論 説
ドイツにおける労働市場政策改革の現段階
布
川
日佐史
は じめ に
ドイ ツ連邦共和国 において は、「 稼働能力 を有す る生活困窮者」(と りわ け長期失業者 と若年失業 者)への生活保障 システム と就労援助 システムが、2005年まで に大 き く再編 され ることにな った。
す なわ ち、「 活性化」 を基本方針 と して、労働事務所 (Arbeitsamt、 日本 の職業安定所 に相 当)と
社会事務所 (Sozialamt、 福祉事務所 に相 当)とい う二 つの実施機 関を統合 し「 ジョブセ ンター」
を創設す ることと、失業扶助 (Arbeitslosenhilfe)と 社会扶助 (Sozialhilfe)と い う二つの金銭給 付 を統 合 し「 失業手 当 Ⅱ」 を創設 す ることの二 つが、2002年9月 に再選 された現政権 の最優先政 策課題 にあが ってお り、 それ にむ けた法改正 が現在急速 に進 め られて い る。 これ は当該分野 にお け る戦後最大 の機構改革であ るのは もとよ り、 ドイ ツ社会保障体制 の基本 に関わ る再編 を も意味 して い る。
本稿 は、 まず改革 の指針 を示 した「 ハル ッ委員会報告」の概要 と具体化 に向 けた動 きを確認す る。
次 に、改革 の前提 と して、すで に ドイ ツ全国各地 で様 々な実験 が行 われて いることを明 らかにす る。
具体 的 に は連邦労働省 が全 国各地 で行 って い る「 モー ッ ァル ト (MOZArT)プロ ジェク ト」 と、
ノル ドライ ンヴェス トファー レン州 (以下、NRW州 と略記)の「 ソー シャル エー ジェ ンシープ ロ ジェク ト」 に注 目す る。総選挙後 の組閣で、連邦経済相 と連邦労働相 を兼 ね ることにな った ク レメ ン ト氏 こそ このNRW州首相 で あ り、 同州 にお け る取 り組 み を見 る ことは、 今後 の全 国的展 開 を 予測す る上 で とりわ け重要 で あ る。州 プ ロ ジェク トの内容 を概観 し、 その上 で具体例 と して、 ケル
ン近郊 のデ ュー レン郡 にお けるソー シャルエー ジェ ンシープ ロジェク トの実態 を紹介す る。
‑273‑―
第1章
ハルツ委員会報告
1 委員会設立の経緯
フォルクスヮーゲ ン社人事担当取締役ペーター・ ハルツ (Peter Hartz)氏を トップとしたいわ ゆる「ハルッ委員会」設立の端緒 は2002年年頭 に明 らかになった連邦雇用庁の雇用統計 スキ ャン ダルである。連邦雇用庁長官の更迭だけでな く、連邦労働省の機構改革 と労働市場政策の抜本的拡 充のため、 シュレーダー首相は、ハルッ氏を責任者 とする「失業をなくし連邦雇用庁を再構成するため の委 員 会 (Kommission zum Abbau der Arbeitslosigkeit und zur Umstrukturierung der Bundesanstalt fiir Arbeit)」 を2002年2月 22日 に設立 したのであった。 しかし、 シュレーダー首相 がこの委員会に期待 したのは労働市場行政の現代化だけでなく、同年 9月 に予定されている総選挙に向 けた政策アピールでもあった。劣勢であった社会民主党・ 緑の党連合政権は、失業問題 と雇用対策を 選挙の焦点にすえ、 このハルツ委員会に起死回生を託 したのであるヽ
2
提案の主な柱①
労働市場サービスの現代化
2002年8月 16日 にハルッ委員会は現在約400万人の失業者を2005年までに半減するという目標 を掲げた最終報告、「労働市場サービスの現代化 (Moderne Dienstleistungen am Arbeitsmarkt)」
を提出 した。 その報告 は、新 しい労働市場政策 と連邦雇用庁の基本戦略を論 じた部分 と、13の 改 革 モジュールか らなっている。
ハルツ委員会報告の言 う新 しい労働市場政策 とは、基本方針を「積極的労働市場政策 (Aktive Arbeitsmarktpolitik)」 か ら、新たに「活性化する労働市場政策 (Aktivierende Arbeitsmarktpolitik)」
へ転換す るというものである。活性化政策のポイ ントは、①失業者の もつ統合能力 (die eigene lntegrationsleistung)を 重視す ること、②失業者を活性化す る手段―相談、世話、物的保障―に 政策の力点を置 くこと、それによって、③求職側の個々の失業者 と、求人側の個別企業のニーズに それぞれ応 じること、④行政機構を簡素化すること、である。
失業者のもつ潜在的能力に着 目し、それを活性化させるために、対人支援サービスを拡充 しつつ、
金銭的イ ンセンティブを強めるということに基本が置かれている2。
②
ジョプセンターとPSAの創設
ハルッ委員会報告が提起 した機構改革の第1課題 は、 ジョブセ ンターの創設である。求職者 と、
1雇用政策 については、政労使 による「雇用のための同盟」 において、「 ベ ンチマーキ ンググループ」が組織 され、新たな対策を検討 してきていた。 このグループの提案 と、ハルツ委員会報告 との関連については、別 稿を予定 している。
2ョ ̲ロ ッパ各国の活性化政策を比較検討 したものとして、Walter Hanesch(2002)がある。
―‑274‑―
求人企業 へのサー ビス改善 のために、従来 の労働事務所 (Arbeitsamt)の機構 を改革 し、「 ジ ョブ セ ンター」 を地域 にお ける中心機関 とす ると して いる。
重要 なの は ジ ョブセ ンターが、職業紹介や労働市場 に関す る相談 のみな らず、失業時の生活全般 (住居、負債、依存症へ の相談 な ど)に関わる世話 サービスを一手 に引 き受 ける点 にある。 それゆえ、
労働事務所 と社会事務所だけでなく、青少年事務所 (Jugendamt)、 住宅事務所 (Wohnungsamt)、
依存症相談所 などもここに統合 され ることになる。 また、新 たにケースマネ ジャー (Fallmanager) を配置 し、失業者 が抱 え る問題 を総合的 に解決 で きるよ うにす ると して いる。「 ひ とつの手 か らの 援助」 が活性化 のための前提 におかれている。 ケースマネ ジャーが求職者一人 ひ とりの特性 や履歴
