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アメリカ文化研究

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研究チーム報告

【人文科学研究部】

アメリカ文化研究

アメリカ文化研究(課題番号:013002)

研究期間:平成13年4月1日〜16年3月31日

研究代表者:光冨省吾 研究員:永田元義、野田壽、大島由起子、樋渡真理子

【研究成果】

20世紀は良い意味であれ、悪い意味であれ、

アメリカを中心に動いた100年であったといわ れる。この研究チームは世界におけるアメリカ の位置をふまえて、アメリカの慣習、思想、文 学、教育、芸術などを多角的に研究する目的で スタートし、様々な角度からアメリカとは何か を追求してきた。それぞれの委員は、以下のよ うな研究テーマに基づいて活動を行ってきた。

1.永田元義:アメリカ文化と日本の英語教育 の問題

2.野田壽:詩人エミリー・ディキンスンと19 世紀アメリカ社会

3.大島由起子:ハーマン・メルヴィルとネイ ティブ・アメリカン

4.樋渡真理子:ウィリアム・フォークナーの フェミニズム的観点からの作品解釈

5.光冨省吾:アーネスト・ヘミングウェイの 政治意識:特に権力構造の研究

実際の研究活動においては、上記の研究テー マを念頭におき個別の活動を行いつつ、それぞ れの研究テーマを他の委員と共同で検討して発 展させたり、学外の研究者との共同作業を進め てきた。活動内容は多岐に及ぶが、共同研究に 関しては、文学作品を歴史的・人種民族的・文 化的な文脈から捉え直す共同研究を行ってきた といえるだろう。

この研究チームの研究活動の主要な成果を紹

介する。

永田元義は他民族社会アメリカの教育制度を 通して、アメリカ社会の問題点を研究した。

野田壽は、長年に及ぶエミリー・ディキンス ン研究の集大成を行ってきた。その成果は、

『ディキンスン断章』(英宝社)に発表してい る。

大島由起子が、ネイティブ・アメリカンに関 するステレオ・タイプを解体して、そのアイデ ンティティを確立させ、新たな「アメリカ」を 見せてくれる注目の書『逃亡者のふり:ネイ テ ィ ブ・ア メ リ カ ン の 存 在 と 不 在 の 光 景』

(ジェラルド・ヴァイゼナー著)を開文社から 翻訳出版した。

樋渡真理子は、フェミニズム、ジェンダーの 観点から行われたフォークナー研究文献を分 類・整 理 し て フ ォ ー ク ナ ー 文 学 研 究 専 門 誌

『フォークナー』第4号で紹介した。

樋渡真理子と光冨省吾は、佐賀大学の研究者 と共同でアフリカ系アメリカ人作家アリス・

ウォーカーの『カラー・パープル』のテキスト の文化的背景(アフリカ系アメリカ人の歴史、

世界観、宗教意識、価値体系、生活様式)と作 品中の語句の詳細な分析を行い、『福岡大学研 究部論集』でその成果を発表した。アフリカ系 アメリカ人でかつ女性作家のウォーカーの作品 はジェンダーの問題と人種差別の問題が巧みに 混交されており、他民族社会アメリカの研究に ふさわしいテーマである。

さらに樋渡真理子と光冨省吾は、九州地区を

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中心としたアメリカ文学研究者と共同で、これ までの白人・男性中心のアメリカ文学史のキャ ノンの見直しを行い、これまで文学史から排除 されてきたマイノリティの作家を含めてアメリ カニズムの変貌を洗いなおし、研究成果を『21 世紀から見るアメリカ文学史』(英宝社)にま とめた。

光冨省吾は、ヘミングウェイ文学におけるネ イティブ・アメリカンに注目し、白人ヘミング ウェイの先住民に対する複雑な感情を「『春の 奔流』におけるヘミングウェイの政治意識」に おいて分析した。同時にこれまでも行ってきた ヘミングウェイの使用語彙リスト分析を発表し た。さらに映画も20世紀のアメリカが生んだ文 化であるという立場から、映画『シティ・オブ・

エンジェル』におけるヘミングウェイの影響(ヘ ミングウェイ作品との共通の時間感覚)を分析 した。映画『海の上のピアニスト』に描かれる ジャズのモダニズム的特質を明らかにした。

【研究業績】

野田壽

『ディキンスン断章』英宝社、2003。

大島由起子

「異人種の契りへの見果てぬ夢−『ホープ・レ ズリー』から『白鯨』へ」、『英語青年』2002。

『ネイティヴ・アメリカンの文学』(西村頼男 他編)ミネルヴァ書房、2002。

『逃亡者のふり:ネイティヴ・アメリカンの 存 在 と 不 在 の 光 景』(ジ ェ ラ ル ド・ヴ ィ ゼ ナー著:翻訳)開文社出版、2002。

『新しい風景のアメリカ』(伊藤詔子他編)南 雲堂、2003。

樋渡真理子

「ウ ィ リ ア ム・フ ォ ー ク ナ ー の 女 性 批 評 解 題」『フォークナー』(松柏社)、2002。

光冨省吾

「『春の奔流』におけるヘミングウェイの政治

意識」、福岡大学研究部論集第2巻A=人文 科学編第2号、2002。

「『シティ・オブ・エン ジ ェ ル』と ヘ ミ ン グ ウェイ:インターテクスチュアリティと時間 感覚」、福岡大学人文論叢第34巻第4号、2003。

「『海の上のピアニスト』における即興演奏へ の衝動」、福岡大学人文論叢第35巻第2号、

2003。

「ヘミングウェイとムッソリーニ!」福岡大 学人文論叢第35巻第4号、2004。

樋渡真理子・光冨省吾

「注解『カラー・パープル』:アメリカの言 語と文化」『福岡大学研究部論集』第2巻A

=人文科学編第2号、2002。

『21世紀から見るアメリカ文学史』(早瀬博 範・吉崎邦子編)、英宝社、2003。

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研究チーム報告

【人文科学研究部】

東西美術論研究

東西美術論研究チーム(課題番号:013001)

研究期間:平成13年4月1日〜16年3月31日 研究代表者:浦上雅司 研究員:古川智次

【研究概要】

現代において「美術」はわれわれの周囲に溢 れているが、あらゆる時代、あらゆる文化にお いて、ひとびとが美術作品やその作者に関心を 示したわけではない。むしろ、美術理論や美術 の歴史に関心を持った文明や時代の方が希だっ た。

美術作品の歴史的研究を行う専門学である

「美術史」が生まれたヨーロッパにおいても、

美術理論、美術史が常に存在したわけではない。

そうした関心は、古代ギリシア時代からローマ 時代にかけて存在し、その後、ルネサンスとい う新しい文化観の台頭と共に復活したものだっ た。15世紀半ば以降、とりわけイタリアにおい ては実に多くの美術論、美術の歴史を取りあげ た著作が登場する。そして、ルネサンスという 文化運動の広まりと共に、美術への関心もアル プスを越えてフランスやドイツ、イギリスなど にももたらされていったのである。

ヨーロッパと並んで、東洋でも古くから美術 論が存在していた。中国ではよく知られている ように、9世紀半ばの唐に生きた張彦遠が『歴 代名画記』を著述している。この著書は、絵画 の源流からコレクションの歴史、書法、鑑識な ど一般的な事項を論じた後、上古から唐にいた る画家伝を加えた著作で、ヨーロッパにおける プリニウスの著作や、ヴァザーリの美術家列伝 と比べることもできるだろう。また日本におい ても、やや遅れるが、17世紀の末に、最初の本 格的な日本美術史の著作とされる『本朝画史』

が編纂されている。

本専門委員会では、主としてヨーロッパと日 本における美術論、特に絵画論に焦点をあて、

両地域におけるその扱い方を比較対照すること によって、それぞれの特色をより的確に理解す ることを目指し、それぞれの専門分野から多角 的に研究を進めた。特に、ヨーロッパと日本と の直接的な関わりが深まった幕末から明治以後 にかけては、ヨーロッパから日本への影響だけ でなく、日本からヨーロッパへの影響も視野に 入れた上で、研究を進めることが必要である。

