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地方分権時代の地方議会

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地方分権時代の地方議会

著者 大橋 松行

雑誌名 同志社法學

巻 59

号 2

ページ 221‑255

発行年 2007‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011190

(2)

地方分権時代の地方議会二二一同志社法学 五九巻二号

地方分権時代の地方議会

大 橋 松 行

 (七九一) 第一節 第二八次地方制度調査会の答申

 第二八次地方制度調査会第四回総会(二〇〇五年一二月九日)において、﹁地方の自主性・自律性の拡大及び地方議

会のあり方に関する答申﹂がまとめられ、同日、小泉首相に手交された。この答申の中で、地方議会に関しては次のよ

うな指摘がなされている。

 議会には、多様な民意の反映、さまざまな利害の調整、住民の意見の集約などの役割が求められており、議会の構成や運営において、議会の意思と住民の意思が乖離しないような努力が従前にも増して必要とされている。

 また、議会は、団体意思の決定を行う議事機関としての機能と、執行機関の監視を行う監視機関としての機能を

(3)

地方分権時代の地方議会二二二同志社法学 五九巻二号 (七九二)

担っているが、地方分権時代において、これらの機能の充実・強化が求められている。

 地方公共団体の自己決定権の拡大に伴い、団体意思の決定を行う前提として、議事機関である議会の政策形成機能の充実が求められているほか、地方分権の推進に伴い、地方公共団体の役割が拡大し、また住民への説明責任を

果たすことがますます重要となっていることから、執行機関に対する監視機能についても、その一層の充実強化が必要と考えられる。

 他方、議会の現状については、民意の反映の面からは、議員構成が多様な民意を反映するものとなっていない、住民参加の取組が遅れているといった指摘、また監視機能の側面からは、行政改革や公金支出への監視が十分でな

いなどの指摘のほか、議員定数が多すぎる、報酬が高すぎる、透明性が低いなどの指摘もある。 その一方で、休日、夜間の議会開催やインターネットの利用などにより積極的に議会の審議の公開や広報活動を

行う、条例案等の議員提出を積極的に行うなど、新しい時代の議会に期待される機能を発揮すべく、さまざまな積極的取組を行って議会改革に取り組んでいる議会も見られる。また、議員定数、報酬についても自主的に抑制を行

っている議会も多くなっている。

 答申では、このような﹁議会に対する期待と評価﹂を行ったうえで、地方分権時代においては、議会における利害調整機能、議事機関としての政策形成機能、監視機関としての機能の充実が図られるよう、その見直しを検討すべきであ

るとしている。これは裏を返せば、これまでの地方議会は利害調整機能、政策形成機能、監視機能といった本来の役割機能を十全に果たしてきていないことを意味している。地方議会のあり方については、第二六次地方制度調査会の答申

1

(二〇〇〇年一〇月二五日)においても、また、地方分権推進委員会第二次勧告

(一九九七年七月八日)においても触れ 2)

(4)

地方分権時代の地方議会二二三同志社法学 五九巻二号 られている。本稿では、主としてこれらの答申や勧告で提示されている事項、とりわけ地方議会が抱えている問題点について分析を行うとともに、地方分権時代に対応した地方議会や議員のあり方についての一端を考察することにした

い。

第二節 二元代表制としての地方自治

 憲法第九三条第一項は議事機関として議会を設置するものとしている

1

.住民の代表機関としての首長と議会

。これに基づき、地方自治法第八九条は地方公 3

共団体に議会を置くことを定め、都道府県議会および市町村議会が設置されている。議会の構成員である議員は、憲法第九三条第二項によって、首長とともに住民の直接選挙によって選ばれ、また議会は、﹁議決・執行機関分立の原則﹂

によって地方自治法第九六条から第一〇〇条に規定された権限を行使する

 このように日本の地方自治は、一元代表制(議院内閣制)をとっている国政と異なり、首長と議員をそれぞれ有権者 。 4)

が直接選挙で選出する二元代表制(首長主義

)をとっている。二元代表制のもとでは、首長も議員もいずれも﹁民意の 5)

代表

抑制によって職務権限を分担し、それぞれが直接住民に対して責任を負うところにその特徴がある。つまり、﹁二元代 ﹂であり、執行機関としての首長と議決機関(意思決定機関)としての議会が各々独立し、互いの緊張関係と相互 6)

表制というのは、議会と首長とが、緊張を伴った対等者関係(パートナーシップ)にあるということを意味している

 もう少し地方議会について説明を加えておこう。憲法に規定されているように、議会は議事機関であるが、それは住 ﹂。 7)

民の代表が集まって形成された合議体であり、住民の間に存在する多種多様な利益関心や意見の分布を直接的に反映さ

 (七九三)

(5)

地方分権時代の地方議会二二四同志社法学 五九巻二号

せ、審議過程において政策課題を提起し、争点を鮮明にさせ、公開の審議を通じて広く住民にそれらを知らせるところ

に合議体の議事機関としての議会の特色がある

度であるため、議会には住民の意思と利益を代表し、行政を監視・牽制し、地域内の対立を調整し、地域社会をまとめ 。このように、議会は地域政治を代表し、地域利益のために発言する制 8)

あげ安定させることが期待されるのである

 首長と議会は、どちらが民意をより的確に反映しているかに関して、代表機関として住民に対し説明責任を全うでき 。 9)

るかという点で競い合うことが本来の姿である。つまり、両者の本来的関係は﹁機関間対立主義﹂であり、その意味で、制度上、議会は監視・批判・修正・代替案の提示等を通じて首長に対して全体として野党的な機能を果たすことが求め

られる

意味するのではない。二元代表制においては与野党関係、すなわち﹁首長与党﹂も﹁首長野党﹂も本来的には存在しな 。現実には議会内に多数派と少数派とが生じうるが、それは首長に対して与党会派・野党会派に分かれることを 10

いのである。

 本来、首長と議会は緊張を伴った対等者関係にあるべきなのだが、現実は本来的あり方から距離がある。伊藤光利や

― 2

.首長議会関係の類型

西村弘一は両者の関係を次のように類型化しているので、それについて若干整理しておくことにする。 伊藤は、両者の関係を合意型、対立型、相乗り型に分けて、それぞれの型の特徴を次のように述べている。①合意型:

主要な目標について首長と議会と住民の間に基本的な合意が存在する。特に、経済発展は多くの自治体の合意ある目標である。この型では、首長も議会多数派も保守系に占められているのが普通であり、中央政府との関係は協働的であり、

地元への利益誘導のために活発な働きかけがなされる。②対立型:重要な政策について首長=執行部と議会の間に基  (七九四)

(6)

