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密教文化 Vol. 1987 No. 160 002雲井 昭善「ナーガ (Naga) 考 P13-34」

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(1)

(Naga

)

(1) ナ ー ガ に 関 す る 研 究 は 既 に い く つ か 挙 げ ら れ る が 、 仏 典 に 登 場 す る ナ ー ガ (naga ) に は 種 々 の 意 味 づ け が あ っ て 、 必 ず し も 一 様 で は な い 。 し た が っ て 、 ナ ー ガ と い う 語 の み で そ の 概 念 を 規 定 す る こ と は 許 さ れ な い 。 広 く 、 仏 典 と の 関 わ り と い う 点 か ら み て も 、 或 い は 民 間 信 仰 と の 関 わ り と い う 点 か ら し て も 、 仏 教 に お け る ナ ー ガ の 占 め る 位 置 づ け は 極 め て 広 い 。 古 く は 、 ブ ッ ダ を ナ ー ガ と 称 し た こ と は よ く 知 ら れ て い る 。 し か し 、 如 何 な る 意 味 内 容 で 以 て ブ ッ ダ を ナ ー ガ と 呼 称 し た か 、 は 重 要 な 意 味 あ い を も つ 。 ま た 、 原 語Naga 暫 は 、 一 般 に 龍 を 指 示 す る が 、 反 面 、 象 で も あ る 。 龍 と 象 と は 前 者 が 神 秘 的 力 を 秘 め た 想 像 上 の 架 空 的 存 在 で あ る の に 対 し 、 後 者 は 実 在 の 動 物 で あ り 、 且 つ イ ン ド 文 化 圏 の 土 壌 に 親 近 さ を も つ 。 尤 も 、 龍 を 蛇 と 等 置 す る な ら ば 話 は 別 で あ る 。 し か し 、 八 部 衆 に は ナ ー ガ (龍 ) と マ ホ ー ラ ガ ( 大 蛇 ) と が 並 列 さ れ て 、 明 ら か に 別 個 の 存 在 と し し 位 置 づ け る 。 蛇 を 意 味 す る 原 語 ( パ ー リ 語 ) は

、ahi, uaga, bhga

(bhujanga), bhogin, asa, alagadda, sappa,

な ど で あ る し 、 象 は 鼠 naga 以 外 にhain, matga, ナ ー ガ (Naga)考

(2)

-13-密

kunjara, gaja, varanaな

.

るnagaに

寿

寿

一 ﹁ 仏 伝 し と ナ ー ガ い わ ゆ る 、 仏 伝 ﹂ に 登 場 す る ブ ッ ダ と ナ ー ガ と の 関 わ り に つ い し は 、 既 に 詳 述 し た 論 麗 が あ る 。 そ れ ら の 中 で 、 こ の 小 論 で は (一) 仏 成 道 時 、 ム チ ャ リ ン ダ (Mucalinda)龍 王 が ブ ッ ダ を 守 護 し た 伝 承 と 、 二 仏 、 ウ ル ヴ ェ ー ラ ・ カ ッ サ パ を 教 化 の 際 、 火 神 堂 中 に 毒 龍 を 降 伏 さ せ た 、 と い う ) 点 を と り あ げ て 、 禅 定 と の 関 わ り の 中 で 再 検 討 し た い 。 (一)ム チ ャ リ ン ダ (目 真 隣 陀 、 牟 枝 隣 陀 ) 龍 王 の 守 護 を 伝 え る 資 料 は 多 忌(3 )。 そ の 中 で 、 ﹁ 仏 伝 ﹂ の 第 一 次 資 料 と し て 、 ﹃ ヴ ィ ナ ヤ ﹄ (Vinaya)マ ハ ー ヴ ア ッ ガ (Mahavagga)一 三 は 、 以 下 の 如 く 伝 え る 。

(3)

仏 ・ 世 尊 が 正 等 覚 を 成 じ 、 ウ ル ヴ ェ ー ラ ー (Uruvela)村 ネ ー ラ ン ジ ャ ラ ー (Neranja)河 の ほ と り に あ る 菩 提 樹 下 に 坐 し て 七 日 間 、 解 脱 を 自 受 法 楽 し 、 初 夜 、 中 夜 、 後 夜 に 縁 起 (十 二 支 ) を 順 ・ 逆 に 観 じ し い た 。 七 日 を 過 ぎ し 三 昧 よ り 起 ち 、 菩 提 樹 下 よ り 出 て ア ジ ャ パ ー ラ ニ グ ロ ー ダ (Ahaoakanigrodha)樹 下 に 結 蜘 跣 坐 し 、 七 日 間 、 解 脱 を 自 受 法 楽 し た 。 更 に 七 日 を 過 ぎ て 、 ア ジ ャ パ ー ラ ニ グ ロ ー ダ 樹 下 よ り 出 し ム チ ャ リ ン ダ (Mu-calinda)樹 下 に 結 蜘 跣 坐 し 、 七 日 間 、 解 脱 を 自 受 法 楽 し て 坐 し た 。 こ の 時 、 時 な ら ず 大 雲 が 起 り 、 七 日 間 雨 が 降 り 続 き 、 寒 気 あ り 、 風 が 吹 い て 曇 っ た 。 そ の 時 、 ム チ ャ リ ン ダ 龍 (4) 王 は 自 分 の 棲 処 か ら 出 て 来 て 、 世 尊 の 身 体 を 七 回 ト グ ロ を 巻 い て め ぐ ら し 、 大 き な 鎌 首 を 上 に も た げ て ︹ 世 尊 の 頭 上 を 覆 っ て ︺ 立 っ た

