山 口県 下 の一 放 牧 地 に お け る消 化 管 内 線 虫 お よび 牛肺 虫感 染 につ い て の消 長 を調 査 す る こ とに よ り,放 牧 経 過 お よび 季 節 要 因 マ ト ク リ ッ ト値 を 測 定 し た.ま と感 染 との関 連 性 につ いて 検 討 し,同

家畜衛生

山 口県下 の一放牧地 におけ る消化管 内線虫 お よび牛肺虫感染 につ いて

三 好 雅 和*1)伊 藤 智*2)岡 田 講 治*藤 原 宣 義*橋 本 英*

(昭 和60年12月20日 受 理)

Occurrence of Gastrointestinal Nematodes and Dictyocaulus viviparus in Grazing

Calves on a Pasture in Yamaguchi Prefecture

MASAKAZU

MIYOSHI (Zootechnical Experiment Station, Prefecture of

Yamaguchi, Yamaguchi 759-22) et al.

SUMMARY

In a pasture 50 rearing Holstein calves were grazed in summer and spring over a period from

June, 1983, to December, 1984. They were examined by a modification of the Wisconsin

meth-od and the methmeth-od of flotation in the centrifugation tube.

As a result, Cooperia oncophora, Cooperia

punctata, Dictyocaulus viviparus, Mecistocirrus digitatus, Nematodirus sp., Ostertagia ostertagi, Strongyloides

papillosus, and Trichuris discolor were detected from them.

The infection of each species was mild.

Some of the calves were administered with an anthelmintic.

The incidence of Japanese

Theiler-iasis and gain in body weight were compared between these calves and the other untreated ones.

The parasitic infection exerted no significant influence upon the incidence, but the treatment

seemed to have improved the gain in body weight.

要

約

山 口県 下 の 一 放 牧 地 に お い て,1983年6月 か ら1984年12月 の 間 に 夏 期 お よ び 春 期 に 放 牧 を 開

始 した ホ ル ス タ イ ン種 雌 育 成 牛50頭 の 消 化 管 内 線 虫,牛 肺 虫 感 染 の 実 態 調 査 を ウ イ ス コ ン シ ン変

法 お よ び 遠 心 管 内 遊 出 法 に よ り行 っ た.そ の 結 果,Mecistocirrus digitatus,Ostertagia ostertagi,Cooperia punctata,Cooperia oncophora,Nematodirus sp.,Strongyloides papillosus Trichuris discolorお よ