また、美術理論が具体的な制作とどのように関 わっているのか、作品を巡るフィールドワーク も平行して行うことによって、理論と実践との 関わりについても知見を深める。

【研究成果】

〈古川 智次〉

日本の近代絵画とその基礎となる美術論に関 する資料の調査、収集を行うとともに、ヨーロッ パにおける美術思潮との影響関係、また日本古 来の「画論」との関係について研究を進めた。

フィールドワークの領域では、明治期から昭 和初期にかけて活躍した日本画家富田渓仙に焦 点を当て、その代表的な作品と同時代の美術思 潮との関連を浮き彫りにすることを試みた。

〈浦上 雅司〉

特にイタリアにおける16世紀から17世紀にか けての美術論の調査、収集を行うことによって、

19世紀末までヨーロッパの美術界における主流

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であった、いわゆる「古典主義」美学の特色を 明らかにする。特に、詩論や音楽理論などとの 比較によって、「文芸理論」の大きな枠組みの 中で「古典主義」絵画論の成り立ちと特色の理 解に取り組んだ。

フィールドワークの領域では、17世紀に完成 されたイタリアの古典主義絵画理論と深い関連 を持つ画家ドメニキーノことドメニコ・ザンピ エーリの作品の特質について考察すると同時に、

この画家が美術について書き残した文献ならび に彼の伝記を同時代の美術論の文脈で読み込む ことによって、この画家の特質をあきらかにす るとともに、17世紀イタリア古典主義絵画理論 の特質にも焦点をあてることを試みた。

【研究業績】

〈古川 智次〉

「渓仙の新機軸−『鵜船』(大正元年作)を巡っ て−」 単著 『福岡大学人文論叢』 第33巻 第3号 pp.1887〜1910 2001年

「児島善三郎資料集−その創造と軌跡−」 単 著 『デ アルテ(九州藝術学会論集)』 第 15号 pp.61〜66 1999年

「吉田博・和田三造・児島善三郎・中村研一 の戦後」 単著 『福岡美術戦後物語展図録』

(福岡市美術館) pp.27〜28 1999年

〈浦上 雅司〉

「ジョヴァンニ・バリオーネ著『ドメニコ・

ザンピエーリ伝』:翻訳と解説」 単著 『福 岡大学人文論叢』 第35巻第3号 pp.1259〜

1290 2003年

「ベッローリ著 ドメニキーノ伝 :翻訳と解 説」 単著 『福岡大学研究論集第2巻A:人 文科学編』 第6号 pp.65〜115 2003年

「クルツ著 シュロッサー伝 :翻訳と解説」

単著 『福岡大学人文論叢』 第34巻第4号 pp.2169〜2191 2003年

「カッシアーノ・ダル・ポッツォと紙の博物

館」 単著 『西洋美術研究』(三元社)第8 号 pp.61〜81 2002年

「シュロッサー著 造形芸術における様式の 歴史と言語の歴史について :翻訳と解説」

単著 『福岡大学総合研究所報』 第249号 pp.11〜54 2001年

「修辞学の伝統とアルベルティの『絵画論』:

historiaの概念を中心に」 単著 『福岡大学

人 文 論 叢』 第32巻 第1号 pp.1〜26、2000 年

「ジョヴァンニ・バッティスタ・アグッキの

『絵画論』について」 単著 『九州産業大学 共同研究成果報告書』 pp.132〜145、2000年

「ピエトロ・ダ・コルトーナ展」 単著 『西 洋 美 術 研 究』(三 元 社)第3号 1999年 pp.196〜200

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研究チーム報告

【社会科学研究部】

モラルハザード解消とその周辺問題

モラルハザード解消に関する経済分析研究(課題番号:014003)

研究期間:平成13年4月1日〜16年3月31日

研究代表者:渡辺淳一 研究員:赤羽根靖雅、鍵原理人、西原宏、林基

【研究成果】

本研究チームは、モラルハザードの解消の可 能性を理論的および実証的に究明することを目 標としてきた。

! 本研究課題の中心となる理論モデル分析と して、契約理論を基礎にした制度分析との関 わりから、交渉理論の研究を行った。完備契 約理論は、取引の当事者の間で重要と思われ る全ての事柄に関して契約に定めることがで きる状況を考え、モラルハザードを抑制する 契約の形態は何かなど情報の非対称性によっ て生じる非効率性を抑制する契約(メカニズ ム)を分析する。それに対し、不完備契約理 論では、重要な項目に関して契約に定めるこ とが出来ない状況で、規制や法制度によって 取引に参加する経済主体に効率的な行動をと るインセンティブを与えるかを研究する。こ れまで、契約理論の研究の多くは、交渉モデ ルを簡便に扱ってきた。しかし、近年では、

交渉費用を明示し、非効率性が発生するメカ ニズムを明示した論文や、交渉で話し合われ る案件が複数ある状況を考え、交渉事案を話 し合う順序などが交渉結果にどのような違い をもたらすか研究されている。つまり、交渉 理論はよりミクロの視点から研究されている。

そこで、まず近年の交渉理論のサーベイを行 い、契約理論との関わりからどのように制度 分析が可能か模索した。このサーベイの成果 は、近いうちに単行本として出版予定である。

" 交渉費用がある状況で外部機会費用が交渉

結果にどのような影響を与えうるかを研究し た。交渉費用がサンクする場合、交渉が成立 することが社会的に効率的であるにもかかわ らず、交渉が開かれず非効率的結果に終わる ことがあり得る。赤羽根(2002)では、交渉 関係を保つことにより第三者との取引が行え ないために外部機会費用が発生するなら、交 渉決裂のルールによっては効率性を改善しう ることを示した。当事者の片方が交渉の席か ら降りれば交渉が決裂してしまうルールのと きは、Anderlini and Felli(2000)とほぼ同じ 結果になる。それに対し、当事者の同意が在 る場合に限って交渉が決裂する状況ならば、

交渉が成立する可能性が高くなる。これら交 渉決裂のルールの違いは、例えば通信分野や 石油のパイプラインにおけるアクセス規制に 関する評価の基礎となりうるであろう。

# 交渉事案が複数ある状況を明示する分析を 応用し、企業統合のミクロ分析を行った。日 本においては独占禁止法の観点から持ち株会 社は規制されていたが、近年の規制緩和に よって認められるようになった。その結果と して、金融機関を中心に持ち株会社制度を用 いて企業統合をするケースが目立っている。

経済理論的には、必ずしも持ち株会社による 統 合 の メ リ ッ ト は 明 確 で は な い。赤 羽 根

(2003)では、企業統合の比較として合併と 持ち株会社を考え、これらの違いが交渉事案 を話し合う順序の違いとして捉えられないか を考察した。その結果として、交渉順序の違

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いのみに着目した場合、一般に部門の統廃合 を先送りする持ち株会社は非効率的であるこ とが示されている。今後は、この分析を基礎 に、投資行動なども含めたモデルを考えるこ とで、経済環境と企業統合の形態の選択行動 の関係が明確にされるものと考えられる。

! 従来、モラルハザードが発生する問題は情 報が不完備な非協力ゲームの枠組みで分析が 行われてきたが、これまでの成果を踏まえ、

Nishihara and Watanabe(2002)では協力ゲー ムの理論を用いて管理者の戦略的な情報伝達 とモラルハザードの解消可能性を、効率的な 保険制度の設計可能性を題材として検討した。

" 相互情報量は、ある変数の動きに対して、

他の変数がもたらす情報の量として解釈され、

計量経済学の様々な問題に関して、適用可能 な有用な概念である。とりわけ、回帰分析の 枠組みにおける変数選択の問題は重要な応用 であり、被説明変数の動きの予測に関して、

複数候補ある説明変数のいずれがより有用か の問題に対し、一つの解答を与える。従来の 伝統的な検定法との関連について考察した。

【研究業績】

赤羽根靖雅、 企業統合の交渉理論分析 、福岡 大学経済学論叢第48巻第1・2号、平成15年 9月。

赤羽根靖雅、 交渉理論における外部機会費用 とコミットメントの効果 、西日本理論経済 学会発表、平成14年。

Msatao Kagihara and Kohtaro Hitomi, “Calculation Method for Nonlinear Dynamic Least-Absolute Deviations Estimator”, Journal of the Japan Sta- tistical Society, vol.31, pp.39-51. 2001.