地方分権時代の地方議会二二五同志社法学 五九巻二号 本的対立が生じる。例えば、高度経済成長期後半の一九六〇年代半ば頃から顕在化した成長のひずみとその是正をめぐる地域対立がその典型である(革新首長と保守議会との対立)。③相乗り型:一九八〇年前後から、特に大都市部にお

いて多くの政党が首長を支持することによって顕在化してきた首長と議会の関係性。これは、保守と革新を対立させた争点の希薄化、地方財政の悪化、大都市部の多党化、各党の与党選好、首長の脱政党化といった要因の複合によっても

たらされたものである

 他方、西村は、強議会・弱首長型、弱議会・強首長型、議会・首長対立闘争型に分けて、それぞれの型の特徴を次の 。 11

ように述べている。①強議会・弱首長型:この型は、議会が法律の権限の限界を誤解し、地方公共団体の最高機関としての意識のもとに活動するものである。これは国政における国会優越主義の意識の作用により、議会と首長の権限の

不当な混同または過度な密着化に基づくもので、議会の活動が活発で強すぎ、具体的な行政執行上の問題について首長を圧倒し、行政能力の低下をきたしている。また、首長の所属政党あるいは行政執行に対する不満、首長の能力に対す

る不信によって執行権に介入するものである。これは議員が広範囲な地域から選出される都道府県および政令指定都市または大都市において比較的多くみられる。②弱議会・強首長型:これは町村に多くみられる型で、議員と首長との

地縁的・血縁的・職縁的紐帯に基づき、首長が圧倒的に強く議会が首長の諮問機関化し、首長に対する依存が過重とな

り、その負担のため議会の審議が萎縮し、議会の機能が著しく低下する。③議会・首長対立闘争型:議会と首長の双方が意思の疎通を欠き、相互の協力関係が失われ、機能面での調整と統一を全く欠いた、激しい機関間対立の状態にあ

る関係性

 両者はそれぞれ異なった視点から類型化を試みているが、都市規模別でみれば、町村レベルにおいては合意型や弱議 。 12

会・強首長型が優位し、都道府県レベルおよび都市規模が大きくなるにしたがって対立型(議会・首長対立闘争型

)、 13

 (七九五)

(7)

地方分権時代の地方議会二二六同志社法学 五九巻二号

相乗り型、強議会・弱首長型が優位しているといえるであろう。この類型は現在においても十分に適合的ではあると思

われるが、民主党が小沢代表のもと、都道府県および政令指定都市での首長選挙において自民党との相乗りを原則禁止する方針をとっているため、相乗り型、特に﹁オール与党﹂的な体制は減少に転じる可能性がある。首長と議会との﹁オ

ール与党﹂的な体制は、日本の地方自治が首長主義の立場をとっているということと、もともと地方行政というものがイデオロギーに比較的左右されない、毎日の住民生活の積み上げに関連した仕事であるという要因を背景にして現出し

ているとする見方もある。特に、首長選挙を通じてオール与党化のような形をとる傾向があるということは否定できない

。民主党の相乗り禁止の方針は、いわば入口のところで﹁オール与党﹂的な体制に楔を打ち込む可能性を有して 14

いる

 また、最近の新しい傾向として、いわゆる﹁改革派知事﹂と議会との関係をみておく必要があろう。一九九〇年代初 。 15

頭から、﹁改革派知事﹂とよばれる新しいタイプの知事が次々と誕生した。例えば、高知県の橋本大二郎知事(一九九一年、NHKの放送記者)、宮城県の浅野史郎知事(一九九三年、厚生官僚)、三重県の北川正恭知事(一九九五年、国

会議員)、岩手県の増田寛也知事(一九九五年、建設官僚)、鳥取県の片山善博知事(一九九九年、自治官僚)などはその先駆け的存在である。

 彼らに共通しているのは、就任当初から県政改革に取り組み、県庁職員や議員の意識を変えたことである。なぜそれが可能であったのか。それは選挙の戦い方(=選挙のスタイル)と議会に対して臨む姿勢に大きな要因がある。政党や

利益団体・圧力団体などとの関係を断って無党派選挙や草の根選挙で戦う(浅野、橋本、増田)にしても、あるいは、選挙の際に政党の推薦や支持・支援を受ける(北川、片山)にしても、議会に対しては﹁是々非々﹂で臨むという姿勢

に徹するというポリシーを一貫してもっていたということである

。その意味では、﹁改革派知事﹂と議会との関係は是々 16  (七九六)

(8)

地方分権時代の地方議会二二七同志社法学 五九巻二号 非々型(=バランス型)として類型化できるであろう。 ここで﹃朝日新聞﹄(二〇〇七年三月一八日付)に鳥取県の片山県政二期八年を検証した記事が掲載されているので、

それについてみておくことにしよう。片山知事の身上は、﹁情報公開﹂を地方自治の原点と位置づけ、﹁透明性﹂を軸にした行財政改革の追求にあった。片山知事の持論は﹁予算の無駄遣いや行政の病を克服するには情報公開しかない﹂で

あり、情報公開を武器にして、査定途上の予算案の全事業のホームページでの公開、すべての懲戒処分の実名公表、県議の口利きの記録と公開、職員給与の実態公表などを行うことによって県政改革を断行したのである。特に、議会との

関係においては徹底した﹁議場重視﹂の方針をとり、水面下での﹁根回し﹂を排し、県職員が県議の質問を事前に探って想定問答を作る作業をやめた。例えば、二〇〇三年には予算査定の公開を行い、﹁事業が必要な理由﹂﹁どの事業にい

くら予算をつけるのか﹂﹁事業を却下した理由﹂を県のホームページに随時載せた。このことによって査定の過程が透明化され、従来のように査定確定後に県議の一声で数億円の事業が追加されることもなくなった。このような片山知事

の県政運営に関して自民党系会派会長の石黒豊県議は﹁支援者に頼まれた事業をねじ込むタイミングがない。片山県政になって議員の仕事の九〇%が奪われた﹂とか、﹁根回し廃止などに当初は反発したが、議場で物事を決めるという議

会の本当の役割を気づかされた﹂と述べている。この県議の言葉から、片山県政以前の議会がその本来あるべき姿から

いかに遠い存在であったかをうかがい知ることができる。 ちなみに、片山県政以前と以後とではどのように変わったのか、その一端を数字でみておくことにしよう。①情報

公開:情報公開度ランキング⋮全国第一九位(一九九八年度)↓全国第六位(二〇〇六年度、ちなみに二〇〇三年度および二〇〇五年度は第一位)、県民の声(電話、ファックス、メール)⋮八九件(一九九八年度)↓二、六〇〇件(二

〇〇六年度)、全面開示された情報公開請求⋮一四件(一九九八年度)↓八五件(二〇〇五年度)②議会との関係:議

 (七九七)

(9)

