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コミュニケーションの観点からの中学校用英語教科 書の分析

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

コミュニケーションの観点からの中学校用英語教科 書の分析

著者 伊東 治己, 高津 和幸, 長安 憲一, 廣地 美佳, 福

嶋 雅直

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

30

ページ 57‑68

発行年 1994‑03‑01

その他のタイトル An Analysis of Junior High School English

Textbooks from the Viewpoint of Communication.

URL http://hdl.handle.net/10105/6830

(2)

コミュニケーションの観点からの中学校用英語教科書の分析‡

伊東治己・高津和幸・長安憲一・廣地美佳・福嶋雅直          (英語教室)

要旨:現行の中学校用英語教科書(4種)に含まれる個々の英文について、そ の発話コンテクストや発話・談話機能などを詳細に分析することによって、教 科書の中でのコミュニケーションの成立状況を調査しれ どの教科書において

も、日本人中学生が主要な登場人物に設定してあり、日本人および中学生を 意識した教科書作りがなされている。ただ、発話条件が特定されないものもか なりあり、改善の余地が残されている。また、日本人が発信する場合も数多く 設定されており、発信型英語教育への転換が十分に意識されているが、対話の 構造自体は一方が話しかけ・他方が受け答えるという単純な形が多く・もっと 変化に富んだ対話が望まれる。

キーワード:コミュニケーション 教科書分析 発信型英語教育

O.はじめに

 国際化の進展に対応して、日本の学校における英語教育においても英語で自由に意思の疎通が できる人材の育成が重要な教育的課題となってきた。折しも、今回(平成元年度)の学習指導要 領の改訂に際しても、英語でのコミュニケーション能力を一層育成することがその基本方針の一 つに謳われ、中学校においては、文法事項や新語数の学年指定の廃止、高等学校においてはオー ラル・コミュニケーションという新しい科目の設置という形で、その基本方針が具現化されてい る。特に中学校においては、本年(平成5年)度からの新学習指導要領の完全実施に伴い、英語 教科書も一新された。当然、今まで以上にコミュニケーションを意識した編集がなされているも

のと理解している。しかしながら、実際に新しい教科書を手にとって調べてみると、文法や語集 の面に関する限り大きな変革は見られず、本の規格や体裁、挿絵といった外観の目新しさの方が 顕著に写孔本研究は・コミュニケーション能力の育成を目指す限り・学習者が拠り所とする教 科書の中身もコミュニケーションを志向するものでなければならないという前提の下、特に教科 書に含まれる言語材料に注目し、個々の英文なり発話がコミュニケーションの用例になり得てい

るかどうかを、コンピュータを使った計量的分析を通して検証しようとするものである。

* An Ana1ysis of Junior High Schoo工Engユish Textbooks from the Viewpoint of  Communication.

**ITO Harumi,TAKATSU Kazuyuki,NAGAYASU Kenichi,HIROCHI Mika,FUKUSHIMA  Masanaol Department of Eng1ish.

(3)

1 先行研究(教科書分析)との関連性

 教科書分析は、英語学習のインプットの性格を明らかにするという点で、英語教育学の主要な 研究分野の一つと見なされ、日本においてもこれまで多くの研究がなされてきた。分析の対象は、

中学校用教科書が主流で、分析の観点は語彙レベルから題材に到るまで、実に多岐にわたってい る。例えば、単語の使用頻度と分布という観点から日本とソ連の中学校用教科書を比較した縫部

(1985)、単語の使用頻度に加えて、食事・飲食・乗物・輸送・職業・身分といった分野別語彙使 用状況にも焦点を当てて日本とフランスの中学校用教科書に含まれる語彙を比較した三浦(1985)、

中学校用教科書に含まれる学習語彙の品詞別・ランク別・頻度別プロフィールを明らかにした山 田・伊東(ユ991)、中学校用教科書内での内容語のコロケーション(共起関係)の実態を調査した 青谷(1992)などがある。文・発話レベルでは、アジア諸国で使用されている教科書を対象に、

学習初期の言語材料の種類と配列を比較した沖原(1989)、 ノーショナル・シラバスの観点から 中学校用教科書に含まれる発話の機能を分析した青木・田中(1985)などがある。題材レベルで

