手織機の構造・機能論的分析と分類
著者 吉本 忍
雑誌名 国立民族学博物館研究報告
巻 12
号 2
ページ 315‑447
発行年 1987‑11‑10
URL http://doi.org/10.15021/00004347
手織機 の構造 ・機能論 的分析 と分類
吉 本 忍 *
Principles for a Basic Classification of Handlooms
Shinobu YOSHIMOTO
The handloom is a tool with a long history. It is widely distributed throughout the world and used by many ethnic groups to weave fabrics. Most handlooms consist of various parts and have a complicated structure. For these reasons, an examination of the many cultural elements involved in handlooms contributes considerably to ethnological studies.
Systematic principles for the classification of handlooms world- wide have not been established, due largely to the dearth of comparative ethnological weaving studies.
The Japanese-language version of this paper presents the results of a comparative study of handlooms. The structure and function of handlooms is described, and a comprehensive system of classification established. The author's field surveys, con- ducted mainly in Indonesia, and the available literature together represent the primary resources for this research. Many technical terms used herein to classify handlooms were devised by the author.
Woven fabrics are defined as those constructed by interlacing warp threads held under tension, with weft threads disposed at right angles. Looms are defined as the tools or machines used to make such fabrics; a handloom is an apparatus operated manu- ally rather than mechanically.
Among the constituent parts of a handloom, the shedding, warp-supporting, and tensioning devices are each fundamentally important to structure and function. They determine the classification developed herein, which is organized according to four primary loom elements :
*国立民族学博物館第 2研究部
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国立民族学博物館研究報告 12巻 2号
1) BASIC STRUCTURE OF THE SHEDDING DEVICE.
HEDDLES, OR HEDDLES ACCOMPANIED BY SHED STICKS.
Is a shedding device utilized? If so, how many?
What type of heddles or heddles with shed sticks are
used to weave fabric in tabby (the simplest, most common method of uniting warp and weft)?
Thirteen combinations are recognized:
AO type=no heddle (e.g., Fig. 59),
B1 type-=single loops-heddle-Fsingle shed stick (e.g., Fig. 27), (loops-heddle see Fig. 17),
BI2 type=double loops-heddles+single or double shed sticks (e.g., Fig. 36),
B2 type= double loops-heddles (e.g., Fig. 37),
Cl type=single false jointed-loops-heddle+single shed stick (e.g., Fig. 40), (false jointed-loops-heddle see Fig. 18), C2 type= double false jointed-loops-heddles (e.g., Fig. 41), Dl type=single jointed-loops-heddle (e.g., Fig. 44), (jointed-
loops-heddle see Fig. 19, Fig. 20),
D12 type=double jointed-loops-heddles (e.g., Fig. 45),
El type=single plate-heddle with holes and slots (e.g., Fig. 47), (plate-heddle with hole and slots see Fig. 21), Fl type =single bar-heddle with triangular slots (e.g., Fig. 49),
(bar-heddle with triangular slots see Fig. 22), GI type=single set of tablets-heddle with holes (e.g., Fig. 50),
(tablets-heddle with holes see Fig. 23),
HI type=single cylinder-heddle with grooves (e.g., Fig. 51), (cylinder-heddle with grooves see Fig. 24),
13 type =pulley-cord-heddles (e.g., Fig. 25).
2) ARRANGEMENT OF THE SHEDDING DEVICE.
How is the shedding device arranged in the warp threads, i.e., are the heddles and shed sticks fixed or
movable?
Seven variants are found:
o type=no shedding device (e.g., Fig. 63), or shed sticks only (e.g., Fig. 59),
a type=fixed heddle+fixed shed stick (e.g., Fig. 27), b type=fixed heddle+movable shed stick (e.g., Fig. 28), c type=movable heddle+movable shed stick (e.g., Fig. 29)
d type=movable heddle+fixed shed stick (e.g., Fig. 31),
e type=fixed heddle (e.g., Fig. 47),
1' type=movable heddle (e.g., Fig. 37).
3) WARP-SUPPORTING SYSTEM.
How are the warp threads supported and given tension?
Three methods exist:
a type=weighted warp (e.g., Fig. 8), b type=fixed warp (e.g., Fig. 9),
c type = body-tensioned warp (e.g., Fig. 10).
4) WARPING SYSTEM.
