ソーシャルワーク教育の位置づけ
本学科は、保健福祉専攻と生活福祉専攻とい う2つの専攻から構成されている。ソーシャル ワーク教育について言えば、保健福祉専攻では ソーシャルワーク教育の一環として社会福祉士 国家資格が目指すべき資格として設定されてお り、生活福祉専攻では介護福祉士の資格取得を 基礎としながらも上乗せ科目として社会福祉士 とのダブルライセンスが可能となっている。す なわち、本学科のいずれの専攻においても共通 して目指す国家資格は、「社会福祉士」であ る。また、保健福祉専攻では、社会福祉士の資 格をベースとして精神保健福祉士などの国家資 格取得を目指すことができるとともに、生きが い情報士、認定心理士、障害者スポーツ指導 員、レクリエーション・インストラクター、健 康運動実践指導者などの団体認定資格を取得す ることが可能なカリキュラム構成となってい る。すなわち、セカンドスペシャリティとして 精神保健福祉、生きがい支援、福祉心理、健康 など多彩な資格カリキュラムが準備されている その中核に位置づくのは、ソーシャルワーク教 育というコアカリキュラムである。本稿では、
そうしたソーシャルワーク教育の概要を紹介す るとともに、実習教育の評価の変遷を辿ること を通じて今後のソーシャルワーク教育の方向性 について議論することを目的とする。
目指す教育目標とカリキュラムの変遷
本学科における出来事とそれに伴うカリキュ ラムの変遷については、表₁に示す。本学科に
₁期生が入学した1999年時点でのカリキュラム においては、保健福祉専攻と生活福祉専攻の両 専攻に共通する社会福祉士受験資格取得のため の科目の全てが必修科目であった。2000年度入 学生からは一部法改正により、間もなく新カリ キュラムへと移行することとなった。この新カ リキュラムでは、実践力の強化の視点から、社 会福祉援助技術関連科目における理論と演習科 目のそれぞれの時間の拡充が定められたことに 伴い、本学もそれらに併せてカリキュラム改正 を行った。ただ、科目時間数等の変更はあった ものの、本学では開学以来社会福祉士指定科目 は演習・実習・実習指導まで含めて全て必修科 目という基本方針に変化はなかった。すなわ ち、社会福祉士の受験資格を取得すること自体 が卒業要件とされていた。当時は、来るべき高 齢社会に向けて福祉職への期待は高く、必修化 によって多くの学生をソーシャルワーカーとし て輩出することを一つの教育目標としてきた。
ソーシャルワーク教育において本学での一つ 目の転機を迎えたのは、2003年であろう。本学 が2002年に完成年次を迎え、2003年度からはさ らに専攻の増設、学習領域などの幅を広げるな ど、より魅力的な学科編成へと改編されること となった。加えて、保健福祉学科の定員を120 名から160名へと変更する定員増が行われた。
これにより、保健福祉学科では、従来の保健福 祉専攻、生活福祉専攻に加えて、精神保健福祉 専攻が増設されるとともに、保健福祉専攻で は、医療福祉領域、福祉心理領域、健康福祉領 域の3つの専門領域のいずれかを重点的に学習 することが可能となった。
こうした学科改編に伴い、カリキュラムも見
本学におけるソーシャルワーク教育と今後の課題
特 集
徳田 律子
Journal of health & social services, 2016;No.14, p 71-75
直されることとなる。特に、ソーシャルワーク 教育においては、学生数が倍増したことにより 従来のようにすべての学生に受験資格を付与す ることは難しいと判断された。これまでは、入 学することで受験資格が約束されてきた一方 で、現場実習までは希望しない学生はイコール 卒業できないという状況も生まれつつあったか らである。定員増によって、国家資格の受験資 格取得を目指さないあるいは福祉の勉強には興 味があるが現場実習までは希望しない学生が増 えることが予測されたため、社会福祉士指定科 目のうち、社会福祉援助技術実習を選択科目と した。さらに、社会福祉援助技術演習も演習Ⅰ のみをソーシャルワーク教育として必修科目に 残し、社会福祉援助技術演習Ⅱ・Ⅲといった上 乗せ部分については、選択科目へと移行するこ ととなった(表₂)。
この頃から、実習が選択科目となったことに 伴い、これまでのような実習後の学生の達成度
