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社会的ケア展開の今後の課題

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Academic year: 2021

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(1)

著者 宮本 和武

雑誌名 明治学院大学社会学・社会福祉学研究 = The Meiji

Gakuin sociology and social welfare review

巻 135

ページ 1‑16

発行年 2011‑03

その他のタイトル Future Tasks on Social Care Development

URL http://hdl.handle.net/10723/773

(2)

宮 本 和 武  1 はじめに

わが国において社会的ケアが注目され,一般的に普及したのは1987年(昭和 62年)「社会福祉士法及び介護福祉士法」が成立し,社会福祉専門職の国家資 格制度が確立し,高齢者・障害者のケアに視点が移ってきてからであることは 明らかである。ケアは社会福祉の専門用語ではないが,社会福祉実践活動では サービス利用者のケア,すなわち身辺の介護,日常生活上の世話などが当然に 含まれることから,社会福祉のあり方が問われることになる。ケア自体に専門 性が要求されるのか否かが重要な検討課題である

(1)

21世紀の社会福祉のあり方は,2000年(平成12年)5月,社会福祉基礎構造 改革の一環としての社会福祉事業法の改正が行なわれ,「社会福祉法」 に題名 改正され,従来の社会福祉のあり方から一変して大きく転換をしようとしてい る。改革の必要性は,「社会福祉に対する国民の意識も大きく変化してきてい る。少子・高齢社会の進展,家庭機能の変化,障害者の自立と社会参加の進展 に伴い,社会福祉制度についても,かつてのような限られた者の保護 ・ 救済に とどまらず,国民全体を対象として,その生活の安定を支える役割を果たして いくことが期待されている

(2)

」。社会・経済の構造的変化に対応し,必要な福 祉サービスを的確に提供できるよう,社会福祉の新たな枠組みを作り上げて行 くと従来の社会福祉から新たな社会福祉制度を構築していくことを志向してい る。新たに打ち立てられた改革の理念は,自立と連帯である。

2000年(平成12年)12月「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあ

(3)

り方に関する検討会」報告書(以下,「あり方検討会報告書」という。)が出さ れた

(3)

。「あり方検討会報告書」の基本的な考え方は,わが国は豊かな社会を 創造し,一定の貢献をし,社会福祉の制度も整備されてきている。そこにおけ る社会福祉は豊かな社会の中における国民生活の下支えとしての役割を担い,

少子高齢社会において安心できる社会福祉へ普遍化が図られてきている。にも かかわらず,社会的援護を要する人々のもとに手がとどいていない例もあり,

社会における人々の「つながり」を再構築していく必要性を挙げている。社会 的援護を要する人々の背景には,かつては貧困と考えられていたが,他の要因 としては心身の障害・不安,社会的排除や摩擦,社会的孤立や孤独などの問題 が重複・複合化していると捉えられている。社会福祉の関係法律では,社会福 祉の援助活動を援護,育成,更生と区分し,援護は貧困者,育成は児童,更生 は心身障害者を対象に援助することを指すと言われている

(4)

。社会的援護を 要する人々と,従来の社会福祉の対象を貧困のみならず広範に捉えている側面 がみられる。そして,フランス,イギリスで言われている社会的疎外(social exclusion)

(5)

された人々に対する援護をすることによって社会的包含(social inclusion:ソーシャル・インクルージョン)を促進することが期待されている。

これは,誰一人として漏れることがないように福祉サービスを提供することが 求められているといえる

(6)

本稿は,現在における社会的ケアを取り巻く状況が大きく変化してきている ことを考察し,今後の社会福祉基礎構造改革時代,すなわち21世紀における社 会的ケア展開の課題を論述したい。

2 社会的ケアとは何か

ケア(care)とは,「心配,不安,懸念,気がかり(worry,anxiety,concern),

注意,留意(attention,heed,caution),心づかい,世話,監督,保護(charge,

(4)

protection)

(7)

」とあり,気にかける,心配する,世話する,監督する,保護 する,看病する,介護する行為をさす言葉として用いられている。

「人間の子は,小さい時ほど親やそれに代るべき人間に依存しなければなら ないところの弱い存在なのである

(8)

