インターネットオークション 即決価格の参考価格効果に関する実証研究
Empirical study of reference dependent effect on internet auction
武田 亮介 指導教員 樋口 洋一郎 Ryosuke TAKEDA Adviser : Yoichiro HIGUCHI
In an auction with a buy-now price, the seller provides bidders with an option to end the auction early by accepting a transaction at a posted price. This paper examines the model of an auction with a buy-now price in which bidders use the auction’s buy-now price to decide their bid prices, using transaction data of Yahoo! Auction of Japan. Two analyses were conducted: (1) estimation of reduced form model between buy-now price and bid price, and (2) structural model specifying the buyer’s utility function. Results of the empirical studies could not specify concrete causal structure but indicate a reference dependent effect of the buy-now price on buyer’s decision of bid price.
キーワード: インターネットオークション 即決価格 参考価格 Key Words: Internet Auction, Buy-now price, Reference dependent 1. 研究の背景・目的と研究構成 (1) 研究の背景 ① インターネットオークションの普及 90 年代のコンピューターの普及と電子商取引の発展に伴 い、インターネット上で行われるオークションが登場した。この インターネットオークションは、オークションに伴う様々な取引 コストを大幅に引き下げ、一般個人のオークション取引参加 を促し、世界的に広く普及した。 日本でも 90 年代末から各種のインターネットオークション サイトが存在している。中でも最大の出品数をもつのが、 1999 年にサービスを開始したヤフーオークションである。サ イトを運営するヤフーの発表によれば、ヤフーオークションに おける一日の同時開催オークション数は 2006 年 4 月に 1000 万件、2008 年 12 月にはさらに倍増の 2000 万件を超え、現 在も成長を続けている。その月間利用者数は、ネット視聴率 白書 2008-20091)によれば 1000 万人超を数える。さらに、 2008 年に野村総合研究所が実施した調査によれば、日本 におけるインターネットオークションサイト全体の 2008 年度の 市場規模予測は一兆円を超え、2013 年までにさらに 1.5 倍 程度に成長するものとみられている。こうした事実から、今日 インターネットオークションは生活に浸透した、重要な取引手 段となっているといえるだろう。 ② オークションにおける即決価格 一言にオークションといっても、その仕組みにはさまざまな 種類がある。そうした各種の仕組みが売り手や買い手の間の 取引にもたらす影響については、理論的・実証的に広く研究 が行われてきた。本研究が対象とするのは、その中でも即決 価格と呼ばれる仕組みについてである。この仕組みは、売り 手がオプションとして設定するオークションの上限額のような ものである。入札者は設定された即決価格での入札を行うこ とで、売り手の設定した終了時間を待つことなく即座に商品 を落札することが可能となる。しかし、売り手による自分のオ ークションへの即決価格の設定は、自らの期待利得に制限 を課すという一見非合理的な行動のように見える。 この「なぜ売り手は自らのオークションに即決価格を設定 するのか?」という問いに初めて理論的な根拠を示した研究
