■ 短 報
終末期にある高齢患者の意思の尊重について
―東京都の病院看護職への質問紙調査の分析から―
Respect for decisions made by older adult patients in their terminal phase:
an analysis of questionnaires completed by hospital nurses in Tokyo
岡本あゆみ
1Ayumi OKAMOTO
キーワード :高齢患者、意思尊重、終末期看護
Key words : elderly patients, rights protection, end-of-life care
病院看護職による高齢患者の終末期意思の尊重の実態の認識と、関連要因を検討するため自記式質問紙調査を行い、
クロス集計および相関関係分析を行った。高齢患者の終末期意思の尊重の割合は、高齢患者の意思表示のみの場合に7 割強、高齢患者の終末期意思とその家族や医師の延命処置の考えが異なる場合には3~5割程度であった。また、「終 末期ケアの協働」「終末期の説明サポート」「終末期患者に関する看護」の能力が高い看護職は高齢患者の終末期の延 命処置の意思の尊重の認識も高く、「終末期ケアの協働」の能力が低い看護職は高齢患者の終末期の延命処置の差し控 え意思の尊重の認識が高い傾向が明らかになった。高齢患者の終末期医療の意思の尊重には、看護職に対する倫理的 な教育、患者権利における倫理的な問題を解決する方法を模索する機会、本人の価値観に合わせて終末期医療に伴う ケアを判断するための看護能力の必要性が示唆された。
A self-administered questionnaire survey, cross tabulation, and correlation analysis were conducted to examine the actual conditions of hospital nurses’ recognition of respect for the decisions made by older adult patients in their terminal phase and of their related factors. More than 70% of nurses respected terminal- phase decisions when only the patient’s decision was presented, but this fell to between 30 and 50% when there was a conflict between the patient’s decision and the family and/or doctor’s wish to provide life-support care. In addition, it was observed that nurses in a position with high capabilities for “cooperation for the care of patients in their terminal phase,” “explanatory support of the terminal phase,” and “nursing care of patients in the terminal phase” tended to respect the decisions of older adult patients requesting terminal-phase life- support care more, while nurses in a position with lower capabilities for “cooperation for care of patients in the terminal phase” tended to respect their decisions to refrain from terminal-phase life-support care more. To promote respect for the terminal-phase decisions of older adult patients, these findings suggest the need for the following: ethical education for the nursing profession, opportunities to search for ways to solve ethical problems regarding patients’ rights, and ways for nurses to acquire the ability to make terminal care-related decisions from the viewpoint of patients that reflect the patients’ values, such as the way patients live their lives and their thoughts on life.
Ⅰ.はじめに
現在の日本は、医療技術の発展や皆保険制度などに
より長寿社会となっており、高齢者の生命倫理として 尊厳を重視した全人的医療のあり方1や、人々の自己 決定の権利を尊重すること2が示されている。高齢者 1 淑徳大学看護栄養学部看護学科 Affiliation School of Nursing and Nutrition, Shukutoku University
