都市型地下空間の避難安全性に関する研究
Evacuation Safety Planning for Urban Underground Facilities
2010 年 2 月
早稲田大学大学院理工学研究科 建築学専攻 建築防災・設備研究
森山 修治
目 次
第1章 序論
1.1 研究の背景 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 1 1.2 研究の目的 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 2 1.3 既往の研究と本研究の対象範囲 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 5 1.4 地下空間の法規制等と火災事例 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 7 1.4.1 駅舎の法規制と地下鉄駅等の火災事例‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 7 1.4.2 地下街の法規制と火災事例 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 12
【参考文献】 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 14
第2章
地下鉄道駅舎における煙流動性状及び煙制御の効果に関する実施設実験
2.1 実験の目的 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 16 2.2 地下鉄駅舎の分類と実験駅舎の選定 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 17 2.2.1 東京都における地下鉄駅舎の状況 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 17 2.2.2 地下鉄駅舎の分類 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 18 2.2.3 地下鉄駅舎の煙制御システム ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 20 2.3 地下鉄駅舎火災実験による煙流動性状把握 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 21 2.3.1 実験の全体概要 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 21 2.3.2 各実験駅舎の概要 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 27 2.4 実験結果 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 38 2.4.1 島式ホームA駅の実験結果 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 38 2.4.2 島式ホームB駅の実験結果 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 48 2.4.3 相対式ホームC駅の実験結果 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 61 2.4.4 考察 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 72 2.5 まとめ ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 75
【参考文献】 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 76
第3章 地下鉄道駅舎の煙流動シミュレーションと避難安全計画への応用
3.1 シミュレーションの位置づけ ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 77 3.2 各シミュレーションによる実験結果の再現性確認 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 78 3.2.1 2層ゾーンモデルによる再現性確認 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 78 3.2.2 CFDモデルによる再現性の確認 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 83 3.3 シミュレーションによる地下鉄道駅舎の火災時避難安全性向上方策の検討‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 88 3.3.1 火災安全性検証の手順 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 88 3.3.2 避難時間予測 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 89 3.3.3 大規模火源に対する地下鉄駅舎の火災安全性の検証‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 96 3.4 まとめ ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 124
【参考文献】 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ 125
第4章 地下通路型ターミナル駅の火災時避難安全性能の把握と安全性能向上方策の検討
4.1 研究の背景と目的 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑126 4.1.1 研究の背景 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑126 4.1.2 研究の目的と手順 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑126 4.1.3 地下通路型ターミナル駅舎の特徴 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑126 4.2 地下型ターミナル駅舎の代表例T駅の特徴‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑131 4.2.1 地下型ターミナル駅舎の代表例T駅の概要‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑131 4.2.2 T駅の歴史 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑132 4.2.3 T駅の防災設備について ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑132 4.2.4 まとめ ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑137 4.3 シミュレーションによる火災時の避難安全性の検証‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑138 4.3.1 