(atha kho Mu naa sana nikkamitva bhato kayam sattakk

-hattum bhogehi parikkhva upri mudi tam pham karitva atthasi

) ( <Vinaya,I,P.3 ) そ し て 思 う に は 、 ﹁ 寒 さ も 世 尊 を 害 す る こ と な く 、 熱 気 も 世 尊 を 害 す る こ と な く 、 虻 ・ 蚊 ・ 風 ・ 熱 ・ 蛇 と の 接 触 (sirimsapasamphhasso ) も 世 尊 を 害 す る こ と な き よ う に し と 。 さ て ム チ ャ リ ン ダ 龍 王 は 、 七 日 を 過 ぎ て 後 、 空 も 清 明 で 雨 も 止 ん だ の を 見 て 世 尊 の 身 体 か ら ト グ ロ を 解 き 放 ち 、 そ の 本 来 の 姿 を 捨 て し 童 子 の 形 に 化 作 し 、 ' 合 掌 し て 世 尊 に 帰 依 し つ つ そ の 前 に 立 っ 。

(bhagavato kaya bhoge vinivethetva sakam paria manvannam abhinnininn bhagavato

Puaato atthai anjalko bha namassano.)(Vin,I,P.3)

)

ナ ー ガ (Naga)考

(4)

-15-密 教 文 化 先 ず 、 禅 定 仏 と 龍 の 構 図 が 現 在 、 最 も 一 般 的 に 見 ら れ る の は ス リ ラ ン カ で あ る 。 コ ロ ン ボ の 市 中 に 限 ら ず 、 凡 そ 菩 提 樹 の あ る 処 に は 必 ず 垣 を め ぐ ら し 、 そ こ に 坐 す ブ ッ ダ の 頭 上 を 龍 が 蓋 っ て い る 座 像 を 見 る 。 ま た 、 禅 定 仏 と 龍 の 構 図 と し し 、 敦 焼 莫 高 窟 の 第 二 五 一 、 二 五 九 窟 等 に 見 ら れ る が 、 そ れ ら の 仏 像 は 、 中 央 に 禅 定 仏 の ブ ッ ダ を 配 し 、 そ の 左 右 両 側 か ら 龍 (naga)が 覆 う よ う に 禅 定 仏 を と り 囲 ん で い る 。 こ れ ら の 構 図 は 、 ま さ し く 、 蝕 に と り あ げ た ﹁ ヴ ィ ナ ヤ ﹄ に 伝 承 さ れ る ブ ッ ダ と ム チ ャ リ ン ダ 龍 王 と の 一 節 を モ チ ー フ に し た も の に 他 な ら な い 。 で は 何 故 、 ム チ ャ リ ン ダ 龍 王 が 仏 身 を 守 護 し た の か 。 ブ ッ ダ 時 代 の 禅 定 家 が 一 般 に そ う で あ っ た よ う に 、 ﹁ 独 一 静 処 。 専 精 思 惟 ﹂ を め ざ す 場 合 、 樹 下 に 宴 坐 、 宴 黙 し し ひ た す ら 思 念 を 凝 ら す こ と が 第 一 条 件 で あ る 。 専 心 禅 思 す る 禅 定 者 に と っ し 、 外 界 か ら の 危 害 を 避 け 、 且 つ 内 心 の 統 一 を は か る た め に は 、 あ ら ゆ る 危 害 を 避 け る か 堪 え 忍 ぶ こ と が 要 望 さ れ る 。 ﹃ 寒 さ も 熱 気 も 、 虻 ・ 蚊 ・ 風 ・ 熱 ・ 蛇 と の 接 触 も 世 尊 を 害 す る こ と の な い よ う に ﹄

(ma bhagam sitam,ma bhaam unham, ma bham

damm-s

am moa mahas hasa vata tap asi riimsa psasso, ti

(Vin.,I,P.3)と 、 ム チ ャ リ ン ダ 龍 王 が ブ ッ ダ を 守 護 し た と い う 背 景 に は 、 禅 (5) 定 と の 関 わ り を み る こ と が 可 能 で あ る 。 . 増 支 部 ﹄ 四 ・ 二 ・ 一 一 四 経 は 、 四 つ の 条 件 と し て 比 丘 が 能 聞 者 (sotar)、能 殺 者 (hantar)、能 忍 者 (khantar)、能 行 者 (gantar)で あ る こ と を 、 四 つ の 条 件 を 備 え た 象 (naga)に 喩 え る 。 そ の (6) 中 で 、 ﹁ 比 丘 が 寒 ・ 熱 ・ 磯 ・ 渇 ・ 虻 ・ 蚊 ・ 風 ・ 熱 ・ 蛇 と の 接 触 を 堪 忍 す る ﹂ こ と を 堪 忍 者 ・ 能 忍 者 の 条 件 と し て い る 。 或 い は 、 雪 山 の 山 頂 に あ る と さ れ る 阿 褥 達 池 (Anotatta)に 棲 息 す る 龍 ( 阿 褥 達 龍 王 ) の 場 所 は 、 熱 風 ・ 暴 風 ・ 熱 沙 の (7)

(adhidaivika)・

(5)

