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第2章 必修教科等の研究 10 学校保健 養護教諭の研修コーディネーション : 現職研修を通して

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(1)

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教育は携わる教員の資質や能力が影響することが多 いため,教育公務員特例法第 21 条により「教育公務員 は,その職責を遂行するために,絶えず研究と修養に 努めなければならない。」と規定されている1)。そのた め,常に学び続ける姿勢が必要である。このことは養 護教諭にも同じことが言える。

養護教諭が多様化する子どもたちの心身の課題に対 応するためには常に新たな知識や技能を得る必要があ り,それらは現職研修によって得ることになる。采女2)

は,中教審答申(2008 年 1 月)と学校保健安全法から 求められる養護教諭の役割を下記のようにまとめてい る(表1)。

併せて,学校保健活動の推進にあたり中核的な役割 を担う養護教諭への期待が高まる中で,求められる養 護教諭の役割を果たすためには,養成,採用,現職研 修の各段階を通じた資質の向上が必要であると述べて いる。

2006 年に養護教諭の現職研修について,実施されて いる研修内容を調べ,報告したことがある3)。その中 で,教育委員会や滋賀県養護教諭研究会が主催する研 修会の内容は,校種や勤務年数に関わらず知っておく べき内容であると分析した。そしてこれらは集団を対 象とした研修会であるため仕方がないと推測した。し かしそれらの研修では自らのニーズを満たせていない ので,有志によって自主研修会をたちあげる養護教諭 もいる。現在の研修スタイルは“かゆいところに手が 届く”という段階にまでは至っていないことが考えら れる4)

本校では,養護教諭に参加してもらえるように,研 修内容を限定して研修会を 2006 年から実施してきた。

内容はパソコンを使った情報機器演習とした。養護教 諭を対象とした情報機器演習の研修会が公には開かれ ていないことともあり,興味や関心がある人は続けて 参加している人もいる。

しかしながら,今年度 10 年経験者研修を受ける機会 を得たことで,研修を企画・実施する側として疑問を 感じた。

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現在,一般の教諭のみならず,養護教諭においても

養護教諭の研修コーディネーション

― 現職研修を通して ―

中尾 香織

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学校保健を推進する専門職として養護教諭への期待が高まる一方で,研修の機会は限られてい る。自主研修という位置づけで,本校において養護教諭を対象とした研修会を実施してきたが,本 年度,10 年経験者研修を受けたことで企画・実施した研修を客観的に考えることができた。そこ で,本研究では研修を企画・実施する側に求められる要素を明らかにし,今後の方向性もあわせて 考えてみた。

研修を企画・実施するには①目的・対象をはっきりさせる,②現状の把握,③実技・演習などの 研修形態を加える,④表現(交流・発信)の場をつくる,⑤本物であることの5点が必要なのでは ないかと考えた。さらに,これからは研修をコーディネーションすることが必要なのではないかと 考えた。

キーワード 現職研修 コーディネーション

表1

①校内及び地域の医療機関などとの連携を推進する上 でのコーディネーターの役割

②養護教諭を中心として他の職員と相互に連携した組 織的な健康観察・健康相談・保健指導の実施

③いじめや児童虐待など心身の健康問題の早期発見、早 期対応

④健康・安全にかかわる危機管理への対応(救急処置・

心のケア・感染症・アレルギーなど)

⑤学級活動における保健指導をはじめ、ティームティー チングや兼職発令による授業などへの積極的な参画

(2)

日々の職務及び研修を通じて資質能力が育成されてい くもので,ライフステージに応じて学校で担うべき役 割が異なることから,各段階に応じた資質能力を備え ることが必要とされている5)。そこで,ライフステー ジに応じて目標を立て,実践される現職研修として新 規採用者研修と教職経験者研修(5 年・10 年・20 年等)

と職務職能研修がある。

北口5)はライフステージに応じた研修と掴みとりた い内容を表2のようにまとめている。これらの研修は 教員の経験に応じて実施する体系的な研修の一環をな すものとして計画されなければならないとし,同時に 研修の内容は螺旋状に企画されることが必要だとして いる。そして,その場限りの研修として終わるのでは なく,養護教諭として専門職として積み上げる姿勢で 臨まなくてはならない。現職研修として企画・実施さ れる新規採用者研修や教職経験者研修などは一人の教 員を長い期間かけて計画的に育てる目的がある。