火災時の避難安全性検証の手順と検討対象駅舎のモデル化の方針‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑138 4.3.2 避難時間予測 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑142 4.3.3 煙流動シミュレーションモデル ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑145 4.4 避難安全性向上方策の効果検証 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑155 4.4.1 検討する避難安全性向上方策 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑155 4.4.2 避難安全性向上方策①(排煙設備の設置)‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑156 4.4.3 避難安全性向上方策②(火災規模の縮小)‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑165 4.4.4 避難安全性向上方策③(火災規模の縮小+排煙設備の設置)‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑175 4.5 まとめ ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑184【参考文献】 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑185
第5章 大規模地下街における避難者の行動特性と誘導計画
5.1 研究の背景と目的 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑186 5.1.1 研究の背景 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑186 5.1.2 研究の目的 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑187 5.2 全国における地下街の状況 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑188 5.3 地下街における避難行動実験 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑189 5.3.1 実験概要 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑189 5.3.2 実験条件とその目的 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑191 5.3.3 被験者の条件 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑195 5.3.4 調査測定項目と測定解析方法 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑196 5.3.5 避難時間と避難者軌跡の解析 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑197 5.4 実験結果と分析 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑200 5.4.1 各出発点からの避難先と人数の関係 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑200 5.4.2 交差点における経路選択の傾向 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑210 5.4.3 避難出口前の素通りと照度の影響 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑212 5.4.4 出口数や出口位置が避難行動に及ぼす影響‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑214 5.4.5 最終アンケート結果から推測できる避難者の傾向‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑222
5.4.8 避難目標物の避難時間に与える効果 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑241 5.5 まとめ ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑242
【参考文献】 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑244
第6章 地下広場の自然排煙による火災時避難安全性能向上方策の提案
6.1 研究の背景と目的 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑245 6.1.1 地下道・地下広場の定義 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑245 6.2 高天井を利用した自然排煙システムの提案‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑247 6.3 FDSによるシミュレーション概要 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑248 6.3.1 解析方法とFDSモデル ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑248 6.3.2 火源設定 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑248 6.3.3 シミュレーション概要 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑248 6.3.4 安全性の判定方法 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑249 6.4 シミュレーション結果および考察 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑250 6.4.1 A施設における計画手法の提案及び安全性の検討 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑250 6.4.2 B施設における計画手法の提案及び安全性の検討‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑257 6.4.3 C施設における計画手法の提案及び安全性の検討‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑265 6.5 私有地供出に対するインセンティブの検討‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑275 6.5.1 容積率割増の検討 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑275 6.5.2 容積率割増の有益性・賃料収入の比較 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑279 6.5.3 私有地供出に対するインセンティブの検討結果 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑282 6.6 まとめ ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑283