地方分権時代の地方議会二二八同志社法学 五九巻二号

会が修正・否決した知事提出議案⋮〇(一九九一~一九九八年)↓一一件(一九九九~二〇〇六年、全国第二位)、議

員提案で成立した政策条例⋮〇(一九九一~一九九八年)↓八件(一九九九~二〇〇六年、全国第三位)③県財政:予算規模⋮四、四〇二億円(一九九八年度)↓三、七四五億円(二〇〇六年度)、公共事業費⋮三、七四五億円(一九

九八年度)↓七八三億円(二〇〇五年度)、職員の給与水準(ラスパイレス指数)⋮一〇三・〇(一九九八年度、全国第二〇位)↓九六・五(二〇〇六年度、全国第四一位)、プライマリーバランス(歳入と歳出の実質的な収支)⋮赤字

五〇九億円(一九九八年度)↓黒字一四六億円(二〇〇五年度)など

 なお、片山知事は知事の専権事項とされる入札制度の変更に、議会の承認を義務づける全国初の条例である﹁県入札 。 16

制度手続き条例﹂を提案し、県議会で可決された(二〇〇七年三月九日)。首長の裁量権を自ら狭める提案の理由について、片山知事は次のように述べている。﹁県政の最終決定者は知事ではなく議会。議員はそれだけの自負を持ってほ

しい

た制度にするための試金石といえるであろう。 ﹂。この片山知事の決断は、議会に対する首長の優位的権限を見直して、二元代表制にふさわしいバランスのとれ 17

第三節 地方議会の実態

 佐々木信夫は、本来、地方議会に期待される役割を次のように要約している。①批判機能が期待され、議会の監視

機能として"首長独走"を抑制する最終的保障の機能と首長に対する野党の役割が期待されている。②政策機能が期待され、議会は市民の要望と要求を執行機関の理事者に伝える利益代弁者に止まらず、政策の積極的提案や利害の建設

的調整、政策の優先順位づけを行う役割が期待される。③教育機能が期待され、議会は市民の多種多様な利益・意思  (七九八)

(10)

地方分権時代の地方議会二二九同志社法学 五九巻二号 を直接反映し、議会審議の過程で多様な政策選択肢を提示し、市民に争点を明確にする役割をもつ。④参加機能が期待され、議会は各種の住民参加や運動に反発したり、それを軽視するのではなく、市民参加のもつ可能性を積極的に引 き出し、議会参加の可能性を拡大する役割をもつ

 いずれも議会に期待される本来的役割機能であるが、その中でも特に重要だと思われる二つの機能、すなわち、行政 。 18

に対するチェック機能・監視機能と政策立案機能について、その実態をみておくことにしよう。

 この役割機能を果たすには議会が首長=執行部に対して野党的立場に立っていなければならない。だが実態は、首長

1

.行政に対するチェック機能・監視機能

選挙で推薦や支持をした候補者が当選すると、彼を推薦や支持した議会勢力は、議院内閣制をモデルにしたような政治行動をとる。いわゆる﹁首長与党﹂として振舞うし、また首長および執行部もこれらの議会勢力を﹁与党﹂とみなして、

彼らと緊密な関係を構築・保持し、政策形成について事前に相談や協議をしたり(=﹁根回し﹂による施策・事業の決定)、予算編成や事業執行について何かと便宜を図ったりする(﹁与党﹂議員の要請に応じて個所付けを行うなど)。そ

の結果、執行機関と﹁与党﹂との間には緊張関係(=﹁是々非々﹂関係)ではなく、﹁是々是々﹂の﹁馴れ合い﹂関係

や﹁癒着﹂関係が形成される。この行き着くところは自治体の﹁財政破綻﹂であり、その典型的な事例が北海道夕張市の財政破綻・財政再建団体への転落である。

 少し夕張市の事例について説明しておこう。夕張市は日本有数の炭鉱の町であったが、最多で二四あった炭鉱は一九六〇年代から閉山が相次ぎ、住宅買い取りなどの後処理で市に約三三〇億円の債務が残った。その後、市は一九七〇年

代後半から手がけた観光投資など乱脈経営によって赤字は三五三億円に増大した。長年、市は帳簿操作で決算は黒字を

 (七九九)

(11)

地方分権時代の地方議会二三〇同志社法学 五九巻二号

装っていたが、二〇〇六年六月に負債約六三〇億円を公表して財政再建団体申請を決定、二〇〇七年三月六日に正式に

財政再建団体になった。財政再建団体になったことによって、夕張市は国の管理下で今後一八年間で巨額の借金を返すことになり、その間、市民税や公共料金の引き上げ、市職員削減による公共サービスの低下といった負担を強いられる

ことになる

密室の議員協議会で決め、議場では批判的な質問を閉ざす。市議会は問題点を市民に示せなかった﹂。空前の赤字体質 。このような事態にいたった原因について、ある市議は次のように述べている。﹁重要案件は議事録がない 19

を見抜けなかったのは、市議会が反論を認めない異常な雰囲気に支配されていたからだ、ということなのである

の側にも問題があったとの指摘もある。元炭鉱員で市老人クラブ連合会長は、﹁以前は住宅から水道まで炭鉱会社に面 。市民 20

倒を見てもらっていた。数年前から市の財政難がささやかれても、依存体質は不変。一昨年、市が経費削減に市内五ヵ所の連絡所廃止を打ち出し、住民説明会を開いたら大反対。市がやむなく存続させたこともあった

﹂。行政だけでなく、 21

市長や市議を選んだ住民にも責任の一端はある。夕張市の財政破綻は執行機関・議会・住民の三位一体の﹁密室体質﹂﹁馴れ合い体質﹂﹁依存体質﹂の果実(=負の遺産)であったのである。

 チェック機能・監視機能の不十分さは、世論調査によっても示されている。それを読売新聞社の全国世論調査(二〇〇二年調査および二〇〇七年調査)でみておこう。二〇〇二年調査では、﹁あなたは、今住んでいる市町村の議会は、

行政に対するチェック機能を果たしていると思いますか、果たしていないと思いますか﹂という質問に対して、﹁果たしている﹂が三〇・五%(﹁大いに果たしている﹂二・九%、﹁多少は果たしている﹂二七・六%)、﹁果たしていない﹂

が五二・六%(﹁あまり果たしていない﹂四一・三%、﹁全く果たしていない﹂一一・三%)となっている

〇七年調査では、﹁あなたは、都道府県や市町村の議会は、それぞれの自治体の行政に対するチェック機能を果たして 。また、二〇 22

いると思いますか、果たしていないと思いますか﹂という質問に対して、﹁果たしている﹂が三〇・六%(﹁大いに果た  (八〇〇)

(12)