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附属中学校に勤務し,自分で企画・実施してきた研 修会が数回ある。また,研究紀要でも養護教諭が求め る研修のあり方について考えてきた4)6)。しかしなが ら,10 年経験者研修を受ける機会を得て,自分が企 画・実施してきた研修を客観的にとらえることができ た。そこで,本研究では,研修を企画・実施する側に 求められる要素とは何かを明らかとし,今後の方向性 もあわせて考えてみたい。

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附属学校に勤務したことにより毎年夏期に自ら企画 し研修会を行っている。実施するにあたり,夏期休業 中に実施することの他には条件はなく,内容も対象者 も自分が決めている。条件がないことは非常にありが たく,次の点に注意しながら実施してきた。

1つ目は取り扱う内容をある程度限定することであ る。養護教諭は幼稚園から特別支援学校まで様々な校 種で勤務している。しかしながら,採用時の免許状に 区別はない。また,1000 人を超える大規模校もあれば 50 人に満たない小規模校もある。さまざまな条件で勤 務してはいるが,執務の本質的な部分は同じである。

そこで,ある程度内容をしぼって示すことで,このこ とについて「今,困っている」,「学ぶ場が欲しい」と 思っている養護教諭が参加できるようにした。

2つ目は,養護教諭の研修では健康相談活動などで ロールプレイなどをすることがあるが,パソコンなど を使った情報処理演習をする研修がほとんどない。現 在,養護教諭の日々の職務においてパソコンを触らな い日は無いと言っても過言ではない。そのため,情報 処理演習を加えた。

3つ目は参加者の校種を限定しないことである。養 護教諭はさまざまな条件で勤務しているが,自分にっ って必要な研修であれば校種関係なく参加すると考え ている。実際に養護教諭は自主参加の研修会には校種 も公立私立も問わずに参加している。基本の執務は同 表2

キャリア発達 研修 ライフステージに応じた研修のねらいと

育成したい主な資質能力 掴みとりたい内容

専門性の基礎応 用力育成期

(1~7年)

1年

5年

・教育活動に必要な基礎的・基本的事項及び実践 的指導力を身につけ、養護教諭としての資質能 力の向上を図る。

・教育活動に必要な基礎的・基本的事項及び養護 教諭としての実践的指導力や応用力の向上を 図る。

・教育公務員としての自覚

・養護教諭としての自覚・使命感

・研究意欲の涵養

・職務遂行能力(保健管理/保健教育能力の基本的スキル の習得)

・実践的対応力の向上(保健管理/保健教育/健康相談活動 能力の向上)

・ICT活用スキル能力の向上 専門職としての

探求期 (8~15年)

10年 ・養護活動に関する専門的な知識・技能や実践的 指導力を磨き、自己の得意分野を開発するとと もに、学校運営や学校保健活動への積極的な推 進意欲を高め、中堅教員としての一層の脂質能 力の向上を図る。

・学校運営への参加

・指導者としての力量形成

・学校保健活動の中核的推進機能力の向上

・組織活動の推進力

・リーダーシップ・マネジメント力の向上 専門職・指導者

としての熟練期 (16年~)

20年 ・教育活動や学校保健活動・養護活動について、

より広い視野から課題解決の方策を見出し、経 営的視点に立って学校運営や学校保健を推進 する態度や能力を高める。

・教育に関する高い見識

・教育経営・学校保健経営能力

・高度の専門性と指導力

・リーダーシップ・マネジメント力

初任期ステージ1 中堅期ステージ2 熟練期ステージ3

(3)

