日本管 理 会計 学 会誌
管 理会計 学 2013 年 第21巻 第 1号
崘 壇
管理会計にお ける実験研究の 位置付け を巡っ て
田口 聡 志
〈論壇 要旨〉
本稿で は、 管理会 計に おける実験研究の方 法論的 な意義を整理する と共に、管理会計 研究 をよ り豊胴 こして
い くた めに実験 が担っていくべ き役 割につ いて検 討を行 う.実 験研 究は、(1)dataのハ ン ドリングが容易、(2)事 前検証が可能 (意図せざる帰結の発 見が可能)、 内的妥当性が高い とい う優位性を持っ。 ま た、 実験研究
には、2つ のタイ ブ があ る (複 数 人間の意 思決 定 を取 り扱いメ カニ ズム の検証が得 意な経 済実験と、個人 単体
の意思決 定 を取り扱い ヒトの心理 ノもfアスの検証が得意な・ma 実験).管理会計で は、主にマ ネジ メン ト・コ
ントロール の領 域で実験が用い られ、ま た、特に b理実験のウェ イ トが高い 今後は、る理 実験と経 済実験と
の融合を図り、また、他の研究 手法と良好なコ ラボレーシ
ョンを 図っ てい く こ とが 望まれる.
〈キーワード〉
心理 実 験、経済 実験、内 的妥 当性、外的 妥 当性、3Wtrw 渡 分 析
A StUdy on an Experimerrta1 Research in Manageria1 Accourrtilg Sati )shi Taguchi
Abstrac重
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Key Words
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2012年 12月15日 受理 Accepted 15 Deeember 2012
Faculty Commerce ,DoshishaUniversity
管 理 会 計学 第21巻 第1号
1. は じめに
本稿1よ (1)管理会計にお け る実験研究の方法論的な意義を整理すると共に, 管理 会計研 究 を よ り豊 か に1してい くため に実験 が担っn ・くべ き役割について検討を行 うことを目的 とするものであ る2.結 論的に言 えば につ いて, 実験研究ぽ 他の方 法論と比ぺて, Q dataのハ ン ドリン グが容 易, ω 事 前検証が可能
(意 図せざ る帰結の発 見が可能 ), (el内的 妥 当性 が 高い,という優 位性 を持つ 点に大 きな意 義がある.また,
につ いてぽ 他の研究手 法と良好なコ ラボレーショ ンを図っ てい くと ともに, 経済実験と心 理実験とを融 合した研 究 (行動 データ と心理データを同時採 取 し仮説 を検証 してい くタイプ の研 究)を展開していくことが 望 まれる.
まず第 2節で賎 実験研究の意 義につ い て, 他の研 究手 法 との比較に よ り明ら掴 こする.それ を承 けるか た ち で,第3節では 管理会 計にお け る先 行研 究の整理 を行 う.そこ では 主にマ ネジメント・コ ン トロール の 領城で実験が用い ら札 ま た, 特に 心理実験に多くの研 究が集 中して いることが示 され る.その上 で, 第4節
では 管理会計 実験の発展可能 性につ い て検討する.具体的には 大き く2つ の方向性が 示され る.最後に第
5節で は本稿の纏めを行 う。
2.実験研 究の定義 ・意義
2.1.実験の定義
実 験 とは 他の条件は一定に して,あ る1つ の独立変数 だ けを実験操 作によっ て変 化 させ,従 属変数の変化
が仮 説どお りに起こるか どうかを調べ るための手法 をい う (清水 ・河野編 2008,99)3.
現缶 社会科学全体において実験 研究 が大 き く注目されてお り, 経済学, 政治学, 心 理学,社会学,果ては 神軽 科学,生物 学とい っ た領域も巻き込ん だ 「総 力戦亅 で, 人間 心理 と経 済 社会 との関係 を解明し よ う とい う 大 きな潮 流が ある唖 こ のように,社 会科学全体において実験研究が 注 目されてい る背 景の 1つ に1よ いわゆ る制度の 失敗の問 題が考えられるかもしれない すな わ ち, 特 に近 年, 既存の経 済・金融制度におい て,これ まで の経 済理 論で は予期できなかっ た様々な 「失 敗亅 が起こっ て い る.その中で,伝 統 的な経 済理論が前提と
1 「豊掴 こ」の具体的な意味 と して}亀 研 究の深仏 説明力の向上, 現実世界へ の提言 (実務へ の役立ち) と
い っ たい わば 「表の意 肉 もあるが, 本稿で概 こ のほ 力斗こ 「『部 外者 (門外濁 』から見て魅 力的」とでもい うべ き 「裏の意 味亅も考 えて み たい.すな わち, 現在の実 験社 会科 学研 究の現状は 聡 力鯛 であることか ら
(上技 ・田口 2012), その ような 中で, 管理会 計以外を メ インとす る実験 研究 者 (財務 会計・監査 論研究 者
,
経営 学者,経 済 学 者, 社会学者, 心 理学 者等)にも 「魅 力的 な研 究 領城である」「参入 したい」 と思わ せ る よ うな 「何か亅を管理会 計が持った めに はどうした らよいか という点 (非管理会 計・実験 研究 者の管理 会計研 究
へ の参入), お よび,遡9 他の方法論を採る多くの管理 会計 研究者 に,実 験研 究 に参 入 しても ら うに はど う
したらよいか とい う点 (非 実験 ・管理 会 計研究 者の実験研究への参入)も考えてみ ることにす る.
