貨幣資本の運動 と生産諸力お よび 生産諸関係の物象化
高 倉 巻 夫
Abstract
Moneycapitalflowsallovertheworldinseekinghigherrevenuefrom industrialcapitalbysuppressingmanagersofindustrialcapitaltoearn moreprofitusingcontrollingrightsofstock.Butmoneycapitalcan moveinordertogetmorerevenueonlywhentherearedifferencesbe‑ tweenindustrialcapitalsbyeachpowerofproductiontakenbytheir technicalprogress.Pressureofoverfullmoneycapitalcouldhinderef‑ fortofmanagersofindustrialcapitalsinseekingmoreprogressofpow‑
ersofproductionbynurturinglnVentionandtechnicalprogress.The coreofcorporategovernanceliesinthisinnovationthatcanglVeaCOr‑ porationdependency.
Keywords::powersofproduction,moneycapital,corporategover‑ nance,reificationofproductionrelations
はじめに
資本制生産の発展 においては,金融主導型成長体制1)あるいは金融浸透型 成長体制の もとて も生産諸力の発展がその基礎 になる。 この金融主導型成長 体制あ るいは金融市場資本制2)の下では,G‑G′とG‑G′のかみ合わせが生 産諸力の発展 につながる ところのあ り方が,資本制経済の新 しい様相を見せ ている。すなわちそれは生産諸関係の物象化 と生産諸力の発展 との関連が利 潤率の水準 において現れて くる ところで見 ることがで きる。 ここで,G‑G′
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と表現で きる世界市場での貨幣資本の運動はその利得の平準化 を傾 向的にも た らすに して も,それ 自身はむ しろ各国内での G‑G'における独 自性 に根 ざした利潤率の水準の差異に基づ きなが ら,G‑G′としての資本の運動 をお こな う。 この利潤率の差異については,各国あるいは諸企業での生産諸力の 水準の差異が前提 とされる。
なお,生産諸力の発展 に及ぼす G‑G′の G‑G′との関係 についての論述 は,一般的な傾 向 としていえるであろうことであ り,そのまます ぐに結果 と
して現れる過程ではい くつかの条件が必要である。
1)金融主導型成長体制 については,BenjaminCoriat,PascalPetitandGenevieve Schmeder(eds),TheHwdshipofNations, ‑ ExploringthePathsofModernCapital‑ ism,Northampton:EdwardElgar,2006,の諸論文を参照。
2) ヨアヒム ・ビシ ョフはそれを 「金融市場資本制」 と名づけている。Joachim Bishoff, ZukunftdesFinanzmarkt‑Kapitalismus‑ Struktuylen,WlldersPruche,Altemativen,Ham‑
burg:VSA‑Verlag,20060
1 物象化による転倒 された企業評価 とその世界的関連のもつ 意味
現在の資本制経済の もとで も平均利潤率の形成におけるような競争 におけ る物象化の機構が存在す るもとで,そ こに貨幣資本の過剰が存在する とき, この貨幣資本の運動 (G‑G′)が広がってい く中で,企業価値の比較 におけ る尺度の平準化あるいは企業価値 が平準化 され うる傾向において物象化構造 の世界的な関連を見 ることがで きる。すなわち,その ことは19世紀後半ある いは20世紀初頭の株式流通市場の形成時およびそれ以降に存在 した利子率を 介 しての株価 におけ る企業価値の比較可能性 とは次元を異 に した G‑G′の G・・・G'への浸透 とその絡み合いの もとでの物象化の新たな進展であ り,その もとでの生産諸力 と利潤率 との関連における各国 ・各企業の独 自性 ・差異の 重要性の増大 として とらえることがで きる3)0
すなわち拡大す るグローバ リゼーシ ョンの もとで,世界的規模で貨幣資本 の運動 そしてその収益における平準化傾 向が進む ことにな りうるが,その よ