に応 じたケアを可能 にす るのであ る。
その上 で、職業紹介担 当者 (Vermittler)は 、 事務 的管理 業務等 をせ ず、 企業 との コ ンタク ト と求人開拓 や、求職者 への就労援助 に専念す る。早期 の紹介が強調 されている。 た とえば、解雇 さ れ る前 に (解雇予告 の時点 で
)、
「 失業者」 は失業情報 を ジ ョブセ ンターヘ登録 し、早期 に職業紹介 を受 け られ るよ うにす る。紹介 に当た って は、家族 のある人 の職業紹介 を優先す る (フ ァ ミリー フレン ドリーな職業紹介)ことな どが提起 されて いる。
ジ ョブセ ンターの設立 と同時に、機構改革の第2課題 と して、派遣事業を行 う「人材 サー ビスエー ジェ ンシー (Die Personal Service― Agenture、 略称PSA)」 を ジ ョブセ ンターに併設す ることが 提案 されて い る。PSAが、 ジ ョブセ ンターに失 業登録 を した人 を派遣労働者 と して派遣 す る こと
にな る。公的機関が派遣元 とな り、パ ー トタイム就労 を拡大 しよ うとい うのであ る。
③
協力義務・ 就労義務
失業者 に対する従来の生活保障給付の見直 しも、ハルッ委員会報告の重要な改革モジュールであ る。まず金銭給付の前提条件 として、斡旋 された就労を受 け入れる義務 と、それを拒否 した際の給 付制限要件の変更が提案 されている。「 自発性 と義務 の関係の転換」であ り、給付 申請者 は協力義 務を負 うのである。紹介 された就労先を受 け入れるかどうかは、 もはや当事者の自発性に任 される のではない。具体的には、受給者 はジョブセンターと「参入協定」を結び、 自己の求職活動を活性 化することになる。
給付 申請者が斡旋 された求人先を拒否で きる条件である「紹介可能性 (Zumutbarkeit)」 の基 準を見直 し、就労拒否を制限すべ きことも提案 されている。求職者 は紹介 された就労先が遠 く通勤 時間がかかるとして も、失業者の家族の状態によっては紹介を拒否できなくなる。また求職者の持 っ てい る資格 や能力 につ いて は、 直接適合 しな くて も関連 ある職種であるな らば
(」
ob―Familie―Konzept)、 就労 しなければな らな くなる。
④
失業扶助 と社会扶助の統合
金銭給付 に関わ って重要なのは、失業保険、失業扶助、社会扶助の 3つ が失業者の生活保障のた
一‑275‑―
めのセーフティネッ トとして機能 している現行 システムの改革が打ち出されていることである。 と りわけ、失業者が失業扶助 と社会扶助 とを併給 している状態を問題視 し、将来的に、両者が重なっ ている状態をな くす としている。
ハルッ委員会報告は、詳 しい内容までは提案 していないが、現行のシステムを、「失業給付I」
(失業保険 と同 じく連邦雇用庁が管轄 し、 ジョブセ ンターが給付を担当する
)、
「失業給付 Ⅱ」(租税 を財源 とし、需要調査をもとに、失業給付 Iの 受給期間を終えたか、または失業給付 Iの 受給権の ない、就労可能な人に給付する)、
「社会手当 (Sozialgeld)」 (社会事務所が管轄する)へ再編す る、とい う方向性を提起 している。稼働能力のある生活困窮者 は社会扶助の対象 となるのではな く、
「失業手当 Ⅱ」 に移 し、失業扶助受給者 と一括するという提案のようである。
3
改革のスケジュールと評価のポイン トハルッ委員会の13項目にわたる改革提案の中には、 この他 に、失業者 による自営業立 ち上げへ の援助など、多様な提案が含まれている。ただ し労働行政機構の再編 という点では、上に見てきた 対人サー ビス面 と金銭給付面の両面での再編が基軸になっていると見てよい。
再選 された シュレーダー政権 は、2002年 11月初頭 に、新閣僚 とそれぞれの担当部門を決め、そ れに応 じて行政の担当分野の再配置を行 った。従来の連邦労働省は連邦経済省 と一緒になり、「経 済労働省 (Bundesministerium fiir Wirtschaft und Arbeit)」 という巨大な省庁 となった。労働 市場政策に対 し、経済政策面か らの影響が強まることが予想 される。一方、社会扶助は「連邦健康 社会保険省 (Bundesministerium fiir Gesundheit und SOziale Sicherung,BMG)の 管轄 とな り、1990年 代の体制 に戻 った。労働政策 と社会扶助の管轄が異 なることになったことが、今後両 者の連携・ 統合に影響を与えることになると思われる。
なお、ハルッ委員会の提案を具体化する日程 も決まってきた。三段階の改革が予定され、そのう ち早 い もの としては、2002年内に法案が提起 され、PSAの具体化などは2003年初頭か ら実施 さ れ ることとなった。失業扶助 と社会扶助の統合 は一番最後のテーマで、2004年初頭 に実施 という
日程である。
ハルッ委員会報告が示 した方向は、 ジョブセンターを創設 し、社会事務所などが行 っている相談 やケースマネジメン トも統合 し、「 ひとつの手による援助」を可能にし、対象者 (求職者)の抱え る諸問題の解決を図 りつつ、各人 にあわせた手厚い職業相談・ 紹介を行なうことにある。また、企 業 (求人側)のニーズを重視することもできるようにする。 こうしたサービスの拡充を一方で図り つつ、職業紹介可能性や制裁、給付制限については、従来よりも厳 しくすると明言 している。派遣 の活用については、就労扶助における今までの先例の検討 も踏まえて提起 された。金銭給付 システ
‑276‑―
ムにつ いて は、具体案 は示 されて いない ものの、再編 の方向を大 き く打 ち出 している。運用面で も 生活保障金銭給付 の受給請求権 の条件 を厳 しくし、 それによ って経済的 に就労圧力 を強 め るとか、
就労義務付 けを強め、 それを忌避 した者への給付制限・ 停廃止 を強めるとい う提案 も含 まれている。