地方分権時代の地方議会二三一同志社法学 五九巻二号 している﹂三・三%、﹁多少は果たしている﹂二七・三%)、﹁果たしていない﹂が五六・六%(﹁あまり果たしていない﹂三九・九%、﹁全く果たしていない﹂一六・七%)となっている

pe rs on al qu es tio n

。前者は個人的質問()、後者は一般 23

的質問(

im pe rs on al qu es tio n

)というように意識の問い方の違いはあるが、この調査結果をみる限り、多くの有権者は、地方議会は行政に対するチェック機能・監視機能を十分果たしているとは思っていない、ということである。

 

法によって、法制度上は国、都道府県および市町村相互の関係が従来の上下・主従の関係から新たな対等・協力の関係  地方分権時代においてとりわけ重視されるのが政策立案機能である。二〇〇〇年四月一日に施行された地方分権一括

2

.政策立案機能

へとシフトした。特に、機関委任事務が廃止されたことは、これまで地方議会の関与と住民への責任を排除してきた官治システムの廃止を意味し、これによって地方議会は初めて、住民の代表機関としての本来の機能を発揮できる法制度

上の扱いを受けることになったのである。自治事務に対しては議会の条例制定権が及ぶことになり、この面での自治体全体の意思決定における議会の比重が高まったことになる

24

 そこでまず、議会の政策立案機能の発揮度を示す一つの指標として議員提案の政策条例の成立状況をみておくことに

しよう。ここでいう政策条例とは、市民の暮らしに直接関わる一般施策に関する条例のことである。二〇〇七年二~三月上旬に、朝日新聞社が議員提案による政策条例の成立状況(一九九七年~二〇〇六年末)を、四七都道府県と一五政

令指定都市の議会を対象に調査しているので、それに依拠してみておくことにする(調査結果は﹃朝日新聞﹄二〇〇七年三月一一日付で公表)。

 それによると、都道府県議会での成立は九九本で、成立年別では一九九七~一九九九年:五本、二〇〇〇年:八本、

 (八〇一)

(13)

地方分権時代の地方議会二三二同志社法学 五九巻二号

二〇〇一~二〇〇四年:年一一~一四本、二〇〇五年:二二本、二〇〇六年:一五本となっている。都道府県別では最

多の宮城県が一四本、以下三重県一〇本、鳥取県八本、高知県および島根県七本、岩手県および広島県四本となっている。他方、この間一本も成立しなかった議会は青森県、山形県、新潟県、群馬県、東京都、神奈川県、山梨県、愛知県、

石川県、兵庫県、福岡県、長崎県、熊本県の一三都県にのぼる。うち群馬県、山梨県では一九四七年に地方自治法が施行されて以来、議員提案による政策条例が一本も成立していない。新潟県議会も同じような状況にあったが、二〇〇七

年二月九日の定例会初日に、﹁がん対策推進条例案﹂が半数を超す自民、社民、公明三会派の議員四六人の連名で提出された。

 このように、都道府県議会において議員提案の政策条例が多く成立しているのは、﹁改革派知事﹂のいた議会に集中している。これらの議会では、﹁改革派知事﹂に押される形で、あるいは﹁改革派知事﹂に対抗して、議会の存在感を

示す必要に迫られて政策条例を作ってきたのである

 政令指定都市の議会では二〇〇二年以降に一〇本が成立した(二〇〇二年:三本、二〇〇四年:二本、二〇〇五年: 。 25

一本、二〇〇六年:四本)。最多は福岡市の五本で、以下札幌市二本、仙台市、さいたま市、広島市でそれぞれ一本で、他の一〇市は一本も成立していない。その一つの名古屋市議会では、議員提案には主要会派の了承が必要との﹁慣例﹂

があり、それが条例の議員提案を妨げている一つの要因になっていると考えられる。 朝日新聞社の調査結果からもわかるように、政策立案の役割を果たす議会が増えている一方で、旧態依然とした議会

も多い。その主な理由として、これまで次のようなものがあげられてきた。①行政が複雑多様化したため条例の立案が困難になったこと。法律、政令、中央省庁からの通達、他の地方団体への影響等を総合勘案し整合性のとれた条例案

を作成することは、議員には困難である。②首長を支持する議員は自己の政策、意見、要望等を議会の内外で首長に  (八〇二)

(14)

地方分権時代の地方議会二三三同志社法学 五九巻二号 伝えれば、可能なものから予算化、条例化するので、自ら提案する必要がないこと。③議員提出条例案を作成する補助職員がいないことである。議会事務局は設置されているが、職員数は少ない。④議員が政党化している都道府県議 会や市議会において政党独自の政策担当職員は極めて少なく、政策の資料を当該団体の執行機関や議会事務局に頼っていること。⑤条例案は首長が提出するものとの観念が議員にあるのではないかということ

26

 これらのうち、②と④と⑤は、法的・制度的理由というよりも、むしろ﹁議会人﹂や﹁政党人﹂としての資質や姿勢が問われる﹁理由﹂である。過去一〇年間(一九九七~二〇〇六年)で議員提案の政策条例ゼロの兵庫県議会の自民党

県議の次の言葉は、そのことを如実に示している。﹁役所の条例制定にも事前にかかわっている。議員提案が無いからといって仕事をしていないわけではない﹂。このような議員および議会会派の認識が、首長提出議案の圧倒的多さと、

原案可決率の非常な高さとを結果している。見方をかえれば、議会を﹁執行部の追認機関﹂と位置づけることによって、﹁首長与党﹂のうまみに安住しているともいえる。逆に、このような理由づけはもはや通用しないとの認識を示す議員

がいることもまた事実である。過去一〇年間で一〇本の政策条例を成立させた三重県議会の民主系会派﹁新政みえ﹂の三谷哲央代表は﹁条例づくりを通じて政策立案が大切な仕事だとの合意が議会内にできた﹂と述べている

。両者の温度 27

差は非常に大きい。

 ①と③は、法的・制度的理由と考えられる。佐藤竺は、地方議会が﹁十全﹂といえるためには、歳入歳出予算の実質的決定権と監査機能、立法権、行政監督権の三権能を掌握していることが必要であるとしたうえで、日本の地方議会が

﹁不全﹂状態に陥っている理由として次のようなものを指摘している。第一は、地方議会は立法機関として位置づけられていないということである。とりわけ、機関委任事務の拡大・維持が議会権限の縮小をもたらした。第二は、行政機

能拡大・行政権強化に伴う首長と議会との権能のアンバランスである

28

 (八〇三)

(15)

地方分権時代の地方議会二三四同志社法学 五九巻二号

 これに対して、村松・伊藤は次のような見解を示している。第一に、行政機能の拡大による議会の機能の相対的低下

は、現代民主政治の一般的傾向によるものであるから、わが国の地方議会に特有の問題ではない。こうした議会の機能低下論における議会評価の基準は通常その立法能力、すなわち具体的な法律(条例)形成作業の能力であるが、近代議