How are warp threads stretched on the handloom (a factor which influences the shape of the finished fabric)?
There are four arrangements:
a type=circular warp (e.g., Fig. 11), b type=false circular warp (e.g., Fig. 12),
c type---knotted circular warp (e.g., Fig. 13),
d type--flat warp (e.g., Fig. 14).
If, for example, a handloom has a B1 type shedding device in an arrangement of a type, warp-supporting system of b type, and warping system of c type, it will be classified as a Blabc type handloom. Theoretical combination of all types of the four elements listed above results in 12 types of handlooms without heddles and 408 types of handlooms with heddles. However, judging from available data there are only 40 types of handlooms worldwide, 5 of which lack heddles. Summary results of this handloom classification are tabled in Fig. 56.
1. 序
1. 問 題 の所 在 2. 目的 と方 法 H.織 物 と織機
1. 織 物 と織 機 の基 本 概 念 2. 織 機 の基 本 構 造 m.経 糸 と経 糸 保 持 具 の 関係
1. 経糸 保 持 具 の 機 能 と設 置方 式 2, 経 糸 の保 持 方 式
3. 経 糸 の整 経 方 式
IV.経 糸 と開 口具 の 関係 1. 綜 続 の種 類 と機 能 2. 開 口保 持 具 の種 類 と機 能 3. 開 口具 の基 本 単 位 4. 開 口具 の基 本 構 成 型 式
5. 開 口具 の設 置方 式 と経 糸 の開 口方 式 V. 手 織 機 の基 本 分 類 と諸型 式 の特 徴
i.分 類 の方 法 2.手 織 機 の類 型 VI. 結語
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国立民族学博物 館研究報 告 12巻 2号
1 . 序
1. 問 題 の 所 在
織 物 を織 る技術 は ,先 史 時 代 に人 類 が 獲 得 した 基 本 的 な生 活 技 術 の ひ とつ で あ り,
世 界 の 数 多 くの 民族 の も とに, か な り普 遍 的 に分 布 して きた1 ) 。 しか し,最 近 の一 般 的 な 傾 向 と して は ,個 々 の民 族 の も とで 培 わ れ て きた伝 統 的 な織 りの技 術 は , 近 代 化 の 大 きな うね りの な か で ,次 第 に失 わ れつ つ あ る。 も とよ り, この こ と は,今 日の わ れ わ れ の生 活 の な か で ,織 物 や ,織 物 を織 る技 術 が ,不 要 とな って きた と い うこ とで はな く, 現 代 にお け る織 物 の需 要 は, これ まで 以 上 に多様 化 し,増 大 しつ づ けて い る。
そ して , こ う した織 物 の需 要 に対 応 して ,織 りの 技術 の うち に も,革新 的 な 先 端 技 術 の導 入 が あ いつ いで い る。
織 物 は ,基 本 的 に は ,経 糸 と緯糸 を 組 み 合 わ せ た もの で あ り, い っさ いの 道 具 を も ち い る こ とな しに, 完 全 な 手 作 業 に よ って も織 る こ とがで き る2 ) 。 しか し,密 度 の高 い織 物 組織 を構 成 した り,効 率 よ く織 物 を 組織 す るた め に は ,織 機 の 使 用 が 不 可 欠 で あ り,織 機 は ,織 物 を織 るた め の道 具 , あ るい は ,機 械 と して 位 置 づ け られ る。
織 物 を織 るた め に は ,今 日で は ,織 機 の使 用 が一 般 的 で あ る。 そ れ らの織 機 は ,多 種 多 様 で あ る が ,稼 動方 式 の違 い ,す な わ ち, 動 力 の 有 無 に よ って ,基 本 的 に は ,動 力 織 機 ( 力 織 機) と人 力 織 機 に大 別 す る こ とがで き る。
こ の うち, 動 力 織 機 は , 織 物 を織 るた め に必 要 な す べ て の作 業 を, 原 動 機 か ら動
図 1 織 機 の 分 類
力 の 供 給 を 受 け て お こ な う 織 機 で あ り , 産 業 革 命 の さ な か の 1785年 に , イ ギ リス 人 の Edm und Cartw right
に よ っ て 発 明 さ れ た 。 発 明 当 初 の 動 力 織 機 の 性 能 は , 1) 伝 統 的 な 織 りの技 術 を 継承 して きた 民 族 は ,基 本 的 に 農 耕民 や 牧 畜 民 で あ り, 狩 猟 採 集民 の もとで は , 現代 に至 るま で , ほ と ん ど織 りの技 術 は知 られ て い なか った よ うで あ る。
2) 織 物 を織 る た め に, 道 具 を い っさい 使 用 しな い とい う こ とは, 今 日の一 般 的 な 通 念 か らす る な らば, 奇異 な こ とで あ る 。事 実 , 『広 辞 苑 』 の 「お り もの (織 物 )」 の項 目で も, 織 物 とは , 「経糸 (た て い と) と緯糸 (よ こい と) とを組 み 合 わ せて 機 (はた ) に か けて 織 った 布」 と あ り,織 物 を 織 る た め に は, 機 , す な わ ち, 織 物 を 織 るた め の道 具 の必 要 性 が あ げ られて い る [新 村 (編 ) 1969]。 しか しなが ら, 織 物 を織 るた め に 使用 され る道 具 は ,あ くま で も,織 物 の製 作 を 補 助 す る ため の もの で あ る。 し たが って ,筆 者 は,織 物 の概 念 は ,道 具 の使 用 の 有 無 にか か わ りな く規 定 され るべ きで あ る と考 えて お り, 先 の 『広 辞 苑 』 に示 さ れて い るよ うな , 織 物 を 「機 に か けて 織 った 布」 とす る概 念 や , それ と同 様 の一 般 的 な 通念 に討 して は反 対 す る 。 318
か な り低 い もの で あ った が , さ ま ざ まな 発 明 や 改 良 が加 え られ て今 日に至 っ て お り,
動 力織 機 の使 用 は ,現 代 に お け る織 物 生 産 の 主 流 とな って い る。
一 方 ,人 力 織 機 は ,手 織 機 と足 踏 み織 機 に分 け られ る。 この うち手 織 機 は, お もに,
手 の み , あ るい は ,手 と足 , 手 と足 と腰 な どを 使 って ,織 物 を織 るた め に必 要 な操 作 を, 個 別 に繰 り返 しお こな う織 機 で あ る。 ま た , 足 踏 み織 機 は ,初 期 の動 力 織 機 と基 本 的 に 同 じ機 構 を そ な え た もの で あ るが , 動 力 織 機 を 稼 動 させ るた め に必 要 な動 力 を , 足 で繰 り返 し踏 む 力 に お きか え た機 構 を もつ もの で あ る。 した が って ,足 踏 み織 機 は 手 織 機 とは異 な り,足 で 踏 む 作 業 を繰 り返 す だ け で 織 物 を 織 る こ とが で き る。 これ ら の人 力 織 機 の うち ,手 織 機 は , も とよ り動 力 織 機 の 発 明 以 前 か ら使 用 され て きた もの で あ る。 一 方 ,足 踏 み織 機 は ,動 力 織 機 が 出現 した の ち に考 案 され た もの で あ り, そ の多 くは,初 期 の動 力織 機 が普 及 す る過 程 に お け る, 過 渡 的 な 織 機 と して 使 用 され て きた3 》 。