」。といわれているが,現代の福祉の生成 過程において,人類社会が成り立った頃から,児童を含めて保護を必要とする 人々を政治の為政者や宗教が救済をする形態で行われてきたといえよう。それ は,古代社会においては,ホスピタルや救貧院(almshouse:アームズハウス),

わが国では悲田院などが設けられたとある。ここでは,困窮している人々や病 気の人々などを一斉に入所保護していたのが始まりであろう。一方,ケアの対 象は児童であったとみるべきであろう。人間の子どもは生まれてしばらくの間 は,親やそれに代わるべき存在に依存をし成長し,人間としての営みができ,

次代に受け継がれてきたといえる。しかし,人間社会のある所,いつの時代に おいても親兄弟を失ったり,事情があって家庭において親の手で育てられず保 護を必要とする児童(以下,「要保護児童」という。)は存在する。要保護児童 の養育保護は,長年に亘って入所施設にそのケアを依存してきたといえる。わ が国においては,明治時代以前は困窮している人々を救済することは行なわれ ていたが,近代的な児童保護は,明治時代に富国強兵策に基づき,堕胎,間引 き,棄児を防止するために多くの孤児院や育児院が開設された

(9)

。その中に おいては,要保護児童のケアに焦点を合わせて画期的な取組みや視点を持ちな がら,個々の実践はなされていた。社会的という概念も,消極的であれ,他人 を含めて社会が取り組むという考えが萌芽した時代であるとみるべきであろ う。以前は他人ではあるが篤志家による保護と共同体・親戚などによる保護な どが自然になされていたが,少なくとも社会が取り組むという考え方には至っ ていなかったと考えられる。

ケアは社会福祉の専門用語ではないが,社会福祉実践現場で利用者へのサー

ビスの一環として提供されるものである。また,ケアを提供する人(care

(5)

taker,care giver)は,ケア・ワーカー(care worker)と呼ばれている。ケア・

ワーカーは和製英語で,障害者や老人の介護を専門的に行う人

(10)

とあるが, 「社 会福祉士及び介護福祉士法」の成立過程で社会福祉士(=ソーシャル・ワー カー)に対し,介護福祉士(=ケア・ワーカー)と明記されている。欧米では,

チャイルド・ケア・ワーカー(child care worker)という表現があったが,ケ ア・ワーカーは,介護福祉士の訳語として用いられ,高齢者・障害者の介護の 担い手を指す用語として定着してきているといえる。「『介護』という用語は英 米の社会福祉で『ケアワーク』を意味し,内包する領域に多少の広狭は見られ るが,ほぼ同義語として用いられている

(11)

。」と指摘されている。児童福祉の 領域では,前述のチャイルド・ケアの他に,フォスター・ケア(foster care)

が用いられ,里親養育という意味で,里親宅での養育を指す言葉である。ケア ワーク(care work)=介護と訳されているが,本稿においては高齢者・障害 者福祉の領域のみならず児童福祉を含めて広義に捉えておく必要があり,ケア の専門性を確立していくことが求められているといえる。

次にケアの内容から考えると,大別して2種類に分かれる。第一のタイプは,

保育・療育で,その内容から社会が担っているものそのものを指している。家

庭ケアの対置概念として用いられている。つまり,家庭以外の場で行われてい

る補完的サービスと捉えられている。保育は家庭で行なう育児や養育に対する

概念として用いられている。療育は肢体不自由児の育成を指し,高木憲次博士

によって治療と教育の造語として作られたものである。治療の場における育成

をすることとして用いられている。第二のタイプは,養護・介護であろう。図

1は児童養護を家庭養護と社会的養護に区分し用いられているが,養護そのも

のは,広義や狭義で用いられていると言われ明確に分けにくい側面をもってい

る傾向のものである。介護においても,在宅介護では,家族のみならず,訪問

介護員(ホームヘルパー)の両者による介護を指すのが実態である。本来家庭

で行なわれていた育児・養育・介護が親や家族では出来ない状況により,補完

(6)

