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教師教育の場合

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問題解決に必要な思考力と知識の活用力を育む学習コンテンツの実践化

教師教育の場合

中 山 玄 三

Implementation of the Learning Contents to Develop Reasoning and Knowledge Application Skills

Required in Solving Problems : In Case of Teacher Education

Genzo N AKAYAMA

Abstract

The learning contents that intended to develop the reasoning and knowledge application skills required in solving problems had been implemented respectively, in the pre-service teacher training program in 2012 where 38 university students were involved, and in the in-service teacher training program in 2013 where 42 school teachers were involved. In both programs, the small group work called “co-productive learning”, that enhanced brain storming and scaffolding by metacognition on general heuristics and specific patterns of reasoning, had been promoted in order to solve the problems creatively. The results indicated as follows :

1.In comparison of the pre- and post- tests, performance on problem solving was significantly improved in both pre-service and in-service teacher training programs.

Thus, developing the reasoning and knowledge application skills could be possible by mean of the “co-productive learning” and the learning contents could be effective to foster the creative problem solving.

2.Positive correlation (0.2≦r≦0.4) between performance on the pre-test and enthusiasm toward problem solving on the post-test was found in both pre-service and in-service teacher training programs. Thus, it seems to suggest that affective enthusiasm could be a prerequisite and motive power for the creative problem solving.

はじめに

1 学習コンテンツの開発

⑴基本的な視座:今日的な学力観との関連

本研究では,「新しい科学知の創造」を科学教育に おけるエクセレンス(優秀さ)と捉えることを前提に,

創造的なプロセスに関わる認知的能力の側面から創 造性(creativity)に迫ろうとするものである.そこで,

本来の学力というものを, 「未知の状況におかれたとき に学んでいく能力」と捉える立場に立つ.この立場は,

例えば,以下に列挙したような,国内外で言われてい る今日的な学力観との関連を根拠とする.このような 学力観に立つ能力を,以後,「問題解決に必要な思考 力と知識の活用力」と総称して,記す(中山,2013).

○ 「自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主 体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する 資質や能力」(中央教育審議会答申,1996・2003・

2008;学習指導要領,1998・2008)

○ 「基礎的な知識及び技能を活用して課題を解決 するために必要な思考力,判断力,表現力」 (学校 教育法,2007;中央教育審議会答申,2008;学習 指導要領,2008)

○ 「探究的な学習活動」(中央教育審議会答申,

2008;学習指導要領解説編,2008)

○ 「知識や情報を相互作用的に用いる活用力」

(OECDキー・コンピテンシー,2003)

○ 「疑問を認識し,新しい知識を獲得し,科学的な 事象を説明し,科学が関連する諸問題について証 拠に基づいた結論を導き出すための科学的知識と その活用」(PISA科学的リテラシー,2006)

* 熊本大学教育学部附属教育実践総合センター

(2)

⑵理論的な枠組み:コンピテンシーベースの課題構

本研究では,「科学教育におけるエクセレンス

(excellence in science education)」を志向する教育 課程開発(銀島,2012・2013; 吉岡,2012・2013)

のための基礎研究として,最先端科学技術に関わる 内容の広い知識と高い専門性(例えば,吉村他,

2010・2012;縣,2010)というよりは,むしろ知の 創成力(例えば,黒田,2010・2011;伊藤,2010)

や問題解決の過程における科学的方法・論理的思考 力(例えば,北原,2010)の方に重点を置いた学習 コンテンツを開発することにした.

そもそも,問題解決(problem solving)とは,情 報処理アプローチ(例えば,Newell et al, 1958)では,

今ある初期状態をこうなればよい目標状態に近づけ ていく認知的過程として捉えられる.初期状態,中 間状態,目標状態の3つのうち,少なくともどれか の要素が不明確な状態でなければ,問題解決とは言 えない.これらを整理したものが,表1に示した問 題解決の4つのタイプである.この4つのタイプの 問題解決力を「未知の状況におかれたときに問題を 解決する力(コンピテンシー)」と捉え,特に,「問 題解決のタイプC:未知の探究・発見型と知の創出

(収束)型」および「問題解決のタイプD:新しい知 の創造(発散)型」に重点を置いた学習コンテンツ を開発した.

