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妊産婦のメンタルヘルスの実態把握及び介入方法に関する研究

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Academic year: 2022

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厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)

総括研究報告書

妊産婦のメンタルヘルスの実態把握及び介入方法に関する研究

  研究代表者  久保隆彦(国立成育医療研究センター周産期センター産科医長)

研究要旨

核家族化、女性の社会進出は妊産褥婦へのストレスを増長し、精神的問題の発生が 危惧される。このメンタルヘルスの問題は、母親自身の問題にとどまらず、母子間の 愛着形成を損なう可能性があり、子どもの発達だけではなく虐待発生にも大きな影響 を及ぼす。現状では妊娠中や出産後のメンタルヘルスのリスクアセスメント及び対応 が全くなされておらず標準化もされていない。また、妊娠中とは異なり産後の母親健 診には公的補助がなく、メンタルヘルスリスクの早期発見、介入は困難である。

そこで、妊娠中期、産後に社会経済状況、メンタルヘルススクリーニングを行い、

ハイリスク群の頻度及び妊娠中のメンタルヘルスリスクと産後のメンタルヘルスの経 時的変化ならびに育児行動、妊婦を取り巻く職場の状況、里帰りの有無、地域的特性

(都内と地方都市)、母子関係との関係があるか否か、関与する因子を明らかとし、さ らに、抽出した育児困難、虐待予備群などのハイリスク母親に産後教育プログラムを 介入することで育児ストレスを軽減できるか否かを明らかとする研究計画を立案した。

登録期間は6 カ月であり、縦断的な調査であるために、登録から最終調査まで 10カ 月を要する。研究認可が 9月で、当該倫理委員会の承認が 12月初旬であったため、研 究の登録開始が 12 月中旬となった。1 月末日までの研究参加を同意した登録数は 483 人であり、順調に登録作業が進行している。

児童虐待のハイリスクである自閉症傾向を持つ母親に対する育児支援プログラムに ついてのパイロットスタディを実施した。このプログラムが自閉症傾向の母親の育児 ストレスの軽減へ有効である可能性が示唆された。

副次的産物であるが、研究参加分娩施設、行政から寄せられた不安を解消するため に「世田谷区の妊婦のメンタルヘルスを考える協議会」をこの班で立ち上げ、本年は 2 回の会合を持ち、関係者による意義深い話し合いが行えた。

研究協力者:

森臨太郎:国立成育医療研究センター研究 所  成育政策科学研究部部長

立花良之:国立成育医療研究センター

こころの診療部育児心理科医長

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吉田敬子:九州大学病院子どものこころの 診療部  特任教授

葛西圭子:社団法人日本助産師会  専務理 事

A. 研究目的

核家族化、女性の社会進出は妊産褥婦へ のストレスを増強している。従来から、周 産期にはうつ病をはじめとした精神的な問 題が頻発し、産後うつ病の発生率は10-15% である。メンタルヘルスの問題は母子間の 愛着形成を損なう可能性があり、子どもの 発達にも大きな影響を及ぼす。

周産期のメンタルヘルスのリスクに対し て早期介入が望まれるが、現状の妊婦健康 診査は妊娠中に限定され、メンタルヘルス が悪化する産後には公費助成もなく十分に はおこなわれていない。また、褥婦の尿失 禁、会陰縫合痛、母乳トラブルなどの身体 的・精神的問題もメンタルヘルスに影響す ることが予想されるが、産後のリスクアセ スメントが行われていない。すなわち、育 児困難者の早期発見等に繋が具体的な取組 がない。また、我が国の虐待児の報告数は 確実に増加しているが、我が国の虐待対策 は虐待発生後の対応に終始し、効果的な虐 待予防プログラムは未だ確立していない。

虐待を行う最も多い主体は実母であるが、

その母親への妊娠中からのリスク評価・介 入は未だない。

すでに、「養育支援訪問事業」の「特定妊 婦」への支援事業がすでに構築されている が、具体的な抽出手段がないために活用さ れていない現状がある。

本研究の目的は、妊娠中、産後のメンタ ルヘルスのスクリーニングをすることで、

いつの時期にどの程度の頻度でハイリスク 群(介入必要群)が存在するのかを明らか とすることである。このような研究は現在 国内外でも実施されておらず独創的といえ る。また、妊娠中のメンタルヘルスリスク と産後のメンタルヘルスならびに育児行動、

母子関係との関係があるか否か、メンタル ヘルスのリスク因子を明らかとすることで ある。そして、ハイリスク妊婦への妊娠中 から産後での母親への介入で産後の育児ス トレス軽減、ひいては虐待予防に繋がるか 否かを目的とする。