【参考文献】 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑284
第7章 結論
7.1 総括 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑285 7.2 今後の展望 ‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑288
資料集
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑289謝辞
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑301研究業績
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑302図番号リスト・写真リスト・表番号リスト
第1章 序論
第1章 序論
第1章 序論
1.1 研究の背景
本研究に着手したきっかけは、2003年2月に韓国大邱広域市の地下鉄中央路駅で発生し た火災1-1)である。本火災では、客車内で放火されて、計196人が犠牲となる大惨事1-2)
3)であったが、客車自体が著しく燃焼したうえ、ホーム、コンコースから更に接続する地 下街まで煙が流動拡大し、その間、効果的な避難誘導に失敗したことなど、地下鉄道は、
条件によっては、火災に対して著しく脆弱となり得ることを露呈した。これまで、車両や 地下駅の火災安全性や防災対策については、実証的な研究がほとんど行われないまま、設 計基準などが誘導されてきたきらいがあり、治安の低下や地下鉄道のますますの整備を前 に、実証的な調査研究を背景とする安全技術を整備していくことが望まれる。
一方、このような検討を進める中、地下空間の火災危険は地下鉄道だけでなく、地下街、
ビル地階部分、地下道、地下広場でも重要な課題1-4)であること、近年の都心開発では、
これらの各種地下施設が複合的に組み合わされて、結果的に、巨大で管理体制も不明確な 地下空間が形成されていることも、あらためて明らかになってきた。例えば東京駅周辺で は、丸の内側の開発に引き続き、八重洲側でも大規模な開発が行われ、それに伴い地下空 間の面開発が行われた。東京駅周辺には、もともと、八重洲地下街が地下売場を介して東 京駅地下に接続し、丸の内側でもJRや地下鉄各線を接続する地下道が張り巡らされてい たが、新しく建てられる高層ビルは例外なく、物販・飲食店に使われる大規模な地階を持ち、
既存の地下街や地下道と接続できるように計画され、最終的には、東京駅本体を含めて 30 万㎡を超える一体の大規模地下空間が形成されると考えられる。このように、近年の地下 空間開発の特徴は、大規模なビルの建設・建替えや市街地のブロック全体の再開発の際、
ビルの地下階と公共道路の直下の地下道、地下街等とほぼ一体化するように接続されるこ とで巨大な地下空間が形成されることにある。現在、再開発が進む都心地区は、早い時期 に地下街等の整備が進められたこともあって、現在の防災基準を満たしていない地下施設 を多く含んでいると考えられる。また、駅施設も法整備の時点では想定されなかったショッ ピングモール化が進んでおり、法令基準の内容と実態が大きく乖離している状況である。
これらの地下施設と接続される新築ビルは、最新の防災システムを具備してはいるが、あ くまでもビル単体の安全のみを担保するものであり、接続する地下施設の安全性は考慮さ れていない。しかしながら、これらの地下施設の多くは、道路等の地上の土地利用や公道 下に埋設されているインフラ等の空間的な制約により、効果的な防災改修も困難な状況で ある。大規模な地下空間、特に既設地下施設への接続を伴う開発においては、私有地の供 出等考慮にいれた地下空間の総合的な安全性向上方策が望まれる。
第1章 序論
1.2 研究の目的
地下鉄駅などの地下空間は、韓国テグ市での地下鉄火災事件にみられるように、一度、
火災が発生し煙が充満してしまうと、避難はおろか消防活動にも支障をきたしやすい構成 の空間と考えられる。また、煙流動の観点からみても、地上に建設される高層ビルとは異 なり、避難方向に煙が流れることで避難に大きな支障が生じることや、消防隊の進入口が 煙排出口となることなど様々な危険性が考えられる。
Firefighters
EXIT
Platform
Concourse
図 1.2.1 地下鉄駅舎火災のイメージ
公共地下空間には、地下鉄道駅,地下街,地下道・地下広場などがあるが、地表面から の“深さ”と平面的な“広さ”という形態から分類すると、深層化する地下鉄道駅と平面 的に広大な地下街が代表といえる。一方、地中構造物ではないものの、大都市中心部のタ ーミナル駅の通路部分も、その閉鎖性から、地下空間の特徴を持つ形態のものが多い。最 近の大規模開発では、これら駅舎と地下街等が地下道により連結され、巨大で複雑な地下 空間が形成されつつある(図
1.2.2(a))。一方、公共地下空間を“可燃物量”と“人員密度”
という利用状況から分類すると、地下街は可燃物量および人員密度がともに多く、駅舎関 連はピーク時の人員密度は多いものの、可燃物量は比較的少ないという特徴があった。し かし、最近の駅舎の商業化により、特にターミナル駅の地下街化が進んでいる(図
1.2.2(b))。
(b) 利用状況による分類
(a) 形態による分類
第1章 序論
本研究では、これら地下空間の火災安全上の特徴や問題点を個別に把握し、それぞれの 空間に適した避難安全性能向上策を提案することを目的としている。
本研究の第2章では、稼動中の地下鉄駅舎3駅を使った煙流動実験を報告する。最近の 地下鉄駅はより深層化する傾向にあるが、その火災安全性については必ずしも工学的妥当 性が検証されたものではない。地下鉄駅は、空間的には極めて特異な特徴を有するにもか かわらず、煙流動性状等の実験事例があるわけではなく、火災・煙流動の一般性状の把握 や計算手法の検証の基礎となる実大規模での実験の実施が必要と考えられる。日常、交通 の用に供されている実施設を使っての煙流動・煙制御実験には多くの困難があるが、火源 強度を抑制することで、火災初期における駅舎内の煙流動性状を確認することは可能であ る。そこで、島式、相対式2種類の代表的なホーム形式の地下鉄駅舎を選定し、実稼動中 の地下鉄駅舎において、火災初期に相当する火源を使用し、防災設備等の作動状況を変化 させ、地下鉄駅舎内、特にホーム階の煙流動性状を測定する。ここで得られた実験結果は、
のちに実施する煙流動性状シミュレーションの再現性確認用データとしても利用する。
第3章では、前章の火災実験結果が2層ゾーンモデルやCFDなどの煙流動シミュレー ションで再現できることを確認する。さらには、より大規模な火災を想定した煙流動シミ ュレーションを行い、研究当時の地下鉄駅舎の火災時の避難安全性能上の問題点を明確化 し、避難安全性向上のための具体的な方策を検討・提示する。
第4章では、
地下空間に近い空間特性をもつ地上
ターミナル駅舎の火災時の避難安全性 を検討する。都心に位置する多く
の鉄道路線が集まるターミナル駅ではホーム数が多くな り、それぞれのホームを連絡する通路網も複雑化、長大化し、その大きさに対して外部へ の開口が少ない特殊な閉鎖的空間が形成される。こうした形式の駅舎を本研究では“
地下 通路型ターミナル駅舎”