これ らはイギ リスの ブ レア首相 な ど「 第二 の道」 をめざすEU「ニ ュー レーバ ー」路線 とも共通す る ものであ り、市民社会 における権利・ 義務関係 の とらえ直 しとい う新 たな位置づ けの もとで具体 化 され よ うと して い るので あ る。
第2章 先行す る改革 プ ロジェク ト
1 モー ツ ァル トプ ロジェク ト
ハ ル ツ委員会報告 のメイ ンにおかれた ジョブセ ンター構想だが、机上の議論か ら生み出された も ので はない。実 は、 ハ ル ッ委員会 が提起 した改革 モ ジュールの多 くは、 ドイツ各地の先行 プロジェ ク トの成 果をもとにしているのである。失業保険を財源 とする連邦労働行政 と、租税 に基づ く自治体の 福祉政策 との連携 を目指 し、2001年か らドイツの30地域 において、 労働事務所 と社 会事務所が実験 プロジェク ト(MOdellprojekte zur Verbesserung der Zusammenarbeit zwischen Arbeitsamtern und Sozialhilfetragern,MOzArT)に 取 り組んで きた。 このプロジェク トは頭文字 を とって「 モー
ツ ァル ト」 と呼 ばれて い る もので あ り、2003年まで ドイ ツ各地 で多様 な改革 アイデアを試行す る ことにな って いる。連邦 レベルの法改正・ 制度改革 はこのプ ロジェク トで試 された結果が もとにな るので あ る。
このプ ロジェク トの進展状況 につ いて、 ブ レーメ ン、 ケル ン、 ベル リン・ マールッ ァー ン、 ベル リン・ パ ンカ ウの4つのモーッ ァル トプ ロジェク トの現場 での ヒア リングを行 い、労働行政機 関 も 巻 き込 んだ改革が進 んでい る状況 の一端 を把握 して きた3。 その詳細 の報告 は別 に譲 るが、失業扶 助 と社会扶助 との統合が確実 にな った中で、 この実験 を通 じて多様 な成果 と問題点が明 らか にな っ て きた現状 をつかむ ことがで きた4。
① ブ レーメ ン
ブレーメ ンにおけるモーッァル トプロジェク トは、失業扶助受給者約200人と社会扶助受給者 400人の資格や職業能力を判定す るアセスメントに取 り組んでいる。従来、社会事務所の担当者 は、
受給申請の段階で30分間ほどの面接 しかできない。社会事務所では一人当たり140〜150ケ ースを 3こ の調査は、科学研究費補助金 (基盤研究 (B)(1)、「 ドイツにおける自治体の『就労扶助』対策 に関す る 実態調査」(研究代表 :布 川 日佐史、課題番号 :13572018)に もとづ くものであ り、2002年 1月下旬か ら2
月初旬 まで と、2月中旬、9月 中旬の 3次 にわたって実施 した。以下の叙述 は、調査 に参加 した武田公子京 都府立大学助教授 と嵯峨嘉子神戸親和女子大学専任講師による速記録及 び他の調査参加者 との意見交換を参 考 に している。
4布川 日佐史 (2002)、 庄谷怜子・ 布川 日佐史 (2002)、 参照。
―‑277‑―
担 当 して きた。一方、労働事務所 の職業紹介部 門の担 当者 は 2,000人 ほどの求職者 を対象 に職業紹 介、教育訓練 の斡旋 を して きた。担 当ケースがあま りに も多 く、個別 ケースヘの対応 はで きないの が現状である。 アセスメ ン トを手厚 くす ることによ リー人 ひ とりの能力を判断 し、 それ に見合 った 統合支援 を実施す ることは、労働事務所 サイ ドか らとりわ け強 く望 まれ ることであ る
プ ロ ジェク トの交付金 を もとに、 アセスメ ン トセ ンターが設置 され、一人 に対 して最長4週間 を か けたアセ ンスメ ン トを現在行 っている。職業能力 のみな らず、社会的 にど うい った能力 を持 って い るのか、人間関係 の作 り方、手先 の器用 さな ども詳細 にチ ェ ックを し、能力判定 を もとに個 々人 が どのよ うな労働分野 に適 しているかを明 らか に して いる。 アセスメ ン ト結果 に応 じて、 その当事 者へ動機付 けを し、 それぞれの担 当部局がその人 に見合 った援助 を行 っている。
② ケル ン
ケル ン市 のモーッァル トプロジェク トは「 ひとつの手か らのサー ビス提供」 を直接 めざ している。
そのため に、社会事務所 と労働事務所 が共同で「 ジ ョブセ ンター」 を設立 した。125人の職員 の う ち80人が社会事務所 の職員で、20人が労働事務所 の職員である (他に精神科 医など
)。
社会扶助 申請者 は、 ジョブセ ンターを訪 れ る。 そ こで は、 まず ケースマネ ジャーが面接 し、潜在 能力 を分析 す る。就労可能 な人 には、紹介担 当が就職 の斡旋 を行 う。就労困難 な問題 を抱 えている 人、例 えば、3分の1ほどのケースは、年収以上 の負債 を抱 えて いるが、 そ う した人への負債相談 や、 さ らに依存症 の相談、住宅相談、 ひ とり親 のための児童相談 もジョブセ ンターで行 な う。 ケー ス会議 を開 き関連分野 の担当者が総合的 に、 ケースに必要 な援助を検討す る。当事者か ら見れば ジョ ブセ ンターー カ所で (「ひ とつの手か ら」)全ての援助 を受 け られ ることにな る。
ジ ョブセ ンターは、全 ケースに対 して援助計画 をたて、当事者 と協定を結ぶ。労働行政機関の持 つ援助措置 (賃金補助金、ABM,短期 の職業 トレーニ ング)と社会扶助法 の就労扶助 の中か ら、
総合 的 な援助 が「 ひ とつの手 か ら」提供 され る。
ここで留意すべ きは、 ケル ンの特徴 と して、「 まず は仕事」 とい うアプ ローチを選択 して いるこ とで あ る。 ケル ン市 は、1998年に若年者 を対象 に「 ジョブ取 引所」 (JobBёrsèJunges Kёln')
プ ロ ジェク トを開始 した。「 ジ ョブ取 引所」 プ ロジェク トによ って、 ケル ンで は24歳以下 の若年者 か らの社会扶助 申請 はす ぐに受理 しない こととな った。若年者 には「 ジョブ取 引所」が、 まず は教 育機 関・ 職業訓練機 関や、仕事 (Job、 アルバ イ ト的 な もの)を紹 介す る こととな った。就労 の方 向性 や可能性が はっきりしない若年者 は「跳躍台」( Sprungbrett")措置 の対象 となる。「 跳躍台」