は、異文化理解教育の視点から中学校用教科書の題材を調査した深沢(1980)や江利川(1991)、

教科書に現れる登場人物と題材を分析した徳重(1992)などがある。本研究は文・発話レベルの 研究として位置付けられ、その主な目的は教科書に含まれる発話の諸条件を分析し、コミュニケー

ションの成立状況を明らかにすることである。登場人物と話題を問題にする点で徳重(1992)の 研究と、発話機能を問題にする点で青木・田中(1985)の研究と一部重なる所もある。

2.激科書分析の手順  川 対念及ぴ籟囲

 現行(平成5年版)7種類の中学校用英語教科書のうち、NeωCroωπ(N C,三省堂)、〃eω Horた㎝(NH,東京書籍)、Mωτo施工(NT,秀文出版)、S阯π洲πe(SS,開隆堂)の4種を分 析の対象に選んだ。分析範囲は、全学年の各主要レッスン、リーディング教材(またはそれに類 するもの)及びサブ・レッスンに含まれる英文(発話)とした。その内訳は以下の通りである。

       〔表1〕分析対象となった発話の教科書ごとの内訳

教科書  主要レッスン  リーディング  サブ・レッスン  発話総数  対話文数

N C      38        7

N H      27        9

N T     34       0 S S     34       3

19       1140       532 22      1325        892

5      1142        706 18       1233       575

 121分析の視点

 コミュニケーションの成立状況を詳細に調査するために、分析の対象になった個々の発話に関 してそのコンテクストや発話自体の性格を多面的な視点から分析することにした。具体的には、

次に示すような発話条件ごとにその中身を下位項目に従って特定していく作業を行った。

 ①発信者年齢(S A):0)不明、1)中学生以下、2)中学生、3)中学生以上、4)複数

(4)

②発信者性別(S S):0)不明、1)男性、2)女性、3)複数

③発信者国籍(S N):0)不明、1)日本人、2)英語話者、3)非英語話者、4)複数、5)その他

④受信者年齢(RA)=0)不明、1)中学生以下、2)中学生、3)中学生以上、4)複数

⑤受信者性別(R S):0)不明、1)男性、2)女性、3)複数

⑥受信者国籍(R N)=0)不明、1)日本人、2)英語話者、3)非英語話者、4)複数、5)その他

⑦発信地域  (A R):0)不明、1)日本、2)英語圏、3)非英語圏、4)その他  ⑧発信場所 (P L):0)不明・1)学校、2)家庭・3)屋内・4)屋外、5)その他

 ⑨発話の機能(F C)=O)不明、1)相手を物理的に動かす、2)相手を精神的に動かす、3)相手       に情報を与える、4)相手から情報を引き出す、5)挨拶、6)その他

 ⑩発話の話題(T P):0)不明、1)挨拶、2)日常生活、3)学校生活、4)国内事情、5)海外事情、

      6)自然、7)物語、8)その他

 ⑪談話的機能(D F):0)不明、1)始動、2)反応、3)追加  13)基礎デ タの作成

 まず、データ・べ一ス・ソフトNINJA3/Pro(サムシンググッド)を使って、教科書内の発話 を教科書ごとに分けてパーソナル・コンピュータに入力した。次に、各発話について、教科書の 該当箇所を参照しながら、上述の発話条件ごとにその中身を特定し、コード化する作業を実施し た。その際、発話条件が明示されていない場合は、原則として「不明」扱いにしたが、挿絵など でその条件が特定可能なものについては、該当する項目に分類した。ロボットが発話している場 合のように、年齢・性別・国籍などが特定しにくいものは、「その他」に分類した。リーディング 教材のように、教室で授業を受けている日本人中学生が受信者として想定してある場合は、登場 人物としての日本人中学生と区別するために、原則として「不明」として分類した。発信者また は受信者が複数の場合は、年齢、性別、国籍などを「複数」として処理した。また、同一の発話 の中に複数の機能や話題が含まれている場合には、それぞれの機能や話題を1つの発話の中に含 めた。最後に、各発話の各条件ごとに該当するコード(tag)をコンピュータに入力し、次に示す ような基礎データ(一部)を作成した。

       〔表2〕教科書分析のための基礎データ(一部)

Y

1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1

PG

18 18 19 19 19 21 21 21 21 21 21

22 22

SENTENCE

I AM kATO貢面責、

I AM YANG MEILING.