と呼ぶこととする。こうしたターミナル駅の災害時の問題として は、窓がないために、煙や汚染物質が籠りやすく、煙や停電で照明が見えなくなった時の 避難にも障害が生じ易いことや、広大な平面に比べて避難口の数が少なく、避難者にとっ て避難口の位置が認識しにくいという問題が考えられる。規模に差はあるが、全国の大都 市の主要ターミナル駅舎には、地下通路型ターミナル駅舎の特徴を備える例が多い。さら に最近のターミナル駅は、「駅ナカ」と呼ばれるショッピングモールやレストラン街が 設けられることで、単なる乗換えの通過空間とは言えない状況が発生している。
本章
では
、地下通路型ターミナル駅舎の代表例として都内T駅を選定し、大型店舗等の 避難安全検証の手法を準用して、地下通路型ターミナ駅舎における火災時の避難安全上
の 課題を明確化し、
安全性向上のための具体的な方策を検討・提示する。第5章では、地下鉄駅舎以外の代表的地下空間として地下街を取り上げる。地下街は平 面的に広大であり、可燃物の管理や避難経路の認知について、高層ビルとは異なる問題が あると考えられる。特に近年、大都市の中心に出現するようになった地下空間には、多数 の建築物の地階が相互に接続あるいは地階が地下道と接続して形成する大規模なものが増 加した点に大きな特色がある。このような都心型の大規模地下空間は、地上への出口位置
第1章 序論
が地上の土地利用に制約され、階段の配置は高層ビルに比べて規則性に乏しいため、利用 者が避難路を見つけ難く、避難誘導も困難であることなどの特徴がある。そこで、東京都 内で実際の地下街を使用して群集避難実験を行い、地下街における避難行動特性を分析す る。特に避難口の位置や館内の照度、誘導灯の状態や出口数に注目し、それらの状態を変 化させ、群集避難行動への影響を把握し、その結果を報告する。
第6章では、一般的な天井高さの地下空間では解決が困難な煙層からの輻射の問題を取り 上げ、多数の地下道が集中し、ビル地階等と接続するターミナル駅周辺の大規模地下空間の 火災時の避難安全性向上のため、排煙塔部やアトリウムを利用した高天井型自然排煙システ ムを提案し、その効果を検証している。また、スプリンクラー等の効果を検証し、自然排煙 塔の実空間における設計手法を提案すると共に、私有地供出を補完する目的での容積率割増 しによるインセンティブのあり方など、実用化に向けたケーススタディを行っている。
これら研究のフローを図
1.2.3
に示す。
図 1.2.3 本研究のフロー
第1章 序論
1.3 既往の研究と本研究の対象範囲
地下空間は、形態からは地下鉄道駅と地下街・地下道の2つに大別できる。地下鉄道駅 はプラットホームとコンコースが断面的に重なる長さ 200m以上のトンネル状の空間であ り、最近では地表面からホーム面までの深さが 40mを越える地下鉄駅も存在する。地下街 は公共地下道と地下店舗・ビルの地下階が連続して形成された形態のものが多く、地表面 近くに平面的に展開されており、小売店舗面積注1-1)だけでも3万㎡近い地下街も存在する。
日本では、地下街や地下鉄の建設が本格化した 1960 年代以降、営団地下鉄日比谷線火災 (1968),大阪天六ガス爆発(1960),静岡駅前地下街ガス爆発(1980)、名古屋地下鉄栄駅 (1983)などに代表される火災が発生し、通達等による規制が強化されたが、このような地 下空間の火災安全性については、必ずしも実験等で検証されたものではなかった。2003 年 の韓国テグ駅での火災が契機となって、地下鉄駅の煙流動性状に関して、松島ら1--5)6)は 1/5縮尺の模型を用いて、階段の防煙壁の深さを変化させた場合やコンコースに加圧給 気した場合の上階への漏煙阻止効果、ホーム階の機械排煙量を変化させた場合の煙層高さ への影響について報告している。また、徳永ら1-7)は1/20縮尺の模型実験とCFD解 析を行い、模型実験で行ったソーラーチムニーとドライミスト噴霧の効果がCFD解析で も再現できることを確認しているが、既往の研究には、実施設の地下鉄駅の実験結果の再 現性を確認したうえで、避難計算結果と比較する形で排煙システム・排煙口位置・風量等 の変化による効果を定量的に示してはいない。第2章では、3つの稼動中の地下鉄駅を使 って得た、火災・煙流動の一般性状や計算手法の検証のための基礎データを報告する。大 規模建築物等では火災時の煙流動性状を工学的に把握するには煙流動シミュレーションに よるのが一般的であるが、地下鉄駅は一般建築物に比べて長大で特異な空間であるため、
シミュレーションの妥当性を確認するための実大規模の煙流動実験が必要である。ところ が、地下鉄駅の火災実験については、発煙筒規模の熱・煙源を用いた目視観察注1-2)以外に 実験例がなく、シミュレーションのみを行ったとしても妥当性を判断できない状態であっ た。本章では地下鉄駅の形態として典型的な島式ホーム2駅、相対式ホーム1駅、合計3 駅のホーム階で火災初期に相当する約500kWのアルコール火源を用い、火災時に使用され るホーム・コンコース間の階段シャッターの開閉状態や機械排煙設備の稼動状況等を変化 させて、地下鉄駅内の煙流動性状を報告する。
第3章では、2章の実験結果を用いて、2層ゾーンモデルおよびCFDモデルでの再現 性を確認している。さらには、実験再現性が確認できた煙流動予測モデルを用いて、火災 がより拡大した状況下での地下鉄駅内の煙流動性状を予測し、駅舎混雑時を想定した群集 避難の計算結果を比較することで、地下鉄駅の避難計画、避難誘導方策を検討している。
既往の研究には、地下空間に近い空間特性をもつ地上ターミナル駅舎の火災安全性、特 に煙流動性状を検証している研究は認められない。第4章では、都心に実在する大規模タ ーミナル駅舎をモデル化し、2層ゾーンモデルによるシミュレーションと指針法1-8)によ
第1章 序論
る避難計算を行い、排煙や可燃物抑制の効果など、ターミナル駅一般に成り立つ避難安全 性向上手法の効果について報告している。特に、天井面レベルや床面レベルが場所によっ て異なる大平面空間での煙拡散状況や安全性の違いなどについて報告している。
大規模地下街などの平面的に広大な地下空間での避難行動については、種々のモデル、
予測手法が研究されている1-9)10)11)。これらの研究では、群集における個々の避難者の 避難行動については、避難出口への最短経路を迷わずに避難することや、歩行速度を一定 とすることを前提とするものがほとんどであるが、個々の避難者の行動の支配要因につい ては避難事例の調査・実験等、実証的な知見が乏しく、モデルの妥当性も検証されている とは言い難い。例えば、山田ら1-12)は人工現実感(VR)シミュレータによる疑似体験の実験、
北後1-13)はスライド提示による経路選択等の実験を実施している。また地下鉄駅舎の避難
実験例では佐藤ら1-14)の例、階段上昇実験としては萩原ら1ー15)の例があるが、多数の被 験者を用いた実在地下街での避難実験例はごく少数であり、堀内1ー16)らは地下街従業員を 被験者とした避難誘導員付きの実験を行い、停電や発煙の環境条件別に歩行速度を測定し、
補足的にアンケートをおこなっている。文野1ー17)らは学生を被験者とした避難実験を行い、
照明や出口制限の条件別に避難時間を測定し、補足的にアンケートをおこなっている。第 5章では、実際に使用されている大規模地下街を使用し、避難口の位置や館内の照度、誘 導灯の状態を変化させて、群集避難行動への影響を把握するため、被験者を用いた避難実 験を実施している。また、被験者を、行動能力から健常者・擬似高齢者に分類し、歩行軌 跡を個別に解析しており、さらには、被験者を複数人数で行動する集団避難者と一人で行 動する単独避難者に分類して同様に歩行軌跡を解析している。避難者のタイプ別に、群集 の避難行動特性、特に避難出口や避難経路の選択性について、定量的に分析している。