は、Budish and Takeyama2)である。この研究は、オークション
に 2 人の買い手を仮定しそれぞれの商品評価額を確率的に 定義した上で、その買い手がもつリスク選好と落札価格の間 の関係を検討したものである。その結果、適切な水準の即決 価格はオークションで直面する価格高騰のリスクに対する保 険として働き、リスク回避的な選好をもった買い手がプレミア ムを支払い得ることを示した。こうして、通常のオークションで 期待される落札額以上の即決価格で商品が落札される可能 性を通じ、売り手の期待効用が増加する場合を示したのであ る。こうした結果は Hidvegi, Wang and Whinston3)、Reynolds
and Wooders4)など多くの研究によって拡張され、リスク回避 的な選好は、売り手の即決価格設定の合理性を示す主要な 根拠となっている。その他の理論的研究で直観的にも理解 し や す い の が 、 買 い 手 の 時 間 へ の 選 好 を 考 慮 し た Mathews5)である。これは、買い手が商品を即座に入手する ための手段として即決価格を行使するという仮説である。
こうした仮説において即決価格が期待効用を増加させる のは、リスク回避的な買い手や時間への選好をもった買い手 が即決価格を行使することによる。しかし Leszczyc, Qiu and
He6)は、売り手の即決価格設定の合理的な説明に即決価格 の利用を問わない新たな仮説を提案した。それが本研究の 対象とする、即決価格の参考価格としての効果である。これ は、設定された即決価格が買い手の入札額決定に影響を与 え、たとえ即決価格を行使しなくとも入札額自体を引き上げ る効果があると仮定し、最終的な落札価格の上昇が見込め るとした仮説である。そうした参考価格としての即決価格に着 目した研究の中でも Shunda7)は、特定の効用関数の下での 均衡入札価格を求め、合理的に参考価格の効果を説明した。 本研究ではこれらの理論研究に基づいた実証分析を行う。 (2) 研究の目的 ヤフーオークションにおける一円銀貨の入札データを用 い、即決価格が参考価格として入札額決定に作用すること、 さらにそれが Shunda7)の提案する効用関数によって説明され ることを実証的に検証することが、本研究の目的である。 2. 既存研究の紹介と本研究の方針 (1) Leszczyc et al 6)の eBay データによる実証分析 Leszczyc et al6)は eBay の取引データを用い、実証分析を 行っている。実証のモデルは、各自の商品評価額について、 商品の性質だけでなく、開始価格、即決価格によって決定さ れる期待値をもつ構造を仮定してその推定を行い、即決価 格が入札額の決定にどのような影響をもっているのかを評価 している。推定モデル(1)は次のようになっている。 𝐿𝑁𝐵𝑖𝑑𝑘𝑖∗ = 𝛼 + 𝛽1+ 𝛽2𝐵𝑁𝑃𝑘 𝐷𝐵𝑁𝑃𝑘𝑖+ 𝛽3𝑆𝐵𝑘+ 𝛽4𝐶1𝑘 + 𝛽5𝐶2𝑘+ 𝛽6𝐶3𝑘+ 𝛽7𝐶4𝑘+ 𝜀𝑘𝑖 𝐿𝑁𝐵𝑖𝑑𝑘𝑖= 𝑚𝑖𝑛(𝐿𝑁𝑃𝑘, 𝐿𝑁𝐵𝑖𝑑𝑘𝑖∗) ( k:オークション i:入札者 ) 𝐿𝑁𝑃𝑘:落札額(対数変換), 𝐿𝑁𝐵𝑖𝑑𝑘𝑖∗:入札者 i の商品評価額(対数変換) 𝐿𝑁𝐵𝑖𝑑𝑘𝑖:入札者 i の入札額(対数変換), 𝐵𝑁𝑃𝑘:即決価格 𝐷𝐵𝑁𝑃𝑘𝑖:即決つきオークションの一人目の入札者であるか否かのダミー(2) 𝑆𝐵𝑘 :最低落札価格, 𝐶𝑘:商品特性。