B. 研究方法

本研究は大きく二つの研究からなる。一 つは妊婦メンタルヘルスの多施設における 縦断的研究である。もう一つは成育医療研 究センターにおいて妊婦メンタルヘルスハ イリスク群への有効で広く実施可能な介入 方法の開発研究である。

[妊婦メンタルヘルス縦断研究]

①研究フィールドおよび対象

今回の研究では将来の全国展開する際に 対応するフィールド設定が必要である。先 行研究のハイリスク妊婦が集中する総合母 子周産期センターである国立成育医療研究 センターであり、このデータから日本の分 娩施設に適用することは問題がある。そこ で、本研究では二つのフィールドを設定し た。

◆東京都世田谷区:都会におけるフィール ドであり、周産期センターだけではなく、

世田谷区に存在する分娩施設である病院3 施設、開業診療所10施設とした。分娩を一

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定数扱う全分娩施設で分娩する妊婦を対象 とした。

◆愛知県西尾市:地方におけるフィールド であり、行政と協力し、母子手帳を配布す る全妊婦を対象とした。

  2012年12月(倫理委員会の承認取得後)

から2013年4月に上記の調査協力施設に訪 れた妊婦で、そのうち、妊娠23週以前であ ることと、その施設に分娩の予約をしたこ とを満たした者で研究への参加を同意した 妊婦が本研究の対象である。

②研究方法

妊娠20週時のベースライン調査に加え、

分娩後入院期間中(産後数日)、産後2週、

1か月、2か月、3か月の5回のフォローア ップ調査(追跡調査)の合計6回の調査を 実施する。(図1)

ベースライン調査は各調査協力施設にお いて、対象者が妊娠17週から23週の妊婦 健診時に実施する。各施設でiPadを用いる か質問紙で回答をしてもらう。各調査協力 施設のスタッフが研究IDを氏名に代えて 入力・記載することで、回答したデータは 連結可能匿名化される。iPad内のデータお よび回答済みの質問紙は、各施設を定期的 に巡回する調査員が回収する。

分娩後入院期間中、産後1か月のフォロ ーアップ調査では、各調査協力施設にて iPadもしくは自記式質問票を用いて対象者 から回答を得る。

産後2か月、産後3か月時の調査は、調 査員による電話での聞き取り、もしくは自 宅への質問票の送付にて調査を実施する。

なお、産後2週時の調査は調査協力施設に よって健診を実施している施設と、実施し ていない施設があるため、施設ごとに健診 時にiPadを用いた調査を実施するか、調査 員による電話もしくは質問票の郵送にする か、を決定することとする。

各調査時における質問内容は図2のとお りである。

本研究への参加に同意をした対象者は同 意書に分娩を予約した施設および氏名、連 絡先、出産予定日を記載する。調査員は各 調査協力施設から対象者の同意書を回収し た後に、ネットワークから独立したコンピ ューターを用いて、対象者の一覧表を作成 する。その一覧表には入力する際に、順番 に研究用IDを付与する。対象者の一覧表は 国立成育医療研究センター研究所内にて保 管し、当該調査に関する連絡、質問票の送 付、電話調査の実施、さらに当該調査の進 捗状況の管理に用いられる。また、一覧表 から対象者連絡先を削除した研究IDと氏 名の照合表はそれぞれの施設にて保管し、

iPadでの調査ならびに調査票への記入を依 頼する際の研究IDの確認に用いられる。対 象者一覧表ならびに照合表は、いずれも各 施設において厳重に管理する。

[妊婦メンタルヘルスハイリスク群への介 入法の研究]

成育医療研究センターこころの診療部育 児心理科外来に通院中で、1歳5か月の児 に対してネグレクトを行っている自閉症ス ペクトラム障害(ASD)の母親1名を対象

に、Barnardのカードを用いて、子どもの出

すサインに敏感に反応するようなプログラ

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ムを実施した。介入前と介入2か月後で育 児ストレスショートフォーム日本語版 Nursing Child Assessment Teaching Scale

(NCATS)を行った。

C. 研究結果

①今年度の研究経過

2012年6月に指定研究の要請があり、研 究計画を7月に提出した。8月22日に厚生 労働省母子保健課より研究交付基準通知が あり、9月10日に交付申請が正式に承認さ れた。そこで、研究計画書を成育医療研究 センター倫理員会に申請した。10月4日と 11月1日に倫理委員会で審議、検討され、

