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経済復興の論点 : カトリーナの教訓から

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経済復興の論点 : カトリーナの教訓から

その他のタイトル Issues on economic recovery : Lessons from Hurricane Katrina

著者 永松 伸吾

雑誌名 社会安全学研究 = Safety science review

巻 2

ページ 32‑33

発行年 2012‑03‑31

URL http://hdl.handle.net/10112/00018547

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− 32 − 社会安全学研究 第 2 号

− 32 −

経済復興の論点:カトリーナの教訓から

  Issues  on  economic  recovery:  Lessons  from  Hurricane  Katrina

関西大学  社会安全学部

永 松 伸 吾

Faculty  of  Safety  Science,  Kansai  University Shingo  NAGAMATSU

1.経済復興はこれからが本番

 本稿執筆直前の 2011 年 11 月 21 日に,平成 23 年度第三次補正予算が成立し,東日本大震災 からの復興におよそ 12 兆円の資金が投じられる ことになった.これでようやく被災地の本格復 興への道筋がついたと安堵する声がある一方で,

すでに多くの人口や雇用機会を失い遅すぎると いう批判の声も少なくない.

 いずれにせよ,前例のない大規模な津波災害 からの経済復興については,これからも幾多の 困難が予想される.そこで,本稿では,今後の 経済復興の論点を展望することを目的として,

ハリケーン・カトリーナの経済復興の教訓につ いてとりまとめてみたい.

2.なぜカトリーナ災害か

 あえてカトリーナの教訓を紹介することには 二つの意義がある.第一に,カトリーナ災害で 最も大きな被害をもたらしたのは高潮およびそ れに伴う都市部での長期浸水である.被害を免 れた都市基盤などで部分的でも経済活動が継続 できる地震災害とは異なり,面的にすべての経 済活動が完全にストップするという意味では,

津波災害と水害は経済活動に与えるインパクト

という意味で非常に酷似している.さらに,復 興過程において,次の災害予防のために土地利 用が制約されるところもまた類似性が強い.

 もう一つの理由は,被災者の教育状況・経済 状況が全国平均に比較して劣っているという点 である.ニューオリンズ都市圏では,家計収入 の中央値が全国に比べると 18.2%ほど低い.単 純に比較できる数値ではないが,岩手県の一人 当たり県民所得は,平成 19 年度で 218.8 万円で あり,一人当たり国民所得 296.3 万円に比べて 13.5%ほど低い.また,学歴についても,ニュ ーオリンズ都市圏において 25 才以上で高卒資格 を持たない人の割合が 22.3%と,全国の 19.5%

に比べて高い.同様に岩手県では,全労働者に 占める高卒以下の学歴の割合が 68%となってお り,全国の 56%を大きく上回っている1 )

3.ニューオリンズの経済復興過程 

 ニューオリンズ都市圏の経済復興において特 色的なことは,Vigdor(2008)により包括的に まとめられている.

 第一は大幅な人口減少である.ニューオリン ズ都市圏全体では災害から 3 年半経過した 2008 年 3 月時点でも,災害前の人口の 80%にしか回 復しておらず,中心部のオーリンズ郡(Orleans 

(3)

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経済復興の論点:カトリーナの教訓から(永松)

Parish)に限定すれば 75%に過ぎない.また人 口構成についても,中央年齢値が 34.8 歳から 40.6 歳に上昇したり,5 歳〜17 歳の就学人口比 率が 19%から 15%に低下するなど,全体的に高 齢化が加速していることが指摘される.

 特にカトリーナ災害の経済的帰結で興味深い のは住宅市場についてである.カトリーナは 2000 年 の セ ン サ ス で ニュー オ リ ン ズ 市 に 215,000 戸の住宅が存在したが,2006 年までに 106,000 戸にまで減少した.郊外では暴風によ る被害も大きいが,市内では長期冠水により居 住不能となった.

 住宅ストックの減少が人口の減少幅よりも大 きいため,住宅の価格が大幅に値上がりするこ とになった.2004 年と 2006 年を比較すると,分 譲価格で 59%,賃料で 48%の上昇がみられた.

そして,それは元の水準に回帰する様子はない.

 この理由は次の通りである.もともとニュー オリンズには償却期限を越えた住宅が低家賃で 供給されていたが,それらが被災して新しい住 宅に置き換えられたことで,従前の家賃では元 が取れなくなったのである.また,もしもこの 住宅価格上昇が一時的な供給不足によるもので あれば,将来的に賃料が下がることが期待され るので,分譲価格の上昇率は賃料上昇率よりも 下回るはずであるが,実際はその逆になってい る.これは将来も賃料は下がらないと期待され ていることを意味している.

 また労働市場をみると,2005 年から 2007 年 にかけて建設業で 7%以上雇用が増加したのに 対し,他の主立った分野ではすべて大きく減ら

している.しかし,これは労働需要よりも労働 供給が減少した結果であり,その証拠にほとん どの産業分野において平均賃金は上昇している.

ただ,住宅価格の上昇と物価上昇を割り引くと,

一般的にニューオリンズ市民の暮らし向きは被 災前に比べて悪くなっているとみられる.

4.津波被災地に対しての含意 

 こうした経験は今回の津波被災地にもかなり の程度参考になるであろう.第一に,人口の流 出はすでに始まっており,過去の我が国の災害 の経験からも,地域を離れる決断をする人は比 較的若い層に多いと予想される.

 第二に,津波被災地では土地が極端に不足し ており,こうしたことが新たな住宅建設費用を 押し上げる可能性が高い.

 第三に,これらによって労働供給が阻害され て,被災地において賃金インフレが起こる可能 性がある.もともと,被災地の賃金水準は極め て低く,皮肉にもそれが産業誘致のための魅力 にもなっていた.賃金水準の高騰は,被災地に おいて新たな産業立地の障害になる危険性もあ る.

1 )  平成 19 年就業構造基本調査

参考文献

J acob  Vidor ( 2008 ).The  Economic  Aftermath  of  Hurricane  Katrina.  The  journal  of  Economic  Perspectives,  22(4).pp.135‑154.

参照

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