なお,ここで言う発散・収束は,Guilford(1967)の 知能構造モデルでは,創造的思考を構成する2つの 思考に相当するものである.

○ 発散的思考(divergent thinking):与えられた 情報から新しい情報を生み出すこと.新しいこと を思いついたり,自由になめらかに思いついてい く能力.

○ 収束的思考(convergent thinking):与えられた 情報から論理的な筋道に従って必然の結論を導き

出すこと.考えを1点に集中させて物事を論理的 に推論し追及していく能力.

また,問題解決に必要な思考の方法と内容として は,分類・仮説検証・因果推論の3つの典型的な思 考パターンを取り上げることにした.なお,ここで 言う思考パターンとは,必然性を前提とした固定的 な型というよりは,むしろ,ある状況下におかれた 場合の暫定的で変わり得る型を意味する.

○ 分類:自然事象を区分したりまとめたりするこ とで,科学的知識のより完全な体系を組織する思 考の方法および内容.

○ 仮説検証:まず仮説を立て,次に検証のための 観察・実験を考え,その結果によって仮説の正否 を検証することで,科学的に理論付けを行う思考 の方法および内容.

○ 因果推論:自然現象は原因と結果の連鎖であり,

この原因と結果の関係を客観的に推論して証明す る思考の方法および内容.

学習コンテンツを開発するに当たり,上記の問題 解決のタイプと問題解決に必要な思考パターンの両 者を組み合わせて課題を構成する仕方を,本研究で は「コンピテンシーベース」と称す.学習コンテン ツの基礎課題(for all)では,義務教育段階までの科 学的知識や科学の方法の知識を取り上げて,思考パ ターン別に課題を構成した.これを「コンピテン シーベース・思考パターン別の課題構成」と称す.

学習コンテンツの発展課題(for excellence)では,

ノーベル賞を受賞した日本人の研究内容の中から,

理数科の生徒が興味・関心を示しそうな科学的知識 や科学の方法の知識を取り上げ,革新的な科学知が 現実にまさしく創造されつつある状況・文脈の中で,

トピックス別に課題を構成した.これを「コンピテ ンシーベース・トピックス別の課題構成」と称す.

なお,ここで言う「コンピテンシー」を規定する

構成要素について,例えば,松尾(2013)は,De-

表1 問題解決の4つのタイプ

(3)

SeCo,EU,イギリス,オーストラリア,ニュージー ランド,アメリカの6つの事例を対比・整理してい る.いずれの場合においても,「問題解決」・「思考」

はコンピテンシーを構成する共通要素・キーワード であると言える.

このような理論的基盤に立ち,問題解決に必要な 思考力と知識の活用力を育む学習コンテンツとして,

表2に示したような9項目からなる基礎課題と9項

目からなる発展課題を2012年度に開発した.「新し い科学知の創造」との関連で言えば,基礎課題は,

仮想現実・現実社会・実験室の文脈で,未知の状況 下での問題解決に必要な基礎的な能力を問う問題を,

発展課題は,学術研究の最前線の文脈で,科学的知 識が更新・塗り替えられる瀬戸際の状況下での問題 解決に必要な発展的な能力を問う問題を,設定した.

表2 学習コンテンツの課題構成

(4)

2 学習コンテンツの実践化

⑴基本的な視座:教師教育における学習コンテンツ

の実行可能性・有効性の検討

これまでに開発した学習コンテンツの課題を用い て,まずは,教師教育における学習コンテンツの実 行可能性・有効性に関する実証的研究を行うことに した.教師教育を中心に,研究Ⅰでは,教員養成段 階での理工系学部の大学生向けの学習コンテンツ・

学習プログラムの展開計画を作成し,実践化を図っ た.研究Ⅱでは,現職教員研修段階での幼稚園・小 学校・中学校・高等学校(全教科)の教員向けの学 習コンテンツ・学習プログラムの展開計画を作成し,

実践化を図った.