会の成立以来ごく一部の例を除けば、議会がこのような意味での立法体であったことはなく、議会政治の母国、イギリスの議会も立法体ではなく、審議体とよばれたゆえんである。世界の議会の中でも極めて例外的な存在であり、最強と

いわれるアメリカ連邦議会においてすら、今日では多くの法律の形成作業は行政部において行われ、法律上形式的に議員が提案者になるにすぎない。第二に、中央集権的統制による地方議会の排除の傾向は、特に機関委任事務に典型的に

みられるとされる。中央各省から自治体の首長に委任される大量の機関事務が、地方議会の審議の範囲や行政監視の機能を制約していることは事実である。地方議会は、機関委任事務に対する直接的な法的関係から排除されているからで

ある。しかし、地方議会が機関委任事務に示された国の意思に同意できない場合には、決定的な法的効果をもたないながらも、議会は住民の代表機関としての特別の重みを加えて反対の意思を表明することが可能である。地方議会がどう

活動し機能するかは、単に法的規定によって一義的に決まるものではない

 このように、佐藤と村松・伊藤の見解は大きく異なっているわけであるが、確かなことは、地方分権一括法によって、 。 29

機関委任事務が廃止されたのを機に、国の関与が縮小し、自治体が自らの判断・決定と責任のもとに実行すべき範囲が拡大したことである。それはすなわち、議会が果たすべき役割と機能および責任が拡大し、それに対応して議会権限の

発揮に努めることが、これまで以上に要請されていることをも意味する。議会の構成員である議員が、自治体全体の公益性をにらんで自らの政策を主張し、議論する姿勢をもつこと、それによって議会が本来の政策議論の場となっていく

ことが求められているのである

。そのためには議会事務局の機能も充実させる必要があるが、都道府県議会のうち六割 30  (八〇四)

(16)

地方分権時代の地方議会二三五同志社法学 五九巻二号 はここ数年、条例づくりを支援する法制担当課を事務局に設けたり、スタッフを増員したりして体制を強化している。例えば、広島県議会は二〇〇四年度に五人体制の企画法制室を新設、和歌山県議会は二〇〇六年度に調査課に政策班(四 人)を設けた。また、三重県議会は二〇〇六年度に議会事務局の法務・調査担当を四人増やして三七人とした

 では、今日の地方分権時代において、どのような議会が求められているのであろうか。次にそのことについて考察し 。 31

てみることにしよう。

第四節 協働社会の議会像

pa rtn er sh ip

 まず、協働とは何かということからみていこう。協働には﹁パートナーシップ()﹂﹁コラボレーション

1

.協働型議会の構想

co lla bo ra tio n

)﹂﹁コプロダクション(

co pr od uc tio n

)﹂などの形態がある。パートナーシップとは、ある共通の目的のために、協調、協力、提携し合う主体間関係のことである

。この場合の協働は、非限定的・包括的な、運命共同体的な 32

協力関係をさす。コラボレーションとは、﹁複数の主体が対等な資格で、具体的な課題達成のために行う、非制度的で

限定的な協力関係ないし共同作業である﹂。これも主体間関係を示す概念だが、それは﹁対等性﹂、課題達成志向的で短期的・一回起的な﹁限定性﹂、法的な裏づけや職務上の権限関係・雇用関係などがない、越境的・脱領域的な﹁非制度性﹂、

そのことによって、既存の価値を超えた新しい価値の創造をめざす﹁価値創造性﹂を特質とするものである

コプロダクションとは、協働を主体間の関係だけに限定せず、主体それぞれよりも関係をもつことによって、新たな何 。そして、 33

かを生産するという結果を含みこんだ概念である

34

 (八〇五)

(17)

地方分権時代の地方議会二三六同志社法学 五九巻二号

 このように協働という言葉は、多義的な概念であるが、地方分権時代の協働社会においては、行政だけでなく地方議

会をも含んだ自治体と住民との協働関係の構築が要請されるので、ここではそこに視点を置いて地方分権時代に期待される﹁協働社会の議会像﹂について考察してみることにする。これに関しては、示唆に富む江藤俊昭の﹁協働の時間軸﹂

を用いた地方議会の構想を援用して考えてみたい。 江藤の構想は次のようなものである。二〇世紀に特徴的であった﹁福祉﹂自治体の時代(=中央集権制)は、公共サ

ービスの担い手が政府に限定され、その政府自身は官僚主義的温情主義として作動していた。自治体の権限は弱く、政策形成にあたって議会の影響力は少ない。住民は受動的で、個別利益追求という特性をもち、議会は住民からの要望や

陳情を処理する陳情型議会として機能していた。今日の地方分権時代には、自治体の権限強化の一方で、住民の側に権限をシフトさせることが意図されている。住民は、政策形成過程はもとより、公共サービスの提供でも重要な役割を担

う。自治体と住民との協働は当然であり、むしろ住民主導の協働がイメージされる。ここでは、権限は住民の側にシフトしてきているものの、決定は自治体側にある。議会については、専門性を重視し、住民と意向が対立した場合は議員

の意思を重視する意向が強い監視型議会と、その場合は住民の意向を尊重するアクティブ型議会とに二極化する。そして、ポスト地方分権時代に想定されるシティズン・ガバナンスの時代には、自治体自体は否定されないものの、住民が

決定主体となり、議会はそれを調整し承認するという調整型議会として機能する。つまり、ここでは争点の明確化、情報の提供、参加の制度化、市民と自治体との協働の舞台設定、対立する利害の調整、そして市民から提起された論点を

選択することによる最終決定、などを担う議会像がイメージされている

― ―

 このように、江藤は﹁協働の時間軸﹂を﹁福祉﹂自治体時代地方分権時代シティズン・ガバナンス時代とし 。 35

て設定し、各時代の議会像を描いているが、ここではシティズン・ガバナンス時代の議会像を、将来期待される議会像  (八〇六)

(18)

地方分権時代の地方議会二三七同志社法学 五九巻二号 として視野に入れながら、地方分権時代(=協働社会の時代)の議会像を描写しておきたい。江藤は次のようにいう。﹁協働時代だからこそ、住民が積極的に政治に参加する原則が開花するし、議会独自の役割が脚光を浴びる。その独自の役

割とは、住民参加制度によって提起されたさまざまな住民の意見を調整しながら全体的長期的なビジョンを形成する役割である﹂。このような議会を、江藤は﹁協働型議会﹂(=住民と協働する議会)として提起している。この協働型議会

は二つの議会を構想している。一つは、監視や政策立案能力を高める議会としての﹁監視型議会﹂で、この議会は住民から直接選挙された首長とチェック・アンド・バランスを行うという意味で住民と協働する。いま一つは、住民と討議

し住民とともに活動する議会としての﹁アクティブ型議会﹂で、この議会は住民が直接議会に参加するという意味で住民と協働する。この両者の機能をあわせもった議会、より精確にいえば、アクティブ型議会を踏まえた監視型議会が協

