健常人の日常生活における消費エネルギー 量の解析(第1報)
渡邊令子・今泉優子・山田雅子
24 Hours‑Energy Expenditure of Usual Activity for
Some Normal Women (Part 1)
Reiko Watanabe, Yuko Imaizumi and Masako Yamada
緒 言
栄養学におけるエネルギー出納にかんする研究は,
古くて新しい課題である。現代の急速な社会構造の変 容によって,省力化に伴う労働強度の低下や労働量 の減少ならびに交通機関の発達に伴う身体活動量の 低下により,日常生活における総活動量は減少傾向に あると云えよう。このことは相対的に食物の過剰摂取 を招来する誘因ともなり,健康の保持・増進の立場か ら,近年,特にエネルギー消費量が注目されるように なった。ところで望ましい食物摂取のあり方という観 点から,これまでにもエネルギー−ff取墨icかんする研 究は,実態把握のもとに種々検討が試みられてきたが,
エネルギー消費量の実測にかんする知見は少ない。個 人に適切なエネルギー摂取量つまりエネルギー所要量 の算定の基礎となる数値がエネルギー消費量であるこ とは言うまでもない。
先に著者らはこのエネルギー出納の実態について健 康な女子学生を対象にして従来から試みられている生 活時間調査法(Time study method)により検索し てきたが1〕,より身体活動に密接した生理的な数値に 基づくエネルギー消費量測定の必要性を指摘した。そ こで,著者らは近年,橋本ら2)により開発された方法 すなわち心拍数を連続記録することにより1日め総エ ネルギー消費量を算出することのできる24hour heart
rate ratio(24 h−HRR)法に着目した。なお本法に ようて算出されたエネルギー消費盤予測値が、VO2/
HR法により測定した実測値と非常に相関が大である ことは,既に報告されている3)。
本研究で採用した24h−HRR法において、その基準 となる安静時心拍数の設定に難点が指摘されているが,
それらの点をふまえて,今回は従来から広く実施され ている生活時間調査法より求めたエネルギー消費量予 測値と24h−HRR法による成績とを比較検討しその関 連性にっいての基礎的な解析を試みた。以下それらの 結果について報告する。
対象と方法 1.対 象
著者ら3名を被験者とし,その身体的概要を表1に
示す。
2.実験期間
昭和62年10月から昭和63年1月。
3.実験方法
1)VO2/HR法による消費エネルギー蟹の実測 人間が日常もっとも容易に行っている動き(歩 行,走行)の作業尺度として,トレッドミルを用 いる運動負荷を行った。Running belt(竹井機 器工業猷,東京)を用いて,ベルトの速度を60m/min
表1.被験者の概要
年齢 身長 体重 肥満度* 皮下脂肪厚 エネルギー所要量**(kcal/tlay)
性
(才) (㎝) 伽) (%) (㎜) 生活活動指数 0.35 0.5 生活状況 A B C 女女女 27.0
R8.9 T4.1
154 P64 P54
48 T5 S9
一4,6
│2.3
│2.6
31.5 R7.2 Q3.5
1,670 1、856 P,815 2,017 P,536 1、707
両親と同居 ニ事・小学生 ニ 事
*箕輪新法による成人の標準休重表忙基づいて算出した{直.
,IPtt (1糊v,gas代謝麟1・ ρを川い, A−・+B輪1はりe・; lliし燃.