的・代替的サービスである社会的養護や社会的介護があるといえるのではない だろうか。家庭ケアと社会的ケアの違いは,担い手の区別でと考えられるが,

実際には相互に補完し合いながら提供されている。

ケアの概念を明らかにする時に,「ケアの拡大化」,「ケアの社会化」と「ケ アの個別化」の3つの視点から考察をすることができる。これらは,個々にと いうよりは寧ろ相互に関わり合いをもっていることが前提である。

第一の「ケアの拡大化」は,ケアとは何かは本来的には親が子どもを育てる,

世話をするという私的なケアであったが,近年は児童福祉分野のみならず,障 害者及び高齢者福祉分野のケアを含めて考えられ,その訳語は「介護」や「介 助」と捉えられている。児童福祉では「保育」,「養護」,「療育」などを包括し た概念として用いられている傾向である。つまり,親や家族が自然的に無意識 的に行なわれていた私的なケアの行為が,児童のみならずケアを必要とする対 象である障害者や高齢者に拡大されてきている傾向がみられる。さらには,ケ アは福祉関連領域である教育,看護,医療などでも重視されてきていることは,

養護種別

出典:飯田進他著『養護内容総論』ミネルヴァ書房,1989年,62頁 養護形態 施設型養護

家庭養護

社会的養護

里親養護 施設養護

通所型養護

小舎制 中舎制 大舎制 居住型養護

家庭型養護

(グループホーム)

(養育)

処置形態

児童養護

図1 狭義の社会的養護

(7)

生活場面における「ケアの拡大化」が図られてきたと言える。つまり,直接的 な対象に働きかける営みのみならず,相談機関などの行う援助も含まれている と理解をされている傾向がみられる。ケアは日常生活における援助・指導・支 援など総合的に行なわれる営み全体をさす概念として確立をしてきていること が明らかである。

第二の「ケアの社会化」は,「ケア・サービスの商品化という方向と,福祉 制度に基づく,ケアの公的保障の方向とに分けられる

(12)

。」という見解もみら れる。公的か民間かというサービス提供主体の視点で捉えられていることが伺 えるが,元来,ケアは親や家族を中心に担ってきた私的なケアが,親や家族が 担えないという状態において,近隣や施設などの社会が担うことが,「ケアの 社会化」と捉えたい。親や家族のケアが自然的無意識的な働きかけに対して,

近隣や施設などの社会のケアは専門的意識的な働きかけであり,その取り組み の発展が「ケアの社会化」を促し進められてきたとみるべきであろう。特に,

入所施設(居住施設)における養護を長年に亘り「施設養護」(institutional care,residential care)と称してきたが,その発展や改善により社会が担う養 護が確立したと考えられる。児童福祉分野においては,とりわけ児童養護の現 場では「社会的養護」(あるいは,「社会的児童養護

(13)

」)とよばれている概念 である。障害者・高齢者福祉分野における社会的ケアについては, 「社会的養護」

に対して「社会的介護」と一時使われたが,定着せず「介護」,「介助」が用い られているのが実情である。これは,「ケアの社会化」であろう。ケアそのも のが,私的あるいは社会的担い手両者による働きかけを指す概念と捉えられて きている傾向がみられるのではないだろうか。

第三の「ケアの個別化」は,ケアの質を問うこととして現わす概念である。

ケアの質を考える時に,一人一人に応じた対応が必要であり,ケアを必要とす

る人々の自己実現を図っていく福祉サービスであることが求められている時代

に重要なことであろう。さらには,施設におけるケアの質が問われ,さらには

(8)

個々の私的なケアである育児,家庭養育(あるいは,「家庭養護」),家庭介護 である家族による介護などにも不適切な対応である拒否,虐待,放任などを引 き起こしていることにも現れている。今後は,ケアの質を如何に保証していく ことが大切であるかを考えて行かなければならない。

以上のことから,社会的ケアの概念は何かを明らかにすると,第一義的には,

本来の家庭における親や家族によるケアの取り組み以外の働きを指す概念であ るといえる。また,限定的に実施主体である国や地方公共団体が社会福祉の制 度を基礎に実施する養護・養育を指すと言われている