-16-依

(adhibhautika)・依

(adjuatmka)の

(Sagara)は

(棒

・岩 石 な ど の 間 ) と 等 置 し た 点 が 多 い 。 ム チ ャ リ ン ダ 龍 王 の 棲 処 を ム チ ャ リ ン ダ 樹 と し し 樹 に 宿 る 神 と み る 発 想 と 、 雨 ・ 雲 ・ 水 ・ 川 ・ 海 ・ サ ー ガ ラ 龍 宮 に 連 な る 発 想 と は 、 い っ た い 、 何 処 で 結 び つ く の か 。 こ の 点 に つ い し は 小 論 三 に お い し 検 討 し た い 。 さ て 、 次 に ﹁ ヴ ィ ナ ヤ ﹄ 伝 承 中 、 ム チ ャ リ ン ダ 龍 王 が 童 子 に 化 身 し て ブ ッ ダ を 礼 拝 し た 点 に つ い し 考 察 し た い 。 い わ ゆ る ﹁ 仏 伝 ﹂ の 常 識 か ら 言 え ば 、 成 道 後 の 釈 尊 が 最 初 説 法 を し た い わ ゆ る ﹃ 初 転 法 輪 経 ﹄ ( ﹃ 相 応 部 ﹄ 五 六 ・ 一 一-二 経 と そ の 漢 訳 等 ) に よ っ し サ ン ガ が 成 立 し 、 仏 弟 子 と し て 五 比 丘 が 誕 生 し た 。 こ の 説 法 を 介 し て 、 ブ ッ ダ の 伝 道 教 化 が 開 始 す る の で あ る が 、 仏 に 素 朴 な 供 養 を 捧 げ た 点 か ら 言 え ば 、 五 比 丘 に 先 き 立 っ し タ プ ッ サ ( 日 碧 募 銘 ) バ ッ リ カ (Bhallika))商 人 の 供 養 に よ る 世 尊 と 法 へ の ) 帰 依 (dve-vacika)が あ り 、 更 に そ の 以 前 に 、 ム チ ャ リ ン ダ 龍 王 の 童 子 ナ ー ガ (Naga)考

(6)

-17-密 教 文 化 化 身 に よ る 礼 拝 が あ る 。 さ し 、 ﹃ ヴ ィ ナ ヤ ﹄ の 伝 承 に よ れ ば 、 ム チ ャ リ ン ダ 龍 王 は ﹁ 本 来 の 姿 を 捨 し し 童 子 の 形 を 化 作 し し ﹂

(saka vann

pi-sami tva man nam adhtomaitv)と

冒一口 い 、 ﹁ 合 掌 し て 世 尊 に 帰 依 し つ つ 前 に 立 っ た ﹂

(bha vato purato

atthasi anjal iko bha gav am na)と

結 ぶ 。 こ の 一 文 は 、 わ れ わ れ に 龍 女 変 成 男 子 ( ﹃ 法 華 経 ﹄ 提 婆 達 多 品 第

)

(10) を 想 わ せ る 。 も と よ り 、 ・ム チ ャ リ ン ダ 龍 王 の 化 身 と サ ー ガ ラ 龍 王 の 娘 (sagara-naga-duhita)の 変 成 男 子 と は 、 そ の 構 成 に お い て 異 な る の で は あ る が 、 仏 ・ 世 尊 に 礼 拝 す る に 童 子 の 形 を 化 作 し た 、 と い う 点 で 原 初 的 な 素 材 と な る で あ ろ う 。 ﹃ ヴ ィ ナ ヤ ﹄ 大 品 ( 一 ・ 六 ・ 三 一 ) に 、 龍 ( ナ ー ガ ) が 龍 の 生 を 悲 嘆 し 、 差 恥 し 、 ﹁ 何 ら か の 方 便 で 龍 の 生 を 脱 し て 速 か に 人 間 の 性 を 得 た い ﹂

(kena nu kho aham upaa nagayya Param khan ca mamn

P ati labh ti ) (Vin.,I,P.87 ) と い う 願 い か ら 、 こ の 龍 が 童 子 の 形 を と っ て 比 丘 た ち の 許 で 出 家 を 請 う 、 と い う 話 (11) が み え る 。 何 故 、 龍 が 人 間 に 化 生 し た い か 、 と い う 設 問 に 対 し し は 、 ﹃ 想 応 部 ﹄ の ﹁ ナ ー ガ ・ サ ン ユ ッ タ ﹂ に 、 ﹁ ナ ー ガ に 四 種 の 生 あ る 中 で 化 生 の 龍 (Opapatika-naga)が 卵 生 、 胎 生 、 混 生 の 龍 よ り も 勝 れ し い る ﹂ と い う 叙 述 が 、 そ の 一 面 を 語 る も の で あ る 。 (二)三 迦 葉 帰 仏 を 伝 え る 伝 承 は 、 ブ ッ ダ が 三 兄 弟 の ウ ル ヴ ェ ー ラ ・ カ ッ サ パ (Uruvela-kassapa)ナ デ ィ ー ・ カ ッ サ パ (Nadi-kassapa)ガ ヤ ー ・ カ ッ サ パ (Gaya-kassapa)と い う 結 髪 外 道 (Jatila, jatiaka ) を 教 化 し た と い う 叙 述 で あ る 。 三 兄 弟 が 五 百 人 、 三 百 人 、 二 百 人 の 結 髪 外 道 の 導 師 と し し ネ ー ラ ン ジ ャ ラ ー 河 の ウ ル ヴ ェ ー ラ 村 を 中 心 に 活 躍 し て い

(7)

退

(bhagvepi tejodhatunm samajjitva pajjali)

(Vi.,I.P,25)火

調

と も か く 、 そ れ に 対 し て 、 世 尊 が 火 界 三 昧 に 入 っ て 火 焔 で 対 応 し た と い う 叙 述 は 、 い っ た い 何 を 意 味 し て い る の か 。 (12)