既往の研究では、若松ら1ー18)が、幅 1.5m×高さ 2m×長さ 70mの廊下状の地下道を模 した実験室にて、煙の水平伝播性状を測定し、煙移動の際の熱損失による煙移動速度の変 化や煙層の降下状況、垂れ壁の効果を測定し、煙の温度低下が煙層の高さに与える影響は 少ないことや、垂れ壁による煙の水平移動に対する遅延効果が大きいことを報告するとと もに、模型実験による再現性の高さを報告している。熊井ら1ー19)は、実大天井高さ 9mと 3.6mの2種類の天井高さの地下広場を想定し、天井高さが自然排煙の効果に与える影響を 確認する模型実験を行い、天井高さを上げると排煙効果も上がることを報告している。福
田ら1ー20)は、地下広場の1/12縮尺の模型を用いて、機械排煙風量,排煙口位置,防煙
垂れ壁深さなどをパラーメーターとした実験を行い、排煙口位置は火災に近いほうが、ま た、防煙垂れ壁は深いほうが効果的に排煙できることを報告している。しかしながら、多 数の地下道が集中し、ビル地階等と接続する複雑な形状をしたターミナル駅周辺の大規模 地下空間の火災時の避難安全性能について、煙流動シミュレーションと避難計算結果を比 較することで、具体的に検証している研究は認められない。本研究では、実在のターミナ ル駅周辺の大規模地下空間をモデル化し、排煙塔部やアトリウムを利用した自然排煙シス テムを提案し、その効果の検証結果を第6章で報告する。
第1章 序論
1.4 地下空間の法規制等と火災事例
1.4.1 駅舎の法規制と地下鉄駅等の火災事例
(1)駅舎の法規制
鉄道駅舎は建築基準法2条1号の用語の定義を見ると、建築基準法の適用対象となる「建 築物」の定義から除かれている。その場合、建築基準法で規定されている、各居室から避 難出口までの歩行距離や重複距離、500 ㎡以上の建築物に要求される排煙などが適用除外と なる。
一方、日本建築行政会議の統一見解によると「ラッチ(改札口)の内側の通路専用の部 分とプラットホームは建築基準法の適用除外とするが、ラッチ外の通路専用部分と(ラッ チの内外にかかわらず)駅員事務室など通路以外の部分は建築基準法の適用対象とする。」
とのことである。
建築基準法 第1章 第2条(用語の定義) 第1号(建築物)
土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造 のものを含む。)、これに付属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架 の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道 の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上屋、貯蔵槽その他 これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。
一方、消防法では、駅舎は政令別表第一(10)項に掲げる用途に供される防火対象物と して扱われるが、飲食店や物品販売店舗、地下街などの「特定用途防火対象物」の範疇に 入っていないため、駅舎に対する消防法の各種規制はかなり緩やかなものとなっている。
例えば、地下街や物品販売店舗・飲食店であれば設置義務が生じるのに規模の駅舎も、ス プリンクラー設備等の設置義務は生じないことになる。しかし、近年は「駅ナカ」と呼ば れる大規模ショッピングモールやレストラン等が駅改札内に設置される例が増え、従来、
想定されている駅舎とは異なる複合用途防火対象物に変貌しつつある。
鉄道営業法では国土交通省鉄道局長による「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等 の解釈基準の一部改正について(2004 年 12 月 27 日)」により、地下駅等に対して建造材・
内装および売店の不燃化(建築基準法第2条第9号の規定)、防災管理室の整備、排煙設備・
消火設備等の防災設備等の整備が規定された。
車両については、昭和 31 年に運輸省(当時)が南海電鉄で発生した列車火災を契機に、
車両の火災対策に関する通達を出した。その後、「普通鉄道構造規則(昭和 62 年運輸省令 第 14 号)にて車両対策基準の強化が図られた。さらに、平成 13 年に「鉄道に関する技術
第1章 序論
上の基準を定める省令等の解釈基準(平成 13 年国土交通省令第 151 号)」が定めら、平成 16 年 12 月にその一部が改正され、屋根や客室天井等の不燃性、床や座席の難燃性が定めら れている。
(2)日本における地下鉄火災事例と規制の歴史
日本における過去の地下鉄火災事例と法規制の歴史を見ていく。これにより、現在の日 本の地下鉄道防火規制がどのような背景のもとに成り立ってきたのかを考える。表
1.4.1
に 2003年4月までに日本で発生した地下鉄火災事例を示す1ー21)。過去の火災事例の中には、南海電鉄高野線(1956)、国鉄北陸トンネル(1972)、名古屋 地下鉄栄駅(1983)など死傷者を出したケースや日比谷線(1968)のように車両が著しく 燃焼したケースがある。このうち、南海電鉄火災をきっかけとして運輸省は電車の構造の 不燃化を通達(1956年5月)、1957年12月には地下鉄を対象に火災対策を強化した(A-A様 式)を定めた。更に1968年1月には日比谷線火災をきっかけとして、電熱機器などの防護、
車両材料の燃焼試験方法等を導入し、A-A 基準を更新した。地下鉄が郊外鉄道と乗り入れ 開始していた時期にあたり、1969年8月には地下に乗り入れ運転する車両はA-A基準に依 ることと規定し、1975年1月には「トンネル等における列車火災事故の防止に関する具体 的対策について」が通達され、同 2 月には地下鉄道の火災対策基準が導入され駅舎の排煙 が導入された。1987年3月には、普通鉄道構造規則にこれらの基準が導入され、その内容 は2001年制定の鉄道に関する技術上の基準を定める省令」にほぼ踏襲されている。日本の 地下鉄道火災には放火の例が少なく、上記のように、防火規制のきっかけとなった火災事 例をはじめ、表
1.4.1
に示す殆どの火災は、電気系統の異常に由来している。放火火災には 京急羽田駅火災(1993),東北新幹線車両火災(2002)等があるが、いずれも小規模で終わって おり、それらがきっかけとなって防火規制が見直されたことはない。韓国・大邱中央路駅で発生した地下鉄火災事件を受け、2004 年 12 月 27 日、国土交通省 鉄道局長から「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準」(平成 14 年 3 月 8 日付け国鉄技第 157 号)の一部改正が通達された。改正内容の特徴は、「通常火災」以外に ガソリン等を想定した「大火源火災」という火災想定を新たに加えて車両の防火性能の向 上や個々の駅毎の避難時間に応じた排煙設備の設置を決定している点である(資料3に排 煙設備の容量決定関連の資料を示す)。
第1章 序論
表 1.4.1 過去の火災事例と法規制の歴史
1ー21)
年月日 発生場所 火災概要 規制
56年運輸省「電車の火災事故対策につい て(鉄運39号)」
57年運輸省「電車の火災事故対策に関す る処理方について(鉄運5号)」
1968.1.27 日比谷線六本木・神 谷町駅間
走行中抵抗器から出火。乗客降車後,回送中に運転不能 に。車両1台全焼,2台焼損, 傷11
69年運輸省「電車の火災事故対策につい て(鉄運81号)」
1969.3.20 国鉄大清水新幹線隧 道坑内
隧道工事中,溶接火花が削岩器に引火,おが屑等に延焼。
濃煙で消防隊入坑は11時間後。死16
1972.11.6 国鉄北陸トンネル内 走行中食堂車電気暖房器で漏電出火,トンネル内で非常停 止。消火・車両切離しに失敗。死30, 傷714
