《論文》
中国の経済成長に伴うエネルギー消費の分析
―日本の省エネ技術による中国エネルギー消費量のシミュレーション
李 潔
要旨
本稿では、筆者の独自推計の購買力平価を利用して中国の産業連関表を日本円へ実質 化した上で、中国と日本の生産過程におけるエネルギー消費構造について比較・分析し、
中国の生産活動が日本と同水準の省エネルギー技術で行われた場合の省エネルギー効果 についてシミュレーションする。
キーワード
中国の経済成長、エネルギー問題、技術移転、産業連関表、購買力平価
1. はじめに
中国ではここ 20 数年高い経済成長と急速な工業化にともない、エネルギー消費量が大幅 に増加してきた。長期的な観点から見ると中国はエネルギー豊富な国ではなく、持続的な 経済成長を維持するためには省エネルギーの努力が必要とされる。また環境問題の視点か ら見ても、 CO
2など温室効果ガスの増加に基づく地球温暖化、硫黄酸化物・窒素酸化物・浮遊粒 子状物質などによる大気汚染や酸性雨域の拡大などほとんどすべての環境問題は石油・石炭・
天然ガスという化石燃料の消費に大きく依存している。
このようにエネルギー資源の有限性と環境問題という二つの意味で、中国の経済成長に 伴うエネルギー消費に関する将来の展望が重要である。
一方、 2 回にわたるオイルショックの影響を強く受けた日本では省エネ技術が非常に進ん できた。
ここで産業連関表を利用してまず中国と日本の産業別エネルギー使用量および同じ物量 生産物当たりエネルギー消費について比較し、中国の生産過程におけるエネルギー消費の 現状を日本と比較しながら把握してみる。中国エネルギーの消費は、工業化が遅れている ことによるエネルギー使用量の少ない面と、エネルギー効率が低いためエネルギーを多く 消費する面という両面が相殺した結果である。
また、今後中国は経済成長にともない、工業化が進み、生産技術における先進国への接
近が考えられる。その際、省エネルギーの方途として日本の技術を導入することが望まし
いと考えられる。13億の人口を対象とする膨大な中国の内需(消費や投資)、世界の工場に
なりつつ年々増え続けている輸出を満たすための生産を日本の省エネ技術で行う場合に必 要とされるエネルギー量と、中国の技術で消費されるエネルギー量とを比較しながら、将 来の中国のエネルギー消費量について考えてみる。
このようなシミュレーション分析には経済分析の方法として一定の意義があると同時に 大きな限界があるのも当然である。この論文の最後でこのことについてもふれる。
2. 中国におけるエネルギー生産と消費
中国のエネルギーの生産と消費について表 1 にまとめた。ここでの生産または消費量は、
各種エネルギーがキロあたり 7000 キロカロリーの発熱量を持つ標準石炭を基準として換算 されたものである。
表1. 中国エネルギー生産と消費 (10000 tons of SCE) エネルギー種別構成比(%) エネルギー種別構成比(%)
原炭 原油 天然ガス 水力 原炭 原油 天然ガス 水力
1952 4,871 96.7 1.3 - 2.0 5,411 94.3 3.8 - 1.8
1957 9,861 94.9 2.1 0.1 2.9 9,644 92.3 4.6 0.1 3.0
1962 17,185 91.4 4.8 0.9 2.9 16,540 89.2 6.6 0.9 3.2
1965 18,824 88.0 8.6 0.8 2.6 18,901 86.5 10.3 0.9 2.7
1970 30,990 81.6 14.1 1.2 3.1 29,291 80.9 14.7 0.9 3.5
1975 48,754 70.6 22.6 2.4 4.4 45,425 71.9 21.1 2.5 4.6
1978 62,770 70.3 23.7 2.9 3.1 57,144 70.7 22.7 3.2 3.4
1980 63,735 69.4 23.8 3.0 3.8 60,275 72.2 20.7 3.1 4.0
1985 85,546 72.8 20.9 2.0 4.3 76,682 75.8 17.1 2.2 4.9
1986 88,124 72.4 21.2 2.1 4.3 80,850 75.8 17.2 2.3 4.7
1987 91,266 72.6 21.0 2.0 4.4 86,632 76.2 17.0 2.1 4.7
1988 95,801 73.1 20.4 2.0 4.5 92,997 76.2 17.0 2.1 4.7
1989 101,639 74.1 19.3 2.0 4.6 96,934 76.0 17.1 2.0 4.9
1990 103,922 74.2 19.0 2.0 4.8 98,703 76.2 16.6 2.1 5.1
1991 104,844 74.1 19.2 2.0 4.7 103,783 76.1 17.1 2.0 4.8
1992 107,256 74.3 18.9 2.0 4.8 109,170 75.7 17.5 1.9 4.9
1993 111,059 74.0 18.7 2.0 5.3 115,993 74.7 18.2 1.9 5.2