以 上 の よ うな織 機 の な か で ,動 力 織 機 や 足 踏 み 織 機 に先 行 して も ちい られ て きた手 織 機 は , おそ ら くは ,人 類 が織 物 を織 る技 術 を獲 得 した 時 期 , も し くは , そ の 時期 か ら, さ ほ ど遅 くな い段 階 に発 明 され たで あ ろ う と考 え られ る。 そ う した 織 機 の発 明 以 後 ,古 代 か ら現 代 に 至 るま での あ い だ に使 用 さ れて きた 手 織 機 の う ち に, 多 種 多 様 な 型 式 や構 造 の手 織 機 が存 在 して きた こ とは , これ まで の 数 多 くの 資 料 に よ って 知 る こ とが で き る。 しか し, そ れ らの手 織 機 の うち に は, 今 日で は , す で に使 用 され な くな った り,姿 を 消 して しま った もの が少 な か らず あ り, 今 後 に お いて も, この よ うな傾 向 が継 続 して い くで あ ろ う こ とは, 想 像 に難 くな い。
人 類 が使 用 して きた道 具 は多 岐 にわ た って い る。 しか しな が ら, そ れ らの道 具 の な か で ,手 織 機 は , も っ と もな が い年 月 にわ た って 使 用 され て きた 道具 の ひ とつ と して 位 置づ け られ ,伝 統 的 な手 織 機 の分 布 につ いて も,世 界 的 に か な りの普 遍 性 が認 め ら れ る。 ま た ,手 織 機 の大 多 数 は , さ ま ざ まな 部 品 に よ って 構 成 され て お り,多 種 多 様 な道 具 の な か で も, も っ と も複 雑 な構 造 を も って い るもの の ひ とつ に あ げ る こ とが で き る。 この よ うに , 時 間 的 ,空 間 的 な ひ ろ が りを も ち, か つ 複 雑 な 構 造 を そ な え た道 具 につ いて は, 手 織 機 以 外 に は類 例 が な い もの とみ られ る。 した が って , さま ざ ま な 道 具 の な かで も, と りわ け手 織 機 は ,民 族 学 的 な比 較 文 化 研 究 の 対 象 と して , 数 多 く の手 掛 か り とな る要 素 を そな え て い る と いえ る。
しか しな が ら,世 界 の諸 民 族 の も とで 使 用 さ れて きた 手 織 機 に関 す る, これ ま での
3) 足 踏 み 織 機 は , 1802年 に イ ギ リス 人 の W i l l i am Radec l i f f e に よ って 考 案 さ れ て い る [ 三 瓶 1 961:7 0]。 動 力 織 機 の 普 及 に と も な い , 足 踏 み 織 機 は , 次 第 に 姿 を 消 して い っ た が , 日本 に お い て は , 近 江 上 布 , 久 留 米 緋 , 弓 浜 耕 な ど の 産 地 で , 今 な お 使 用 さ れ て い る [ 重 松 1 985:3]。
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研 究 を概 観 して み る と,研 究 の主 流 は, 特 定 の 民 族 や ,特 定 の地 域 の手 織 機 に限定 し た個 別 的 な研 究 で あ り,通 文 化 的 な視 点 に も とつ く比 較 研 究 は , あ ま りお こな わ れ て いな い。 そ う した な か で も, M ont andon [1 93 4:532 −546] の よ う に, 手 織 機 を 発 達 史 的 な視 点 か ら分 析 した 研究 や , Rot h [ 1 950 ( 1 91 8) ], Bi r r e l l [ 1 959 ], Br oudy
[ 1 97 9] の よ うに , 世 界各 地 の手 織 機 を , かな り網 羅 的 に と りあ げ た研 究 は注 目 され る。 た だ し, か れ らの業 績 を は じめ とす る従 来 の研 究 に お いて は,手 織機 の構 造 に つ いて , か な らず し も十 分 な分 析 が お こな わ れ て きた とは い いが た い し, 多 種 多様 な手 織 機 の構 造 に 関す る体 系 的 な分 類 原 理 に つ い て も,未 だ確 立 され て いな い とい うの が 実 状 で あ る。
た とえ ば ,手 織 機 の基 本 構 造 に関 して ,筆 者 は,経 糸 と開 口具 , お よ び, 経 糸 と経 糸 保 持 具 の 関係 に 注 目 して お り, 第 H章 以 降 に お いて あ き らか に して い るよ うに ,経 糸 と開 口具 の 関係 で は , と くに ,経 糸 の 開 口方 式 を 決定 す る開 口具 の基 本 構 成 型 式 と 設 置 方 式 が 重 要 で あ る と考 え て い る。 また , 経 糸 と経 糸 保 持 具 の 関係 で は ,経 糸 の 保 持 方 式 と整 経 方 式 が 重 要 で あ る と考 え て い る。 しか しな が ら,従 来 の手 織 機 の比 較 研 究 の うち に は, 以 上 の よ うな諸 要 素 の分 析 を お こな い , そ れ らの 関連 を考 察 す る こ と に よ って ,手 織 機 の し くみ を 詳述 した資 料 は認 め られ な い。 さ らに, 手 織 機 の分 類 に して も, 一般 的 には , 垂 直機 ( 堅 機 =ve r t i c al l oom ) と水 平 機 ( t W e e = = hor i z ont al l oom) とい うよ うな外 見 的 な 特 徴4 ) , あ るい は, 手 動 式 と足 引 き式 と足 踏 み式 とい う よ うな, 経 糸 の 開 口操 作方 式 の違 い , さ らに は ,織 物 の種 類 や織 物 を構 成 す る糸 の繊 維 素 材 に よ る区 別 な どの よ う に,手 織 機 の基 本 構 造 と は, 直 接 的 に は関係 の な い分 類 概 念 を包 括 した ,統 一 性 を 欠 い た分 類 原 理 が と りあ げ られて きた 5 ) 。
した が って ,手 織 機 に関 す る従 来 の研 究 の うち に は,手 織 機 の基 本 的 な構 造 や 機 能 の十 分 な分 析 に も とつ く, 比 較 類 型論 的 な視 点 か らの研 究 につ いて は , ほ とん ど成 果 の蓄 積 が な い と い うの が 実状 で あ り,手 織 機 の 研 究 は ,体 系 的 な比 較 研 究 を お こな う た め の基 盤 を もた な いま ま に,今 日ま で推 移 して きた と いわ ざ るを え な い。
2. 目 的 と 方 法
本 稿 で は , 以 上 に 述 べ た よ う な 従 来 の 手 織 機 研 究 の 不 備 を 補 い , 今 後 に , 発 展 的 な 4)垂 直 機 と水 平機 とい う分 類 は ,手 織 機 にか け られて いる経 糸 の う ち, と くに ,織 りが お こな わ れて い る経 糸部 分 の ,地 面 に 対す る方 向 性 (角 度) に注 目 した分 類 概 念 に もとつ くもの で あ り,垂 直 機 と水 平 機 の ほか に,傾 斜 機 と い うカ テ ゴ リーを設 定 す る場 合 もあ る 。 しか しな が ら,
この よ うな 分 類 概 念 は ,漠 然 と した もので しか な く,手 織 機 の構 造 や外 観 に つ いて , あ る程 度 の 類 別 を可 能 と して い る ものの ,相 互 の カテ ゴ リー の境 界 を 明確 に規 定 す る ことは , 基 本 的 に 不 可能 で あ る。
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比 較 研 究 を 可 能 とす るた め の基 礎 的 研 究 と して ,手 織 機 の構 造 論 的 ,機 能 論 的 な分 析 を お こな い, そ れ らの分 析 結 果 に も とつ いて ,手 織 機 の 基本 構 造 に 関 す る分 類 法 を 確 立 し,多 種 多 様 な手 織 機 の 体 系 的 な分 類 をお こな う こ とを お もな 目的 と して い る。
そ の た め の本 稿 の構 成 は ,つ ぎの よ うな もの で あ る。
ま ず ,本 章 に つづ く第 [ [ 章 で は ,織 機 の 基 本 構 造 に 関 わ る構 成 要 素 と して ,経 糸 と 経 糸 保 持 具 ,お よび , 経 糸 と開 口具 の関 係 の 重 要性 につ い て提 起 す るが , そ れ に先 だ っ て は , 織 物 と織 機 が ,い か な る もので あ るの か と い う こ とを あ き らか に す る。 そ の理 由 と して は ,第 1に ,織 物 と織 機 の概 念 が , これ ま で には , か な らず しも明 確 に さ れ て いな い とい う こ とが あ げ られ る。 また , 第 2に は, 織 機 が ,織 物 の 製 作 を 目的 と した , 手 段 と して の道 具 , あ るい は ,機 械 で あ ると こ ろか ら, 織 機 の 概 念 を 明 確 に す る うえ
