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人的資源管理 における非金銭的誘因の効果

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(1)

人的資源管理 における非金銭的誘因の効果

山 本 清

1 .は じめに

組織 に働 く者のモチベイションを高め組織業績を向上 させ ることは,あ らゆ る組織管理者の課題である。また,動機付けの誘因 となる要素には,金銭的誘 因 と非金銭的誘因があることも周知の事実である。そ して,経済学,特 に組織 と情報の経済学 は誘因構造の組織設計における重要性を操作的に明 らかに し, 種 々の報償制度の比較 も行 ってお り,経営学,産業心理学で も組織風土等の組 織業績に与える影響を取 り扱 っている。 しか しなが ら,経済学の主たる関心 は 個人の金銭的誘因のモデル化にあ り,経営学の関心 は組織業績を規定す る要因 の抽 出に向け られている。 このため,前者では非金銭的誘因の要素がモデルに 操作化 されない問題が,また,後者では実証分析が重視 されモデルの操作化 に 欠 ける難点がある ( 現状を説明で きることと制度変更の及ぼす効果を正 しく予 測す ることは別であることは,計量経済モデルによる景気予測を想起すれば十 分 である) 。 日本型及 び欧米型 システム 自身が見直 しを求 め られてい る今, 我 々の課題 は外部環境の変化に対応 した経営戦略の策定の他,いかに合理的で 効果的な内部管理を構築 してい くかであ り,人事管理 はその重要 な一部であ る

したが って,既存の経営 システムの実証研究にとどま らず,どのような人 事管理制度改革を行えば組織が活性化 して組織業績が改善す るかの研究が必要 と考え られ る。そのためには,金銭的誘因 と非金銭的誘因をどのように組み合 わせて制度を設計 し,運用 してい くかを理論面か ら検討す る必要がある。 もっ

〔 20 9〕

(2)

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商 学 討 究 第 4 4 巻 第 4 号

とも,両者 は全 く独立ではないことに留意 しておかないと,無用な混乱を生 じ る恐れがある

すなわち,非金銭的誘因は,その内容 によ り, 1) 仕事の充実 感, 2) 同僚への優越感, 3) 管理者 としての支配 ・統治欲求,に区分す るこ

とがで きる。 1 )は仕事の社会的意義 ・公共性に価値を兄いだす もので, 自己 実現欲求に関連す るものであ り, 2) は水平的,相対的関係での勝利者 として の達成欲求に関連 し,最後の 3 )は垂直的,階層的関係か らくる権力,社会的 認知欲求に関連す るもの と解せ る。す ると, 1) の要素は,アウ トプ ッ トの拡 大を図 ることで実現す るか ら,金銭的報酬がアウ トプ ッ トに比例 して支払われ るな らば金銭的誘因 と単調増加の関係を有す ることにな り,また, 2) の要素 も同 じ等級内で業績が高い場合 に昇給 ・昇進が早め られ るな らば,同僚よ り優 れた業績をあげることは結果 として他人よ り高い報酬を得 ることと同等である か ら, この場合 も金銭的誘因で代理可能 となる。 したが って,本質的に非金銭 的な誘因は 3) の要素であ り,我が国で卓越 しているとされ るもの も階層的関 係 にかか るもの と思われる。各国 とも公務員社会 における最大の誘因が昇進 と

され る ( 例えば我が国 と同 じ議員内閣制の英国で も同様,Tr easury ( 1 9 82) 参照)の も官僚組織の階統性 に起因す るもの といえ る ( 我が国地方公務員 につ いて は山本 ( 1 994 )参照)。 もっとも,最近 にお ける Kal l eberg andReve

( 1 9 93 ) らの実証研究 によると,非金銭 的誘因の組織 コ ミッ トメ ン トに対す る影響 として は日米 とも本質的 ( i nt ri ns i c)報酬及 び昇進機会が有意 とな っ てお り,昇進指向は我が国だけが強いと言えない状況 にな っている

この こと は, 日本的経営だけでな く欧米型経営において も従来経済学であまり検討 され なか った非金銭的誘因の組織管理への影響分析及び経営学で盛んな現行 システ ムの説明理論を超えた システムを変革 した場合の組織‑の影響分析の必要性を 物語 っていると考え られる。

そこで,まず,操作性 に優れたモデル分析を行 っている組織 ・情報の経済学

において階層的要素の誘因効果が どのように扱われて きたかを検証 してみるこ

とにす る。内部昇進のモデル として は LazearandRos en ( 1 98 1 ) による勝

ち抜 き トーナメン トのモデルが有名であり,完全労働市場を対象に して業績の

(3)

人 的資源 管理 にお け る非金銭 的誘因 の効果

211

高い者が昇進 して高い賞与を得 る過程を説明 している。 ここでは,昇進に伴 う 報酬格差 は必ず しも生産性の差を反映 しているのではな く,低 い地位にある者

に競争 によ り技能取得の誘因を提供す るため設定 されるとされ る。Laz ear( 1 9 89 )は, このモデルをエイ ジェン ト間の相互作用 ( 生産の外部性)を勘案 し た場合 に拡張 し,負の外部性があるときは勝者 と敗者の賃金格差が小 さい方が 組織にとって効率的になることを示 している。上記モデルはいずれ も短期間モ デルで あ ったが,長期 モデル による分析 も近年実施 されて きてい る。MaL c oms on ( 1984 )は, 2 期間モデルによ り第 1 期の努力水準 に応 じて第 2 期の 賃金が決定 されるとし,第 1期の労働者の うち p (0<p<1) の割合の者が 昇進 して,昇進 しない者 よ り高い賃金を もっ最適契約が存在す ることを示 して いる。 ここで,成果 は努力に比例す るとし,企業は測定誤差を伴 うが各労働者 の努力水準を主観的に評価で きると仮定 されている。一方,Kanemot oand MacLeod ( 1 9 92)は,Mal coms onと同様 に 2 期間モデルを用いて検証不能 な努力があって も自己強制力がある最適契約が存在す ることを示 している

