情報構造 に基づ く移動操作 について
On the Movement]Based on lnfo■ 11lation Structures
内
田
恵
Metti UcHIDA
(平成11年
10月
4日 受理)は じめに
通常あるべ き位置の要素が移動 して派生 した と考 えられる構文のい くつかを「移動構文」 と 呼ぶ ことがある。そして要素の移動 にはさまざまな制約が関係 して くることもよ く知 られてい る。 また、要素が左右 それぞれ と両方向へ移動 されるさいには表面上の線形的な移動 に伴い、
内部構造の変化が複雑 に関与 して くる。そしてさまざまな制約 は内部構造の変形や再構築 とも か らみあう。 ところが内部構造 は統語論 に傾斜 した理論か ら産出 した道具立ての一つであ り、
移動構文の説明を満足 にしているとは思われない。本稿では移動構文の意味的あるいは談話的 特性 に着 目して、その特徴 を明 らかにしてゆ く。
1節
では移動操作が行われるときに統語 と意 味の変化 について、円滑な一対一対応が存在す るのかを眺めてみる。2節
では1節
で生 じた問 題点 と代案 を議論する。そして3節では「相対的情報構造」 という考 え方 を用いて、前節で上 げられた統語 と意味のずれについて一貫 した説明が与 えられ るか、主 として右方向の移動構文 を具体的に扱いなが ら検討 してみる。1.移動にまつわる制限
英語の内部構造 は右 に枝分かれする形 (right branching)を とる。X'理論 に従 えば、
(la)の
一般式か ら(lb)の
ような英語の基本構造が導 き出される。(1)a. L
主語
I' I VP
V'
付加部V
⌒ 目的語 指定部ご く大 ざっぱに言 うと、ある要素 を「島(island)」 を形成する集合か ら外へ移動するときには 問題 になることが多い。 ここではその条件 を議論することはしない。考 えてみたいのは構造が 変化す るときに、そこに何 らかのゆがみあるいはひずみ とも言 うべ きものが生 じるのではない か とい うことである。次の例 を見てみよう。
主
(2) [I think[that[he likes every friend of lnine]]].
(2)の複文 は伝統文法的に言 えば、I thinkが 主節、that he likes every friend of mineが従属 節 という分類 にな り、前者 は後者 よりも意味的に重要であると解釈 される。樹形図では内部構 造 を反映 しているので主節が従属節 よりも上位 に位置 した格好 になる。島を飛び出た長距離移 動の場合、仮 にある要素 を左 に移動すれば構造上では上昇 を伴 う左上への移動 にな り、右へ移 動すれば下降 を伴 う右方向への移動 となることが多い。(3)は (2)の従属節 (補文)を前置 した 例であ り、全体 をとらえて挿入節構文 と呼ばれる。
(3)Hc Hkes every friend of lnine,I think.
内部構造で上位 にある句 または節 は、下位 にある句 または節 に比べて意味的にも通例 は優位 であるはずである。(3)の挿入節構文 は(2)の複文 を基底 に派生 しているが、
he likes every
friend Of mineの 部分が I thinkの部分 より意味的に重要度が高い。 したがって意味 まで反映した構造 を模式化すると、(4a)で はな くて
(4b)の
ようになると考 えられ る。(4a)で は統語 と意 味のね じれ現象が見 られ、適切ではないので(4b)の
ような形 にまで水平化 される。(4)a.
he likes.¨
he likes...
そこで「意味的に優位 にある」 ということは何 を意味 しているかを
2節
で考 えてみよう。2.意
味 と情報構造1節
での「意味的に優位 にある」 ということは2つ以上の意味 を持つ要素 を比較す る述べ方 であるので、単語固有の意味に言及するのではないことは明白である。 ここでは「談話上の意 味」という観点か ら考 えてみよう。「意味的に優位である」とは情報量が多い ということになる。それではこの情報量の多い少ない ということに原則があるか というと、 これ も代表的な用語を 使用すれば新情報 (new informatiOn)・ 旧情報 (old informatiOn)と いう区別 に結ぶつ く。
(5)旧
情報…発話す るときに聞 き手の意識の中に既 にあると、話 し手が仮定 している情報 新情報…発話 によって聞 き手 に新 しく与 えられると、話 し手が仮定 している情報英語 においてこれ ら2種類の情報 は、原則 として「旧情報 一新情報」の順序で配列 されるこ とになる。(5)の情報構造の最大の短所 は、頭では何 とな く理解で きて も本当にこのような分類 のみで妥当なのか とい う疑間である。事実、情報構造 を二項対立的に分類することだけでは、
S ∧
︵ ︵
︲think S ∧ b.
