一 は じ め に 二
仲 裁 人 と 仲 裁 鑑 定 人 三
プ ロ イ セ ン 最 上 級 裁 判 所
( 以 上
、 二 八 巻 一 号 一 頁
) 四
ラ イ ヒ 高 等 商 事 裁 判 所
( 以 上
、 二 八 巻 二 号 九 一 五 頁
) 五
ラ イ ヒ 裁 判 所
( 以 上
、 三 六 巻 二 号 一 頁
) 六
自 由 仲 裁
( 以 上
、 三 七 巻 一 号 四 八
〇 頁
) 七
ま と め
( 以 上
、 本 号
)
七 ま
と
め 一 ヴィ ンタ ー説 が 引用 する プロ イセ ン最 上 級裁 判所
、ラ イヒ 高等 商 事裁 判所
、ラ イヒ 裁判 所 のそ れぞ れ 仲裁 鑑定 人(
ar -
b itr at o r
)に 関す る判 例お よび ヴィ ンタ ー説 を手 掛か りに して
、ド イツ 法に おけ る仲 裁鑑 定と いう 法 現象 の形 成な いし 発展 の過 程を 考察 した
。取 り上 げる こと ので きた 判例 は、 一九 世紀 後半 の約 二〇 件程 度の 事件 にと どま って いる
。冒 頭で も述 べた よ うに
( ただ し、 随分 と以 前 のこ と で恐 縮で は ある が)
、 本 稿執 筆 の動 機は ヴ ィン タ ー説 のい う ドイ ツ仲 裁 鑑定 法の
(
)
ド イ ツ 仲 裁 鑑 定 法 の 形 成 ( 五 ・ 完 )
豊 田 博
昭
四 四
〇 四 四
〇
形 成や その 展開 とと もに
、そ の背 景事 情に つい て論 じた ドイ ツ文 献も さほ どな
関心 をも った こと によ るも ので あっ た。 た だし
、筆 者の 知り うる 限り
、ド イツ 法の 学説 にお いて ヴィ ンタ ー説 に対 する 注目 度は あま り高 くは なか った よう にみ え る
。ま た筆 者自 身も
、 同説 が議 論の 前提 にお くロ ーマ 法以 来の 法制 史や 仲裁 人(
ar b ite r
)と 仲裁 鑑定 人(
ar b itr at o r
)に 関 す るヨ ー ロッ パ諸 国 それ ぞれ の議 論に 関 する 基本 的な 知見 に つい て
、と うと う不 勉強 に終 わり
、各 判 例の 判旨 の理 解や ヴ ィ ン ター 説の 個別 的な 議論 の正 確な 把握 につ いて はき わめ て難 渋せ ざる をえ なか った
。思 えば
、本 稿の 執筆 開始 は本 学の 法 科 大学 院の 開校 を祝 賀す る時 期で あり
、そ れか ら一
〇年 間は 実務 家の 先生 方に 教え られ て自 分自 身が 授業 準備 と授 業に 没 頭 しな けれ ばな らな い日 々で あっ た。 長期 間に わた る本 稿の 執筆
・研 究の 期間 にも かか わら ず、 内容 的に はは なは だ浅 簿 な 考察 にと どま って いる こと を残 念に かつ 悔し く思 う。 後述 する よう に、 ドイ ツ法 でも 仲裁 鑑定 法へ の理 論的 な関 心は 高 く ない とい われ てい るが
、そ れ以 上に わが 国で もこ のテ ーマ への 関心 はき わめ て低 調で あ
本 稿の 考察 が、 この テー マ に 関す るわ が国 の研 究に 少し でも 寄与 でき れば 幸い であ る。 二 検討 した 判例 は一 九世 紀後 半の 時期 の判 例で ある が、 この 当時
、仲 裁鑑 定人 がど のよ うに 解さ れ、 仲裁 鑑定 がど の よ うに 位置 づけ られ てき たか
、最 後に 改め て本 研究 を振 り返 って 概観 して みる こと にす る。
⑴ プ ロ イ セ ン 最 上 級 裁 判 所