Ko Nishihara and Junichi Watanabe, “Stable Coali- tion Structure for Mutual Insurance”, Discussion Paper No.54, Faculty of Economics, Fukuoka University, 3/2002.

Junichi Watanabe, “Incentive for Merger in Bertrand Duopoly with Endogenous Input Prices”、福岡 大学経済学論叢第47巻第4号、平成15年3月。

Junichi Watanabe, “On Convexity of Common Pool

Games”、福岡大学経済学論叢第47巻 第3号、

平成14年12月。

Junichi Watanabe, “Merger Profitability in a Price

Competition”、福岡大学経済学論叢第47巻第

3号、平成14年12月。

Junichi Watanabe, “Strategic Uncertainty and Strat-

egy Choice”、福岡大学経済学論叢第46巻第

3・4号、平成14年3月。

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研究チーム報告

【理工学研究部】

地球古環境の復元

地球古環境の復元科学研究チーム(課題番号:015001)

研究期間:平成13年4月1日〜平成16年3月31日

研究代表者:上野勝美 研究員:鮎沢 潤、石原与四郎、奥野 充、杉原 薫、!山哲男、田口幸洋、柚原雅樹

【研究の背景と目的】

46億年の歴史を持つ地球は、最近の6億年間 だけでも、大きな環境の変動事変を数多く経験 している。それは、時には現在の地球環境問題 を遙かにしのぐ規模で、過酷な状況が生じたと も言われている。こうした過去の環境変動の要 因、過程、その影響について、地質学的な手法 を主体として定量的に解析し、学際的な視点で 地球史の各時代における地球表層環境をより具 体的に復元することが、本研究チームの目的で ある。より効率的に研究成果をあげるため、研 究チームの中に、深部−浅部物質循環環境、テ クトニック環境変動、古生物圏環境変動の3グ ループを編成し、研究を行った。

【研究成果】

・深部−浅部物質循環環境グループ(奥野、田 口、柚原)

地球深部から浅所への物質移動の過程を解明 する一環として、西南日本の領家帯および北部 九州地方に分布する花崗岩体において地質調査 ならびに各種化学分析を行った。これにより、

いくつかの花崗岩体について、その岩石学的特 徴、活動時期、さらには岩体が固結後に被った 変形作用と熱水作用の特徴が明らかになった。

一方で、主に火山周辺の熱水が関与した古環境 の解析を進めた。特に、九重火山付近で現在の 火山の噴気活動下での変質作用の過程の解明に 関する研究を行い、この結果を過去に応用する ことにより、八丁原地熱帯の変質過程にも同様

な火山噴気活動があったことを明らかにした。

・テクトニック環境変動グループ(石原、上野、

奥野、!山)

主に第四紀の環境変動の解明を中心に、以下 の研究を進めた。1つは、大都市圏地下に分布 する軟弱な沖積層の分布および堆積相の検討で ある。この研究では、関東平野を例に高密度で 年代値の入れられたボーリング・コアの検討と、

コア資料を用いて3次元的な地下地質分布の検 討を行った。その結果、これらの地層が1万年 以降の海進・海退によって形成されたエスチャ リー・システム、デルタ・システムからなるこ とが明らかになった。また、ごく最近の過去に おける高精度地球表層環境変遷の解明の一環と して、佐賀県東松浦郡七山村池原の樫原湿原で 有史以降の地球表層環境変化を検討するための ボーリング・コア試料を採取した。年代、堆積 物密度および炭素・窒素含有量を測定した結果、

このコア試料には、中世以降の環境変化が鋭敏 に記録されている可能性が強いことが明らかに なった。また、樫原湿原の成因が人為である可 能性もあり、植物遺骸、昆虫および珪藻化石の 分析を進めつつある。

・古生物圏環境変動グループ(鮎沢、上野、杉 原、!山)

地質時代および現世のサンゴ礁堆積物分布地 域を対象に、礁生態系の時代的特徴およびサン ゴ礁へ流入する河川堆積物の影響を明らかにす る目的で研究を進めた。地質時代の礁性堆積物 としては、山口県秋吉台に分布する秋吉石灰岩

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(後期古生代)で調査を行った。その結果、秋 吉古生物礁の内側礁原斜面にみられる被覆型礁 フレームワークにおいては、基盤と被覆性生物 種の間に出現頻度の高い相関が認められること が明らかになった。また、礁前面斜面では枝状 四放サンゴの基盤付着力を被覆型こけ虫が補う ことによって、高エネルギー環境下でも礁フ レームワークを構築していたことを明らかにし た。一方現世における礁環境生態系の研究とし て、琉球列島のサンゴ礁域において礁を構成す るサンゴ類の種構成の緯度変化を検討した。こ の研究を通じて、種構成の変化としては緯度の 北上と共にミドリイシの種多様性が著しく減少 する一方、キクメイシの種多様性はあまり変わ らないことが明らかになった。このことから、

緯度の北上に伴う造礁サンゴ相の種多様性の減 少と礁地形発達の衰退には、ミドリイシの種多 様性の減少が大きく関与していることが予想さ れる。さらに、サンゴ礁へ流入する河川堆積物 の堆積学的検討および水質化学的評価を行うた め、石垣島白保地域で調査を行った。分析の結 果、1)堆積物の有機物含有量は層位変化が大 きい、2)間隙水のpHと堆積物の鉱物組成は 層位変化が小さい、3)間隙水の酸化還元電位 は、堆積物表層からの深度の増加と共に低下す ることが判明した。酸化還元電位は、続成変化 を考察するうえで有用であると考えられる。

【主な研究業績】

Inagaki, F., Motomura, Y., Taguchi, S., Doi, K. and Ogata, S., 2003, Biogenic silica deposition in geothermal hot water. Proc. 25th NZ Geothermal Workshop, 61-64.

三木孝・鮎沢潤、2003、石炭鉱床、資源環境地 質学。資源地質学会、131‐136.

奥野充、2002、南九州に分布する最近約3万年 間のテフラの年代学的研究。第四紀研究、41:

225‐236.

奥野充、2002、水蒸気噴火の噴火史研究.金沢 大学文学部地理学報告、10:29‐36.

奥野充・水田利穂、2002、山地斜面の古環境学

−脊振山地での取り組み−.月刊地球、24:

803‐806.

Okuno, M. and Nakamura, T., 2003, Radiocarbon dating of tephra layers: recent progress in Japan.

Quaternary International, 105: 49-56.

奥野充・上田恭子・森勇一・中村俊夫・長岡信 治・尾田武文・長谷義隆・稲永康平・水田利 穂、2004、北部九州、樫原湿原のボーリング・

コアの層序とC年代.名古屋大学加速器質 量分析計業績報告書、XV,157‐164.

Schlee, D.・鮎沢潤、2002、日本の琥珀.北九

州自然史博物館、72p.

Sugihara, K., Nakamori, T., Iryu, Y., Sasaki, K., and Blanchon, P., 2003, Holocene sea-level change and tectonic uplift deduced from raised reef ter- races, Kikai-jima, Ryukyu Islands, Japan. Sedi- ment. Geol., 159: 5-25.