︵ ︵
︲think
談話分析の場合 に一筋縄ではいかない ことが起 こる。 これを補完す るようない くつかの提案が なされてきたが、 ここでは Prince(1992)、
Birrler and Ward(1998)な
どの分類が一番す ぐ れていると思われるので紹介 してみる。これ らの提案 によれば、まず(i)old(新
)vs.new(旧)、6i)discourse(談話
)vs.hearer(聞
き手)と い う2種類の対立概念の基準 を設定 してそれ を複合 的に組み合わせて情報構造 を分析 している。 この考 え方は従来の新 0旧 情報の対立 を聞 き手中 心の分類 と(先行)文
脈中心の分類 に分割 している点で、相対的に情報構造の特徴 をとらえているように思われる。
(6)a.
hearer―old,discourse― old
談話が成立す る時点ですで に前 もって引 き出す ことがで き、かつ聞 き手 がすで知 っ てい る もの と話 し手がすで に信 じてい る情報
hearer―
old,discourse一 new
談話 が成立 す る時点ですで に前 もって引 き出す ことはで きるが、聞 き手がすで知 っ てい る もの と話 し手がすで に信 じていない情報
hearer―new,discourse―
new
談話が成立す る時点ですで に前 もって引 き出す ことはで きない し、聞 き手がすで 知 っているもの と話 し手がすでに信 じていない情報
d. hearer― new,discourse―
old
談話が成立す る時点ですで に前 もって引 き出す ことはで きないが、聞 き手がすで 知 っているもの と話 し手がすでに信 じている情報
(6a)か ら
(6d)ま
での組 み合わせは次のようになる。hearer-old hearer-new
discourse-old
A存在せず
discourse-new
B CPrince(1992)、
Birner and Ward(1998)に
よれば(6d)は
実際の談話上存在 しない。(6)の分類 を用いて(3)の挿入節 を再考 してみよう。他の移動構文 と異な り、挿入節の部分 は 文末のみで はな く文中に も置 くことがで きる。特 に(3)の挿入節 に使われている動詞 thinkは 法性 (mOdality)を表 している。情報価値の点では低いので、聞 き手 に とっては旧情報 とも言
える。しか し談話 には初 めて登場す ることになるので (7B)に 相当するように思われ る。さらに 興味深い ことは、挿入節が置かれ る文中 と文末では情報量 に差があ り、新情報が好む文末にあ る挿入節のほうが情報価値が高い と言 えよう。いずれにして も挿入節構文 は、意味情報の重要 度の変化 に伴 い、それが外圧 とな り意味 と統語のゆがみを解消す るために統語構造が変化 して
(4b)の
ように再構築 された例の一つである。b.
C.
(7)
3.相
対的情報構造 と移動2節
では相対的情報構造の提案 を概観 し、挿入節構文の説明に有用であることを見た。そこ で3節
では他の移動構文の分析 にも有効であるか どうか検討 してみたい。3.1.外
置構文名詞句(節
)の
一部 を文末へ右方移動することを外置 と呼ぶ。い くつかの異なった外置の例 を 見てみよう。(8)a.A report on recent development was issued.
b. A report was issued on recent development。
(8a)は
「報告が提出された」という行為 を言いたいのに対 して、(8b)は
on recent development という報告の内容 に重点が置かれている。文末に配置するのは新情報の好む位置へ移動 したい か らであると言 えよう。 ところが どんな要素で も自由に外置できるか というとそうではない。(9) a. A man with blue eyes came yesterday.
b̀ A man with blue eyes came by bicycle.
C. A man came yesterday with blue eyes.
d. #A man came by bicycle with blue eyes.
e. Yesterday a man with blue eyes came.
