素速いアザ電子環状反応の展開 : アルカロイド合 成からヒドリド転位まで
著者 坂口 拓
URL http://hdl.handle.net/10236/10063
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氏 名
学 位 の 専 攻 分 野 の 名 称 学 位 記 番 号 学位授与の要件 学位授与年月日 学 位 論 文 題 目
論 文 審 査 委 員 (主査)
(副査)
坂 口 拓
素速いアザ電子環状反応の展開:
アルカロイド合成からヒドリド転位まで 博 士(理 学)
甲理第138号(文部科学省への報告番号甲第426号)
学位規則第4条第1項該当 2012年3月16日
勝 村 成 雄 山 田 英 俊 羽 村 季 之
教 授 教 授 准教授
ペリ環状反応は、環状の遷移状態を経由する協奏反応であり、熱または光で立体特異的に進行する。この 反応における反応性は福井謙一のフロンテイア理論で理解され、立体化学の制御は Woodward-Hoffmann 則 により説明される。このような、試薬を用いず熱または光により立体化学を制御できる反応は、複雑な構造 を有する天然有機化合物の全合成や、効率よい合成を実現するための反応集積化法として非常に魅力的であ り、現在も盛んに研究されている。申請者の所属研究室では、古くから知られていたが反応性が乏しいため 利用されていなかった6π- アザ電子環状反応において、著しい反応促進効果を発揮させる置換基効果を発 見し、それを利用した不斉6π- アザ電子環状反応の実現および、3成分を一挙に連結させるワンポット不 斉6π - アザ電子環状反応の実現を果たしている。さらに、この開発した合成法を用いて、3種の多置換ピ ペリジンの不斉合成および置換ピリジンの簡便な合成法の開発、次いで数種のアルカロイドの不斉全合成を 達成している。
この様な背景の下に著者は、所属研究室でこれまで蓄積されてきた素速いアザ電子環状反応をさらに発展 させ、①2,3,4- 位に置換基を有するキラルピペリジン化合物の立体選択的な一般的合成法の確立、その 展開によるインドールアルカロイドの不斉全合成の達成、②置換ピリジン化合物の簡便な固相ワンポット合 成法の開発、③アルデヒド水素の素速いペリ環状[1, 5]-移動反応の開発とその一般的合成法への展開、④ N-スルホニルジエンアミドの熱およびルイス酸による新規な環化反応の開発、等を実現している。
論 文 内 容 の 要 旨
本論文は6章から成り立っており、顕著な成果が記述されている4つの章について主に紹介する。
第1章は、著者の所属研究室で開発されたワンポット不斉6π- アザ電子環状反応を用いた、インドール アルカロイドの全合成に関して記述されている。所属研究室では、独自に開発したワンポット不斉6π- ア ザ電子環状反応を用いて、多様な置換様式を持つキラルピペリジン合成を行っている。著者は、不飽和エス テルに対する隣接基関与を利用したユニークな1,4- 付加反応を開発し、欠如していた2,3,4- 置換様式 を持つピペリジン化合物の合成法を確立し、それを単位構造とするインドールアルカロイドの全合成を達成 した。また、他のメンバーとの共同研究として、2,4,5α- 置換ピペリジンを単位構造とするインドール アルカロイドの全合成も達成している。
第2章では、固相での3成分連結ワンポットアザ電子環状反応を用いた簡便なピリジン供給法を開発した
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経緯について記述されている。3成分連結ワンポット反応により置換ピリジン合成法が所属研究室で開発さ れているが、著者はそれを固相反応へ展開してライブラリー構築が出来る簡便な2- アリールピリジン供給 法を確立した。開発した固相合成法は、反応に必要な官能基をトレースレスリンカーとして用いる広く適用 可能なユニークな合成として評価できる。
第3章は、新規なキラルスルホンアミドを用いた不斉6π - アザ電子環状反応の新たな試みとその結果に 関するものであるが、必ずしも高い選択性をあげるに至っていない。
第4章では、アルデヒド水素の[1,5]-水素移動反応に関する成果について記述されている。すなわち、