Sugiyama, T. and Ezaki, Y., 2002, Paleozoic and Mesozoic corals. In Ikeya, N., Hirano, H., and Ogasaware, K. (eds.), The database of Japanese fossil type specimens described during the 20th Century, Spec. Pap. Palaeont. Soc. Japan, 40:

184-229.

!山哲男・藤瀬浩・田口幸洋・長井孝一、2003、

秋吉生物礁石灰岩中に含まれる自形石英結晶 の産状と成因.秋吉台科学博物館報告、38:

1‐21.

Taguchi, S., Oikawa, K., Kiyosaki, J., Chiba, H. and Motomura, Y., 2003, Manifestation of high tem- perature hypogene acid alteration in steaming ground at the Hatchobaru geothermal field, Ky- ushu, Japan. Proc. 25th NZ Geothermal Work- shop: 161-165.

Ueno, K. and Tazawa, J., 2004, Monodiexodina from the Permian Oguradani Formation, Hida

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Gaien Belt, central Japan. Sci. Rep., Niigata Univ., (Geol.), 19: 25-33.

柚原雅樹・鮎沢潤・ほか26名、2003、福岡県津 屋崎、北崎トーナル岩中に発達する断裂系.

福岡大学理学集報、33(2):65‐76.

Yuhara, M., Miyazaki, T., Kagami, H. and Yuhara, M., 2003, Rb-Sr and K-Ar geochronology and pe- trogenesis of the Aji Granite in the eastern Sanuki district, Ryoke Belt, southwest Japan. Jour. Min- eral. Petrol. Sci., 98(1): 19-30.

柚原雅樹・田口幸洋、2003、ガラスビード法に よる珪酸塩岩石のCoおよびSの蛍光X線分 析.福岡大学理学集報、33!:77‐81.

Aizawa, J., 2000, Thermal history of selected sedi- mentary basins in an island arc: evidence from or- ganic matter and fluid inclusions. In, Glikson, M.

and Mastalerz, M. (ed.), Organic Matter and Mineralisation: Thermal Alteration, Hydrocarbon Generation and Role in Metallogenesis, p.400- 420. Kluwer Academic Publishers, Dordrecht/

Boston/London.

松岡淳、徳永愛香、"山哲男、2002、DELTA Plus 安定同位体比質量分析計による炭酸塩試料の 炭素・酸素同位体比の測定について.福岡大 理集報、32(2):53−62.

奥野充、2001、テフロクロノロジーとCクロ ノロジー.第四紀研究、40:461‐470.

奥野充・福島大輔・小林哲夫、2000、南九州の テフロクロノロジー−最近10万年間のテフラ

−.人類史研究、12:9‐23.

Okuno, M., Nagaoka, S., Hase, Y., Mori, Y., Kono- matsu, M., Takahashi, T., Nakamura, T. and Nishida, T., 2001, 5.2-5.8 ka BP paleo- environment of the southern slope of Mount Rai- zan, Japan. Radiocarbon, 43: 703-710.

Taguchi, S., Sanada, K., Watanabe, M. and Izawa, E., 2001, Hydrothermal activity of silicified rock for- mation in low sulfidation epithermal gold depos-

its at Fuke, southern Kyushu, Japan. Proc. Inter- nat. Symp. Gold and Hydrothermal Systems, 2001, Fukuoka, Japan: 57-60.

Ueno, K., 2001, Jinzhangia, a new staffellid fusuli- nacea from the Middle Permian Daaozi Forma- tion of the Baoshan Block, West Yunnan, China.

Jour. Foram. Res., 31(3): 233-243.

Ueno, K., Mizuno, Y., Wang, X. D. and Mei, S. L., 2002, Artinskian conodonts from the Dingjiazhai Formation of the Baoshan Block, West Yunnan, Southwest China. Jour. Paleont., 76(4): 741-750.

Ueno, K., Wang, Y. J. and Wang X. D., 2003, Fusuli- noidean faunal succession of a Paleo-Tethyan oceanic seamount in the Changning-Menglian Belt, West Yunnan, Southwest China: An over- view. The Island Arc, 12(2): 145-161.

Villa, E. and Ueno, K., 2002, Characteristics and pa- leogeographic affinities of the early Gzhelian fusulinoideans from the Cantabrian Zone (NW Spain). Jour. Foram. Res., 32(3): 135-154.

Yuhara, M., Kohno, M., Kagami, H., Hiroi, Y. and Tsuchiya, N., 2003, Petrology of syenite of the Phalaborwa Carbonatite Complex, South Africa.

Polar Geosci., 16: 176-195.

Yuhara, M., Miyazaki, T., Ishioka, J., Suzuki, S., Kagami, H. and Tsuchiya, N., 2001, Rb-Sr and Sm-Nd mineral isochron ages of the metamorphic rocks in the Namaqualand Metamorphic complex, South Africa: implications for evolution of mar- ginal part of Kaapvaal craton. Mem. Natl. Inst.

Polar Res., Spec. Issue, 55: 127-144.

柚原雅樹・相楽渉・高橋俊郎・渡部直喜・山岸 宏光・丸井英明、2000、長野県稗田山崩壊地 周辺に分布する岩石および地表水のSr・Nd 同位体比組成.新潟大学積雪地域災害研究セ ンター研究年報、21:73‐82.

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研究チーム報告

【理工学研究部】

複雑系凝縮物質の自己組織化

自己組織化研究チーム(課題番号:015002)

研究期間:平成13年4月1日〜平成16年3月31日 研究代表者:宮川賢治 研究員:井上亨、坂本文隆

【研究成果】

[1] 自律機能を有する微小ゲルを用いたノイ ズ誘起秩序化現象の研究(宮川・坂本)

BZ反応の触媒分子tris-(2,2 -bipyridine)ru- thenium(II)錯 体(Ru(bpy)2+)をN-イ ソ プ ロピルアクリルアミド(NIPAM)に共重合し たRu(bpy)2+-co-PNIPAM分子ゲルを作製し、

これを基本にした2結合振動子系を構築した。

この系の結合強度は振動子間距離の関数で与え られるため、自励振動反応によるゲルの体積振 動に伴って、振動子間隔、即ち、結合強度が変 化する。この特異性に関連して1:1や1:2 など通常の位相同期に加えて、両振動子の固有 周期に大きな差がある場合には興味ある同期現 象が観測された。位相同期に伴って波が振動子 間を伝播すると、同時に反射波が生じることで ある。即ち、同期が通常の引き込みのような

master-slave の関係が固定されていないこと

である。この反射は、情報処理の観点から同期 に関する情報の Back Propagation と見なせ るかもしれない。

非線形系では、ノイズは必ずしもネガティブ な効果をもたらすとは限らない。閾値を持つ興 奮場では、むしろ微弱信号の検出能を高める働 きをする。これは確率共鳴と呼ばれ、生体の感 覚器や神経回路で利用されていることは良く知 られている。本研究では、Ru(bpy)2+の光感受 性を利用して光照射によるホップ分岐を誘起し、

興奮場を実現した。或る強度以上の白色ノイズ で、振動状態が誘起された。様々な統計量を用

いて評価し、それがコヒーレンス共鳴であるこ とを明らかにした。コヒーレンス振動の周期が 系の特性時間で決まることを、初めて明確に示 した。更に、閾値以下の外部周期信号に白色ノ イズを重畳したところ、ノイズ強度の増加に 伴って振動状態が現れ、特定のノイズ強度で規 則的になった。低ノイズでは通常の確率共鳴が 現れたが、高ノイズではバースト状の規則振動 が現れた。バースト振動の周期は、系の特性時 間に一致していることが分かった。これはコ ヒーレンス共鳴振動と周期外力との相互作用に よる或る種の位相同期と考えられる。

[2] 水との混合系における界面活性剤分子の 自己組織化の研究(井上)