1982.2.25 丸の内線荻窪駅構内 停車中の車両下部の発電機で絶縁不良のため出火。車両 小火
1982.3.8 都営三田線春日駅構 内
停車中の車両座席下部でヒーターケーブル接続部がトラッキ ング現象で短絡。車両小火
1983.2.6 丸の内線四谷三丁目 駅構内
停車中の車両発電機電動機用コイルが断線・過熱して出 火。車両小火
1983.7.11 千代田線湯島駅駅舎 継電気室のケーブルが鼠にかじられ短絡、トランスが過 熱出火。駅舎小火
1983.8.16 名古屋地下鉄栄駅駅 舎
変電室整流器故障で出火、地下街に煙。送電停止で列車 2本トンネル停車。死2傷5
1985.1.25 銀座線上野駅駅舎 地下2階駅舎工事中、切断機の火花がゴミに引火。駅舎 小火
1985.6.19 半蔵門線新渋谷変電 所
変電室で特高変電設備変圧器が接触不良となり出火。駅 舎小火
1985.9.26 半蔵門線渋谷駅構内 停車中の車両(東急)下部軸受けベアリングが破損・発 熱。車両小火、乗客2800人避難
1985.10.2 2
千代田線根津・千駄 木駅間
走行中、モーター電圧遮断器内でトラッキング現象で短 絡、出火。車両小火
「普通鉄道構造規則(昭和62年運輸省令第14 号)」
1988.9.21 近畿鉄道生駒トンネ ル内
送電ケーブルで出火,電車がトンネル内停車。旧トンネルを避難・消 防進入に使用。死1傷57
1992.8.19 JR横須賀線大船駅構
内 電車発車時パンタグラフ上昇させた際、発電機起動装置 で地絡。車両小火
1992.8.29 都営三田線春日・白 山駅間
車両下部で地絡、駅変電所の遮断器が作動して停車。乗 客は次駅まで避難
1993.3.17 銀座線浅草駅構内 ホームから投げ捨てた煙草のため、停車中の車両下部か ら出火。車両小火
1993.4.23 京浜急行空港線羽田
駅構内 停車中の電車に仕掛けた時限発火装置による出火。車両 小火
1993.8.27 都営浅草線浅草橋駅 構内
停車中の車両下部電動発電機の抵抗器が発熱、出火。車 両小火
1994.3.22 丸の内線中野新橋駅 構内
車輪駆動用モーターの配線が断線、出火。車両小火 1995.4.14 都営浅草線五反田駅
構内 車両ヒューズ端子の接触不良による発熱、出火。車両小 火
1997.10.1 6
南北線赤羽岩淵駅構 内
停車時に車輪とブレーキの摩擦で火花発生、ゴミに引 火。車両小火
1997.11.1 3
丸の内線四谷三丁目 駅構内
停車中の車両変圧器に過電流が流れ短絡、出火。車両小 火
1998.1.21 有楽町線小竹向井原
駅付近 走行中、抵抗器端子の接続が緩み、過熱。粉塵に着火。
車両小火 2001.1.15 千代田線霞ヶ関駅構
内
停車中、車両の座席に放火。車両小火 「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等 の 解 釈 基 準 ( 平 成 13 年 国 土 交 通 省 令 第 151 号)」
2002.1.24 丸の内線池袋駅構内 電車下部の機器が地絡、出火。車両小火 2002.12.1
9
東北新幹線トンネル 内(都内)
走行中の車両座席カバーに放火。車両小火
2003.2.18 韓国・大邱中央路駅
地下鉄
放火により死者196名,負傷者147名 国土交通省「鉄道に関する技術上の基準を定 める省令等の解釈基準」(平成14年3月8日付 け国鉄技第157号)の一部改正
2003.4.9 有楽町線千川・小竹 向原駅間
連結器のボルト破損で停車。20分後に乗客約2500人が千 川駅に避難
1956.5 南海電鉄高野線18号 トンネル
トンネル(延 長1.5km) 内で車両 から出火し、 全車両焼 失。死1傷42
第1章 序論
(3) 地下鉄道に関する実大実験
比較的大規模な地下鉄道火災の発生を契機として、実際の車両や鉄道施設を使った火 災・煙流動実験が運輸省、事業者等によって実施された。2003年4月以前の範囲で確認さ れた事例としては表
1.4.2
のようなものがあげられる。表 1.4.2 過去の地下鉄関連の実大実験事例
1ー21)実施者・年月 概 要 運輸省
1969 年 2 月
旧基準と新A-A基準の車両の火災性状比較。火源は日比谷線火災に倣い、抵抗 器を異常発熱させたもの。新A-A基準の効果を検証1ー22)。
大阪市交通局 1972 年 12 月
四つ橋線四ツ橋駅ホーム(軌道上)・トンネルでメタノール(2ℓ)を火源として換 気設備を作動させ、排煙の有効性を検証したとしている注1ー2)。
運輸省委託
日本火災報知器工業会 1976 年 11 月
有楽町線飯田橋駅ホーム・トンネルで自然換気状態・機械排煙時の煙流動性状 の把握。火源は小さいが煙流動に対する自然風の影響等を指摘注1ー3)。 日本鉄道技術協会
1992 年 3 月
土木研究所実大トンネル実験施設を使い、抵抗器発熱と持込み可燃物(新聞 80 頁+エタノール 600cc+灯油 400cc)の 2 種類火源想定して実車両の火災実験。火 災拡大はなく自然鎮火。
東京消防庁委託 東京防災指導協会 1993 年 11 月
実車両内で灯油最大 2ℓを火源。燃焼拡大は火源付近に留まったが、有害ガスの 影響は当該及び隣接車両に及ぶ可能性があること、材料実験から条件によって は車両内装で急速な燃焼拡大が起こり得ることを指摘1ー23)。
運輸省実験(1969)、大阪市実験(1972)は、各々、日比谷線火災、北陸トンネル火災の直後 であり、それらの再発予防に有効と考えられた対策の妥当性を検証しようとする内容とな っているのに対して、90 年代に実施された実験は、実施の背景になったと考えられる具体 的な火災事例が見あたらず、いずれも、車両内で比較的大きな火源で点火し、明らかに放 火火災を想定している。90 年代の2実験が、放火による火災を想定しながら放火の影響に ついて方向的にやや異なる結論を出しているが、実験における設定火源の規模の差に由来 すると考える。90 年代の実験では、放火に対する地下鉄道の弱点も指摘されているが、そ の後の地下鉄道の防火対策に反映された跡はない。
大阪市実験(1972),火報工業会実験(1976)では駅舎、トンネルでの煙流動性状が実験対象と なっているが、駅舎の排煙規定の導入前後であり、排煙の効果の検証を目的にしたと思わ れる。これらの実験の詳細は明らかにならなかったが、実駅舎を利用しているため燃焼規 模は小さく、当時、地下駅・トンネル等の煙流動性状の工学的予測手法は未整備だったため、
実験結果から中大規模燃焼時の煙流動性状の予測評価にまでは言及されていないこと、ま た施設現場等での実験のデータを大量処理する技術も整備されていなかったため、煙流動 性状の定量的把握には制約が大きかったと推測される。
第1章 序論
(4)地下鉄駅火災の代表例(韓国・大邱中央路駅地下鉄火災事件概要1ー3)) 被害 :死者 196 名 電車内 142 名
駅舎内 54 名(地下 2 階 11 名・地下 3 階 39 名・線路 4 名)
:負傷者 147 名 死因 :窒息死及び焼死
出火日時:2003 年 2 月 18 日(火)9 時 58 分(推定)・鎮火時刻 13 時 38 分 出火場所:大邱広域市中区南一洞 143−1−90・大邱地下鉄一号線、中央駅 出動隊 :1,150 名
資機材 :ヘリコプター1機、消防車両 222 台、その他
中央路駅にて、上り列車の1両目後部に乗車した男性が揮発性燃料(ガソリン約5ℓ)を 床に撒き、着火。火炎は車両座席シートに引火して急激に車両内部から燃焼した。火災発 生直後に隣接駅を発車した下り列車が出火約4分後中央路駅に到着し停車。火災感知シス テムの作動による構内の通電停止により発車できなくなったため延焼した。この間、車両 のドアは開放されず、乗客は車内に取り残された状態であり、適切な避難誘導も行われな かったため、多数の焼死者を出した。
