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平成 30 年度伊藤光昌氏記念学術助成金(研究助成)成果報告書

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Academic year: 2021

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Transactions of The Research Institute of

79

Oceanochemistry Vol. 32 No. 1, Apr., 2019

平成 30 年度伊藤光昌氏記念学術助成金(研究助成)成果報告書

研究課題番号 H30‑R2

研究課題名 水圏環境における高感度・高精度なパラジウム分析法の確立

研究代表者 真塩 麻彩実

(または学年) 所属・職 金沢大学 理工研究域 物質化学系・助教

海洋における Pd の分布は未だよくわかってお らず,外洋における Pd の鉛直分布を示した研究 はわずか 1 例しかない(Lee, 1983).Pd は白金 族元素としてくくられ,白金(Pt)と同様,濃度 が低すぎるため分析が困難である.そのため,水 圏環境における分析方法は確立されておらず,報 告例もほぼない.さらに近年分布や挙動が分かり つつある Pt と異なり,分析法の確立には低濃度 な以外にも問題がある.それは,容器に吸着しや すい性質があるため,濃度を過小評価してしまう 可能性が高いこと.また,亜鉛やストロンチウム,

カドミウムなど干渉元素が多く,分析をするには これらの干渉元素を取り除く必要があり,さらに 分析を困難にしているからである.一方で,Pd は歯の治療に使われていたり,Pt やロジウム

(Rh)とともに自動車触媒に用いられており,水 圏環境において人為的影響が指摘されている

(Kielhorn et al., 2002).先行研究では,グリーン ランド(Barbante et al., 2001; Rauch et al., 2005)

や フ ラ ン ス の ピ レ ネ ー 山 脈(Moldovan et al.,  2007),南極(Soyol-Erdene et al., 2011)の氷床 コア中の粒子態の白金族元素濃度(Rh, Pd, Pt)

が 1990 年から急激に上昇していることが報告さ れ,これは自動車触媒が使われ始めたことに起因 すると考えられている.Pd は金属アレルギーを 引き起こす元素としても知られているため,水圏 環境において人為的影響がどこまで広がっている かを調べることは非常に重要である.しかしなが ら,水圏環境における Pd はそのバックグラウン ドレベルすらわかっていない.

そのため Pd の高精度高感度な分析方法を確立

することを目的とした.同じ白金族元素の白金

(Pt)は分析方法(Suzuki et al., 2014)が確立さ れているが,同じ方法で Pd 分析を行うと干渉物 質の影響が多く分析できない.そこで Pt 分析法 をもとにイオン交換樹脂や試薬を変更するなどし て,陰イオン交換樹脂における最適な濃縮分離条 件や,洗浄方法を見つけ分析方法を確立する.

まず初めに海水試料に添加する塩酸濃度の条件 検討実験を行った.PdCl

42‑

の溶存形態をとる Pd を陰イオン交換樹脂カラムに吸着させるために海 水試料に塩酸を添加するが,海水中の塩化物イオ ンなどとの競合による回収率の低下など,塩酸濃 度によって回収率に影響がでると考えられるから である.また,Pd と錯形成しやすいチオシアン 酸イオンを海水試料に添加することで,塩化錯体 と比べてカラムへの吸着及びカラムからの溶離に 変化が見られると予想されたため,塩酸酸性条件 の下,チオシアン酸カリウム濃度の条件検討も 行った.塩酸濃度の条件検討においては,0.5 M を境に回収率が低下したことから,海水を通液し た際に塩化物イオンなどとの競合がおきたと考え られる.一方,チオシアン酸カリウムを添加した ことで回収率が減少したことから,吸着の際にチ オシアン酸イオンと競合が起きたことや,Pd の チオシアン酸錯体のカラムへの保持が強かったた め,溶離されにくかったことが考えられる.上記 のことから,0.5 M 塩酸−チオシアン酸カリウム 未添加の条件が最適な条件であることが分かった.