びDictyocau-lus viviparusを 認 め た が,そ れ ら の 感 染 は 軽 度 で あ り,そ の 消 長 は 放 牧 経 過 お よ び 季 節 要 因 に 基 づ く こ とが 推 察 さ れ た. ま た,一 部 の 調 査 対 象 牛 に 駆 虫 を 実 施 し,投 薬 群 と 無 投 薬 群 の 小 型 ピ ロ プ ラ ズ マ 病 の 発 症 頻 度 お よ び 増 体 量 を 比 較 す る こ とに よ り,寄 生 虫 感 染 の 影 響 を 検 討 し た が,感 染 に よ る有 意 な 影 響 は 認 め な か っ た.し か し,増 体 量 に つ い て は 駆 虫 に よ る 改 善 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た. 放 牧 牛 で は消 化 管 内線 虫 感 染 は普 遍 的 で あ り,牛 肺 虫 感 染 も少 な くな い.欧 米 諸 国で は これ らの 寄 生 虫 感 染 は 寄 生 性 胃腸 炎 あ る い は牛 肺 虫 症 を起 こす こ とに よ り古 く か ら注 目さ れ て い る.ま た,臨 床 症 状 を示 さ な い軽 度 の 感 染 に お い て も発 育抑 制3)や乳 量 の 減 少,乳 質 の低 下2,9) を 起 こすSubclinical infection(Subclinical disease)と し て 知 られ て お り,と くに住 血 原 虫 との混 合 感 染時 にそ の 病 勢 を強 め る こ とか らか な り重要 視 さ れ て い る16).そ の た め 多 くの 地域 で 実 態 調 査 が な さ れ,そ れ ぞ れ の 地域 の 疫 学 的 動 態 に 基づ く駆 虫 対策,放 牧管 理 が検 討 さ れ て い る1,8,10). わ が 国 で も,消 化 管 内線 虫,牛 肺 虫 感 染 は 各 地 で報 告 され て い るが,寄 生 性 胃腸 炎,牛 肺 虫 症 の 発 生 は 散 発 的 で あ り,被害 は 一 般 的 で は な い.Subclinical infectionの 被 害 に つ い て も佐 藤 ら13)の泌 乳 牛 の 消 化 管 内 線 虫感 染 例 の報 告 を み る のみ で あ り,臨 床 症 状 を 認 め な い 限 り放 置 さ れ るケ ー スが 大 半 で あ る. 一 般 に これ らの寄 生 虫 感 染 に は ,気 象 条 件 が 大 き く関 与 す るこ とが いわ れ て い る16)が,わ が 国 に お け る報 告 例 の ほ とん どは春 期 放 牧 開 始 の牛 群 を 調 査 した も の で あ る7,11,17).今回 わ れ わ れ は 山 口県 下 の一 放 牧 地 に お い て, 放 牧 開 始時 期 の異 な る牛 群 の消 化 管 内線 虫,牛 肺 虫 感 染 * 山 口県 育 成 牧 場(山 口県 美 祢 郡 秋 芳 町 岩 永 本 郷 台 山) *1) 現 山 口県 畜 産 試 験 場(山 口県 美 祢 市 伊 佐 町 河 原 1200) *2) 現 山 口県 西 部 家 畜 保 健 衛 生 所(山 口県 豊 浦 郡 豊 田町 殿 敷1892) 日獣 会 誌 39 227∼233 (1986) ―227―