(
P re u ß is c h e s Ob e rT ri b u n a l
) の 判 例 は 四 件 と り あ げ た が
、 同 裁 判 所 は
、 仲 裁 鑑 定 人
(
ar b itr at o r
) は仲 裁人
(
ar b ite r
) とそ の任 務な いし 機能 の点 で異 なっ た法 現象 とみ てい る。
(
ⅰ) 同 裁判 所は
、仲 裁 人(
ar b ite r
)は 法的 紛争 を判 断す るの に対 して
、仲 裁鑑 定人
(
ar b itr at o r
) は未 確定 の契 約部 分 を 確定 する とみ てい る。 委任 契約 の報 酬額 につ き道 路建 築監 督官 が確 定な いし 評価 する 旨の 合意
、そ れに 加え て、 建築 主 と 建築 請負 人の 双務 的な 要求 に関 する 疑問 事項 につ いて 判断 し、 当事 者が それ に満 足す る旨 の合 意(
【 1】 四四 年判 決)
、
( 1
く)
、
( 2
る)
。
─ ─
<
論 説>
修 道 法 学 三 八 巻 一 号
(
)
─ ─2
四 三 九 四 三 九
ま た、 市の 復興 事業 に伴 うパ ン屋 の営 業上 の損 害に つき
、パ ン屋 マイ スタ ーに よる 補償 額の 査定 合意
(【 2
】五 四年 判決
) に つい て、 同裁 判所 は
、仲 裁人 によ る法 的 紛争 の判 断と みな いで
、仲 裁鑑 定人 の評 価(
【1
】四 四年 判決
)な いし 査定
(【 2】 五 四年 判決
)と 解し た。 合意 の効 果は
、当 事者 が右 認定 を自 ら行 い、 その 結論 に従 って すで に契 約を 締結 した かの よう に 承 認す る
(【 1
】 四四 年 判決
)、 また
、 査定 人に よ る契 約の 確定 を、 当事 者の 契約 の重 要 部分 と同 様に 扱う
(【 2】 五四 年 判 決) こと であ る。 この よう な両 者の 区別 は、 当該 第三 者の 判断 に適 用す べき 法律 は何 かと いう 問題 と関 連づ けら れる
。プ ロイ セン 法に お いて
、仲 裁人 に対 して はプ ロイ セン 一般 裁判 所法 第一 編第 二章 一六 七 条以 下の 規定 が適 用さ れる が
、仲 裁鑑 定人
(
ar b itr at o r
) は プロ イセ ン 一般 ラン ト 法第 一編 第 五章 七二 条
・七 三 条お よ び第 一 一章 四八 条 以下 が適 用 され る(
【 1】 四 四年 判 決、
【2
】 五 四 年判 決)
。 こ れら の 規定 によ る と、 仲 裁鑑 定 人は
、 未確 定 で引 き受 け られ た債 務 につ き、 よ り 詳細 な確 定 を行 うの で ある
( プロ イ セン 一般 ラ ント 法第 一 編第 五章 七二 条
・ 七三 条)
。 そ して
、 明 文で 具体 的 に規 定さ れ た売 買価 格 の第 三者 に よ る 確 定
(同 法 第 一一 章 四 八条 以 下) は、 ロ ー マ法 源 に その 起 源 をも っ て いる
。 し たが っ て、 右合 意 内 容を 仲 裁 鑑定 人
(
ar b itr at o r
) によ る判 断
( 確定
、 査定
) と 解釈 した 場合
、 仲裁 人の 判 断で あれ ばそ れを 無効 とす る事 由
( プロ イセ ン一 般 裁 判所 法第 一編 第二 章一 七二 条) は仲 裁鑑 定人 の判 断に は適 用さ れず
、上 述し た合 意の 効果 のよ うに 扱わ れる
。し たが っ て
