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相打ちタイミングのずれに関する研究

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Academic year: 2021

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相打ちタイミングのずれに関する研究

一昔楽学習経験の差異にみる拍打ちタイミングのずれ一 西

AsynchronyintheTimingofTwo‑perSOnTapplng

SatokoNAEANISHI

はじめに

定量的記譜法で表現される音楽の菜譜から演奏者が実際に音楽に変換する時、演奏者は非定 量吉現象として"ゆらぎ"を内包しており、その昔禁を聴く人はリズムに反応する時"ゆらぎ"

を感じていることが前回の実験で判った(注1中西智子:1996)。そして、音楽ジャンルに ょるリズム構造の違いはあるが、被験者は音楽学習経験(リズム感の訓練)とは関係なくゆら ぎを感じていることが判った。また、音楽の流れにのって相打ちをする場合には、刺激音(ピ アノ曲、和太鼓音楽、ダンシングミュージック)が1/rゆらぎをもっていることが判った。

さらに、被験者の拍を起点とする相打ちのタイミングとタイミングのずれが1/rスペクトル を示すことに注目した。

相打ちをするタイミングから調査をした結果のゆらぎは、音楽を生き活きとし、感動を生み 出す役割を任っていると考えることができる。青菜を芸術的な意味で対象とする場合には、音 楽の演奏や聴取によって感動が生起する要素としてのゆらぎと併せて、"ずれ"にも注目をす

る必要があるのではないだろうか。"ずれ"に関しては、日本伝統苦楽の用語である『ノル』

を発想とした名詞形『ノリ』の概念がある。即ちこのことは、《拍≫を手立てとした音楽認知 の有り様に含まれる"ずれ"の聴覚的な感受性をさしており、音楽を聴取して感受性を豊かに する要素であると考える。

なぜなら、音楽を聴くことには、音楽を構成するリズムの拍の知覚がある。り不ムの認識は

民族によっても、それぞれの時代においても、個人によってもその見解は一様ではない。西洋 音楽でいうリズムは、広義には旋律と和声とともに音楽の基本要素の一つとして、狭義には拍 節とテンポの関連で論じられている。そして、定量リズム、拍節リズム、自由リズムで分類さ れる。日本のリズムにおいても、無拍のリズム(自由リズムに属すると考えることもできる) や夜多羅拍子などの複雑な拍節法があり、能楽、撃曲、声明など音楽の分野ごとの表現上の工 夫からきた複雑なリズム構成がある(注2)。例えば、謡曲では拍子にずれて合わない部分から 合う部分に移ることをノルというように、リズムのずれとゆらぎは音楽認知に重要な意味をも つものである。

(2)

西

武満徹は「幼児の無垢な耳は、教育された耳よりも聴覚的な感受性ということでは鋭い。こ うした、ある意味では動物的な感受性を知的想像力によって拡大する方向に音楽教育がなされ るとしたら、どんなにすばらしいであろうか(注3 武満徹:1996)」と述べている。武満の 言葉は、幼児期からの音楽教育へ重要な示唆を与えているのではないだろうか。即ち、義務教 育における「音楽」の授業で教育された人たちと、「音楽」の授業に加えて特別に個人的に音

楽学習経験を重ねてきた人たちは、リズムのずれとゆらぎをどのような差異で聴取しているの であろうか。

音・音楽に対する聴覚的感受性の研究については、音楽教育分野のみならず精神物理学的ア プローチ(注4 難波清一郎:1994)や心理学における検査法、臨床研究など、様々な分野か

ら学際的な研究が進んでいる(注5 梅本重夫:1996)。例えば、ラッシュの研究によれば、

マイコンのメトロノームの音に合わせた拍打ちを実施した結果と比較して、「拍のずれは、メ トロノームの早いテンポ(M.M.=約180)では旋律線のある音楽とはぼ一致するが、遅いテ ンポ(M.M.=約50)では旋律緑のある方が同調がよい」とずれの拍の細分化の効果を報告 している。また、ラッシュはシーショアの「音楽の美は厳密な演奏からの芸術的逸脱にある」

ということばを引用して、音楽に一定のずれが存在すると主張してずれには何らかの意味があ るといっている(注6 R.A.RASCH:1979)。

クルト・ザックスはテンポの概念を生理学的テンポと心理学的テンポに分類しながら、「微 妙な変化なしには、本当のテンポにはなりはしない(注7 クルト・ザックス:1979)」といっ ているように、音楽認知の側面から研究する過程で、ずれとゆらぎの関係は本質的であるとい えよう。

