熊本大学教育学部家政教育学科卒業生のライフコース
原 田 知 佳
*・八幡(谷口)彩子
**Life Courses Chosen by Graduates of the Domestic Science Department,
Faculty of Education, Kumamoto University
Tomoka H
ARADA*and Ayako Y
AHATA-T
ANIGUCHI**(Received October 1, 2014)
The purpose of this paper is to examine the subject of the life course choices made by graduates of the Domestic Science Department, Faculty of Education at Kumamoto University, as well as career advancement amongst female teachers.
For this purpose, we distributed questionnaires by mail to a total of 185 graduates (1967-1982 graduation) of the Domestic Science Department, Faculty of Education at Kumamoto University, over the period of February 4 to March 1, 2013. We achieved a recovery rate of 51.4%. We then compared the life course choices of graduates of the Domestic Science Department (1967-1982 graduation) with those of graduates of the Living Science Department
(1951-1966 graduation), and analyzed reasons behind differences between them.
The results were as follows: 1) The percentage of those engaged in long-term continuous work for more than 15 years was 66.3%. The reasons why these individuals could work more than 15 years continuously were: they were elementary school teachers (not junior high or high school teachers) ; their husbands were also teachers (not businessmen) ; and the fact that many of them lived with their parents after marriage. 2) The percentage of those engaged in continuous work for more than 15 years amongst 1951-1966 graduates was higher than that of the 1967- 1981 graduates. We surmise that the reasons for the differences were varying levels of attachment to family life or work, also in accordance with stage of life.
Key words : life course, graduates of Domestic Science Department, Faculty of Education at Kumamoto University, career advancement amongst female teachers.
1.研究の目的
現在,教員としてのライフステージに応じたさまざ まな研修制度の充実により,生涯にわたって教員とし ての専門性を高める取組みの充実が求められている.
その一方で,熊本県は,学校の管理職に占める女性比 率が低いことが知られている.女性管理職者の割合は,
小学校では熊本県で校長13.1%,教頭14.3%,熊本市 で26.1%,教頭15.0%であり(いずれも2012年),
全国平均の約3分の2程度の水準に留まっており,そ の他の学校種でも,熊本県・熊本市ともに全国平均か ら下回っている1).このことは,女性教師が生涯を通 してその専門性とキャリアを高める上で,そのライフ コースにおいて何らかの障害があることを示している.
こうした女性教師のライフコースについては,これま でにもいくつかの研究が散見される2)が,地方大学 の卒業生に関する研究や,女性教師のキャリア向上に 関する明確な指摘のある研究は管見する限り見られな い.
* 原田知佳:熊本大学大学院教育学研究科修了,860-8555 熊本市中央区黒髪2-40-1
Tomoka Harada:Graduate School of Education, Kumamoto University, Kurokami 2-40-1, Kumamoto, 860-8555, Japan
** 八幡(谷口)彩子:熊本大学教育学部家政教育学科,860-8555 熊本市中央区黒髪2-40-1
Ayako Yahata-Taniguchi:Department of Home Economics Education, Faculty of Education, Kumamoto University, Kurokami 2-40-1, Kumamoto, 860-8555, Japan
筆者らは,すでに,熊本県内外へ多数の女性教員を 輩出してきた熊本大学教育学部設立初期の生活科学科
(現家政教育学科)卒業生のライフコースに関する研 究を行っている3).さらに,社会状況等の変化により,
その後の卒業生においてライフコースがどのように変 化したのかを考察したいと考えた.
本研究の目的は,以下の3点である.
① 熊本大学教育学部家庭科(現家政教育学科)の 1967~1982年卒業生(以下「1967~1982年卒コー ホート」と略す)を対象とするアンケート調査を通し て,そのライフコースを把握する.
② ①で把握したライフコースの背景を検討するた めに,就業生活及び家庭生活の詳細について聞き取り 調査等の追加調査を行い,調査対象者が,大学での学 びをどのような形で就業生活や家庭生活に活かし,教 師としてのキャリアを形成したのか把握する.
③ 前報4)で調査対象とした1951~1966年卒業生
(以下「1951~1966年卒コーホート」と略す)と,
1967~1982年卒コーホートのライフコースを比較し
て変化を読み取り,社会背景との関連について考察す る5).
2.研究の方法
本研究では,アンケートによる一次調査と聞き取り 等による追加調査を行った.一次調査ならびに追加調 査の方法は以下の通り.