、右 判断 は当 事者 に対 して 拘束 力を もっ て認 定さ れる もの とみ なさ れる
(【 1】 四四 年判 決)
。 なお
、 後 掲ヴ ィン ター 説 が指 摘す るよ うに
、【 1】 四四 年判 決の 事 件は
「 二つ の 合意
」 が含 まれ て おり
、 後者 の 合意 は 法 的紛 争、 した がっ て仲 裁人 の判 断と 解す る余 地が あっ たよ うに も思 われ る。 また
、両 事件 の合 意を 売買 価格 の確 定ケ ー ス と同 様に 契約 の「 補充
」な いし
「 成立
」( プロ イ セン 一般 ラン ト 法第 一編 第一 一 章四 八条 以下
)と みる こと がで き るか は、 ド イ ツ 仲 裁 鑑 定 法 の 形 成
( 五
・ 完
)( 豊 田
)
(
) 四 三 八 四 三 八
疑 問が 残
む しろ ワイ ズマ ン説 やゴ ール ドシ ュミ ット 説が 指摘 する よう
右合 意に 基づ く仲 裁鑑 定人 の判 断は
、契 約 の
「履 行」 ない し「 実現
」の ため に行 われ ると 解し た方 がそ の実 態に 即し てい るよ うに 思わ れる
。
(
ⅱ) そ の少 し後
、同 裁判 所は
【3
】五 七年 判決 で、 ヴェ スト ファ ーレ ン鉄 道管 理局 の請 負契 約約 款に 定め られ た、 技 術 者に よる 建築 請負 工事 の適 時の 完成 可能 性の 判断 につ いて
、契 約当 事者 間の 双務 的な 権利 義務 に関 する 裁判 官の 将来 の 判 断の ため の基 礎資 料に なる
、と して いる
。そ して 当該 第三 者の 判断 は条 件の 発生 であ ると する
。請 負約 款の 合意 は、 裁 判 官や 仲裁 人の 判断 のよ うに 法的 紛争 を判 断す るも ので はな いと して いる 点で は、 先例 と同 旨と 解さ れる
。 と ころ で、 筆 者 は右 判旨 にい う 裁判 官の 判断 の
「 基礎 資料
」 を 先に 証拠 資 料と 解し た が
(修 道二 八 巻一 号二 四頁
)、 現 在 は、 キッ シュ 説な ど当 時の 実体 法説 と同 様に
、こ れは 実体 法的 に理 解す べき であ り、 請求 権の 要件 事実 にな ると いう 趣 旨 に読 むべ きで はな いか と考 える にい たっ た。 この よう に解 する こと で、 右基 礎資 料を 権利 発生 の条 件で ある と判 示す る、 そ の後 の判 旨部 分 とも 一貫 す るよ うに 思わ れ る。 証 拠契 約 とい う理 解で は
、条 件 説の 考 え方
、ま た先 例(
【 1】 四 四年 判 決、
【2
】 五四 年 判決
) と同 様 に、 ロ ー マ法 源お よ びプ ロイ セ ン一 般ラ ン ト法 の 規定 を引 用 して いる 点 と合 致し な いの では な いか と考 える
。先 の理 解を ここ に訂 正さ せて 頂く
。 な お、 条 件 説は 特に キ ッシ ュ説 に 詳し いが
(修 道三 六 巻二 号九 八 一頁 以下
)、 学説 史 的に は その 後の 批 判説 の台 頭 とと も
む しろ 少数 説に 位置 する こと にな った
。少 し後 の時 代の 学説 では ある が、 仲裁 鑑定 条項 を争 いあ る事 実に 対す る証 拠契 約と みる カー ン
批 判を みる
第一 に、 仲裁 鑑定 を将 来の 不確 実な 事実 とみ るに して も、 それ は当 事者 にの み不 確実 な事 実で あっ て、 専門 家に は当 ては まら ない
、つ まり 主観 的な 不確 実で あり