じなので,養護教諭の研修には校種は関係ないと考え ている。これらの点に配慮し表3のような研修会を実 施した。

全ての回において保健室で取り扱うデータの活用に ついて提案している。初年度は「(データは)こんな感 じにまとめている」という紹介を配付資料とスライド にて示す程度にしていた。しかしながら,参加者から は「実際にパソコンに触れたい,やってみたい。」とい う声が多かったため,次年度よりパソコンの演習を取 り入れた。私からの提案はデータを取り扱う際の基本 的な考え方ばかりである。さらには専門書を参考にし て職務に生かせそうな部分を補強している。実際に養 護教諭が使っているパソコンの内容を養護教諭に提案 し,演習にもしているので,養護教諭がどんなことを 求め,どんなことで困っているのではないか予想がつ く。そのため,

内容はポイン トをしぼって 選ぶことが出 来る。演習は1 人1台ずつパ ソコンが使え るように準備

し,パワーポイントを使い説明した。資料として CD-R に演習の課題と必要な資料を入れて配布している。た だ,パソコンに関しては出された課題通りにでき,パ ソコンが思い通りに動けば問題ないのだが,出来ない とパニックになってしまう人が多く,苦手意識が強く 残ってしまうことがある。そのため,人数を 20 名ま でに調整し,演習を出来る人はどんどん進めてもらい,

動きが止まってしまう人と一緒に演習を進めるよう にしている。

また,本校は大学の附属学校なので,研修会には毎 年大学より教員を迎え,テーマに添う内容で専門的な 視点からの講義を実施してもらっている。テーマを相 談する段階で対象者は養護教諭であることを伝え,対 象者がイメージしやすい内容で実施してもらえるよう に依頼した。参加者からは「大学教員との距離が縮ま った」,「専門的な話が聞けてよかった」,「(休憩時間に)

抱えている事例について相談できた」という声をもら っている。

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全4回の研修会でのべ 65 名の養護教諭が参加して いる(図1)。毎回,研修会の最後にアンケートを実施 し,研修会の感想や次年度以降への希望などを書いて もらっている。自由記述式なので,率直な感想や希望 が多かった。

表3

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2006 年 保健室活用術 【提案】保健室でのデータ活用方法

【講義】データの活用の仕方

中尾 大学教員 2007 年 保健室活用術Ⅱ

「情報処理編」

【提案】保健室のデータ処理

【講義】データのまとめ方

【パソコン演習】学級保健簿づくり

【パソコン演習】健康診断結果個表づくり

中尾 大学教員 中尾 中尾 2008 年 保健室活用術Ⅲ

「情報活用編」

【提案】データの示し方・プレゼンテーション

【講義】効果的な資料の提示について

【パソコン演習】データベースを使ってみよう

【パソコン演習】提案資料づくり

中尾 大学教員 中尾 中尾 2011 年 保健室活用術Ⅳ

「情報取り扱い編」

【提案】データの示し方・プレゼンテーション

【講義】学校における情報の取り扱いについて

【パソコン演習】使ってみよう!便利機能

【パソコン演習】マクロを使ってスピードアップ

中尾 大学教員 中尾 中尾

*2009 年・2010 年は実施していない

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図1 校�����の��

(4)

初年度は「新たな視点を得た」,「もっと勉強したい」,

「自校でも活用したい」,「日頃の職務を見直したい」

という意見が多く寄せられた。同時に「実際にやって みたい」という意見が多かった。アンケートでの意見 を受けて,2 年目以降は研修会の後半で演習を加えた こともあり,「自校で活用したい」,「パソコンを学ぶ機 会が無いので,学べる機会はありがたい」という意見 が多く寄せられた。さらに,継続を望む声や定期的な 開催を望む声も寄せられた。

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10 年経験者研修は県教育委員会が実施しているた め,7日間は滋賀県総合教育センターでの研修を受け,

5日間は校内で研修を行うものであった。総合教育セ ンターでの研修のうち 2 日は“現場に学ぶ”という目 的で,病院と小学校での現地研修が含まれていた。

総合教育センターでの研修は教員としての共通研修 と養護教諭としての専門研修に分けられていた。いず れも 10 年目を迎えた教員に今後求められる資質や能 力について講義や演習が組まれていた。