fo P#By bicycle,a man with his blue eyes came。 (a―f。 高見
1998)
(9a)と
(9b)は
標準的な語1買の構文であるが、with blue eyesと いう句 を外置 した場合 に(9d)の
場合だけ使われに くくなることが高見 (1998)により指摘 されている。 まず内部構造 を(9a)と
(9b)で比較す ると、yesterdayも by bicycleも 副詞句 を構成 していると考 えられ、1ヒ較的自由 に文頭や文末 に動 くことがで きるはずである。 ところが by bicycleを 文頭 に置 く文(9f)は特別 な文脈 は別 として容認可能性が落 ちる。高見(1998)は
(9e)と (9f)の差 は(9c)と(9d)の
差 に平行 的に反映 していると論 じている。それならば yesterdayは 時 を表す副詞であるのに対 して、bybicycleは は道具 を表す副詞句であるという違いが、(9c)と (9d)で with blue eyesが それ らを 飛び越 えて後置 された場合 に容認可能性の差 にどのように関係するのだろうか。ただ意味の違 いだけで説明できない。そこで情報量の差 に注意 してみよう。(9)の例か らわかることは、時の 副詞旬 に比べて、道具 をあらわす副詞句 は主題すなわち文頭の位置 に来に くいことがわかる。
ということは、文脈 によりそうでない場合 ももちろんあるが、道具 をあらわす語句 は情報 とし ては重要な要素 となることが多いので文末に来やすい と言える。それに対 して with blue eyes は情報量が多いか というとそれほど多 くはない。 日常生活で視覚的認知 を考 えると、 まず対象 物 の全体 的な面 を大事 に して、次 に細 かい部分 の描写 に注意 が ゆ く。それ を考慮す る とby
bicycleと い うものの認知活動 は非常 に円滑 に行われ ることになる。にもかかわ らず新情報が 現れやすい文末 に blue eyesが 来ている文 は容認可能ではない。具体的な道具や手段 を表す句 は、(7C)の ように談話 において も聞 き手 において も新情報である場合が多いので、旧情報の好 む文頭 には置 きに くい とも言 えよう。 この ことは、意味およびその認知 と情報配列の原則が統
語 に影響 を与 えて制限を加 えた り内部構造 を変化 させた りす る一例である。通例 は文法規則す なわち統語的な制約が幅 をきかせているのであるが、 このように統語 と意味の力関係が従来 と 逆転する現象が存在す ることがわかる。
さらに今度 は(9)の ような名詞句 の一部 の外置だ けではな く名詞節の一部か らの外置の例 を 見てみよう。
(10) a . A man who had three ears came into the room.
b . A man came into the room who had three ears.
(10a)は
「部屋 にはいった」とい う行為 に重点があるのに対 して、(10b)は
「(男)は三つの耳 を もっていた」 という個体 の特徴 に重点があると言 える。 ここで(10)が
談話の中で使用 された興 味深い例 を考 えてみよう。(11)a.Did a man come into the rooln who had three earsP b. Yes,someone who came into the room had three ears.
C. #Yes,someone who had three ears came into the room.
(1lb)で は
(1la)の
質問の主節 と従属節が入れ替わっている。他方(1lc)の
ように(1la)と
同 じ主 従関係 をもつ構造でかつ three yearsが 後 ろにないような文 は答 えとしては適切ではない とい う結果が出ている。「三つの耳 をもっていた」とい う情報 は談話では1回出て来たが、聞 き手 に とってはその確か らしさについて旧′情報 とい うことになる。これは(7B)の ように談話 において は新情報であつて も聞 き手 に とっては旧情報 ということになる。3.2.右
方転位構文右方向の移動の
2番
目に「右方転位構文」 を検討 してみる。 まず右方転位構文の特徴 は旧情 報 を担 う要素であつて も、文末 に移動 されるとい う特徴 をもつ。 しか し「旧一新」 という情報 の流れに逆 らってまで文末へ旧情報 を配置するのにはそれな りの理由が存在するはずである。(12) ao IIン
タs always late,ル λπ.b. JOhn is always late。
(a一b. 零ヨ地1985)
(12a)は
(12b)が 基 になって移動 されてで きあがった構文である。 (12a)で は文頭 にある主題 を 文末で再度提示す る格好 になっていて、そこに有標の主題がで きあが るわけである。言わな く てはならない ことを先 に言 つて、それについて念 を押すために文末 に再度主題 を置 くことになる。ただ し
(12)の
どち らが使われるかは先行す る談話 によつて決定 され る。福地 (1985)では 例 えば次のような談話では(12a)は
不適切 になることが指摘 されている。(11)
Who is always lateP" a.# Ho's always late,カ カπ."b。 John is always late." (あ 〃。)
さらに、少数ではあるが、 目的語 を右方転位す る次のような構文 も存在する。
(12)I can't standあ
れ
,ι 滋 ′″
. (Birner and Ward 1998)(12)で
はhimの位置 は新情報が好 む位置であ り、that guyが 主題の確認 にはな らない。むしろ 新情報の強調 ということになるか もしれない。そこで相対的情報構造の考 え方を用いてみよう。右方転位 された要素 は新情報か ら旧情報へ情報量が変化 してきた と考 えられる。談話 において は新情報であって も聞 き手 にとっては旧情報である(7B)の 型 に属 しているように思われる。し たがって
(10a)や (12)は
、基底 となる構文の どの要素 を右方転位 したかについては異 なるもの の、共通性があると言 えよう。3.3.there構
文次 に there構 文 について考 えてみよう。 この構文 は新情報の位置へ意味上の主語 を移動 して 派生 した構文 と考 えられ、「存在型 (e対stential)」 と「提示型 (presentational)」 に特徴づけ
られる。
(13)が
存在型、(14)が
提示型の例である。(13) a . There is a small child in front of his car.
b . * There is in front of his car a small child.