(カラット、カラー、透明度、証明書の有無のダミー変数) Leszczyc et al6)はこの分析から、即決価格ダミーのパラメ ータは正に有意、その価格のパラメータは負に有意という結 果を得た。この結果は、即決価格の設定自体は入札額に正 の効果をもつが、その設定額については高いほど入札額に 負の効果を及ぼすことを表わしている。得られた係数からは、 上式の即決価格設定ダミーの係数がゼロとなる即決価格は およそ 3000 ドルとなっていた。以上より、即決価格の設定は 入札額を上昇させるが、その効果は設定額が高すぎる場合、 逆に入札額を低下させる影響を及ぼすと結論づけている。 ここで行われた分析は、オークションにおいて観測される 即決価格と入札額の間の関係に関する誘導型の実証的な 推定である。続いて、こうした入札額と即決価格との関係に ついての買い手の効用関数を特定化して理論的な考察を行 った Shunda7)を紹介する。 (2) Shunda7)の理論研究 Shunda7)は、オークションの買い手の効用関数について、 提示された参考価格から影響を受けるという構造を仮定し、 その下での買い手の支配戦略を導出している。 買い手の評価額構造に独立私的価値(3)を仮定した競り上 げ式オークションでは通常、ある入札者𝑖がオークションの勝 者となったときの効用𝑢𝑖を以下のように定義する。 𝑢𝑖= 𝑣𝑖− 𝑤𝑖 𝑣𝑖: 入札者𝑖の商品評価額 𝑤𝑖: 入札者𝑖の落札額 競り負けたときには支払いも利益も発生せず、効用はゼロ ト考える。このとき入札者の支配戦略は、𝑢𝑖 = 0 となる水準、 つまり自分のもつ評価額を上限とした入札を行い、価格が評 価額を上回った場合にオークションから降りることである。も しも評価額以下の価格でオークションから降りた場合、効用 はゼロであるが、正の効用の可能性を逃すことになる。また、 評価額以上の入札を行い勝者となった場合には、支払いが 評価額を上回るため、効用は負となる。従って、評価額を上 限とした入札参加が買い手の支配戦略となるのである。つま り、均衡入札額𝑥𝑖は、 𝑥𝑖= 𝑣𝑖 となる。 一方、Shunda7)は勝者の効用について次のような形式で 定義した。 𝑢𝑖= 𝑣𝑖− 𝑤𝑖− 𝜀(𝑤𝑖− 𝜌) 𝑣𝑖 : 入札者𝑖の商品評価額 𝑤𝑖:入札者𝑖の落札額 𝜌: 参考価格 参考価格𝜌を含む項にかかるε は小さな正の数として考え る。このεをゼロとした場合は、通常の効用関数と等しい。 こうした参考価格効果が存在するモデルにおける最適な 戦略、つまり勝者となったとき𝑢𝑖 = 0 となる水準での均衡入 札額𝑥𝑖は 𝑥𝑖= 𝑣𝑖+ 𝜖𝜌 1 + 𝜖 となる。この均衡入札額と評価額の大小関係について考 えるため、それらの差を考える。 𝑥𝑖− 𝑣𝑖= 𝜖(𝜌 − 𝑣𝑖) 1 + 𝜖 ε が正の値のとき、この差の正負は参考価格と評価額の大 小関係によって決まることがわかる。つまり、参考価格が評価
額よりも大きい場合には、入札額が評価額を上回り、逆に参 考価格が評価額よりも小さい場合には、入札額が評価額より も下回ることを表している。 以上より、正のε を前提とすれば、上記の効用関数より導 かれる均衡入札額が意味するものは、入札額が参考価格に 引き寄せられるという効果である。(もしもεがゼロであれば、そ れは先述の通常の効用関数と等しくなる。) Shunda はこの𝜌を開始価格と即決価格の線形結合として 定義し、全員の評価額が独立同分布からの実現値であると 仮定して、売り手と買い手の合理的行動について検討を行 っている。 (3) 先行研究の比較と、本研究の方針 Leszczyc et al6)は、即決価格が入札額に実際に与える影 響を実データから推定した実証研究である。一方 Shunda7)は、 そうした関係を産む買い手の効用関数を仮定した場合に即 決価格が入札額へ与える影響を検討した理論研究である。 そこでは、「参考価格と入札額との差」を意識した買い手の 効用関数を前提とすることで、各自の入札額がその参考価 格に引き寄せられることが示された。