うな資本 一利子そ してさ らには収益 とリスクの関係での考量 によって表現 さ れる物象化が世界的規模で同時平行的に進んでいるもとで,そのような平準 化傾 向はその運動の基盤である生産諸力における差異の重要性が際立たせ る こととなっている。資本移動が世界的規模で瞬時に行われる時代では,貨幣 資本の運動対象を均等化 しうる傾向が一般化するのに対 して, この ような貨 幣資本の移動の もとでその基盤 となる実物資本の側に対 しては,貨幣資本そ の もののような一様化が容易に行われるわけではない。技術進歩が加速 しま た拡延 してい くなかで,む しろ実物資本の側で独 自性 を持つ ことは,それぞ れの国の個別諸資本の競争力あるいは生産諸力を高め ることで もあ る。すな わち, ここに企業統治の重要性が注 目されることにな る。それは技術が一般 化あるいは平準化傾向を持つに して も,かえって独 自性 をもつことが要請 さ れる。
上に述べた ように,企業内部での生産諸力の上昇 とそれが資本 一利潤 とい う生産諸関係の物象化にいたる過程での,現実資本の側での生産諸力の担 い 手である労働者の集合力の独 自性がそ こで重要 になる。世界貿易の拡大や資 本移動の迅速化のなかで,独 自の競争力を持つことが,各個別資本に とって も国民経済 に とって も重要である とい うことは,まさにこの集合力が独 自の 生産諸力 として顕現 して くることが重要だ とい うことで もある。
この ような社会的分業のなかでのそれぞれの企業における生産諸力の独 自 のあ り方において,そしてその生産諸力が資本 一利潤の範式の表現を得 るま での過程 において,個別諸資本の企業統治の根拠 をみ ることができる4)0
同時 に,企業統治 (コーポ レー ト ・ガヴ ァナンス)の基礎 が,企業の競争 力であ り技術革新の能力である と考 える とき,G‑G′におけるリスクはそれ と結びついてお り,資本制経済 を成 り立たせる基本的な もの といえる。 この ような資本制生産 での競争 において,そ こでの個別資本の優劣を決定するの
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は基本的にはその内部 における生産諸力の水準である。そ して,それは労働 者の集合力5) (Collectivkraft)の側面をもつ . 一対一の個別的な契約関係の 単なる累積 とは全 く違 って,それ以上に生産話力を大 き く上昇 させる効果を 持つのは,生産諸力の発展 において労働者の集合力 としてG‑G′の中でそ の力が発揮されているからである。生産諸力の発展 には技術進歩が特 に重要 であるが,この労働者の集合力の面 も重要である。
機関投資家に見 られるような貨幣資本の運動(G‑G')は,ある国における 株式会社である諸企業の利潤率の差異にしたがって,それ らの諸企業の株式
に対 してその運動の運動対象 とする。 この場合,資本調達の意味を必ず しも 持つことは必要ではない。支配証券 としての株式の所有がそこでは重要であ る。投資に対する資本調達に対 して機関投資家の証券投資が重要であるとい うよりは,貨幣資本の運動の成果を資金の提供者に対 して生み出すことがそ の貨幣資本の運動の担い手に とって重要である。そ して,現実資本の運動の 側 (G‑・G′)での利潤率の水準が,配当性向 とともに重要なのであるか ら, この利潤率の高 さを生み出す現実資本の側の生産様式は一様でなければな ら ない ということにはな らない。 この貨幣資本の運動 と現実資本の運動 との関 係において各国の資本制の独 自性を見 ることがで きる。
ここにおいて現実資本の側での,各国あるいは各企業のあいだでの差異あ るいは独 自性が存在することが可能なのであ り,まさにそのことが各国の, そ して各企業における生産性の高 さとの関連が問われることになる。すなわ ち,その ことは各国の生産諸力の構造を見 ることで もある。
もちろん,それには雇用構造や分配諸関係 も関連 して くる。すなわち,秩 式を通 じた支配関係 と,企業における株式による資本調達あるいは資本蓄積 との直接的な結びつきが弱い とき,企業における長期的な利潤の増大を貨幣 資本家が領導すること,あるいはその ようになるように現実資本の運動を領 導することとが必ず しも一致 しているわけではない。そして,利潤の配分 と
資本蓄積あるいは生産性の上昇について も,貨幣資本の運動の側 (G‑G′)
が現実資本の運動の側 (G‑G′)の直面する諸条件を的確に見通 して支配株 主 としての権利を行使するとはいえないであろう。