1994 118,729 74.6 17.6 1.9 5.9 122,737 75.0 17.4 1.9 5.7
1995 129,034 75.3 16.6 1.9 6.2 131,176 74.6 17.5 1.8 6.1
1996 132,616 75.2 17.0 2.0 5.8 138,948 74.7 18.0 1.8 5.5
1997 132,410 74.1 17.3 2.1 6.5 138,173 71.5 20.4 1.7 6.2
1998 124,250 71.9 18.5 2.5 7.1 132,214 69.6 21.5 2.2 6.7
1999 109,126 68.3 21.0 3.1 7.6 130,119 68.0 23.2 2.2 6.6
2000 109,000 67.2 21.4 3.4 8.0 128,000 67.0 23.6 2.5 6.9
2005
*132,000 63.4 17.9 5.0 10.8 144,467 59.5 26.0 4.6 9.9
資料 中国国家統計局『中国統計年鑑2001年』
年 生産量 消費量
* 2005年に関する予測は生産量については「国民経済和社会発展第十個五年計画能源発展重点専 項規? 」『中国経済導報』第671期,2001年8月23日によるものであり、上記4種類のエネルギー以外に その他が2.9%となっている。消費量については『中国能源発展報告2001』p13によるものである。
表 1 に示されるように、中国エネルギーの多くは石炭(7 割以上)、石油(約 2 割)であ り、改革開放の 78 年から 96 年までエネルギー生産は平均 4.24%、消費は平均 5.06%とい う増大率で、ともに一貫して増加してきた
1)。生産と消費のバランスから見ると、1992 年
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) 1996 年以後のエネルギー生産および消費の急激な減少は石炭の減少によるものであり、堀井
までは国内エネルギー消費は国内生産によってまかなわれていたが、その後、生産は消費 の増加に追いつかず、エネルギー消費は石油の一部輸入に依存することとなった。また、
95 年まではエネルギー絶対不足の状態であったが、産業構造を調整するなどの省エネ政策 の実施による効果が現われ、1996 年以後エネルギー絶対量不足の問題が基本的に緩和され た。環境問題等への考慮により、採鉱条件の危険な炭鉱や、品質の悪い炭鉱を閉鎖する政 策をとることや、また外貨蓄積に余裕ができたこともあって、「自力更生」路線から戦略的 に石油輸入政策へ転換している。表 1 に示された 2005 年のエネルギー消費量予測値は低位 推計の結果であって、高位推計ではその 1.02 倍である。 2005 年までにエネルギーの総消費 における、環境に悪いとみられている石炭の消費を 6 割以下に抑え、石炭・天然ガスを3 割、水力発電を 1 割へという方向へ進めている。その際の石油純輸入は 9793~10245 万ト ンと見込んでいる。
世界全体から見ると、中国が世界一次エネルギー生産および消費総量の 10%を占めてい る。
3. 中日エネルギー消費構造比較
3-1 関連データについて
産業連関表の部門分類に基づく産業別エネルギー消費量に関する詳細な推計については 日本では三つのグループによって行われている。本藤・外岡・内山・森泉ら電力中央研究 所グループ、森口・南斎ら国立環境研究所グループと黒田・木地・吉岡・早見・朝倉ら慶應 義塾大学グループである。三つのグループとも膨大な統計データにより、 400 部門に近い詳 細な推計を丹念に行っているが、推計方法と利用する統計データの相違によって推計結果 に相互に若干の違いが生じている。
一方、統計データの制約を受け中国についての関連推計はそれほど詳細に行われていな いが、これまで通商産業省通商産業研究所が 94 年に日本の 1985 年と中国の 1987 年を対 象とした内生部門 45 部門分類の『日中共通エネルギー消費・大気汚染分析用産業連関表』
を公表したことがあり、また慶應義塾大学産業研究所、経済産業省、アジア経済研究所お よび(財)日本エネルギー経済研究所が共同で「1990 年アジア、エネルギー・環境分析用産 業連関表」(EEI-O)が作成され、さらに今回日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業プ ロジェクトによって 1990 年と 1995 年の国際比較可能なEDEN(環境分析用産業連関表)が 作成された。このEDEN表は各国政府統計関連機関の協力を得て作成され、アジア地域の 9 ケ国
2)を含む多国広域経済圏を対象にし、共通 76 部門分類のI-O表となっている。中国国 (2001)によると、それは中国が実施した炭鉱の閉鎖政策にもとめられる。閉鎖対象である炭鉱と 小規模ユーザーとの間でかなり多くの取引が引き続きおこなわれていて、国家統計局から発表さ れたデータの中には、こうした取引が反映されていない部分もあるという。
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