これら 2 つの研究が表し たモデルは、即決価格設定と入札額との関係を、誘導形と 構造形として捉えたといえる。 本研究は、第 1 に Leszczyc et al6)に従って効用関数の特 定化を経ずに誘導形により参考価格効果の存在を確認する。 さらに、Shunda7)が示した効用関数に基づいた構造パラメー タ推定を行い、実証的に Shunda7)の定式化を検証する。具 体的には、Paarsch8)が提案した買い手の評価額分布推定の 手法を用いて入札額実現の背後にある評価額分布を推定し、 効用関数中のパラメータの推定を行う。 3. 分析モデル (1) 分析の概要 効用関数に基づいた構造パラメータ推定の分析では、買 い手各自の評価額が同一の分布に従うものと仮定し、日本 のヤフーオークションにおける入札額データからその評価額 分布の分布形を推定する。その際、説明変数に加えた参考 価格効果(Shunda7)の ε) のパラメータを推定し、即決価格が 参考価格として入札額に与える影響について検証する。 推定は Paarsch8)を参考とし最尤法を用いて行う。評価額 分布推定のための尤度関数の導出はサンプルの特徴と密 接に関係するため、この章では、まずヤフーオークションの 仕組みについて解説し、サンプルとして集めた入札額デー タの性質について触れたのち、尤度関数の導出を行う。 (2) ヤフーオークションの仕組み:自動代理入札制度 ヤフーオークションについての重要な特徴のひとつは、自 動代理入札制度の存在である。この制度はヤフーオークショ ンに限らず、世界中の多くのインターネットオークションサイト で一般的に備わっている制度である。 自動代理入札制度が備わったインターネットオークション では、商品に支払いうる額の上限さえ設定すれば、以後他 者の入札に対し、他者の入札額がその上限を下回っている 限りはその他者の入札額に一定の上乗せ(4)をした額を入札 し、他者の入札額が自分上限を上回った場合には入札から 脱落するという行動が、オークションサイトの機能により自動 で行われる。自動代理入札は、全ての入札者に無条件で適 用される。この仕組みの存在により、買い手は一般的な競り 上げ式オークションのように開催中常にオークション価格を 見守る必要がない(5)。従って、入札者は自分の評価額を手 動で入札し、あとはオークションの終了を待てばよい。 この自動代理入札制度の存在により、インターネットオー クションにおける入札額は、2 位以下の入札者の場合、評価 額と捉えることができる。勝者については、2 位の入札額に一 定の上乗せをした額が入札額として観測されるため、評価額 と捉えることはできない。 (3) サンプルについて 分析は、ヤフーオークションにおける入札データを利用し て行う。分析対象として望ましいのは全く同質の商品が繰り 返し出品されたオークションにおける入札のデータであるが、 実際のオークションではそうした例は尐ない。従って、商品の 特性を変数によってコントロールした評価額分布を推定する ことを考える。これを踏まえ、分析対象として適切な商品群を 選択する必要がある。 本研究では、同じくヤフーオークションを対象に評価額分 布の推定を行った渡邊9)にならい、明治から大正にかけて鋳 造された 1 円銀貨を対象として分析を行う。その理由は、1 円 銀貨がヤフーオークションにて頻繁に出品されている点、そ して、コインという商品の性質上、他の商品に比べて商品状 態のばらつきが比較的小さいという 2 点からである。 ただし、1 円銀貨は鋳造年によってその商品価値が大きく 異なる。これに対しては、eBay においてコインのオークション
を対象として実証分析を行った Bajari and Hortacsu10)になら