一15一
県立新潟女子短期大学研究紀要 第25集 1988
から100m/minまで20m/min間隔で3分悶ずつ,
100m/minから120m/minまでは10rn〆min間 隔で2分瑚ずっ,合計12分間段階的に負荷を与え るように条件設定した。安静時測定条件は,食後 2〜3時間後,摘座位状態で15〜30分間とした。呼 気分析すなわち酸素摂取蹴(VO2 )の測定はRe−
spiromonitor RM−300, Medic且】Gas Ana−
lyzer MG 360(ミナト医科学KK,大阪)を用い,
プリンター一 ML 192(沖電気IC.tc)で記録させた。心 抽数の同時測定はハートメモリー2E26(三栄測器 XX)によって行った。各被験者毎にVO2から1分 間毎の消費エネルギー緻を求め,運動負荷による 心拍数の変化と消費エネルギー量の変化をもとに 囲帰直線を求めた。1日のエネルギー一一消費鴛の推 定は,この回帰直線ならびに24時間連続記録した 心拍数書こより算出した。
2)24h−HRR法によるエネルギー消費量予測値の 測定
携帯式心拍記録装霞(Memory Mac⑩, Vine 社,東京)を用いて被験者の1日の心拍数を1分 毎に連続記録して,これを解読装置(Mac−Reader
−232,Vine社,東京)によってコンピュータ (PC・一 9800シリーズ, NEC,東京)に入力させ た。この入力データ(図1)を基にエネルギー消
費最予測値を第出した。なお,このプログラ ムにおいて碁準値となる安静時心拍数については 前述したごとく,年齢,性,姿勢,環境条件その 他種々の要因によって影響を受けるため,その設 定は難しい。そこで本実験においては実験学的 に安静時心拍数を問題にしなければならないので,
著者らが設定した次の値①〜③を安静時心拍数と 仮定して採用した。
①24時間の心拍数のトレンドグラフ(図1)よ り,睡眠時を除いて心拍数が最小である時間帯 約30分間の平均心拍数。
②睡眠時の平均心拍数をO.9で除した値。
③24時間心拍数の最小心拍数x1.48(係数1.48 は橋本ら4)により大阪府下の主婦を対象にした 実験から求狛られた数値)。
3)生活時間調査法に基づくエネルギー消費量の算 定
既報1)で用いた生活時閻調査の行動の種類にっ いて,その項目と内容の一部を改変し,各被験者 の1日の行動記録をもとに既報1)に準じて1日の 総エネルギー消費量を推定した。なお,身体的活 動によるエネルギー消費量の年齢係数は第三次改 訂日本人の栄養所要量5)に従って,被験者A:1.O,
B:O.95,C:0.9を用いた。
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Time〔min)
図1.Daily Trend Graph of目田rt Rate
健常人の日常生活における消費エネルギー量の解析(第1報)
結果および考察
1.心拍数とエネルギー消費量実測値との関係 酸索摂取鍛(寸02)と心拍数との関係は、人種や鍛 練度によって異なるが,両者の間にはほぼ正比例の関 係があることは既知の事実fi}であり、すなわちVO2は,
生体のエネルギー消費量を表すことになる。
そこで,先ず3名の被験者について・1分間当りのVO2
(!iter/min)から消費エネルギー量(kcal/min)
を算出して心拍数との相関を確認した。その結果図 2に示すような2本の回帰直線が得られた。aは安静 時の心拍数と消費エネルギー一量との関係,bは身体活 動時のそれを示したものである。身体活動時において はいずれの被験者ともr・=O.993〜O. 996と非常に高い 相関(P<O,OO1)を示したが,安静時はバラツキが大
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Heart Rate(beats/rn【n}
図2,心拍数とヱネルギー消費量実測値との関係
であったeなお,被験者3名のVO2から求めたエネル ギー消費量実測値と心柏数から得られた回帰直線
は,安静時Y == O. eo66 X+0.?446,身体活動時Y=
O. 0684 X−4. 8420(r ・= O. 960)となった。前述したご
とく安静時心拍数は種々な因子によって変化する数値 で,同一被験者においても幅があること,それと同時1 に安静時のウ02も測定時の条件によって変動する数値
(同一心拍数でも約1 50 一一300 liter/min)であること が再確認された。そこで,安静時におけるVO2と心拍数 との関係については今後更に例数を増して,より信頼 度の高い成績を得るために検討を重ねてゆく予定であ る。ちなみに橋本ら2)により示された回帰直線は,
安Pmee y= O.0181X−一 O.2029,身体活動時Y=⑪.1075X
−7.0402である。
