大雨発生時の列車運転規制決定方法の検討
The Method of Deciding the Driving Restriction of the Train When It Rains Heavily 土木工学専攻 24 号 須山友太朗
YutaroSuyama
1.はじめに
日本には様々な自然災害が発生し,中でも大雨の発生 頻度は近年上昇している. 全国 1300 地点での観測データ において, 1987 年から 97 年の年平均時間 50mm 以上の 降雨は 234 回だが, その後 10 年間では 313 回と急増して いる
1).また2007 年度のJR 東日本管轄内で起きた降雨に 起因する線路故障は全部で 102 件発生している
2).これ らは列車事故に繋がり,電車を止める必要があるが,一方 で大雨が降っても線路故障が起こらない場合もあり,結 果的に何もないのに電車が止まる事態が増えてしまう.
現在は一定以上の雨が降った際,運転規制を行う雨量の 規制値は,過去に JR 東日本で発生した線路故障から経験 的に定めた値になっている.
本研究では線路故障に対する説明変数の妥当性と,各 駅の規制値の妥当性について検討した.まず具体的には 過去に線路故障が多く発生した 3 駅(a・ b ・c)を対象と し発生後の降雨パターンを時系列で整理して駅ごとの特 性を把握した.そして線路故障の有無とは無関係に駅で の連続降雨頻度を分析した.また確率論の見方で規制値 と線路故障発生確率の関係を検討した.
2.時系列分析 1)分析方法
まずは降雨パターンの時系列を整理していった. (図 -1)この図は規制値線区ごとで制定されているが横軸に 連続雨量と縦軸に一時間雨量の関係で警戒及び速度規制, 運転中止が決まっている.青の折れ線グラフは連続雨量 と時間雨量の関係を時系列で追った線である.
そして整理のために線路故障発生時の直前にクロス した規制値と直後にクロスした規制値を調べていった.
さらに規制値を 3 つにわけ,雨量特性を整理していった.
これによって線路故障発生の事象が短期雨量型の頻度が 高いと突発的な豪雨であることがわかり,雨量型の頻度 が高いと長雨や大雨であったことがわかる.また設定し た型は以下から短期・中期・長期と略記する.
2)線路故障発生降雨の性質
整理した結果を表-1 に示す.a 駅では短期から短期で の頻度が高く,これは集中豪雨の頻度が高いと考えられ る. またこれは被害の規模が小さく,規制の空振りが多い パターンでもある.次に c 駅は短期から長期,長期から長 期の頻度が高くこれは大雨,長雨の頻度が高いと考えら れる. これは規模が多きく,規制継続時間が長くなるパタ ーンでもある.また a 駅は他の駅程の明確な特徴がみら れず一般型とした.
3)降雨の発生時間と規制値の関係
次に線路故障の有無とは無関係に駅での連続降雨頻 度を分析し,規制値との関係を調べた . 規制値との関係を みると b 駅では集中豪雨型に合わせて短期規制が低く設 定されており,実際の線路故障時の降雨を捉えている . し かし c 駅では短期から短期の発生が無いにもかかわらず, 規制値が低くなっており規制の空振りに繋がりやすいと いえる . また大きな事故に繋がる長期の規制値を a,b 駅
図-1 分析方法
連続雨量[mm]
―運転中止
―運転規制 短期雨量 ―警戒
中期雨量
長期雨量
時間雨量[mm]
線路故障発生
表-1 各駅での線路故障発生降雨の性質
a 駅 一般型 b 駅 集中豪雨型
c 駅 長雨・大雨型
直前 直後 警戒 速度 規制 短期 短期 1 1 短期 中期 1 短期 長期 1 中期 中期 4 中期 長期 2 長期 長期
直前 直後 警戒 速度 規制
運転 中止 短期 短期 5 5 短期 中期 1 1
短期 長期 1
中期 中期 2 1 中期 長期 1 2 長期 長期
直前 直後 警戒 速度 規制
運転 中止 短期 短期
短期 中期 2 1 短期 長期 1 7 中期 中期
中期 長期 3 5
長期 長期 1
では高めに設定しているので,線路故障が発生している のに列車を止めない事象が起こる可能性があると考えら れる . しかし総合的に降雨特性にあった規制といえる . 3.確率論でみた規制値との関係の分析
1) 実効雨量指標
4)ここまでは主に,連続雨量に対する規制方法を分析して きた.一方,2008 年度から JR 東日本では実効雨量指標を 用いている.以前に振った雨があとでどのくらい影響す るかをパラメータ,つまり半減期辺りの雨量を積算した 雨量指標である. (式-1)半減期は過去の研究により 1.5h,6h,24h の組み合わせから規制を行っている.