、本 来 の「 条件
」で 考え られ てい る客 観 的 な不 確実 とは いえ ない
。第 二に
、仲 裁鑑 定の 存在 をも って 初め て契 約ま たは 請求 権が 有効 にな ると する と、 それ は停 止
( 3
る)
。
( 4
に)
、
( 5
に)
、
( 6
説)
の
( 7
と)
、
─ ─
<
論 説>
修 道 法 学 三 八 巻 一 号
(
)
─ ─4
四 三 七 四 三 七
条 件と 解さ れる
。そ うし た実 体法 上の 要件 と解 した 場合
、仲 裁鑑 定が ない と請 求権 が存 在し ない との 帰結 にな る。 しか し、 そ れは 認め られ ない
。仲 裁鑑 定人 の判 断で 初め て請 求権 が発 生す る場 合に のみ
、請 求権 の要 件と いえ るが
、仲 裁鑑 定人 の 判 断は 損害 賠償 請求 権を 形成 する もの では なく
、単 に確 定す るの であ る。 仲裁 鑑定 は請 求権 の確 認方 法の ため の前 提条 件 に すぎ ず、 請求 権自 体の それ では ない
。仮 に請 求権 の条 件で ある なら
、要 件事 実の 要素 とみ なけ れば なら ない が、 そう で は ない
。要 件事 実は それ にか かわ りな く存 在し てい る。 しか し条 件説 によ ると
、仲 裁鑑 定が なさ れな いと きは
、請 求権 が 存 在し ない 結果 とな る( 民法 一五 八条
)、 と す
(
ⅲ) 同 裁判 所の
【4
】七
〇年 判決 は、 レン ガ圧 縮機 の売 買契 約に おい て、 いか なる 裁判 手続 も排 除し て、 給付 の目 的 物 の契 約適 合 性に つい て 第三 者が 判 断す る旨 の 合意 に つい て、 原審 が仲 裁規 定( 一般 裁 判所 法第 一 編第 二章 一 六九 条以 下
) を 適用 した のに 対し
、先 例(
【 2】 五四 年判 決、
【3
】五 七年 判決
)違 反を 指摘 して
、法 的紛 争で はな く、 それ を条 件づ け る 争点 につ いて の終 局的 判断 であ ると して いる
。右 判決 は同 裁判 所の 活動 期間 の最 後の 時期 に当 たる 判例 であ るが
、判 旨 は
、先 例を 引用 した こと で前 掲プ ロイ セン 最上 級裁 判所 の判 別基 準に 従っ てい るも のと 解せ よう
。し かし なが ら、 本件 仲 裁 鑑定 は売 買契 約の 履行 上の 問題 をそ の対 象と した もの とみ れば
、そ れは 法的 紛争 を対 象に した もの と解 する こと もで き る よう に思 われ る。
(
ⅳ) ヴ ィン ター 説は
、プ ロイ セン 最 上級 裁判 所 の判 例 法理 をつ ぎ のよ う に指 摘し て いる
。【 1
】四 四 年判 決 を検 討 して
、 そこ では 仲裁 鑑定 人 の認 定の 拘束 力に つい てま った く 疑い が示 され ず
、そ の判 断に 対す る不 服 申立 ては まっ たく 議論 にな っ てい ない こと に注 目す べき であ ると する
。む しろ
、当 事 者は 第三 者(
ar b itr at o r
)の 善 き人 の裁 断(
ar b itr iu mb o n i vir i
)に 無 条件 で従 うこ とが 強調 され
、こ れは その 後の 判例 でも 特徴 的な 点と なる
。最 上級 裁判 所は
、仲 裁人 に対 し、 仲裁 鑑定 人
( 8
る)
。 ド
イ ツ 仲 裁 鑑 定 法 の 形 成
( 五
・ 完
)( 豊 田
)
(
) 四 三 六 四 三 六