山 口県 下 の一 放 牧 地 に お け る消 化 管 内 線 虫 お よび 牛肺 虫感 染 につ い て の消 長 を調 査 す る こ とに よ り,放 牧 経 過 お よび 季 節 要 因 と感 染 との関 連 性 につ いて 検 討 し,同 時 に 一 部 に駆 虫 を 実 施 す る こ とに よ り,感 染 の影 響 に つ い て も検 討 した. 1. 材 料 お よ び 方 法 1) 調 査 期 間 1983年6月 ∼1984年12月. 2) 調 査 対 象 牧 野 調 査 対 象 と し た 牧 野 は 山 口県 の ほ ぼ 中 央 の カ ル ス ト台 地.秋 吉 台(標 高260∼375m)の 一 角 に 位 置 す る 総 面 積 162.3ha(放 牧 面 積116.4ha)の _{放 牧 育 成 場 で あ る .放} 牧 草 地 は27の 牧 区 に 分 け ら れ,3月 下 旬 ∼11月 下 旬 ま で,平 均 滞 牧 日数2.5日 の輪 換 放 牧 に用 い られ て い る.牧 野 の気 象 概 況 は 図1に 示 した. 3) 調 査 対 象 牛 生 後2週 齢 前 後 に 当 地 に 搬 入 し,約6ヵ 月 の 哺 育 後 に放 牧 が 開 始 され た ホ ルス タ イ ン種 雌 牛50頭 を 調 査 対 象 牛 と した.こ れ らの う ち,1983年7月21日 に放 牧 開始 され た11頭 を83-A,8月15日 に 放 牧 開 始 さ れ た11頭 を83-B,1 1984年3月30日 に放 牧 開 始 され た7頭 を84-A,4月25日 に放 牧 開 始 され た6頭 を84-B,5月26 日に放 牧 開 始 され た15頭 を84-C とした. 駆 虫 は83-A,Bで は6頭 ず つ 放 牧 開 始 後8週 で,ま た84-Cで は7頭 に 放 牧 開 始 後9お よび21 週 で そ れ ぞ れ 塩 酸 レバ ミ ゾ ー ル 10mg/kgの 経 口投 与 に よ り実施 した. 4) 寄 生 虫 学 的 検 査 原則 と し て 放 牧 期 間 は3週 間 隔,終 牧 後 は1ヵ 月 間 隔 で 採 取 し た直 腸 便 を対 象 とし,以 下 の 寄 生 虫 学 的 検 査 を 行 った. (1) 消 化 管 内 線 虫:ウ イス コ ン シ ン変 法6)に よ り実 施 し,糞 便5g 中 の虫 卵 数 を 求 め た.虫 種 同定 は ビ ン培 養 法 に よ り実 施 した. (2) 牛 肺 虫:遠 心 管 内 遊 出 法 に よ り実 施 し,糞 便1g中 の子 虫 数 (LPG)を 求 め た. 5) 小 型 ピ ロ プ ラズ マ病 検 査 放 牧期 間 中,2∼4日 間隔 の へ マ ト ク リ ッ ト値 を 測 定 し た .ま た,必 要 に 応 じて 血 液 塗 末標 本 検 査 を 実 施 し,住 血 原 虫 の 確 認 を 行 っ た. 6) 体 重 測 定 83-Bで は1983年9月22日 お よ び11月21日 に,ま た84-Cで は1984年7月23日 お よ び11月21日 に 測 定 した. 2. 成 績 1) 消 化 管 内 線 虫 の 種 類 検 出 さ れ た 消 化 管 内 線 虫 はMecistocirrus digitatus(牛 捻 転 胃 虫),Ostertagia ostertagi(オ ス テ ル タ ー グ 胃 虫), Cooperia punctata,Cooperia oncophora,Nematodirus sp.,