I AM CHINESE.

YOU ARE JAPANESE.

WE ARE FRIENDS.

HI,DENNIS.

HELLO,HANAKO.

HOW ARE YOU TODAY?

I M FINE,THANK YOU,

HOW ARE YOU?

I M FINE TOO,THANK YOU.

THIS IS A MELON.

IT IS A LARGE MELON.

SA SS SN RA RS RN AR PL FC TP DF

3

1 1 1 3 2 1 1 2 2 1 5 1

4

4

4

4

4

1

1

1

1

1

1

3

3

(5)

3、分析結果

 11〕発話コンテクストの特定化に焦点を当てて

 そもそもコミュニケーションとは、特定の言語的・文化的コンテクストの中で生起するもので ある。つまり、程度の差こそあれ、特定の話し手が特定の聞き手に対して特定の場所で行なうも のである。ここでは、この「コンテクストの特定化」をコミュニケーションの主要な特質の一つ として捉え、個々の発話に関して、そのコンテクストの特定化の度合の指標として各発話条件

(①〜⑧)の確定率(%)を個別に算出した。丸括弧内の数値は、教科書の中の対話教材のみを対 象にした時の数値である。

      〔妻3〕発話条件(一部)ごとの確定率(%)

 分析の視点    N C     NH

①発信者年齢  70.4(97.7) 67.5(85.1)

②発信者性別  70.1(99.2) 75.3(96.7)

③発信者国籍  6919(69.6) 67.1(84.5)

④受信者年齢  54.1(97.9) 61.8(84.2)

⑤受信者性別  54.6(99.1) 67.8(93.O)

⑥受信者国籍  53,2(95.9) 61.7(84.O)

⑦発信 地域  62,0(98.3) 64.3(81.3)

..⑨発侵、、..隻旺......40・9(71・8) 45・ユ(61・5)

 確定率平均  59.4(94.6) 6318(83.8)

 NT     S S     平均

67.8 (96.6)    56.4 (96.2)    65.5 (93.9)

69,2 (99.9)    54.O (97.6)    67.1 (98.4)

66.5 (94.5)    53.5 (90.1)    64.2 (91.4)

62.6 (95.9)    45.7 (91.5)    56.1 (92.4)

64.4 (98.9)    46.5 (93.7)    58.3 (96.2)

61,4 (93.9)    43.1 (85.7)    54.8 (89.9)

65.8 (94,5)    46.3 (86.8)    59.6 (90.2)

33.8 (5ユ.6)    43.1 (82.1)    40.7 (66.7)

61.4 (90.7)    48.6 (90.5)   58.3 (89,9)

 全体的に、発信者と比較して、受信者の条件が特定されていない場合が多くなっている。また、

どの教科書においても、発信地域と発信場所の確定率が低く、特定化の度合が低くなっている。

特に発信場所については、対話教材においても不明確な場合が比較的多く見かけられる。

 次に、発話ごとに、発話条件を連動させて、コンテクストの特定化の度合を調査した。下表の Aは対象となったすべての発話条件、Bは発信者と受信者に関するすべての条件を連動させた時 の確定率を示したものである。なお、丸括弧内の数値は、上と同様、教科書内の対話教材のみを 対象にしたものである。

       〔表4〕発話条件を連動した場合の確定率(%)

分析の視点    N C     NH     NT     S S     平均

A:①〜⑧連動 36.8(65.2) 34.9(47.O) 31.6(48.O) 37.3(74.3) 35.1(58.6)

B:①〜⑥連動 52,6(95.1) 50.4(7419) 61.4(93.9) 41.5(83.3) 51.5(86,8)

 対話文においても、発信者・受信者・場面のすべての条件が特定されているものが、全体の半 数近くにしかならないのは、コンテクストの特定化をコミュニケーションの本質として捉える立 場からすれば、問題である。コミュニケーションというものが、程度の差こそあれ、特定の話し 手から特定の聞き手に対して特定の場所で行なわれるということを考えれば、実際の授業に当たっ ては教師の側で発話コンテクストを補足する工夫が必要になると思われる。

(6)

 (2〕国籍・発話地域に焦点を当てて

 ここでは、まず、発話コンテクストの特定化の実態を、発話当事者の国籍に焦点を当てて分析 していく。次の〔図1〕は、日本人から外国人への発話(日→外)、日本人同志の発話(日→日)、

外国人から日本人への発話(外→日)、外国人同志の発話(外→外)の割合(%)を示したもので ある。なおここでの分析は、対話教材のみを対象としている。

       〔図1〕発話当事者の国籍の分析(%)

胴日

98 7G

5廻

30

2日

18

 日

s,s

、 E.