問題解決に必要な思考力と知識の活用力を育む学 習プログラムの展開計画を作成した際,認知・思考 と関連づけた協働的な学び(高垣,2011;田中・高 垣,2012)を基軸とすることにした.また,学習コ ンテンツの内容については,表2に示した「問題解 決に必要な思考力と知識の活用力」に関する課題の 中から,いくつかの課題を選択的に取り上げた.学 習プログラムの有効性の評価では,それらの課題に 関する質問紙を用いた事前・事後調査によって課題 の達成度の変化を見るとともに,事後調査での自己 評価によって情意の高まりと課題の達成度との相関

関係を中心に見ることにした.

⑵理論的な枠組み:認知と協働的な学び・情意の関連

①認知と協働的な学びを関連づけた学習プログラム

近年,認知的アプローチ(cognitive approach)と 社会文化的アプローチ(sociocultural approach)の 両者を理論的に統合しようとする動きがある(例え ば,Mason, 2007 ; Greeno & Sande, 2007 ; Alexan- der, 2007 ; 高垣,2009).これらを根拠として,高垣

(2011)は,認知的/社会文化的文脈の統合を図る方 向で,新時代の教育課程を編成する理論を構築する 必要があると言う.「社会的相互作用を含めた認知 的アプローチ」と「各教科の概念構造を含めた社会 文化的アプローチ」が連動して,ダイナミックに学 習が改善されていく方向性が望まれている.

このような理論的基盤に立ち,表3に示したよう な認知・思考と協働的な学びを関連づけた学習プロ グラムの展開計画を作成した.ここでいうブレイン ストーミング,メタ認知,足場づくり,一般的な発 見は,次のとおり,創造的なプロセスに関連する認 知的/社会文化的構成要因であると考えられる.

○ブレインストーミング(brain storming)

創造性を育むための集団討論の方法・技法.創造

的なアイデアの流れを増やすためには,解決可能性

表3 学習プログラムの展開計画

(5)

の判断はさておき,可能な限り多くの解決策を生み 出すこと,また,批判することなく,提案された解 決策の他のバリエーションやそれらのつながりを探 すことが大切である(Garnham & Oakhill, 1994).

○メタ認知(metacognition, thinking about thinking)

自分自身の認知的プロセスを省察・監視すること,

思考の方法や内容について自分自身で考えること.

そのようなメタ認知の能力・スキルの訓練によって,

あらゆる種類の思考力の育成が期待できる(Gar- nham & Oakhill, 1994 ; 三宮,2008).

○足場づくり(scaffolding)

現在のレベルを超えて,さらに高めの理想のレベ ルとのギャップを埋めること.学習者が自らメタ認 知を刺激し,自分自身の論理的説明を修正していけ るようになることが大切である.

例えば,学習者に,他に何も言うことが思いつか なくなるまで,自分自身で理由を説明させる.この 時点では,指導者は,一般的な方法で助言する.例 えば,学習者が,事例の一面のみに関する議論を生 み出した場合,指導者は,全く反対の立場・観点か ら考えるように支援することで,現在考えている課 題について,さらに探究することを促す.このよう に,メタ認知を刺激する方法を足場づくりとするこ とにより,自力解決とバイアスの克服の両面で改善 が期待できる(Perkins et al, 1991).

○一般的な発見(general heuristics)

最も一般的な発見は,「あなたが最初に考えたア イデアに反する証拠・反証を探しなさい」そして「他 の可能性をじっくりと考えなさい」というもの.信 念からの偏見や,記憶の中で最も活用可能な情報に 頼りきってしまうことから生じる誤概念を避けるた めに有効である(Baron, 1988).

同様に,「そのことはあのことから確かに言える か?このことの逆は正しいと言えるか?考慮外に置 いたものは何か?本来考慮すべき他のことはない か?」と考えたりして,必要・十分性を吟味しなが ら,筋道立てて, 「それは言える!そうとは言えない」

ことを確認する.このような論理的思考と自己の真 実性感覚をたよりに,問題が何かもわからないとき の筋道を,自分でつくり出すべきである(佐伯,1982).

②認知と情意を関連づけた自己評価

認知と感情は互いに密接に関連し合っているもの と考えられる(例えば,富山,2003;田中,2013).

その関連性について,丹野(2001)は「お互いに補 い合い,成果を共有しあえるもの」,Sorrentino &

Higgins (1986) は「相 乗 効 果 を も た ら す 温 か い

(warm)認知」,海保(1997)は「クロスオーバー・

融接する領域で起こる温かい認知」と捉えている.