最高気温 最低気温 図1 調 査 対 象 牧 野 の気 象 概 況 放牧開始 放牧 開始 終牧 終牧 図2 Trichostrongylidae 科(Nematodirus sp.を 除 く)虫 卵 数 の 消 長 ―228―

三 好 雅和 伊 藤 智 岡 田講 治,ほ か

Strongyloides PaPillosus(乳 頭 糞 線 虫),Trichuris discolor

(牛 鞭 虫)の6属7種 で あ っ た. 2) 消 化 管 内 線 虫 虫 卵 数 の 消 長 (1) Tricllostrongylidae科(M.digitatus,O.oster-tagi,C.pmctata,C.oncophora)虫 卵 数 の 消 長:夏 期 放 牧 開 始 の83-A,Bで は い ず れ も放 牧 開 始 後8週 よ り増 加 を 始 め,最 高 虫 卵 数 が117.8個,167.0 個 とな り,20お よび17週 まで 比 較 的 多 数 が 検 出 され た が,以 後 減 少 しそ の ま ま推 移 す る傾 向 を示 し た.た だ し,83-Bで は終 牧後 に再 度増 加 した 例 が あ っ た た め,後 半 で一 時 的 に増 加 した形 とな った. 春期 放 牧 開 始 の84-A,B,Cで は 放 牧 開 始 後9∼12週 よ り増 加 を 始 め,最 高 虫 卵 数 が175.9個, 198.2個,147.8個 とな り,24週 前 後 まで 比 較 的 多 数 が 検 出 され, 以 後 減 少 す る傾 向を 示 した.春 期 放 牧 開 始 牛 で は 夏期 放 牧 開 始 牛 に 比 較 し,虫 卵 数 の多 い期 間 が 長 い 傾 向で あ った(図2). (2) Nematodims sp.虫 卵 数 の 消 長:83-A,Bお よび84-A, B,Cい ず れ も少 数 の ま ま推 移 し, 後 期 の検 査 で は ご くわ ず か が認 め られ るの み で あ った(図3). (3) Strongyloides papillosus 虫卵 数 の 消 長:夏 期 放 牧 開 始 の 83-A,Bで は 最 高 虫 卵 数 は そ れ ぞ れ0.2個,0.6個 とご く少 数 しか 検 出 され なか った が,春 期 放 牧 開 始 の84-A,B,Cで は6月 中 旬∼ 7月 中旬 にか け て虫 卵 数 は そ れ ぞ れ3.3個,7.5個 お よび12.0個 と比較 的 多 数 検 出 され,一 過 性 の 虫 卵 増 加 の 傾 向 が 認 め られ た(図 4). (4) Trichuris discolor虫 卵 数 の 消 長:夏 期 放 牧 開 始 の83-A,B で は 放 牧 開 始 前 後 に 最 高 虫 卵 数 の 7.2個,9.5個 が 検 出 され,放 牧 前 半 にか け て比 較 的 多 数 が 検 出 さ れ た が,い ず れ に お い て も11月 以 降 は ほ とん ど認 め られ な くな っ た.春 期 放 牧 開 始 の84-A,B,C で は放 牧 開 始 前 後 よ り増 加 し,最 高 虫卵 数 は そ れ ぞ れ9.6個,7.8個 お よ び4.1個 で あ っ た が,い ず れ に お い て も11月 以 降 は ほ とん ど認 め られ な くな った(図5). 3) 牛 肺 虫 子 虫 数 の 消 長 夏 期 放 牧 開 始 の83-A,Bで は そ れ ぞ れ放 牧 開 始 後8 図3 Nematodirus sp.虫 卵 数 の 消 長 図4 Strongyloides papillosus虫 卵 数 の 消 長 ―229―