5) た と え ば , Rot h は , ア フ リカ の 手 織 機 を , 基 本 構 造 に 関 わ る 綜 続 の 種 類 手 織 機 の 外 見 的 な 特 徴 で あ る 経 糸 の 垂 直 , 水 平 と い う 2種 類 の 方 向 性 , 織 り の 対 象 と な る 織 物 の 種 類 な ど を は じめ と す る さ ま ざ ま な 要 素 に よ って , 1 . The Ver t i cal M at Loom , 2・ The H or i zont aI Fi xed H eddl e Loom , 3. The V e rt i c al Cot t on Loom , 4. The 且 or i z ont al N ar r ow Band Tr eadl e Loom , 5. The Pi t Tr eadl e Loom , 6. T he M e di t er r ane an or As i at i c Tre adl e Loom , 7.The Car t on Loom と い う よ う な , 7種 類 に 分 類 して い る [ RoTH l 950( 191 8):26−63 ]。
ま た , 重 松 は ,日本 の 手 織 機 を つ ぎ の よ う に 分 類 し て い る [ 重 松 1 985:3,表 2]。
手織機の分類 垂 直 型
( 竪 型) 水 平 型 力 織 機
革 新 織 機
腰 機
いざり機
地 機
下 機
神 代 機
高 機
長 機
大 和 機
京 機
足踏織機
水平型 脚 付 傾斜型 平 機
( 二枚機) 耕 機 厩 機 空引機 錦機 花織 綾機
な お, 織 機 の分 類 と い う こ とで はな い が , M ontandon は, 発 達 史 的 な視 点 に も とづ き,織 りの操 作 を ,織機 の主 要 な 構 成部 品 で あ る綜 胱の有 無 ,綜続 の 種 類 ,綜 続 の 操作 方 式 ,経 糸 の方 向性 (角 度 ) な ど に注 目 して , つ ぎの よ うに 図示 して い る [M oNTANDoN 1934:539]。
DI VI S1 0N ET DEVELOPPEM ENT DES M ODES DE TI SSAGE
Tissage
tissage-tressage
tissage à fogue
aux cartons
à fogue normale
sur
treillis
sur métier à releveur
à main seule, à pédalier à traction
vertical horizontal
321
国立民族学博物館研究報告 12巻 2号
で は , その 前提 と して ,まず ,目的 とす る織 物 の概 念 を明 確 に して お く必 要 が あ る と考 え るた めで あ る。 つ ぎ に, 第 皿章 で は, 経 糸 と経 糸 保 持 具 の 関係 か ら, 手 織 機 の基 本 構 造 を構 成 す る要 素 とな る, 経糸 の保 持方 式 と整 経 方 式 につ いて あ き らか に す る。 さ ら に ,第 I V章 で は, 経 糸 と開 口具 の 関係 か ら,手 織 機 の基 本 構 造 を構 成 す る要 素 と して , 経 糸 の開 口方 式 を 決 定 す る, 開 口具 の基 本 構 成 型 式 と設 置 方 式 を と りあ げ , これ らに つ い て分 析 を お こな う と と もに ,基 本 構 成 型 式 と設 置方 式 の違 い に よ って 異 な る経 糸 の開 口方 式 を 示 す 。 そ して ,第 V章 で は ,ま ず ,第 I V章 ま で の分 析 に も とづ き, 手 織 機 の分 類 概 念 と して , 開 口具 の基 本 構 成 型 式 と設 置方 式 ,経 糸 の保 持 方 式 と整 経 方 式 を設 定 し, これ らの 分 類 概念 に よ って ,手 織 機 の基 本 構 造 に関 す る分 類 を お こな う。
そ して 最 後 に,手 織 機 の個 々 の類 型 の基 本 的 な特 徴 と, そ れ らの類 型 に対 応 す る手 織 機 の 具 体例 を提 示 す る。
本 稿 の 記述 に さ い して , と りあつ か う基 礎 資料 は,筆 者 が ,1 97 0年 以 降 にお こな っ て きた , イ ン ドネ シア を は じめ とす る東 南 ア ジ ァや ,パ プ ァ ・ニ ュ ー ギニ ア, イ ン ド,
中国 , 日本 な どで の現 地 調 査 に よ って収 集 した 資 料 と,文 献 資 料 , な らび に, 本 館 な どに 収蔵 さ れ て い る標 本 資 料 な どか らな る。 この うち ,文 献 資 料 と して は , と くに , 前 掲 の Rot h [ 1 950 ( 1 91 8) ]や Bi r r el 1[ 1 959] , Br oudy [ 1 979] の業 績 に負 う と ころ が 多 い 。
な お , す で に指 摘 して きた よ うな手 織 機 の通 文 化 的 な研 究 の不 備 か ら, これ ま で に は , 日本 だ け で な く,海 外 に お いて も,手 織 機 の型 式 や 構 造 , あ るい は ,構 成 部 晶 な どに 関 して ,統 一 的 な用 語 が確 立 され て い な か った り,用 語 の 設 定 自体 が 適 切 で な い とい うよ うな例 が少 な くな い6 ) 。 した が って , 本 稿 の記 述 に さ い して は, 筆 者 の独 自 の 考 え に も とつ い て,少 な か らず , あ らた な 用語 を設 定 す る。 ただ し, そ の 場 合 には , わ が 国 の染 織 の専 門 分 野 で , これ ま で に慣 用 され て きた よ うな 難 解 な 専 門 用語 は , で
6) た とえ ば , わが 国 で 使 用 され て きた 単 綜 続 とい う用 語 は ,手 織 機 の 構成 部 品 のひ とつ で あ る,特 定 の 綜続 を 意 味 して い るが ,そ の 具体 的な 意 味 は ,染 織 の 専 門 分 野 と民 族 学 の 分 野で は,
つ ぎの よ う に異 な って お り, 現状 で は少 な か らず 混 乱 を まね いて い る。 す な わ ち, 単 綜 統
つがいめ
とい う と,染 織 の 専 門 分 野 で は, 第 皿章 で述 べ る番 目綜 統 の単 体 (1枚 ) を 意 味 して い る。 こ れ に対 して , 民 族学 の分 野 で は , 杉 浦 [1942:115−140], 北 原 [1959: 69−71], 古 河 [1960:
193,199]の 記 述 か らは, 第 皿章 に お いて 記 述 す る輪 状 綜 統 の 単体 (1枚 ) を 意 味す る語 と し て 解 釈 され , 単 綜 続 織機 , あ る い は, 単 綜 統機 とい う と, 綜統 が 1枚 の 輪状 綜 統 の み で 構 成 され る手 織 機 と して位 置づ け られ て き た よ うで あ る 。 した が って ,民 族 学 の分 野で は, 単 綜 続 織 機 , あ る い は, 単 綜続 機 は ,基 本 的 に は ,本 稿 で 提示 す る単 式 輪 状 綜 統機 に相 当 す る手 織機 と考 え られ る が , 従 来 の 民族 学 の 分 野 に お いて は, 単 綜続 織 機 に 輪状 綜続 の 枚 数 を 追 加 す る こ とに よ って ,多 様 な 織物 組 織 を 構 成 す る こと がで き る単 式 輪 状 綜 続機 の存 在 や , 基 本 とな る輪 状 綜 続 の 枚数 が 2枚 で構 成 され る複合 単式 輪 状 綜 統機 や複 式 輪 状 綜続 機 な どの 存 在 に つ いて は, ほ とん ど考 慮 され て い な か った よ うで あ る。
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吉本 手織機の構造 ・機能論的分析 と分類
き るだ け使 わ な い こ と と し, 基本 的 に は ,対 象 とな る機 能 や 形 態 な ど を ,直 接 的 に あ らわす 平 易 な字 句 を使 用 す る よ う に努 め る。 そ して , そ れ らの用 語 につ いて は ,必 要 に応 じて ,本 文 中 , ま た は ,脚 註 に お いて 説 明 を お こな う こ と とす る。
皿. 織 物 と 織 機
本 章 で は,手 織 機 の分 類 を お こな う前 提 と して , まず , 織 物 と織 機 の 基 本 概 念 を あ き らか に す る。 そ して ,織 りの 基 本 運 動 に対 応 す る織 機 の基 本 構 成 部 品 と して , 経 糸 保 持具 ,開 口具 , 緯 入 具 , 緯 打 具 の 4種 類 を と りあ げ ,織 機 の基 本 構 造 が ,経 糸 と経 糸 保 持具 , あ るい は, 経 糸 と経 糸保 持 具 と開 口具 の相 互 関係 に よ って 決 定 され て い る