(14)

。広義にケアの概念は,

家庭ケアと社会的ケアを包括した概念といえる

(15)

。寧ろ,「社会的」と言わな くても,家庭機能の脆弱化などにより,社会が担わなければケアは提供できな い社会,あるいは家庭ケアと社会的ケアが相互関連的に行なわれていることな どから,ケアそのものを社会が担っていく家庭ケアの場面でも実子のみならず 養子,特別養子などの児童を養護することや,家庭介護でも福祉サービスを活 用し,訪問介護員(ホームヘルパー)の支援を受けるなどの側面もみられ,重 層的にケアを捉えていく必要がある。いわゆる,代替的・補完的・支援的サー ビスとして広く捉えられていくことが求められていると言える。

3 社会的ケア展開の実際

わが国において社会的ケアが注目され,一般化,普及化してきたのは,「社

会福祉士及び介護福祉士法」が成立により資格制度が確立し,高齢者・障害者

のケアに視点が移ってきてからであることは明らかである。しかし,社会福祉

の現場では,とりわけ戦後の児童福祉の現場では社会的ケアを余儀なくされて

きた現実があったといえる。戦後の児童養護をめぐる状況を概観することにに

よって社会的ケアの展開上,多くの課題を抱えながら現在に至っているといえ

る。それは,第一にホスピタリズム論争であり,第二はコミュニティ・ケアの

(9)

流入,第三は児童の権利に関する条約の批准である。これらは,社会的ケアの あり方が転換する分岐点としての3段階があり,そのことを通じてどの様に対 応をしてきたのかを考察し,社会福祉基礎構造改革時代における社会的ケアの 今後の課題を明らかにしておきたい。

(1) ホスピタリズム論争と社会的ケア

1945年(昭和20年)第二次世界大戦の終結により,戦災で両親を失った孤児,

引揚げ孤児,戦没軍人の孤児などが街頭,巷に浮浪し,物乞いをしたり,金品 を窃盗するという不良行為を行っていた。児童福祉施設である児童養護施設が 浮浪した孤児の収容保護をした。

1950年(昭和25年)4月,東京都石神井学園堀文次が雑誌社会事業に「養護 理論確立への試み─ホスピタリズムズ」と題する論文を寄稿すると多くの反響 が起り,ホスピタリズム論争が起った。堀文次の所論は,ロレッタ・ベンダー,

マッカーソンの理論を受け,堀自身の養育院事業20年間の経験から整理をした ものであった。本来は,児童自身の家庭で育てられるべきであるが,貧困等の 諸事情で家庭崩壊が起り,家庭での育児が困難な場合に,代替の場としての養 護施設において養護する前提で,普通の子供と変わらないものを育成できるか を真剣に追求するところに養護理論が求められるとして,育児施設が集団養護 形態を採っている現状では,集団育児の欠陥ホスピタリズム(収容所病)を指 摘することで養護理論を展開している

(16)

続いて発表された潮谷総一郎の論文「養護施設における集団生活の弊害につ いて─集団心理におけるホスピタリズムズの解明─」

(17)

では,集団心理の特 性から施設の収容児童の心理や行動の解明を試みようとして,養護施設の養護 のあり方は集団の環境を最小限に止めて家庭的環境を導き出すことであると結 び,家庭的処遇の必要性を論じている。

次に瓜巣憲三の所論は,堀文次の引用

(18)

によると,ホスピタリズムは施設

(10)

の不可避的な欠陥ではなく,旧孤児院的な指導性の欠如と技術の不熟練による ものであると指摘している。以上の3者によるホスピタリズム肯定論が出され,

国はこの問題の重要性に着目し,1952年(昭和27年)から2年間に渡り共同研 究「ホスピタリズム研究」をまとめている。その内容は,実態と予防,治療,

対策の研究を行なったものである

(19)