韓国の地下鉄駅舎では消防法により換気・防火システムの設置が義務づけられており、
中央路駅にも消防法上の規定をクリアした排煙設備が備わっていた。しかし、排煙能力を 大幅に上回る煙が発生し、1000℃近い高温の煙が浮力による大きな上昇力によって広範囲 に広がったとされる。煙感知器連動の防火シャッターが設けられていたが、早い段階で閉 鎖されたため、駅舎からの避難ルートを塞いだ可能性が高い。
車両は 1997 年に製造されたもので、内壁・天井材は可燃性のFRP(ガラス繊維強化プ ラスチック)、床材は煙の発生が大きい塩化ビニール、座席の芯材にはウレタンフォーム が使われていた。韓国ではじめて地下鉄の内装材に難燃性素材の使用を求めた安全基準が 制定された 1998 年以前に製造された車両であった。
第1章 序論
1.4.2 地下街の法規制と火災事例
国土交通省 都市・地域整備局では「地下街」は、道路や駅前広場等の公共用地の地下 に、公共地下歩道を中心として店舗や各種サービス施設等を配置した一体の施設を指して おり、それに対して、公共用地内の公共地下歩道に面して民有地内に店舗を設ける形態は
「準地下街」と称して区別している1ー24)。
地下街は都市の通路や一段の店舗等が一体的に設けられることから、関連する法規も、
都市計画法、道路法、建築基準法、消防法、ガス事業法にわたっている。
(1)地下街建設と規制(通達)の歴史1ー24)
日本で最初の地下街は。1932年に東京の地下鉄神田駅で、路線延伸に伴い駅のコンコー スを利用して建設された「須田町地下鉄ストア」と言われているが、その後、戦争で焼け 野原となった東京銀座一帯の復興に際し、堀の埋立事業に併せて1952年に建設された「三 原橋地下街」が戦後初の地下街と言われている。
1950年代には、公共事業、商業活動が活発化し、地下鉄や地下駐車場、駅前広場の整備 に併せ、道路を占有する形で地下街が整備されていった。1960年代には、東京駅八重洲地 下街に代表されるような、ショッピングモールとしての性格を持つ大規模な地下街が建設 された。
その後、高度成長のなか、日本各地で地下街の建設が相次いだが、1970年4月に大阪市 天六地下鉄工事現場でガス爆発事故(死者79名,負傷者328名)、1972年5月に大阪市千 日前デパートで火災事故(死者118名,負傷者81名)が発生したことがきっかけで、1973 年に4省庁通達(建設省,消防庁,警察庁,運輸省)により「“真にやむを得ないもの”以外の地 下街の新設・増設は今後厳に抑制する」旨の方針が示された。この通達に沿って指導監督 する機関として、中央政府による地下街中央連絡協議会と都道府県および政令指定都市に よる地下街連絡協議会が設置された。翌1974年には「地下街に関する基本方針」が策定さ れ、地下街の計画・構造・設備に関する具体的な基準が定められたことにより、地下街新 設の動きは低下したが、それでも福岡天神地下街や名古屋セントラルパークが1970年代後 半に開設されている。
1980年8月には、静岡駅前地下街においてガス爆発事故(死者15名,負傷者222名)
が発生し、ガス保安対策の強化策として資源エネルギー庁も加わり、5省庁通達となり「基 本方針」が改正され、より一層地下街に対する規制が強化された。
その後、自治体等からの地下街建設の要望が強いこともあり、1986年に規制が一部緩和 され、①駅前広場などの拠点区域において、これらと連担性を確保して都市機能の更新を図 る必要がある場合や②積雪寒冷地帯の拠点区域の2つが“真にやむを得ないもの”と認め られることになり、川崎アゼリア’(1986)やクリスタ長池(1997)など規模の大きな地下街が順 次開設された。図
1.4.1
に地下街の累計延床面積の推移と主な火災事例を示す。1998 年 3第1章 序論
月には、「地下街に関する基本方針」が改正され、延床面積に対する店舗の面積比率や防 火区画制限が緩和された。さらに2001年の地方分権推進法の成立とともに地下街中央連絡 協議会は解散し、「基本方針」自体も廃止された。これ以降の地下街の新増設の許認可等に ついては、建築基準法および消防法等に定める技術的基準の範囲内で、各自治体の判断に 委ねられることになった。参考に、地下街に関する建築基準法と消防法の規定の概要を資 料1に,全国の地下街建設と規制の歴史を資料2に示している。
0 20 40 60 80 100 120
1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 西暦
(2) 地下街の火災事例(静岡駅前地下街ガス爆発事故1ー26)) 被害 :死 者 15 名,負傷者 223 名
事故日時:1980 年 8 月 16 日(土)
事故場所:静岡県静岡市紺屋町(現・静岡市葵区紺屋町
国鉄(現・JR 東海)静岡駅北口地下街(通称、ゴールデン街)
静岡駅北口駅前地下街は、1970 年頃から周辺ビルの地下階と接続される形で準地下街が 形成され、ゴールデン街と呼ばれていた。1980 年8月16日(土)9時31分にゴールデ ン街の一角である静岡第一ビルの地下湧水槽に溜まったメタンガスへの引火を契機に都市 ガスのガス管が破損、漏れたガスは地下街に溜まっていき、午前9時56分に2回目の爆 発が起こった。2回目の爆発は大規模なもので、火元となった飲食店の直上にあった雑居 ビルは爆発炎上し、向かいにあった西武百貨店(当時)や周囲に隣接する商店および雑居 ビルなど 163 店舗にガラスや壁面の破損など大きな被害をもたらした。
最近の火災事例としては、1998 年2月に新宿西口地下広場で発生した路上生活者の火災 (死者3名)がある。この火災は居住用に地下通路に持ち込んだダンボールや衣類が急速に 燃え、逃げ遅れた事例である。
図 1.4.1
地下街の累計床面積の推移と主な火災事例1ー25)年竣工延面積( ㎡)
0 200 400 600 800 1000 1200
累積延面積( ㎡)
年竣工面積 累積面積
静岡駅前地下街 (1980)
大阪天六地下鉄 (1970)
大阪千日前 (1972)
第1章 序論
【参考文献】
1- 1) 「韓国大邱(テグ)市で発生した地下鉄火災について」、
日本建築学会防火委員会見解(学会ホームページに公開)、2003 年 2 月 19 日(速報)、
20 日(最終版)
1- 2) 山田常圭,鄭 炳表:大邱地下鉄中央路駅火災の概要、火災、Vol.53,No.2,pp.1-8,2003.
1- 3) 森田 武:韓国大邱廣域市地下鉄火災から学ぶ、フェスク、5 月号、pp.11-32,2003.
1- 4) 長谷見雄二、「都心再開発と地下空間の防災的課題」、学術の動向,(財)日本学術協力 財団, 2005.6
1- 5) 松島早苗、渡部勇市「地下鉄火災における駅構内の煙制御に関する研究(その1)(そ の2)」日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿), pp.297-300, 2005.9.
1- 6) 松島早苗、渡部勇市「地下鉄火災における駅構内の煙制御に関する研究(その3)」 日本建築学会大会学術講演梗概集(関東), pp.255-256, 2006.9.
1- 7) 徳永 英、大岩大祐、天野賢志、内山聖士、出口嘉一、水野雅之、大宮喜文、辻本 誠
「模型実験による火災時の駅舎内煙流動性状の把握 ―パッシブセイフティによる地 下鉄駅舎内の気流制御に関する基礎的研究―」日本建築学会環境系論文集 No.616, pp.9-16, 2007.6
1- 8) (財)日本建築センター「新・建築防災計画指針」, pp.134〜135, 1995.
1- 9) 辻 正矩、柴田利治「避難シミュレーションによる地下街の安全性の検討」
日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道), pp.731-734, 1986.9.