(14) a. There stepped out in front of his car a small child.
b . ?* There stepped out his car a small child in front of his car.
(13b)か らわか るように存在型 で は主語 とみなされ る
a small childの
後 に しか副詞句が来 る こ とがで きないの に対 して、(14a)に
見 られ るように提示型 で は意味上 の主語 a small childの 後 置が許 され る とい う相違が ある。 また BirFler and Ward(1998)は 次の ような分析 をしている。(15) I have sOme interesting news for you.At today's press conference there appeared President Chnton.
(16) I have sOme interesting news for you.#At tOday's press conference there was President Clinton。 ((15)― (16)Birner and Ward 1998)
(17)
hearer-old hearer-new
discourse-old
=十存在せず
discourse-new 提示型 OK
存在型 #
提示型 OK
存在型 OK
相対的情報構造の提案 に従 えば、存在型 と提示型の there構 文の特性 は
(17)の
ような表 にまと めることがで きる (cf.Bimer and Ward 1998)。 すなわち談話に関 して新情報であるが聞き手 に とって旧情報であるような要素の後置 は、提示型 there構 文では問題 ない。 しか し存在型 there構 文では、例 えば(16)の
ように聞 き手 にとって旧情報である President Clintonの 後置は 容認で きない ことになる。3.4.倒
置構文今 まで は右方向のみの移動構文 を見 て きたが、最後 に要素 を左右両方向へ移動 す る ことにな る「倒置構文 (inversion)」 について考 えてみ よう。
(18) She got Fnarried recently,and at the wedding was the FnOther,the stepmother and Dabbie.
(19) I wonder what's going on.A police car is parked in front of the WilHanl's house。
In the back seat is the mayor.
((18)―(19)Bimer and ward 1998)
(18)の
at the weddingは 談話 における旧情報 を示すので前置 され、反対 に後置 された要素 は新 情報 をになうのが通例である。また(19)の
倒置構文 は談話 に関する新情報であるthe mayorが 後置 されているので、それが聞 き手 に とって新か旧かは問題 にしない。そして前置詞旬の移動による倒置の他 にも、分詞句
(20)や
形容詞句(21)な
ども倒置の対象 となる場合がある。(20) Speaking at today's lunch will be our local congressman.
(21) Easier for us to solve would be a problerrl from nunlber theory.
((20)―
(21)福
地1985)
倒置構文 は先行文脈があって派生す る場合がほ とん どである。多 くの場合、先行する文脈で述 べ られていることが らの一部が、旧情報 として前置 された語旬の中に現れる。他方で後方へ動 く要素 はどうであろうか。 これは前置 された要素 に押 されるような形で後方へ置かれた ことに なる。 したがって新情報の好む位置へそれ相応の積極的な理由で配置 されたわけではないよう に思われる。実際に後置 された要素が談話 における旧情報 をになうこともあ り、その場合 には 後置要素 は前置 された要素 よりも先行談話 との親密性が低 くなる。
4。
まとめ本稿では、右方向への移動構文の分析 に相対的情報構造 を用いることが有効であるかを議論 した。文が発話 されるさいに、 どの部分 を相手 に一番伝 えたいか ということは決定 しがたい場 合がある。その理 由の第一 は語句 に絞 りこんで新情報 を断定で きる場合 と、文全体がそのまま 新情報 となる場合が存在す るか らである。後者の場合 は新情報の中で、 また細分化 された情報 構造が生 まれ る可能性がある。そしてそこには新情報同士の序列 とで もいうべ きものがで きあ が る。
(7)の
表 を使 えば、談話 と聞 き手の両方が新情報だ と認 めている語句が最 も純度の高い新 情報 とい うことにな り、聞 き手 に とって旧情報であるが談話では新情報であるような語句がそ の次 となる。 また談話的に旧情報であれば聞 き手 に とってはもはや新情報 として受 け入れ られ る要素 は実際 には存在 しない とい うことも説明 される。 また、挿入節構文や外置構文な どの特 徴か ら、談話的意味情報が統語部門に多少な りとも影響 を及ぼす ことが明 らかにな り、 この ことか ら、実際の談話では一見文法的には容認 されないような構文が定着 して、ステータスを獲 得す ることも起 こり得 るとい うことを確認 した。
参考文献
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