措 置 を も とに、 若 年 者 は2週間 の試 行 期 間 を経 て、 社 会 保 険義 務 の あ る6ヵ 月 契 約 の実 習 生
(Praktikum)と して就労す る。就労 中 は実習手 当を得 るのであ って、社会扶助 の給付 を受 けるの ではない。対象者が欠勤や遅刻 をすれば、実習手 当がその分削減 され ることにな る。就労 を忌避 し た人 には、何 の給付 もない。
―‑278‑―
ケル ン市 は金銭給付 に代 わ り、「 まず は仕事」 を原則 と して、 その もとで就労支援 サー ビスの拡 充 を して きたので あ る。 これに対 して は、 当然、就労強制 であ るとの厳 しい批判が ある。社会扶助 受給者 の数 を減 らす ことにな って も、 当事者 の問題 の解決 にはな らないので はないか との疑 問 も出
されて い る。
③ ベル リン・ パ ンコウ
ベル リン・ パ ンコウのモーツァル トプ ロジェク トは、失業扶助 と社会扶助 を併給 している約 700 人 を対象 に、対人 サー ビスだけでな く、金銭給付 も含 めた「 ひ とっの手か ら」 の給付 を実験 してい
る。社会事務所 の社会扶助給付担当、就労扶助担 当、 ソー シャル ヮーク担 当 と、労働事務所 の職業 斡旋担 当、失業扶助担 当 とが、労働事務所 の建物 内で共 同作業 を行 っている。対象者 の多 くは長期 失業者 であ り、 旧東独時代 の職業資格 だ け しか もっていない人、若年 の未熟練工 な どであるが、就 労援助 の面 で はすで に (2002年 9月の ヒア リング時点)140名の就労・ 自立 を達成 した との ことで あ った。
ベル リン・ パ ンコウの もう1つの実験課題 は、金銭給付面 で失業扶助 と社会扶助 を合わせて給付 す ることであ る。担当者 によれば、受給者 の銀行 日座 に「 ひとつの手」か ら振 り込 まれ るよ うにな っ ただ けで、,法的基礎 が異 な るため事務上 の効率化 にはな っていない との ことであ った。法改正 を伴 う制度 的な統合が必要 であるとい うのが、 この実験 に取 り組んだ現場担 当者 の結論 である。
なお、 ここで は紹介 された就労先 への就労 を受給者が忌避 した場合、失業扶助 と社会扶助の両方 を同時 に削減 して いる。失業扶助 を減額 して も、 それだ けで は自動 的 に社会扶助額が増加 し、削減 分 を補完 して しま うので、制裁 の効果が相殺 されて しま う。社会扶助 も同時 に制裁 と して減額す る とい う調整 が行 われて い る。 ただ し、制裁 その ものには慎重 であ り、「 まず は仕事」 と就労 を即座 に斡旋す るので はな く、一般労働市場 への統合 を可能 にす るために、必要 な職業訓練 を実施 し、当 事者 が抱 え る個別 問題 も解決す るな ど、精神的 に安定 して就労 で きるよ う、準備 に時間をか けてい
る。 それゆえ、就労が持続す るとい う成果 をあげているのである。
④ ベル リン・ マ…ルツ ァー ン
ベル リン・ マール ッァー ンのモーッァル トプ ロジェク トは、「 コンビ賃金 コス ト補助」 を試行 し て い る。 ここは旧東 ドイ ツ時代 か らの労働者集住地域 であ り、失業率 は17%と高 い。最低3ヶ月 以上失業 している社会扶助受給者及 び失業扶助受給者 を雇 い入 れた企業 に対 し、社会扶助法上の賃 金 コス ト補助金 (社会扶助法18条4項)と、労働政策 としての「東 ドイツ構造改善促進措置 (SAM)」
を併せて (コ ンビに して)給付 す るとい う雇 い入 れ促進対策 を実施 している。従来 は、失業扶助受 給者 を雇 い入 れた場合、SAMだけ (最 高691ユー ロ)が、 また、社会扶助受給者 を雇 い入れ た場 合 は、社会扶助法18条4項の就労扶助 (最高511ユー ロ)の賃金補助金 だ けが支給 されて いた。
この「 コンビ賃金 コス ト補助」 だ と、雇 い入れ側企業 は、両方 あわせて最高で一人当た り月1,202
‑279‑―
ユ ー ロの賃金補助金 を得 ることがで き、企業 の負担 は大幅 に軽減 され ることにな った。2002年8 月 まで に、 コ ンビ賃金 コス ト補助 の適 用 を受 けたの は、70件で あ る。就 いた職種 は多様 で あ り、
工場労働者、 トラック運転手、倉庫作業 などである。賃金 コス ト補助給付 は1年間 とい う期限付 き だが、 その後 に解雇 された とい う事例 はほとん どない との ことであ った。
なお、制裁 の実態 と しては、 ここが対象 と している人 たちは既 に金銭給付 を受 けている人 の中で、
実 際 には就労可能性 と就労意欲 の高 い人が対象 とな ってお り、就労忌避 やそれへの制裁 とい う問題 は生 じていない との ことである。
ドイ ツ各地 の実践 を現時点 で全体的 に評価す ることは時期尚早であろ う。我 々の調査か らもわか るよ うに、就労援助 サー ビスの担 い手 である労働事務所 と社会事務所 の統合 とい って も、 どち らの 機 関が イニ シアテ ィブを とるか異 な って いる し、実際の担 い手 と して は公的機 関以外 に、民間非営 利 団体 や派遣 会社 も含 む民 間企業 も一 部 の業務 に関 わ って い る。 全 国 的 にみて も、「 協 力義務」
(Mitwirkungpflicht)、 「 まず は仕事」(Work at first)ア プ ローチ、制裁 な どの運用 は各都市 で 異 な って い る。
共通 す る問題点 と して指摘で きるのは、対人 サー ビス (アセスメ ン ト、援助計画、 ケースマネ ジ メ ン ト)の拡充が強調 されているが、実際 にケースマネ ジメ ン トを担 っているのは従来 の行政職職 員 で あ る事例 が多 く、専 門性 の面 か らはケースマネ ジメ ン トの質 には問題 が あ る ことであ る。 ケー スマネ ジャーの養成制度 を確立 し、就労援助対人 サー ビスの質 を確保す ることが今後 の成果 に も影 響す ることになろ う。