経営者はG‑G′における物象化の構造 とG‑G′か らの物象化の作用 との 接点に位置 している。あるいは,この二つの面か らの物象化構造の接合点に 経営者は位置 してお り,同時 にG‑G′における リスク とG‑G′か らの リス ク とq)接合点にいる。 ここで もし,経営者の報酬 とG‑G′とが株価 を介 し
て結びつきうるような状況あるいは制度が存在するな らば,G‑G′は G‑G′
としての資本の運動を大 きく制約することになる。
貨幣資本 と収益 との関係の世界的な平準化が進む という中で,世界的規模 での資本一利子における生産諸関係の物象化が, リスクと収益 との関連の評 価を基礎に置いている新 しい物象化へ と変化 し, 日日の資本 と労働の関係に 影響を与えている。なお,金融市場における貨幣資本の運動の交錯は,生産 諸関係の物象化の うちの資本‑利子 (そして, リスク‑収益)の世界での交 錯であって,資本‑利潤の世界での交錯その ものではない。
そして, リスク と収益 とにおいて とらえられるより進んだ物象化は,G‑
G′において利潤率の格差 については平準化傾向を促進するもの と考 え られ る。そ して,それはかえって,G‑G′という貨幣資本の運動の基盤 となって いる生産諸力がそれぞれの資本の もとで独 自性をもっ ことの重要性をよりい っそう際立たせることともなっている。
3)グローバ リゼーシ ョン下での資本制経済 を,い くつかの炉型 に分けて分析す る試 み と して以下の研究がある.PeterHallandDavidSoskice(eds),VarietiesofCapitalism,‑
TheInstitutionalFoundationofComPwativeAdvantages,NewYork:oxfordU.P.2001, 遠山弘徳他訳 (第1‑ 5章の訳)『資本主義の多様性, ‑ 比較優位の制度的基礎 ‑ 』 ナカニシャ出版,2007年。あるいは,BrunoAmable,TheDiversityofCapitalism,0Ⅹford:
0ⅩfordU.P.,2003,山田鉄夫他訳 『五つの資本主義 ‑ グローバ リズム時代 における社 会経済システムの多様性 ‑ 』藤原書店,2005年。
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4)企業統治における技術革新の重要性 については,William LazonickandMaryO'Suト 1ivan(eds),CorPwateGovernanceandSustainableProsperity,Houndmill:Palgrave,2002,
を参照。 この見解を援用 しつつ,先 に企業統治の基礎は技術革新 に求め られるべ きこと を述べた,小稿 「物象化 と競争 と企業統治」『経営 と経済』 (長崎大),2006年,も参照。
5)労働者の集合力については,小著 『生産諸関係論 としての経済学の成立』九州大学 出 版会,1989年,276‑277ページを参照。
2 株式会社 と生産話力 ・生産諸関係 ・物象化
G‑G′とい う貨幣資本の運動のあ り方が G・・・G′に対 して,融資や社債発 行な どを通 じての優位ではな く,会社の支配 をつ うじて優位 に立ちまたG‑
G′内部の会計 にも影響 を及ぼす,そ して経営者 が短期的な成果 を求めやす いG‑G′によ り多 くの影響 を受けがち とな る資本制経済 と,G‑G′とい う 産業資本の運動 がG‑G′に対 して相対的に独立 していて G‑G′の独 自性の 維持 に努めやすい資本制経済 とに分けることがで きよう。
その場合,G‑G′を取 り巻 く諸条件 もまたその ような経営の独 自性を支 え る基盤である。た とえば,資本過剰下での支配証券 としての株式所有を中心 とした資本制の編成を図るか,それ ともステークホルダー資本制で行 くか と い うことは,経営者 に とって独 自の生産諸力の発展 を図る上での大 きな要因 であろう。
ここで,資本 一利潤 としての物象化 においては,各国の資本制 における差 異が存在するのであるが,急速な資本移動を背景にして貨幣資本に対する収 益の一様化を 目指す貨幣資本は,その ような差異を乗 り越 えることが容易で ある。すなわち,貨幣資本の側 (G‑G′)での世界市場での運動の,実物資 本の側 (G‑G′)への作用を強めやす くしている。
他方で,各国の資本制 における独 自性の基礎は,それぞれの国の諸企業に おける技術革新の能力や生産性においてだけではな く,それを含みまたその 基礎部分で もあ るような文化的側面やインフラス トラクチ ャーにも及ぶ とい
える。