山 口県 下 の一 放 牧 地 に おけ る消 化 管 内 線 虫 お よび 牛 肺 虫 感 染 に つ い て 週 よ り検 査 を 開 始 した が,全 般 に少 数 の ま ま推 移 し た.し か し,83-Bで は 放 牧 開 始後11お よ び14週 にお い てLPG は2.0ま た は7.0と い う増 加 傾 向 がみ られ た.春 期 放 牧 開 始 の84-A,B,Cに つ い て も同様 に全 般 に少 数 の ま ま 推 移 した が,84-Aで は 放 牧 開 始後21お よ び24週 に お い てLPGは1.7,2.3,84-Bで は 放 牧 開 始 後12お よび15週 に お い て LPGO.9,1.2,84-Cで は 放 牧 開 始 後6お よび9週 に お い てLPG 3.6と 増 加 傾 向 が み られ た(図6). 4)投 薬 効 果 夏 期 放 牧 開 始 の83-A,Bの そ れ ぞ れ6頭 に は放 牧 開始 後8週 の 時 点 で,ま た 春期 放牧 開始 の84-C の7頭 に は放 牧 開 始 後9週 お よび 21週 で 塩 酸 レパ ミゾー ル10mg/kg を経 口投 与 し,無 投 薬 群 と比 較 検 討 した. (1)駆 虫 効 果:83-Aで は,消 化 管 内線 虫 虫 卵 数 は 投 薬 に よ り減 少 し,少 な く と も3ヵ 月,無 投 薬 群 よ り少 な い状 態 で あ った.牛 肺 虫 子 虫 数 は 投 薬 群,無 投 薬 群 の い ず れ に お いて も きわ め て 少 数 に 推 移 した た め,と くに 差 を 認 め る こ とは で きな か った(図7). 83-Bで は,消 化 管 内 線 虫 虫卵 数 は 投 薬 に よ り減 少 し,約2カ 月, 無 投 薬 群 よ り少 な い 状 態 で あ っ た.牛 肺 虫 子 虫 数 は 無投 薬 群 に お い て は 明 らか に 増 加 し た の に 対 し,投 薬 群 で は 極 く軽 度 の増 加 に と ど ま った(図8). 84-Cで は 消化 管 内線 虫 虫卵 数 は 投 薬 に よ り減 少 し,約4ヵ 月, 無 投 薬 群 よ り少 な い 状態 で あ っ た.牛 肺 虫 子 虫数 は,投 薬 の時 期 が 感 染 の 極 期 を過 ぎ,す で に 自然 減 少 す る時 期 に 入 っ て い た た め, 投 薬 群 と無 投 薬 群 の 間 に差 は認 め られ な か った(図9). (2)臨 床 効 果(小 型 ピ ロ プ ラ ズ マ 病 発 症 頻 度):当 地 で は放 牧 初 期 に ほ とん どの放 牧 牛 がThcilcria sergentiに感 染 して い た.今 回 の調 査 で は ヘ マ トク リッ ト値 が20%以 下 とな った 場 合 お よび そ れ 以 外 で も貧 血 を 対 象 と した 治 療 を 行 った 場 合 を 発 症 日 とみ な し,84-Bお よび84-Cの そ れ ぞ れ の 投 薬 群,無 投 薬 群 の1頭 あ た りの平 均 発 症 日数 に よ り 検 討 した.そ の 結 果,い ず れ に お い て も投 薬 ・駆 虫 に よ る効 果 は 明 瞭 で は な か った(表1). (3)増 体 量:83-Bお よび84-Cの いず れ にお いて も 図5Trichuris discolor虫 卵 数 の 消 長 図6Dictyocaulus viviparus子 虫 数 の 消 長 ―230―