さらに ICP-MS による測定の妨害となり得る夾 雑物を除去するための洗浄液について検討を行っ た.塩酸,硝酸の濃度と通液量及び超純水の通液

学術助成報告

(2)

80

海洋化学研究 第 32 巻第 1 号 平成 31 年 4 月

量について検討を行ったところ,0.05 M 塩酸 5  mL,3 wt% 硝酸 50 mL,超純水 50 mL を通液 する条件が最適な条件であることが分かった.

溶離液についても検討を行ったところ,硝酸と 過塩素酸の混酸のみを溶離液に用いても Pd がカ ラムから溶離しにくく,十分な回収率が得られな かった.そのため過酸化水素を用いることによる 回収率の向上を試みた.過酸化水素と硝酸の混合 溶液(10 M HNO

+ 1 M H

2

O

2

)を通液後,カラ ムに残った過酸化水素を取り除くために濃硝酸

(Conc. HNO

3

)を流した後,硝酸と過塩素酸の混 酸(5 M HClO

4

 + 5 M HNO

3

)で溶離する条件が 最も高い回収率が得られる結果となった.過酸化 水素を流すことで,カラムに吸着している Pd が 溶離しやすくなったためと考えられる.通液量に ついても検討を行ったところ,10 M HNO

+ 1  M H

2

O

2

 20 mL,Conc. HNO

5 mL 及 び 5 M  HClO

4

 + 5 M HNO

3

 25 mL が最適な通液量であ ることが分かった.

以上の検討実験の結果から,Fig. 1 に示すフ

ローチャートが本研究で確立した海水中の極微量 の Pd を分析する方法である.本分析法を用いて 前濃縮実験を行った際の Pd の回収率は 83.8  ±  7.2% であり,ブランク値は 8.8 ppt であった.今 後この分析法歩を用いて実際の海水中の Pd 濃度 分析を行っていきたい.

引用文献

Barbante, C., Veysseyre, A., Ferrari, C., Van de  Velde, K., Morel, C., Capodaglio, G., Cescon,  P.,  Scarponi,  G.  and  Boutron,  C.,  2001. 

Greenland  snow  evidence  of  large  scale  atmospheric  contamination  for  platinum,  palladium,  and  rhodium.  Environ.  Sci. 

Technol., 35, 835-839.

Kielhorn,  J.,  Melber,  C.,  Keller,  D.  and  Mangelsdorf, I., 2002. Palladium ‒ a review  of exposure and effects to human health. Int. 

J. Hyg. Environ. Health, 205, 417-432.

Lee, D. S., 1983. Palladium and nickel in north- east Pacific waters. Nature, 305, 47-48.

Moldovan,  M.,  Veschambre,  S.,  Amouroux,  D.,  Benech,  B.  and  Donard,  O.  F.  X.,  2007. 

Platinum, palladium, and rhodium in fresh  snow  from  the  Aspe  Valley  (Pyrenees  Mountains, France). Environ. Sci. Technol.,  41, 66-73.

Soyol-Erden, T. O., Huh, Y., Hong, S. and Hur, S. 

D.,  2011.  A  50-year  record  of  platinum,  iridium,  and  rhodium  in  Antarctic  snow: 

volcanic and anthropogenic sources. Environ. 

Sci. Technol., 45, 5929-5935.

Suzuki, A., Obata, H., Okubo, A. and Gamo, T.,  2014.  Precise  determination  of  dissolved  platinum in seawater of the Japan Sea, Sea  of  Okhotsk  and  western  North  Pacific  Ocean. Mar. Chem., 166, 114-121.

海水試料

←30% HCl ( 0.5 M に調製)

105

Pd 濃縮同位体スパイク 24 hr 静置

陰イオン交換カラム

←0.05 M HCl 5 mL

←3 wt% HNO

3

50 mL

←超純水 50 mL

Pd をカラムから溶離させる

・ 10 M HNO

3

+ 1 M H

2

O

2

20 mL

・Conc. HNO

3

5 mL

・ 5 M HClO

4

+ 5 M HNO

3

25 mL Dry Up

5 wt% HCl で希釈 ICP-MS 測定

Fig.1  分析手順のフローチャート

参照

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