す なわち,労働者の努力 には労働時間のよ うに cont rac t i bl e な要素 と注意義務 等の non‑ c ont ract i bl e な要素があ り,また,プ リンシパル( 企業) はエイ ジェ

ン ト ( 労働者)の努力水準を観察可能で事後的に賞与で考慮す るもの と仮定す る と,企業側 の名声効 果 ( reput at i on ef f ect ) の た め労 働者 は non con‑

t ract i bl e な特別の努力を提供す る均衡 ( 必ず しも唯一ではない)が達成 され るとす る

また,Gi bbonsandMurphy ( 1 992 )は,誘因を経歴関心 、( ca‑

r eerconcerns )か らの潜在的誘因 と覇紺r t 契約か らの明示的誘因に区分 し,多 期間モデルにより最適誘因契約 においては,潜在的な経歴関心が低 いときは明 示的誘因は高 く,反対 に経歴関心が高いときは低 くなることを示 している。

このように,最近の経済分析 は内部昇進過程をかな りの程度モデル化 してい るといえる。特 に,Ⅹanemot oandMacュ . eodは, 日本的経営 における大部 屋主義か らくる実態, すなわち, 伝統的な代理人理論 ( プ リンシパル ・エイ ジェ

ン トモデル)におけるプ リンシパルは,エイ ジェン トの行動 ( 努力水準)を観

察で きないとい う前提条件が我が国組織には適合せず,プ リンシパルによるエ

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商 学 討 究 第 4 4 巻 第 4 号

イジェン トに対す る一定の 日常的モニタ リングがなされている状況,を的確 に 反映 していると評価で きる

また,Gi bbonsandMurphyでは昇進願望 の 差異により企業の設定す る最適誘因契約が変わることを明 らかに し,昇進指向 の強い労働者 に関 しては明示的な毎期の金銭的誘因を低 くす ることが望ま しい ことを示 し,昇進が高い動機付 けになるとされている我が国企業や公的組織 に おける遅 い選抜 と 「 年功的」賃金の制度の 「 合理性」を説明す る理論 として優 れている

しか しなが ら,いずれのモデル も昇進価値を将来のより高い所得獲 得 に求めているにとどまり,前述 した支配 ・統治 ・社会的認知欲求を満たす誘 因 としての側面が無視 されている。我が国 と欧米 との システムの差異 は,非金 銭的誘因の うち仕事の本質的価値 ( 興味ある意義ある仕事等)の差 にあるので はな く,む しろ社会,組織 における職業上の地位の持っ影響度の差 にあると思 われ るのであ る1 ) 。 また,内部労働市場 を対象 に しているものの外部労働市 場 は完全競争 にあることを前提 に しているが,現実の労働市場 は完全競争では な く,特 に公的組織を含む統一モデル とい う観点か らはきわめて強い仮定であ る。 さ らに,昇進の過程を LazearandRosen 及び Lazear は,Kanemot o andMacLeod 及 び Gi bbonsandMurphy と異 な り,現実 に近 い勝 ち抜 き

としているが,その場合,報酬 は相対的業績 にのみ依存 して絶対的な業績水準 には依 らないこととされている

だが,人事管理の実態 は絶対評価 と相対評価 の ミックスであ り,狭義の業績給 は昇進 に適合 しない者 に業績に応 じて誘因を 提供す る目的を併せ持っ ものである。

以上の現行経済モデルの問題点及び経営学,産業心理学の説明理論の限界を 勘案 して,本稿では金銭的誘因 と非金銭的誘因の双方を考慮 した複数エイジェ

ン トモデルによ り,非金銭的誘因の組織効率 に与え る効果につ き検討 してい く

1)Ke l l e be r gandRe v e( 1 9 9 3 ) によ る実証研 究で は,忠誠心及 び愛着心 に対 す る

本質的報酬 ( 仕事の内容等)及 び昇進機会の影響 は日米 とも有意 な差 はな く,金銭

的誘 因の典型で あ る年収 の影響 は,む しろ我が国の方 が米 国 よ り大 き くな って い

る。それゆえ,我が国 と欧米諸国の差異 とされ る非金銭的誘因の うち最 も影響が大

きいのは,仕事の内容 よ りも 「 会社本位主義」 による企業内地位 ‑社会的地位 とい

う性格に伴うものと考えられる。

(5)

人的資源管理 におけ る非金銭 的誘因の効果

213

こととす る

すなわち,次節では理論モデルの前提条件 と概要が述べ られ,非 金銭的誘因の金銭的誘因への影響,プ リンシパルの期待効用‑の効果が考察 さ れる。そ して,エイジェン トの能力等の異種混交性が検討 され,一定の同質性 が確保 されている場合 に競争が有効 に作用す ることが示 され る。また,公的組 織のよ うに業績測定が困難な場合には,業績の直接測定に代えプロセス ( 努力 水準)による代理評価が一定条件下で有効であることが明 らかにされ る。第 3 節では,簡単な事例 により第 2 節のモデル分析の結果が具体的に計算 され,そ の政策的含意が提示 され る

最後に,結論 と今後の課題が示 され る。

2.理論モデル

( 1 ) 基本モデル

ここでの課題 は非金銭的誘因の効果を明 らかにす ることであるため,その他 の要素 は可能 な限 り除外 してモデルの簡素化 を図 ることにす る。 しか しなが ら,昇進等非金銭的誘因の特質を考慮するには,複数エイジェン トモデルで, かっ,非金銭的報酬 は勝 ち抜 き トーナメン トにより取得 され る論理が最低必要 である