“現場に学ぶ”病院研修は守山の小児保健医療セン ターであった。ここは県内で唯一の小児を専門とした 医療機関で,一般救急などは受け入れず,主に難治・

慢性疾患の子どもを対象とした保健・医療・療育施設 であった。また,入院する子どもたちが学べるように 県立の守山養護学校が併設されており,一緒に見学さ せてもらった。

“現場に学ぶ”学校研修は大阪教育大学附属池田小 学校であった。この学校は 2001 年 6 月に刃物を持った 男が侵入し,8 名の子どもが亡くなるという事件が起 きている。その後,全校をあげて再発防止策に取り組 み,学校安全の緊急性と重要性を社会に訴え続けてい る。その学校に出かけ,事件当時は教諭として勤めて いた副校長先生から事件について話を聞き,現場を見 せていただいた。また,現在までの学校での危機管理 に関する取り組みや,学校安全のための取り組みにつ いて話を聞くことができた。

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学校保健を推進する専門職としての養護教諭への期 待が高まる一方で,一般教員に比べて校内での研修体 制が十分に確保されていないのが現状である。そのた め,新規採用者研修や 10 年経験者研修などの都道府県 教育委員会が実施している現職研修への期待は大きい。

10 年経験者研修は養護教諭の個々の能力や適性に応 じて,専門性や実践的指導力の向上及び,教員として の倫理観や使命感の向上を図るという明確な目的のも とで実施されている2)。このように各ライフステージ

で求められる資質や能力の研修を系統的におこなえる ことは非常にありがたく,これが研修として本来の形 なのだと考える。

今年度,研修を「受ける側」と「企画・実施する側」

の両方で同時期に経験できた。このことで,今まで自 分が企画・実施してきた研修を客観的に振り返ること ができた。

1つ目は,何より実施する者(私自身)にその能力 があったのかである。自分の企画・実施してきた研修 では,内容も対象も自分で決めてきた。内容は「こん なことできるよ。便利ですよ。」というものを中心に選 んできたが,アンケートには「勉強になったが,(自分 には)難しかった」や「側でもっと教えて欲しかった」

という意見があった。人の前で話すために,内容につ いては再度自分自身で勉強をすることが多かった。横 溝7)は「現職研修は経験年数別講座によって求めるも のや求められるものに違いはあるが,非常に意味があ る。また,現職研修の講師を養護教諭が務めることは 受講者・講師の双方に,非常に意義がある。講師を務 める人にとっても専門性や力量を高める,まさに現職 研修である」と述べている。私としても研修をするた めに学び直したことは自分自身の力になったと感じて いる。しかしながら,少人数の研修会ではあったが,

その中にも参加者の情報処理能力には差があったので,

それぞれに対応できていたかどうかは不明である。自 主参加が基本のため参加者は「学ぼう」と思い参加し ている人ばかりである。そのため,「使えるところか ら・・」「できるところから・・」という参加者の気持 ちで支えられていた研修会になっていたのかもしれな い。

北口5)は,「(研修は)実施主体である担当者の力量 と企画力が問われる。さらに,養護教諭の専門領域に おける研修を目的に応じて実施するには,実施主体の 研修目的と養護教諭の実態把握,ニーズの調整が必要」

と述べている。さらに,研修目的を果たすために実施 主体者が留意して企画したいこととして,表4のこと をあげている。

表4

①どのような位置づけで、何をねらいとしている研修な のかを明確にする。

②講義だけでなく、実技・ワークショップなどの実践的 な研修形態を考える。

③演習・実技・ワークショップなどの研修形態でのグル ープ協議や情報交換などにより、市町村や他校と実践 を論議する機会を設け、「知」と「実践」を共有する。

④養護教諭の専門性、職務、実践を論述する機会を多く する。

(5)

表4の項目と自分が企画・実施してきた研修が合致 するかどうかをみてみると以下のようになる。①は学 ぶ場の提供として位置づけられ,養護教諭の情報活用 能力の向上をねらいとしている研修であると言える。

②は実際にパソコンに触れる時間がある。しかしなが ら,③のグループ協議や情報交換をする場は設定して いない。また,④の「論述する=書く」という作業も 設定していない。研修は実施しているが,参加者にと って十分な研修が提供できていなかったことになる。