(1)一次調査
一次調査は,1967~1982年に熊本大学教育学部家 庭科(現家政教育学科)を卒業した卒業生のライフ コースを把握することを目的として,2013年2月4 日~2013年3月1日の期間に郵送法で実施した.調 査対象者は,調査母数221(1967~1982年の熊本大 学教育学部家庭科卒業生)のうち,調査母数から故人,
住所不明者,海外在住者を除いたサンプル数185を 調査対象とした.調査票の回収状況は,有効回収数
96,有効回収率51.4%であった.このうち,本研究
の分析では,教職従事経験者92名のデータを用いて 分析を行った.
調査内容は,① 調査対象者の属性(出身地,性別,
年齢等) ② 熊本大学教育学部入学前のこと(高校 時代に好き ・ 得意だった科目等) ③ 熊本大学教育 学部時代のこと(家庭科への入学理由,大学時代楽し かったか,授業の満足,印象に残っている授業等)
④ 大学卒業後の職業(卒業後初めて就いた職業,教 職勤務地及び年数,経験学校種,教師生活の感想,教 師としての仕事が充実していた時期,教師という仕事 がつらい ・ 困った ・ 苦しいと感じた時期,教師とし
てキャリアアップを果たす上で男女間に格差を感じた 経験の有無,初めて教師を辞めた年齢及びその理由,
再就職の経験の有無及びその年齢等) ⑤ 家庭生活 について(結婚の有無及びその年齢,家庭生活に困難 さを感じた時期,仕事と家庭生活の重きのおき方,仕 事と家庭生活を両立させるための工夫,配偶者の職業,
結婚後の同居経験,結婚出産後も女性が働くことに対 する圧力及び抵抗,子どもの数及び第一子出産年齢,
産休 ・ 育休の取得状況,保育所 ・ 幼稚園の入所 ・ 入 園経験,共働き家庭における家事 ・ 育児の担当者及び 協力者等) ⑥ その他(家庭科での学びが活かされ たと感じているか,現在の生活での生きがいや楽しみ 等)の6つの内容である.
(2)追加調査
卒業生が,熊本大学教育学部家庭科での学びをどの ような形で卒業後の就業生活・家庭生活に活かし,教 師としてのキャリアを形成したのかを把握し,女性教 師がキャリアアップを果たす上での課題を明らかにす ることを目的に,卒業生の就業生活及び家庭生活の詳 細について追加調査を行った.調査期間は,2013年 11月17日~2013年12月4日,調査対象者は,一次 調査に回答した熊本大学教育学部家庭科卒業生(1967
~1982年卒)の中で,追加調査に協力いただける旨 の回答をいただいた卒業生48名.調査方法は,自由 記述方式の調査票による郵送法(43名へ調査票を送 付し,30名より回答があった.有効回収率69.8%)と,
面接法(5名)によって聞き取りを行い,両方合わせ て35名の回答を得た.
調査内容は以下の通り.
① 熊本大学教育学部家庭科時代について(印象に 残っている授業 ・ 当時の様子,卒業論文のテーマとこ れらの学びがその後どのように活かされたか) ② 熊本大学教育学部家庭科での学びの活かされ方(仕事 上または家庭生活上活かされた学び ・ 内容,もっと学 んでおけばよかったと思う内容) ③ 卒業後の生活
(教師という仕事に充実を感じた時期とその理由 ・ 当 時の様子,教師という仕事がつらい ・ 困った ・ 苦し いと感じた時期とその理由 ・ 当時の様子,家庭生活に 困難さや辛さを感じた時期とその理由 ・ 当時の様子)
④ 教師としてのキャリア形成(職業人として専門性
・ 力量向上や昇進を目指すための取り組み,教師とし て働く中で感じた男女格差について,管理職経験の有 無とその理由,初めて教職を退職したときの心境)
⑤ その他就業について(再就職のへのきっかけ ・ 経 緯及び再就職を実現することができた要因,仕事と家 庭生活を両立して継続して就業することができた ・ 支 えた要因,「仕事をすること(働くこと)」の理由)
(3)分析方法
一次調査ならびに追加調査の分析にあたっては,単 純集計ならびに就業類型別にクロス集計を行い,χ2 検定による分析を行った.さらに,1951~1966年卒 コーホートと1967~1982年卒コーホートのライフ コースを比較し,ライフコースの変化とその理由につ いて考察を行った.