苦楽教育の基礎的研究として、音楽的内容がある音楽のリズムに対応する拍打ちと音楽的内 容がないメトロノームに対応する拍打ちを聴くことの比較において、音楽学習経験の差異がど のように表れるであろうか。本稿では、幼児期の音楽教育を考える基礎資料として、大人を対 象として実験的な調査で考察をすすめる。

同時に2名の被験者がテンポを誘導する刺激音(音楽刺激、音刺激)を受けながら拍打ちを する。

2種の刺激音

音楽刺激はモーツアルト作曲:ピアノソナタK.570第3楽章とし、前回の調査では内 田光子演奏(CD)であったが、今回はコンピューター演奏(ローランド社「ミュージ郎」) (MD)とした。(以下、モーツアルトと表記)

音刺激はコンピューター演奏(ローランド社「ミュージ郎」)により、M.M.=130の メトロノーム音(MD)とする。(以下、メトロノームと表記)

2名の被験者が刺激音に対して同時に刺激音の拍に合わせて拍打ちをする。その昔をMD

(3)

デッキに録音し、音声解析ソフトの「サウンド・マスター」に取り込んだ。同様に、音楽刺 激と音刺激もサウンド・マスターに取り込み、拍のタイミングを1/100秒の精度で分析を

した。

なお、被験者が拍打ちに慣れ、ノリ以外の余韻を除去する目的で、データーの内から初め の20拍を除いた。そして、最後の数拍を除き、①モーツアルトは440拍、②メトロノーム

は400拍で調べた。

被験者は、音楽の学習経験の差異のある4名である。

Ⅰ障害児教育専攻男子学生 J 障害児教育専攻女子学生 K 音楽教育専攻女子学生

L 音楽大学卒業後、アマチュアオーケストラの男性指揮者

被験者2名の組み合わせは、ⅠとJ、KとLであり、音楽学習経験の有るグループと無い グループに分けた。そして、①モーツアルトと②メトロノームの2パターンをそれぞれ2回 ずっ実験を行なった。

拍打ちを分離して録音するために、2名の被験者は約3m離れて位置している。刺激青ば 被験者の片耳のイヤホンで聞き取り、相互に相手の音も聞き取ることができる。

結果と考察

1)図1のごとく、モーツアルトのピアノソナタを人が演奏した刺激音の場合とコンピューター 演奏の刺激音の場合、メトロノーム音の刺激音の場合には、一拍の幅の1/fゆらぎは人が 演奏した場合にのみみられた。

一拍と一拍の幅のゆらぎが機械によって制御された刺激音には1/fゆらぎはみられないが、

人が演奏する状態からの刺激音に1/fゆらぎがみられることは、人の演奏は音楽の流れの中 で一拍がゆらいでいる、ということがいえる。

コンピューター演奏のモーツアルトのスペクトルにゆったりした大きなゆらぎと細かいゆら ぎがみられる。モーツアルトの場合には、重なる音で構成されており本来機械による演奏であ れば拍の細分化、即ち拍の分割によるずれは生じないことと予測していたが、ゆらぎが表れた

ことから、使用した音源ソフトの性能の影響と考えるのが妥当であろう。

コンピューター演奏のメトロノーム音には細かい雑音の成分が多く、メトロノームらしい機 械的単調で簡単なイメージのスペクトルである。これに関しては、メトロノーム音は単音であ

ることとも関連して、コンピューターで使用した音源ソフトの特性としての目的と精密さが原 因と考えられる。

今回の実験研究においてはコンピューターの誤差は分析の障害とはならないが、今後さらに 精密な実験をする場合には、プログラミングの再考が必要であろう。

2)刺激音に対して音楽学習経験の無い被験者の一拍の幅の変化は図2である。低周波のゆら ぎがなく高周波のゆらぎが多い故に、右上がりのスペクトルになる。

図1の機械に制御された場合より被験者の標準偏差が3〜4倍と大きくなっているのは、人

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西

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図2 一拍の幅のゆらぎとスペクトル

1 10 100 1000

Mo2:art(Computer),Sub.j‑2

であるが故の手を叩く制御の差といえる。

メトロノームに対する被験者の一拍の幅とモーツアルトの一拍の幅に若干の差が認められる、

ということば、曲(音楽)のリズム、旋律、和声などに彼らが反応しているということを示唆 する。この差が被験者による偶然の誤差かどうかを分析する必要があり、それを調べるために、