2 こ のよ うな問題意識で検討がな され るた め,本稿は 管理 会計における実験研究を網 羅齣 ・包括的にサーベ
イする こ と をそ もそ も企 図 していない点にば くれぐれも留意されたい
3 なお,本 稿では 筆者の問題 意識・関心から,計 算機 菊険は当面検討の対象外とする (いわゆる被 験者 実験
のみ を検 討対象とする).
4 本 節の記 述la, 主に上枝 ・田 口 (20121,お よび, 田口 (201幻な どに依拠して いる. 5 た と えば 我が国にお け るその一端 として
は 文 部科学 省科 学研究嚢補助金 (特定 領憾襯 「実 験 社会科 学 ・・実験が
切り開 く21世 紀の社 会科学 一
」 (平成 19・24年度, 研 究代 表者 :西條辰義 教授 (大 阪 大学))な どが挙 げ られ る.
管理 会 計 に お け る 実 験 研 究の位 置付 け を巡って
してきた人間 観 (合理的経 済人)に対して大 き な疑 問が提 起 されてお り, 人間の限定合理 性ない し非合理 性 を も取り込ん だ新しい 人間観の もとでの社会科 学研究がい ま大きな注目 を集め て い る の である (Kalmernan
and Tve匸d甲 1979, Ca 2003) .
そ して,こ のような潮流の中で,実験 は極め て有効 な手 段となる.すなわ ち, 上記のよ うな問題意識からす
る と,実際の人間a.垳 動 データや心 理データを集積しそれ を分析することが必要となるが
, その ようなデータ
の集 積 や分析は, ま さに実験 研究 が得意 とするところである.こ のよ うに,実験研 究 ば 社会 科学にお け る人 間観のあ り方の再検 討 と関 連して大 きな注 目を浴びて いる といえ よう6.
2.2.社会科学にお ける実験の特徴 :他の研 究手法 との比較を通じて
次に,他の研 究手法 との比較 を通 じて,社会 科学にお け る実験の特 徴を あ ぶ りだすことに し よ う.特に, 分 析的 研究 (モ デノ吩 析), アーカイバ ノ吩 析
, 質 問紙調査, お よび, フ ィール ドス タディとの関係 を図示する と, 図1の ようになる7.
図1 :他の方 法綸 との関 係
分 析 的 研 究
(モデル 分析 )
実 …
訓
喇
数理モ デル 等に 分
よ り 「仮麹 を 提示 析
アー カイバ ル
分 析
実 験
ブ イー ル ド
ス ー “
質 問紙調査
2.2.L 分析的研究 (モデル分析)との 関係
まず,分 析的 研究,との関係をみる と, 実験 は 分析的研究と大きく 2 つの関係性 を有し て いる,まず第 1
は 「仮 説 とその 「検証 手段亅 という関係 性である.すな わ ち, まず分析的 研究 ば 数 理モデル等により仮 説を提示するものであるが, そこで示 される仮説 を検 証するのが実証 分 析であ る.実証分析の 1つ である実験 ぽ 仮 説の具体 的検証手段 と して の役割を担 う9.
また第21X フ ィードバ ック効 果である.す なわち, 実 験には 他方で, 実験結果を 理 論 研究 者に対し てフ
6 な お
, 筆者が見る ところ, こ のような問題に 対するも う一つ の潮 流は,経 済物理 学 な どを中心とする 「べ き 分布亅に よ る証券 市場の解 明であ る.但し,こ の点につい ては,紙面の都合もあるので本稿の検討対 象外 とす
る (いずれ 別稿を期したい ).
7 なお, 以下の比較ない し特磁付けは あく まで一 般論であり,当然の ことな が ら, 個別 具体的 な研究全て に当て はま る とい うわけで はないとい うこと に は, くれぐれも留意されたい
8 会計に お け る分析的研究につ いてぽ た と えば 太田 (2010),ない し,椎 葉 (2009)を参 照
9 なお,先に示した実験の定義 をみても,「従 属変 数の変化が仮 説通りに起こる か どうか を 調べ る 亅 と あ り,
ま さにこ の点が分析的研究との関係を物語っている.