また,金銭的誘因 と非金銭的誘因の双方をモデルに組み込む ことも要 請 され る。以上 の点を考慮 して,ここで使用す るモデルは ,Hol mst r om and Mi l gr om ( 1 987 ,1 99 1 )を基本モデル とし, このモデルに考慮 されていない

トーナメ ン トと非金銭的誘因要素を組み入れ ることにす る。すなわち,組織 は リスク中立的な 1人のプ リンシパル P ( 管理者) と リスク中立的で生産性が異 なる 2 人のエイ ジェン ト A , B ( 労働者)か ら構成 ( A の方が B よ り生産性が 高い) され,各エイ ジェン トは単一業務を行い,単期間について検討す る

2)。

2 )複数エイジェン トを考慮 しているのに各エイジェン トが単一の課業のみを行 う ( 複

数の課業を分担 して協調す る) と仮定 してモデル化を行 っているのは,モデルの単

純化の意味 もあるが,各構成員 ( 少な くとも係員 レヴェル)は独立に与え られた仕

事を実施 している割合が多いとい う筆者による実態調査に基づ く。 この単純化 はエ

イ ジェン トが複数の課業を行 っていて も,お互いに干渉せず独立的に実施 している

限 りモデル としての意義を失わない。

(6)

214

商 学 討 究 第

44

巻 第

4

具体的には各エイ ジェン トは自己の努力水準 ( それぞれ a , b) の生産関数 f (A , B 共通) と撹乱項 ( 業績 の測定誤差)か らな る成果 ( アウ トプ ッ ト)

Ⅹ 1及 び Ⅹ2 を産 出 し,撹乱項 81,82 は正規分布 に従 い,相互 に独立 とす る。

また,エイ ジェン トは成果 に応 じて金銭的報酬 RA ,RBを受 けるとともに業 績が別 のエ イ ジェ ン トよ り勝 ってい る場合 には地位等 ( 勝者 は S H,敗者 は SL) で代表 され る非金銭的報償

3)

を受 け, 努力 の提供 に関 して は負 の効用 ( そ れぞれの費用関数 CA,CB)を有す るもの とす る

したが って,

xl‑ f(a)+el x2‑ f(b)+e2

ここで, f'> 0, f ' ' ≦ 0 ,ei は平均 0 , 分散 oi

2

の正規分布 に従 う確率 変数

CA‑CA (a) ( 3)

CB‑CB (b) ( 4 )

CA' , CB' > 0 , CA" , CB

''

≧ 0, 任意 の Ⅹに対 して CA' (Ⅹ)<CB'(Ⅹ)

RA‑α1・Ⅹ1+α0 ( 5 )

RB‑β1・Ⅹ2+β0 ( 6)

α1,β1:A 及 び B の成果 に対す る金銭的報酬率 ( 誘因の強度)

この ときプ リンシパル及びエイ ジェン ト A , B の期待効用 は,それぞれ次のよ うにな る。

EUp‑V l・E(Ⅹ1)+V 2・E(Ⅹ2)‑( ERA+ERB) ( 7) EUA‑P・EU ( RA ,S H,CA) +(1‑P)・EU ( RA ,SL ,CA) ( 8) EUB‑ (1‑P)・EU ( RB ,S H,CB)+P ・EU ( RB,SL ,CB) ( 9) ここで, P‑Prob (Ⅹ1 > Ⅹ2)‑Prob (f(a)+e l> f (b) +82)‑G

[f(a)‑ f(b) ]で あ り, Gは 82‑81 の分布 関数,Vi(i‑ 1 , 2)は A, ‑Bの産出す るアウ トプ ッ トの ( 社会的)限界生産物価値である。

3

) ここでの非金銭的報酬には,金銭的報酬 としての性格を有 しているもの,例えば,

ゴルフの会員券の利用 とか交際費の使用権限等が含まれない。

(7)

人的資源管理 にお ける非金銭的誘因の効果

したが って,プ リンシパル問題 は以下のように記述で きる。

maxi mi z e CEp‑EUp s ubj e c tt o

a∈arg max CEA b∈arg max CEB CEA≧ 0

CEB≧ 0

215

伽)

( 川 R n 蛋

( 1 3 ) ( 1 4 ) ここで, CEp , CEA , CEB はそれぞれ プ リンシパル,エイ ジェ ン ト A , B の確実同値である。

ところで,上式か ら明 らかなように効用関数 は移転可能 ( t ras f e r abl e ) な形 態であるか ら,上記問題 は次の問題に置 き直す ことがで きる

4)0

maxi mi z e L=CEp + CEA + CEB s ubj ec tt o

a

E

ar ' g max CEA b∈arg max CEB

( 2) 非金銭的誘因の金銭的誘因への影響 前記定義及び仮定 より,

L‑V l ・f(a)+V 2・f(b)‑CA (a)‑CB (b)+AS ( 1 8 ) CEA‑a l ・f(a)+a0+G[f(a)‑ f(b) ]△S‑CA (a) ( 1 9 ) CEB‑β1・f(b)+β0+[1‑G]△S‑CB (b) eO ) ここで, g :82

81 の確率密度関数 ‑G' , △S‑SH‑SL , SL‑ 0 ( 基準 化)

であるか ら,最適解 は次式を満たさねばな らない。

∂CEA/ ∂a‑α1・f'+g・f' ・ △S‑CA'‑ 0

∂CEB/∂b ‑β1・f'+g・f'・△S‑CB'‑ 0

4 ) この定式化の詳細については Hol ms t r om andMi l gr om ( 1 990 ) 参照

(8)