。ホスピタリズム論争は,児童福祉施設 の乳児院・養護施設の養護を否定するもので,本質を問うものであったが,批 判のための批判を行なったのではなく,すでにそれを克服するための対応策が 提案されていた。ホスピタリズム研究では,里親制度の確立と小舎制度の採用 であった。施設の家庭化,家庭的処遇論への実践を志向していたが,この期の ものは様式にこだわり,機能と質に着眼していなかった。大方の養護施設は活 発化してきた養護理論の展開にもその閉鎖的な視点でたいした関心も持たず,

又関心は持っても経済的窮乏や施設従事者の質の低さ等種々な制約のため,現 状維持か併用かを論ずるに止まった。一部民間施設の実験的な試みとしての コッテージ・システムや家庭養護寮への志向がなされた以外は家庭的生活様式 を各施設の制約の範囲内で大部屋式を小部屋式に改造したり,保母の担任制を しいたりするに止まったのである

(20)

(2) コミュニティ・ケアの導入と社会的ケア

わが国でコミュニティ・ケアが導入されたのは,1969年(昭和44年)に東京 都社会福祉審議会の答申を契機に登場し,「東京都におけるコミュニティ・ケ アの進展について」の中で,「コミュニティ・ケアとは,コミュニティという 場で,在宅の対象者に,コミュニティ内に存在する社会福祉機関・施設により,

地域住民の参加を得て,展開される方法」であるとされている。コミュニティ・

ケアは,イギリスでは一般用語として普及したのはそれほど古いことではない。

1962年の病院計画において病院の役割が明確化される中で地域社会のケアのあ

り方が強調されたのが大きな契機であり,1968年のシーボーム報告で明確に打

(11)

ち出されたのである

(21)

。イギリスではコミュニティにおける援助は,救貧法 下において,居宅保護,教区救済,院外救済として行なわれていた時もあった が,一般的にはあまりに費用が掛かりすぎであるということで禁止されていた。

その原因は,第一に経済的な面で,コミュニティでの援助は魅力的で多くの資 格者が申請をしたために負担増となった。第二に道徳的な面で,院外救助を受 ける人と自活をしている人とが同じ水準の生活をしていることへの疑問と,国 家の給付は最も絶望的な人々を除いて,それを受けることを思い止まるような 不快な方法で提供すべきであるという感情があったと言われている。これらを 解決するものとして施設ケアが提供された

(22)

コミュニティ・ケアに関する考え方には,①治療的コミュニティ,②施設ケ アの対置概念としてのコミュニティ・ケア,③対象者の問題解決に関係のある 諸機関,施設の有機的な連絡,協調の体系として捉えようとするもの,④居宅 ケア,施設ケアを包摂するもの等の諸説がある

(23)

。これらからコミュニティ・

ケアの概念をどのようにみるべきであるかは,従来のとりわけ居住施設でのケ アに対する批判からコミュニティの場におけるケアの重視の傾向であろう

(24)

。 在宅福祉重視は,単なる施設ケアを否定する考え方のように受け留められがち であるが,③,④は在宅福祉のみならず施設ケアとの相互補完的な役割がある ことが重視されている。①はコミュニティそのものに治療的な機能があるとい うことで,コミュニティ重視の考え方を濃厚にしている。コミュニティという 場で,コミュニティによって福祉社会を実現していくという理念の許で,福祉 コミュニティを醸成していく援助技術としてのケアマネジメントが必要であり その実践が急務であろう

(25)

わが国におけるコミュニティ・ケアの概念が導入された当初は,技術として

は明確にされず,寧ろ,理念として導入されたと考えるべきであろう。施設ケ

アを中心にしていたわが国の社会福祉から地域社会を基盤にした社会福祉への

転換を余儀なくされたといえる。コミュニティ・ケアの概念は,昭和50年代は

(12)