研修をすることが目的になっていなかったか,反省す べき点である。

ただ,企画の段階で意識して表4のような内容に触 れることができていれば,養護教諭のニーズを取り入 れた研修をより身近なところで実施することができる のではないだろうか。北口5)は「養護教諭は基本的に 一人職であり,職務の専門分野に関する知識を意欲的 に獲得し,不断の研修が欠かせません。そのため,行 政主体で行われる研修の一方で,自己教育力を高めて いく研修をそれぞれの段階で展開していくことが重要」

と述べており,自ら学び続ける姿勢を求めている。

2つ目は本物を体験することである。10 年経験者研 修では総合教育センター外の研修が 2 日あり,病院と 小学校に行った。いずれも自主研修では行くことが難 しい場所である。病院は日頃からお世話になることが 多く,子どもたちのことで連絡を取り合っているが,

子どもを介した付き合いなので,病院が置かれている 状況は知らない。どのような子どもが利用しているの か,病院としての悩みや課題など,知らないことが多 かった。また,小学校では学校安全の最前線を学ぶこ とができた。現場となった場所に立ち,亡くなった子 どもたちを思うと,自身の身が引き締まる思いがした。

当時,あれほど多く報道されたが,こんな気持ちには ならなかった。自ら出向いた研修では,子どもの体験 学習と同じで,知識として知っているだけでなく,全 身で学び・感じることができた。本物に触れることは

「(相手を)より深く知る」ことなのだと考える。研修 の対象人数が多いと,本物に直接触れることは難しい。

時々,演習を加えた研修もあるが,やはり講演形式が 圧倒的に多い。研修=講演という構図が固まりつつあ る。講演で話す人は多くはその道のプロである。本物 である。話を聞くだけでも感銘を受ける人は多いかも しれない。しかしながら,今回の 10 年経験者研修を受 けてみて外へ出向くことの重要性を改めて感じた。ホ ールや教室では学び取れない何かがあった。さらに,

外へ出てみると,日頃はさらっと見過ごしていること や当たり前になっていることが多いことにも気づくこ とができた。

これらのことから研修を企画・実施するには次の要 素が必要ではないかと考えた。

①目的・対象をはっきりさせる

②現状の把握

③実技・演習などの研修形態を加える

④表現の場をつくる(交流・発信)

⑤本物である

色々とやりたいことはあるが,まずは研修の目的や対 象をはっきりさせ,参加者のニーズや現状を把握する。

そして参加者が本物を体感でき,自分の言葉で交流・

発信できるように,企画する。さらに,アンケートや 生の声を聞くことで次回につなげる。このことができ ればより“かゆいところに手が届く”そんな研修がで きるのではないだろうか。

また,本物には見学や体験をする場所や物などのハ ード面と,話を聞いたり,質問をしたりできる人や新 しい考え方を持つ人などのソフト面があると考えられ る。研修として場所や物を提供するには組織が必要で ある。できることは,研修を企画・実施する自分自身 がソフト面を持つ本物となることではないだろうか。

しかしながら,そのような立場になるにはより専門的 な学びを極めなくてはならない。

そこで,もう一つ考えられるのは,自分自身が研修

(対象者)と本物との間をとりもってコーディネーシ ョンすることである。広辞苑でコーディネーションと は「物事を調整してまとめあげること」としている。

2008 年の中央教育審議会答申において,養護教諭はコ ーディネーターとしての役割を担う必要があるとされ ている。なぜ,「コーディネーター」ではなく,「コー ディネーション」なのか。「コーディネーター」は「連 絡・調整役」をさしている。一方,「コーディネーショ ン」は「個人や組織等,異なる立場や役割の特性を引 き出し,調和させ,それぞれが効果的に機能しつつ,

目標に向かって全体の取り組みが有機的,統合的にお こなえるように連絡・調整を図ること」とされている

8)。さらに,養護教諭教育学会(2009 年)のシンポジ ウムで,「コーディネーションは単なる結びつきではな く,理念・信念・意志をもって行うこと」と補足説明 された。そして岡本らは養護教諭のコーディネーショ ン課程には5段階があると報告している(図2)9)。 この課程を経ることで,連絡・調整という“つなぎ役”