A、.

燃心.

..・ .

、 笏

・、、..

A.

、.

、、

\1・

!.一三.。・..

..…

      NC       NH       NT        SS

        暦日→タド團日→日鰯タド→日曜タド→タド国その他

 発話当事者の国籍に関しては、次のような傾向が見られる。まず、発信者または受信者のいず れかが日本人である発話の割合は、N Cが89.6%、NHが5616%、NTが78.9%、S Sが64.9%と、

教科書間においてかなりのばらっきが見られるが、いずれにおいても全体の過半数を占め、日本 人学習者を意識した教科書作りがなされている。特にN Cにおいてこの傾向が顕著である。また、

日本人から外国人への発話は、N Cが39.3%、N Hが22.9%・N Tが27.2%、S Sが30.6%で、こ のことから、各教科書とも国際化を意識し、受信型から発信型英語教育への転換を図っていると 言える。一方、外国人から日本人への発話はN Cが38.8%、NHが30.7%、NTが21.5%、S Sが 33.8%と、教科書間にあまり大きな差はなく、かつ、日本人から久国人への発話の割合と拮抗し

ている。

 日本人同士の発話に関しては、30.2%(NT)から0.5%(S S)まで教科書間に非常に大きな ばらっきが見られる。日本語がわからない外国人を発話の場に加えるなどの工夫も見られる場合

もあるが(特にNTにおいてこの特徴が顕著)、一般に日本人同士の発話の場合、その具体的内容 を詳細に調べてみると、英語での発話の必然性が損なわれている場合が多いので、指導の際に注 意が必要である。

 発話当事者としての外国人の内訳を見てみると、英語話者が発信者の場合は平均で3311%、受 信者の場合は30.1%と比較的高い割合を示している反面、非英語話者が発信者の場合は平均で 11.6%、受信者の場合は10.2%とかなり少なくなっている。また、外国人同士の発話は、平均で

(7)

1O.O%とかなり少なく(NHは21.7%と他の教科書と対照的)、さらにその内訳を見てみると、非 英語話者が発信者または受信者のいずれかになっている発話は平均で2.1%と非常に少ない。国際 語としての英語の性格を考えれば、教科書内の会話において、もっと非英語話者を含む対話を増 やしてもよいと考えられ乱

 次に、日本人を発信者とする発話に絞り、その発話地域と発話場所を分析してみると、ここで も教科書間に大きなばらっきが見られる。具体的には、発信地域については、N Cでは90.2%、

NTでは86.O%が、日本に設定されており、しかもどちらの教科書も英語圏が発信地域に設定さ れていないのが大きな特徴である。つまり日本人と日本に来た外国人との対話がほとんどだとい うことである。一方、NHとS Sではともに、発信地域が日本と英語圏のどちらにも設定されて おり、それぞれNHは28.4%と25.7%、SSは34.8%と28.7%である。つまり、NHとSSでは外 国へ行って日本人が外国人と対話するという場面も設定されている。また、いずれの教科書も発 話地域として非英語圏が設定されている対話は皆無に等しい。つまり、非英語圏での英語を使っ ての対話が非常に少なくなっている。

 発信場所については、各教科書とも、学校と家庭がいずれもその大半を占めている。この場面 設定は、中学生にとっては自然なものだと言える反面、発話の具体的内容を調べてみると、英語で の発話の必然性が損なわれているものも多く見られるので・やはり指導の際に注意が必要であ孔  13〕年厳に焦点を当てて