「施設の社会化」として結実していった。居住型施設は施設の設備や人的資源 を地域社会へ開放及び交流をしていく機能を果たしながら,運営管理のあり方,

施設の機能のあり方が問われてきたといえる。

コミュニティ・ケアの援助技術であるケアマネジメントは,イギリスでコミュ ニティ・ケア法が1993年実施されている中で「ケアマネジメント」を使用し,

用いられ方が国際的にも定着化されてきたといえる。もともとは,1970年代か ら使われているアメリカのケースマネージメントと同義で使われてきていた が,ケースという言葉には人を見下す響きがあることと,生活主体者であるク ライエントやその家族の望んでいる暮らしを実現するためにケア(広義)をマ ネジメントするのであって,援助者がクライエント(ケース)の暮らしをマネ ジメントするのではないという考えから用いられてきている

(26)

。いわゆる,

コミュニティ・ケアの援助技法として登場し,マネージの対象が人ではなく,

ケアであるという認識がなされたと観るべきであろう

(27)

。ケースマネージメ ントは,1970年代中頃よりアメリカで使われるようになった用語であり,精神 保健分野では脱病院化政策に対応する地域での対策に遅れがあること,サービ スの不連続性が指摘され,自らの力でサービスを利用することのできない人々 に諸サービスを適切に提供することが目指された。老人福祉分野では,メディ アやメディケイドの効率的運用の必要性から取り入れられた

(28)

。わが国にお いては,1984年以降公式の報告書に登場した。ケアマネジメントとほぼ同義に 使用されているが,ケアを狭義に捉えたケアマネジメントの上位概念とする考 えもある。

(3) 「児童の権利に関する条約」の批准と社会的ケア

「児童の権利に関する条約」

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(以下,権利条約という)は1989年11月20日

第44回国際連合総会において満場一致で採択された。その後,1990年1月26日

署名が開始され,条約の効力が発揮できる20 ヶ国の批准書が出され,1990年

(13)

9月2日に国際条約として成立した。わが国も158番目の国として,1994年4 月22日に批准をした。同年5月22日に発効をしている。権利条約は,前文と 54 ヶ条からなり,「その内容はきわめて広範なものになっている。これを大き く分けると,①児童の最善の利益の考慮,健康を享受する権利など,児童の生 存と発達に関するもの,②親の第1次的養育責任,教育を受ける権利など児童 の特性に配慮したもの,③差別の禁止,児童の意見表明,思想,良心,信教の 自由など大人と同様の権利をみとめたものなどからなる

(30)

」。児童の生存と発 達,児童の特性,自由権を認め,権利の主体としての児童観が明確に位置付け られているといえる。これらは,国際連盟の「児童の権利に関するジュネーブ 宣言」(1924年),国際連合の「世界人権宣言」(1948年),「児童の権利に関す る宣言」(1959年), 「世界人権規約」(1966年)(わが国は1979年に批准をした),

国際児童年(1979年)へと引き継がれ権利条約として結実したといえる。この 世界的な人権に対する考え方は,あらゆる人種差別,性差,障害,年齢差を撤 廃し,世界人権宣言前文冒頭で「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平 等で譲ることのできない権利とを承認することは,世界における自由,正義及 び平和の基礎である……」と述べていることを実現する基盤を構築しているこ とである。今後は,権利条約を実効性のあるものとして,遵守し,児童の権利 を保障していくことが,実践されることが重要であろう。

4 社会的ケアの今後の課題

21世紀の社会福祉は社会福祉基礎構造改革により大きく転換をし,福祉の考

え方を一変したものである。すなわち,第一に措置から契約へと福祉サービス

の利用制度化が進められた。利用者の立場に立った福祉サービスを提供して行

くシステムに変えていくことが志向されている。そして,利用者自らが自己決

定をし,福祉サービスを享受できることを保障するものである。但し,要保護

(14)

児童については措置制度は存続している。自己決定能力の低下した者の福祉 サービス支援や成年後見制度などが整備されてきている。第二は,サービスの 質の向上があげられている。具体的には事業者による自己評価や第三者機関に よる評価により質の向上を図ることや,サービス利用者が選択を可能にするた めに事業運営の透明性の確保がある。第三は,社会福祉事業の充実・活性化が あげられている。規制緩和により,社会福祉法人の設立緩和弾力的な対応を可 能にした。第四は,地域福祉の推進があげられている。都道府県から市町村へ と委譲により,地域を基盤にした福祉サービスの提供ができるシステムが整備 されてきている。