こ とを提 起 す る。
1. 織 物 と 織 機 の 基 本 概 念
織 物 が , い か な る もの で あ るの か と い う こ と につ いて は ,従 来 , お もに ,編 物 との 関 連 にお い て検 討 さ れ て きた。 それ は, 織 物 が ,編 物 との あ い だ に ,素 材 , 技 術 , 組 織 な ど に関 して , 多 くの類 似 点 や共 通 点 を も って い る こ と に よ る。 しか しな が ら, 織 物 の 概 念 , あ るい は ,織 物 と編 物 の違 い につ いて は, これ ま で に, か な らず し も明 確 に され て きた とは い い が た い 。 した が って ,以 下 で は,織 物 の基 本 概 念 を ,編 物 との 関 連 に お いて , 素材 ,技 術 ,組 織 の うえ か らあ き らか に し, さ らに ,織 物 の基 本 概 念
に も とつ いて ,織 機 の 基本 概 念 を規 定 す る。
( 1 ) 織 物 と は
織 物 が 経 糸 と緯 糸 に よ って構 成 さ れ た もの で あ る こ と は, す で に一 般 常 識 と して 定 着 して お り, 筆 者 の織 物 に つ いて の基 本 的 な認 識 も, この 点 に関 して は共 通 の もので あ る。 た だ し, 経糸 や 緯糸 と して使 用 さ れ る織 物 の 素材 は ,糸 が一 般 的 で は あ るが , 糸 以 外 の 素 材 , た とえ ば , 紐 , 藁 , ヒゴ な ど が使 用 さ れて い る例 もあ る。 した が って ,
この よ うな 例 外 的 な要 素 を考 慮 す るな らば ,織 物 の 素材 は ,糸 , あ るい は ,糸 に類 す る線 状 物 と規 定 す る こ とが で きる。 しか し,糸 を は じあ とす る織 物 の素 材 は , いず れ も編 物 の 素 材 と して も使 用 され て い る。 そ のた め, 織 物 を , 素材 そ の もの に よ って , 編 物 と区 別 す る こ とは 不 可 能 で あ るが ,織 物 は, 経 糸 と緯糸 と い う 2種 類 の方 向特 性 をそ な え た 素 材 に よ って 組 織 され て い る とい う こと に おい て ,多 くの 編 物 とは異 な っ て い る。 この こ とか ら, これ まで , 織 物 の基 本 概 念 , あ る い は ,織 物 と編 物 の 区分 は,
お もに, 素 材 の 組 み合 わせ か た に 関連 して, 以 下 に 示 す よ うな 織 り と 編 み の
3 2 3
国立民族学博物館研究報告 12巻 2号 技 術 や , 織 物 と 編 物 の 組 織 の 違 い な ど に も とつ い て お こ な わ れ て き た 。
1) 織 り の 技 術 と 編 み の 技 術
糸 , あ る い は , 糸 に 類 す る 線 状 物 を 素 材 と し た 織 物 や , 織 物 に 類 似 す る布 状 の 編 物 を 組 織 す る た め の 織 り と 編 み の 技 術 の 区 分 に つ い て は , こ れ ま で に , さ ま ざ ま な 考 え か た が 示 さ れ て い る が , 一 般 的 に は , 織 り の 技 術 は , 編 み の 技 術 か ら 発 展 した も の と考 え られ て い る。
た と え ば , M ontandon は ・ 織 り (tissage) を 編 み 織 り (tissage・tressage) と 開 口 織 り (tissage a fogue) に 大 別 し
, 開 口 織 り を 完 全 な 織 り と し て 位 置 づ け る と と も に , 編 み 織 り を 編 み (tressage)か ら 織 り へ の 展 開 の 中 間 的 な 技 術 と し て 設 定 して い る。 そ して , 編 み と 編 み 織 り は , 莚 な ど を 組 織 す る さ い に , あ ら か じ め 経 糸 を 保 持 して お く た め に も ち い られ る経 糸 保 持 具 , す な わ ち , 不
写 真 1 手 と足 の み に よ る草 履 (ア シナ カ)
づ くり
八 丈 島 ・樫 立 (1987年 3月 撮 影)
完 全 な 枠 7)(cadre incom plet) の 有 無 に よ っ て 区 別 し て お り , い っ さ い の 経 糸 保 持 具 を 使 用 し な い 場 合 を 編 み と し , 不 完 全 で あ っ て も 経 糸 保 持 具 を 使 用 す る場 合 を 編 み 織 り と し て い る 。 ま た , 編 み 織 り と 開 口 織 り は , 経 糸 の 組 織 的 な 開 口 と 逆 開 口 の 両 方 を お こ な う こ と が で き る 開 口 具 の 有 無 に よ っ て 区 別 して お り , 開 口 と 逆 開 口 の 一 方 の み しか お こ な う こ と が で き な い 開 口 具 を 使 っ て い る 場 合 を
編 み 織 り と し
, 開 口 と 逆 開 口 の 両 方 を お こ な う こ と が で き る 開 口 具 を も ち い る 場 合 を 開 口 織 り と し て い る
[M oNTANDoN l 934:533−539]。
こ の よ う な M ontandon の 考 え か た の な か で , 織 り の 下 位 区 分 と し て , 編 み 織 り と 開 口 織 り と い う 7)M ontandon の い う 不 完 全 な枠 と は, 図 8に示 す よ うな 2本 の支 柱 と, そ の あい だ に わ
た され た横 木 で構 成 され て い る よ うな 経 糸保 持 具 や , わ が 国 の葦 賛 や 莚 を編 む ため の ッチ ノ コ を 併 用 した編 み台 の よ う に, そ れ 自体 で は経 糸 に張 力 を付 与 す る こ との で き ない経 糸保 持 具 を 意 味 して い る も の と考 え られ る。
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カ テ ゴ リーを 設 定 して い る こ と につ いて は ,筆 者 は , あ え て反 対 す る もの で は な い。
しか しな が ら,経 糸 保 持 具 の有 無 に よ って 編 み と 織 り (編 み織 り ) を 区別 す る こ と につ いて は 同 意 す る こ とは で きな い。 そ れ は ,経 糸 保 持具 を は じめ とす るい っ さ いの 道 具 を 使 わ ず ,手 と足 の み で 経糸 を直 接 保 持 す ると と もに ,張 力 を付 与 す る こ とに よ って も, 織 り (編 み 織 り ) を お こな う こ とが 可 能 で あ るた め で あ り, そ の 具 体 例 は , わ が 国で お こな われ て きた 草 鮭 づ く りや 草 履 づ く りの うち に認 め られ る8 )
( 写 真 1) 。
した が って , 筆 者 は , 織 り を お こな うた め に は, 経 糸 が 保 持 され る と と も に,
張 力 を そ な え て い る とい う こ とが不 可 欠 の 条 件 で あ る と考 え て い る もの の , 経 糸 保 持 具 の有 無 につ い て は, か な らず し も 織 り (編 み 織 り ) を 編 み と 区 別 す るた め の要 素 に はな りえ な い と考 え て い る。 た だ し, 経 糸 が 保 持 され , 張 力 を そ な え て い る とい う こ と もま た, 織 り の技 術 を 特定 す る た め の十 分 条 件 とは な りえず , 織 り の技 術 を特 定 す る うえ に は , さ らに次 の 項 で述 べ る よ うな , 経 糸 に対 す る緯糸 の 組 み 合 わ せ か た が重 要 で あ り, 織 物 の基 本 概 念 も, 織 り の 技 術 と織 物 の 組 織 との相 互 の 関 連 か ら考 察 す る必 要 が あ る と考 え て い る。
2) 織 物 と編 物 の組 織
経 糸 と緯 糸 に よ って構 成 され る織 物 の組 織 は , きわ め て多 岐 に わ た って い るが , こ れ ま で に は, 一 連 の織 物 組織 は, 基 本 的 に, 図 2に示 す よ うな ,平 織 組 織 ,綾 織 組 織 , 編 子 ( 朱 子 ) 織 組 織 ,搦 織 組 織 か らな る 4種 類 の基 本 組 織 9 )と , それ らの 変 化 組 織 に