(Aggika)が

(13) れ ば 、 ウ ル ヴ ェ ー ラ ・ カ ッ サ パ も 火 定 三 昧 の 実 修 者 だ っ た こ と が 知 ら れ る 。 ﹁ 火 定 に 入 っ し 身 中 か ら 青 ・ 黄 ・ 赤 ・ 白 の 火 焔 を 出 し 、 上 、 下 身 よ り 火 ・ 水 を 出 す し と す る 説 。 例 え ば-、 尊 者 欝 毘 羅 迦 葉 。 入 ) 火 定 一巳 。 身 中 便 出 二 種 種 火 焔 幻 青 黄 赤 白 中 水 精 色 。 下 身 出 レ 火 上 身 出 レ 水 。 上 身 出 レ 火 下 身 出 レ 水 。 (﹃ 大 正 蔵 ﹄ 一 ・ 四 九 七 下 ) と す る ﹃ 中 阿 含 ﹄ 巻 第 十 一 頻 碑 娑 遷 王 迎 仏 経 の 所 説 が そ れ で あ る 。 更 に 、 ナ ー ガ (Naga)考

(8)

-19-密

略⋮。爾

一故

昔 無 二 所 知 一時 為 二 解 脱 一 事 レ 火 。 錐 レ 老 猶 二 生 盲 一 邪 不 レ 見 二 眞 際 一

(14)

レ苦

尤 も 、 こ の 経 典 は パ ー リ 相 応 を 欠 く が 、 パ ー リ 律 (Vin.,I,P,24-35)と 対 応 し て ﹁ 結 髪 修 行 者 た ち は 、 毛 髪 、 螺 髪 、 搬 荷 、 事 火 具 (aggihuttamissa)を 水 に 流 し 、 世 尊 の い る 処 に 行 っ て 額 面 接 足 礼 し た ﹂ ( Vin.,I,P,33)と い う 点 で 、 (15) ウ ル ヴ ェ ー ラ ・ カ ッ サ パ が 事 火 外 道 で あ っ た こ と に は 異 論 な か ろ う 。 と す れ ば 、 三 迦 葉 教 化 に 際 し 、 火 堂 に 登 場 し た 火 焔 龍 と 事 火 外 道 と の 関 わ り は 、 い っ た い 何 を 意 味 し し い た の か 。 既 述 の 如 く 、 火 堂 龍 の 設 定 は 、 あ く ま で も カ ッ サ パ 事 火 外 道 教 化 の た め の 伏 線 で あ っ た 。 龍 の 登 場 は 、 火 に よ っ て 煩 悩 の 火 、 三 火 ・ 三 毒 を 断 つ こ と を 象 徴 的 に 意 味 し た も の で あ り 、 ブ ッ ダ 自 身 も 、 そ の 当 時 の 事 火 外 道 が 実 修 し し い た 行 法 を 体 得 し し い た か ら こ そ 、 火 界 三 昧 に 入 っ た 、 と い う 伝 承 が 成 り 立 つ 。 と す れ ば 、 火 焔 龍 を 滅 し た と い う 叙 述 は 、 単 な る 降 魔 だ け で は な く 、 禅 定 ・ 三 昧 と の 関 わ り を 示 し て い た と み て よ い 。 二 ブ ッ ダ と ナ ー ガ ブ ッ ダ を ナ ー ガ (naga)と 称 す る こ と は 、 既 に よ く 知 ら れ て い る 。 仏 教 経 典 の み な ら ず 、 ジ ャ イ

(9)

(16) ナ 経 典 に お い て も 、 開 祖 マ ハ ー ヴ ィ ー ラ を ナ ー ガ と 称 し た こ と が 既 に 指 摘 さ れ て い る 。 し か し 、 ナ ー ガ は 龍 で あ る と 同 時 に 象 で も あ る 。 ブ ッ ダ を ナ ー ガ と 呼 称 す る 場 合 、 そ の ナ ー ガ は 果 た し て 龍 を 指 示 す る の か そ れ と も 象 を 指 示 す る の か 、 を 明 確 に す る 必 要 が あ ろ う 。 且 つ 、 如 何 な る 意 味 で ブ ッ ダ を 龍 と 呼 ぶ の か 、 又 は 象 と 呼 ぶ の か 、 も 当 然 、 明 ら か に し て お く べ き で あ ろ う 。 以 下 、 ブ ッ ダ ー ナ ー ガ は 龍 か 象 か を め ぐ っ て 検 討 し て み よ う 。 ﹃ 相 応 部 ﹄ 一 四 ・ 八 経 は 、 諸 天 想 応 (Devasamyutta)中、 ﹁ 岩 の 破 片 ﹂ (sajakuja ) (SN.I,P.27-29)と し て 、 原 始 仏 教 資 料 中 、 極 め て 素 朴 な 一 経 で あ る 。 そ の 中 で-、 沙 門 (= 道 の 人 ) ゴ ー タ マ は ナ ー ガ で ま し ま す 。 起 っ て 来 る 苦 し い 、 痛 々 し い 、 不 快 の 身 苦 に 煩 わ さ れ ず 、 正 念 ・ 正 心 に 堪 え 忍 ぶ の ︹ は 、 そ の 性 が ナ ー ガ の 性 に よ る か ら ︺ で あ る 。

Nago vata samano Gomo. navat casna srka duha toba kra katuka asata

amanapa.seto samo adhivastei avino.