2 ソー シ ャルエー ジェンシープ ロジェク ト
モー ツ ァル トプ ロジェク トとい う全国 レベルの実験 だ けでな く、州 レベルでの取 り組 み も進んで い る。 ここにあげるNRW州 は、今 まで に社会扶助 の機構改革 と して 「 ソー シャル・ ビュー ロニ
( Sozialbeaurou")」 を試 み、就労扶助 の改善 を 目指す「 統合的就労扶助 ( Integrierte Hilfe zur Arbeit")」 に取 り組 み、生活扶助給付 の「 一括化 ( Pauschalisierung")」 も進 めて きた。 これ ら の成果 を もとに、新たに取 り組んでいるのがNRW州「 ソーシャルエージェンシー ( Sozialagentur")」
プ ロ ジェク トであ る5。 2001年か ら2004年まで、州が総額230万ユ ーロの助成金を交付 し、 デュー レン郡、 ビー レフェル ド市 な ど州 内11の社 会扶 助実施主体 にお いて、 社会事務所 (Sozialamt) と労働事務所 による協 同プ ロジェク トを州 と して援助 して い る6。 そ こで は、対人就労援助 サ ー ビ
5 NRW(2002)、 参照。
6州 の援助は、機構改革への外部 コンサルタント委託費用や、管理プログラムの開発費、職員への再教育訓練 の費用 も含んでいる。
―‑280‑
ス給付 (Dienstleistung)の 役割に着 目し、その拡充を目指す ということが基調におかれている。
先に述べたとお り、現政権で経済大臣と労働大臣を兼ねることになったクレメント氏 は、NRW州
の首相であり、同州における取 り組みを見 ることは、今後の全国的展開を予測する上で、重要であ る。
NRW州がソーシャルエージェンシーで掲げている目標は、社会扶助はもとより、他の社会的サー ビス諸給付、例えば、住宅扶助、依存症相談 (Suchtberatung)、 債務相談、家庭相談、育児援助 (Kinderbetreuung)な どを結びつけ、生活上の困難を抱えた人 に対 し、「 ひとつの手か らの援助」
( Hilfe aus einer Hand")を 組織す ることである。対象者 に合 ったサー ビスを提供 して こそ、 そ の人が困難か ら抜 け出 し、 自分の足で立つ"のを援助できるのである。
ソーシャルエージェンシーは 5つ の機能を発揮す る。
1)集中的な相談、個別ケース分析を行 う。
2)あらゆる社会的援助に関する情報を提供する。
3)個人 ごとの支援計画 (Unterstitzungsplan)をたて る。
4)目的に しっか りあった諸給付 と諸措置 (職業訓練及 び就労対策 も含む)を紹介する。
5)金銭的経済給付 と対人個人サー ビス給付を結合する。
この 5つ の機能を実行す る上で重要なのは、ケースマネジメントであり、それが ソーシャルエー ジェンシーの土台 となる。 ケースマネジャーを新たに配置 し、ケースマネジャーが様々な援助を組 み合わせ、計画できるようにすることがポイン トとなっている。
一方、 援助 を必要 と して いる人 は、 援助 を受 けるにあた って、 新 たに、 積極 的な協力 (die aktive Mitwirkung des Hilfeberechtigten)を しなければな らな くなる。対象者 に最初か ら圧力 をかけてはいけないが、原則 は 援助 と要請"(Fёrdern und Fordern)である。社会扶助法第1 条に明記 されているように、社会扶助の目的は、扶助を受 けなければな らないような状況を克服す ることである。社会扶助の課題 は、 自助を助ける、 自助を可能 にす ることである。受給者が抱える 困難を克服できるよ うに援助す ることが社会扶助実施主体の課題なのである。 まず最初に十分な援 助 ( Fёrdern")がなければな らない。扶助実施主体 は対象者 とともに、困難な状況か ら抜 け出す ことを考えて十分な援助す るのが前提である。ただ し、それで も当事者の協力が欠 ける場合には、
制裁措置が待 っていることになる。 もはや対象者 の自発性 に もとづ くのではな く、対象者の協力 (Mitwirkung)が欠 ける場合は、制裁 として給付が制限されるのである。
なお、援助する側の福祉専門職員 と受給者 との関係 は、従来の上か ら下に対するような、一方的 な関係性を改めなければな らない。プロジェク トの過程では、両者 は対等な立場に立ち、互いに協 働 して困窮状態か ら向けだす道を探 る努力を しないといけないとしている。
一‑281‑―
NRW州 と して は、 自助 を援助す るとい う課題 を実践す るにあた って、圧力や制裁 によ って成果 を達成す ることは、望 ま しくない ことだ と している。州内の 自治体 で はそれ と異 なる傾 向 も出てい るが、州 レベルのモデルプ ロジェク トの原則 を明確 に示 した上 で、市町村 に働 きか けよ うと してい るので ある。
第3章 デ ュー レンにおけるソー シャルエー ジェンシー
NRW州各地 の ソー シャルエー ジェ ンシーのなかで、 デュー レンに注 目す るのは、近隣のケル ン のモー ツァル トプ ロジェク トとの対比が鮮明だか らである。
まず、 デ ュー レンの地域特性 を概観 してお こう7。 デ ュ̲レン郡 は、 ケル ンとアーヘ ンの間 に位 置す る人 口27万人弱 の郡 (Landkreis)であ る。郡 内 にデ ュー レン市 を始 め と して15の市 とゲ マ イ ンデが あ る。人 口の34%はデ ュー レン市 に住 んで い る。失業者 は 12,369人 、 失業率 は8.8%で あ る (2002年 2月
)。
その うち35。
9%が失 業期 間1年以上 の長期失業者 で あ る。 失業者 の50%が十分 な職業訓練 を受 けて いない。社会扶助受給者 は 10,677人 、保護率 (人員率)で4%弱で あ る (2001年末)。 失業保険・ 失業扶助 と社会扶助 を併給 している人が 5,119人 いる。
1 就 労援助サー ビスの組織機構