働型議会なのである

 江藤の構想する協働型議会を構築する一義的責任は議員にある。同時にそれは、地域住民がそのような議員を選挙時 。 36

に選出できるかどうかにかかっている。協働型議会を構築するためには、さまざまな﹁仕掛け﹂が必要である。その中で、特に重要で有効だと思われる﹁仕掛け﹂が、ローカル・マニフェスト型選挙と自治基本条例および議会基本条例の

制定である。以下で、これらについて少し考察しておきたい。

2

.ローカル・マニフェスト型選挙  マニフェストは、一般に、政策中心の選挙と有権者本位の政治を可能とする﹁ツール(道具)﹂であり、選挙以降、政権実現後にも政治を透明化し、責任ある政権を作り出す﹁道具﹂である

。マニフェストには政党が示す﹁パーティ・ 37

マニフェスト﹂と首長が提示する﹁ローカル・マニフェスト﹂とがある。国政選挙(第四三回衆議院総選挙)でマニフ

 (八〇七)

(19)

地方分権時代の地方議会二三八同志社法学 五九巻二号

ェストが導入される七ヵ月前の二〇〇三年四月の統一地方選挙で、日本で初めてこのような形での首長選挙が行われた

(知事選挙一一人、市長選挙三人)。 二〇〇七年二月に公職選挙法が改正され、今回の統一地方選挙から首長選挙においては選挙期間中の配布が認められ

るようになった

た、世論調査などではマニフェストを参考に投票するという有権者も増えている。これを各新聞社のアンケート調査で 。この制度改正も後押ししてか、立候補予定者の大半がマニフェストの作成・配布を予定しており、ま 38

みておこう。 毎日新聞社のアンケート調査(二〇〇七年二月下旬~三月一三日)によれば、今回の統一地方選挙で行われる一三知

事選挙と四政令市長選挙で、立候補予定者四九人のうち四七人がマニフェストを﹁作成する﹂﹁作成を検討中﹂と回答している(政令市長選挙の新人一人は﹁わからない﹂と回答、現職知事一人は﹁作成しない﹂と回答)。作成の理由は、

﹁具体的な政策を示すのは当然﹂が七割を占め、﹁公選法改正で配れるようになったから﹂が二割となっている。また、マニフェスト解禁については九割が歓迎している(﹁よかった﹂三六人、﹁多少はよかった﹂八人)し、過半の立候補予

定者が有権者がマニフェストの内容を読んで投票を決めるとの認識を示している(﹁決める﹂三人、﹁ある程度決める﹂二二人

)。 39

 他方、有権者は投票する際、何を判断基準と考えているのだろうか。毎日新聞社のアンケート調査では﹁マニフェストを参考にする﹂とした有権者は七一%であった(男性七三%、女性六九%

)。また、読売新聞社の世論調査では、一 40

三都道県全てで﹁政策や公約﹂が六割を超え、﹁候補者の経歴やイメージ﹂﹁支援している政党や団体﹂を大きく上回った。有力候補が政党の推薦をうけていない東京都では﹁政策や公約﹂が七一・三%で、一三都道県では最も多く、﹁政

党や団体﹂は八・一%で最も少ない。他方、自民、公明両党の推薦候補と、民主、社民両党の推薦候補が激突している  (八〇八)

(20)

地方分権時代の地方議会二三九同志社法学 五九巻二号 北海道でも、﹁政策や公約﹂が六三・七%、また、与野党が現職に相乗りした福井県でも、﹁政策や公約﹂は六五・五%と、他の項目を大きく引き離している

41

 これらの調査結果をみる限り、首長選挙においては候補者にも有権者にもローカル・マニフェストが相当浸透してきているといえそうである。議員選挙の方は、首長選挙に少し遅れをとる形で、近年、議会政党マニフェストや議会会派

マニフェスト、さらには議員マニフェストが作成されつつある。例えば、豊橋市議会では保守系会派の清志会が政策マーティング調査(二〇〇五年一一月)をベースとした議会会派マニフェストを作成しているし、また、二〇〇七年に入

って公明党京都府本部が﹁京都﹃改革﹄マニフェスト﹂を作成している。今回の統一地方選挙では、公職選挙法の改正で地方議員選挙でのマニフェスト配布解禁は見送られたものの、政治団体が配布することは可能で、党独自の地方政策

としてアピールできることもあって、自民党が﹁政策パンフレット﹂を、民主党が﹁ローカル・マニフェスト﹂をそれぞれ作成している。特に、民主党は、今回の統一地方選挙を﹁ローカル・マニフェスト選挙﹂と位置づけ、地方組織に

ローカル・マニフェストの作成を指示、その結果、道府県議会選挙に関しては四四のうち二〇道府県で発表した

B iw ak o M an ife st o 20 07

県においても、自民党が﹁明日の滋賀のために﹂、民主党が﹁﹂と銘打ったローカル・マニフェ 。滋賀 42

ストあるいは政策パンフレットを作成している。いずれもマニフェストとして十分なものではないが、地方議員選挙に

おいてもマニフェスト型選挙が徐々に浸透しつつあるといえよう。 そこで、次にマニフェストの政治的意義について述べておこう。マニフェストは、選挙の際に、当選後に実現する政

策を具体的に表した﹁公約﹂であり、また、選挙を通じた、有権者と候補者や政党・議会会派との間の政治的な約束(=契約)であり、当選後に、その実現状況が﹁検証可能な約束﹂でもある。したがって、そこには具体的な数値目標、実

現の期限、予算・財源、実現の方法、工程(ロードマップ)が盛り込まれていなければならない。ただ、議会は制度上、

 (八〇九)

(21)

地方分権時代の地方議会二四〇同志社法学 五九巻二号

予算提案権を有していないことから、予算額を明示することは困難であるため、財源を要件とする本来の意味でのマニ

フェストは作成できない。 このような特徴をもったマニフェストは、予算執行権を有する行政サイドからみれば、第一に、政策遂行のスピード

化を図ることができる、第二に、マニフェストがほぼ自動的に行政職員の政策立案と事業遂行の指示書となる。つまり、マニフェストを掲げた首長が当選した後、行政は直ちにそのマニフェストに基づいて、総合計画の実施計画を新たに作

成するか、もしくは、現行実施計画を見直すことができる。他方、議会は、既に述べたように、首長との間に緊張関係と相互抑制関係を前提として、民意の代表機関としての機能が期待される。特に、行政に説明責任を問うこと、執行部

に対するチェック機能・監視機能、政策立案機能(代替案や独自案の提示)が重要な機能として、その役割遂行が求められる。曽根泰教が指摘するように、﹁地方議会の最大の役割は、首長が掲げた政策をチェックし、行政の実態を監視