このような理論的基盤に立ち,知的探究心は問題 解決の支え・原動力として必要不可欠なものとして 捉えた上で,問題解決ならびに協働的な学びに対す る熱意・意欲を量る情意の自己評価票を作成し,学 習プログラムの有効性の評価に活用することにした

(表6・表9参照のこと).

ちなみに,学校教育では,子ども自らの主体的な 問題解決活動において,関心・意欲・態度の情意的 側面が学習成立のために必要不可欠な要素である.

情意は,学習が成立するための前提条件として捉え られがちであるが,それを学習の成果ないしは目標 として一層重視することが求められる.わが国の場 合,新しい学力観として, 「関心・意欲・態度」が「思 考・判断」,「技能・表現」,「知識・理解」と同等の 重要な学力と捉えられた(中山,1993).今日では,

学力3要素として,「知識・理解」及び「技能」が基 礎的・基本的な知識・技能,「思考・判断・表現」が 知識・技能を活用して課題を解決するために必要な 思考力・判断力・表現力等,「関心・意欲・態度」が 主体的に学習に取り組む態度と捉えられている(中 山,2012;中央教育審議会,2010).

なお,上記のような理論的基盤に立つ実証的研究 が,引いては「学習科学等のカリキュラム改革の理 論的支柱となる実践的な教育学研究」(中央教育審 議会答申,2012)を可能なものにすると,筆者は考 える.この点について,村山(2013)は,認知科学 から学習科学への移行を振り返ることで,学習科学 の学問としての性格を示した上で,時代の要請に応 える新しい教育研究として学習科学を位置づけてい る.

本稿では,研究Ⅰとして,理工系学部の大学生向 けの学習コンテンツ・学習プログラムの実践化につ いて,ここでは,主として,2012年度後学期に,筆 者が担当する私立S大学・開放制学部の教職科目の 授業において,理工系学部の大学生を対象にした実 践と有効性の検証を行った結果を中心に報告する.

引き続き,

研究Ⅱとして,幼稚園・小学校・中学校・

高等学校(全教科)の教員向けの学習コンテンツ・

学習プログラムの実践化について,ここでは,主と して,2013年度8月に,筆者が担当する国立K大学・

教員免許状更新講習の選択科目の講習において,教 員一般を対象にした実践と有効性の検証を行った結 果を中心に報告する.

本研究で用いた学習コンテンツの基礎課題および

発展課題の具体的な内容および評価ルーブリックに

(6)

ついては,紙面の都合上,ここでは省略することに する.基礎課題に共通の評価方法は,学習者を対象 とした実態調査(中山,2013)のときと同様に,解 答の記述内容に見られる論理の組立て方という点か ら,次の4段階評定尺度による基準をもとに評価す ることにした.論理の組立て方としては,問題解決 に必要な「思考・推論の形式」と「知識の活用」と いう点から類型化し,それぞれの課題に対して評価 ルーブリックを作成した.

◎(3点):論理的に矛盾なく整合性・一貫性が認め られる説明のうち,最も適当な説明.

○(2点):論理的に矛盾なく整合性・一貫性が認め られる説明.

△(1点):論理的に矛盾や不十分さを一部含んでい る説明.

×(0点):上記以外の不十分な説明もしくは無記入.

また,発展課題に共通の評価方法は,解答の記述 内容に見られる論理の組立て方という点から,次の 2段階評定尺度による基準をもとに評価することに した.

○(1点):論理的に矛盾なく整合性・一貫性が認め られる説明.

×(0点):論理的に矛盾や不十分さを含んでいる説 明もしくは無記入.

評価ルーブリックを構成する上記評定尺度の基準 は,問題解決における論理的思考の方略・操作とい う 意 味 に お い て,「初 学 者 と 専 門 家(novice → apprentice→practitioner→expert)の質的レベルの 差異」 (例えば,Davis, Rimm & Siegle, 2013)として 解釈することができる.

研究Ⅰ:理工系中等教員養成の場合

私立S大学理工系学部において,中・高理科教員 免許状取得のための教職必修科目「理科教育法」を 履修する38名を対象に,問題解決に必要な思考力と 知識の活用力を育む学習コンテンツの基礎課題9項 目を用いて,協働的な学びに重点を置いた学習プロ グラムを,2012年後学期11月に90分授業・全5回の 授業時間内で実施した.資料1に実施計画を示す.