集 約 され る と考 え られ て きた。 した が って , 棒 や 紐 な ど の保 持 具 か ら糸 を 吊 し, そ れ らの糸 に , 必 要 に応 じて 張力 を 付 与 しな が ら, 相 互 に 斜 め に 組 み合 わせ た 交 叉 組 織
( 図 3−1) や 振 り組 織 ( 図 3−2) な どの ス プ ラ ング を構 成 す る組 織 で は ,組 織 を構 成 す る個 々の糸 に ,経 糸 と緯 糸 とい う方 向特 性 が な く,組 織 自体 も,上 記 の よ うな 織 物 組 織 に適 合 しな いた め ,織 物 の 組織 か らは除 外 され て きた。 た だ し,図 4の よ うに,
経 糸 に対 して 緯糸 を換 りあ わ せ た 緯振 り組織 や , 図 5の よ うに ,経 糸 に対 して緯 糸 を 巻 きつ けた巻 き組 織 は , と もに ,織 物 の基 本 組 織 や , それ らの変 化 組 織 と は異 な った 組 織 で あ る に もか か わ らず ,経 糸 と緯 糸 に よ って構 成 され て い る と ころ か ら,例 外 的
8)草 鞍 や草 履 は, わ が 国 で は 一 般 に, 編 物 と して と らえ られ , そ れ らの製 作 技 術 は, 編 み の 技 術 と され て きた 。 しか しな が ら,後 述 す るよ うに ,筆 者 の 規 定 す る織 物 の 基 本概 念 に も と つ くな らば, 草 鞍 や 草履 は織 物 と して位 置づ け られ る 。 した が って , 草鞍 づ くりや 草履 づ く り の 技 術 も, 編 み の 技術 で はな く, 織 り の 技 術 で あ る。
9) 一般 に , 平織 組 織 ,綾 織 組織 ,嬬 子 織 組織 は, 織 物 の三 原 組 織 , 搦 織 組織 は特 別 組 織 と呼 ば れ て い る が ,三 原 組 織 と特別 組織 を あわ せ て織 物 の四 原 組 織 と呼 ばれ る こ と もあ る。
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国立民族 学博物館研究報 告 12巻 2号
(D 平織組織
( 2)綾 織 組 織
( 3)編 子 織 組 織
図 2 織 物 の基 本組 織 1
経糸
( 4)搦 織 差 且華 哉
緯糸
に織 物 組 織 と して包 括 す る傾 向 が一 般 的 で あ る1 0 ) 。 しか しな が ら,筆 者 は, い か な る 場 合 に お い て も,基 本 概 念 を 明 確 に規 定 す るた め に は 、例 外 的 な要 素 は 、極 力 排 除 す べ き と考 え て お り, 筆 者 の 考 え る織 物 の 組織 とは , あ くまで も, 先 の織 物 の 基 本 組 織
と, そ の変 化 組 織 の み に限 定 す る。 した が って ,先 の緯 振 り組 織 や巻 き組 織 の よ う に , 経 糸 と緯 糸 に よ って 構 成 され た 組 織 で あ って も,経 と緯 とい う 2種 類 の異 な った方 向 特 性 を そ なえ た 相 互 の 糸 が , 直 線 的 に交 叉 して い な い場 合 に は ,織 物 の組 織 か らは除 外 し, これ らの組 織 は, ス プ ラ ン グを 構 成 す る交 叉 組 織 や挨 り組 織 と と もに ,編 物 の 組 織 の うち に包 括 され る もの と考 え て い る。
10) た とえ ば , Burnham は , 織 物 の組織 を ,平 織 組 織 ,綾 織 組織 , 嬬 子織 組織 , 搦 織 組 織 と,
そ れ らの 変 化 組織 に限 定 して い るが , 緯 振 り組 織や 巻 き組 織 も例 外 的 な 織物 組 織 と して と らえ て い る [BuRNHAM l 981(1980):186−190]。
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(D 交 叉組 織 ( 2)捩 り組 織
図 3 ス プ ラ ン グ の 組 織図 4 緯振 り組 織 ■ 一経糸 〔コー緯糸
図 5 巻 き 組 織 ■■ 〜 経糸 [:コ ー 緯 糸3) 織 物 と編 物 の関 係
これ ま で に は ,織 物 の基 本 的 な 概 念 を確 立 す るた め に , 織 物 と編 物 の違 い を強 調 し て きた が ,筆 者 は ,織 物 を ,広 義 に は編 物 の一 種 と して と らえ て い る。 ま た ,編 物 の 組織 につ い て は ,交 叉 組 織 ,振 り組 織 ,巻 き組 織 ,輪 奈 組 織 とい う, 4種類 の基 本 組 織 ( 図 6) に大 別 して お り1 1 》 ,平 織 組 織 と綾 織 組 織 と嬬 子織 組 織 を基 本 とす る織 物 組
11)筆 者 が考 え て い る編 物 の 基本 組 織 の概 略 は ,以 下 の よ うな もので あ る。
交 叉 組 織 一複 数 の素 材 を , 相互 に交 叉 させ る こと に よ って 構成 され た 組 織 。 この組 織 によ る代 表 的 な製 晶 と して は網 代 が あ る。 ま た,組 紐 を は じめ とす る ス プ ラ ングや , 籠 や莚 な ど の組 織 と して も一 般 的 で あ る 。
振 り組 織 一直 線 的 な素 材 に ,複 数 の素 材 を振 りあ わ せ る こと に よ って構 成 され た組 織 。お も に,
籠 ,鍵 ,簾 , 葦 蟹 な ど の組 織 に み られ , ス プ ラ ング の組 織 と して も認 め られ る。
巻 き組 織 一基 本 とな る素 材 に ,他 の素 材 を巻 きつ け る こ とに よ って 構成 さ れ た組 織 。 籠 に多 く み られ る 。
輪 奈組 織 一 1本 , も し くは, 複 数 の素 材 を もち いて 輪 奈 (ル ー プ) を つ く り,輪 奈 を 連続 的 に 組 み 合 わ せ る こ とに よ って 構 成 され た組 織 。 この組 織 の代 表 的 な製 品 と して は , ニ ッ ト製 品 が あ る。 ま た , 網 や 籠 の組 織 の一 部 に も使 用 さ れて い る。
327
国立民族学博物館研究報告 ,12巻 2号
交叉組織
捩り 組織
巻 き組 織
輪奈組織
図 6 編 物 の 組 織
(1)〜 (8), (11)は , [ BALFET 1975 (1968):758] に よ る 。
織 は , い ず れ も交 叉 組織 に属 し,搦 織 組織 を基 本 とす る織 物 組 織 は,振 り組 織 に属 す る もの と して と らえ て い る。
この よ うな ,織 物 を編 物 の一 種 とす る筆 者 の考 え は ,織 機 の主 要 な構 成 部 品 の ひ と つ に位 置 づ け られ る綜 続 の存 在 に起 因 して い る。 す な わ ち ,綜 続 の発 明 に よ って ,綜 続 を そ な え た織 機 に よ って つ く られ る 編 物 の生 産 性 のみ が ,他 の編 物 に較 べ て飛 躍 的 に 向 上 し,綜 続 を そ な え た織 機 の 普 及 や , そ の発 展 の過 程 に お いて ,綜 続 を そ な
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え た織 機 に よ ってつ く られ る 編 物 が ,次 第 に他 の編 物 か ら独 立 し, 最 終 的 に , 編 物 とは異 な る別 の概 念 , つ ま り, 織 物 と して と らえ られ るよ うに な って い った と い う想 定 に も とつ いて い る。 な お, この よ うな想 定 の根 拠 と して は , これ まで に指 摘 して い る よ う に ,織 物 が , 編 物 との あ い だ に ,素 材 ,技 術 ,組 織 な どに 関 して ,多 く の類 似 点 や共 通 点 を も って い る こ とがあ げ られ る。 そ して さ らに ,綜 続 が ,織 機 に特 有 の 構 成 部 品 で あ り,広 義 の編 物 の組 織 の な かで , 先 に織 物 の基 本 組 織 と して提 示 し た ,平 織 組 織 , 綾 織 組 織 ,編 子 織 組織 ,搦 織 組 織 や , それ らの変 化 組 織 に よ って構 成
され る織 物 組 織 の み が ,綜 続 , あ るい は ,綜 続 と開 口保 持 具 で 構 成 され る開 口具 に よ っ て構 成 す る こ とが 可 能 で あ る と い う こ とが あ げ られ る。
( 2 ) 織 物 と織 機 の 基 本 概 念