 発話コンテクストの特定化の実態を発話当事者の年齢を中心に見ていく場合、中学生が関与し ている発話がどのくらい含まれているのがが分析のポイントになる。そこで、対話教材のみに限 定し、教科書ごとに、中学生が発話当事者(発信者あるいは受信者)になっている発話の割合を 調べてみた。〔図2〕は各教科書の対話教材に含まれる発話を、中学生同士の発話(中→中)、中 学生から大人(中学生以上)への発話(中→大)、大人から中学生への発話(大→中)、大人同士 の発話(大→大)・及びそれ以外の発話(その他)に別けて分類し・それぞれの割合(%)を示し たものである。なお、「その他」の中には、発信者と受信者のいずれかが複数の場合、不明の場合、

さらにいずれの教科書においても割合の少なかった中学生以下の場合が含まれ孔

 発話当事者の年齢に関しては・次のような傾向が見られ孔まず・中学生が発信者か受信者の とちらかである場合、つまり、中学生同士の発話、中学生から大人への発話、大人から中学生へ の発話を合わせた割合を調べてみると・N Cが8311%・NHが69.1%・NTが91.3%・S Sが70.6

%で、いずれも比較的高い割合を示している。このことから、今回調査した現行教科書において は、登場人物が学習者にとって身近に感じられるように、学習者の年齢を意識した教材作りがな されていると言える。中学生が発信者となっている発話(中→中と中→大)の割合だけでも、N Cが73.5%、NHが57.1%、NTが87.1%、S Sが47.3%と、比較的高い割合になっている。

(8)

      〔図2〕発話当事者の年齢別分析(%)

    lQ0

    90     測

    7日一     6Q−

    50     珊

    3日

    20

     10−

     0

      NC       M       NT       SS

        画中→中国中→大国人→中国大→犬§その他

 ただ、日本人中学生が発信者の場合についてその内容を調べてみると、ほとんどの発話が円滑 に行われていて、既に英語が完壁に話せる中学生が登場人物として設定されている場合が多いよ

うである。その結果として、発話途中での言い替えや問い返しなどのコミュニケーション・ストラ テジーがほとんど含まれていない。NTに登場する麻紀のように、予め帰国子女として設定され ている人物は別として、それ以外の中学生の登場人物は、ごく一般的な中学生という設定にはなっ ているが、教室で学習している日本人中学生にとって、こと英語の知識に関しては、余りにも目 分達とはかけ離れた存在に思われても致しかたない。コミュニケーション・ストラテジーがコミュ ニケーションヘの関心・態度の指標とも見なされる傾向にある今日、この点は今後改善の余地があ

る。

 次に、中学生同士の発話の割合を調べてみると、N Cが64,3%、NHが48.1%、NTが83.6%、

S Sが30.3%で、教科書間にかなり差があることがわかる。NTやN Cでは中学生同士の発話が かなりの割合を占め、意識的・計画的に多く取り入れられているのに対して、S Sはいずれのタイ プの発話も平均しており、中学生同士の発話を特に意識して用いていない。

 中学生同士の発話について、日本人の中学生が発話当事者(発信者か受信者のいずれか)であ る割合は、N Cが96.2%、NHが64.9%、NTが81.5%、S Sが95.4%で、どの教科書でもかなり 高い割合を示している。さらに、日本人中学生が発信者となっている発話の割合は、全体では 456%と、中学生同士の発話の約半分を占め、中でもNTが561%で最も高く、その一方でS S が29.6%と最も低くなっている。また、日本人中学生同士の発話の割合は、国籍別分析の所でも 触れたようにNTが特に多く、中学生同士の発話の4分の1を占めているものの、その他の教科 書では非常に低くなっている。日本人中学生同士だと、英語を使うことの必然性が確保しにくい ためと思われる。

 14〕発話機能と語麗に焦点を当てて

 先の分析から発話当事者として日本人中学生が設定されている場合が比較的多く、受信型から

、、 N  、

■髪髪脇 ミミミ㈹ ォ菱

∴、

こ.・・...

