読 する方法であり,主にミトコンドリア DNA 多型に対して 行われる.PCR 産物のサイクルシーケンス反応を行い, 得られたシーケンス反応産物を自動 DNA シーケンサーを 用いて解析し,塩基配列を決定する[15].Fig.5 にミトコ ンドリア DNA のシーケンス解析の一例を示す.ミトコン ドリア DNA 多型の解析では,得られた塩基配列を標準塩 基配列である「修正ケンブリッジ参照配列(revised Cam-bridge reference sequence,rCRS)」[16]と比較し,その違い をミトコンドリア DNA 型として表記する. 2.3.4 個人識別における利用性 VNTRは PCR 産物全体の長さが 400∼1,000 塩基対ほど であるのに対し,STR の全長は 100∼400 塩基対と VNTR より短い.DNA が劣化し,小さく断片化しているような 法医学試料では,PCR 増幅は PCR 産物の長さが短い方が

Fig.3 日立 FMBIO II Multi-View を用いた 8 種類の STR と amelogenin(性別判定用遺伝子座)の DNA バン ドパターン.マルチプレックス PCR により増幅した PCR 産物を電気泳動後,標識した 2 色の蛍光色素 (Fluorescein,TMR)が発する蛍光をそれぞれ 505 nm と 585 nm の異なるフィルターを使用して分離 し,DNA バンドとして検出した.1∼12 は試料を,L はアレリックラダーマーカーを示す.

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Fig.4 ABI PRISM 310 Genetic Analyzerを用いた 15 種類の STR と amelogenin(性別判定用遺伝子座)のエレクトロフェロ グラム.試料はマルチプレックス PCR キット(ABI 社)に付属の陽性コントロール.ピークの下の数字は各 STR にお けるアレルの繰り返し数を,X は amelogenin の判定結果(X, X;女性)を示す.

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成功しやすい[17].したがって,そのような試料からのDNA 型の検出には STR が有効である.また,STR は,マルチ プレックス PCR とコンピュータの自動型判定により,複 数の DNA 型を同時に効率よく検出することができる.こ のような理由から,現在は,個人識別に用いられる DNA 型は STR が主流となっている. SNPも一般に PCR 産物の長さが短いため,劣化した試 料からの検出が可能である[17].しかしながら,VNTR や STRに比べて個人識別力が低いため,多数の SNP を型判 定しなければならない.最近では DNA チップやマイクロ アレイという,短時間で一度に多数の SNP を解析する技 術が開発され,法医実務への応用が検討されている[9]. ミトコンドリア DNA 多型の個人識別力もそれほど高く ないが,ミトコンドリア DNA は 1 個の細胞に非常に多く 含まれているため,STR の検出が不可能な試料に用いる ことができる.また,ミトコンドリア DNA は母性遺伝す るため,母子鑑定や同胞鑑定に有用である.