(Samaniha,I,P.28 ) 言 う ま で も な く 、 沙 門 (Samana)の 呼 称 は 、 バ ラ モ ン 教 以 外 の 宗 教 家 一 般 を 言 う 。 沙 門 ゴ ー タ マ を ナ ー ガ と 呼 ぶ 場 合 、 そ の 内 容 づ け を 本 経 は ︿ 苦 痛 ・ 不 快 の 身 苦 に 煩 わ さ れ ず 、 正 念 ・ 正 心 に 忍 受 す る ﹀

(sato sajano adhiseti

avihannmano)と い う 。 し か も 、 ナ ー ガ 即 ブ ッ ダ の 表 現 を 受 け て 、 本 経 は 、 沙 門 ゴ ー タ マ を 獅 子 (Siha)駿 馬 (Ajaniya)牛 王 (Nisabha)忍 耐 強 い 牛 (Dhorayha)調 御 さ れ た る 者 (Danta)と 呼 称 す る 。

Nago vata bho samo Gotamo,Siho vata bho sam Gotamo, Ajaniyo a bho Gotamo, Nhissbho

vata bho samano Gotamo, Dhorayho vata vata bho sa Gotamo, Dano va bho samano Gotano (SN.,I,P.

2 8 ) か つ 又 、 そ れ ら の 意 味 づ け を 、 前 述 の 性 格 を 以 て 肉 づ け し て い る 。 ナ ー ガ (Naga)考

(10)

-21-密 教 文 化 (17)

︿

(balaant, attne nago)(

(asamt, attna siho)乃

︿

(

dhua-van,atna dhra

yho

)

︿

調

(Nibbevana danto.

)

(SN.A.,Saratkani,I,P.80

)

駿

調

れ ば 、 彼 は 無 知 者 以 外 の 何 者 で も な い 。 と す る 一 文 か ら す れ ば 、 本 経 の ナ ー ガ は 象 を 意 味 し て い た こ と は 明 白 で あ る 。 ナ ー ガ ー= 象=danta と す る 思 考 は 、 煩 悩 を 滅 し た 状 態 に 喩 え る こ と で 象 を 調 御 す る こ と に 結 び つ く 。 例 え ば 、 ﹃ 相 応 部 ﹄ 有 偶 品 梵 天 相 応 ・ 六 ・ 一 ・ 一二 に 一 、 ︹ 煩 悩 の ︺ 魔 軍 に 襲 わ れ る こ と な く 、 心 寂 静 で 欲 の 汚 れ な く 、 調 御 さ れ た 象 の 如 く 歩 む 。

visenito upasaitto nago vacrti anejo.

(SN.I,P. 14 1G.) (19) と 、 い う 。 註 釈 に よ れ ば 、 ︿ 煩 悩 の 軍 隊 を 撤 去 す る こ と がvisenibhutoで あ り 、 渇 愛 の な い こ と が きanejoで あ る ﹀ と 解 し て い る 。 ナ ー ガ を 象 に 比 定 す る 資 料 は 、 こ の 外 に も い く つ か 挙 げ ら れ る が 、 そ の 中 で 、 修 行 の 完 成 し た 人 、 又 は 比 丘 に と っ て く 象 の 如 く 歩 む ﹀ こ と を 修 行 者 の 一 条 件 と み た 経 典 を 拾 っ し み よ う 。 ナ ー ガ=象 の 四 つ の 条 件 と し て 、 か れ ら が (一)御 者 の 言 を よ く 聞 く 能 聞 者 で あ る こ と 、 二 力 強 く て 能 殺 者 で あ る こ と (20)

(11)

(21) と 、 忍 受 者 た る こ と 、 修 習 者 で あ る こ と 、 等 を 教 え る 。 ﹃ テ ー ラ ・ ガ ー タ ー ﹄ 六 九 二 一 七 〇 四 偶 は 、 ﹃ 増 支 部 ﹄ 六 ・ 五 曇 弥 品 四 三 に 同 じ 形 で 伝 え ら れ る が 、 こ れ ら の 諸 偶 に よ る と-、 ナ ー ガ は 雪 山 林 中 に あ っ し 、 ナ ー ガ と 名 の あ る 者 の 中 で こ れ に 匹 敵 す る も の が な か っ た (naganamanam sac-c anamo anuttaro)。悪 を な さ ず 、 慈 愛 と 不 害 と は ナ ー ガ の 両 足 。 正 念 、 正 知 が 他 の 二 足 。 信 心 は 手 。 白 牙 は 平 静 。 正 念 は 首 。 智 慧 は 頭 。 思 惟 は ( 法 ) 思 の 心 。 和 住 は (法 ) 腹 。 遠 離 は 尾 で 、 ナ ー ガ ( 象)は 行 ・ 住 ・ 坐 ・ 臥 に 定 に (22) 住 す 。 蝕 に 、 仏 ・ 世 尊 を ナ ー ガ (象)に 讐 え た 所 以 を 見 る 。 象 が 腐 っ た 蔓 草 を 断 つ こ と を 人 が 煩 悩 を 断 つ こ と に 喩 え ( ﹃ テ ー プ ・ ガ ー タ ー ﹄ 二 八 四 偶 ) 修 行 者 が 密 林 で 蚊 や 虻 に 咬 ま れ て も 心 に 念 じ て 堪 忍 す る こ と を 戦 場 に お け る 象 に 喩 え (﹃ 同 ﹄ 三 、 二 四 四 、 六 八 四 偶 ) る 。 仏 自 身 、 わ れ は 勝 利 者 で 繋 縛 を 脱 し 、 解 脱 を 得 て 最 勝 、 巳 に 調 え ら れ た ナ ー ガ ( 象)で 無 学 の 位 に 達 し 、 す で に 般 浬 契 に 入 っ た 。 と し う さ て 、 ナ ー ガ " 象 と す れ ば 、 ナ ー ガ (naga)の 語 源 釈 (通 俗 語 源 ) を 、 如 何 に 経 典 及 び 後 世 の 註 釈 家 は 把 え て い た で あ ろ う か 。 こ の 点 か ら 、 ナ ー ガ ー=象 を 指 摘 し て み よ う 。 ナ ー ガ ( Naga)考