界面活性剤と水の混合系では、分子の自己組 織化により温度と組成に依存した多様な中間相 が出現する。本研究ではポリオキシエチレン

(POE)系非イオン性界面活性剤と水の混合系 の相挙動を調べ、界面活性剤分子の自己組織化 の機構を探ることを目的とした。実験手法とし ては、混合系の相図を作成するために示差走査 熱量法(DSC)を用い、中間相(ラメラ相、ヘ キサゴナル相、キュービック相)の確認には偏 光顕微鏡観察を使用した。また、それぞれの中 間相における界面活性剤分子のコンホメーショ ン構造を知るためにフーリエ変換赤外分光法

(FT-IR)を用い、分子の運動性に関する知見 を得るために磁気共鳴 法(ESR、NMR)を 使 用した。本研究の成果は以下のように要約され る。

―33―

(11)

ヘプタエチレングリコールドデシルエーテル

(C12E7)と水の混合系について、固相・中

間相・液相の全範囲にわたる相図を作成して中 間相の出現領域を明確にするとともに中間相に おける界面活性剤分子のコンホメーション構造 が温度によって変化すること1)および個々の中 間相における界面活性剤分子の運動性の違いを 明らかにした。2、3)POE鎖長の異なる同族界面 活性剤(C12E8、C12E6)についても同様な 研究を行い、界面活性剤分子の自己組織化に よって形成される中間相の形態を決める要因が 分子の形状(パッキングパラメータ)であるこ とを示した。4、5)POE鎖長およびアルキル鎖長 が異なる界面活性剤の混合物について検討した ところ、それらの平均鎖長に相当する単一鎖長 の界面活性剤と同じ相図が得られ、中間相の形 態が分子のパッキングパラメータの平均値で決 まることが示された。6)C12E7の相挙動に対 する無機塩の添加効果を調べた結果、無機イオ ンはPOE鎖の水和に対する影響を通して中間 相の出現領域を変化させることが明らかになっ た。7)

【研究業績】

宮川賢治、坂本文隆

! K. Miyakawa, T. Tanaka, and H. Isikawa Dynamics of a stochastic oscillator in an excit- able chemical reaction system

Phys. Rev. E 67, pp 0662061-0662064 (2003).

" F. Sakamoto and K. Miyakawa

Synchronization of Chemical Waves in Diffu- sively Coupled Self-Oscillation Gels

J. Phys. Soc. Jpn. 72, pp 2173-2176 (2003).

# K. Miyakawa and H. Ishikawa

Experimental observation of coherence reso- nance in an excitable chemical reaction system Phys. Rev. E 66, pp.046204-1-046204-4 (2002)

$ K. Miyakawa and H. Ishikawa

Noise-enhanced phase locking in a chemical oscillator system

Phys. Rev. E 65, pp.056206-1-056206-5 (2002)

% K. Kaibara, K. Okamoto, and K. Miyakawa Handbook of Polyelectrolytes and Their Aplli- cations, edited by S. Tripathy and H. S. Nalwa, Characterization of Proteinic Coacervate For- mation: From Primeval Cell Model to Biofunc- tionality Materials (American Scientific Pub- lishers, 2001)

& F. Sakamoto and K. Miyakawa

Asymmetric Spatiotemporal Patterns of Reduc- tion Waves in the Belousov-Zhabotinsky Reac- tion

J. Phys. Soc. Jpn. 70, pp.2263-2266 (2001) ' K. Miyakawa and K. Yamada

Synchronization and clustering in globally cou- pled salt-water oscillators

Physica D 151, pp.217-227 (2001) 井上亨

! Tohru Inoue, Miysko Matsuda, Yoshinori Nibu, Yasuhito Misono, and Masao Suzuki

Phase Behavior of Heptaethylene Glycol Dode- cyl Ether and Its Aqueous Mixture Revealed by DSC and FT-IR Spectroscopy

Langmuir, 17, 1833-1840, 2001

" LiQiang Zheng, Masao Suzuki, and Tohru Inoue

C NMR Study of Mesomorphic Phases Formed in Aqueous Mixtures of Heptaethylene Glycol Dodecyl Ether

Langmuir, 17, 6887-6892, 2001

# Tohru Inoue, Hideo Kawamura, Miyako Mat- suda, Yasuhito Misono, and Masao Suzuki FT-IR and ESR Spin-Label Studies of Meso- morphic Phases Formed in Aqueous Mixtures of Heptaethylene Glycol Dodecyl Ether Langmuir, 17, 6915-6922, 2001

―34―

(12)

! LiQiang Zheng, Masao Suzuki, and Tohru Inoue

Phase Behavior of an Aqueous Mixture of Oc- taethylene Glycol Dodecyl Ether Revealed by DSC, FT-IR, andC NMR Measurements Langmuir, 18, 1991-1998, 2002

" LiQiang Zheng, Masao Suzuki, Tohru Inoue, and Björn Lindman

Aqueous Phase Behavior of Hexaethylene Gly- col Dodecyl Ether Studied by Differential Scanning Calorimetry, Fourier Transform Infra- red Spectroscopy, andC NMR Spectroscopy Langmuir, 18, 9204-9210, 2002

# Tohru Inoue, Miyuki Nakashima, Reiko Hina- sato, and LiQiang Zheng

Effect of Chain Length Distribution on Aque- ous Phase Behavior of Polyethylene Glycol Al- kyl Ethers

J. Oleo Sci., 52, 655-662, 2003

$ LiQiang Zheng, Hiroyuki Minamikawa, Kaori Harada, Tohru Inoue, and Galina G. Chernik Effect of Inorganic Salts on the Phase Behavior of an Aqueous Mixture of Heptaethylene Gly- col Dodecyl Ether

Langmuir, 19, 10487-10494, 2003

―35―

(13)

研究チーム報告

【理工学研究部】

システム制御工学研究

システム制御工学研究チーム(課題番号:015003)

研究期間:平成13年4月1日〜16年3月31日 研究代表者:尾崎弘明 研究員:伊藤良三、岩村誠人

【研究成果】

近年、急速に発展した制御技術がシステムの 構成に深くかかわるようになった。本研究チー ムは、メカトロニックシステムと半導体電力変 換器システムの分野について、制御技術に基づ いたシステム構築法を研究し、以下のような研 究成果を得た。

「メカトロニックシステムの構築法」では、

システム構築化技術を向上させるための軌道計 画、学習制御、ロバスト制御および最適制御に 関する研究を進めてきた。まず軌道計画では、

車輪型移動ロボットの走行システムに付加する 新たな軌道生成アルゴリズムを開発した。すな わち、視覚センサからの情報にもとづいて得ら れた障害物回避経路を変更することなく、走行 に無理を生じない軌道を時間スケールファクタ の導入によって生成する方法を検討した。また、

現在広く利用されている機械要素のインデック スカム装置について、割り出し直後の残留振動 の抑制だけではなく、従節出力の最大加速度の 抑制および入力軸のトルク変動を平準化するこ とも含めたカム曲線の最適化法について検討し た。学習制御法については、実際の産業用ロボッ トを用いて、大域学習と局所学習とを併用した 関節座標系での学習法の有効性を、とくに収束 後の軌道追従精度、大域学習に必要な繰り返し 回数などの面で検討した。ロバスト制御系設計 については、風などの外乱を受けやすく動特性 の把握も困難な小型無線ヘリコプタのホバリン グ制御系設計法を提案し、実験的な検討を行っ

て有効性を確認した。

最適制御問題は解析的に解くことが困難であ るため数値解法に関する研究が古くよりなされ ている。しかし、強力なアルゴリズムが確立さ れているのは制約条件のない簡単な場合につい てのみであり、それ以外の問題に対しては実用 上十分な計算法が整備されているとはいえない のが現状である。そこで、複数の制約条件を有 する問題に対しても良好な収束性が得られる実 用的な計算法の開発を行った。この計算法では、

複数の制約条件の間に優先順位を導入すること によって数値計算の安定化を図っている。例と して、障害物が存在する環境における自動車の 最短経路生成問題および曲げモーメントの制約 下での柔軟構造物の最短時間制御問題に適用し、