3.結果と考察 (1)調査対象者の属性
調査対象者の属性は表1の通りである.前稿で調査 対象とした1951~1966年卒コーホートよりも県外出 身者が増えている.勤務した学校種は,「主に小学校」,
次いで「主に中学校」の割合が高く,1951~1966年 卒コーホートに比べて「主に中学校」に勤務した割合 が増加している.平均年齢は61.3歳で,現在も教員 として働いている卒業生が含まれている.1951~
1966年卒コーホートよりも約10歳平均年齢が若く なっている.
(2) 調査対象者のライフコースと就業類型 一次調査のアンケートをもとに,調査対象者のライ フイベントとライフコースの流れについて分析した.
表2では,調査対象者のライフコースを13類型に 分類した.これらのライフコース類型で最も多かった のは,「就職→結婚→妊娠 ・ 出産→退職(結婚及び妊 娠・出産などの子育て以外の理由)」31.5%,次いで
「就職→結婚→妊娠 ・ 出産→現在も就業」15.2%で,
いずれも結婚,妊娠 ・ 出産のライフイベントを経験し ながらも就業を継続したライフコースであった.
さらに,調査対象者の就業類型を4類型に分類し,
割合を示したのが表3である.表3によると,初職 を15年以上長期継続して就業している「長期継続就 業型」の割合は,66.3%を占める.長期継続就業者で 退職経験がある46人が初めて教師を辞めた理由をま とめた表4によると,「定年」(30.4%)が最も多く,
次いで「介護」(17.4%),「健康上の問題」(15.2%),
「夫の管理職昇進に伴う退職」(13.0%)であった.
卒業生の就業継続に関するライフイベント以外の要 因について検討するために,表3の就業類型から,母 数の少ない「転職型」を除いて,「長期継続就業型
(初職を15年以上の長期にわたって継続就業)」
(66.3%)と「短期就業型(専業主婦型とM字型就業
表1.調査対象者の属性
属 性 1967~1982 年卒(N=92)
%
1951~1966 年卒(N=145)
%
出身地 熊本県 70.7 95.3
熊本県外 27.2 3.4
性別 女性 100.0 100.0
男性 0.0 0.0
勤務した
学校種 主に小学校 67.4 73.6
主に中学校 14.1 8.1
主に高校 10.9 8.8
年齢(歳) 53 ~ 55 14.1 0.0 56 ~ 60 29.3 0.0 61 ~ 65 31.5 0.0 66 ~ 70 25.0 24.1 71 ~ 75 0.0 36.6 76 ~ 80 0.0 34.5
81 ~ 0.0 2.8
平均年齢 61.3 歳 73.8 歳
表3.調査対象者の就業類型(N=92)
就業類型 %
長期継続就業型 66.3
専業主婦型 17.4
M 字型就業型 15.2
転職型 1.1
注)
長期継続就業型:初職を15年以上継続して就業
専業主婦型:結婚や子育て等を機会に初職を数年で退職し,
その後は専業主婦
M字型就業型:結婚や子育て等を機会に初職を数年で退職 し,その後再就職
転職型:初職を結婚や子育て等の理由以外で数年で退職し た後,2回以上転職を行いながら15年以上の長期 にわたって就業
表2.調査対象者のライフコース類型(N=92)
ライフコース類型 %
就職→結婚→妊娠 ・ 出産→退職(結婚及び妊娠 ・ 出産などの子育て以外の理由) 31.5
就職→結婚→妊娠 ・ 出産→退職→再就職 14.1
就職→結婚→妊娠 ・ 出産→現在も就業 15.2
就職→結婚を理由に退職 13.0
就職→結婚を理由に退職→再就職 10.9
就職→結婚→妊娠 ・ 出産などの子育てを理由に退職 4.3
就職→結婚→妊娠 ・ 出産などの子育てを理由に退職→再就職 2.2
就職→結婚→妊娠 ・ 出産→転居を理由に退職 2.2
就職→結婚→妊娠 ・ 出産→転居を理由に退職→再就職 1.1
就職→退職 1.1
就職→現在も就業 1.1
就職→結婚→退職 2.2
その他ライフコース 4.3
型を合わせた類型)」(32.6%)の2つに分類し,2分 類別にライフイベント以外の一次調査内容についてク ロス集計を行い,分析を行った.χ2検定を行い,1%
水準または5%水準の有意差が見られた項目について 表5に示している.