(12)

-23-密 教 文 化 ﹃ 増 支 部 ﹄ 四 三 ・ 二 経 に-、 ナ ロ ガ コ ー サ ラ 国 に 白 (seta)と 名 づ け る 象 が あ る 。 人 び と が そ れ を 見 し 、 そ の 広 く 大 き い こ と を 賞 讃 し た 。 そ の 時 、 世 尊 は 尊 者 ウ ダ ー イ (Udayi ) に 対 し 、 ﹁ 人 び と は 象 の 広 大 さ 、 肢 体 円 満 を 言 う が 、 諸 天 ・ 魔 ・ 梵 ・ 沙 門 ・ 婆 羅 門 ・ 国 王 ・ 民 衆 の こ の 世 の 中 で 、 身 ・ 口 ・ 意 を 以 て 凡 そ 不 善 ・ 罪 悪 を な さ ざ る 人 を 、 わ れ は ナ ー ガ と い う 。

ya agum na karoti kayena vacaya manasa, tam aham nago ti brumi ti.

(AN.,III.P.346) (23) こ こ で は 、naga をagum na karoti と 通 俗 語 源 釈 を 施 す 。 こ の よ う な 語 源 釈 は 、 他 に も 多 く み ら れ る が 、 古 く ﹃ ス ッ タ ・ ニ パ ー タ ﹄ 五 ) ) 偶 に 、 世 間 に あ っ て 如 何 な る 不 善 (罪 悪 ) を も な さ ず 、 一 切 の 束 縛 を 捨 て 去 り 、 あ ら ゆ る こ と に と ら わ れ る こ と な く 解 脱 し た 人 、 こ の よ う な 人 は ま さ に ナ ー ガ と 呼 ば れ る 。 と あ る 。 或 い は ﹃ ス ッ タ ・ ニ パ ー タ ﹄ 第 五 三 偶 に み る ︿ あ た か も 肩 が よ く 発 育 し 斑 紋 の あ る 巨 大 な 象 が 、 そ の 群 を 離 (24) れ し 欲 す る が ま ま に 独 り 行 く ﹀ に 対 す る 註 釈 ( ﹃ パ ラ マ ッ タ ジ ョ ー テ ィ カ ー ﹄ ) で は 、 (一 )調 御 さ れ た も の が 調 御 さ れ な い 土 地 に は 行 か な い 故 に

(dantatta adantabhumin nagacchati)(二)身

体 の 巨 大 の 故 に 、 (三 ) 罪 悪 を な さ な い 故 に (agum akarane)と 言 う 。 と す れ ば 、 こ れ ら の 詩 偶 は 、 明 ら か に ナ ー ガ 目 象 を 指 示 し て い た と 見 る べ き で あ ろ う 。 尤 も 、 漢 訳 者 は 、 上 掲 の ﹃ 増 支 部 ﹄ 四 三 ・ 二 経 に 対 す る 漢 訳 に お い し 、 ﹁ 烏 陀 夷 。 如 来 於 二 世 間 天 及 魔 梵 沙 門 梵 志 一 。 従 レ 人 及 レ 天 不 下 以 二 身 口 意 一害 上 。 是 故 我 名 レ 龍 し ( ﹃ 大 正 蔵 ﹄ 一 ・ 六 〇 八 中 ) と し て 、 ナ ー ガ ー 龍 と 訳 し て は い る が 。

(13)

調

ー=

k0 nago ti bhikkhave khinasavass,etam bhikkhuno dahivacanam.(MN.,I,P145)

次 に 、 ナ ー ガ を ブ ッ ダ に 等 置 す る 場 合 、 神 秘 的 な 力 を 具 え る ナ ー ガ ー 龍 ー ブ ッ ダ を 意 味 す る 資 料 に つ い て 検 討 を 加 え た い 。 原 始 仏 教 資 料 の 古 層 に 位 置 す る と さ れ る ﹃ テ ー ラ ・ ガ ー ダ ー ﹄ 第 一 二 四 〇 偶 は-、 世 尊 は ナ ー ガ の 名 を 持 ち 、 諸 仙 中 の 第 七 仙 に あ た る 。 大 雲 の 如 く に し て 、 弟 子 に ︹ 法 の ︺ 雨 を そ そ ぎ た も う 。 ナ ー ガ ー 龍 が 、 雨 ・ 雲 ・ 水 ・ 河 ・ 海 と 関 わ る 点 か ら す れ ば 、 ︿ 大 雲 の 如 く ﹀ と い う 表 現 は 龍 を 指 示 す る と 考 え ら れ (25) る 。 古 く 、 ブ ッ ダ を ア ン ギ ー ラ サ (Angirasa)と 呼 称 し た 点 か ら す れ ば 、 龍 ー ブ ッ ダ の 呼 称 は 当 然 、 可 能 性 を も つ 。 ﹃ テ ー ラ ・ ガ ー タ ー ﹄ の 別 の 詩 偶 ぽ 、 両 足 者 の 中 の 最 上 な る 人 よ 、 わ れ は 、 汝 、 天 の 中 の 天 を 拝 す 。 汝 か ら 生 ま れ 出 で 、 ナ ー ガ の 嗣 子 で あ る ︹ 私 は ︺ ナ ー ガ を 礼 拝 す る 。 ナ ー ガ ( Naga)考