・・・(1)
ここで, R
t:t 時における実効雨量 r
t:t 時における単位時間雨量 α:減少定数
H :半減期 2)フラジリティカーブの算出
次に確率論的な見方でフラジリティカーブを作成し た.実際に 3 駅での雨量データと線路故障データから,
縦軸に実効雨量,横軸に破壊確率を設定し,線路故障発 生率(以下故障率)を作成した.
そしてロジスティック回帰の一つの形であるシグモ
イド関数 (式-2)を用いた.また実効雨量を x,故障率を
S
a(x)として,パラメータを α,β,γ,δ とし近似曲線を描いた.
( 図-3)また時系列変化に伴ってフラジリティカーブが a 駅 a 駅 a 駅
b 駅 b 駅 b 駅
c 駅 c 駅 c 駅
前半 15 年分 後半 15 年分 全 30 年分 規制値
図-2 フラジリティカーブ(実効雨量)と規制値の関係 0
20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
線路故障発生 確率 [%]
実効雨量 ( 半減期 1.5h) [mm]
0 20 40 60 80 100
0 30 60 90 120 150
線路故障発生確率 [%]
実効雨量 ( 半減期 6h) [mm]
0 20 40 60 80 100
0 100 200 300
線路故障発生確率 [%]
実効雨量 ( 半減期 24h) [mm]
0 20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
線路故障発生確率 [%]
実効雨量 ( 半減期 1.5h) [mm]
0 20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
線路故障発生確率 [%]
実効雨量 ( 半減期 6h) [mm]
0 20 40 60 80 100
0 30 60 90 120 150
線路故障発生確率 [%]
実効雨量 ( 半減期 24h) [mm]
0 20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
線路故障発生確率 [%]
実効雨量 ( 半減期 1.5h) [mm]
0 20 40 60 80 100
0 30 60 90 120 150
線路故障発生確率 [%]
実効雨量 ( 半減期 6h) [mm]
0 20 40 60 80 100
0 50 100 150 200 250
線路故障発生確率 [%]
実効雨量 ( 半減期 24h) [mm]
1 1 2
t t
n t n t
t t
R r
r r
r r R
変化するかを前半15 年分,後半15年分と線路故障時のデ ータを分けることで分析を行った.同様に規制値との関 係も分析した.
・・・(2)
時系列変化に対する結果は b・ c 駅では殆ど差は見られ なかった . a 駅では若干変化が見られ,このようにフラジ リティカーブが右側に寄るということは線路故障が起こ りにくくなっていると考えられる .そして 30
年分のデー タのフラジリティカーブと規制値の関係は 3 駅とも半減 期 1 . 5 時間のもの
ではうまく対応いる.しかし,半減期 24 時間のものではフラジリティカーブの高い値になってい
た.4.リスク評価
1)降雨時の想定事象(イベントツリー)
現行の規制値を定量的に評価する際に,本研究では線 路故障時のリスクを求めていく事で決定する手法を用い た.その際には降雨時の想定事象を決定していく必要が ある.日常的にある程度の規模の降雨が発生したとして 線路故障が起こる場合もあれば, 起こらない場合もある.
一方で降雨そのものが運転規制のかかる場合,そうでな い場合もある.このようなシナリオを表-2 のように設定 し,損失項目別にケース 1~4 とした.
2)損失項目
また,リスク評価のために各ケースでの損失項目の決 定,及び損失金額を決定しなければならない. 損失項目に は遅延時間から発生する時間損失と死亡事故が起こる場 合もあるので,線路故障時の人命損失項目を設定した. ま ず時間損失はケースにより平均遅延時間が異なるのでケ ースごとで変化させて,それぞれに幅を持たせた.(ケー ス 2: 5, 15[min] ケース 3 : 60[min] ケース 4: 5, 15,
30[min])線路故障の影響を受けた人数は線全域(ケース
2,4)か 1 編成分(ケース 3)かで決定した.人命損失
には指標として色々あるが WTP アプローチによる金額
(2 億 2600 万円/人)を使用した.また,死傷者のでるよ うな線路故障が発生した際にどの程度の死傷者が出るか は,国交省,防災白書に記載されていた過去の事例から 乗客の約 1/70 の人数の死傷者がでると設定した.規制を 厳しくすればケース 2 の損失も増えるのでケース 3 の関
半減期 1.5h 半減期 6h
半減期 24h
図-4 ケース毎のリスクの占める割合 0%
20%
40%
60%
80%
100%
[P] [R] [P] [R] [P] [R]
a駅 b駅 c駅
0%
20%
40%
60%
80%
100%
[P] [R] [P] [R] [P] [R]
a駅 b駅 c駅
0%
20%
40%
60%
80%
100%
[P] [R] [P] [R] [P] [R]
a駅 b駅 c駅
P2 P3 P4
R2 R3 R4
図-3 イベントツリー
各ケースの 損失項目
C
1:なし C
2:時間損失 C
3:時間損失
+人命損失 C
4:時間損失 降雨の発生
規制あり 規制なし 線路故障なし
線路故障あり
規制あり 規制なし
営業時間内 営業時間内 営業時間内
降雨の発生頻度期待値
線路故障の 発生確率
規制値の 有・無
線路故障の 発生時間
半減期 1.5h 半減期 6
半減期 24h
図-5 リスク合計値 0
0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
a 駅 b 駅 c 駅
[億円/年]
各駅総合 リスク
0 1 2 3 4 5
a駅 b駅 c駅
[億円/年]
各駅総合
リスク
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
a 駅 b 駅 c 駅
[億円/年]
各駅総合 リスク
xa
x e
S ( ) 1
係はトレードオフになっている.このトレードオフの関 係に対して損失をできるだけ少なくしていくことで最適 な規制値を評価する必要がある.