い、価格に関する変数はすべて取引相場額で除したものを 分析で用いることで対処する。取引相場額の出典は、日本 貨幣商協同組合が発行した「2009 年度版 日本貨幣カタロ グ」より、状態「美品」にあたる額を相場として用いる。 このサンプルを用いて評価額を推定する際の留意点につ いて確認する。 1 つは前述の、勝者の入札額については必ずしも評価額 を表すものではないという問題である。勝者の評価額につい ては入札額以上のどこかであるという、検閲されたデータと 捉えなければならない。 もう 1 点は、入札が、開始価格を最低額として常に値上げ
方向にしか行われないため、観測される入札の標本は本来 の評価額分布よりも上側に偏っている点である。これは、標 本が常に入札時点での現在価格により切断を受けていると 考えることができる。従って、観測されたサンプルは、現在価 格以上という条件付きの確率のもと実現したものとして捉えな ければならない。しかし今回は、入札時点での現在価格の 情報を得ることはできなかった。本研究の入札額は、全て開 始価格でのみ切断されたデータであるとして扱っている。 (4) 尤度関数の導出 ① 評価額の分布について まずは、買い手の評価額が従う分布形について仮定する 必要がある。渡邊 9)は、評価額の分布形に対数正規分布を 仮定して検討を行っている。本研究でも、入札額が常に正の 値をとること、分析上の扱いやすさという 2 点から、対数正規 分布を仮定するものとする。 オークション k における参加者 i がもつ評価額𝑣𝑘𝑖は、 𝜇𝑘と𝜍2をパラメータとする以下の対数正規分布からの実現値 であると仮定する。 𝑣𝑘𝑖~LN 𝜇𝑘, 𝜍2 確率密度関数:𝑓 𝑣𝑘𝑖; 𝜇𝑘, 𝜍2 = 2𝜋𝜍𝑣1 𝑘𝑖exp − (log 𝑣𝑘𝑖−𝜇𝑘)2 2σ2 累積分布関数: 𝐹 𝑣𝑘𝑖; 𝜇𝑘, 𝜍2 = Φ(log 𝑣𝑘𝑖σ−𝜇𝑘) 期待値 : 𝐸 𝑣𝑘𝑖 = exp(𝜇𝑘+𝜍 2 2) Φ ・ :標準正規分布の累積分布関数 さらにこの分布のパラメータ𝜇𝑘が出品商品の性質𝑋𝑘によっ て決定されるものとして、パラメータ𝛽を用いて次のように定 義する。 𝜇𝑘= 𝑋𝑘𝛽 ② サンプルの場合わけと尤度 まずは即決価格による参考価格効果の実証を想定せず、 Paarsch8)に沿った評価額分布推定のための尤度関数の導 出を考える。このときサンプルは尤度の計算方法により(i)2 位 以下の入札者の入札 (ii)勝者の入札 の 2 つの場合に分け られる。 (i) 2 位以下の入札者による入札の場合 まずは 2 位以下の入札者を考える。ここで観測された入札 額データは、自動再入札の上限として手動で入札された額 そのものであり、この場合は評価額と捉えられる。 従って、開始価格を𝑟𝑘とし開始価格によるサンプルの切断 を考慮して、2 位以下の入札額についての尤度は次のように 定義できる。 2 位以下の入札額についての尤度 = 𝑣𝑘𝑖= 𝑥𝑘𝑖の確率密度 𝑣𝑘𝑖> 𝑟𝑘となる確率 = 𝑓 𝑥𝑘𝑖; 𝜇𝑘, 𝜍2 1 − 𝐹 𝑟𝑘; 𝜇𝑘, 𝜍2 (ii) 勝者による入札の場合 オークションの勝者については、検閲された情報として 2 位以下の入札額とは異なる扱いが必要である。勝者の真の 評価額については、観測された入札額以上のどこかにあると 考える。従って、尤度は次のように定義できる。 勝者の入札額についての尤度 = 𝑣𝑘𝑖> 𝑥𝑘𝑖となる確率 𝑣𝑘𝑖> 𝑟𝑘となる確率 = 1 − 𝐹 𝑥𝑘𝑖; 𝜇𝑘, 𝜍 2 1 − 𝐹 𝑟𝑘; 𝜇𝑘, 𝜍2 まとめると、全体の尤度関数は以下のようになる。 尤度関数 = 𝑓 𝑥𝑘𝑖; 𝜇𝑘, 𝜍2 1 − 𝐹 𝑟𝑘; 𝜇𝑘, 𝜍2 𝑘,𝑖 = 𝑘,𝑖:𝑖∈2 位以下 ∙ 1 − 𝐹 𝑥𝑘𝑖; 𝜇𝑘, 𝜍 2 1 − 𝐹 𝑟𝑘; 𝜇𝑘, 𝜍2 𝑘,𝑖 = 𝑘,𝑖:𝑖∈勝者 ③ Shunda7)の構造推定のための尤度関数 本研究では、即決価格による入札額への参考価格効果を 測るという観点から、参考価格=即決価格とし、即決価格が 設定されていないオークションでは参考価格が存在しないも のとして分析を行う。 Shunda7)によって導出されたのは、参考価格ρ が提示され たときの、評価額と入札額、参考価格の次のような関係だっ た。 