前 節 で は ,織 物 につ い て の筆 者 の考 え を , 編 物 との 比 較 に お いて 提 示 した 。 あ らた め て , そ れ らを整 理 し,要 約 す るな らば, 織 物 の 基 本 概 念 は, つ ぎの よ うに 規 定 され
る。
す な わ ち ,織 物 とは ,糸 , あ るい は ,糸 に類 す る線 状 物 を 経 糸 と緯 糸 と し, あ らか じめ直 線 的 に配 置 さ れ ,張 力 を そな え て い る経 糸 に対 して , 緯 糸 を 直 線 的 に交 叉 させ る こ とに よ って組 織 され た 製 品 で あ る。
した が って ,筆 者 の考 えて い る織 機 と は, 以 上 の よ うな 基 本概 念 に 該 当 す る織 物 を 織 るた め に使 用 さ れ る道 具 , あ るい は, 機 械 と して 位 置 づ け られ るが , そ れ らの織 機 には ,後 述 す るよ うに , 経 糸 を直 線 的 に配 置 し,経 糸 に張 力 を 付 与 す るた め の構 成 部 品 と して ,経 糸 保 持 具 の存 在 が基 本 的 に不 可 欠 で あ る。
な お, 上記 の よ うな織 物 の基 本 概 念 の うち ,経 糸 が あ らか じめ直 線 的 に配 置 され て いた か 否 か とい う こ とや ,経 糸 に張 力 が そな わ って いた か 否 か と い う こ と につ いて は , 織 りの 技 術 に関 わ る もの で あ り,製 品 か ら, そ れ らにつ い て の 明 確 な 判 断 は不 可 能 で
あ る場 合 が少 な か らず 認 め られ る。 ま た ,編 物 の うち に は ,素 材 や 組 織 に お いて は,
織 物 とま った く同一 の製 品 が存 在 す る とい うこ と も あ り う る。 した が って , 布 や布 状 の完 成 品 , あ るい は , そ れ らの断 片 の み に よ って , 織 物 と編 物 を判 別 す る こ と は, 厳 密 に は不 可 能 で あ る とい え るが ,一 般 的 に は ,搦 織 組 織 で 構 成 され て い る布 状 の 製 品 や , 素材 と して糸 が使 用 され ,織 物 と同様 の組 織 を構 成 し, か つ , 組 織 の 密 度 が 高 い 製 品 につ いて は, 織 物 と判 断 して さ しつ か えな い といえ る。
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国立民族学博物館研究報告 12巻 2号
2. 織 機 の 基 本 構 造
( 1 ) 織 りの基 本 運動
織 物 を織 る と い う技 術 の 基 本 は , す で に指 摘 して き た よ う に, あ らか じめ直 線 的 に 配 置 され , 張 力 を そ な え て い る経 糸 に対 して ,緯 糸 を直 線 的 に交 叉 させ て 組 み合 せ て い くこ とで あ る。 した が って ,織 り作 業 と して は ,ま ず ,経 糸 を 1本 ず つ す く った り,
経 糸 を い っせ い に 2つ の層 に分 離 し, そ れ らの 2つ の 層 の 相 対 的 な 位 置 関係 を交 互 に 逆 転 させ る こ と, す な わ ち ,緯 糸 を通 す た め の経 糸 の開 口 と逆 開 口を繰 り返 す 開 口運 動 炉不 可 欠 で あ る。 そ して さ らに , 開 口運 動 に よ っ て構 成 され た 経糸 の 開 口部 や逆 開 口部 に, 緯 糸 を 通 す た め の緯 入 運 動 も欠 くこ と がで きな い 。 また ,一 般 的 な織 りの作 業 で は ,開 口部 と逆 開 口部 に通 さ れ た緯 糸 を , そ のつ ど打 ち込 む こ とに よ って ,所 定
図 7 織 りの基 本 運 動 ==− 経糸 ・一 緯糸
の 位 置 ま で 移 動 さ せ る た め の 緯 打 運 動 も お こ な わ れ て お り , こ の よ う な 場 合 の 織 り 作 業 は , 開 口運 動 , 緯 入 運 動 , 緯 打 運 動 と い う 3種 類 の 運 動 の 繰 り返 し に よ っ て 成 立 して い る 。 し た が っ て , 一 般 的 な 織 り作 業 に お い て は , 開 口 運 動 , 緯 入 運 動 , 緯 打 運 動 は , 織 りの 基 本 運 動 と して 位 置
づ け ら れ る。
な お , こ れ ら の 基 本 運 動 の う ち , 緯 打 運 動 は , 一 般 に , 経 糸 の 開 口 部 に 緯 糸 を 入 れ た 場 合 に は , そ の 開 口 部 を 閉 じ合 わ せ る か , 逆 開 口 し た う え で お こ な わ れ て お り , 逆 開 口 部 に 緯 糸 を 入 れ た 場 合 に は , 逆 開 口 部 を 閉 じ合 わ せ る か , あ る い は , 開 口 し た うえ で お こ な わ れ て い る 。 し た が っ て , 一 般 的 な 織 り の 作 業 は , 図 7 に 示 す よ う に , 開 口 , 緯 入 , 閉 合
(ま た は , 逆 開 口 ), 緯 打 , 逆 開 口 , 緯 入 , 閉 合 (ま た は , 開 口 ), 緯 打
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と い う よ う に , 3種 類 の 基 本 運 動 に も と つ く, 8つ の 工 程 の 繰 り返 し に よ っ て 成 立 し て い る12)。 た だ し, こ の よ う な 8工 程 に わ た る織 り作 業 は , 基 本 的 に , 経 糸 を い っせ い に分 離 す る こ と に よ って , 経 糸 の 開 口 と 逆 開 口 を お こ な う こ と が 可 能 な 場 合 に 成 立 す る も の で あ り , 経 糸 を 1本 ず つ す く
っ て 開 口 さ せ る よ う な 場 合 に は , 開 口 運 動 と緯 入 運 動 が , 合 体 し て 同 時 に 進 行 す る と い う こ と も あ る 13)。
( 2 ) 織 機 の 主 要 構 成 部 品
織 機 に は ,多 数 の部 品 に よ って 構 成 され た複 雑 な もの か ら,単 一 の部 品 の み で織 機 と して成 立 し τい る単 純 きわ ま りな い もの まで さ ま ざ まで あ る。 し か しな が ら,効 率 良 く織 りを お こな う た め に は ,経 糸 を保 持 し,経 糸 に張 力 を 付 与 す るた め の経 糸 保 持 具 と,織 り の 基 本 運動 に対 応 す る, 開 口具 ,緯 入 具 ,緯 打 具 な ど の 4種 類 の構 成 部 品 が 必要 で あ り, これ らは ,織 機 の主 要 な 構 成 部 品 と して位 置づ け られ る。
以 上 の よ うな 4種 類 の構 成 部 品 は , 織 機 の う ち,近 世 以 降 に 出現 した動 力 織 機 や足 踏 み織 機 の す べ て と,大 半 の
写 真 2 草 履 台 を も ちい た草 履 づ くり 八 丈 島 ・樫 立 (1987年 3月 撮 影 ) 12)一 般 的 な 織 り作 業 のな か で ,緯 打 運 動 の前 段 階 にお い て ,経 糸 の開 口部 を 閉合 状 態 とす る こ とがで き るの は, 基本 的 に, 後 述 す る手 織 機 の 構成 部 品 の う ちの 開 口保 持 具 が 存 在 しな い場 合 の み で あ る。 た だ し, この場 合 に お い て は, 緯 入 運動 を お こな った さ い に開 口 して い た経 糸 を , 閉 合状 態 と した の ちに緯 打 運 動 を お こな う場 合 と, 緯入 運 動 を お こな った さい の 経 糸 の開 口部 を逆 転 させ て , 開 口を逆 開 口 と した の ち, あ る い は ,逆 開 口を 開 口 と したの ちに 緯 打運 動 を お こな う場 合 が あ る。 な お ,開 口保 持 具 がそ な わ って い る場 合 にお い て は, 経 糸 の 開 口部 を閉 じ 合 わせ る こと がで きな い 。 した が って , この場 合 は, 緯入 運 動 を お こな った さい の 経 糸 の開 口 部 を 逆 転 させ て , 開 口を逆 開 口 と した の ち ,あ るい は ,逆 開 口を 開 口 と したの ちに 緯 打運 動 が お こな わ れ る 。な お ,図 7で は,開 口 と逆 開 口の 形 態 は ,いず れ も両 口 開 口 によ って示 したが , 後 述 す る よ う に, 開 口 と逆 開 口の 形 態 に は, 片 口開 口 もあ り うる 。 ま た, 開 口や逆 開 口 がお こ な わ れ る経 糸 につ い て も,便 宜 的 に水 平 に設 置 され た状 態 で あ らわ した。