長期失業者 の増加 と固定化、 それ による社会扶助費 の増加 を背景 に、 デ ュー レン郡 は社会扶助 の 実施主体 と して、1997年か ら積極 的社会・ 雇用政策 に着手 し、「 失業者 の扶養 のかわ りに労働への 資金投入」、「 統合 の促進 と社会 的排 除 の減少」 をス ローガ ンに就労扶助 によ る雇用創 出 と就労支援 を拡充 して きた。
その上 で、2001年よ り州 の ソー シャル エー ジェ ンシープ ロ ジェク トを利用 して、受給者 の職業 的・ 社会 的統合 をよ り促進す ることとな った。社会扶助 を必要 とす る「 顧客」 それぞれが抱 え る多 様 な問題、すなわち、失業、債務、教育 の不足、社会・ 心理的問題、依存症、活動性 の欠如、 ホー ム レス、障害 などに、「 ひ とつの手か ら」総合的な援助 サー ビスの供給 を可能 にす ることがその 目 的で あ る。具体的 には、社会扶助実施主体(郡・ 市)の外 に活性化政策 を統括 す る機構 と して、2001
7資料 :http://wwWoSOZialagenturen.nrw.de/Standorte/index.htm
8■:ョ式には、 」
ob―
com gGmbH Duren (GeFneinnitzige Gesellschaft fir Beschaftigungsfё rderung des Kreises und der Stadt Duren)9統合相談員・ ケースマネ ジャーは、 多様 な部門出身者 で構成 されている。 公務員で市 の行政専門職員 (Sachbearbeiter)と して社会扶助の経験のある人 (BSHGのエキスパ ー ト)、 住宅局 の職員、負債・ 依存 問題担当のソーシャルヮーカー、歯科衛生士、技術者、経営学士 といった多様な経歴・ 資格をもつ職員か ら 成 る。 ソーシャルヮーカーの資格保有者 は相談員 8人 中 3人 である。他の自治体の類似機関 と比べ るとソー
シャルヮーカー比率が低いが、 ジョブコムは多様な経験をもつ人材を意識 して集めたとのことである。
一‑282‑一
年11月 に「 ジョブコム (JOb̲com gGmbH)」 3を設立 し、そこが18‑55歳の受給者に対す る総合的 なサー ビスを受託 し、社会事務所の金銭給付を仲介することとした。
ジョブコムは、職員 17名 でスター トした。社会扶助受給者の労働市場への統合を目指 した対人 援助に重点があるため、郡及び市の就労扶助担当が ここに統合 されたのを始めとして、就労支援対 人サー ビスに、8人が配置 されている9。 統合相談員 (Integrationsberater)と 職業斡旋担当者か らなる8人のグループが対象者の潜在力を分析 し、台旨カプロファイル作成を行い、問題克服の支援 を している。統合相談員が、 ケースマネジメン トをする。ケースマネジャーである統合相談員が郡 内 15の 自治体 を分担 して管轄 している。 ある相談員の担当区域で企業が受給者を雇用することに なれば、 この企業への助成金を給付す ることができるが、それに関する事務や、金銭給付などは給 付担当の行政専門職員が行 う。なお、就労支援サービスの費用 は、 ジョブコム独 自の財源 としての 郡や市か らの助成、州か らの補助のほかに、 ヨーロッパ社会基金か らの財政援助をもとに している。
ジョブコムは専門的な相談機関 として他の諸機関 との連携を重視 している。すなわち、使用者団 体・ 企業、社会教育団体、社会事務所・ 児童福祉事務所その他行政諸機関、経済振興団体、福祉団 体、教会、会議所 (Kammern)、 地域使用者団体、職業団体、社会サービス提供者、などであ り、
サー ビスをネットワーク化 し、対象者のニーズ・ 能力に則 した総合的なサービス提供を可能 に して いる。労働事務所 との協同については、2002年10月初旬 に申 し合わせを し、内容を確定 したとこ ろである。
2
就労支援のプロセス各市町村の社会事務所で社会扶助の申請があると、社会事務所か らジョブコムに申請者 に関する 情報が送付 されて くる。それを受 けて、 コーディネー ト担当者が相談のスケジュールを調整 し、申 請者 と相談者 との日程調整をおこなう。それで扶助申請者が (扶助決定後に)ジョブコムの「顧客」
としてや って くることになる。社会扶助給付 については、 ジョブコムの対象になる前 に給付が決定 されているということであり、 ここがケル ンの実践 とは異なる点である。デューレンは、金銭給付 が保証 された後で就労支援サービスを開始するシステムにすることを明確 に意識 してきた。
ケースマネジメン トは以下のような流れで行われる。
①基本相談 (Grundberatung):相談員 と受給者 との間の人的関係を確立する。相談員がその対象 者の台ヒカ、人格などを把握 し、 モチベーションをはかる。
②分析 (Anamnese):対象者をプロファイ リングし、 カテゴ リー化す る。
扶助 申請者のうち、就労能力のある人全てが、 ジョブコムの対象 (「顧客」)になるが、相談を 通 じて顧客を次のようにカテゴライズする。
A:一般の労働市場へ直接統合す ることが可能な人々。
―‑283‑―
B C
D
E
6ヶ月以下の訓練が必要な人々。
7ヶ月以上2年半以下の訓練が必要な人々。
社会的・ 職業的統合が必要なケース。依存症など個人的な困難を持つケース。
社会的統合ケース。 ホームレスなど、他の相談所 との協力が必要なケース。 ソーシャルェー ジェ ンシーの役割が特 に重要 にな るケース。
F―H:ジ ョブコムの対象外 のケース。すでに自立 を したケース、 または全 く協力 しない対象者。
このカテ ゴライズは、労働事務所 の給付基準 にあわせ たデ ュー レン独 自の ものであ り、州 などの共通指針があるわけではない。分類に要する時間はケースバイケースであり、問題を 多 く抱えているケースにはカテゴライズの時間がかかる。
月 ごとのケース数 とカテゴ リー数をみると、Aが8%、 Bが 25%、 Cが 50%強、Dが 8
%、 という実態である。Cが占める比率が高い。
③ 目標の合意 (Zielvereinbarung):対 象者 と相談者の間で、実現可能な目標を設定す るЮ。