三 好 雅 和 伊藤 智 岡 田講 治,ほ か 投 薬 群 の 平 均 値 は 無 投 薬 群 の 平 均 値 よ りもわ ず か に 大 で あ った が, 有 意 差 で は な か った(表2,3). 3.考 察 現 在,当 地 で は 寄 生 性 胃腸 炎 お よび 牛 肺 虫 症 の発 生 は ほ とん ど認 め て お らず,今 回 の調 査 に お い て も消 化 管 内線 虫,牛 肺 虫 の感 染 ・ 寄 生 の大 半 が 軽 度で あ る こ とが判 明 した. 消 化 管 内 線 虫 で はTrichostron-gylidae科(Mecistocirrus digitatus, Ostertagia ostertagi,Cooperia punctata, Gooperia onopphora,Nematodiurs sp.),Strongyloides papillosusお よび Trichuris discolorの感 染 ・寄 生 が 認 め られ た が,Trichostrongylidae 科 が 主 体 で あ り,ま た そ れ ぞ れ に 特 徴 の あ る消 長 が 認 め られ た.一 般 に 春 期 放 牧 開 始 の場 合,消 化 管 内線 虫 は放 牧 開 始 後2∼3ヵ 月で 急 増,以 後 減 少 しそ の ま ま推 移 し て ゆ く こ とが報 告 さ れ て い るが7, 11,17)_{,今 回 は 春期 放 牧 開 始群,夏} 期 放 牧 開 始 群 の い ず れ に お い て も 同 様 の 現 象 が 観 察 され た.す な わ ち,Nematodirus sp,を 除 くTri-chostrongylidae科 は 全 群 とも放 牧 開 始 後9週 前 後 よ り増 加,20週 前 後 まで 比 較 的 多 数 が 検 出 され,以 後 減 少 す る傾 向 に あ った.最 高 虫 卵 数 と放 牧 開 始 時 期 との 問 に は 明 らか な 関連 は 認 め な か った が,春 期 放 牧 開 始群 で は 夏期 放 牧 開 始 群 よ り も検 出 虫 卵 数 が 多 い 期 間 が 長 い 傾 向 に あ った.こ れ は 季 節 的 要 因(温 度 期 間 が 長 い こ とで)も 否 定 で きな いで あ ろ うが,む し ろ放 牧 経 過 日数 に よ り高 い相 関 が あ る よ うに考 え られ た. Nematodirus sp.は 本 来排 泄 虫 卵 数 の 少 な い こ とで 知 られ て い る が19),本 調 査 で も放 牧 開 始 の 時期 に 関 係 な くつ ね に 少 数 の ま ま推 移 した.渡 辺17)は春 期 放 牧 開 始 の 若 牛 で 瓦helvetianusの 虫 卵 数 が7月 中 旬 を 極 期 と して8月 に 減 少 した 図7投 薬 効 果(83-A) 図8投 薬 効 果(83-B) 図9投 薬 効 果(84-C) ―231―