評価だけでなく、実習前教育の評価や実習に対 する学生のコンピテンスを確認する必要性に迫 られるようになってくる。そうした背景の一つ には、学生の多様化がある。当時は、団塊の世 代の退職をひかえ、就職は比較的売り手市場で あった。一般企業を目指す学生も少なからず 存在しており、ITバブルなど好景気にも支え られ、多い時には4割近い学生が福祉の知識を 生かした一般企業に就職することもあった。し かしながら、そうした学生がすべて実習に行か ないという選択をするわけではなかった。「親 に言われたから」、「とりあえず国家資格だか ら」といった実習への意欲の低下は実習配属の 中止といった事態を招くこともあった。このよ うな苦い経験から、実習前教育をさらに充実さ せる一環として、実習前の実習コンピテンスを 積極的に評価し、到達点を明らかにしていくこ とが、よりよい実習に結びつくものと学内でも 共通に認識されるようになってきた。
実習前教育における評価システムの構築に向け て
前述したような状況を受け、2007年頃にな ると実習前に一定の評価を行うために統一試 験を課すこととなる。いわゆる福祉版のOSCE
(Objective Structured Clinical Examination)
とも言えるものである。試験内容は本学科で独 自に作成したものであり、実習に対する意欲だ けでなく、各分野で求められる基本的知識、法 制度、倫理観や現場で求められる判断力などを 問う事例問題などから複合的に構成された。し かしながら、試験によって実習前評価を始めて みると二つの課題に直面することとなった。一 つは試験結果としての実習評価をどのように活 用するかということである。通常の科目であれ ば、試験によって学生の到達度を評価し、それ によって及第点(60点)に到達していなければ 単位の取得ができないということになる。しか し、実習指導はあくまでも実習に向けた前段階 のものである。実習という到達点を想定した場 合には、実習までに到達点に達することが求め られている。それゆえ、試験に合格することを 大前提としながらも、試験によって学習の到達 点を知り、さらに不足があるとすればそれは試 験を通じて学生の自主課題を発見するための ツールとして試験を位置付けたのである。試験 に不合格であった学生には、追加の課題を与 え、実習という到達点にすべての学生を導くた めの実習教育をさらに実施してきた。すなわ ち、試験を実習配属のための合否を判断する決 定的要素としては取り扱わず、実習前教育の評 価を行うために活用してきたのである。
さらにもう一つこの試験が最終的な実習配属 の可否を決定する試験とならなかった理由に は、試験結果の客観性の問題があろう。及第点 は60点であるが、では、試験の難易度に不公平 さはなかったのか、あるいは59点と60点の学生 において実習の可否を決めるほどの決定的な能 力差があるのかという点である。59点と60点 に大きな差がないとすれば、58点、57点、56 点・・・と、評価基軸にブレが生じ始めたので ある。と突き詰めて考えていけば、では実習評 価としてどこで合否の線引きができるのであろ
うか。実習前評価として教育の説明責任を果た していくためには、試験のみならず、さらに評 価基準の客観性を高める必要が出てきた。
こうした状況を受け、実習前教育の評価の客 観性をさらに高めていくため、実習指導の教育 過程全体をより評価に反映できるシステムを検 討していくこととなる。そこで導入したのがポ イント制度である。実習現場で求められる知識 だけでなく、実習への取り組みの態度、レポー ト課題の到達点などを総合的にポイントとして 詳細に評価し、それを積み重ねることによっ て、次のステップに進んでいくことができるシ ステムを構築した。このポイント制度は到達点 が高ければ得点は高くなり、遅刻や欠席など基 本的態度に問題があれば、減点される仕組みで ある。こうしたポイント制度と統一試験を組み 合わせていくことにより、実習指導におけるプ ロセスも評価し、結果としてのアウトカムも評 価する総合的な仕組みづくりと客観性の確立を 目指した。しかしながら、この仕組み自体は、
ほとんど長続きしなかった。なぜならば、イレ ギュラーな出来事をどのように評価していくの かという運営面での難しさがあったからであ る。やむを得ない事情をどのように考慮してい くのか、意欲のある学生に的確にポイントを加 点できているかどうか、そうした個々の事情は やはり教員の裁量によってのみ評価できるので ある。そのため、導入したポイント制度はやが て新たな実習の履修に向けた積み上げ方式によ る評価システムへと移行していくこととなる。