わが国における社会的ケアは,戦後は保護を必要とする児童の家庭代替の場

としての入所施設を中心にケアが行なわれたが,養護の本質を問うものであっ

たホスピタリズム論争が起こり,事態を重視して,国が行った「ホスピタリズ

ム研究」では里親養育と小舎制度を提案している。論争を通じて,積極的養護

理論の登場で養護理論確立で対応することであった。第二のコミュニティ・ケ

アの導入は,施設ケアのみならず在宅ケアに移して行くという考え方が打ち出

されていたが,この時代は,理念で方法としての技術が出てくるまでには時間

を要している。第三の児童権利条約の批准は,児童・障害者・高齢者のあらゆ

る人々の権利を守るという考え方が出されてきたとみるべきである。3つの分

岐点は,福祉の考え方を大きく転換する契機であると捉えることには異論はな

いであろう。さらには,社会福祉基礎構造改革で福祉サービスとしての社会的

ケアをとらえることが求められているといえる。つまり,ケアはどこまでを指

すのかといえば,家族が行うケアから,親族,近隣住民などが行うケアと,施

設ケアへと拡大され,合わせてその質が問われてきている。それは,社会構造

の変化に伴い,核家族化,女性の雇用化,地域社会の変貌などが叫ばれ,少子

高齢社会へと変わっていく中で,家族機能の脆弱化が言われ,社会が行うケア

の必要性がますます増大してきているといえる。むしろ,家族機能が果たす役

(15)

割が縮小し,外部の社会的ケアに依存している側面が大きくなったと見るべき であろう。私的なケアが市場化し,社会的ケアによって成り立っていくと考え られる。認知症高齢者,障害者,被虐待児への対応など困難な問題への専門的 対応が迫られることも一因となっている。それだけにケアの質が問われてきて いる。

ケアワークについては,西川真規子は「他者を気遣い,その健全な生活のた めに必要なものを供与することを目的とし,そのために,肉体的,精神的努力 を要する,いわば他者志向的な労働である。」と定義している

(31)

。そして,ケ アワークの対象を高齢者の介護,乳幼児の世話から,拡大し,障害者,病人も 含まれると考えている。心身の状態が社会的に自立する上で,十分ではない対 象へのケアとして捉えられている。狭義の心身の機能不全や未成熟さによるこ とに注目すれば,技術的になりがちである。心の課題に着目することが必要で あり,脳科学の発展に伴い,解明されてきているが,今後は心の問題に踏み込 む課題があると指摘をしておきたい。ケアワークの担い手である専門職者の介 護福祉士は他職種である保健医療福祉職との連携が義務付けられている。保育 士については明記されず義務付けられていないが,福祉現場では実際上実践し ていることは明らかである。そのためにも,他職種と技術的にも共通の援助の 原理・原則,展開過程をもつことが必要であり,マネージすることも重要であ る。ケアは,ケア提供者中心ではなく,他者志向である。いわゆる,クライエ ント中心が根底になければ,適切なケアはできない。

(1) 誠信書房『現代社会福祉辞典』において,仲村優一が「ケア」の項目の中で指摘を している。

(2) 1998年(平成10年)6月17日中央社会福祉審議会社会福祉構造改革分科会が発表し た「社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)」

(16)

(3) 「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」は,2000 年(平成12年)7月に設置され,9回の検討でまとめられ,2000年(平成12年)12月 8日に報告書として出された。社会福祉基礎構造改革の一環として今後の福祉のあり 方に対する提言としてまとめられている。