(14)

-25-密 教 文 化 ブ ッ ダ を 眼 あ る 者 、 日 種 族 (adicca-bandhu)と 呼 ぶ こ と と 比 べ て 、 ナ ー ガ を 神 秘 的 な 力 を 具 有 す る 存 在 と み た こ と は 、 十 分 に 首 肯 で き る 。 と す れ ば 、 ブ ッ ダ を ナ ー ガ と 称 す る 場 合 、 一 神 秘 力 を 具 え た 存 在 と し て 、 龍 と し て の ナ ー ガ と 、 二 よ く 調 御 さ れ 、 煩 悩 を 断 っ て 罪 悪 を な さ な い 存 在 と し て 、 象 を 指 示 す る ナ ー ガ の ) つ が 考 え ら れ る 。 そ の 場 合 資 料 の 新 古 、 後 世 の 註 釈 と い う こ と で 、 龍 、 象 と 概 念 規 定 す る こ と は 危 険 で あ る 。 例 え ば 、 前 掲 の ﹃ 相 応 部 ﹄ (Sn. I,P,28G.)に み え る ナ ー ガ の 如 く に 。 そ し て 、 仏 教 的 煩 悩 論 の 体 系 化 に と も な っ し 、 ナ ー ガ を 象 の 意 味 で ブ ッ ダ と 称 し た 、 と 考 え ら れ る 。 三 ナ ー ガ と 説 話 ナ ー ガ に 関 わ る 伝 説 、 説 話 は 多 い 。 龍 神 信 仰 に 代 表 さ れ る ナ ー ガ の 伝 承 は 、 い っ た い イ ン ド 神 話 の い つ 頃 に 求 め ら れ る で あ ろ う か 。 こ の 項 は 、 言 わ ば ナ ー ガ に 関 す る 問 題 提 起 で も あ 。 イ ン ド 古 代 説 話 に み る 伝 承 中 、 ナ ー ガ の 概 念 を 想 起 さ せ る も の を 強 い て 挙 げ る な ら ば 、 ﹃ リ グ ・ ヴ ェ ー ダ ﹄ 讃 歌 中 の イ ン ド ラ ・ ス ー ク タ が 挙 げ ら れ る 。 尤 も 、 ヴ ェ ー ダ 宗 教 に お い て ナ ー ガ 神 信 仰 の 形 跡 は な い が 、 龍 と 雲 ・ 水 ・ 河 ・ 海 (27) と 関 連 さ せ る な ら ば 、 以 下 の 讃 歌 が み ら れ る 。 わ れ 今 宣 ら ん 、 イ ン ド ラ の 武 勲 ︹ の 数 々 ︺ を 、 ヴ ァ ジ ュ ラ (電撃)手 に 持 つ ︹ 神 ︺ が 、 最 初 に た て し と こ ろ の 。 彼 は ア ヒ ( ﹁ 蛇 ﹂= ー ヴ リ ト ラ ) を 殺 し 、 水 を 穿 ち い だ し 、 山 々 の 牌 腹 を 切 り 裂 け り 。 ( 一 ・ 三 二 ・ 一 ) 彼 は 山 に わ だ か ま る ア ヒ を 殺 せ り 。 ト ゥ ヴ ァ シ ュ ト リ ( 工 巧 神 ) は 彼 の た め に 鳴 り ひ び く ヴ ァ ジ ュ ラ を 造 れ り 。 鳴 き つ っ ︹ 仔 牛 の も と に 赴 く ︺ 乳 牛 の ご と く 、 水 ら 流 れ て 、 速 か に 海 に 向 か っ て 落 下 せ り 。 ( 一 ・ 三 二 ・ )

(15)