することだ。それはマニフェストの存在で初めて鮮明に浮かび上がる。外部評価、第三者評価が必要だという議論もあるが、実は議員こそがマニフェストの最大の評価者なのだ

﹂。曽根の指摘にあるように、議員が首長マニフェストの最 43

大の評価者であるためには、とりわけ﹁執行部の追認機関﹂に堕している議会の構成員である議員および議会会派は、このことのもつ意味を十分に理解する必要があるし、自ら積極的に意識改革・自己改革することが求められる。有権者

の議会不信を払拭するには、議員選挙において首長=執行部との距離を鮮明にした議会会派マニフェストや議員マニフェストを作成して臨む必要があろう

。また、近年、議員提案による政策条例が地方議会の﹁標準装備﹂となりつつある 44

ことから、政策条例制定の前提条件となるマニフェスト作成は、もはや選挙時の必須条件になりつつあるといっていいのではないか。首長と同列に扱えないかもしれないが、マニフェストや政策条例を作成する能力をもち合わせていない

議員は、﹁議員として資質に欠ける﹂との自覚をもつ必要があるのではないか。  (八一〇)

(22)

地方分権時代の地方議会二四一同志社法学 五九巻二号  他方、有権者には選挙時に地縁・血縁といった要因によってではなく、理念や志や政策で首長・議員を選ぶことが求められる。それを可能にするもののひとつがマニフェスト型選挙である。マニフェスト型選挙は、さまざまなレベルに

おける政治参加によって有権者を選挙客体から選挙主体へと引き上げてくれる。例えば、マニフェスト作成段階で有権者が関心分野に関する政策を提案すれば、候補者(首長であれ議員であれ)は生活に密着した意見をマニフェストに取

り入れることができるし、有権者はその政策がマニフェストに反映されることで、政策の実現性を高めることができる。また、選挙時には候補者は、有権者に政策の選択肢を与えることができるし、有権者はマニフェストを投票行動のため

の客観的な判断材料とすることができる。それは同時に、有権者にも主権者としての権利を行使する実質的な機会が提供されることを意味する。つまり、有権者が選挙で選ぶのは、公共財を特定の目的のために投じたり、公権力を行使す

る決定権をもつ人物(首長・議員)およびその人物が掲げた政策である。それはまた、有権者に選挙を通じて意思決定の責任を求めることでもある。マニフェストの内容を理解したうえで判断し、﹁あれかこれか﹂を選択(=自治体の方

向性を一つ選択)する責任が求められるし、公共性構築の政策主体として自治体との協働関係を形成することも求められる。さらに、マニフェストに掲げられた政策の達成状況を評価することも必要となってくる。自己決定・自己責任を

基本原則とする今日の地方分権時代においては、有権者にはこのような形での政治参加が求められる。そのことを有権

者は自覚して、行動に移す必要があるのではないか。

3

.自治基本条例と議会基本条例

1  

自治基本条例における議会の位置づけ

 二〇〇一年四月一日に、全国で初めて自治基本条例が施行された。北海道ニセコ町の﹁ニセコ町まちづくり基本条例﹂

 (八一一)

(23)

地方分権時代の地方議会二四二同志社法学 五九巻二号

である。以後、自治基本条例を策定する自治体が増加している。自治基本条例は、自治体に関する基本的事項を定める

最高規範である。それゆえ﹁自治体の憲法﹂ともいわれる。例えば、二〇〇六年一〇月に施行された兵庫県の篠山自治基本条例の逐条解説には、自治基本条例を﹁地方自治(住民自治、団体自治)の基本的なあり方について規定するとと

もに、自治体における自治体法の体系の頂点﹂に位置づけている。そして、その要件について次のようなものをあげている。①自治の基本理念やビジョンを示している。②自治の実現にとって重要な市民の権利や責務を規定している。

③自治(まち)をつくるための制度や仕組みを規定している。④行政や議会組織の運営・活動に関する基本事項を規定している。⑤自治体の最高規範として、他の条例や計画等の立法指針や解釈指針となっている。このように、自治

基本条例は、めざすべき自治体の姿(理念)と自治体運営の基本原則、およびそれらを実現するための制度・仕組みを最高規範として定めているものである

45

 このような自治基本条例の中には議会規定が盛り込まれており、そこでは議会や議員の役割や責務が明記されている。いくつか具体的事例をみておこう。例えば、篠山市自治基本条例では次のように規定されている。[議会の役割及

び責務:第一三条]①市議会は、市の意思決定機関として、市民の意思が適切に反映されるよう、市政を監視するものとする。②市議会は、全ての議会を原則公開とし、議会の保有する情報を市民と共有し、開かれた議会運営を行う

ものとする。③市議会は、市議会議員が次条の責務を果たすため、政策研究活動等の支援体制を整備する。[議員の責務:第一四条]①市議会議員は、議会運営を通じて自治の実現、まちづくりの推進に努めなければならない。②市議

会議員は、総合的な視点に立って、公正かつ誠実に職務を遂行し、市民の負託に応えなければならない。③市議会議員は、政策の提言及び提案に努めなければならない。

 いまひとつ、政令指定都市の札幌市自治基本条例(二〇〇七年四月一日施行)についてみておこう。[議会の役割及  (八一二)

(24)

地方分権時代の地方議会二四三同志社法学 五九巻二号 び責務:第一〇条]①議会は、本市の意思を決定する機関として、及び執行機関を監視する機関として、その役割を果たすとともに、機能の充実強化に努めるものとする。②議会は、市民自治によるまちづくりを推進するため、市民

の意思を把握し、政策の形成に反映させるものとする。③議会は、政策形成機能の充実を図るため、積極的に調査研究を行うとともに、参考人制度等により広く専門家等の知見を生かすよう努めるものとする。[市民に開かれた議会:

第一一条]①議会は、十分な討論により市政における争点を明らかにするとともに、審議に関する情報を公開することなどにより、開かれた議会運営に努めるものとする。②議会は、議会の活動内容に関する情報を積極的に市民に提

供するとともに、広く市民の声を聴く機会を設けるものとする。[議員の役割及び責務:第一二条]①議員は、この条例に定める議会の役割及び責務を果たすため、総合的な視点に立ち、公正かつ誠実に職務を遂行するものとする。②

議員は、まちづくりについて自らの考えを市民に明らかにするとともに、広く市民の声を聴き、これを政策形成及び議会の運営に反映させるよう努めるものとする。③議員は、調査研究活動等を通じ、議会における審議及び政策立案活

動の充実に努めるものとする。 他の自治基本条例もこれらと類似したもの考えられるが、条文の表現に若干の相違がみられるものの、地方制度調査

会の答申(第二六次、第二八次)や地方分権推進委員会第二次勧告等をベースにして作成されているものと考えられる。

いずれにしても、自治体の最高規範である自治基本条例には、上記に示したような形で議会や議員の役割・責務が明記されているのである。しかし、ここではより具合的な議会改革・活性化策は提示されていない。それを集大成したもの