(4) 『現代社会福祉辞典』では,援護については社会福祉の援助の一つで,育成と更生 とに分けて用いている。

(5) 「あり方検討会報告書」では,「社会的排除」を使用しているが,津崎哲雄は social exclusion を「社会的疎外」と訳して用いている。

(6) 津崎哲雄は「90年代児童養護施策の失敗とクオリティ・プロテクツ計画」の中で,

97年政権復帰の労働党政府は,保守18年の社会政策見直しを余儀なくされたとして具 体的に資料で社会的疎外の被る事態を述べている。

(7) 小学館『ランダムハウス英和大辞典』

(8) 池田起巳子著『施設児の心理─児童福祉のために─』明治図書,1969年,12頁

(9) 古川孝順著『子どもの権利』有斐閣,1982年には,一般に堕胎,間引きの禁止,棄 児や三つ子の救済には特に明治維新政権の意図は近代国家としての体裁を,とりわけ,

先進資本主義諸国に対して整え,同時に新政権のもとに国内を統合していくことに あったとみるべきであると考察をしている。

(10) 講談社『日本語大辞典』

(11) 黒川昭登著『現代介護福祉論─ケアワークの専門性─』誠心書房,1989年,まえが き

(12) 野沢正子著『児童養護論』ミネルヴァ書房,1991年,8頁

(13) 竹中哲夫・垣内国光・増山均編著『子どもの世界と福祉』ミネルヴァ書房,1996年,

83頁において「社会的養護」概念などは確定的なものではなく,立場によって少しず つ異なっていると指摘し,児童福祉分野に限定をするのであれば,社会的児童養護と すべきであるとしている。しかし,「社会的」をつけて用いているのは児童養護のみ であり,特に区別して用いる必要はない。

(14) 竹中哲夫・垣内国光・増山均編著『子どもの世界と福祉』ミネルヴァ書房,1996年,

83頁

(15) 野沢正子は『児童養護論』において,「養護」はロバート・モーリス(Robert Moris)などのソーシャル・ケア(social care)に相当する概念と捉えられている。

(16) 『社会事業』第33巻4,6号の堀文次「養護理論の試み」

(17) 『社会事業』第37巻2号の潮谷総一郎「養護施設における集団生活の弊害について」

(18) 『社会事業』第36巻10号の堀文次「養護施設の指導性とホスピタリズムズ」

(19) 『社会事業』第37巻9号の谷川貞夫「ホスピタリズムズ研究(2)」

(17)

(20) 明治学院大学文経学会『明治学院論叢・研究年報1965. 1』173頁,畠山龍郎「養護 施設における養護理論とその収容形態に関する研究(1)」

(21) イギリスシーボーム委員会,小田兼三訳『地方自治体と対人福祉サービス/英国シー ボーム委員会報告』相川書房で指摘している。

(22) Joan Orme & Bryan Glastonbury,Care Management-Task and Workloads

   ジョアン・オーム,ブライアン・グラストンベリー編著,杉本敏夫訳『ケアマネジ メント』中央法規,1995年,8頁

(23) 自治大学校研究部編『地方公務員セミナー 住民参加と行政』第一法規,1976年,

200頁

(24) 施設ケアに対しての批判は,戦後の欧米のホスピタリズム,アメリカにおいては脱 施設化が起こってきている。北欧のノーマライゼーションなどがその潮流である。

(25) 宮本和武「ケアマネジメントの概要と今後の課題」,『ちば社会福祉研究第2号』千 葉県社会福祉士会,1996年

(26) 前掲書ジョアン・オーム,ブライアン・グラストンベリー編著『ケアマネジメント』

(杉本敏夫訳,中央法規,1995年)において,ケースマネージメントはアメリカとイ ギリスでも当初は使われていたが,ケアマネジメントはイギリス保健省で公式に認め られている用語であるとしている。

(27) 『ケアマネジメントとアセスメント』(英国のケアマネジメントガイドブック)

(28) 松原康雄「養護施設におけるケースマネージメント」,季刊『児童養護─創刊100号 記念特集号─』,1995年9月,138頁

(29) わが国の公式名称である。英訳での名称は,Convention on the Rights of the Child である。

(30) 厚生省児童家庭局企画課監修『児童福祉論』全国社会福祉協議会,1986年,22頁

(31) 西川真規子著『ケアワーク 支える力をどう育むか─スキル修得の仕組みとワーク ライフバランス─』日本経済新聞出版社,2008年,33頁

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