1-10) 麻生稔彦、佐々野輝敏、朝位孝二「避難者間の情報伝達を考慮した地下街の避難シミ ュレーション」地下空間シンポジウム論文・報告集第 10 巻, 土木学会, pp.1-10, 2005.1.
1-11) 松田泰治、大久保久哲、樗木 武、大野 勝「地下街における避難開始時間のばらつ き及び避難誘導者の影響を考慮した避難行動シミュレーションの高度化」地下空間シ ンポジウム論文・報告集第 10 巻, 土木学会, pp11-20, 2005.1.
1-12) 山田常圭、阿部伸之、須賀昌昭「バーチャルリアリティ技術を用いた火災疑似体験シ ステムの開発」日本建築学会大会学術講演梗概集(関東), pp.309-310, 2006.9.
1-13) 北後明彦「避難経路選択に関する実験的研究―スライド提示による一対比較データの 分析を通じて―」日本建築学会論文報告集, 第 339 号, pp.84-89, 1984.5
1-14) 佐藤 歩、西田幸夫、市原 茂、辻本 誠「地下駅舎における出口探索時の行動特性 に関する実験的研究」地下空間シンポジウム論文・報告集 第 13 巻,土木学会, pp.23-32, 2008.1
1-15) 萩原一郎、北後明彦「地下空間からの避難計画―階段における連続昇降実験」
日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸), pp.1327-1328, 1992.9.
1-16) 堀内三郎、神 忠久、室崎益輝、淀野誠三「地下街防災対策に関する研究」
日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸), pp.581-584, 1974.9.
1-17) 文野 洋、西田幸夫、向井希宏、大谷 亮「地下街の照明および出口の制限が避難行 動に与える影響」地下空間シンポジウム論文・報告集 第 7 巻, 土木学会, pp.195-201, 2002.1.
1-18) 若松高志、松下敬幸、山名俊男、桑名秀明、若松孝旺、中山史一、清水成之、小山英 人、中村和人、仲田浩二「地下道における煙の水平伝播性状(その1)(その2)(そ の3)」日本建築学会大会関東支部研究報告集, pp.221-232, 1990.3.
1-19) 熊井 直、山名俊男、桑名秀明、中村和人、若松孝旺「地下街における煙制御に関す る研究 その5 地下広場における自然排煙の効果」日本建築学会大会学術講演梗概 集(関東), pp.1309-1310, 1993.9.
1-20) 福田晃久、吉澤昭彦、田中哮義、山名俊男、若松孝旺、広田正之「地下広場における 機械排煙の有効性」日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道), pp.127-128, 1995.8.
第1章 序論
1-21) 長谷見雄二、森山修治、南 東君「地下鉄火災における煙流動性状(その 1) 日本に おける地下鉄道火災の事例・研究経緯と地下鉄駅舎の煙流動特性把握の必要性」日本 建築学会大会学術講演梗概集, pp.187-188, 2004.9.
1-22) 運輸省鉄道局 地下鉄道火災事故対策特別研究報告書 1970
1-23) 東京防災指導協会「鉄道車両の実大火災実験調査研究報告書」 1994.
1-24) 渡邊浩司、渡辺剛史、杉森秀司「日本における地下街開発と防災対策の経緯と今後の 取組み」
地下空間シンポジウム論文・報告集 第 15 巻, 土木学会, pp.111-116, 2010.1.
1-25) フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia, http://ja.wikipedia.org/wiki/T, 2010 年 1 月 10 日)の地下街のリストを基に作成し、火災事例を記入した。
1-26) 長田克俊「静岡駅前ゴールデン街ガス爆発事故について」火災, pp.3-8, Vol.30, No.6, 通巻 129, 1980.12.
注1-1) 経済産業省への大規模小売店舗立地法に基づく届出面積
注1-2) 大阪市四ツ橋駅地下鉄駅舎およびトンネル内実験(昭和 47 年 12 月 大阪市消防局)。 概要は参考文献 1- 23)に紹介されている。
注1-3) 帝都高速度交通営団有楽町線飯田橋駅舎およびトンネル内実験(昭和 51 年 11 月 (社) 日本火災報知機工業会)。概要は参考文献 1- 23)に紹介されている。
第2章 地下鉄道駅舎における煙流動性状及び煙制御の効果 に関する実施設実験
第2章 地下鉄道駅舎における煙流動性状及び 煙制御の効果に関する実施設実験
第 2 章 地 下 鉄 道 駅 舎 に お け る 煙 流 動 性 状 及 び 煙 制 御 の 効 果 に 関 す る 実施設実験
2.1 実験の目的
日常、交通の用に供されている地下鉄駅を使っての煙流動・煙制御実験には多くの困難 があり、少なくとも運行に影響が生じるおそれのある条件で実験することはできない。こ のため、実験は運行に影響のない深夜に実施し、火源強度、その他の条件も、施設その他に 影響を残さない範囲とせざるを得ない。一方、地下鉄駅舎のホーム上には火気等、出火危 険の大きい要素は少ない。放火の場合も、個人が駅舎内に持ち込める燃料には限りがあり、
それ自体の火源強度は高々数百kW程度と考えられる。地下駅ホーム・コンコースでは、区 画のない大規模空間が形成されがちで、燃焼・煙拡大や出火空間避難の負荷が大きくなる 傾向があることを考えると、初期火災を大きく超えない燃焼規模での駅舎内の煙性状の把 握と対策を検討する必要は特に大きい。
本章では実施設を使った煙流動実験を報告するが、実験目的は、以下の2点に絞った。
① 主に火災初期段階の地下鉄駅舎内、特にホーム上の煙性状を確認する。
② 実験と同じ条件で2層ゾーンモデルおよびCFDシミュレーションを実施し、モデルの チューニングと検証を行うための基礎データを採取する(図2.1.1参照)。
また、実験計画では、地下鉄駅舎の煙流動性状全体に影響を与える可能性のある以下3 点に注視した。
③ 外部風がホーム上の煙流動性状に与える影響。
④ コンコース〜ホーム間階段シャッターがコンコース階,ホーム階の煙流動性状に与え る影響。
⑤ 排煙がホーム階の煙流動性状に与える影響。
本実験は東京消防庁「地下鉄道火災に対する消防対策検討委員会」2-1)をきっかけに、
東京消防庁の協力を得て、長谷見研究室が中心となって行ったものである。