管 理 会計学 第21巻 第1号
イードバ ックする とい うルートも期待され てい る.KAgal and Rc,th(1995,22・23)1↓ こ のような実 験の効果 を 「理 論家 との対 話 (d鞠 ew 並h theα由bs)」と呼ん でいる.
こ のように,分 析的 研究と実験研究との間に鷹 「分 祈的研究→ 実験」 と 「実験→ 分析 的 研究亅とい う2つ の関 係性が存 在してお り, そ れゆ え, 実 験 研究は, 「実証手 段」 とい う特徴と 「理諭へ の フ ィードバ
ッ ク亅と
い う2つ の特 徴 を有する といえ る.
2.2.2.アーカイバノ吩 析との 関係 次に, 株価データ等の アーカ イバ ルデータ を
用い た アーカ イバノ
吩 析との関係につ いて述べ る.実 験 とアー
カイバノ吩 析 ば 仮説の検証手 段 とい う意 味では 同 じであ るが,以 下の4点で異 な る.
第1は 黥 は欄 勝 可鰤 ある とい う点である,すなわち, アーカ イバ ノ吩 析 鷹 鵝 こあるデータ を用いる た め,制度の有効性等を検証する場合には 当該髄瞳がすで に存在していることが大前提となる(制 度 な くしてデータなし (分析 なし)〉.これ に対して, 実験}よ た とえ当該制度が現実に存在していなくても、
実 験室の中に擬 似 的な制度を創出し, そこに お け る被験 者行動のデータ を用いた分析 が可能 となる.よっ て実 験では あ る制度 や 仕組 みが現実に存在 する前に,当該制 度 ない し仕 組みの有効 性 や意図せざる帰 結な ども検 証 すること力河 能 となるlo.
第2は 実験 は データのハ ン ドリングが比較的容易で あ る点で あ る.すな わち, 実験臨 上述の通り, 実 験 者が研究目的に応じて 自分で実験をデザインす るこ とが で き るので,仮 説検証のた め に必 要な 変数も直接 的
に実験の仕組みの中に盛り込むことが可能 とな る.これ起対して, アーカイバ ル分析でば そのようなことは 不 可能であるた め,現 実に存在するデータ から,仮 説検証のために必要 な変 数に出来るだけ近いものを代理 変 数 として探 してこな け紺 まな らない (そ して しばしば そ の代理変数の妥当性や整合性が問題となる), 第3ぽ 実験は 内的妥 当性 (in舳 1v蜘 )11が高い という点であ る.す な わち,上述の通 り,実験で は 実験 者が柔軟にデータ を採 取する状 況 (実脚 をデザ インし,研 究 目的 や検 証すべ き仮説に直接 即した変 数や 統制条件を構 築す ることが出来るため,そこからア ウ トプッ トされ るデータ と し て
も, 因 果関 係を直接 検 証す ることが出来 るよ うな条 件の縮削が十 分になされたものを得ることが 可能 となる.こ のように, 因果関 係
の直 接的 な検証が可能とな る ところ が実験研 究の大 きな特 徴であり,こ の歳 アーカ イバ ル 分析と異な る. 第4は, 反 面, 外的 妥 当性 (e鯔 1曲 )「zが相対 的に低い点であ る.すなわち,
一般 論 と
して は 実 験 研 究は,現 実そのもの のデータ を扱うアーカ イバ ル分 析 と異なり
, 擬似 的な世界で創出され たデータ を 用い るため, 外的妥当性は相対的に低いとされることが多いIS.
10 なお,こ の点は, 制度の実 証 分析 を行 う上 で極め て重要な点となり, 制度デザイン研 究に対す る実験 研 究
の役立ちの大き さが理 解でき る.詳細は, 田口(2012d>を参照
11 内的 妥 当性とば 独 立変数が従属変 数の原因となっ てい る と真に 記述することができる度 合い の ことをい う (Bo 2008, Chapber 1).
「z 外的 妥 当性とは 独立変数 と従 属変 数の関係 を, 異なる時点 異 なる状 況 異な る個 人にまで→斷匕でき る度合いをいう aimer 200&(haptu 1).
13 一般 論とし て
は こ の ように言わ れ る (実験 研究が批判 される)ことが多いが, しか し筆者 は こ のよう な批判は 必ずしも的を射 たもので はない と考えている.す なわち,こ こで注意 したい のは, 現実のデータ を用
い る か 否 か とい うことと,外的 妥 当性が高いかど うかとい うことは別の吹元の話である (現実のデータを用い
る か ら外 的妥 当性が高い とは直 接的1こはいえないし,ま た,現 実のデータでないか ら外的妥 当性が低い と1埴 接 的に は言え ない)とい う点である,