ョ\寒

燃§

搦脇

〃〃 〃、

(9)

発信型英語への転換がよく意識されていることが分かった。しかしながら、発信はしているもの の、相手からの発信に対して答えるという消極的なもので、真の意味で、発信型英語を意識して いるとは言えない。真の発信型英語とは、例えば自らが持つ情報を相手に伝えたり、指示を与え て相手を動かすといったように、積極的に発信し発話に参加することであると考えられる。ここ では、日本人がどの程度積極的に発話に参加しているかを、「発話機能」と「話題」の観点から分 析していく。なお、発話機能の設定に関しては青木・田中(1985)を参照した。

 まず、機能に関しては、「相手を物理的に動かす」機能が8.6%、「相手を精神的に動かす」機能 が3.9%とかなり低いのに対し、「相手に情報を与える」機能は54.7%、「相手から情報を引き出す」

機能は19.1%と・高い割合を示してい乱発信型英語の観点からすれば・これら4つの機能が平 均して用いられるよう工夫される必要がある。また、発信者として日本人が設定されている場合 を調べてみると、NCは61,3%、NTは65.2%と高い割合を示しているが、NCは22.8%とNTは 43.6%と低く、教科書間で差が見られる。

 次に話題に関しては、「日常生活」が平均47.5%と圧倒的に多く、他の話題と著しい差が見られ る。学習者の年齢を考えれば、平均して多岐に渡る話題を取り入れる必要がある。ここで、先ほ ど特に多かった「相手に情報を与える」機能とr相手から情報を引き出す」機能について、発信 者として日本人が設定されている場合の話題について調べてみた。すると、「相手に情報を与える」

機能においては、〔図3〕が示すように圧倒的に「日常生活」の話題が多くなっているが、日本 に興味を持っている外国人なら知りたいと思うような国内事情についての話題が少ない。また、

「相手から情報を引き出す」機能においても、〔図4〕が示すように、「日常生活」の話題が多く なっているが、日本人なら知りたいと思うような海外事情に関する話題が少ない。確かに、初期の 段階では、発信のための表現を学ぶために、日常生活といった身近なものを話題にすることは妥 当であるかもしれない。しかし、学習が進むに連れて、話題の質を深めるとともに多様性を持た せる必要がある。具体的には、学習者の知的好奇心を刺激するような話題や、外国の人々に紹介

したいと思わせるような話題を広範囲に盛り込む必要があ乱        〔図3〕日本人が情報を与える際の話題(%)

       78

60

40

20 10

不明  日常 学校  国内 海外  自然  物言書 その他

日NC SN目 国NT窃SS

(10)

〔図4〕日本人が情報を引き出す際の話題(%)

78 60 靱 珊 釦 勤 10

日常  学校  国内  激ト 自然  物語 その他

      磨NC 團NH 国NT 窃SS

 (5〕発話ターン(TuRN)の構成に焦点を当てて

 対話は、その当事者がターン(対話者が占有している対話区域)をとって発話のキャッチボー ルをすることによって、構成されている。そこで、ターンの構成に焦点をあてて、主要レッスン 教材のみを対象にして分析していく。

 まず、次の〔表5〕は①対話を構成しているターンの数の平均、②対話を構成している発話の 数の平均、③ターンを構成している発話の数の平均を教科書ごとに示したものである。

       〔妻5〕各教科書の分析範囲 分類項目

分析の対象になった発話の数 分析の対象になった対話の数 分析の対象になったターンの数 対話を構成しているターンの数の平均 対話を構成している発話の数の平均

夕一ンを構成している発話の数の平均

N C    N H    N T

525       755       678

 60    61    49

352       463       350

5,87      7,59      7,14 8.75     12.38     13,84

1,49       1,63      1.94

S S

492

 53

309

5,83 9,28 1.59

 4種の教科書間で比較すると、NHとNTはまとまった分量の対話を設定しているが、N Cと S Sは細切れの対話である。また、各ターンを構成している発話の数は、全体的に非常に少なく、

単文だけのターンが多いことがわかる。対話の内容を深め、自然な流れを持たせるためには、各 対話の発話とターンの量は十分ではない。しかし、NTは複数の文によって夕一ンを構成しよう

としている傾向が多少見られる。

 談話分析の観点に立つMcCarthy(1991)は、initiation,response,foユ1ow−upの3つの夕一ンに よって対話の基本的な単位が構成されていると考えている。ここでは、各発話を「始動(INITIAT−

ING)」「反応(RESPONDING)」「追加(ADD1NG)」に分類した。その結果が次の〔表6〕であ

る。

(11)

〔表6〕各発話の談話の種類(%)

視   点  分類項目

談話の種類  始動(INITIATING)

       反応(RESPONDING)

       追加(ADDING)