3)降雨の発生頻度期待値
降雨の発生頻度期待値に関してはまず過去の雨量履 歴を分析し,ある値の雨量が年にどの程度降っているか をプロットしていった.そしてこれを対数正規分布に当 てはめ,そのグラフを降雨の発生頻度期待値とした.
4)リスクの算出
リスクを算出した際に, a~c 駅の値が大きく差が生じてい たので,各駅のケースごとのリスクの割合(図-4)及びリスク の合計値を調べた.(図-5)結果はリスクの総合値が大小異 なっているがおおむね半減期ごとで同じような割合となって おり,リスクの分散は現行の規制値でもできていると考えら れる.
5)規制値増減時のリスク評価
次に規制の空振りによる遅延と規制がかからないこ とによる人身事故というリスクトレードオフのバランス をとるために規制値の感度分析を行った.つまり,リス ク評価を利用し,規制値を増減させた際に合計リスクが 最少となる規制値を求めた. (図-5) a 駅では短・中指標 は規制値を前後する値で最適となった.また長指標はフ ラジリティカーブのグラフで見た通り規制値をかなり下 げた点で最適となった.また全体としては人命損失の項 が大きく安全側な結果となった.特に利用者が少なく相 対的に人命損失項が大きい場所では最小リスクが現実的 な数値とはならなかった.
5.まとめ・今後の課題
過去の降雨による線路故障データから故障時の雨量 の性質を分析した.その結果,経験的に規制値を決めて はいるが,概ね各地点の雨量特性を捉えた規制値が設定 されていた.また,フラジリティカーブによって各地点 で現行の運転規制は故障率が上昇する前に規制をかけて いることがわかった.
イベントツリーによって降雨時の想定事象を設定す ることで,リスクを算出した.その中で規制値に対して 降雨ハザードを加味した,定量的なリスク評価を適用で きたが規制値が安全側になる傾向があると考えられる.
そして,リスクのトレードオフの関係を規制値の感度分 析を行うことで最小のリスクを算出し,規制値の精度の
向上を図った.
今後は損失項目をより正確に設定を行うことでさら なるリスク評価を行う必要がある.
参考文献
1)浅羽雅晴:温暖化時代の集中豪雨・都市洪水にどう備えるか,社会法人 日本損害保険協会 予防時報234 2008
2)日本鉄道施設協会誌:2008
3)杉山 友康:斜面の降雨被害発生確率による防災投資の意思決定支援手 法の研究,第214回 鉄道総研月例発表会:防災技術に関する最近の研 究開発
4)実効雨量指標を用いた降雨時運転規制に関する研究,JR East Technical Review,No.21 pp.42-49, 2008.
a 駅 半減期 1.5h
a 駅 半減期 6h
a 駅 半減期 24h
図-6 規制値増減時のリスク評価
3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.774.853 74.854 74.855 74.856 74.857 74.858
-5 -3 -1 0 +1 +3 +5 +10
R
T[
億円/
年]
P
T[
回/
年]
現行規制値からの増減値 [mm]
PT RT
3.5 4 4.5 5 5.5 6 6.5
62.4528 62.4530 62.4532 62.4534 62.4536 62.4538 62.4540
-15 -10 -5 -3 0 +3 +5 +10
R
T[
億円/
年]
P
T[
回/
年]
現行規制値からの増減値 [mm]
PT RT
2.6 2.8 3 3.2 3.4 3.6
24.46659 24.46660 24.46661 24.46662 24.46663 24.46664