表5に示された7項目の中で,長期継続就業の要 因と考えられるのは,「経験学校種」と「配偶者の職 業」と「結婚後の親との同居経験」である.
「経験学校種」に関しては,長期継続就業型,短期 就業型ともに,主に小学校勤務経験者の割合が高かっ た.
表4.長期継続就業者で退職経験がある人が初めて
教員をやめた理由(複数回答)(N=46)
理 由 %
定年 30.4
介護 17.4
健康上の問題(病気・けがなど) 15.2
夫の管理職昇進に伴う退職 13.0
体力の衰え・疲れ 6.5
自分の教育観と現場の不一致 6.5
夫の転勤 2.2
その他 6.5
表5.就業類型とのクロス集計において有意差がみられた項目
項 目
就業類型
χ2検定 長期継続就業型(N=61) 短期就業型(N=31)
人 % 人 %
経験学校種 主に小学校 46 75.4 20 64.5 5% 水準の有
主に中学校 8 13.1 5 16.1 意差
主に高校 4 6.6 3 9.7
その他 3 4.9 3 9.7
教師として仕事 が充実している と感じた時期
20 歳代 0 0.0 13 41.9 1%水準の有
30 歳代 17 27.9 2 6.5 意差
40 歳代 20 32.8 3 9.7
50 歳代 6 9.8 1 3.2
全て 4 6.6 0 0.0
その他 11 18.0 1 3.2
不明 3 4.9 11 35.5
教師として仕事 がつらい・困っ た・苦しいと感 じた時期
20 歳代 9 14.8 13 41.9 5% 水準の有
30 歳代 13 21.3 2 6.5 意差
40 歳代 9 14.8 0 0.0
50 歳代 7 11.5 2 6.5
全て 2 3.3 0 0.0
その他 5 8.2 1 3.2
なし 10 16.4 9 29.0
不明 6 9.8 4 12.9
仕事と家庭生活
の重きの置き方 同じくらい 23 37.7 6 19.4 1%水準の有
仕事重視 22 36.1 2 6.5 意差
家庭重視 0 0.0 18 58.1
ライフステージによって異なる 13 21.3 2 6.5
不明 3 4.9 3 9.7
配偶者の職業 教員 35 57.4 5 16.1 1%水準の有
会社員 8 13.1 17 54.8 意差
公務員 11 18.0 4 12.9
自営業 4 6.6 2 6.5
その他 1 1.6 3 9.7
結婚後の親との
同居経験 ある 33 54.1 7 22.6 1%水準の有
ない 25 41.0 24 77.4 意差
不明 1 1.6 0 0.0
育児施設の利用
状況 保育所の入所経験あり 37 60.7 5 16.1 1%水準の有
幼稚園の入園経験あり 13 21.3 14 45.2 意差
両方の入園経験あり 6 9.8 7 22.6
両方とも経験なし 0 0.0 3 9.7
不明 1 1.6 2 6.5
しかし,短期就業型には,主に中学校や高校,その 他学校種への勤務者も多く含まれている.この結果か ら,小学校勤務の方が継続して就業しやすいのではな いかと考える.その理由は推察に留まるが,中学校や 高等学校では,専門外教科の掛け持ちが行われていた り,部活動の時間が小学校と比べると多かったりなど,
日常の勤務内容の負担が大きいことと,「短期就業型」
には「M字型就業型」が含まれていることから,一 度辞めてからの再就職先として採用されやすい学校種 が中学校と高等学校であったのではないかという2点 が考えられる.
「配偶者の職業」に関しては,長期継続就業型では
「教員」,短期就業型では「会社員」である割合が高い.
したがって,配偶者(夫)の職業が「教員」である場 合は,夫婦が離れて転勤する可能性は少なく,教員で あれば互いに仕事内容について理解し合える上に生活 リズムも共通性が高いといったメリットが得られるた め,継続就業しやすいと考える.
「結婚後の親との同居経験」は,長期継続就業型で は「ある」の割合が高く,短期就業型では「ない」の 割合が高い.このことから,親との同居が就業継続を 支えている要因として考えられる.