被験者4人のスペクトルを平均した。それが図3の①と②である。

3)図3は、モーツアルトのスペクトルとメトロノームのスペクトルを被験者4人の2回ずつ のデーターを平均して、その差を出したスペクトルである。

図3の①と②の如くに、機械によって制御されたメトロノームとモーツアルトに対する一拍 の幅のスペクトルである。この両刺激音への拍打ちの差は図3の③のように、1/fゆらぎが みられる。このことば、被験者はモーツアルトとメトロノームに何らかの差を感じているとい えよう。メトロノームは拍の音のみであり、モーツアルトは拍の分割・拡大によるリズムがメ ロディー、和声とともに曲を構成している。さらに、調性感、拍子感による音楽のまとまりか ら、被験者は自ずとフレーズ感覚によるリズムのグルーピングで拍打ちをしていたのではない

(6)

西

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図‑① メトロノームにおける4人の2回のスペ クトルの平均

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図‑② モーツアルトにおける4人の2回のスペ クトルの平均

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図‑③ モーツアルトとメトロノームの一拍の幅のスペ クトルの差

図3 一拍の幅のスペクトルの平均と差

だろうか、と推測する。このように、刺激音の構成の違いが相打ちによる若干の差となったと 考えられる。

音楽学習経験有りの2名のそれぞれのスペクトルの平均と、無しの2名のそれぞれのスペク トルの平均の差は図4である。周期の短いところ横軸27にピークがきていることから、音楽 としてのまとまりに関する意識の差が約16拍目(4小節:小楽節)のところに表れていると いえる。

音楽学習経験有りの方が無しの方より、より強くゆらぎを感じていると考えられる。即ち、

(7)

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図4 音楽学習経験有りと無しの一拍の幅のスペクトルの差

音楽を聴取する訓練により、リズムをフレーズで捉えリズムのグルーピングによる拍打ちをし ているのではないか、ということが推測できよう。このことについては、音楽認知の根底にあ

るグルーピングの問題として今後の研究が必要と思われる。従って、このような傾向が人間形 成過程でどのように発現してくるものか、特に、幼児期のレベルにおける分析は有効であろう

と考える。

4)モーツアルトに対する被験者のタイミングのずれは図4の如くに、音楽学習経験有りの方 にタイミングのずれがみられる。

音楽学習経験の無い人にずれが少ないのは、神経質に一拍を打とうとしているからではない だろうか。音楽学習経験のある人により早く打っ傾向がみられるのは、音禁学習経験の無い人

のように刺激音の拍の捉え方が神経質ではないように思われる。

即ち、考えられることとして、音楽の予測で音楽にノッているということであろうか。音楽 の流れにノッていると刺激苦からのタイミングがずれてくる傾向がある、と思われる。クルト・

ザックスのいう「微妙な変化なしには、本当のテンポにはなりはしない(注4クルト・ザッ クス:1979)」に添う結果といえる。

5)図5は、刺激音に対するずれの被験者2人の相関である。2人の反応が右上がりの相関が みられ、音楽学習経験の有る人は無い人より相関が高い。

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図5 刺激青からのずれとスペクトル

音楽学習経験の有る人は無い人より相関が高いということは、刺激音と同時に他者の音を認 知して、相手に合わせているということであろう。音楽学習経験の有る人は自分のテンポを予 測性をもって次のテンポへ投げ掛けることができる故に、相関が高くなるのではないだろうか。

普通の人の場合には、刺激音に忠実に合わせていると思われる。

モーツアルトよりメトロノームの方が相関が高いことから、拍打ちを刺激音に合わせるには メトロノームの方が拍のパターン認識が容易である、ということであろう。そして、モーツア ルトでの音楽学習経験の有る人と無い人の相関の差異も、パターン認識と関わっていると思わ れる。

まとめ

1/fゆらぎが生じる要因を調べるために、コンピューターによる刺激青からゆらぎを測っ た。また、モーツアルトとメトロノームの場合を比較して、音楽構造がある場合について1/f

(9)

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図6 2人の被験者同士の相関

ゆらぎが関係するか否かを調べた。その結果、モーツアルトとメトロノームには一定の差がみ られた。その差は、刺激音が音楽的構造をもっか否かによって聴取時の感じ方が異なっている ということを示すものと考えられる。しかし、いずれも拍幅のスペクトルは右上がりになった。