2.VO2/HR法によるエネルギー一肖費量推定値と24h −HRR法によるエネルギー消費量予測値との関係 心拍数とエネルギー消費量実測値との関係から各被 験者毎に得られた回帰直線を用いて,24時間連続 記録したそれぞれの総心拍数の頻度分布から,1日の 総エネルギー消費量(VO2/HR法)を推定した。こ の推定値は酸素量1e=4.8kcalとして算出した値で ある。この推定値と著者らが安静時心拍数として設定 した値を採用して求めた24h−HRR法によるエネルギ ー量予測値①〜③との関係を図3に示した。また24h
−HRR法によるエネルギー消費鍛予測値を表2に総
括した。
図3に示した関係より,VO2/HR法による推定値 2,000kcal/dayの場合,24h−HRR法による予測値 を試算すると,③1,965keaレday,②1、 982kcal/day,
③1,545kcal/dayとなる。両法によって得られた数値
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県立新潟女子短期大学研究紀要 第25葉 1988
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健常人の日常生活における消費エネルギー董の解析(第i報)
の一致という観点からみると,①が最良であるが,相 関係数は①O. 481,②O. 641,③0.715であった。すな わち①安薄時15・一 30分間の平均心拍数の場合が最小で あった。一一方③最小心拍数に1,48を乗じた数値を採用 した場合はt相関は大であるが24h−HRR法による値 が25彩程低値となる。安静時心拍数は同一被験者にお いても変動が大であるうえ,24時間のトレンドグラフ
(図1)上より約30分間という一定の安静時心拍数と みなす時間帯を選択するところにも問題があろう。そ れicttべてトレンドグラフ上より睡眠時を選択するこ とは容易であり,②は15例でも正相関(P<O.05)で、
その有意性が認められた。設定値②,すなわち睡眠時 心拍数÷0.9は,睡眠時のエネルギー代謝が基礎代謝 の90%であることを根拠にして採用した数値である。
以上の結果から,24h−HRR法の演算プログラムに おいて基準値として一応設定することのできる数値② の有用性が示唆され,今後更に検討を進める意義を,
本実験によって見出すことができた。
3.24h−HRR法および生活時間調査法によるエネル ギー消費量予測値の関係
24 h−HRR法の基礎的データとなる24時間の心拍数 のプロフィールは,表2に示すごとくである。総心拍数 は年齢に応じて減少し,平均心拍数もA:87.6±3,0
beats/min, B:83.0±2. 3beats/minおよびC:
73.9±3.Obeats/minと徐々に低値になる傾向が見 られた。被験者の1日の総心拍数の頻度分布を図4に 示した。測定日によって各被験者ともパターンにかな り相違が認められるが,平均心拍数の差は非常に小さ い。日常活動における心拍数の変動範囲は,その大部 分が70〜玉OO beats/minに包括され,120 beats/
min以上はスポーツ等の運動負荷がかかった場合と いえよう。この結果は一一級建築土(女性)のオフィス・
ワークにおける心拍数の変動範囲が70〜100beats/
minで,その大部分が80 一一 100 beats/minであった という報告と一致する7〕。
この心拍数に基づいて,24h−HRR法により求めた エネルギー消費遍予測値は,①と②は個人差があると はいえ平均値をみてみると,特に被験者Bは①2、222
±73,②2,274±86,Cは①2,045±166 ,②2,015±
146と近似値を示し,それに比べ③はいずれの被験者 においても約20・−25%低値となった。
先の実験結果から②を設定値として用いることの意 義が示唆されたので,次に②によって得られた24h−
HRR法によるエネルギー消費量予測値と生活時間調 査法によるそれとの関係を検討した。両者の関係は図
5に示すとおりである。
回帰直線 Y 一 O. 8732X+O.7919(r=O. 735)が 得られ,P<O. 01で有意な正相関が認められた。この 生活時間調査法においてエネルギー消費量算定の基礎 となる生活時間調査成績は表3に示すとおりである。
図5に示した回帰式によって試算してみると,24 h−
HRR法によるエネルギー消費盤予測値が2,000kcal/
dayの場合,生活時間調査法の値は1, 747 kcal/day となり約13%低値であった。このことは当然予測でき る事実である。っまり心拍数の記録においてはある身 体活動が終了後,徐々に安静状態に回復してゆく過程 を把握することができるが,生活時間調査法で得られ る値はその活動時間のみを限定してR.M.R,を用いて 算出されることに起因するからであろう。
更に生活時間調査法によるエネルギー消費皿予測値 とVO2/HR法によるエネルギー消費量推定値との関 係を検討した結果,有意な正相関 r=O. 682,P〈
0.01)が認められた。
これらの結果より,従来から広く適用されている生 活時間調査法は,生理的数値から得られたエネルギー 消費盤よりも約10%程度低値となることが確認され,