3.死因の究明における法医学的検査

3.1 異状死体と死因判定 明らかな病死・自然死で死亡した死体以外のすべての死 体を異状死体という[18].わが国では,警察に異状死体の 届け出があると,まず警察官の検視とともに医師による死 体検案が行われる.死体検案で最も重要なことは,死亡の 原因の判断,死因の種類(自然死,災害死,他殺,自殺な ど)の判断,死亡時刻の推定である.死体の外表検査,周 囲の状況,既往歴などからそれらを調べるが,不明な場合 には,法医解剖が実施される. 法医解剖の際には,薬毒物検査,プランクトン検査など が行われるほか,最近では死後画像検査も導入され,解剖 の所見とそれらの検査結果,死体検案情報などを総合的に 判断して死因が判定される. 3.2 薬毒物検査 毒物か医薬品かを問わず,毒性面から中毒学の対象とな る化学物質を総称して薬毒物という[19].薬毒物の種類は, 有毒ガス・揮発性物質,覚せい剤,麻薬類,催眠薬,農薬, 金属毒,酸・アルカリ,動物・植物毒など数多い.死体に おける薬毒物検査は,法医解剖事例で死因として薬毒物中 毒が疑われるものすべてを対象とし,死因と薬毒物の関係 を明らかにするために行われる[20].検査は,死体から採 取した血液,尿,各臓器,胃内容物などを試料として,一 般的には薬毒物関与の有無,薬毒物の定性・同定,薬毒物 の影響程度を知るための体組織中の濃度の定量という順序 で実施される[19].これらの分析法として,簡易薬物スク リーニングキット[21],ガスクロマトグラフィー法,質量 分析法,吸光度法などがある. 3.3 プランクトン検査 溺死の証明に用いられる検査である.溺死か非溺死かの 鑑別は,水中から発見された死体の法医診断において最も 重要である[22].溺死では,吸引した水(溺水)は気管を 通って肺内に入り,心臓が動いていれば血液循環によって さらに肝臓や腎臓など,全身の諸臓器に侵入する.この溺 水自体を検出することは出来ないため,代わりに水ととも に運ばれたプランクトンを検出して溺水の体内分布を知る のがこの検査の目的である[22]. 検査は壊機法[22, 23]によって行われ,植物プランクト ンの一種である珪藻類がその検出の対象となる.珪藻類は プランクトンの中で数量的に最も多く,淡水から海水まで 広範囲に分布している.珪藻類はその殻が珪酸よりなる. この殻が酸に強いことを利用し,強酸で臓器を処理して液 状化し(壊機),顕微鏡下で珪藻の殻を観察する. 最近では,藍藻類の DNA 検査による溺死の診断法も検 討されている[24]. 3.4 死後画像検査 コンピュータ X 線断層撮影(computed tomography,CT) や磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging,MRI)な どを使用して死体の画像検査から,死因検索を中心とした 死後診断を行うことを死後画像診断(postmortem imaging, PMI)という[25].わが国ではオートプシー・イメージン グ(autopsy imaging,Ai)という名称がよく用いられる. 臨床領域では,画像検査には単純 X 線,CT,MRI,エコー などが使用されているが,異状死体を対象とする法医学領 域では,短時間の検査で全身スクリーニングが可能であり, 膨大な情報を得ることができるという利点から,CT が実 施される傾向にある[25].死後 CT 検査は解剖に先立って 行われる.それにより重点的に調べるべき解剖部位の絞り 込みが可能となる.また,死後 CT の検査結果と警察の捜 査情報によっては解剖を行わなくても済む場合もある. 3.4.1 死後 CT 検査の有用性 死後 CT 検査で検出が容易な主な病変として,脳内出血, くも膜下出血,硬膜外・硬膜下血腫,胸腹部動脈瘤破裂な どの特定の出血性病変や,四肢長管骨,頭蓋骨などの骨折 が挙げられる[26].また,銃器損傷の際の弾丸のような体 内異物の検索にも死後 CT 検査は適している[25].CT 検査 は非破壊検査であるため,気胸,空気塞栓,頭蓋骨粉砕状 骨折など,解剖では証拠保全が比較的困難な所見を容易に 記録できるのも優れた点である[26]. 3.4.2 死後 CT 検査の留意点 心筋梗塞や薬毒物中毒の診断,頚部圧迫の際の筋肉内出 血の検出,臓器の鬱血・貧血の判定,肺炎と肺水腫の鑑別 などは,最新のマルチスライス CT を用いても困難である [26].また,外傷においても,肋骨骨折,頚椎椎間板の断 裂,血管や腸管などの管腔臓器の損傷,心破裂などの損傷 の見逃しがあるとされる[26]. 死後 CT 検査は死体を対象としているため,読影に際し て,循環が停止し,死体現象が発現している点や心肺蘇生 術の影響などを十分に考慮する必要がある[25, 27].

4.おわりに

DNA型検査は,本稿で述べた個人識別だけでなく,親 子鑑定,性別判定,人獣鑑別,動物種鑑別,卵性診断など, 多方面で活用されており,もはや法医学領域において欠く ことのできない検査法になっている.最近では,新たな DNA型[28]をはじめ,DNA 多型を用いた民族推定法[29], 年齢推定法[30],毛色推定法[31]などの開発も試みられて おり,法医学領域への今後の応用が期待されている. 死後画像検査もまた,法医学領域での活用が期待される 検査法のひとつである.死因判定の補助手段としての有用 性に疑いはなく,その役割はますます高まると考えられる. やがては法病理学,法遺伝学,法中毒学などのように,法 放射線学という学問分野が確立されるかもしれない.

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