音楽鑑賞教材における一考察
國 枝 春 恵 ・ 高 林 涼 介
A Study of Teaching Materials i n
“ Music Appreciation"
Harue KUNIEDA and Ryosuke T AKABA YAS Hl
A b s t r a c t
“ Music a p p r e c i a t i o n " e d u c a t i o n i s c o n c e r n e d w i t h t h e b a s i s f o r a l l m u s i c a l a c t i v i t i e s . S t u d e n t s must s u b j e c t i v e l y u n d e r s t a n d m u s i c a n d p e r c e i v e i t s s t u d y a s t h e e n j o y m e n t o f b e a u t y . T h i s r e s e a r c h e x e c u t e d a q u e s t i o n n a i r e on m u s i c a p p r e c i a t i o n e d u c a t i o n w i t h t e a c h e r s i n c h a r g e o f m u s i c c l a s s e s a t Kumamoto C i t y j u n i o r h i g h s c h o o l s . a n a l y z e s i t s r e s u l t s . c o n s i d e r s s u i t a b l e t e a c h i n g m a t e r i a l s . a n d i n v e s t i g a t e s new ways t o p r o v i d e m u s i c a p p r e c i a t i o n e d u c a t i o n i n t h e f u t u r e .
Key Words: m u s i c a p p r e c i a t i o n . t e a c h i n g m a t e r i a l s
はじめに
現行の中学校学習指導要領1)により音楽授業時間 数が大幅に減少し,週 5 日制の導入等も伴い,僅か の時間の中でのより充実した「音楽鑑賞 J 教育のあ り方が問われている.また. I 音楽鑑賞」の共通教材 指定がなくなり. I 音楽鑑賞」における評価や教材の 選択の難しさが伴う.さらに,生徒が「音楽を聴く」
という体勢にならない,和楽器指導や校内合唱コン クールの準備に時間を費やされる等,様々な問題が あり. I 音楽鑑賞」教育を取り巻く状況はとても厳し い.授業担当教師は,この現状を改善しながら . 1 音 楽鑑賞」指導の目標や内容を明確にし,より実践的 な授業研究を進めて行くことが求められている.
音楽における「鑑賞 J “ a p p r e c i a t i o n " という言葉は,
しばしば美的事受という言葉と同義で使われるが,
「鑑賞」には価値評価が含まれ,それは批評にも繋 がって行く 2 ) I 音楽鑑賞 J の教育は,すべての音楽 活動の根底に関わるものであり,生徒が主体的に音 楽を理解して,その美しさを享受していく営みとし て捉える必然がある 3 )
新学習指導要領 4 ) 第 2 章 第 5 節音楽では. I 表 現」及び「鑑賞」についての新しい詳細な確認事項 が,第 2 各学年の内容[共通事項]として記載され ている.
*熊本大学教育学部音楽科
*事熊本大学教育学研究科
[共通事項]
( 1
) I A 表現」及ぴ I B 鑑賞」の指導を通して,次の 事項を指導する.
ア 音色,リズム,速度,旋律,テクスチユア、,強 弱,形式,構成などの音楽を形づくっている要素や 要素同士の関連を知覚し,それらの働きが生み出す 特質や雰囲気を感受すること.
また,指導についても,新たに 第 3 指導計画の作成と内容の取扱い
1 ) 1 ( 第 2 の各学年の内容の[共通事項]は表現 及ぴ鑑賞に関する能力を育成する上で共通に必要と なるものであり,表現及ぴ鑑賞の各活動において十 分な指導が行われるよう工夫すること.
と加筆されている.
新学習指導要領は,来年度からの移行期間を経て,
平成 2 3 年 4 月から施行される. しかし,音楽授業時 間については,現行の時間数の通りであり変更され ていない.詳細に記された新学習指導要領を,現場 の教育環境の中で実践して行くには.各教師が,独 創的な指導方法等を発案し,創意工夫しながら授業 研究に取り組まなくてはならない.
本稿は,熊本市中学校の音楽授業担当教師に,音 楽鑑賞教育についてのアンケートを行い,その集計 を分析しながら,適切な教材について考察し,今後 の新しい音楽鑑賞教育について,一つの提言を行う
ものである.
音楽鑑賞教材における一考察
方 法 1
. 調査対象学校・調査期間
熊本市立中学校 38 校の音楽授業担当教師に,音楽 鑑賞授業についてのアンケー ト を行った.
調査期間は, 7 月下旬 ~ 8 月下旬までとし, 22 校 からの回答があった
2
. 調査内容
各中学校の音楽授業担当教師に,学校名,学級数,
生徒数の記入をすすめ 以下の内容のアンケートを 行った
①音楽鑑賞授業の実態について 1
. 1 年間の音楽鑑賞授業の時間数 2 生徒の興味,関心,意欲について 3 . 1 年間に生演奏 を鑑賞する機会と回数
②音楽鑑賞教材について
1 授業で取り上げた音楽鑑賞教材 2
. 音楽鑑賞教材の参考資料について
3 音楽鑑賞教材指定がなくなった後の変化に つい て
結果と考察
①音楽鑑賞授業の実態について 1
. 1 年間の音楽鑑賞授業時間数は, 1 年生 45 授業 時数に対し,平均 13 時間, ( 約 29% ) 2 年生 35 授業時 数に対し,平均 10 時間 ,( 約 29% ) 3 年生 35 授業時数 に 対 し 平 均 9 時間 ( 約 26% ) と高学年の方が,鑑 賞授業時数の割合が低くなっている また学校差が 大きく, 1 年生の授業時数が, 22 時間の学校と 2 時 間の学校があった 生徒が静かに音楽を聴く体勢に ならないような学校においては,歌唱や器楽の活 動 5) による表現の指導に時間数を割いているように
推測できる.