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商 学 討 究 第 4 4 巻 第 4 号

∂L/∂a‑V l ・f'‑CA' ‑0

∂L/∂b‑V2・f'‑CB' ‑0

これを解 くと

α1‑V1‑g[f(a)‑ f(b) ] ・ △S これか ら,次の定理が導かれ る。

定理 1

Q 5 )

非金銭的誘因が存在す るとき,最適契約 においてプ リンシパルがエイ ジエン 卜に提示す る金銭的誘因の強度 ( 幸 踊肝係数) は,金銭 的誘因のみ

また,定理 1か ら直ちに次の系が導出され る。

非金銭的誘因の増大 に伴 い,金銭的誘因の強度 は低 くな り, プ リンシバ

証明 :∂α1/ ∂ △S‑ 一g< 0,

∂EUp/ ∂△Sニー(∂α1/ ∂△S)・f(a)‑(∂β1/ ∂ △S)・f( b) > 0

(3)

異種混交性

エイジェン トが同質の場合 は,基本的にはあ りえない ことであるため,エイ ジェン トの属性,能力が異なる場合にどのような誘因 システムを設計す るかば 大 きな課題である

そこで,まず,同質でないエイジェン トの努力水準がどの よ うに決定 され るかを検討 してみる。いま,簡略化のためエイジェン トの産出 す るアウ トプ ッ トは同質で,同 じアウ トプ ッ トに対す る報酬 は同 じ,また測定 誤差 の性格 も同 じ,すなわち, V l‑V 2,α1‑β1‑α,α1‑C2 と一 仮定 す る。す ると,式e l ) より

f'(b) / f'(a)‑CB'(b) /CA'(a) e 6 )

(9)

人 的資源管理 における非金銭的誘 因の効果

217

ところで, a > b とすると,仮定より f'(b)/ f'(a) < 1,

‑万, CB'(b)/ CA'(a)‑ [ CA'(b)/CA'(a)]・[ CB'(b)/CA'(b)]

>1 となるか ら, f'(b)/ f'(a)≠CB'(b)/CA'(a) とな り矛盾。 した が って, b <a 。 これか ら,系 2 が導かれる。

最適契約 においては,生産性の高い羊イ ジエン トの努力主準 は低 いエイ

次に,エイジェン ト間の能力格差が雇用者であるプ リンシパルの期待効用にい かなる影響を与えるかを考察 してみよう

EUp‑Ⅴ [f(a)+ f(b)]‑ α[f(a)+ f(b)]‑(α 0+ β 0) よ り,

∂EUp/ ∂a‑ g ' ・f' ・ △S[f(a)+ f(b)]

g ・ △ S・f' 07 ) ここで, g'‑一 g/ 20 12・[f(a)‑ f(b) ] を利用すると

∂EUp/ ∂a‑ g・f '・ △S[1‑(1/ 202 )[f2 (a)‑ f2 (b)] ] e 8 ) したが って, 0≦ f2 (a)‑ f2 (b) ≦ 2c T2 な らば, ∂EUp/ ∂a≧ 0 これより,次の定理が求め られる。

定理 2

干イジュン ト間の能力格差 ( 異種混交性)が一定の範囲にある場合に は, 最適契約下におけるエイジュン トの努力水準の増大 はプ リンシバ: ルに便

( 4) 代理評価の機能

政府等の公的組織の業績 は,米 ・英両国での政府部門‑の業績給導入に際 し

て議論になったように何が成果 ・業績か という問題 とともに,公共の福祉増大

といった抽象的な目的か ら定量的で操作的なアウ トプッ トレベルの業績指標を

(10)

2 1 8 4 4 巻 第 4 号

いかに求めるか,また,その指標をいかに測定,評価す るか という技術的な課 題 を有す る。現実の業績指標がプロセスにかか る指標 に特化 しているとの指摘 は数多いが,アウ トプ ッ トの測定困難性を勘案す ると,ある意味で致 し方ない 部分 もある。特 に,公務員の人事考課で批判 され るのはメ リッ ト制を原理 とし ているに もかかわ らず,評価項 目のほとんどは努力の程度 と潜在的能力に関す

るもので業績を明示的 に評価対象 に しているの はきわめて少 ない

5)

とい う点 である。それでは,現行実務で多いプロセスによる業績の代理評価 は全 く効果 がないのであろ うか。

ここでは,非金銭的誘因の重要な要素である昇進がアウ トプ ッ トで規定 され る場合 と努力水準で規定 され る場合を比較 してみよう

標準的な代理人理論で はプ リンシパルはエイジェン トの行動,努力水準を観察で きないとされるが, 前述 した とお り我が国では努力水準のかな りの部分 は管理者 による日常的監視 にさらされている。 したが って, Kanemot oandMacLeod にあるようにエ イジェン トの努力水準 は,完全 に観察可能でないに して も一定の測定誤差を前 提 にすれば測定可能 とみな してよいであろう

すなわち,エイ ジェン ト A, B それぞれの努力の観察値 a l ,b lは真の努力水準 a , b と撹乱項 ∂1 ,∂2 の 合計で示 され るとす る。 また,アウ トプ ッ トの場合 と同様に撹乱項は,相互 に 独立で正規分布 ( 平均 0 ,分散 02 i , i ‑ 1 , 2) に従 うとす る.す ると, アウ トプ ッ トによる非金銭的誘因決定モデル と同 じ論理 によ り,プロセスによ る非金銭的誘因決定モデルは次のように記述で きる。

maxi mi z eL‑V l ・f(a)+V 2・f(b)‑CA‑CB+ △S Q9 )

s ubj ec tt o

aEargmaxCEA‑a l ・f(a)+a0+H( a‑b) ・ ASICA (a) ( 3 0 ) bEargmaxCEB‑P l ・f(b)+BO+lllH]・AS‑CB (b) ( 3 1 ) ここで, H は ∂2‑∂1 の分布関数であ り,その確率密度関数 は h である。