学習者の実態を把握するために,学習前の1授業時 間と学習時の3授業時間内に同一の基礎課題を課し,

その達成度を比較するとともに,すべての基礎課題 の学習終了後の1授業時間に発展課題3項目を自由 選択として課すとともに,情意の自己評価11項目を 課し,基礎課題の達成度との間の相関関係を見た.

これらの結果を要約すると,次のとおりであった.

1 学習課題の達成度:学習プログラムの効果

基礎課題と発展課題の達成度に関する調査結果を もとに,学習プログラムの有効性について,次のよ うに評価できた.

全体集団における基礎課題の達成度を学習の前・

後で比較すると,合計得点および問題解決のタイプ 別得点,思考パターン別得点のいずれにおいても,

事後の達成度が事前の達成度を上回り,有意な差が 認められた

【表4】

.つまり,協働的な学びに重点を 置いた学習プログラムを通して,問題解決に必要な 思考力と知識の活用力を伸ばすことが可能であった.

言い換えるならば,全般的には,学習プログラムが 有効であったと言える.

その一方,基礎課題の項目別に見てみると,「Ⅰ- 3 メリーナと新型メリーナの特徴(分類・知の創 出型の課題)」,「Ⅱ-1 産褥熱の原因が地震ではな い(仮説検証・未知の探究・発見型の課題)」,「Ⅱ- 2 産褥熱の原因は何か(仮説検証・新しい知の創 造型の課題)」の3項目については,事前と事後の達 成度の間に,有意な差が認められなかった【表4】 . このことは,30分という限られた時間内で,ブレイ ンストーミング・メタ認知・足場作り・アイデアの 再構成と導出を行おうとするような,協働的な学び のプログラム自体に限界があったのかもしれないこ とを示唆する.今後は,学習に時間をもう少しかけ るようにするとともに,問題解決に必要な思考の仕 方と内容を,さらにスモール・ステップに分けて段 階的に順序立てて考えていけるような足場作りを支 援するワークシートを開発・活用するなどの改善策 が必要であるように思われる.

発展課題のトピックス別選択者数は,iPS細胞に 関するトピックスを選択した者が38名中25名(66%)

で最も多く,話題性という点から興味・関心の高さ が伺える.発展課題の達成度は,トピックス別平均 点が53〜68点の範囲で,全体平均点が64点であった ことから,概ね良好であった

【表5】

.その一方,発 展課題と基礎課題の達成度の間には,ほとんど相関 が認められなかった(ピアソンの相関係数;事前 r=-0.03,事後r=0.06).このことは,学習プログラ ムの効果というよりは,もしろ,大学での応用生命 科学や応用微生物工学,ナノサイエンスの専門教育 の成果の現れであると言えるかもしれない.

2 情意の高まり:学習プログラムの前提

問題解決のタイプ,思考パターン,協働的な学び

に対する意欲・熱意の自己評価を,すべての学習課

題を終えた後に実施した結果,次の事項が明らかに

なった.

(7)

資料1学習コンテンツの実践化:理工系中等教員養成教育における実施計画

(8)

表4 基礎課題の達成度

表5 発展課題の達成度

(9)

意欲・熱意は,全体的に高く,概ね良好であった.

そのうち,特に,協働的な学びに対する意欲・熱意が,

5項目のすべてにおいて,5段階評定尺度得点に換 算して平均値が4以上で,相対的に高かった

【表6】

意欲・熱意の情意領域と,基礎課題および発展課 題の達成度との間の相関関係を見てみると,意欲・

熱意全体は,事前の基礎課題の達成度と正の低い相 関がある(ピアソンの相関係数 r=0.32)ことが明ら かになった.他方,意欲・熱意と,事後の基礎課題 および発展課題の達成度の間には,ほとんど相関が 認められなかった(ピアソンの相関係数 r=0.05)

【表 7】

上記の結果より,意欲・熱意の高さは,学習プロ

グラムの結果として高まったというよりは,むしろ,

学習前に個人が既に備えていた問題解決能力の高さ に関連していると言えるかもしれない.つまり,学 習プログラムを開始する以前の前提条件として,意 欲・熱意の高さが影響しているのではないかと推察 される.