NC   NH

49,1    51,8 33,5     28,8 17,5     19.4

NT   S S  平均

34,3     43,0     44,5 27,1     31,1    30,1 38,7     25,9     25.4

 全体的傾向として、「追加」の占める割合が低くなっている。これは対話に発展性がなく、自然 さに欠けていることを表しているといえる。しかし、NTにおいては「追加」の割合が「始動」

や「反応」の割合よりも高くなっていて、対話を内容豊かに進めようとしている傾向が見られる。

 次に、夕一ンがどのような談話の種類の発話によって構成されているのかを下の7つの類型に 分類して分析した。

 ①I :INITIATING      ⑤R工 =朋SPONDING+INmATING

 ②R :RESPONDING     ⑥IAI lINITIATING+ADDING+INITIATING

 ③IA1INITIATING+ADDING  ⑦RAI:RESPONDING+ADDING+INITIATING  ④RA:RESPONDING+ADDlNG

次の〔図5〕から〔図8〕は各教科書ごとに7つの類型の占める割合を示している。これらの図 から、対話全体の70.3%がIとI RとRAの3つのパターンで占められており、総じて単純な構 成の夕一ンにより対話が構成されていることがわかる。さらに、R IとR A Iの割合がRとR A の割合よりも低いことから、一方が「始動」、もう一方が「反応」という固定された形の対話が多 いと言え乱しかし、実際の自然な対話というものは・各ターンに複数の談話のタイプの発話を 含み、発話の当事者間で「始動」と「反応」という立場を交換しながら行なわれている。自然な対 話を学習者に身につけさせることも教科書の大切な役割であることを考えると、もっと多様な構 成の対話を多く取り入れるべきである。また、発信型英語教育の観点からすれば、IとIAとI A Iというターンを中心に対話が構成されるべきであると考えられるが、日本人の占める割合が 高く、日本人が積極的に発信していると言えるのはNTのみである。従ってこの点においても、

ターンと対話の構成にはさらに改善の余地があろう。

      〔図5〕ターンの類型(%) <NC〉

         靱

3目一

lo一

R    旧    RP    Ri    I自I   R0I

暦日木人 團英語話者園その他

(12)

〔図6〕ターンの類型(%) 〈NH〉

5固一

4日

3目

2日

一〇

R    胴    賄    Rl    I日1 暦日木人 團英譲舌考 国その他

㎜I

〔図7〕夕一ンの類型(%) <NT〉

  R    lO    賄    Rl    lO1   喩1

  塵日本人團蟷蓋舌考關その他

〔図8〕ターンの類型(%) <SS〉

38

18

       1    R    順    賄    Rl   1則   帥1       暦日本人 團葵鍾舌考 国その他

4.おわりに

 今回の調査の結果は、コミュニケーションを志向する教科書作りを目指す以上、個々の発話の コンテクスト(発信者・受信者・場面)をもっと特定化する必要があることを示している。また、

コミュニケーションを意識するあまり特異な場面が無理やり設定されている場合も見かけられる ので、自然なコンテクストを補足する必要がある。しかし、そのために漫画的な挿絵を増やすこ とが必ずしも自然なコンテクストを補足することにはならないし、引いてはコミュニケーション

(13)

にっながるわけでもないことも強調しておきたい。また発信型英語教育を推進していく上で、日 本人中学生が発話に積極的に参加することのできる場面や話題を設定する必要がある。さらに、

多様なターンの構成をもった、まとまった分量の対話を数多く取り入れることにより、自然な対 話を身にっけさせたいものである。

 なお、本稿は伊東(英語科教育助教授)、高津、長安、廣地、福嶋(英語科教育大学院生)の5 名による協同研究を集約したものである。本協同研究の根幹をなすコンピュータを使った教科書 分析は5名による協同作業であるが、研究の成果を本稿にまとめるに当たっては、第3節の「分 析結果」の内、第2項「国籍・発話地域に焦点を当てて」を福嶋が、第3項「年齢に焦点を当て て」を高津が、第4項「発話機能と話題に焦点をあてて」を長安が、第5項「発話ターンの構成 に焦点をあてて」を廣地がそれぞれ分担して執筆し、残りは伊東が執筆した。

【引用文献】

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江利川春雄.1991.「異文化理解教育の視点からみた英語教科書の題材」『中部地区英語教育学会紀  要』第21号,97−102.

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