5 )公務員の人事考課で明確 に業績要素を考慮 しているのは例外的であ り, ほとん どは 正確性,迅速性等の能力要素を業績 とみな して評価 している。また,仕事の内容 に

よる差異 はな く企画部門 も事業部門 も同 じ一般的な評価項 目とな っている。

(11)

人的資源管理 における非金銭的誘因の効果 2 19 これを解 くと

al‑V 1‑h( a‑b) ・ AS/ f'<V l ( 3 2 ) とな り, この場合 も最適契約においては,金銭的誘因のみの場合 より金銭的誘 因の強度 は低 くなる。また,エイ ジェン トは同質,アウ トプ ッ トに関す る報酬 率,価値が同 じで,かつ,固定報酬部分が同 じとす ると,プ リンシパルの期待 効用の差 ( アウ トプ ッ ト基準 とプロセス基準の差)は次式で示 され る。

EUp (o)‑EUp (p)‑K‑△S[ g(0)・f(al)‑ f(a2)・h(0)

/ f'(a2) ] ( 3 3 )

ここで ,a l ,a2 は,それぞれアウ トプ ッ ト及びプロセスによる非金銭的誘因 決定における最適契約下のエイ ジェン トの提供す る努力水準である。

仮定よ り g (0)‑ 1/ 2gE J言(Ue‑c T) , h(0 ) ‑(1/ 206 √京) である か ら,

K>‑< 0 三 三 06>‑<[1/f '(a2) ] ・[f(a2)・U/ f(al) ] 髄)

もし, エイジェン ト A,B が同質的 ( homoge neous ) な らば ,al〜a2‑a , f(al) 〜 f(a2) , f'(al) 〜 f'(a2 ) とな るか ら, K>

< 0

三三 cT6

>

‑<U/ f'(a)

以上 より,次の定理が導かれる。

定理 3

エイ ジエン トが はば同質で ある場合 には,アウ トプ ッ ト ( 成果)の測定

困難性が一定限度 (

U

*‑0 6 .f'(a) ) を超え ると, プロセス ( 努力水

(12)

220

商 学 討 究 第 4 4 巻 第 4 号

3. 事例 と政策的含意

( 1) 事例

第 2 節での一般 モデルが具体的 にどの よ うな意 味を有 して いるかを知 るた め,まず,簡単 な事例で上の結果を検証 してみ ることにす る。

いま, f (a)‑ a ,CA (a)‑ a

2/

2 , f (b)‑b ,CB (b)‑b

2/

2 とす ると, f' ‑ 1 , f" ‑ 0 ,CA'‑ a ,CA' ' ‑ 1 , CB' ‑b ,CB' ' ‑ 1 と な り,先の前提条件を満たす。す ると,前節 と同様の計算

を行 うことによ り,

α1‑V 1‑g( a‑b) ・ △S,β1‑V2‑g( a‑b) ・ △S , EUp‑g( a‑b)・( a+b) ・ △S‑(α0+β0)

が導かれ,また,

aEUp/aa‑lg'( a‑b)・( a+b)+g( a‑b) ]AS

‑[1‑( a

2

‑b

2

) / 20 ̀ 1

2

] ・g( a‑b) ・ △S

となる。 これか ら,最適契約下 におけるエイ ジェン トの努力水準の 自乗差がア ウ トプ ッ トの測定誤差の分散の 2 倍以下 にある場合 には,エイ ジェン トの努力 水準の増大が プ リンシパルにとって便益 の増大を もた らす ことになる。すなわ ち,定理 2 で示 されたよ うに,測定誤差が小 さい場合 にはエイ ジェン トは同質 であることがプ リンシパルにとって好都合 とい うことになる。

( 2) 政策的含意

これまでのモデル分析か ら得 られ る政策的意味を整理す ると,以下の 3 点 に 集約 され る。

ア.国民性 ( nat i onalcul t ure) と報償 システム

本モデルでは非金銭的報酬 ( その格差 を △S で示 した) は,組織を経営す る

プ リンシパル及 び構成員 たるエイジェン トの双方 にとって所与 の もの,すなわ

ち,外生的な もの と仮定 されている。 したが って,非金銭的報酬 は組織及び個

人の統制範囲を超えた社会的規範 によ り規定 され る一種の国民性を反映 した も

(13)

人的資源管理における非金銭的誘因の効果 2 2 1 のと解することができる。定理 1 の結果によれば, △S が大 きくなるほど金銭 的報酬 とエイジェン トの業績の関係を弱めることがプ リンシパルにとって望 ま しいことになる。 換言すれば, 非金銭的誘因により鋭敏な国民文化 ( 社会規範) は,その鋭敏性が低い場合よ りも金銭的誘因の報酬強度 は低 くなる ( 賃金格差 は小) という推論が成立することになる。 この推論 は,管理者,特に社長 と一 般社員 との給与格差が我が国よ り米国で はるかに高い6 )とい う事実 とも一致 す るが,国民性 と雇用 システムの詳細な比較研究が更に必要であろう。また, この結果は,昇進誘因を潜在的誘因 として現在業績に対する明示的誘因 と区分 して,最適契約においては潜在的誘因指向が高いとき明示的誘因は低 くなると い う前述 した Gi bbonsandMurphy の結論 とも一致 している。彼 らは昇進 誘因 も金銭的誘因の別の形態 と仮定 しているが,本モデルのように昇進に伴い 全 く報酬ア ップがない場合 ( 我が国公務員の賃金体系は正にその典型である) で も昇進指向が高い時には,当期業績 と賃金 との関連を弱めることが合理的で あることに留意すべきである。

