序 文
風疹ワクチンは,先天性風疹症候群防止を主目 的に女子中学生を対象に集団接種していたが,数 年毎の流行に伴い先天性風疹症候群が発生してい た.1995 年予防接種法改正時に,風疹の流行防止 によって先天性風疹症候群発生をなくそうと,対 象は女子中学生から 12〜90 カ月までの男女に変 更になった.そのままでは一部が接種機会を失う ので,2003 年まで暫定的に中学生男女も対象とし た.また安全に予防接種を実施するために,集団 接種から個別接種に変更とした.ところが,中学 生は個別接種となったため,接種数が著減した.
2001 年予防接種法の見直しで,暫定期間に接種漏 れした者(1979 年 4 月 2 日から 1987 年 10 月 1 日 までに出生)は,2003 年 9 月末日まで定期接種で きるようになった.しかし,多くの方はこの措置 を知らず,岡山県予防接種センター(川崎医大)で は 8 カ月間でわずか 3 名しか接種していなかっ た.今回,倉敷市において見直しによる高校生以 降の接種数と看護学生の抗体陰性率の変化を検討 したので報告する.
対象と方法
1)2002 年 1 月 1 日 か ら 8 月 31 日 ま で の 期 間
に,倉敷市において暫定期間中の接種洩れ者を対 象に行われた定期接種の人数を予診票からカウン トした.
2)川崎医療短期大学の看護学生で,予防接種法 の改正前に集団接種が実施されていた 1977,78 年 生まれ 116 名と改正後暫定期間中で個別接種され て い た 1980〜83 年 生 ま れ 261 名 を 対 象 に 風 疹
風疹ワクチンの暫定定期接種化による効果
―接種者の少ない現実―
川崎医科大学小児科第 1 講座
寺田 喜平 新妻 隆広 荻田 聡子
(平成 14 年 11 月 26 日受付)
(平成 15 年 2 月 18 日受理)
〔感染症誌 77:465〜466,2003〕
短 報
別刷請求先:(〒701―0192)倉敷市松島 577
川崎医科大学小児科 寺田 喜平
Key words: rubella vaccine, immunization schedule
Fig. Comparison of negative rate in rubella IgG anti- body(EIA)between two periods
For the subjects born in 1977 and 78, rubella vacci- nation was given only to girl students in high school as a mass, whereas the subjects born in 1980〜83 were given individually because the vaccination law was revised in 1994. As a result , the vaccination rate remarkably decreased. A new provisional vac- cination plan was started in 2001, the rate still re- mained low. Their blood were drawn at the same age from nurse students to examine rubella IgG an- tibody using EIA assay.
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平成15年 6 月20日
IgG 抗体(EIA 法)を測定した.
成 績
1)8 カ月間に高校生以降で接種したものは,99 名,中学生で接種したものは 165 名であった.
2)法改正前集団接種群では抗体陰性者 4!116 名(3.4%),法改正後暫定期間個別接種群では 37! 261 名(14.2%)でχ2検定でP=0.0047 の有意差が あった(Fig.).
考 察
倉敷市における調査では,風疹ワクチン接種数 は改正前集団接種で年間約 2,000 名(約 70%)で あったが,改正後個別接種の 1996 年には 118 名
(9%)に著減していた1).また,この低下傾向は全 国的であった.平成 13 年妊婦の風疹抗体全国調 査2)では,22〜37 歳までは 4〜6% の陰性率であっ たが,20〜21 歳で 8%,18〜19 歳で 13%,17 歳以 下で 27% と陰性率が増加していた.看護学生の抗 体検査でも,陰性率が暫定期間群で 4 倍高かった.
男性の陰性率はさらに高い3).今後,この年齢群で
は先天性風疹症候群の危険性が高い.しかし,暫 定的に定期接種化されたが接種数は少なく,我々 の試算では多く見積もって対象者の 2% 未満で あった. 2003 年 9 月末日で暫定期間が終了する.
既に多くが大学生や社会人になっているので啓発 活動も困難であるが,早急に新たな統合された対 応策を考慮する必要がある.
最後に,風疹ワクチン接種者数を調べて頂いた 倉敷市保健所保健課の皆様に深謝いたします.
文 献
1)寺田喜平,森 玲子,河野祥二,片岡直樹:予防
接種法改正後の風疹ワクチン接種率低下と先天 性風疹症候群の危惧について.日児誌 1997;
101:1713―4.
2)女性保健部・先天異常:妊婦風疹抗体価検査実 態調査報告.日産婦医会報 2002;54(8):3.
3)寺田喜平,新妻隆広,大門祐介,片岡直樹,二木 芳人:麻疹,風疹,水痘,ムンプスに対する抗体 測定法と陽性率の比較.感染症誌 2000;74:
670―4.
Effect of a Provisional Vaccination Plan for Students Who Did Not Previously Receive a Rubella Vaccine in Japan―A Fact of Low Vaccination Rate―
Kihei TERADA, Takahiro NIIZUMA & Satoko OGITA Kawasaki Medical School, Department of Pediatrics
寺田 喜平 他 466
感染症学雑誌 第77巻 第 6 号