提案した計算法の有効性を確認した。

「半導体電力変換器システムの構築法」では、

まず、倍電圧出力電圧を得るためのAC−DC 変換器システム、太陽電池などの可変の直流入 力から正弦波の交流を得るソフトスイッチング

DC−AC変換器システムおよび系統とエネル

ギー貯蔵用超電導コイルを連係するパワーフ ローが可逆なソフトスイッチング交直変換器シ ステムに対して、高調波を抑制する制御法を導 入しながら、IGBT、サイリスタなどを用いた モデル実験装置を製作し、その有効性を検証し た。次に、ハードスイッチング法を用いたAC

−DC変換器システムでは状態空間法、ソフト スイッチング法を用いたDC−AC変換器シス テムおよび交直変換器システムでは回路シミュ

―36―

(14)

レータPSpiceを用いたシミュレーションを行 い、モデル実験から得られた制御性能、入出力 特性、交流電流に含まれる高調波などと比較検 討した結果、これらが優れた特性を持つ電力変 換器システムであることが確認できた。

【研究業績】

1.金子暁彦、尾崎弘明、林長軍、下川哲司、

岩村誠人:自立車輪型移動ロボットの地図作成 と軌道生成走行、日本機械学会九州支部講演論 文集、No.481‐1、395‐396、2004.

2.甲木慎一、尾崎弘明、林町軍、下川哲司、

岩村誠人:小型無人ヘリコプタのホバリング制 御器の一設計法、日本機械学会九州支部講演論 文集、No.481‐1、397‐398、2004.

3.Ozaki, H., Hirano, K., Iwamura, M., Lin, C.J., Shimogawa, T.: Improvement of Trajectory Tracking for Industrial Robot Arms, Proceedings of IEEE In- ternational Symposium on Assembly and Task Plan- ning,264‐269,2003.

4.丘華、林長軍、黎子椰、尾崎弘明、久保明 雄:カム式位置決め装置の残留振動の抑制を考 慮したカム曲線の最適化、日本機械学会論文集、

69‐682(C)、1684‐1690、2003.

5.丘華、尾崎弘明、林長軍、黎子椰:マニピュ レータの障害物回避軌道生成の一方法、日本機 械学会論文集、68‐666(C)、501‐508、2002.

6.Iwamura, M., Ozaki, H., Mohri, A. : A New Optimal Control Algorithm and Its Application to Shortest Path Planning for Cars. Proceedings of the IASTED International Conference on Intelligent Systems and Control,236‐241,2003.

7.岩村誠人、尾崎弘明、林長軍、下川哲司:

柔軟構造物の曲げモーメント制約を考慮した最 短時間位置決め制御、計測自動制御学会第22回 九州支部学術講演会予稿集、43‐46、2003.

8.伊藤良三、他:ポンプ回路を用いた正弦波 入力電流倍電圧整流器、電気学会論文誌、123‐

D(6)、764‐765、2003.

9.Itoh, R.et al.:Single-phase voltage-doubler rec- tifier using a capacitive energy storage/transfer mechanism, IEE PROCEEDINGS,150(1),81‐87,

2003.

10.伊藤良三、他:ハーフブリッジ形シングル スイッチ倍電圧整流器、電気学会論文誌、122‐ D(9)、950‐951、2002.

11.Itoh, R. et al.:Soft-switched single-phase boost rectifier using full-bridge resonant switch, IEE ELECTRONICS LETTERS,38(16),843‐844,

2002.

12.Itoh, R. et al.:Single-Phase Soft-Switched Current-Source Inverter for Utility Interactive Pho- tovoltaic Power Generation System, Power Conver- sion Conference,632-637,2002.

13.Itoh, R. et al.:Soft-switched current-source in- verter for single-phase utility interfaces, IEE ELEC- TRONICS LETTERS,37(20),1208-1209,2001.

14.伊藤良三、他:キャパシタ電圧を平衡化し た単相倍電圧整流器の特性、電気学会論文誌、

121‐D(9)、964‐970、2001.

15.伊藤良三、他:ポンプ回路を用いた単相ス イッチモード倍電圧整流器、電気学会論文誌、

121‐D(5)、612‐613、2001.

16.伊藤良三、他:パルス幅変調三相ソフトス イッチング電流形整流器、電気学会論文誌、121

‐D(4)、524‐525、2001.

―37―

(15)

研究チーム報告

【生命科学研究部】

脳内生理活性アミン類のインビボ測定法の開発と 神経科学研究への実用

脳内アミンと神経科学研究チーム(課題番号:016001)

研究期間:平成13年4月1日〜平成16年3月31日 研究代表者:山口政俊 研究員:能田均、三島健一、轟堅一郎

[研究成果]

近年の高ストレス化、高齢化などの社会現象 に伴い、うつ病、パーキンソン病などの精神及 び神経疾患が深刻な問題となっている。これら の疾患には、5‐ヒドロキシインドール類(5‐

HIs)[セロトニン(5‐HT)など]やカテコー ルアミン類(CAs)[ノルエピネフ リ ン(NE)、 ドパミン(DA)など]が深く関与しているこ とが知られている。これらの生理活性アミン類 を生合成するニューロン(神経細胞)は脳内の 特定の極在を持ち、脳の各部位での多様な機能 は上記の種々の精神及び神経疾患と密接に関係 している。従って、脳機能及び精神・神経疾患 解明研究には、脳内限局部位における5‐HIs やCAsの分子レベルでのin vivoモニタリング

(動態)解析が必須である。近年、ラットやマ ウスなどの小実験動物を用いて研究が進められ ている。現在、ラットやマウスなどの実験小動

物の脳内in vivoモニタリング解析の手法には、

微小透析(マイクロダイアリシス)法が主に用い られている。微小透析法により脳の各部位から 回収された5‐HIs及びCAsの計測には、簡便 さと比較的高感度であることからHPLC/ECD 法が使 用 さ れ て き た。し か し、HPLC/ECD法 は、感度、選択性、精度の点で満足な分析法と は言えない。さらに、5‐HIsとCAsの高感度 同時定量は不可能である。本研究では、これら のアミン類の単独定量及び同時定量法を開発し た。さらに、本法を脳機能に関わるいくつかの

研究に実用し、本法の有用性を実証した。本法 の原理は、脳から回収された微小透析液中の5

‐HIs及びCAsが、弱アルカリ性溶液下、ヘキ サシアノ鉄(!)酸カリウム存在で、ベンジル アミン及び1,2‐ジフェニルエチレンジアミンと それぞれ選択的に反応し、生じた強蛍光性のオ キサゾール誘導体をHPLC分離後、蛍光検出 することに基づいている。

"精神・神経研究、抗うつ薬の薬効評価及び作

用機序の脳機能解明などに、従来、ラットが多 く用いられてきたが、近年、ノックアウトマウ スやトランスジェニックマウス作製などにより、

マウスを用いる研究が主流となりつつあり、マ ウス脳5‐HTの計測が極めて重要となってい る。しかし、ラットに比べてマウス脳内5‐HT が極めて微量であるなどの理由で、マウスを用 いる研究は極めて困難であった。先に開発した 5‐HT分析法の改良を行い、微小透析法によ るマウス海馬及び前頭葉中5‐HTの高感度・

高選択的かつ短周期(3分間)的定量法を確立 した。さらに、本法を種々のストレス(Tail pi nch、Handling、強制水泳)負荷条件下 に お け るマウス脳内5‐HTの動態変化の測定に応用 した。

#NE、5‐HT及びその代謝物である5‐ヒドロ

キシインドール‐3‐酢酸(5‐HIAA)の同時定 量法の開発を行った。本法は、5HIsとCAsが ベンジルアミンと同時に誘導体化する条件を選 択し、蛍光生成物をHPLCで 分 離・検 出 す る

―38―

(16)