この事実をふまえて採用すれば,充分信頼に足る方法 であることが裏付けられた。
本実験では被験者が実験目的をよく把握していたた め,わずか15例という実験回数であったが,上記のよ うな結果が得られたものと推察される。
今後,対象を拡げて検討を重ね,24h−HRR法におけ る設定値として,睡眠時心拍数÷O.9という数値が有 用であるか否かの再確認と一般的に適用しやすい消費 エネルギー斌の検索方法である生活時間調査法の信頼 性をより確かなものとするため,本研究を発展させて ゆきたいと考えている。
要 約
24h−HRR法を用いて測定した生理的な数値により エネルギー消費量予測値を求め,この予測値と生活時 間調査法によるエネルギー消費撮予測値との関連にっ いて,その基礎的データを得ることを目的として本実験 を行った。昭和62年10月から昭和63年1月にかけて・
著者ら3名を被験者として検討し,以下の結果を得た。
1)VO2と心拍数との関係は,身体活動時にはほぼ 正比例の関係(r=O.996,P〈0,00Dが得られ たが,安静時では測定時の種々な条件によって値 が容易に変動することが再確認された。
2)24h−HRR法において,基準となる安静時心拍 一19一
県立新潟女子短期大学研究紀要 第25集 1988
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B
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各魍中央部におる線は100 beats/minの位置を示す。
150 50 109 150 50
Heart Rate(beats/min)
図4.1日の総心拍数の頻度分布
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健常人の日常生活における消費エネルギー量の解析(第1報)
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En已rgy Expenditure Predicted by 24h−HRR Method②(k。a聖/d且y)
図5.24 h−H R R法と生活時間調査法によるエネ ルギー消費量予測値との関係
表3.生活時聞調査成績
被
験 者
行動の種類* A B C
1.睡 眠 502±5B 442土53 456±49㈱
2,身のまわりの用事
i身仕度,洗面・他) 47±13 4B± 5 43±n
3.食 事 71土23 78±16 91土4
4.移 動
齢羅讐袖) 188±65 82士41 105±31
a 作 業
繕善懲㌔冠) 275土65 387±40 418±65 巳 家 事
(禰.懸洗濯・) 43±16 242±17 112士35
7, ス司{一ツ 14±15 7±13 0
a 趣味,娯楽 43±39 0 o
a テレビ,読書 123±64 54±35 82士47 10.休撞(談話・仙) 132土40 101土14 131±7
*RMRは沼尻らs)の値を用いた.
数の設定に難点が指摘されているが,VOz/HR 法によるエネルギー消費量推定値との関係から,
設定植として睡眠時心拍数÷O.9という数値の有 用性が示唆された。
3)生活時間調査法によるエネルギー消費量予測値 は,睡眠時心拍数÷0,9という数値を採用した24h −HRR法による予測値およびVO2/HR法による 推定値との間にいずれも正相関(P〈O.01)が認 められた。生活時間調査法によるエネルギー消費 量予測値は,生理的数値から得られたエネルギー 消費最予測値よりも約IO%程度低値となるが,充 分信頼できることが裏付けられた。
終りに臨み,2軌一HRR法、エネルギー代謝に関し て,種々御教示を賜りました国立栄養研究所 橋本勲 先生に厚く御礼申し上げます。また,VO2測定の機会 をお与え下さり,麺々御助言をいただきました新潟大 学教育学部 杉本英夫先生,ならびに御協力いただき ましたミナト医科学巡の梨本忠行氏に深謝いたします。
文 献
1)渡邊令子・他1県立新潟女子短期紀要,24t 45
(1987).
2)LHashimeto et aL, Prevention of cardio−
vascular diseases:an approach to active long Iife, edited by Y. Yameri and C.1」enfant, El−
sevier, Stockholm, 151 (1987).
3)坂本孝作・他:日本外科学会雑誌,88,4(1987).
4)橋本勲・他;第80回日本体力医学会関東地方会
(1987).
5)厚生省保健医療局健康増進栄養課:第三次改訂日 本人の栄養所要量,第一出版、東京(1984).
6)山地啓司:運動処方のための心拍数の科学,大修 館書店,東京(1981).
7)加賀谷淳子:体育の科学,30,112(1980).
8)沼尻幸吉:活動のエネルギー代謝,労働科学研究
所, 東京 (1981).
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