④援助計画 (Hilfeplanung):労 働市場 に統合 してい くためのプログラム計画を策定する。
⑤給付調整 (Leistungssteuerung):相 談員 は個々の対象者へ活用できる資源を調べ、調整す る。
活用可能な多様な制度資源か ら、総合的なサービスをコーディネー トする。かつては多 くの種類 のサービスが先に決め られていて、個人がその措置にあわせ る形をとっていた。そうではな く、
個人にあわせたサービスを提供す るようにす る。オーダーメイ ドのサービス、つまリプログラム 自体を本人にあうような形に作 るのである。
例えば、従来のように、労働市場で溶接工を募集する企業があるか らその募集人員数にあわせ た溶接工養成 コースを作 るのではな く、需要者があってか らそのコースをつ くるのを原則 として いる。従来 は、企業の必要 に応 じて例えば25人のクラスを設 けて溶接工を養成 していた。 しか し、か りに25人中、実 は溶接工 にな りた くないという人が15人含まれていれば、15人分 は無 駄 なサービスになって しまうのであった。支援プログラムを立てるにあたっては、 どうやって費 用節約をするかが強 く意識 されている。プロジェク トを計画する際に、 どれだけ節約できるかの 推計を している。
サー ビスのオーダーメイ ドのもう一つの例 は、「将来を見通 した労働 ( Perspektive Arbeit")」
プロジェク トである。人々をプログラムに合わせて就労先に送 り込むのではな く、本人にあう措 置を探 して手当をする。その人に合 った就労先を創出するには、社会扶助法上の就労扶助を活用
10目標の合意事項 は文書で残 される。例えば、薬物依存症の場合な ら、その薬物依存の専門的相談を受 けるこ とが 目標 となる。 目標期間内に専門的な相談を受 けた場合、統合相談員・ ケースマネジャーは対象者がその 目標を達成 したことを確認 し、そこで何を言われたかをもとに次に何が必要な措置であるかを検討 し、対象 者 と再度合意をす る。
ジョブコムは「顧客」が依存症などで社会扶助法の特別扶助に該当する場合、必要なサービス給付を行 う。
―‑284‑―
し、市場性のない有用な就労先 に対 しては、賃金 コス トの80%を給付 している。一般営利企業 での就労の場合には、対象者の抱える問題の大 きさによって最大50%までの賃金 コス ト援助を している。社会扶助法に基づ く市・ 郡か らの財源提供をもとに、 ジョブコムは有限会社 として、
それ らを弾力的に使 うことができるのである。
⑥モニタリング (MOnitoring):統合相談員が対象者の受 けるサービス・措置・ 相談 について全て 管理 している。
3
非協力者への制裁ジョブコムでの初回相談を怠 った受給者 に対 しては社会扶助給付を減額するなどの制裁が とられ る。2002年前半の統計では、2,000件の相談予定の うち、65%は相談 に現れ、15%は初回の予約 日 時を病気などの理由で変更 した。18%は予約 日に電話での断 りな しに相談に来なか った。 この場合、
ジョブコムは社会事務所に連絡することになってお り、社会事務所 は社会扶助 に関 して制裁措置を とることができるH。
初回相談を忌避 した18%に対 して、郡 はまずは社会扶助法25条にもとづ き社会扶助給付額を25
%削減 しうる。給付削減を した後、事情聴取が行われ、再度相談の予約を決める。2回目の予約を 守れば この削減 は回復 され る。再度忌避 した場合には社会扶助給付 は50%まで削減 され る。 ジョ ブコムか ら連絡のあった忌避ケース全てに対 して社会事務所が給付削減、制裁を行 っているわけで はない。 これは郡社会事務所の判断によっている。
4
デ ュー レンの特徴デュー レン郡が州のソーシャルエージェンシーに応募 したひとつの要因は、州のプロジェク トが その趣 旨として、対象者 に圧力を加えるのではな く、人々に人間的扱いを行 うことを謳 っていたか らである。実践にあたっては、 これが基底に置かれている。同時にプロジェク トの掲げる「 ひとつ の手か らの援助」が必要だ ったか らである。 このプロジェク トで外部機関 との連携を充実 させるこ とが可能 となった。
NRW州の他のプロジェク トと比較すると、デュー レンは社会的・ 職業的な統合の促進を重視 し ていることに特徴がある。 また就労支援のために、社会事務所を改革するのでな く、社会事務所 と
11制裁 に関わ って、 ヒア リングの際、 ジョブコムの担当者 は次のように述べていた。
「受給者 を顧客 といいなが ら非協力である場合 に制裁をお こな う事 に矛盾 は感 じている。 ジョブコムは、
社会事務所 とは違 う雰囲気を作 りたいと思 っている。官僚的で非人間的な扱 いをす る事務所でな く、人間 と して尊重 される雰囲気を重視 している。役所のような圧力をかける雰囲気を作 らないように している。仕事 机でな く、 テーブルを囲むような雰囲気を作 るなどの工夫を している。 ここに来て、初めて 自分の問題を聞 いて もらえた、 というような顧客の声 も多い。ただ し、顧客はこなければな らない義務をもっている。義務 を果たさない場合には制裁を受けることにはなる。」
一‑285‑―
は別 の外部機関を作 っていることに も特徴が ある。
ケル ンと対比す るな ら、 ケル ンの「 まず は仕事」 アプローチ と全 く対照的に、対象者 に生活保障 給付が されてか ら、就労援助 を行 うとい う原則 を もとに している。長期的 に見 て、 この方 が当事者 に とって も、 また自治体 の財政削減 にとって も効果的であるとい う明確 な判断 に もとづ いている。
協力義務 に欠 けて い る者への制裁 につ いて は、制裁 を決定 している社会事務所 その ものへ直接確認 で きたわ けで はないが、 ソー シャルエー ジェ ンシーの職員 によれば、「協力義務 に欠 ける人が全て 制裁 を受 けて いるわ けで はない」 との ことであ る。
おわ りに