𝑥𝑖= 𝑣𝑖+ 𝜖𝜌 1 + 𝜖 これを次のように変換する。 𝑣𝑖= 1 + 𝜖 𝑥𝑖− 𝜖𝜌 この関係を利用して、即決価格が設定されたオークション では、 1 + 𝜖 𝑥𝑖− 𝜖𝜌 が評価額の分布に従うものと考える。 前節の尤度関数を、更に即決価格が設定されたオークシ ョンにおける入札か否かに場合わけする。即決価格非設定 時の入札の尤度計算は前節で述べたとおりである。 即決価格が設定されたオークションにおける、2 位以下の 入札額の尤度は次のように定義される。 [即決つき・2 位以下入札の尤度] = 𝑣𝑘𝑖+ ϵρ 1 + ϵ = 𝑥𝑘𝑖の確率密度 𝑣𝑘𝑖> 𝑟𝑘となる確率 = 𝑓 (1 + ϵ)𝑥𝑘𝑖− 𝜖𝜌; 𝜇𝑘, 𝜍 2 1 − 𝐹 𝑟𝑘; 𝜇𝑘, 𝜍2 続いて、即決価格が設定されたオークションにおける勝者 の入札額の尤度は次のように定義される。
[即決つき・勝者入札の尤度] = 𝑣𝑘𝑖+ ϵρ 1 + ϵ > 𝑥𝑘𝑖となる確率 𝑣𝑘𝑖> 𝑟𝑘となる確率 = 1 − 𝐹 (1 + ϵ)𝑥𝑘𝑖− 𝜖𝜌; 𝜇𝑘, 𝜍2 1− 𝐹 𝑟𝑘; 𝜇𝑘, 𝜍2 以上より、全ての場合をかけあわせた、Shunda7)の参考価 格効果実証のための尤度関数は以下のようになる。 [尤度関数] = 𝑓 𝑥𝑘𝑖; 𝜇𝑘, 𝜍2 1− 𝐹 𝑟𝑘; 𝜇𝑘, 𝜍2 𝑘,𝑖 ={𝑘,𝑖:𝑘∈即決なし,i∈2 位以下} ∙ 𝑓 (1 + ϵ)𝑥𝑘𝑖− 𝜖𝜌; 𝜇𝑘, 𝜍 2 1− 𝐹 𝑟𝑘; 𝜇𝑘, 𝜍2 𝑘,𝑖 ={𝑘,𝑖:𝑘∈即決あり,i∈2 位以下} ∙ 1 − 𝐹 𝑥𝑘𝑖; 𝜇𝑘, 𝜍 2 1− 𝐹 𝑟𝑘; 𝜇𝑘, 𝜍2 𝑘,𝑖 ={𝑘,𝑖:𝑘∈即決なし,𝑖∈勝者} ∙ 1 − 𝐹 (1 + ϵ)𝑥𝑘𝑖− 𝜖𝜌; 𝜇𝑘, 𝜍2 1− 𝐹 𝑟𝑘; 𝜇𝑘, 𝜍2 𝑘,𝑖 ={𝑘,𝑖:𝑘∈即決あり,𝑖∈勝者} さらに𝜇𝑘= 𝑋𝑘𝛽を代入し、対数をとったものが分析に用い る対数尤度関数であり、これを最大化する𝜷, 𝜍, 𝜖 が最尤推 定量である。 (5) 変数とその基本統計量 用いる変数は、入札額・最低落札価格・即決価格を相場 で除したものと、商品特性を表す変数である。商品特性変数 として用意したのは次のようなダミー変数である。 表-1 商品特性を表す説明変数 期待符号とは、入札額への影響の期待符号である。丸銀 と荘印とは銀貨上の刻印である。「2009 年度版 日本貨幣カ タログ」によれば、価値への影響は丸銀が正、荘印が負であ る。なお、商品価格に大きな影響をもつであろう、見た目の 状態(並品、美品、極美品など)については、定量的な評価 ができないため変数としてコントロールすることはできない。 以上の変数についての基本統計量を以下に示す。 表-2 変数の基本統計量 4. 分析の結果と考察 (1) 誘導形モデルの推定 まずは Leszczyc et al6)と同様の誘導形モデルを用いたトー ビット分析を行った。この分析は、入札額と即決価格の間に 全体の傾向として何らかの関係があるのかを検証するための 分析である。被説明変数は入札額(相場比)を対数変換した ものである。分析の結果を以下に示す。 表-3 推定結果 【結果の考察】 分析から、即決ダミーのパラメータが正に5%有意、即決 価格の設定額のパラメータは有意ではないという結果を得た。 (先行研究ではそれぞれ、正に有意、負に有意) Leszczyc et al6)が eBay のデータから導いた結果と同様、ヤフーオークシ ョンにおいても即決価格の設定と入札額の間の関係性が示 唆された。 (2) Shunda7)における効用関数パラメータの推定 続いて、評価額分布の推定モデルを利用し、Shunda7)の 定義した効用関数における構造パラメータの推定を行った。 推定結果は、全ての商品特性変数を利用して行ったものと、 SBIC を基準に変数選択を行ったものの両方について記載 する。推定結果は次のとおりである。 