研究Ⅱ:現職教員研修の場合

国立K大学教員免許状更新講習において,選択科 目「探究する心と力」を受講した42名(小学校18名,

中学校9名,高等学校9名,その他6名)を対象に,

問題解決に必要な思考力と知識の活用力を育む学習

表6 情意の自己評価

(10)

コンテンツの中から「新しい知の創造型」の基礎課 題3項目を用いて,協働的な学びに重点を置いた学 習プログラムを,2013年8月10日㈯9:00-16:20の 講習時間内で実施した.資料2に実施計画を示す.

受講者の実態を把握するために,事前テストと事後 テストで同一課題3項目を課し,その達成度を比較 するとともに,事後テストで情意の自己評価11項目 を課し,創造型・基礎課題の達成度との間の相関関 係を見た.これらの結果を要約すると,次のとおり であった.

1 学習課題の達成度:学習プログラムの効果

「新しい科学知の創造型」の基礎課題の達成度に 関する調査結果をもとに,学習プログラムの有効性 について,次のように評価できた.

全体集団における課題の達成度を事前・事後で比 較すると,合計得点および項目別得点のいずれにお いても,事後の達成度が事前の達成度を上回り,有

意な差が認められた

【表8】

.つまり,協働的な学び に重点を置いた学習プログラムを通して,問題解決 に必要な思考力と知識の活用力を伸ばすことが可能 であった.言い換えるならば,学習プログラムが全 般的に有効であったと言える.

なお,2012年度に実施した理工系中等教員養成教 育の場合では,1課題当たり30分という限られた時 間内で,ブレインストーミング・メタ認知・足場作 り・アイデアの再構成と導出を行おうとするような,

協働的な学びのプログラム自体に限界があったのか もしれないことが示唆された.そこで,今回の実践 では,課題Ⅰおよび課題Ⅱにそれぞれ70分程度,課 題Ⅲに90分程度(簡易実験を含む)の時間をかける ようにするとともに,問題解決に必要な思考の仕方 と内容を,さらにスモール・ステップに分けて段階 的に順序立てて考えていけるような足場作りを支援 するワークシートを開発・活用するなどの改善策を 講じた.

表7 課題達成度と情意の相関関係

資料2 学習コンテンツの実践化:現職教員研修における実施計画

(11)

2 情意の高まり:学習プログラムの前提

問題解決のタイプ,思考パターン,協働的な学び に対する意欲・熱意の自己評価を,すべての学習課 題を終えた後に実施した結果,次の事項が明らかに なった.

意欲・熱意は,11項目のすべてにおいて5段階評 定尺度得点に換算して平均値が4以上,全体の平均 値が4.3で,全体的に高く,良好であった【表9】 . 意欲・熱意の情意領域と, 「新しい科学知の創造型」

の課題達成度との間の相関関係を見てみると,意 欲・熱意全体は,事前の課題達成度と正の低い相関

(ピアソンの相関係数 r=0.24)があるが,他方,意 欲・熱意と,事後の課題達成度の間には,ほとんど 相関が認められなかった(ピアソンの相関係数 r=0.04)

【表10】

上記の結果より,意欲・熱意の高さは,学習プロ グラムの結果として高まったというよりは,むしろ,

学習前に個人が既に備えていた問題解決能力の高さ に関連していると言えるかもしれない.つまり,学 習プログラムを開始する以前の前提条件として,意 欲・熱意の高さが影響しているのではないかと推察 される.なお,2012年度に実施した理工系教員養成 プログラムの実践においても,同様の結果が明らか になっている.

まとめと今後の展開

1 本研究のまとめと考察

本研究では,問題解決に必要な思考力と知識の活 用力を育む学習コンテンツの課題を用いて,協働的

な学びに重点を置いた学習プログラムを,教師教育 の場で実践した.理工系中等教員養成の場合および 現職教員研修の場合の2つの事例研究の結果を比 較・検討してみると,以下のことが明らかになった.