13) この よ うな 例 の うち に は, 草 鮭 づ く りや 草 履 づ く りが あげ られ る。 な お ,草 鞍 づ く りや草 履 づ くりに お いて は, 一般 に ,緯 打 運 動 は 明瞭 で はな く, 緯糸 に相 当す る 藁 は, 緯 入 運 動 と併 行 して , 経 糸 に相 当す る藁 , あ る い は, す で に織 られ て い る部 分 を 保 持 して い る手 の , 鈎状 に折 り曲 げ た指 を使 って 引 き締 め られ る にす ぎな い。
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国立民族学博物 館研 究報 告 12巻 2号
手 織 機 には , か な らず そ な わ っ て い る。 しか しな が ら,一 部 の手 織 機 に は , か な らず
しも,前 記 の 4種 類 の主 要 構 成 部 品 の す べ て が そ な わ って い るわ けで は な く, も っ と も単純 な手 織 機 の ひ とつ と して は, 構 成 部 品 が , 唯 一 ,経 糸 保 持 具 の み とい う例 が あ る。 わ が 国 の草 軽 づ くりや 草 履 づ くり ( 写 真 2) に使 用 さ れ て い る 草 轄 台 や 草 履 台 は , そ の代 表 的 な も の と いえ , この 場 合 の 草鮭 台 や 草履 台 は ,草 鮭 や 草 履 を 織 る た め の 織 機 と して 位 置 づ け られ る1 4 ) 。
な お ,以 上 の よ うに ,織 機 の 4種 類 の 主 要 構 成 部 品 の うち か ら, そ の一 部 が欠 け て い る とい う例 は ,手 織 機 に お いて の み 認 め られ るが ,今 日で は , この よ うな手 織 機 の 存 在 は , きわ め て稀 で あ る。 しか しな が ら, これ ま で に確 認 さ れ て い る手 織 機 の うち で は , 開 口具 ,緯 入 具 , 緯 打 具 の す べ て , あ るい は , いず れ か が使 用 さ れ て い て ,経 糸 保 持 具 が使 わ れて いな い と い う例 は な く, い か な る手 織 機 に お い て も ,す くな くと も経 糸 保 持 具 は , か な らず 存 在 して い る。 した が って ,経 糸 保 持 具 は ,織 機 の主 要 構 成 部 品 の な かで ,絶 対 不 可 欠 の もの とは い え な い ま で も, も っ と も基 本 的 な 構 成 部 品
で あ ると い う こ とが で き る。
( 3) 織 機 の基 本 構 造 と主 要 構 成 部 品
織 物 を織 るた め に織 機 を 使 う場合 に は ,経 糸 は ,織 機 の基 本 構 造 に ,不 可 欠 の構 成 要 素 とな って い る。 と りわ け,手 織 機 で は , そ の基 本 構 造 が 経 糸 と一 体 とな って 成 立 して い る も のが 数 多 く存 在 して お り,経 糸 が手 織 機 の構 成 部 品 にか け られ て い な い場 合 に は ,手 織 機 と して の 形態 が成 り立 た ず ,手 織 機 の構 成 部 品 は, 単 な る棒 の 集合 体
と しか いえ な いよ うな もの が少 な くな い。
一 方 , 織 機 の 主 要 構 成 部 品 で あ る経 糸 保 持 具 , 開 口具 ,緯 入 具 ,緯 打 具 の う ちで , 経 糸 と と も に, 織 機 の 基 本 構造 に 関係 す る構 成 部 品 と して は, 経 糸 保 持 具 と開 口具 の 2種 類 のみ が あげ られ る。 そ れ は ,経 糸 保 持 具 と開 口具 が, つ ね に経 糸 と直 接 的 に連 繋 して い る こ と に よ って い る。 た だ し, 開 口具 は ,後 述 す る よ う に,綜 続 と開 口保 持 具 に大 別 され るが , と くに 開 口保 持 具 に 関 して は ,織 りの 基 本 運 動 の 作 業 工 程 の な か で , 経 糸 の あ いだ か ら抜 き取 られ る場 合 が あ る。 した が って , 開 口具 の うち , 厳 密 に 経 糸 とつ ね に連 繋 して い るの は ,綜 続 の み に限 定 さ れ る。
この よ うな 経糸 保 持 具 と開 口具 に対 して ,緯 入 具 と緯 打 具 は ,動 力 織 機 と足 踏 み 織 機 , さ らに は, 一 部 の手 織 機 な ど で は ,織 機 の本 体 に付 属 して い るが ,大 半 の手 織 機 1 4 )草鞍台 と草履台は基本的 に同一 のものであ り,一般 的には, 1つの台が,草 鮭づ くりに使わ れる場合 には草鮭台 と呼ばれ,草履づ くりに使われる場合には草履台 と呼ばれて いる。なお,
草鮭台や草履台 については, 後述する無綜続機の 1型式 と して提示 した AO o c d型機 の記述,
な らびに,写真 4を参照 されたい。
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吉本 手織機の構造 ・ 機能論的分析と分類
で は ,織 機 の本 体 か ら独 立 して お り,緯 入 具 は ,緯 糸 を通 す と き, 緯 打 具 は , 緯糸 を 打 ち込 む と きに , そ れ ぞれ 一 時 的 に経 糸 と関係 して い るにす ぎ な い。
な お ,経 糸 保 持 具 と開 口具 は, 上 述 の よ うに ,つ ね に経 糸 と関係 して い る。 た だ し,
前 項 で も指 摘 した よ う に,経 糸 保 持 具 が そ な わ って い な い織 機 は , これ ま で に は知 ら れて い な い が, 開 口具 につ いて は, か な らず し も,す べ て の織 機 に そな わ って い る構 成 部 品 で はな い と こ ろか ら,織 機 の基 本 構 造 に 関 わ る構 成 部 品 は , 開 口具 の ぞ なわ っ て い な い織 機 で は,経 糸 保 持 具 の み で あ り, 開 口具 の ぞ な わ って い る織 機 で は ,経 糸 保 持 具 と開 口具 とな る。 した が って ,織 機 の基 本 構 造 は ,経 糸 と経 糸 保 持 具 , あ る い は, 経 糸 と経 糸 保 持 具 と開 口具 によ って 決定 さ れ て い る といえ , 経 糸 と経 糸 保 持 具 , 経 糸 と開 口具 , さ らに は ,経 糸 と経 糸 保 持 具 と開 口具 の 相 互 関 係 に よ って 、 さま ざ ま
に異 な って い る。
皿. 経 糸 と経 糸 保 持 具 の関 係
経 糸 保 持 具 は ,経 糸 を保 持 す るた めの 構 成 部 品 で あ り, 経 糸 を 直 線 的 に配 置 し,経 糸 に 張力 を付 与 す る た め に使 用 され て い る。 この よ うな経 糸 保 持 具 と経 糸 と の 関係 に お いて ,手 織 機 の基 本 構 造 に関 わ る要 素 と して は ,経 糸 の保 持 方 式 と整 経 方 式 が あ げ
られ る。 以 下 で は , 3種 類 の 保 持 方 式 と, 4種 類 の 整経 方 式 を提 示 す るが , そ の前 に , 経 糸 の保 持 方 式 や 整 経 方 式 に関 係 す る, 経 糸 保 持 具 の 機 能 と設 置 方 式 に つ い て あ き ら か に して お く。
な お ,前 章 ま で は , あ らゆ る織 機 , す な わ ち,動 力織 機 や人 力 織 機 を含 む , す べ て の織 機 を 念 頭 に お いて 記 述 を お こな って きた が ,本 稿 で と りあ つ か う織 機 は ,人 力 織 機 の うち に包 括 され る手 織 機 で あ り, 本 章 以 降 で は,手 織 機 に限 定 して記 述 を す す め る。 ただ し, 以 下 の記 述 も,基 本 的 に は ,織 機 全 般 に共 通 す る もの で あ る こ とに か わ りは な い。
1. 経 糸 保 持 具 の 機 能 と 設 置 方 式
手 織 機 にそ な わ って い る経 糸 保 持 具 の数 や形 態 は さ ま ざ まで あ り ,個 々 の経 糸 保 持 具 の 機 能 や 設 置 方 式 も一 様 で は な い 。 しか しな が ら,後 述 す る経 糸 の保 持方 式 や 整経 方 式 に は, 経 糸 保 持 具 の 数 や 形 態 は 直 接 的 に は 関係 して お らず ,以 下 に述 べ る経 糸 保 持 具 の機 能 と設 置 方 式 の 違 いが 深 く関 わ って い る。
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国立民族学博物 館研究報 告 12巻 2号