ことに基づいている。検出限度は、注入量あた り数百amolレベルであった。微小透析法によ るラット海馬及び前頭葉中5‐HT,NE及び5‐

HIAAの高感度・高選択な同時的定量を可能と し、高カリウム、無カルシウム還流液、抗うつ 薬(イミプラミン、デシプラミン)投与による 5‐HT及びNEの動態変化の測定に応用した。

!前項の計測法で測定困難であったドパミンを 含む5‐HIs及びCAs関連物質の一斉分析の確 立を目的とした。1,2‐ジフェニルエチレンジア ミ ン(DPE)がDAを 含 むCAsと 反 応 し、ベ ンジルアミンの場合と同一の強蛍光性ベンゾキ サゾール誘導体を形成することに着目し、両試 薬の併用に基づく高感度一斉分析法を確立した。

検出限度は、全ての化合物について、数百amol レベルで、従来法に較べ極めて高感度であった。

先ず、本法をラット線状体ホモジナイズに適用 するとともに、クロルジリン(モノアミン酸化 酵素阻害薬)投与による影響を観測した。さら に、微小透析法によるラット線条体中5‐HIs 及びCAsの高感度・高選択な一斉分析を試み、

フェネルジン(モノアミン酸化酵素阻害薬)投 与による5‐HIs及びCAsの動態変化の測定に 成功した。

近年、臨床・薬理研究において高感度(分子 レベルでの計測が可能)な動的分析法の開発が 強く求められている。一方、HPLC蛍光検出法 は、超高感度分析法であることは周知の事実で ある。しかし、HPLCを先の動的分析法に適応 することは極めて困難であると言われてきた。

この主な原因は、前処理を行うことなく、目的 の生理物質のみを蛍光誘導体化することが不可 能であったことによる。本研究で用いたベンジ ルアミンや1,2−ジフェニルエチレンジアミン は、生理活性アミンである5HIs及びCAsとの み反応する極めて優れた試薬(ピンポイント ターゲッテイング試薬)である。さらに、超高

感度試薬であるため、微小透析に適用したとき、

短周期で得られたサンプル中のアミン類の計測 に最適で、動的分析が可能となった。これら試 薬を単独あるいは併用して用いることにより、

ラットやマウス脳からの微小透析液中の5‐HIs 及びCAsの高感度かつ高選択的な(単一また は一斉)分析法を開発することができた。これ らの分析法は、研究の目的や解明すべき生理活 アミン類に応じて、適宜選択することが肝要で ある。種々の薬剤の薬効の評価や新薬開発、脳 神経機能の解明などにおいて極めて有用で、臨 床研究や脳神経研究への一助になることが大い に期待される。

【研究業績】

1)Determination of serotonin in microdialysis samples from rat brain by microbore column liquid chromatography with post-column deri- vatization and fluorescence detection; T. Yoshi- take, R. Iizuka, J. Kehr, H. Nohta, J. Ishida, M.

Yamaguchi, Journal of Neuroscience Methods, 109, 91-96 (2001).

2)Microdialysis in freely moving mice: determina- tion of acetylcholine, serotonin and noradrena- line release in galanin transgenic mice; J. Kehr, T. Yoshitake, F.H. Wang, D. Wynick, K. Holm- berg, U. Lendahl, T.Bartfai, M. Yamaguchi, T.

Hokfelt, S.O. Ogren, Journal of Neuroscience Methods,109, 71-80 (2001).

3)Increased serotonin release in mice frontal cor- tex and hippocampus induced by acute physi- ological stressors; K. Fujino, T. Yoshitake, O.

Inoue, N. Ibii, J. Kehr, J. Ishida, H. Nohta, M.

Yamaguchi, Neuroscience Letters, 320, 91-95 (2002).

4)Galanin Is a Potent In Vivo Modulator of Mes- encephalic Serotonergic Neurotransmission; J.

Kehr, T. Yoshitake, F-H, Wang, H. Razani, G.

―39―

(17)

Llort, A. Jansson, M. Yamaguchi and S. O.

Ogren, Neuropsychopharmacology, 27(3), 341- 356 (2002).

5)Simultaneous Determination of Norepinephrine, Serotonin, and 5-Hydroxyindole-3-acetic Acid in Microdialysis Samples from Rat Brain by Microbore Column Liquid Chromatography with Fluorescence Detection Following Deri- vatization with Benzylamine; T. Yoshitake, K.

Fujino, J. Kehr, J. Ishida, H. Nohta, M. Yama- guchi, Analytical Biochemistry, 312 (2), 125- 133 (2003).

6)Activation of 5-HT 1 A autoreceptors enhances the inhibitory effect of galanin on hippocampal 5-HT release in vivo; T. Yoshitake, S. Yoshitake, M. Yamaguchi, S. O. Ogren, J. Kehr, Neuro- pharmacology, 44, 206-213 (2003).

―40―

(18)

研究チーム報告

【生命科学研究部】

アフリカツメガエルにおける

シュペーマンオーガナイザーの形成機構

両生類発生研究チーム(課題番号:016005)

研究期間:平成13年4月1日〜平成16年3月31日 研究代表者:景浦 研究員:岩崎 雅行、古賀 正明

【オーガナイザーの出現に関する諸問題】

SpemannとMangold(1924)は、イモリ胚の 移植実験によって、始めてオーガナイザー(形 成体)の存在を示した。彼らは、初期原腸胚の 一部を切除し宿主となる別の胚の腹側に移植す ると、脊索や神経管を含むもう一つの胚軸(二 次軸)ができることを明らかにし、この能力を 持つ移植片をオーガナイザーと名付けたのであ る。二次軸が生じるとき、オーガナイザー自身 は脊索や体節に分化する一方、周辺の外胚葉、

中胚葉、内胚葉のいずれにも作用し、これらを 脊索や神経管を中心としてまとまった構造体の 形成へと導く。また、オーガナイザーはすべて の脊椎動物に存在することがその後明らかにさ れ、両生類のみではなく広く脊椎動物の形態形 成の上で最も重要な領域であることが認識され るようになった。これらのことから、オーガナ イザーの作用機構とオーガナイザーの形成機構 の解明は、脊椎動物の発生生物学において長く 中心的課題とされて来た。しかし、この現象の 複雑さは、これらの機構解明への挑戦を3/4 世紀以上も拒み続けている。

胚中にオーガナイザーが出現することは、発 生初期に胚の軸性が決定されることと深い関わ りがある。生物の形態形成の過程は胚の軸性を 決定することから始まる。両生類胚では、受精 前にすでに決定されている動植物に沿った軸性 に、受精直後の卵表層の回転によって決定され る背腹に沿った軸性が付け加えられることで、

外、中、内胚葉の3層構造の形成と層内での部 域化が起こる。この部域化の過程で中胚葉の最 も背側に出現し、将来脊索や脊索前板となる部 分がオーガナイザーである。また、さらに発生 が進むにつれ、オーガナイザーは異なった誘導 能を持つさらに小さな領域へと分かれていく。

近年、発生生物学の分野では形態形成に関与す る遺伝子の解析を中心とする分子生物学的なア プローチが盛んに行われている。しかし、オー ガナイザーの出現と部域化の機構については、

ほとんど不明である。

また、両生類胚は大変調節能力が高く、2細 胞胚の左右の割球を単離しても、それぞれの割 球から小さいが正常なオタマジャクシを発生さ せることが出来る。単離した割球でどのように オーガナイザーが出現し、残された半球が失わ れた半球をどのようにして取り戻すかは全く未 知である。

そこで本研究では、卵表層の回転によるオー ガナイザーの出現・オーガナイザー内の部域 化・半胚におけるオーガナイザーの出現の3点 について解析した。

【研究成果】

1.卵表層の回転によるオーガナイザーの出現 受精後、数ミクロンしかない卵表層はその内 側にある内部細胞質(コア)に対して30°回転 する。この卵表層の回転運動は植物極表層に存 在する 背決定因子 を胚の赤道域に運び、こ