が議会基本条例なのである。次にその議会基本条例についてみておくことにしよう。

 (八一三)

(25)

地方分権時代の地方議会二四四同志社法学 五九巻二号

2  

議会基本条例

 議会を活性化するために、北海道栗山町は全国に先駆けて﹁栗山町議会基本条例﹂を制定・施行した(制定・施行:二〇〇六年五月一八日)。都道府県レベルでは三重県議会が、全国で初めて議会基本条例を全会一致をもって可決・制

定した(二〇〇六年一二月二〇日)。ここではこの先駆的な二つの議会基本条例について概括しておきたい。︻栗山町議会基本条例︼

 栗山町議会本会議における条例の提案理由は次のようなものである。﹁平成一二年四月の地方分権一括法の施行以来、地方議会の役割は極めて広範囲にわたり、その責任の度合いはこれまでと比較にならないほど重くなりました。また、

二〇〇七年に実施される統一地方選挙からは議員定数が五名減の一三名になることから、町内全体への目配りのためにも住民との協働による議会を目指さなければなりません。その中で、栗山町議会は、平成一三年九月から今日まで時代

に対応した議会改革、議会活性化策に努め、真に﹃町民に開かれた議会づくり﹄に取り組んできました。議員及び議会にとって、議会の改革・活性化は永遠のテーマであり、町民の代表たる多人数による合議制の機関として、町民の意思

を町政に的確に反映させるためにも、今後も、継続して議会の改革・活性化に取り組んでいかなければならない重要なテーマです。栗山町議会基本条例は、いつの時代においても議会としての権能を十分に発揮し、その責任が果たされる

よう、四年半に及ぶ議会改革・活性化策の集大成として制定したものです﹂。 この提案理由にも述べられているが、栗山町議会は議会基本条例を制定する過程で、さまざまな議会改革・議会活性

化策を講じてきている。その具体的取組は次のようなものである。①議会ライブ中継システムの導入(二〇〇二年)。②中長期財政問題等調査検討特別委員会の設置(二〇〇二年)。③政務調査費の導入

(二〇〇三年)。④議会録画中継 46

配信システムの導入(二〇〇六年)。⑤一般質問における一問一答方式の導入と発言席の設置(二〇〇三年)。⑥監視  (八一四)

(26)

地方分権時代の地方議会二四五同志社法学 五九巻二号 型議会からの脱皮:公聴会制度や参考人制度の活用(二〇〇三年)。⑦議会報告会の実施(二〇〇五年):全国で二例目、北海道内では初。

 さて、議会基本条例であるが、全部で九章二一条から構成されている。この条例の主な特徴は次の点にある。①町民や団体との意見交換のための議会主催による一般会議の設置(第三章第四条第二項)。②請願、陳情を町民からの政

策提案として位置づけ、その審議において、これら提案者の意見を聴く機会を設ける(第四条第四項)。③重要な議案に対する各議員の態度(賛否)を議会広報で公表(第四条第六項)。④全議員の出席のもとに町民に対する議会報告会

を少なくとも年一回開催する(第四条第七項)。⑤議員の質問に対する町長や町職員の反問権の付与(第四章第五条第二項)。⑥政策形成過程に関する資料の提出を義務化(第四章第七条)。⑦議員相互間の自由討議の推進(第五章第九

条)。⑧政務調査費に関する透明性の確保(第六章第一〇条)。⑨議員の政治倫理を明記(第八章第一八条)。⑩最高規範性、四年に一度の見直しを明記(第九章第一九条、第二一条)。

 このように、栗山町議会基本条例は、①法律に基づき条例で規定できる領域:政務調査費(地方自治法第一〇〇条第一二項)など、②法律で規定されているが自治体議会の裁量がある領域:参考人制度の活用(地方自治法第一〇九

条第五項)、図書室の設置(地方自治法第一〇〇条第一六項)など、③自治体議会が自ら定める領域:議員間の自由討

議の活発化、町長等の反問権の明確化、議会事務局(調査・法制)の体制整備、一般質問における一問一答方式の採用、議会報告会の実施など、によって構成されているが、自治体議会が自ら定める領域における規定が大半を占めていると

ころに特徴がある。︻三重県議会基本条例︼

 三重県議会基本条例は、議員提出議案として二〇〇六年第四回定例会に提出され、議会運営委員会での審議の後、一

 (八一五)

(27)

地方分権時代の地方議会二四六同志社法学 五九巻二号

二月二〇日の本会議において、全会一致をもって可決された。都道府県レベルでは初めての議会基本条例であるが、全

部で一〇章二八条から成る議会基本条例の概要および特徴点は次のようなものである。 まず第一に、前文では、今日まで、県議会が分権時代を先導する議会を目指して、議会改革に積極的に取り組んでき

た経緯を踏まえて、﹁本県議会は、住民自治及び団体自治の原則にのっとり、真の地方自治の実現に向け、国や政党等との立場の違いを踏まえて自律し、知事その他の執行機関とは緊張ある関係を保ち、独立・対等の立場において、政策

決定並びに知事等の事務の執行について監視及び評価を行うとともに、政策立案及び政策提言を行うものである﹂と述べている。これを受けて、第一章の総則のところで、基本理念や基本方針を次のように規定している。[基本理念:第

二条]議会は、分権時代を先導する議会を目指し、県民自治の観点から、真の地方自治の実現に取り組む。[基本方針:第三条]①議会活動を県民に対して説明する責務を有することを鑑み、積極的に情報の公開を図るとともに、県民が

参画しやすい開かれた議会運営を行う(第一項)。②独自の政策立案や政策提言に取り組む(第三項)。 第二に、議員の責務および活動原則、議会運営の原則などを定め、議員は議会活動を通じて県民の負託に応えるもの

とするとともに、議会はその機能が十分に発揮できるよう、円滑かつ効率的な運営に努め、合議制の機関である議会の役割を果たさなければならないとしている(第二章、第三章)。特に、①議員は、議場で質疑や質問を行う際には、対

面演壇において一問一答方式等の方法によって行うものとしていること(第四条第三項)、②議員は、議会活動を行うため、会派を結成することができ(第五条第一項)、会派は、政策立案、政策決定、政策提言等に関し、会派間で調整

を行い、合意形成に努めるとしている(第五条第二項)、ことなどが大きな特徴である。 第三に、議会と知事との関係については、二元代表制の下、議会は知事等と常に緊張ある関係を構築し、知事等との

立場および権能の違いを踏まえ、議会活動を行わなければならないとしている(第四章)。ここでは、知事=執行部の  (八一六)

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