倫理員会の指導に従い研究計画を修正し、

12月5日に本研究が成育医療研究センター 倫理員会で承認された。12月6日に交付金 が振り込まれ、研究に必要な印刷物の作成 その他の準備が完了した。

この倫理委員会での検討中に、世田谷区 の全ての分娩施設14施設へ研究の説明を 行い、参加の同意を取得した。愛知県西尾 市の行政による研究参加も決定した。

12月13日に世田谷区の全分娩施設、精 神科の代表、行政の代表が成育医療研究セ ンターに参集し、研究の詳細への質疑応答 などのキックオフミーティングを開催した。

12月17日から世田谷区で研究参加妊婦の エントリーを開始した。愛知県西尾市でも    に登録を開始した。

班会議は2012年10月29日と2013年2 月4日の2回開催した。第1回は研究計画 の説明とその検討を行い、第2回は初年度 の総括と次年度の研究の進め方を議論した。

   

②研究登録数

  研究開始が12月中旬であったため、今年 度の2013年1月までの登録数でありまだ少 ない。世田谷区では425人、相意見西尾市 は58人であった。20週のベーシカル調査 はまだ少ない。

③世田谷区の妊産婦のメンタルヘルスを 考える協議会 

今回の研究参加施設への説明を行う過程 で、研究の結果抽出された病的妊婦の管理 あるいは紹介先への問い合わせが多くあっ た。世田谷区行政担当者とも協議したが、

精神疾患合併妊婦の紹介にも保健師が困っ ているとのことであった。そこで、この班 で「世田谷区の妊産婦のメンタルヘルスを 考える協議会」を立ち上げた。メンバーは この班の関係者以外に世田谷区の全分娩施 設の産科医師・助産師・看護師、世田谷区 の精神科医、世田谷区行政で周産期医療関 係の医師・保健師などであり、自由に参加 可能である。

2012年10月29日に第1回、2013年2 月7日に第2回を開催した。

第1回は46名の参加があり、研究内容の 説明と質疑応答、うつの予防・スクリーニ ングの方法の紹介、意見交換を行った。以 下の意見があった。

・妊娠期のメンタルヘルスのスクリーニン グツールがあるとありがたい

・メンタルヘルスの状態が良くない方の振 り分けの判断が難しい。

・産婦人科にメンタルヘルスのハイリスク の方が多いことが理解されていない。

・精神的に十分に発育していない母親が増 えている。

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・スクリーニング陰性で後で大きな問題を 起こす妊婦への対応が必要。

・世田谷区の保健師のマンパワー不足して いることは否めないので、妊産婦のメンタ ルヘルスハイリスク妊婦のフォローが不安。

・産科医療施設では産後一ヶ月健診までは フォローできるがその後が心配。

・産後の訪問を4か月まで行っているが約 4割の母親が疲れている。

・こうした調査に回答できない人こそ、リ スクがあるのではないか。回答を拒否した 人、脱落した人を評価することはできない のだろうか。

・こういう顔が見える会があると、今後の 連携に向けて有意義だと思われる。

・精神科医会などでも、妊産婦のメンタル ヘルスの問題を議題にとりあげたい。

  第 2回は41名の参加があり、各参加施設 に行ったアンケート調査を基に議論し、さ らに 5つのグループに分けフリーディスカ ッションを行った。以下の意見があり、議 論した。

・調査に参加して欲しいと思う問題のあり そうな人に限って、調査への参加協力が得 らないケースが多いように思う。→同意を 取得できない人は本研究の特に重要な集団

なので100%の回収率となるようにリクル

ートしていただきたい。

・「気になる患者さん」の把握が困難。→ イエローリストを作成し、スタッフ全員で 共有していく。

・自分でメンタルヘルスのハイリスク者だ という自覚がない人をどう掘り起こしてい くのか。どこまで介入していっていいもの か。精神科への紹介をするべきかどうかに

ついて悩んでいる。妊産婦だけでなく、夫 や家族も気になる人が多い。

<研究サイドからのアドバイス>

・臨床の印象と検査のスコアの印象が異な ることが多いが、件数をみていくとスコア と臨床がなんとなく関連できるようになる。

・フィードバックデータの分け方は施設に よって変更することができるので、ぜひ気 になるデータがあれば事務局に連絡をして いただきたい。

・心理教育等が海外で行われている。認知 行動療法など、メンタルヘルスの向上を目 的としたリーフレット(認知行動療法、リ ラクゼーション、親子の愛着を深める心理 教育)を適宜分娩施設などで配布・活用で きるといいのではないか。また、SOSの連 絡先として保健師の窓口を表記するのはど うか。