活性化 をメイ ンス ローガ ンとす る ドイツの労働市場政策 の現代化 は、失業者 の持つ潜在能力・ 統 合能力 を重視 し、 それを活性化す るための金銭的 イ ンセ ンテ ィブや援助 サー ビスの体系化 を 目指 し た もので、従来 の雇用政策 と福祉 の分野 にまたが る政策領域 を広 く包み込 む ものである。活性化政 策 の手段 の一 つ は、失業保険や公的扶助 を受給 している失業者 を雇 い入れた雇用主への助成金や、
就労 した受給者への割 り増 し給付 であ る。 この整理 と拡充が課題 とな っている。 同時 に、就労援助 サー ビス と して、 カウ ンセ リング、 オ リエ ンテー ション、教育、職業訓練の拡充が重視 されている。
これ には、社会統合 サー ビス と して、社会的 に有用 な就労先 の提供やNPO(非営利法人)などで
の活動 の場 の提供 も含 まれている。失業者、 とりわけ失業中の生活困窮者が就労す るのを援助す る ため、質 の高 い就労援助サー ビスヘのアクセスを権利 と して保障 しよ うとい うものである。
ドイ ツ各地 の動 きを見 る上 で重要 なのは、 い くつかの地域 で活性化政策 を実施す るにあた って、
主 に、若年失業者 と長期失業者 に対 して、生活保障金銭給付 の金額 と給付期間を削減 した り、受給 請求権 の条件 を厳 しくし、 それによ って経済的 に就労圧力 を強 めるとか、就労義務付 けを強め、 そ れを忌避 した者への給付制限・ 停廃止 を強め るとい う手法が とられてい ることであ る。若年者 に対
して は こうす る しかない、 とい う現場担 当者 の声 も聞 いた。
この他 に も活性化政策 は、検討 を要す る側面 を伴 いつつ実践 されている。例えば、個人 に対す る ケアが進 む中で、個人一人 ひとりの資質 や意欲不足 のせ いで失業 に とどま っていると評価 され、失 業 は社会的な要因で はな く、個人 の問題 にす りかえ られ る危険性 もある。 また、職業教育訓練 など の就労支援対策 は本来、雇用 の場 の確保 に至 る通過的な ものだが、 これを終えて も仕事が見つか ら ず に、 そ こに滞留 して しま う問題 も生 じざるをえない。 さ らに、仕事 につ くことが社会への参入 だ
とい うことにな ると、何で もいいか ら仕事 をつ くれ とな り、低賃金 の就労 を強 いるとい う傾向が出 て くる。他方で、就労 を忌避 した人、協力 しない とみなされた人 には何 も給付 しないとい うことに なれば、 それ は問題解決 にはな らない。政策実施主体 の側が社会的排除 を広 げるだ けであ る。
ただ し、 こうした動 きは、失業 による貧困 をな くす ための システムが機能 して いる上 での新 たな
―‑286‑―
挑戦 で あ り、 日本 のよ うに何 もない ものを一層 な くそ うと している状況 とは局面が異 な っている点 に留意 しなければな らない。 デュー レンなど生活保障給付 を先行 させている自治体が多 いのである。
失業 時の生活保障を しっか り給付 して きた ドイ ツが、 その前提 を もとに、 日本 よ り数歩先 で直面 し て い る課題 であ り、 こうした問題 を どう乗 り越 えてい くのか、注 目す る必要 がある。
参考文献
布川 日佐史編著 (2002)『 雇用政策 と公 的扶助 の交錯』御茶 の水書房。
布川 日佐史 (2002)「 ドイ ツにお ける就労支援 と『 活性化』 に向 けた新 たな試 み」『 総合社会福祉研 究』第21号、pp.120‑126。
庄谷怜子0布川 日佐史 (2002)「 ドイ ツにお ける社会的排除へ の対策」『 海外社会保 障研究』(国立 社会保 障・ 人 口問題研究所)第 140号、pp.38‑55。
Gesetz zur Verbesserung der Zusarnrrlenarbeit von Arbeitsamtern und Tragern der Sozialhilfe, Vom 20。 Nobelrnbar 2000
Bundesministerium fur Arbeit und Sozialordnung,(2001)批%ごοιゎ
rOJiaん
ιο zじr yθrb sor J9gごθr Zじsαれれθんαrbθjι z″jscんθん スrbθjι鍼競ιοrん じんα Soを
jα
ιんjJ/aι
ttgOrれ 0ゐ多生rの 。Die Konllnission zum Abbau der Arbeitslosigkeit und zur Umstrukturierung der Bundesanstalt fiir Arbeit,(2002)ル%ごοraθ Djθんsιιθ
jsι
んgθん α麓 スrbθjιs αrλ
ι,Berlin.A/1inisteriunl ftr Arbeit und Soziales,Qualifikation und Technologie des Landes Nordrein̲
Westfalen,NRW,(2002)Sοzjαιαgοんιじ
rο
ん一IλJ/a αttS οjん
θr zαんご,Disseldorf。Hessisches A/1inisterium ftr Wirtschaft,Verkehr und Landesentwicklung,(2000)ル SSjSCんθ
Gθ
ttο jん
scんa/tsjんjιjαιjυθ Sozjαιθ Sιααι,Wiesbaden.Walter Hanesch,(2001)POVerty and lntegration at the Local Level(manuscript).
Walter Hanesch,Christine Stelzer― Orthofer,Nadine Balzter,(2001)Activation policies in minimum income schemes,Socjα ιスssisιαれ
cο jれ
Eじropθ‑4 coηραrα
ιjυθsι
αッ0ん jttj麓じ腕jん cο
れθjん sο
υθんE r(pθαんcOしんιrjO鉾,STAKES(National Research and Development Center for Welfare and Health Helsinki),Finland.p.122‑151.―‑287‑