このことは、機械的な刺激音に被験者が合わせるという実験の設定に起因すると考える。従っ て、アンサンブルのように被験者が自発的に相打ちを行なうような設定のもとでは、異なった ゆらぎの観測が期待できるのではないだろうか。

5歳児のリズム打ちの実験をした川岸良子と中川久美子の結果では、被験者の幼児が歌える 歌を聴きながらど一卜を打っ拍打ちにおいては、拍の分割と拡大のリズムを打っ傾向が強かっ

た(注8 川岸、中川:1989)。幼児期には拍の感覚の以前に、歌のように歌詞の言葉が拍の 分割拡大で構成されたリズム認知になると推測される。しかし、音楽構造を持たないメトロノー

ムのビート音に対してであれば、音楽学習経験の無い被験者のように拍に忠実に打とうとする のではないだろうか。

また、今回の被験者は、相互のタイミングのずれを調節することによってリズムの流れを創っ ている。即ち、ずれの程度を感じることが被験者同士のリズムを同調させる上で不可欠である、

といえる。この点において、ずれの分析はアンサンブルにおける同調(引き込みとも言う)を 調べることを意味しているといえよう。そして、リズムにおけるずれは、音楽のゆらぎと本質 的な関係をもっていることが示唆されるのである。

しかし、相互のタイミングのずれを調節する意識はどのような時期に芽生えるものであろう か。例えば、幼児期のアンサンブルで指導者が最も苦労することは、主にリズムを同調させる ことである。グループでの拍感覚のずれの大きさは演奏苦楽のまとまりに影響するが、引き込 み同調を目標にした指導の効果的な方法の検討は、幼児期のメソッドに必要と思われる。今後、

(10)

西

の課題であろう。

引き込み現象については、刺激音への予測性と関係があるのではないだろうか。刺激音と被 験者の拍打ちのずれにばらつきがあった場合にも予測性により、ずれは単なるずれが少ないと

いうことば揃うことであるが、音楽学習経験者のように音楽の流れの中でずれを生じているこ とは揃う現象が引き込み現象と同じとは単純に考えられないように思われる。

引き込み現象の本質については今後の研究が必要とされる。

この分析考察に当たっては、名古屋大学人間情報学研究科の吉田友敬氏に情報数理解析論の 専門的な立場から解析分析作業をお願いした。吉田氏と被験者になってくださったかた達に深

く感謝します。

〔引用・参考文献〕

1中西智子「音菜学習経験の差異とリズム受容の関係 ‑ゆらぎと同調と引き込み現象からの考察‑」

三重大学教育学部研究紀要 第47巻1996 2 新定標準音楽辞典 音楽之友社1991

3 武満 徹「EarsCleaning」『樹の鏡、草原の鏡』新潮社1996117頁

4 難波清一郎「音響環境」『知覚工学 応用心理学講座7』福村出版1994

5 梅本勇夫「音楽心理学における発達的アプローチ」音楽知覚認知研究 第2巻1996 6 R.A.RASCH「SYNCHRONIZATIONINPERFORMEDENSEMBLEMUSICJACUSTIA

Vol.43 1979

7クルト・ザックス 岸辺成雄監訳 「リズムとテンポ」音楽之友社1979 30頁

8 川岸良子、中川久美子「自由あそびにおける音楽活動の展開に関する研究」三重大学教育学部幼児教 育研究室 卒業研究1989

9 徳丸吉彦「間は拍子かリズムか」『間の研究』南博編 講談社1983 97‑98頁

「間隔が同じままでも、パルスの間に、目立っものと目立たないもの、あるいは、重要なものと重要 でないもの、といった区別が現われるのが普通である」として、「パルスの間隔が均一な刺激でなけ ればパルスという言葉は使わずパルスを前提とした拍(ビート)と呼ぶ」ことを提唱している。

10 G.W.クーパー、L.B.メイヤー(共著)「音禁のリズム構造」徳丸吉彦訳 音楽之友社1975

本研究は、日本音楽学会第47回大会で筆者と吉田友敬氏が共同で研究発表をした「リズムのずれとゆ らぎ、引き込み現象について」の資料を使用し、音楽学習経験の差異と相打ちのタイミングのずれについ

てまとめた。

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