(3)追加調査からみた1967〜1982年卒コーホート のライフコース
ここでは,調査対象者が,大学での学びをどのよう に就業生活や家庭生活に活かし,教師としてのキャリ アを形成したのかについて,追加調査から明らかに なったことを述べる6).
①熊本大学教育学部家庭科時代について
熊本大学教育学部家庭科時代に印象に残っている授 業については,食物と被服の実習を挙げた回答が多く,
楽しく実習を受けたことがうかがわれた.だが,「不 器用な学年ね!と言われた」等の回答から,家庭科に 関する技能の低下が起きていたと考えられる.
卒業論文に関しては,被服学と食物学で過半数を占 めるが,1951~1966年卒コーホートでは見られなかっ た,住居学や家庭管理学に関する内容も登場し,実験 以外の研究方法も登場している.技能中心の家庭科か ら衣 ・ 食以外の領域についても重きを置き始めた授業 内容への移行期であったと考えられる.
論文を書いた経験は,「活かされた」という人が約 6割で,仕事上活かされた場面は,教育論文や理科の 授業が挙げられた.
②熊本大学教育学部家庭科での学びの活かされ方 仕事上で活かされた場面では,家庭科に関する専門 的な知識や技能が活かされたという人が多く,活かさ れた場面は「家庭科の指導時」という回答が過半数で
あった.だが,調査対象者の多くは,主に小学校勤務 であったという実態を踏まえると,実際に仕事上で活 かす回数は少なかったのではないかと推察する.
家庭生活上で活かされた場面は,食物と被服につい ての回答が多かった.「食物」は知識 ・ 技能の両面に ついての回答,「被服」は技能に関する回答が多かっ た.
もっと学んでおけば良かったと思う内容が「ある」
という回答数は少なかったが,その中で多かった意見 は,技能面よりも科学的な知識の深まりを求め「全体 的にもっと深く学びたかった」というものであった.
③卒業後の生活
教師として仕事が充実していると感じた時期は「40 歳代」が多く挙げられた.その理由として多かった回 答は,「人間関係や人付き合いが良好だった ・ 交流が 深まったことから生まれる充実感があった」,「教育実 践を深める取り組みができた」の2点であった.
教師という仕事がつらい ・ 困った ・ 苦しいと感じ た時期は「30歳代」が多かった.その理由として多 かった回答は,「仕事と家庭生活を両立させることが 困難だった」,「人間関係や人付き合いが上手くいって いなかった」の2点であった.また,「特別な支援や 対応が必要な子どもにかかわるトラブル ・ 対応で大変 だった」といった,高齢のベテラン教員の時期に回答 が集中している内容もあった.
家庭生活上困難さを感じた時期は「30歳代」が多 かった.その理由として多かった回答は,「仕事と家 庭生活を両立させることが困難だった」であった.
④教師としてのキャリア形成
職業人としての専門性 ・ 力量形成や昇進を目指すた めに取り組んだこととして最も多かった回答は,「自 分が研究者 ・ 授業者として,様々な授業研究や教材研 究をしたこと」であった.また,同僚との会話や独学 といった,日常の勤務時間内及び自宅で可能な取り組
みが1951~1966年卒コーホートよりも増えていた.
働く中で感じた男女格差については,「女性教員の 方が家庭生活のことに時間が取られる ・ 仕事と家庭生 活の両立が大変」,「男性教員の方が重要なポジション や管理職へ優先されていた ・ 多かった」という回答が 多かった.
管理職の経験については,「経験がある」と回答し た人の理由は,「周囲や時代の流れによって管理職に 就くことを要求されたから」が最も多かった.「経験 はない」・「現在就業中だが考えていない」と回答し た人の理由は,「児童 ・ 生徒と現場で直接向き合う方 が好きだから」が最も多かった.また,「家族との生 活を守る ・ 優先するために管理職にはならなかった」,
「管理職の人の様子を見ていると大変そうだから」と
いった,管理職の負担の大きさを挙げている人も多 かった.
(4)コーホート比較:ライフコースの共通点と変化 今回調査を行った1967~1982年卒コーホートのラ イフイベントとライフコースの状況に,1951~1966 年卒コーホートのライフイベントとライフコースの状 況を加えて図示したものが図1である.図1より,2 つのコーホートを比較すると,1967~1982年卒コー ホートの方が「結婚」を理由にして退職している割合 が高いことがわかる.