全体集団における学習課題の達成度を事前・事後 で比較すると,合計得点おいて,事後の達成度が事 前の達成度を上回り,有意な差が認められた.つま り,協働的な学びに重点を置いた学習プログラムを 通して,問題解決に必要な思考力と知識の活用力を 伸ばすことが可能であった.言い換えるならば,学 習プログラムが,教員養成教育の場合でも現職教員 研修の場合でも,全般的に有効であったと言える

【結 論1】

ただし, 「新しい知の創造型」の基礎課題に限定し て項目別に見てみると, 「仮説検証:産褥熱の原因は 何か」に関しては,事前と事後の達成度の間には,

教員養成教育の場合,有意な差が認められなかった が,現職教員研修の場合,有意な差が認められた.

このことは,学習プログラムの展開計画の違いに起 因するものと思われる.2012年度に実施した教員養 成教育の場合,課題の1項目当たり30分程度という 限られた時間内で,ブレインストーミング・メタ認 知・足場作り・アイデアの再構成と導出を行おうと するような,協働的な学びのプログラム自体に限界 があったのかもしれないことが示唆された.そこで,

2013年度に実施した現職教員研修の場合,課題の1

項目当たり70分程度の長い時間をかけるようにする

ともに,問題解決に必要な思考の仕方と内容を,さ

らにスモール・ステップに分けて段階的に順序立て

て考えていけるような足場作りを支援するワーク

表8 基礎課題の達成度

(12)

表9 情意の自己評価

表10 課題達成度と情意の相関関係

(13)

シートを開発・活用するなどの改善策を講じた.

意欲・熱意の情意領域と学習課題の達成度との間 の相関関係を見てみると,意欲・熱意全体は事前の 学習課題の達成度と正の低い相関がある(0.2≦r≦

0.4)が,その一方で,意欲・熱意と事後の同一課題 の達成度の間には,ほとんど相関が認められなかっ た.このことは,教員養成教育の場合でも現職教員 研修の場合でも同様の結果であったことから,意 欲・熱意の高さは,学習プログラムの結果として高 まったというよりは,むしろ,学習前に個人が既に 備えていた問題解決能力の高さに関連していると言 えるかもしれない.つまり,学習プログラムを開始 する以前の前提条件として,意欲・熱意の高さが影 響しているのではないかと推察される【結論2】 .

2 今後の展開

今後は,本稿で報告したような教師教育における 学習コンテンツの実践化の過程を経たのち,将来的 にもし可能であるならば,実際に,中学校や高等学 校,とりわけスーパーサイエンスハイスクール

(SSH)での科学教育実践において学習コンテンツ の一部を組み入れて,その活用・実践化を図ってみ たい.なお,SSHにおける学習コンテンツの実行可 能性の検討に関しては,これまで,2012年度1学期 に,未知の探究・発見型の基礎課題3項目を用いて,

SSHの生徒を対象に実態調査を実施した(中山,

2013).また,2012年度3学期末から2013年度1学 期初めにかけて,未知の探究・発見型の基礎課題3 項目に加えて,新しい知の創造型の基礎課題3項目 を用いて,同じくSSHの生徒を対象に実態調査を再 度実施した.これらのデータを集計・分析し,スー パーサイエンス・クラスにおける経年変化・成績の 伸び等を見ることで,SSHにおける学習コンテンツ の実行可能性について,今後,検討していきたい.

また,さらに,学習コンテンツの課題構成に関し て,問題解決の場面設定に際し,初期状態(I:ini- tial state)と目標状態(G:goal state)およびそれを つなぐ操作子(O:operator)が,どの程度制約を受 けているのか(R:restriction)あるいはどの程度明 確 に 決 め ら れ て い る か(well-defined/ill-defined problem)という「思考の自由度」の観点から,それ ぞれの課題構成のあり方と学習者の実態について,

今後さらに検討していきたい.一般に,目標状態が 比較的はっきりしていて,目標状態へ向かって収束 していく問題,いわゆる「収束型問題」では,誰が 解いても,正解に辿り着けば,同じ解答にいたる.