資本制生産 においては生産諸力の発展は生産手段だけではな く,直接ある いは間接であ ることを問わず労働者 における集合力の発展が重要である。そ の集合力の社会的表現 としてそれぞれの個別企業の利潤率がある。 ここで, 配当可能 となる利潤率の水準があ らか じめ予定 されているな らば,労賃の内 容の実質的な漸減あるいは研究開発費の停滞あるいは漸減が方策 として考 え
られることになる。
6)高寺貞男は 「短期志向機関投資家の下での攻めの会社利益管理戦略
」(
『大阪経大論集』58巻1号,2007年7月)において,「資本市場短期主義」 から 「会社会計短期主義」 とい う形での経営者への機関投資家の行動の影響を見ている (同論文,136‑ 7ページ)。
む す び
以上のように過剰な貨幣資本の もとでの資本制生産をみて くると,世界的 な貨幣資本の運動の広が りと加速化において,資本一収益の評価を通 じて貨 酪資本の運動 は平準化 され うる7)。すなわち,世界的な貨幣資本の運動 にお いて,その運動の基盤はG‑G′における収益あ るいは利潤率であ ることか ら,世界的規模でのG‑G′におけ る物象化の関連の強 ま りは,G‑・G′にお け る収益 に対 す る逆転 した表現 に対す る物象化 のい っそ うの進展 で もあ っ た。 このG‑G′は,一方 で世界的な分業 と交通の発展 に基盤 を置 くもので あ る とともに,そ して 「生産諸関係の物象化の最高度の転倒性」8)の表現 と しての側面を もつ とともに,他方で各国あるいは各企業の生産諸力の水準 を 反映 して運動せざるを得ない こ とも見 えて くる9)。すなわち,金融主導型成 長体制の もとで,G‑G′における物象化の世界的な拡延は,利潤率の水準 を 通 じて表現 される生産諸力の水準の高度化そ して労働者の集合力の独 自性 を いっそ う促進することになる10)。そ してそれは,他方で 「その もの としての 資本所有」が際立つ ようになっている資本制である11)0
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7)貨幣資本の世界市場での運動は,株式会社を資本市場での商品 としての株式の集合体 であるかのような法律的表現を与えるかのようになっている。以下の叙述を参照。
「そ して,新会社法は,会社の団体性を支える最低資本金制度 をあっさ り切 り捨て, 社団概念す らを削除 した。他方,株主権は,多様性 を認める概念 として,これを前提 に した株主平等原則 しか認めないこととして,会社法は投資契約法であることを鮮明にさ せた といえよう。会社法は,団体法 か ら投資契約法 に変化 した といえるかもしれない」
(森 田章 「『企業法入門』を出版 して一会社法は何処へ行 く‑」『書斎の窓』561号,2007 年 1・2月)0
あるいは,「ファン ド化 した株式会社 という認識は,今次会社法が持 っているい くつか の奇矯 な箇所 と合致す る。それは単なる悪意的偶然的な或 る主張の反映であるというよ りは,現実の株式会社の無内容化 ・無概念化の歴史的反映 と見るべ きものであるように 思われる。」 (鈴木芳徳 「投資家像の変貌 と現代資本主義」[信用理論研究学会2007年度秋 季大会 レジュメ 『株主資本主義下の株式会社論の諸課題』所収],11ページ)
8)単数 と複数の区別 とその もつ意義 についての言及はないが,生産諸力 と生産諸関係 に ついては,廉松渉 『唯物史観の原像 ‑その発想 と射程』[三一書房 (新書),1971年,]で はつぎの ように述べている。「生産 という協働的対象的活動‑ これは当然,一定の生産手 段 と労働様式の体系を以って遂行される‑ この動 力学的な相対を,デ ュナ ミス というよ りポテンツの相で措定 した ものが 「生産力」であ り,当の協働聯関を共時論的な構造 と して とらえるとき,「生産関係」 とい う概念が措定 される」 (同書,99ページ)[『贋松渉 著作集』第9巻,岩波書店,1997年,427ページ]。
9)G‑G′および G‑・G′における利潤の源泉 としての差異を強調 しているのが岩井克人で ある。『会社は これか らどうなるのか』平凡社,2003年。および,(聞 き手 ‑三浦雅士)
『資本主義か ら市民主義へ』平凡社,2005年。また,労働者の集合諸力 と関連 して 『会 社は誰の ものか』新書館,2005年,を参照。
10)関連 して,ク リスチ ァソ ・マラッツイ (多賀健太郎訳)「機械 ‑身体の減価償却」『現 代思想』35巻8号,2007年7月,が,固定資産の減価償却 と経済の金融化 との関連につ いて,興味深い視点を提示 している。
ll)小稿 「株式資本 と資本制的所有」『経営 と経済』61巻 1号,1981年,を参照。
(本稿は,科学研究費補助金[基盤研究 (C)]課題番号17530147,による研究成果の一部 である。)