また,表6より,就業類型を比較すると,1967~
1982年卒コーホートの方が,「長期継続就業型」の割 合が少なく,「短期就業型」が増加している.
これらの要因として,仕事と家庭生活の重きのおき 方の変化が影響したと考える(表7).1967~1982年 卒コーホートの方が,「家庭重視」と「ライフステー ジによって(重きのおき方が)異なる」と回答した割 合が多い.こうした考え方の変化により,結婚後,家 庭生活を優先した人が増えたと考える.
また,結婚 ・ 出産後も働くことに対する反対や抵抗 については,1967~1982年卒コーホートの方が配偶 者からの反対が「あった」という割合が増えているこ とも影響したと考える(表8).
1967~1982年卒コーホートのライフコースでも,
表7.仕事と家庭生活の重きの置き方のコーホート間比較
項 目 1967~1982 年卒
(N=92)% 1951~1966 年卒
(N=145)%
同じくらい 30.4 33.8
仕事重視 26.1 43.4
家庭重視 19.6 5.5
ライフステージによって
異なる 17.4 6.9
図
1.ライフイベントとライフコースのコーホート間比較100.0 97.2
9.6
86.2
6.8
8.2
15.2
71.2 3.4 3.4 4.1
1.4 2.8
3.3 45.6
2.2 (N=92) 単位:%
明朝体:1967~1982年卒コーホート 太字ゴシック:1951~1966年卒コーホート
1.1
15.2
14.1 1.1
71.8
2.2
6.5
10.9 23.9
1.1
97.8 100.0
・
(・) ・・
単位:%
明朝体:1967~1982年卒コーホート(N=92) 太字ゴシック:1951~1966年卒コーホート(N=145)
71.2
大学卒業 再就職
図1.ライフイベントとライフコースのコーホート間比較
表6.就業類型のコーホート間比較
就業類型 1967~1982 年卒
(N=92)% 1951~1966 年卒
(N=145)%
長期継続就業型 66.3 75.9
短期就業型 32.6 23.4
転職型 1.1 0.7
表8.結婚・出産後も働くことに対する配偶者からの
反対及び本人の抵抗意識のコーホート間比較 項 目 1967~1982 年卒
(N=92)% 1951~1966 年卒
(N=145)%
配偶者から
の反対 あった 12.2 4.1
なかった 82.2 87.6
本人の抵抗
意識 あった 17.8 22.1
なかった 76.7 67.6
「長期継続就業」の割合が高く,その要因に関しても 変化はなかったが,結婚後の同居率(44.4%)は,
1951~1966年卒コーホート(62.4%)よりも低下し ていた.キャリア形成については,1967~1982年卒 コーホートでは,日常の勤務時間内及び自宅で可能な 取り組みが増えた.管理職昇進を阻む要因は,夫の管 理職昇進に伴う妻の退職という不文律の存在と女性管 理職者のロールモデルの不在から,子どもと関わる方 が好きで学校経営に興味がない人が多いことと,長時 間 ・ 変則的勤務の管理職は,家庭を持つ女性教師には ハードルが高いことなどが考えられる.
4.まとめ
熊本大学教育学部家庭科(現家政教育学科)の
1967~1982年卒業生を対象として,そのライフコー
スを把握し,キャリアアップの課題を把握することを 目的として,アンケート調査と聞き取り調査を行った.
さらに,1951~1966年卒業生のライフコースとの比 較を通して,ライフコースの変化について検討した.
その結果,以下のことが明らかになった.
①本研究における調査対象者は,1951~1966年卒 コーホートに比べて県外出身者が増え,平均年齢は 61.3歳と,約10歳若くなっている.
②1967~1982年卒業生のライフコースについては,
結婚,妊娠 ・ 出産のライフイベントを経験しながらも 就業を長期にわたって継続したライフコースが多かっ た.長期継続就業の要因と考えられるのは,「経験学 校種」と「配偶者の職業」と「結婚後の親との同居経 験」である.
③追加調査によれば,教師として仕事が充実してい ると感じた時期は「40歳代」,教師という仕事がつら い ・ 困った ・ 苦しいと感じた時期は「30歳代」とい う回答が多かった.家庭生活上困難さを感じた時期は
「30歳代」が多く,「仕事と家庭生活を両立させるこ とが困難だった」という理由が多く挙げられた.また,
教師として働く中で感じた男女格差については,「女 性教員の方が家庭生活のことに時間が取られる ・ 仕事 と家庭生活の両立が大変」,「男性教員の方が重要なポ ジションや管理職へ優先されていた ・ 多かった」など の回答が多かった.