<グループワーク>

・色んな職種の人がいて、話し合いの場が もててよかった。

・「気になる妊産婦さん」が増えているの はこの社会・時代特有なのでは。患者に合 った、時代に合ったケアを提供できるよう にしたい。

・精神科と産科の連携がよくとれるシステ ムがつくれるといい。

・精神科への紹介がむずかしい。

<行政の意見> 

・大変だが、今できることをお互いに知る ことができてよかった。自分たちは何がで きるのかを知ること。その隙間がどこに生 じるのかを把握すること。自然にその隙間 を埋める方法を考えていくことで、この協 議会で進むべき方向も明らかになってくる

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ように思う。現場のリアルな声が聞けて課 題を共有できた。『子ども家庭支援センタ ー』で育児に関することなどの相談窓口を もうけているので広報して欲しい。

④妊婦メンタルヘルスハイリスク群への介 入

育児ストレスショートフォームでは、「子 育てに対する負担感」、「夫との関係」が 改善したが、「子どもの育てにくさ」の項 目が悪化した。

NCATSでは「認知発達の促進」の項目は

わずかに上昇していた。

D. 考察

我が国の全妊産婦死亡解析を行っている 池田班(主任研究者も一員)で124人の妊 産婦死亡を解析したところ、その内4人

(3.2%)が精神疾患合併であり、その内3 人が精神疾患のために自殺をしていた。(図 3)また、成育医療センター「妊娠と薬情報 センター」に2011年に相談のあった1178 件中63%が精神疾患薬の相談であった。

(図4)このように、近年精神疾患合併妊

娠が問題となり、早急な対応が望まれてい る。厚生労働省の全国調査でも精神疾患は 大幅に増加し問題となっている。成育医療 センターで管理した妊婦で2002年から 2006年までは84例/6492例(1.3%)が2007 年から2011年では170例/7476例(2.3%)

と増加していた。適切な精神疾患合併妊婦 管理が望まれている。しかも、驚くべきこ とに、約1/4は精神科管理がされておらず、

紹介した産科医の約4割は精神疾患合併を 認識していなかった。認識できなかった原 因として本人が申告することを嫌がったの かもしれないが精神疾患合併妊婦ですら抽 出が困難なことが判明した。この精神疾患 の背景には数倍のメンタルヘルスハイリス ク群が存在しているが、その抽出も困難な

現状がある。メンタルヘルスの評価を一般 の産科施設で容易に行うことは困難である。

本研究はメンタルヘルスの評価だけではな く、そのメンタルヘルスハイリスク群に関 係する社会的・肉体的因子を同時にアンケ ートすることで、メンタルヘルスのハイリ スク群の抽出法を確立することにある。メ ンタルヘルスのリスクは妊娠時期、産後経 過で変化する可能性がある。したがって、

本研究が妊娠中期から産後3ヶ月まで縦断 的に追跡することは大きな意味があると考 えている。(図5)

我が国には、厚生労働省雇用均等・児童 家庭局長(平成21年3月16日、雇児発第

0316002号)通達による養育支援訪問事業

があり、ここに「特定妊婦」が規定され、

妊娠中から産後の支援体制が予算化されて いる。この事業の目的は、育児ストレス、

産後うつ病、育児ノイローゼ等の問題によ って、子育てに対して不安や孤立感等を抱 える家庭や、様々な原因で養育支援が必要 となっている家庭に対して、子育て経験者 等による育児・家事の援助又は保健師等に よる具体的な養育に関する指導助言等を訪 問により実施することにより、個々の家庭 の抱える養育上の諸問題の解決、軽減を図 ることにある。実施主体は市町村であり、

「特定妊婦」は若年、経済的問題、妊娠葛 藤、母子健康手帳未発行・妊娠後期の妊娠 届、妊婦健康診査未受診等、多胎、妊婦の 心身の不調が挙げられているが、全国的に このスキームはほとんど使用されていない。