山 口県 下 の一 放 牧 地 に お け る消 化 管 内 線 虫 お よび 牛 肺 虫 感 染 に つ い て 表1小 型 ピ ロプ ラズ マ病 発 症 頻度 注)発 症 日 数:ヘ マ ト ク リ ッ ト値 が20%以 下 と な っ た 日 数 お よ び そ れ 以 外 で も 治 療 を 行 っ た 日 数 こ とを 報 告 して い るが,今 回 の 調査 に お い て は検 出 虫卵 数 が 少 な い ま ま経 過 した た め,こ の 減 少す る とい う傾 向 は 明 らか で は な か った. Strongyloides papillosusは 夏期 放 牧 開 始群 で は きわ め て 少 数 しか 検 出 され な か った が,春 期 放 牧 開始 群 で は6月 中 旬 ∼7月 中 旬 に か け て 比較 的 多 数 が検 出 さ れ て お り, 感 染 に は梅 雨 時 期 の 湿 潤 な 環 境 が か な り関連 した もの と 考 え られ た. Trichuris discolorにつ い て は,数 ヵ月 に わ た る感 染経 過 の の ち に 自然 耐 過 す る こ とが いわ れ て い る18)が,今 回 の 調査 で はそ れ 以 外 に季 節 要 因 が か な り関 与 して い る こ と が推 察 さ れ た.す なわ ち,放 牧 開 始 の時 期 に か か わ らず, 放 牧 開 始 前後 よ り検 出 され 始 め,7∼10月 まで 比 較 的 多 数 が検 出 され,11月 以 降 は ほ とん ど消 失 した.T=disoolor のprepatent periodは 明確 に は され てい な い が,近 縁 種 のT.ovisが3ヵ 月 で あ る4,12)ことよ り,哺 育 期 ∼ 放 牧 前 期 の 感 染 が 主 で あ り,秋 期 以後 の牧 野 で の感 染 はほ と ん どな い こ とが 推 察 され た.こ れ は感 染 源 とな る含 子 虫 卵 形 成 に 高 温 ・多 湿 が要 求 さ れ る4,12)ことに 原 因が あ る と考 え られ る. 当 地 で の 消 化 管 内 線 虫 感 染 の 消長 は放 牧経 過 お よび季 節 要 因 に 基 づ くもの で あ った が,全 体 的 に は放 牧 経 過 に 高 い相 関 が あ った とい え る.岩 崎 ら7)は 梅 雨時 期 の感 染 の重 要 性 を述 べ て い るが,今 回 の調 査 で はStrong yloides Papillosusに お いて のみ 梅 雨 時 期 との 関 連 が み られ た. 牛 肺 虫 につ い て は 自然 感 染 の場 合,放 牧 後2∼3ヵ 月 前 後 か ら子 虫 が 検 出 され る こ とが 知 られ て い るが,今 回 の 調 査 で は い ず れ の 群 に お い て もLPGは 低 か った もの の,同 様 の 傾 向 で あ っ た.ま た,春 期 放 牧 開 始 の84-A で は 放 牧 開 始 後21∼24週 に お い て,84-Bで は12∼15 週 に お い て,84-Cで は6∼9週 に お い て,夏 期 放 牧 開 始 の83-Bで は11∼14週 にお いてLPGの 増 加 傾 向が み られ た が,84-Cで は増 加 傾 向 が他 よ り もか な り早 か った.こ れ は 放 牧 開 始 直 後 が梅 雨 時期 で あ り,牧 野 が 温 暖.湿 潤 な 状 況 で 感 染 子 虫 の 生 存 に 好適 で あ り,放 牧 開 始 直 後 よ り感 染 が 成 立 しや す か った こ とが 考 え られた. 今 回,こ れ らの寄 生 虫 感 染 の 影 響 を 検 討 す るた め,対 象 牛 の一 部 に塩 酸 レバ ミ ゾー ル10mg/kgを 経 口投与 し た.そ の結 果,駆 虫 効 果 は明 瞭 で あ り,い ず れ の 種 類 に つ い て も明 らか に寄 生 の程 度 が 軽 減 した.投 薬 時 期 に つ い て は放 牧 開 始 後8∼9週 前 後 が 適 当 で あ り,感 染 ・寄 生 の消 長 の個 体 差 お よ び再 感 染 の点 よ り18週 前 後 に再 投 薬 す る こ とが 望 ま し い と思 わ れ た.ま た,5∼6月 に 放 牧 を開 始 した 場 合 で は,そ の牧 野 にお け る例 年 の 牛 肺 虫 の感 染 の 消長 よ り若 干 早 め の投 薬 が 適 当 と 考 え ら れ た. 投 薬 ・駆 虫 に よ る臨床 効果 につ い て は小 型 ピロ プ ラ ズ マ 病 の 発 症頻 度 お よび増 体 量 に よっ て検 討 した .一 般 に 消 化 管 内 線 虫,牛 肺 虫 は住 血 原 虫 との混 合 感 染 で そ の病 勢 を 増 悪 す る こ とが い わ れ て い るが5,16),今 回 の調 査 で は 明 瞭 で は な く,現 状 の感 染程 度 で は 小型 ピ ロプ ラズ マ 病 の 病 勢 を 左 右 す るほ どの 程 度 で は な い こ とが推 測 され た. い っぽ う,駆 虫 薬 と して 使 用 した 塩酸 レバ ミゾー ル は 免 疫 調 節 作 用 も有 して お り14),そ の面 か ら も小 型 ピロ プ ラ ズ マ病 に 対 す る効 果 が期 待 さ れ たが 効 果 は明 らか で は な く,竹 野 ら15)の報 告 と同様 で あ っ た.投 薬 時 期 に問 題 が あ った の か も しれ な い. 増 体 量 に つ い て は 投 薬 群 は 無 投 薬 群 よ り も平 均 値 が 大 で あ った が,有 意 差 は 認 め な か った.こ れ は例 数 が 少 な か っ た 点 お よ び対 象 牛 の ほ とん どが 罹 患 して い た 小型 ピ ロプ ラズ マ病 の病 勢 の個 体 差 が 著 しか った 点 に 原 因 が あ 表2増 体 量(83-B) 注)計 測 値 は 平 均 値(標 準 偏 差)で 表 示 した 表3増 体 量(84-C) 注)計 測 値 は平 均 値(標 準 偏 差)で 表 示 した ―232―