2. 生徒の興味,関心,意欲については, 90 % 以上 の学校において,普通,または高い,と答えており,
音楽鑑賞授業の必然、性が高いことがうかがえる 3 . 1 年間に 生演奏を鑑賞する機会と 回数に ついて 尋ねたところ,回答校 22 校のうち 0 1 校 ( 45 %) が,
生演奏を聴く機会がないという結果であったまた 聴く機会があった 12 校のうち 1 年に 2 回以上は, 4 校 (18% ) であった芸術鑑賞会や文化祭,吹奏楽 , 合唱発表会等において生演奏を聴く機会があるとい
う答えであ った.
生徒が音楽鑑賞授業に興味,関心,意欲があるに もかかわらず,生演奏を 聴く機会が大変少ないのは 残念なことであり,検討すべき課題であると言える
②音楽鑑賞教材について
l これまでに授業で取り上げた音楽鑑賞教材につ いて尋ねたところ, 1 年生, 2 年生, 3 年生各学年 における鑑賞教材の曲目,作曲家等を,回答校 2 2 校 全 部 が 記 述 し て い た 内 容 は , 西 洋 音 楽 が 全 体 の 74 % , 日本音楽が 26% であり,西洋音楽では ,管弦 楽曲が 46% , ピアノ曲が 13% ,バレエ音楽 11% ,オ ペラも 11% ,声楽曲が 12 % ,ミュージカルが 3 % , その他が 4 % となっている 声楽,オペラ,ミュ ー ジカル,バレエ音楽を総計すると 37 % になり,物語 的内容がある鑑賞教材の割合が高いことが示唆され ている .
2 音楽鑑賞教材は,何を参考にして選択している か尋ねたところ.教科 書 100 % ,指導書 4 1% ,旧鑑賞 共通教材 64% , 授業研究会等の資料 18% ,その他 32%
という結果であった. ( 複数回答可 ) 少ない授業時 間数や,様々な事情で
3音楽鑑賞教材の選択にあま
り時間をかけられない現状では,教科書 を参考にす るという傾向が見えてくる .
3
. 次に,音楽鑑賞共通教材の指定があった時期と ,
学校数 生演奏を鑑賞する機会
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6
4 4
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頻 度 年2 回以上 1 年に1 回 ない 図 2 生演奏を鑑賞する機会
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なくなった現在の鑑賞教材の変化について尋ねたと ころ. I 教材が増えた」が 9 %. I 少し増えた」が 5
%. I 変化なし」が76%. I 少し減った」が 5 %. I 減っ た」が 5 % という結果であった.音楽鑑賞教材につ いて,共通指定がないものの,教科書に掲載されて いる内容を参考にしている教師が100% という結果 との関連性において,教材資料数の変化が少ないと いう状況がうかがえる.
また,音楽鑑賞共通教材の指定がなくなった現在 の鑑賞授業について尋ねたところ. I 行いやすい」が
27%. I 少し行いやすい」が 4 %. I 変化 なし」が55%.
「少し行いにくい」が14 %. I 行いにくい」が 0 % と い う 結 果 で あ っ た こ れ は,音楽鑑賞教材について,
共通指定がなくなったことが,授業の運営にあまり 影響 を与えていないということが推測できる.むし ろ,共通指定がなくなった方が行いやすいという教 師が 3 割近くいることは,特筆すべきである.
分類別鑑賞数比較
弦曲蹄 管 楽 制
図 3 授業における分類別鑑賞教材
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図 4 音楽鑑賞教材の参考資料
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4 表 l は,音楽鑑賞教材の 一覧である .図 3 に示 されている内容と同様で、あるが,曲名を省略して記 載している.分類についても,アンケート集計上の 都合,表記しにくい項目等がある事をお断りしてお
く 「世界の民族音楽,世界の楽器等」が. I その他」
の項目に含まれている.
最も多く鑑賞された作品は ,ヴェ J レディ歌劇「ア イーダ J 100% . シューベル ト 歌曲「魔王 J 95 %. ラ
ヴ 、 エ j レ「ボレロ J 95% 隼曲「六段の調 J 95 %. ス メタナ「ブ J レダパ(モルダウ ) J 1 9 % . ].S バッハ「小
鑑賞教材の資料数について
減った,
5%
変化なし;
76%
ー噌えたロ少し唱えた口変化なし口少し減ったロ減った
図 5 鑑賞教材資料数の変化について
鑑賞教材の指定がなくなった授業について
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変化なし;
55% L 、 : ・ "
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図 6 教材指定がなくなった授業について
音楽鑑賞教材における一考察
フーガ J 9 1 %となっている . また , ロッシ ーニ 「ウィ リアム ・ テ j レ J 5 , % ミュージカ ル 「キャッツ J 5
%であ った.
表 1 音楽鑑賞教材の一覧
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