この積み上げ方式についての詳細は後述する。
さて、本学科における₂つ目の転機は、2007 年の、社会福祉士・介護福祉士法改正により、
演習・実習科目を中心としたカリキュラムの見 直しが行われたことである。養成教育内容の見 直しでは、より実践力の高い社会福祉士養成を めざし、実習・演習の教育内容の充実に焦点を あてたカリキュラム構成となった。2009年度入 学生からこれを受けた新カリキュラムが実施さ れることとなった。新カリキュラムの指定科目 については、表の₂にまとめる。
本学でもこれに合わせて、カリキュラムの大 幅な改編がなされた。一つは全科目におけるセ メスター制の導入である。これは、学生の履修
しやすさといった側面とともに、半期ごとにき ちんと学習の成果を単位認定するという評価の 厳密化も意図したものであった。もう一つは、
実習に向けた学習については積み上げ方式を導 入したことである。この積み上げ方式とは、社 会福祉士指定科目を実習開始までに原則として は配当年次に受講し、単位取得していくことで ある。このように実習までの履修要件を段階的 に設けることで、実習学生のコンピテンスを高 めていくような仕組みが構築された。実際のと ころ、これまでの実習前評価では実習指導とい う一つの科目でしか評価できないという限界が あった。この積み上げ方式の利点は、すべての 科目の総体としての実習を位置付けているとこ ろである。実習までにすべての科目を単位取得 することにより、専門的知識・技術を有した専 門職として実習に向かうことが可能となる。実 習は、ソーシャルワーク教育の総体でもあり、
それにふさわしい実習前の段階的評価であると 考えられる。試行錯誤によって検討されてきた 実習前教育の評価も実習プログラムの構築と実 習コンピテンスの評価(=実習前評価と事後評 価の統一基準)により、一定の到達点に達しつ つある。
まとめ
本学では開学以来、ソーシャルワーク教育の 中核は実習であると言われてきた。たしかに、
カリキュラム一覧を見れば、実習教育は指定科 目の一つにしか過ぎない。しかしながら、実習 は紛れもなく実学としての総仕上げの科目であ り、ソーシャルワーク教育における統合科目と して重要な位置づけを占めている。さらに、
「保健医療福祉に関する専門的知識と幅広い教 養を有している(知識・理解)」「保健福祉に 関する専門的知識に根差した思考と判断ができ る(思考・判断)」「福祉社会における諸問題 の動向に関心を持ち、福祉的教養と高い専門性 を身に付けた職業人として、人々のより良い暮 らし(well-being)のために地域貢献できる力 を身に付けている(技能・表現)」「様々な状 況下において、多様なニーズに応えていく柔軟 さを持つことができる(関心・意欲・態度)」
というディプロマポリシーの₄つの側面を総合 的に達成することが、ソーシャルワーク実習の 達成と同じ意味を有している。本学科のソー シャルワーク教育の変遷を辿ることで、当初 は、すべての学生を社会福祉士にするという教 育目標を有していたが、次第にすべての学生を ソーシャルワーカーとして養成しつつも、時代 の変化とともに社会福祉士として一定の専門職 者としての質を担保した学生を育てたいという 目標に変化してきた。そのため、実習教育で は、特に実習評価の機能を高めることに重点を 置き、教育を実践してきたと言えよう。
ディプロマポリシーを達成していくことは、
決してたやすいことではないが、実習教育を充 実させることによって、それは可能となると考 えられる。そして、本学がそれを達成できる条 件を満たしていることの中核には、実習教育に おいてすべての教員が協力体制にあったという ことが存在している。大学教育の中ではともす れば教員の個別の裁量に委ねられ、同じ大学内 ですらお互いにどのような実習教育を行ってい るのか感知しないという大学の方が多い。その ような中で、開学以来の歴史を振り返ってみて も、教育プログラムの進め方、評価方法などな どすべてにおいて共通した認識のもとに一致し て学生に高い水準の教育実践を行ってきたとい うことは、本学科の最大の財産であろう。今後 も、実習教育のみならず、指定科目、さらには 周辺専門領域を含めた教員間でソーシャルワー ク教育として統一した目標を共有し、さらに協 力連携していくことが求められている。なぜな らば、それこそが教育の質を常に高め、より高 度な専門性を有したソーシャルワーカーそして 社会福祉士を輩出していくことを可能たらしめ ると確信するからである。