石 川 静 馬 伊 藤 豪 彦 上 村 梅 治,ほ か る と推 測 さ れ た. 以上 よ り,当 地 に お け る放 牧 牛 の 消化 管 内線 虫,牛 肺 虫 の 感 染 ・寄 生 は 一 般 に 軽 度 で あ る こ とが 判 明 し,放 牧 牛 に 対す る駆 虫 の 有 意 な 効 果 は認 め な か っ た.し か し, 増 体 量 に つ い て は わず か とは い え,駆 虫 に よ る改善 傾 向 が み られ,Subclinical infectionで あ って も駆 虫 が経 済 的 効 果 を もた らす 可 能 性 が示 唆 され た. お わ りに,ご 校 閲 を い た だ い た 宮 崎 大 学 農 学 部 の 薄 井 萬 平 教 授 に 謝 意 を 表 します.

文

献

1) BAIRDEN, K., PARKINS, J. J., ARMOUR, J.: Vet. Rec., 105, 33•`35 (1979).

2) BLISS, D. H., JONES, R. M., CONDER, D. R.: Vet. Rec., 110, 141•`143 (1982). 3) FRoYD, G., COOPER, K. J. P.: 動 物 用 リペ ル コ ー ル20牛 用 文 献 集, 第1集, 60∼65, 武 田 薬 品. 4) 板 垣 博, 大 石 勇: 新 版 家 畜 寄 生 虫 病 学, 123 ∼127, 朝 倉 書 店<sub>, 東 京 (1984).</sub> 5) 伊 東 季 春, 籠 田 勝 基, 平 沢 一 志: 日獣 会 誌, 27, 106∼111 (1974). 6) 伊 東 季 春: 日 獣 会 誌, 33, 424∼429 (1980). 7) 岩 崎 邦 男, 原 文 男, 上 野 八 朗, ほ か: 日獣 会 誌, 18, 34•`36 (1965).

8) LEAVER, J. D.: J. Agric. Sci., 75, 265 (1970). 9) MCBEATH, D. G., DEAN, S. P., PRESTON, N. K.:

Vet. Rec., 105, 507•`509 (1979.

10) MICHEL, J. E.: Fourth Editional Meeting of the World Association of Buiatrics, Zurich, 272 (1966).

11) 難 波 功 一, 高 野 信 雄, 鈴 木 慎 二 郎: Bull. Nat.Ihst. Anirn. Hlth., 64, 40∼46 (1972). 12) 野 田 亮 二: 家 畜 寄 生 虫 病 診 療 学, 板 垣 四 郎 監 修, 376∼382, 文 永 堂, 東 京 (1974). 13) 佐 藤 彰, 黒 崎 尚 敏, 中 馬 亮 一, ほ か: 畜 産 の 研 究, 36, 1116∼1120 (1982). 14) 関 泰 宏: 獣 医 界, 119, 34∼40 (1981). 15) 竹 野 清 治, 鈴 木 和 明, 伊 藤 徳 蔵, ほ か: 日 獣 会 誌, 35 (学 会 特 集 号) 216∼217 (1982). 16) 上 野 計: 獣 医 臨 床 寄 生 虫 学, 獣 医 臨 床 寄 生 虫 学 編 集 委 員 会 編, 第1版, 176∼201, 文 永 堂, 東 京 (1979). 17) 渡 辺 昇 蔵: 農 林 省 家 畜 衛 生 試 験 場 年 報, 1965, 210 ∼212 (1967). 18) 渡 辺 昇 蔵: 獣 医 界, 99, 111∼119 (1971). 19) 渡 辺 昇 蔵: 家 畜 寄 生 虫 病 診 療 学, 板 垣 四 郎 監 修, 349∼352, 文 永 堂, 東 京 (1974).

若

齢

牛

の

大

脳

皮

質

壊

死

症

Cerebrocortical Necrosis in Young Cattle

SHIZUMA

IsHIKAWA

(Meat Inspectors' Office, City of Hamamatsu, Shizuoka 435) et al.

SUMMARY

Eight young cattle with neurologic signs were encountered at the Hamamatsu City Meat Center in these five years. In them, the cerebral cortex was affected with widespread lamellar necrosis, which involved the whole cortex in some cattle. The cytoplasm of neuronal cells was eosinophilic and shrunk with pyknotic nuclei. These changes were probably due to ischemia of the cerebral cortex. In the surrounding tissue, there were numerous phagocytic cells with foamy cytoplasm containing lipids to result in cystic areas. Necrosis of neuronal cells was present in the cerebral nuclei, thalamus, substantia nigra, corpora quadrigemina and vermis cerebelli, as well as in the cerebral cortex.

These necrotic changes of neuronal cells, the age of affected animals ranging from 5 to 12 months, and the sporadic occurrence suggested that the eight cases might be diagnosed as "cerebrocortical necrosis of cattle" or "polioencephalomalacia of cattle", although neither etiology nor patho-genesis was completely investigated.

*1)静 岡 県 浜 松 市 食 肉 衛 生 検 査所(静 岡 県 浜 松 市 上 西 町986) *2)麻 布 大 学 獣 医 学 部(神 奈 川 県 相 模 原 市 渕 野 辺1-17-71)