これは「特定妊婦」が産科医に認知されて いないことと、その抽出法が確立されてい ないためと考えている。本研究で抽出した メンタルヘルスハイリスク妊婦はこの「特

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定妊婦」のスキームに繋げることができ、

妊産婦には大きな福音となる。

さらに、このメンタルヘルスの抽出法が 母子手帳に掲載されれば多くの医療者だけ ではなく妊婦も重要性を認識し、より充実 した妊婦健診が可能となる。

先行研究として、成育医療研究センター では約1600人の妊婦に対して、妊娠中期に うつと対人関係困難を評価したところ 37%もの妊婦がストレスとメンタルヘルス のハイリスク群であることが判明した。そ の意味で本研究の必要性は高い。またその ハイリスク群妊婦の多くは産後もケアと支 援を必要とした。(図6)さらに、追跡研 究で、妊娠中の母親の対人関係困難傾向が 1年後の虐待行動と最も高い相関をもつこ とが明らかとなった。すなわち、この研究 で妊娠中期のメンタルヘルスハイリスク群 が抽出できれば産後の妊婦への介入が可能 となる可能性がある。すでに海外では、様々 な虐待防止に有効な親子関係への介入プロ グラムが作られ、メタアナリシスでも有用 性が証明されている。(Bakermans-  Kranenburug et al.2003)本研究でも我が国の どんな施設にでも使用可能な介入法が確立 すれば全く新しい妊産褥婦管理が可能とな る。

第1子を出産する母の年齢は、2010(平 成22)年で平均29.9歳であり、年々上昇傾 向にある。同年の女性の平均初婚年齢は 28.8歳となっている。この女性達の大学・

短大進学率をみると、2000(平成12)年 48.7%である。高学歴化は、社会的責任を 猶予される「モラトリアム」期間の延長や、

親からの経済的、心理的自立時期を遅くし ている。女性の就業率は、2010(平成22)

年の25歳から29歳では72.7%、30歳から 34歳で64.1%となっている。有配偶でも約 半数が就業している。日本経済は1990年代 初頭のバブル崩壊から長い低迷期にある。

現在、出産期にある女性たちは子ども時代 にバブル崩壊を経験し、就職やその後の結 婚生活にも何等かの経済的影響を受けてい る。全体としては近年の経済状況から出産 後も就業を継続する女性が多いと考えられ る。社会状況としては、インターネットな どの通信技術の発展による生活への影響が 大きい。平成23年通信利用動向調査による と携帯電話は1999(平成11)年末には

67.7%の保有率で2013(平成23)年では

94.5%となっている。パソコン保有率では 37.7%が77.4%となっている。インターネ ット環境が急速に整い、日常生活の多くを ITに依存している世代である。インターネ ットの活用で妊娠経過や出産後の状況など はあふれる情報に良くも悪くも晒されてい る。

以上のような背景から、出産期の妊婦は 精神的、社会的状態は安定しているとは言 えず、ストレスを受けやすい。個々の妊婦 のメンタルヘルスについて妊婦健診の際に スクリーニングを実施し、早期から適切な 介入ができることが望ましい。その意味で この研究は新しい妊産褥婦管理に新しい視 点を与えてくれる。

また、現状では妊婦健診には公的補助券 が配布されているが、産褥婦への健診の重 要性と必要性、さらにはチェック項目の標

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準化ができれば産後の公的補助券獲得の大 きなエビデンスとなる。

E. 結論

本研究の特色は以下のとおりである。

◆横断的ではなく、同一妊婦を妊娠中から 分娩、産後まで縦断的調査であるために、

メンタルヘルスリスク群の各時期における 頻度、メンタルヘルスに影響を与える因子 分析が可能となる。

◆周産期センター、病院だけでなく一般開 業医などの多様な分娩施設で調査を行うた めに、分娩形態における比較が可能となる。

◆世田谷区では全分娩施設が登録施設であ り、地域ベースの検討が可能となる。

◆都会だけではなく地方都市である愛知県 西尾市の地域でも同じ研究を実施するため に、都会と地方の比較可能となる。

本研究が次年度展開し、解析結果が明ら かとなれば、妊産褥婦に優しい全く新しい 妊婦健診、産褥婦健診が可能となる。(図7)

以下が予想されるプロダクトである。

◆産後うつ・妊産婦のメンタルヘルスハイ リスク群の状況と罹患率・発症率・好発時 期が解明され、妊産褥婦健診でのスクリー ニング時期が提言できる。

◆妊産婦および母児関係のメンタルヘルス 課題へのリスク因子と、リスク因子の組み 合わせによるベストのスクリーニング方法 が確立でき、妊娠各時期のスクリーニング 方法を提言できる。

◆各地域におけるメンタルヘルス支援のモ デルを構築でき、メンタルヘルスハイリス ク群への支援方法を提言できる。

さらに、「特定妊婦」の明確化は、早期介 入にむすびつき、これまで分娩後の周産期 管理は児の管理に偏重していたが、母子関 係の評価、母親のメンタルヘルス評価が可 能となり、マタニティーブルース、育児困 難、引いては虐待の防止にも効果がある政 策提言が可能となる。

F.健康危険情報 特にない。

G.研究発表

  研究開始して 2 ヶ月であり、本年度はな い。

H.知的財産権の出願・登録状況 特に予定していない。

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