この反応は周辺環状反応の一種であるが、アルデヒド水素が[1,5]-移動する例は極めて希であり、その 一般性については研究されていなかった。著者は、この水素移動反応を著しく加速させる置換基効果を発見 し、それを利用して、この希な反応は一般的に起る反応であることを検証している。またこの反応を鍵とし た PLA2阻害テルペノイドの合成も実現し、その有用性を実証している。
第5章、第6章では、N- スルホニルジエンアミドの熱およびルイス酸による環化反応とそれらの置換基 効果に関するものである。すなわち、酸性を示すこの化合物の NH の特性を利用して、熱およびルイス酸に よる新規な環化反応を開発し、多置換ピペリジンの合成等価体である2- ピペリジノンの簡便な合成法を開 発した経緯、および、この環化反応においても顕著な置換基効果を見いだした経緯について記述されている。
以上のように本論文では、新規な合成法の開発に始まる天然物の全合成からユニークな反応の開発まで、
ペリ環状反応を鍵として実現した研究成果が記述されている。
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
試薬を必要とせず熱または光により、立体化学を制御しながら協奏的に進行するペリ環状反応は、非常に 効率よい分子変換法として近年大きな注目を集めている。著者の所属研究室では、これまでに触媒反応とペ リ環状反応を組み合わせたワンポット不斉6π- アザ電子環状反応を開発し、立体化学を高度に制御しなが ら4カ所での結合を一挙に形成させ、2種の置換様式を持つキラルピペリジン合成法への展開と、それを用 いた4種のアルカロイドの全合成を行っている。
著者はこの様な背景のもと、これまでに実現されていなかった置換様式を持つキラルピペリジンのユニー クな合成法を開発し、それを用いてインドールアルカロイドの不斉全合成を達成した。この成果により、先 に開発されたワンポット反応は、アルカロイド合成のための新たな一般的合成法として確立されたと言え る。著者はさらにこのワンポット反応を展開させ、多様な2- アリールピリジンを簡便に供給できる固相ワ ンポットピリジン合成法の開発を実現している。2- アリールピリジンは機能性材料分野などで注目されて おり、これら化合物の簡便な合成法の開発は意義深い。
さらに著者は、加熱によりアルデヒド水素が[1,5]-移動してケテンを生成する極めて希な反応をとり あげ、この反応を顕著に促進させる置換基効果を発見し、この反応の一般性を実証した。ペリ環状反応の中 でもシグマトロピー転位に分類されるこの反応は、先のワンポット反応の中間体であるジエンアルデヒドの 性質を検討し見いだしたものである。次いで、この反応を鍵反応として用い、ホスホリパーゼ A2に対して 強力な阻害活性を示すテルペノイドの合成を達成している。このような成果は、天然物合成にも利用可能な 新たな反応性の発見として高く評価できる。
著者はさらに、所属研究室で蓄積された知見を基に、N- スルホニルジエンアミドの熱およびルイス酸に よる新規な環化反応を開発した。これらの環化反応は、容易に多置換ピペリジンへ誘導できる簡便な2- ピ ペリジノンの合成法として意義深い。
以上のように著者は、ペリ環状反応を鍵として天然物の全合成からユニークな反応の開発まで行っており、
− 144 − この簡便で効率よい反応の発展に寄与したと評価できる。
本 論 文 の 内 容 の 一 部 は、 国 際 誌 で あ る Chemistry-An Asian Journal,Organic & Biomolecular Chemistry, Organic Letters, Tetrahedron Letters に4編の論文として公表され、また、3編の論文が投稿 予定である。
審査委員は本論文の内容を中心に試問と公開の論文発表会を行い、著者は論文内容および関連する分野に ついて十分な理解と学識を有していること、さらに将来の研究遂行に対しても十分な能力を持つと評価した。
よって審査委員会は、本論文提出者である坂口拓氏が博士(理学)の学位を授与されるに足る十分な資格を 有するものと判定する。