ィ.人事考課 ( 評価)制度

我が国の人事考課,人事管理の特色 としては,最近見直 しが盛んであるが, 伝統的に遅い選抜を背景に した金銭報酬格差が小 さいこと及 び評価が業績より 能力,態度 中心であることが挙げ られ る。中部産業連盟 ( 1 99 3 ) による最近 の企業に対する調査 によると ,40 才 における年収差 は約 1 00 万 円程度であ り, 平均年収7 00 万円の 1/ 7 にす ぎない。公務員の社会では,筆者による調査で は 5 0 万未満の自治体が全体の約 7 割を占めている。それで も,官民 とも労働者 の昇進意欲が高い

7)

のは,金銭的誘因よ りも非金銭的誘因が仕事の動機付 け で大 きいことを窺わせる。 このことは,人事管理において賃金管理以上に昇進

6)Phi l l i ps( 1 9 9 0 ) によると,米国では生産労働者と最高経営責任者 ( CEO) の年 収格差は 1 9 8 8 年で 3 6‑9 0 倍にも達 したという。我が国ではせいぜい十数倍の水準

と推定される。

7 )民間部門では 21 世紀 HRM ビジ ョン研究会 ( 1 9 9 3 ) によれば 「 昇進などで同期に 遅れをとりたくないと思っている」者は 6 2 . 4 % であり,公務員では筆者の調査によ

ると昇進したい者は 6 8 . 1 % となっている。

(14)

2 2 2 4 4 巻 第 4 号

管理が重要なこと, とりわけ,評価の公平性を確保す ることが高い動機づけを 維持す る上で必須であることを示 している。アウ トプ ット指向の業績主義によ る昇進管理 は科学的かつ合理的であることは事実だが,それを実務へ適用 しよ うとす ると前述 したような測定の困難性を伴 う

たとえ測定可能 として も,教 育八の業績給導入で常に問題になるように業績のうち労働者の統制可能性を超 え る要素をどのように除去す るか とい う問題に直面 し,評価を行 う管理者にあ る程度の裁量を与えざるを得ない。 これが評価への懇意的介入をもた らし,刺 皮. ‑の不信を醸成す ることは米国での経験

8)

が教え るところである。す ると,

「 非科学的」な努力, 能力重視 による昇進管理が業績中心管理よ りも 「 公平性」

を維持でき,結果 として業績向上を実現 している限 りシステムを変化 しようと す る誘因は労使 とも生 じないであろうと考えてよい。実際のところ,第二次大 戦後の我が国のように追いっ くべ き目標がある場合には,努力をすれば必ず業 績が上が り,それに伴いポス トも増加 したか ら,従業員をなるたけ長期間にわ た り高い努力水準を提供するようにする遅い選抜方式 は経済的合理性を有 して いた訳である。また,公的組織では業績測定 自身が困難であったか ら自ず と態 皮,能力中心の評価 とな らざるを得なか った。そ して, この経験的事実は,定 理 2 で示 されたように雇用者の選択 として合理的なものであった。業績主義管 理の測定上の問題 については, Ba ke r( 1 9 9 2 ) が不適切 な業績指標を採用す ると, ・た とえ業績指標が上昇 して も組織業績がかえ って悪化す る可能性を指摘 しているが, これ も本モデルと共通す る論理である。

ただ,今 日では公的組織,民間組織 とも,やみ くもに努力すれば業績が上が る,つまり,作れば売れる,公共施設をっ くれば社会的便益の方が社会的費用 よりはるかに大 きいあるいは住民全員に歓迎 される政策, とい う現象 は起 こり 難 くなっているため,業績主義管理を人事管理にも徹底 してい く必要がある。

8)

個人別の業績給では,全て定量的な指標で業績が評価 されない ( で きない) ことか

ら,管理者 に評価の裁量を認めることにな り,組合幹部 は職種,アウ トプ ッ ト,年

功及 び集団生産性 といった客観的な評価 に基づ く報酬方式の方を好むとされ る。詳

細 は Bal l ouandPodgurs ky( 1 9 93 ) 参照。

(15)

人的資源管理における非金銭的誘因の効果 2 2 3 しか し,・ 業績主義によって も我が国では非金銭的誘因が金銭的誘因よ り大 きな 影響を有 していると想定 されるか ら,最近話題 になっている年俸制導入 とか業 績給の強化だけでは労働者のやる気を引き出す ことは困難 と思われ る。業績基 準でいかに公平に評価 して,昇進決定,選抜を してい くかが重要である。1 前記 分析で明 らかにさ‑ れたように,非金銭的誘因の影響が卓越す る者 に金銭的誘因 の強度 を強めることは,最適水準以上 の金銭的誘因を与え ることにな り,か え って雇用者の便益を損な うことにな りかねないか らである。社会学者,産業 心理学者の理論及 び実証研究 ( Baron ( 1 9 88 ) ,Runc i man ( 1 9 6 6 ) ,Bal l ou andPodgurs ky ・( 1 99 3 )参照)によれば,組織構成員の評価受容性 は同 じ等 級 ( 職位)内での差別化よ りも昇進等による差別化の方が抵抗感が少ない とい