一方,発明や発見,創造や創作などは,人によって 答えが違ったり,そもそも正解が存在しなかったり

する.その人その人によって違う結論に行き着く可 能性を秘め,それを解決するための操作子も不明で ある場合が多い.これを「発散型問題」という(伊 藤・安西,1996).言い換えれば,初期状態や目標状 態あるいは操作子が明確であるような構造の場合を

「良定義問題(well-defined problem)」というのに対 して,初期状態と目標状態,操作子のうち,少なく ともどれかの要素が不明確であるような構造の場合 を「不良定義問題(ill-defined problem)」という

(Matlin, 1983 ; 仮屋園,1997).相異なる二つを対 比することで,相対的に「発散型問題」・「不良定義 問題(ill-defined problem)」の方が,より創造的な 問題解決であると言えるのである(Anderson, 1980 ; Glass & Holyoak, 1986).

3 おわりに

「新しい科学知の創造」を志向する学習コンテン ツの実践化に当たり,問題解決の目標や解決のため のオペレータに極力,制約をつけない方向,つまり

「思考の自由度」を高める方向へと向かわせることが,

知の創造にかかわる認知的能力を高めることにつな がる可能性がある.言い換えれば,ある一定の時間 内にクラス集団の全員が一つの目標水準に到達する ことが学習の成立であり,それをもって授業の成立 と捉えるという伝統的な教育観・授業観,かなり厳 しい制約のついた学習環境,正答一辺倒・唯一正答 型の機械的な反復記憶・再生学習,解法のテクニッ クの訓練などから脱却すること,即ち「パラダイム 転換を図ること=イノベーション」が,教育実践上 の重要な課題であると言える.本研究で筆者が提案 した学習コンテンツの実践化においては,ある一定 の到達水準を事前に目標として定めておかないこと,

試行錯誤による活動の深化・拡充を最優先にするこ と,個人差を最大限に認めることなど,かなり制約 を緩めた学習環境デザインを想定した.

総じて,学習コンテンツの開発と実践化に当たり,

次の3つの事項を提言しておきたい.

⑴「新しい科学知の創造」を科学教育の目標に掲げ るとすると,実際に科学知を創造するような文脈 で, 「未知の状況における問題解決」を中心に据え て,学習課題・学習コンテンツを構成し,それに 適合した学習環境をデザインすべきである.

⑵「新しい科学知の創造」を科学教育の目標に掲げ

るとすると,科学者が実際に科学知を創り上げて

いくプロセスに似た形で,学習者が集団での「協

働的な学び」を通し,思考や知識の適用の仕方に

ついて自ら考え(メタ認知),自己評価・自己調整

を繰り返しながら科学知を創り上げていくことが

(14)

できるような,学習プログラムを構成すべきであ る.

⑶「新しい科学知の創造」を科学教育の目標に掲げ るとすると,上記⑴⑵のような学習を成立させる ためには,学校教育での理科や算数・数学などの 教科の授業時間のみに限ることなく,総合的な学 習の時間等の教科外活動や課外活動,学校外での 活動などの学習の機会をフルに活用して,学習コ ンテンツの実践化を図るべきである.

最後に,卓越性の科学教育とは,世界で通用する 知的革命を起こせるような優秀な研究者育成をめざ すエリート教育,いわゆる “science education for excellence” に留まるものではない.それが “for excellence” から “for all” へつなぐ架け橋になるに は,子どもが知的好奇心を刺激され探究意欲に満ち 溢れ,子どもにとって「新しい知」を探究・発見・

創造・創出できるような,子どもがクリエイティブ な「ミニ研究者」になれるような学習環境をデザイ ンすることが大切ではないかと,筆者は考える.し たがって,まず,その先決・前提条件として,教師 自身が,創造的な問題解決のエキスパートでありた い.また,教師自身が,クリエイティブになれる自 由な学習環境をデザインできる構えを備えておきた い.そのような意味において,優秀な科学技術系人 財を教育界へ送り込む点でも,中・高等学校の理数 系教員の高い質を保証する点でも,教師教育に期待 される成果が,教育実践上,重要な意味をもつこと は自明の理である.

附記

本研究は,国立教育政策研究所教育課程研究セン ター総括研究官の銀島文女史を研究代表者とする 2012-2015年度文部科学省科学研究費補助金(基盤 研究A一般・課題番号2424010)による『イノベーティ ブ人材を醸成する「卓越性の科学(science for ex- cellence)」の教育課程の開発に関する実証的研究』

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