ではなく,意志をもった “企画・実施者”となれるの ではないだろうか。養護教諭は今まで校内連携におけ るコーディネートや専門機関とのコーディネート,そ して地域とのコーディネートが主流であった。もちろ ん,現在もその役割は求められているが,さらに一歩 先を見越していくことが議論され始めている。養護教 諭が研修を企画・実施するなら,研修(対象者)と本

(6)

物との間をとりもってコーディネーションする必要が あるのではないだろうか。

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私が企画・実施してきた研修会は,アンケートの結 果や繰り返し参加する人がいることからもわかるよう に,養護教諭にはニーズがある。しかしながら,10 年 経験者研修を受けたことで,企画・実施する研修会を 運営するだけの力量があったかどうかを考える機会と なった。もちろん,10 年経験者研修は多くの方が企画 や運営に携わり,養護教諭の経験者や各分野の専門家 が協力しているのだから,同じ研修としてとらえるこ とには無理がある。しかしながら,「伝える」・「学ぶ」

という方向は同じではないだろうか。10 年経験者研修 のように組織や人材を活かした研修は必要である。一 方で個々の研修ニーズにあった研修も求められている。

様々な所で個々の研修ニーズを満たすことができる場 が少しでも増えればありがたい。しかしながら,個々 の研修ニーズには差があるので,全てを公で満たすこ とは無理である。そう考えると,はやり最後は自主研

修なのだろう。参加する側として,研修に対する自分 のニーズを整理しておくことや,参加予定の研修の目 的などを意識しておくことは重要だと思われる。

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2008 年の研究紀要4)に「養護教諭がそれぞれの学校 で執務につくとき,どうしても一人では解決に結びつ かない課題にぶつかることがある。そんな時に,頼れ る場,あるいはヒントをもらえる場として研修の機会 があればよいと思う。」と書いた。今もその気持ちに変 わりはない。私自身のことでもあるが,“学びたい”と 考えている養護教諭はたくさんいると思う。私は研修 を企画・実施するという機会に恵まれ,そのことだけ でも勉強になっている。学びながらではあるが,養護 教諭が求める研修ができるようになりたい。

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1)釆女智津江ほか:新養護概説<第 5 版>,少年写真 新聞社,176-179,2009

2)釆女智津江:健康教室,特集 養護教諭の現職研修 を考える 養護教諭の現職研修の現状と課題,第 728 号,東山書房,11-13,2011

3)澤 香織ほか:養護教諭の研究活動について~近畿 養護教諭研究会班別資料より~,第 33 回滋賀県学校 保健学会,8-9,2006

4)中尾香織:養護教諭と自主研修2~養護教諭の自主 研修と研究活動~,滋賀大学教育学部附属中学校研 究紀要,第 51 集,101-106,2008

5)北口和美:健康教室,特集 養護教諭の現職研修を 考える ライフステージに応じた養護教諭の研修,

第 728 号,東山書房,14-17,2011

6)中尾香織:養護教諭と自主研修~附属学校で行う研 修の役割について~,滋賀大学教育学部附属中学校 研究紀要,第 50 集,97-102,2007

7)横溝妙子:健康教室,特集 養護教諭の現職研修を 考える 現職研修の講師経験を通して感じたこと,

第 728 号,東山書房,18-21,2011 8)日本養護教諭教育学会用語解説

9)岡本啓子ほか:養護教諭のコーディネーション課程 を構成する要素の明確化,日本養護教諭教育学会誌,

第 13 巻 1 号, 55-71,2010

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情報提供を受けて、個別のニードを発見する

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対象に必要な情報を的確に収集して,問題を導き 出す,また情報を分析する

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チームの共通の目標を設定し、話し合い、方法 を選んで、チームのメンバーの役割を明確にす る

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目標達成のために社会資源を活用し、チームで具 体的な実施を行う

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目標達成やコーディネーションプロセスの評価、

構造評価をチームで行う、アクシデントがあれば 計画の変更や修正を行う

参照

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