―41―

(19)

れが赤道域にあるコアの細胞質によって活性化 される。活性化された背決定因子は細胞内の Wntシグナル伝達系を活性化し、核でのオーガ ナイザー特異的遺伝子の発現を導く。これらの ことにより、胚の背側が決定される。

本研究では背腹軸決定における最大の謎であ る背決定因子の正体について、分子レベルでの 解析を行った。背側表層と腹側表層を単離して 各々からmRNAを抽出した。抽出したmRNA をもとにディファレンシャルディスプレイ法に より、背腹で分布に差があると考えられる候補 遺伝子断片を数個単離した。これらについて、

定量的PCRやIn situハイブリダイゼーション

法により、背と腹における分布の差を確認した。

また、背決定因子の活性化および作用機構を 明らかにするため、背側表層の腹側表層への移 植を行った。これによって、宿主胚の腹側に、

宿主とは別のもう1ひとつのオーガナイザーを 出現させ、背側構造を誘導することが出来た。

この移植実験では、黒色色素を持たない白子の 宿主胚に黒色色素を持つ野生型胚の背側表層を 移植し、黒色色素を目印に、移植された背側表 層が生じた2次胚のどこに位置するかを調査し た。その結果、移植された背側表層は2次胚の 背側外胚葉、背側中胚葉、背側内胚葉のいずれ かに存在することが分かった。このことは、背 側表層がオーガナイザーの形成を直接支配する のではなく、背の左右中心は決定するが、オー ガナイザーの形成を間接的に支配していること を示す。このことは、オーガナイザーに特異的 に発現する遺伝子Gscの発現を背側表層を移 植した胚が原腸胚期に達したときに調べるとこ とで支持された。

また、胚を塩化リチウム液に浸すと、背側の 構造が発達した背側化胚が生じることが知られ ている。そこで、塩化リチウムが背決定因子と 類似の働きをしているかを調べる目的で、4細 胞期の胚で背決定因子を持たない腹側半胚を単

離して塩化リチウム液に浸した。対照となるス タインバーグ液に浸した腹側半胚では全く背側 構造を生じなかったのに対し、塩化リチウム液 に浸した腹側半胚から発生した胚はかなりの程 度で背側構造を形成することが出来た。このこ とから、塩化リチウムが背決定因子と類似の作 用をすることが明らかになった。

2.オーガナイザー内の部域化

予定中胚葉の最も背側の部分がオーガナイ ザーであり、それ自身は主に脊索前板、脊索や 体節を形成する。また、オーガナイザーは誘導 作用によって周りの中胚葉、外胚葉や内胚葉の 発生運命を決定する。オーガナイザーは原口陥 入初期までに少なくとも頭部構造の誘導能を持 つ頭部オーガナイザーと胴尾部構造の誘導能を 持つ胴尾部オーガナイザーという性質の異なる 2つの部分に部域化されると考えられている。

また、原口陥入の過程では、頭部内胚葉が最も 早く胚内部で陥入運動を開始し、これに続いて、

頭部オーガナイザー、胴尾部オーガナイザーの 順に陥入することで、胚内部でこれらが前方か ら後方にこの順に配置される。さらに、陥入中 あるいは陥入運動の終了した頭部内胚葉、頭部 オーガナイザー、胴尾部オーガナイザーの各々 が接する他の組織に性質の異なる作用を及ぼす ことによって、胚の頭尾軸が完成する。従って、

オーガナイザーがより細かい領域へと部域化さ れる機構を明らかにすることは、脊椎動物にお ける頭尾軸形成機構解明の中心的課題と言うこ とができる。しかし、原口陥入初期以前の時期 に将来頭部オーガナイザーや胴尾部オーガナイ ザーに分化する細胞がどのような決定状態にあ るのか、どのような機構によってこれらが分化 するのかについては全く不明である。

これまでに、頭部オーガナイザーや胴尾部 オーガナイザーで特異的に発現するマーカー遺 伝子が多数明らかにされている。これらの遺伝

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子の発現パターンを目印に、頭部オーガナイ ザーと胴尾部オーガナイザーの決定や分化機構 を解析する手法を開発した。これは、遺伝子の 発現域を明らかにするIn situハイブリダイゼー ション法と割球の運命を追跡する蛍光色素のマ イクロインジェクション法を組み合わせたもの で、割球を単離したり、単離した割球を別の胚 に移植したりしたとき、マーカー遺伝子の発現 パターンが正常胚におけるものとどのように異 なるかを調査することを可能にする。予定オー ガナイザー割球を単離したり、予定外胚葉割球 を予定オーガナイザー割球の位置に移植したり した胚に対して、この開発された手法を用いて、

目印となる頭部オーガナイザーや胴尾部オーガ ナイザー特異的遺伝子の発現パターンを調査し た。その結果、予定オーガナイザー割球を単離 した胚では頭部オーガナイザーのマーカー遺伝 子Gscが発現しており、頭部オーガナイザー は自律的に分化する傾向が高いことがわかった。

また、予定外胚葉割球を予定オーガナイザー割 球の位置に移植した胚では、移植した予定外胚 葉割球の子孫で胴尾部オーガナイザーのマー カー遺伝子Xbraが発現しており、胴尾部オー ガナイザーは周りの細胞集団によって誘導され ることが示唆された。

頭部内胚葉にはオーガナイザーのような神経 誘導作用はないが、咽頭を形成する上では重要 な役割を果たしているらしい。そこで、この頭 部内胚葉の細胞運命について調査した。2細胞 期胚の左右割球に蛍光色素をマイクロインジェ クションし、子孫細胞の分布を神経胚期に調べ た。その結果、左右割球の子孫細胞の分布は左 右対称ではなく、左側割球の子孫細胞が神経胚 期には胚の中心を越えて右側の一部をも占める のに対し、右側割球の子孫細胞の分布は右側の みに限られることが示された。この事実は、左 側割球の子孫細胞は右側割球の子孫細胞よりも 早く前方に移動する事を示唆している。また、

これは、脊椎動物の進化を考える上で非常に興 味深い一つの仮説であるデキシオテチズム説

(脊椎動物の祖先生物がカンブリア紀の海底で 右側頭部を下側に向けた格好を取ったたため、

鰓等の右側頭部構造が一旦消失し、その後、残 された左側頭部から右側頭部を新たに作り出し たという説)を支持するものであった。

3.半胚におけるオーガナイザーの出現

8細胞期の胚を左右の半胚に切り分けたとき、

それぞれの半胚は小さいが正常なオタマジャク シに発生する。つまり、失われた半球が取りもど されるという一種の再生現象が生じる。そこで、

右側半胚を用いてこの再生現象における各割球 の予定運命の変更について調べた。8細胞期胚 の左側割球を除去し、残った右側割球に蛍光色 素をマイクロインジェクションし、尾芽胚まで 発生させてラベルされた子孫細胞の分布を調査 した。その結果、外胚葉や内胚葉では大規模な 細胞運命の変更が見られるが、予定オーガナイ ザー領域は大きな予定運命の変更はなく、残っ た右予定オーガナイザーが、左のオーガナイ ザーまでを作ることが分かった。この事実は、失 われた左オーガナイザーが予定オーガナイザー 以外の細胞からは再生出来ず、予定オーガナイ ザー細胞が自律的に分化することを示唆する。

【研究業績】

H. Takahashi, T. Yamaguchi, M. Koga, H. Kageura and S. Terada, DNA replocation is suppressed by pressure in Xenopus egg cell-free system. Trends in High Pressure Bioscience and Biotechnology.

(2002) 281-286.

M. Koga, and H. Kageura, Whole mount double staining in situ hybridization with lineage tracing in Xenopus. Zool. Sci. 20 (2003), 1565.

M. Koga, T. Kudoh and H. Kageura, The double staining whole mount in situ hybridization method with lineage tracing in Xenopus. Submitted.

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参照

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