う。 、

ウ.組織風土 ・文化

我が国は単一民族国家ではないが,他国に比 して均質な労働力を擁 している

のは事実であ り,高等教育の普及 とあいまって質の面で も優れた厚みを有 して

いるO これが高度成長を支えた一因であるが,本分析で もプ リンシパルの便益

増加 はエイ ジェン トがある程度均質である場合にのみエイ ジェン トの努力水準

の上昇 に伴い生 じることが示 されている。そ して,均質性の有利性 は非金銭的

誘因を考慮 して も,Nal e buf fandSt i gl i t z( 1 98 3 )が完全競争の労働市場で

金銭的報酬のみに限定 した場合に示 した 「 競争 は参加者全員が同質であるとき

最 も効果的である 」 ことと同様,維持 され ることが明 らかにされた。 この こと

は,「 会社主義」 と称 され,勤務時間以外 において も協調性が重視 される我が

国の雇用政策が,少な くとも企業にとっては最近 まで 「 合理的」であった こと

を理論的に説 明 し七いる。 表向 きは「 覇気 ある人材を求む」として も実際は 「 金

太郎飴」のような 「 従 順な秀才」タイプが好んで採用されたの も,学歴社会の

弊害を無視すれば企業論理 に したが った結果 ともいえよう

官僚制で試験区分

を設けて採用時に厳格な選抜を行 うのは,以後の業績管理の困難性を入 り口の

能力評価でス クリーニ ングを して , 「同質的」な人材集団内部で競争 させ るも

の ( すなわち,‑ ンデ ィ付 き競争) と解せ る

弊害を指摘 されなが らも管理職

(16)

224

商 学 討 究 第

44

巻 第

4

昇進を筆記試験等で決定す る人事政策が都市部の 自治体で継続 しているの も業 績測定の技術的困難性回避及び評価の 「 公平」確保 とい うメリットの他,筆記 試験 による 「 能力」が昇進後の業績,発揮能力 と一定の関係があるとい う人事 管理者側の経験

9)

を踏 まえた もの と思われ る。実際,筆者の調査では,欧米 社会学者 らの指摘す る業績主義管理 による負の効果,すなわち,昇給 ・昇進格 差により,やる気をな くした り,非協調的行動を取 る者 は少ない (1割未満)0

したが って,潜在的能力により一定の質を選抜す る方策 は,不明朗な業績評価 による昇進管理よ りも労使 ともに「 合理的」と評価す る工夫 といえる。ただ し, 定式化か ら明 らかなように同質性のメ リッ トは,アウ トプッ トの同質性を前提 に しているため,官僚制改革の方策 として八代 ( 1 99 3 ) らの主張す る省庁間 競争 による効率改善 には,人事の対等性確保だけでな く政策,行政サービスの 類似性が必要なことを忘れてはな らない。その意味で競争か協調かの選択 は, I t oh ( 1 99 2) らが分析 しているように,生産及び費用における外部性の程度 に依存 し,一意的に決定で きない ものである

10)0

9

)都市部のある自治体では,20 数年前か ら筆記試験中心の係長昇進試験を若手,中堅 及 び壮年 に

3

区分 して実施 し,若手枠で合格 した者をある意味で 「 幹部候補生」 と

して処遇 しているが,人事管理者の談 によると約 7 割の者 はそれ以降 も順調 に管理 者 として優秀な業績を挙げているという。 したが って,昇進管理が能力中心である

とい う理 由だけで人事管理が効果的でない とは言えない。 もっとら,内部者 による 現在 までの行政活動を基準 に した判断ではあるが。

10)複数業務を協調 して行 うか個別 に競争 的に行 うかの議論 は,最近 までの 日本的経

営,特 に生産 システムの効率性の高 さをチームワーク労働 による協調性 に求め,そ れを経済合理性 の観点か ら説 明 しよ うとす る動 きに代表 され る。た とえば ,

Itoh

(1992)

は生産関数及 び費用関数が各 エイ ジェ ン トの努力水準 の分離関数 と して 定義 され る場合 には協調 的な業務分担 が最 適 で あ ることを示 して い る。一方, Hol ms t rom andMi grom

(199

1 )は生産関数及 び費用関数が各エイ ジェン トの 努力水準の和で表 され る, すなわち,イ ンプ ッ ト間に完全 な代替性 を仮定 して,チー ム ワーク労働が決 して最適 にな らないとい う全 く正反対の結果を導いている。 この 対照的な結果 は,生産及び費用 において外部性をどのよ うに勘案す るか とい う前提 条件 により生 じるものであ り,彼 らの主張す るよ うな競争,協調の一方 的優位性 は 現実 には起 こらないことに留意すべ きである。 この議論の詳細 については別稿 に譲

た い。

(17)

人的資源管理 にお ける非金銭的誘因 の効果

225

4. 結論と今後の課題

本稿では,非金銭的誘因の報償 システム及び組織効率に及ぼす影響を考察 し たが,その結果,最適契約下では, 1) 非金銭的誘因の存在 は金銭的誘因の強 度を低 くす ること, 2) 非金銭的誘因の強度が大 きくなるほどプ リンシパルの 効用 は増大す ること ,3) エイジェン トの能力格差が一定の範囲にある場合 に, エイジェン ト間の競争 によるメ リッ トがプ リンシパルに生 じること, 4) プロ セス基準による昇進決定方式 もアウ トプッ トの測定が困難な場合 には,一定の 条件下でアウ トプッ ト基準よ り効果的であること,が明 らかにされた。

もとより,本モデルには リスク中立性等の強い仮定が置かれているため,覗 実問題 に即座 に適用す るのは慎重であ らねばな らないが,国民性を色濃 く反映 している非金銭的誘因 ( 及び動機付けへの相対的強度)により,報酬 システム が各国で異なっていることを説明す る一つの説明理論にな り得 ると思われ る。