管理職については,「周囲や時代の流れによって管 理職に就くことを要求された」ことにより管理職を
「経験した」という回答が多かった.「児童 ・ 生徒と現 場で直接向き合う方が好き」,「家族との生活を守る ・ 優先するため」,「管理職の人の様子を見ていると大変 そう」等の理由により管理職となることを避ける傾向 も見られた.
④1967~1982年卒コーホートと1951~1966年卒 コーホートのライフコースを比較した結果,1967~
1982年卒コーホートの方が,「結婚」を理由にして退 職している割合が高く,「長期継続就業型」の割合が 減少していた.これらの要因として,仕事と家庭生活 の重きのおき方の意識の変化や結婚後の同居率の低下 などが考えられる.
以上の結果をまとめると,1967~1982年卒コーホー トのライフコースは,親との同居率の低下を育児施設 や休業制度の充実や,夫婦間での協力態勢を強化する ことよって補いつつ,1951~1966年卒コーホートと 同様に長期継続就業していたと考えられる.キャリア 形成に関しては,同居率の低下に伴い,家庭を持って いると休日や夜に家を空けて出かけることが難しい環 境になったことが影響して,教師としての専門性や力 量を向上させるための取り組みの内容が変化している のではないかと考える.
今後,女性教師のキャリアアップの問題を解決する には,管理職昇進の仕組みだけではなく,管理職の就 業環境を改善すること,管理職の仕事の魅力を現場の 教師へ伝える機会を設けること,日本の夫婦間におけ る家事育児の負担のバランスをとり,女性への家庭責 任の集中を改善することなどが必要である.
今後の研究課題としては,管理職経験者の立場から の意見を取り入れることと,家政教育学科卒業の女性 のみを対象としているので,他学科の場合についても 検証していきたい.
熊本大学教育学部家政教育学科卒業生への調査を実 施するにあたっては,熊本大学教育学部家庭科同窓会 会長の下城道子様に多大なお力添えをいただくととも に,熊本大学教育学部家政教育学科卒業生の皆様にご 協力をいただきました.また,資料収集にあたりまし ては,熊本県教育委員会教育政策課の森智史様にお世 話になりました.この場をお借りして厚くお礼申し上 げます.
注
1) 文部科学省(2012)『学校基本調査報告書 平成24 年版』及び熊本県学用品販売株式会社(編集・発行)
(2013)『平成25年度版 熊本県教職員録』をもと に算出した.
2) 女性教師のライフコースに関するおもな先行研究と して,以下のものを挙げることができる.(刊行順)
青井和夫(1988)『高学歴女性のライフコース-津 田塾大学出身者の世代間比較』勁草書房
湯沢雍彦・古谷恵子(1996)『戦時女高師卒業者の ライフコース-教育と戦争の影響を中心に-(調査 研究報告書)』地域社会研究所
細江容子(1996)「教員のライフコースとキャリア」
『上越教育大学研究紀要』16 (1), pp.37-48
山﨑準二(2002)『教師のライフコース研究』創風 社
清水禎文・金井徹・小川佳万(2007)「教員の職能 成長に関する質的研究-女性教員のケーススタ ディ」『東北大学大学院教育学研究科教育ネットワー クセンター年報』7, pp.1-12
川上雅子(2009)「共立女子大学を卒業した家庭科 教員のライフコースと課題-1999年~2008年」『共 立女子大学家政学部紀要』55, pp.107-119
3) 八幡(谷口)彩子・原田知佳(2013)「熊本大学教 育学部生活科学科卒業生のライフコース」『熊本大
学教育実践研究』30, pp.33-38
4) 3)に同じ
5) 大久保孝治・嶋﨑尚子(1995)『ライフコース論』
放送大学教育振興会
6) なお,本稿では紙数の都合により回答結果の詳細につ いて紹介することができない.詳しくは以下の報告書 等を参照されたい.
原田知佳(2014)熊本大学教育学部家政教育学科卒業 生のライフコース(熊本大学大学院教育学研究科平成 25年度修士論文)
原田知佳(2014)熊本大学教育学部家政教育学科卒業 生のライフコース(平成25年度修士論文報告書)