表-4 推定結果 変 数 名 解 説 期 待 符 号 鑑 定 品 ダ ミ ー 本 物 鑑 定 書 つ き + 偽 物 返 金 保 証 ダ ミ ー 商 品 が 偽 物 の 場 合 、 返 金 を保 証 + 丸 銀 ダ ミ ー 丸 銀 が 打 た れ て い る + 荘 印 ダ ミ ー 荘 印 が 打 た れ て い る -模 造 品 ダ ミ ー 模 造 品 で あ る こ と を申 告 し て い る -修 正 品 ダ ミ ー 化 学 洗 浄 や 傷 直 し 済 み -平均 標準偏差 最小値 最大値 入札額(相場比) 0.26393 0.41258 7.69231×10-7 10.625 即決価格(相場比)(注) 2.172 1.472 0.033 5 最低落札価格(相場比) 0.073985 0.22736 7.69231×10-7 10.625 鑑定品ダミー 0.028294 0.16582 0 1 偽物返金保証ダミー 0.096333 0.29506 0 1 丸銀ダミー 0.042729 0.20226 0 1 荘印ダミー 0.02098 0.14332 0 1 模造品ダミー 0.0051006 0.071239 0 1 修正品ダミー 0.020499 0.1417 0 1 (注) 即決価格設定時の標本のみを対象として作成 変数名 変数名 定数項 -2.64 ** 修正品ダミー 0.05 (0.03) (0.19) 鑑定品ダミー 0.96 ** 即決設定ダミー 0.67 * (0.15) (0.34) 模造品ダミー -0.13 即決設定額 0.09 (0.33) (0.15) 偽物返金保証ダミー 0.51 ** 開始価格 6.33 ** (0.11) (0.10) 荘印ダミー 0.44 σ 2.02 ** (0.25) (0.01) 丸銀ダミー 0.03 対数尤度 (0.10) SBIC 11416.9 サンプルサイズ 10391 括弧内は標準誤差 **: 1%有意 *: 5%有意 推定値 -11366.0 推定値 ε -3.13×10-3 -3.24×10-3 (3.91×10-3) (4.08×10-3) σ 2.23 ** 2.22 ** (0.02) (0.02) 定数項 -3.29 ** -3.31 ** (0.03) (0.03) 鑑定品ダミー 1.52 ** 1.52 ** (0.23) (0.23) 荘印ダミー -2.93 ** -3.05 ** (0.43) (0.43) 模造品ダミー -1.05 * (0.44) 偽物返金保証ダミー -0.15 (0.13) 丸銀ダミー -0.05 (0.13) 修正品ダミー -0.81 ** (0.26) 対数尤度 SBIC サンプルサイズ 括弧内は標準誤差 **: 1%有意 *: 5%有意 変数名 パラメータの推定結果 全変数 変数選択 -8419.00 -8427.14 8460.62 8450.26 10391 10391
【結果の考察】 注目すべき参考価格を表すパラメータε については、いず れ の 分 析 か ら も 有 意 な 結 果 は 得 ら れ な か っ た 。 つ ま り 、 Shunda7)の定義である、即決価格と評価額の差が大きいほど 強く入札額が引き寄せられるような効果は有意には検出され なかった。それぞれのモデルに対し ε をゼロとした制約をか けたモデルとの尤度比検定を行った結果については、いず れも5%有意で制約なしのモデルが支持されるという結果を 得ている。 商品特性変数のパラメータについては、全ての変数を利 用した分析から、鑑定品ダミー、荘印ダミー、模造品ダミー、 修正品ダミーのパラメータが有意に観測された。符号を含め、 この結果は期待された通りの結果といえる。偽物返金保証ダ ミーと丸銀ダミーについては、どちらも符号は正となることが 期待されたものの、これらの商品特性は評価額に有意な影 響を及ぼしていないという結果を得た。商品特性変数につい ては、変数選択後の分析結果においても推定値にはほとん ど変化はなかった。 (3) 両分析を踏まえた検討 誘導形による分析の結果からは、ヤフーオークションにお いても入札額と即決価格設定の間の関係性について示唆 する結果が得られた。さらに、そうした結果を説明する入札 額決定構造の特定化を目的とし Shunda7)の効用関数の構造 パラメータ推定を行ったものの、分析結果からは有意な結果 は得られなかった。従って、誘導形推定の結果得られた即 決価格設定と入札額の間に観測された有意な関係について、 Shunda7)のモデルによって説明することは困難であることが 明らかとなった。 5. 結論と今後の課題 (1) 結論 本研究は、ヤフーオークションにおける 1 円銀貨の取引デ ータを用い、第一に、即決価格の設定が入札行動に影響を 与えるか、第二に、即決価格は Shunda7)で提案された参考 価格効果のモデルに基づく形で入札行動に影響を与えるか についてそれぞれ検証を行った。Shunda7)の参考価格効果 モデルは言葉を変えれば、買い手が「参考価格としての即 決価格と、自らの評価額との差」を意識したような効用関数を もっているのではないかという仮説である。 誘導形による分析からは、即決価格の設定による入札額 引き上げの効果は有意に観測され、ヤフーオークションにお いて即決価格の設定と入札額との間に何らかの関係性が示 唆されるという結果を得た。一方で Shunda7)の効用関数パラ メータの推定においては参考価格効果の存在は有意には 検出されず、Shunda7)の仮説を根拠とした、即決価格による 入札額引き上げの効果の実証はできなかった。 最後に今回の分析結果からの、売り手による即決価格の 設定の合理性について触れておく。誘導形モデルの分析の 結果、現状の即決価格設定は入札額を引き上げていること が示された。従って、即決価格の設定により売り手の期待利 得が増加する可能性が示唆されたといえる。 (2) 今後の課題 今後の課題として次の4点を挙げる。 1 点目は、参考価格効果の定義についてである。本研究 の分析結果は、Shunda7)の参考価格効果の構造に依拠し、 参考価格を即決価格と定義して分析した結果である。この参 考価格を他の形式で定義することにより、異なる結果が得ら れる可能性がある。 また 2 点目として、効用関数自体の再検討も考えられる。 今回の定義以外の形式による即決価格の効用関数への導 入を検討することにより、参考価格効果を説明することも可能 であろう。 3点目は実証分析上の面からの改善である。本論中に述 べたとおり、サンプルの切断への対処は入札時点における オークションの現在価格を考慮していないという点で十分で はない。そうしたデータを利用して分析を行うことにより、評価 額分布のより正確な推定が期待できるだろう。 4点目は、サンプルの選別および分類についてである。本 研究は期間内に収集した全ての入札を対象に分析を行った が、それらを選別および分類して分析に用いることにより、よ り精度の高い分析が可能となるかもしれない。 補注 (1) 自動代理入札制度により、落札者の真の評価額は落札額以上であるという情報 しか得られない。従ってトービット分析を利用している。 (2) eBay では、設定された即決価格が利用できるのは誰も入札を行っていない間の みとなっている。 (3) 買い手がある商品に対してもつ評価額は他者とは独立に決定されるという状況 (4) 上乗せ額は商品の現在価格により変動するが、およそ現在価格の 1~5%程度 の額である。 (5) ヤフーオークションでは、オークションの開催期間は 1 週間を上限に売り手が自 由に設定できる。 参考・引用文献 1)衣袋 宏美(2008)「ネット視聴率白書 2008-2009」 翔泳社
2) Eric B. Budish and Lisa N. Takeyama (2001) “Buy prices in online auctions:
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