イ ン ド ラ は 、 肩 を 拡 げ た る ・ 最 も 頑 強 な る 障 碍 ・ ヴ リ ト ラ ( ﹁ 障 碍 ﹂ 、 蛇 形 の 悪 魔 ) を 殺 せ り 。 偉 大 な る 武 器 ヴ ァ ジ ュ ラ に よ っ て 。 斧 も て 伐 り 倒 さ れ た る 木 株 の ご と く 、 ア ヒ は 大 地 の 上 に 傭 伏 に 横 た わ る 。 ( 一 ・ 三 二 ・ 五 ) 止 ま る こ と な く 、 休 む こ と な き 水 流 ( ま た は 流 木 ) の た だ 中 に 、 彼 の 屍 は か く し 置 か れ た り 。 水 は ヴ リ ト ラ の 秘 所 (恥 部 ま た は 墓 場 ) を 越 え て 進 む 。 イ ン ド ラ を 敵 と す る も の は 、 長 き 暗 黒 に 沈 み ぬ 。 ( 一 ・ 三 二 ・ 一 〇 )-傍 点 は 筆 者 -右 の 讃 歌 は 、 も と よ り 武 勇 比 類 な き イ ン ド ラ 神 を 讃 え た も の で あ る が 、 単 に 武 勇 の 神 と し て で は な く 、 古 代 ア ー リ ャ 民 族 の 農 耕 生 活 に 必 要 な 降 雨 と 関 わ る イ ン ド ラ 神 、 す な わ ち 雷 寒 神 を 歌 っ た も の で も あ る 。 且 つ 、 こ の 讃 歌 に は 、 自 然 現 象 を 象 徴 化 し た 意 図 が 隠 さ れ て い る 。 イ ン ド ラ の 別 名 を ヴ リ ト ラ ・ ハ ン (Vrtrahahan)、す な わ ち ヴ リ ト ラ を 殺 す 者 と い う 。 ヴ リ ト ラ は ﹁ 障 碍 ﹂ ﹁ 蛇 形 の 悪 魔 ﹂ と 言 わ れ る 如 く 、 イ ン ド ラ は 蛇 形 の 悪 魔 を 殺 す 者 で あ る 。 ヴ リ ト ラ を ア ヒ (ahi)の 意 に 解 す る ( 一 ・ 三 二 ・ 一 ) な ら ば 、 イ ン ド ラ は くvrtra-han, ahi-hanと等 置 さ れ る 。 、 障 碍 ﹂ ﹁ 蛇 ﹂ を 象 徴 化 し た 背 景 に は 、 雨 雲 、 水 を 堰 き と め た 堤 防 を 想 起 さ せ る 。 こ の 堰 を 打 破 っ て 大 空 か ら 雨 降 ら す 役 目 を イ ン ド ラ に 託 し た 、 と し て も 何 ら 不 思 議 で な い 。 ﹁ 障 碍 し ﹁ 蛇 形 の 悪 魔 ﹂ が ﹁ 屍 を 横 た え て 水 流 に 流 さ れ た ﹂ ( 一 ・ 三 二 ・ 一 〇 ) と す る 発 想 は 、 蛇 ・ 水 ・ 雨 雲 と い う 民 間 信 仰 の 素 材 を 示 唆 す る 。 龍 が 雨 ・ 水 と 不 可 分 の 関 係 を も つ 素 材 億 、 実 は イ ン ド ラ 神 と ア ヒ ヴ リ ト ラ と の 戦 闘 に 物 語 る も の で あ る 。 密 雲 の 横 た わ る 障 碍 ヴ リ ト ラ が 除 去 さ れ し 雨 雲 を 呼 び 、 水 流 と な っ て 海 に 流 れ ゆ く 、 と す る 説 話 は 、 ヒ ン ド ゥ ー 教 美 術 に み る 恒 河 降 下 の そ れ に 類 似 で あ る 。 上 掲 の イ ン ド ラ 讃 歌 は 、 (一)ア ー リ ャ 人 の 崇 拝 神 と し し ヴ ェ ー ダ 神 話 に 絶 対 的 地 位 を ナ ー ガ (Naga)考

(16)

-27-密 教 文 化

退

退

)

(28) 次 に 、 い わ ゆ る 八 部 衆 と し て の 龍 に つ い て 考 察 し た い 。 八 部 衆 の 数 え 方 と し て 、 (A) 天 (Deva)龍 (Naga)夜 叉 (Yaksa)乾 闇 婆 (Gandharva)阿 修 羅 (Asura)迦 楼 羅 (Garuda)緊 那 羅 (kim-hara) 摩 喉 羅 伽 (Mahoraga ) (B) 天 ・ 龍・ 夜 叉 ・ 阿 修 羅 ・ 迦 楼 羅 ・ 緊 那 羅 ・ 摩 喉 羅 伽 (乾 闊 婆 を 除 く ) の ) 型 が 一 般 的 で あ る 。 し か し 、 八 部 衆 そ の も の の 検 討 は こ の 小 論 の 意 図 で は な い 。 む し ろ 、 非 人 ・ 鬼 霊 と し て 龍 と 摩 喉 羅 伽 が 並 置 さ れ て い る 点 を 追 求 し た い 。 摩 喉 羅 伽 の 原 語Mahoragaは 勿 論maha-uraga餌 大 腹 行 ・ 大 蛇

(urena gachati urago,saps,etam

av-nam,Sn.A.,p.13)を い う 。 ナ ー ガ も マ ホ ー ラ ガ も 鬼 霊 の 一 つ に 数 え ら れ る が 、 架 空 的 想 像 上 の ナ ー ガ に 対 し 、 マ ホ ー ラ ガ は よ り 現 実 的 で あ る 。 言 わ ば 、 八 部 衆 中 、 他 の 七 つ に 対 し て 現 実 性 の あ る 存 在 で あ る 。 に も か か わ ら ず 、 仏 教 の 守 護 神 と し て 位 置 づ け ら れ た 背 景 は 、 何 で あ っ た か 。 マ ホ ー ラ ガ を コ ブ ラ に 等 置 す る こ と に は 異 論 あ ろ う が 、 蛇 の 特 徴 と し て (一) 猛 毒 が あ る こ と 、 二 脱 皮 (of.Sn.vv. 1-2 ) か ら く る 再 生 の 観 念 日 ト グ ロ を 巻 く 四 蛇 の 頭 部 シ ン ボ ル と 生 命 の エ ネ ル ギ ー 、 (五) 龍 が 雨 ・ 雲 と 関 わ る 如 く 生 殖 と 繁 栄 の 観 念 と 結 び つ く 。 と り わ け 、 毒 蛇 と し て の 驚 威 性 か ら く る 怖 畏 感 が 、 民 間 信 仰 と し し 崇 拝 の 対 象 と な る こ と は ナ ー ガ の 場 合 と 同 様 で あ る 。 古 代 原 始 宗 教 形 態 か ら す れ ば 、 マ ホ ー ラ ガ が 鬼 霊 的 存 在 と し て の 意 義 を 担 う 一 理 由 と 考 え て よ い 。

(17)

(Sagara)龍

殿

(﹃

.

)

殿

(後

)

)

一。

(

)

(

西

)

二娑

)

(交

)

一。

(﹃

)

﹃起

(階

)

)

殿

ナ ー ガ (Naga)考

(18)

-29-密 教 文 化

一各

(

一二

)

(晴

)

殿

一。

一各

一。

(﹃

)

(29)

寿

参照

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