ただ し,い くっか残 された課題 もある。 リスク中立の前提条件を リスク回避 に変更 した結果は 〔 補足〕で示 したが,‑定の条件付 きで上記結果 は成立す る と推察 される。本質的な問題点は,組織及び構成員双方にとって外生的とした 非金銭的誘因が組織 によって操作可能な場合があることである。課長,部長に なれば種々のフリンジ ・ベネフィッ トが与え られるが, この うち非金銭的なも の ( 権威を象徴する机の大 きさ等の専有面積の拡大など)に限定 して も経営者 の裁量で変更可能な場合 もある。 この場合には,外生的ではな く内生的な処理 が必要である。また,単期間モデルに限定 したが,多期間モデルへの拡張 も行 わねばな らない。昇進等が決定 した以降の期間で人事の逆転,敗者復活戦が行 われないな らば, 非金銭的誘因の影響 は失われるか らである。その結果, 昇進, 選抜後の金銭的誘因が従前よ り強 くすることが必要 になると推察 され る。 さら

に,同質性の組織効率への貢献を明 らかに したが, これは財,サ ービスの生産

構造が安定化 している場合に成 り立っ ものである。組織 は常 に外部環境の変化

を先取 りした り, これに対応 してい くものであることに着 目すると,構成員の

異質性が業務革新を引き起 こす源であることに配慮する必要があろう

ル ーチ

(18)

226

商 学 討 究 第 44 巻 第 4 号

ン業務の生産能力が同僚に比べ劣る構成員で も商品 ・サービス企画に優れてい ることはあるか ら,かかる異能者 と通常者 とを区別 した人事管理のあり方に関 する検討がなされねばな らない。

なお,本稿は平成 5 年度文部省科学研究費補助金 ( 一般研究 (C ))の交付 を受け実施 した研究成果の一部である旨を申 し添えてお く

〔 補足〕

<エイジェン トが リスク回避な場合 >

生産関数の撹乱項 ei(i‑ 1 , 2)が小さい場合には

EU( RA, SH, CA)‑U(αf+a0‑CA+SH‑ 1/ 2・rA ・a2・c T12 ) が成立す る。

また, リスク回避の効用関数 として, U ( Z) ‑J 官 とお くと EUA‑P・ EU ( RA ,SH ,CA)+(1‑P)・EU ( RA ,SL ,CA)であるこ

とより,リスクプレミアム β1 は pl‑p(1‑p) ・( J盲 了一石 巧 )2 となる。

ここで,Ⅹ1‑a ・f+a0‑CA+SH‑ 1/ 2・rA ・a2・c T12 ) yl‑α・f+a0‑CA+SLl l/ 2・rA ・α2・012 ) したが って,CEA‑p ・Ⅹ1+(1‑p)・y1‑pl

同様に して CEB‑(1‑p)・Ⅹ2+p ・y2‑β2

ここで,Ⅹ2‑β・f+β0‑CB十SH‑ 1/ 2・rB・β2・α22 ) y2‑β・f+β0‑CB+SL‑ 1/ 2・rB・ β2・022 )

た ,

CEp‑(V 1‑α)・f(a)+(V 2‑β)・f(b)‑(α0+β0) したが って,プ リンシパルの問題 は, リスク中立的な場合 と同様

maxi mi z eL‑CEp+CEA+CEB s ubj ectt o

a∈argmaxCEA b∈argmaxCEB

いま,簡略化のためA , B が同質 と仮定す ると, p ‑ 1/ 2,Ⅹ1‑Ⅹ2,yl

‑y2 , α‑β ,

(19)

人的資源管理 における非金銭 的誘因 の効果

227

V l‑V2‑ Ⅴ ,c Tl‑c T 2‑ a, CA‑CB‑C となるか ら,第一次条件

∂CEA/∂a ‑ 0 , ∂L/∂a‑ 0

よ り, α‑[( Ⅴ一g ・ △S)+f/ f'・( D‑ 1)・∂α/∂a]/

[1+ru2D/ f ' ・∂α/∂a]

D‑一g・f'・△S/[α・f'‑C' ] ところで,先の第一次条件 より

∂α/∂a‑CA' ' / f'‑ f' ' / f' 2・CA+g ・ △S/

[1+K/ 4]2・1/ 4・∂K/∂a K‑ [ J 盲i ‑J f i] 2 /J xl ・y l

一方 ,∂K/∂a

‑[ J 盲i ‑ J す i] 2 /Ⅹ1・y l ・(α・f'‑CA' )

‑ 1/ 2・(Ⅹ 1 ・yl)3 / 2・(Ⅹ1+yl ) ・( J盲 了‑ J す i)3 ・

(α ・f' ‑CA' )≧0

∂α/∂a≧0

したが って, △S

*

‑ f( D‑ 1) /(f'・g)・∂α/∂a ( > 0) とお くと,

△S ≧ △S

*

の条件を満たす,すなわち,昇進等による非金銭的誘因の効用格差が大 きい場 合には, α≦Ⅴとな り, リスク中立的な場合 と同様,最適契約下 において金銭 的誘因の強度 は,限界生産物価値より低 くなる。

なお,非金銭的誘因がない場合 は K‑ 0, D‑ 0となることか ら

α‑Ⅴ/[1+( rA ・α2 / f' )・∂α/∂a] であ り, もし,生産関数が線形 (f‑a) であれば a‑Ⅴ/[1+rA ・02・cA' ' ]

この とき ,∂α/∂α2 ≦ O, ∂α/ ∂rA ≦ 0 とな り,金銭的誘因の強度 は測定 困難性が増す ほど,また, リスク回避度が高まるほど低 くす ることが最適であ

るという金銭的誘因のみを考慮 した分析結果 と一致する。

(20)

22 8 44 巻 第 4 号

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