が単に長生きするためだけではなく、どのように生き ていきどのような最期を迎えたいのかを支える終末期 医療ケアが希求されている。
先行研究では、認知症が進行して衰弱し回復の見込 みがない場合、一般国民の7割以上が経管栄養・人工 呼吸器・心肺蘇生処置などの延命処置を望んでおらず3
(p.51)、認知症や心停止に陥った場合の延命処置につ いては、患者と家族の希望が一致していたのは調査対 象者の6〜7割であった4, 5。また、介護保険施設の看 護職への調査では、終末期の治療やケアの希望や生活 療養の場を決定できる権利を得ていた高齢者は1〜2 割程度であった6。このように、終末期に関する医療 ケアの希望3‒7や看護職の悩みや困難8の現状について は調査されているが、医療機関における高齢患者の終 末期医療の意思の尊重に関する看護職の認識について の調査は少なく、また高齢患者の終末期医療に関する 意思の尊重に関連する要因を調査した研究は見当たら なかった。
現在、8割程度の高齢者が病院で死亡しており9、 今後も認知症高齢者の増加が見込まれている。そのた め、本研究において医療機関に入院する高齢患者の傍 らでケアを実践している病院看護職の認識を調査し、
高齢患者の終末期の意思決定の尊重やその関連要因を 明らかにすることは、終末期医療ケアにおける質の向 上を図るうえでの示唆を得ることができると考える。
Ⅱ.目的
本研究は、医療機関の看護職の認識を調査すること によって、高齢患者の終末期医療意思尊重に関する実 態や関連要因を明らかにし、高齢患者の終末期意思の 尊重のあり方を検討することを目的とする。
Ⅲ.方法
1.調査対象者
使用許可を得た医療機関名簿10に公表されている施 設のうち、高齢患者への終末期看護の実践が行われて いる335施設の看護師を対象とした。
2.調査方法
自 記 式 質 問 紙 に よ る 調 査 を2010年3月1日 か ら
2010年4月30日に行った。研究の同意が得られた
26ヶ所の施設の研究受付者に高齢患者の終末期看護 を実践している看護職の選出を依頼し調査紙286部を 配布してもらった。各施設に依頼し選出してもらった
対象者は1〜22名であり、対象者数は病床数の多さと
ほぼ比例していた。対象者には文書で調査紙への協力 を依頼し、回答をもって研究への同意とみなした。回 答書は個別封筒による郵送回収を行った。今回設定し た各質問項目については、社会福祉学教授、大学院生
5名によって検討を重ね、また看護職2名の意見を得
ながら内容的妥当性の確保につとめた。
3.調査内容 1)対象者属性
対象者属性として「性別」「年齢」「教育課程」「看 護師資格取得後の医療系のスキルアップ」「看護の臨 床経験年数」「看取り数」「病床の種類」「病床数」「診 療科の種類」「平日日勤担当患者数」「看護体制」「終 末期医療・ケアのガイドライン」「診療報酬外の緩和 ケア」「終末期の意思決定記載ツール」を設定した。
2)高齢患者の終末期意思の尊重
先行研究3では高齢患者の終末期医療意思の尊重に ついて尋ねる有用な質問紙がなかったため、独自に考 案した質問紙を作成して尋ねた。高齢患者の終末期医 療の意思決定に関する看護職の認識について回答を得 ると、高齢患者の終末期意思の尊重の実態が明らかに なると考えた。状況設定は、治る見込みがなく死が間 近に迫っており、終末期医療やケアの選択が必要と なった場合の75歳以上の高齢患者とした。設問は、
患者のみの意思決定がある場合の2項目「高齢患者に 延命処置の意思がある場合」「高齢患者に延命処置の 差し控え意思がある場合」と、患者の意思決定と家族 や医師の考えが異なる設定の4項目「高齢患者に延命 処置の差し控え意思があり家族が延命処置を希望する 場合」「高齢患者に延命処置の差し控え意思があり医 師が延命処置の考えの場合」「高齢患者に延命処置の 意思があり家族が延命処置の差し控えを希望する場 合」「高齢患者に延命処置の意思があり医師が延命処 置の差し控えの考えの場合」とした。また、その選択 肢は「延命処置をする」「どちらかといえば延命処置 をする」「どちらともいえない」「どちらかといえば延 命処置をしない」「延命処置をしない」の5選択肢とし た。なお、延命処置とは高齢患者が治る見込みがなく 死が間近に迫っている場合の積極的医療処置を指し、
たとえば気管内挿管、人工呼吸器装着、心臓マッサー ジ、経口以外の栄養療法などであり、延命処置の差し 控えとは前述の延命処置を行わないことと定義づけ た。
3)病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重 する看護能力について
病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重する 看護能力について尋ねる有用な質問紙がなかったた め、終末期看護に関する先行研究11‒16を参考にして質 問紙を作成して尋ねた。設問は「患者(家族)へ医師 の所見の説明サポートをすることについて」「患者(家 族)へ治療選択のメリット・デメリットなどを適切に 判断できるような説明サポートをすることについて」
「ケア目標を患者と設定することについて」「ケアカン ファレンスへ患者(家族)が参加することについて」
「身体的疼痛の緩和について」「精神的疼痛の緩和につ
いて」「患者の終末期の意思の確認について」「患者(家 族)に患者のライフ・ストーリーを聴くことについ て」「ユーモアのセンスについて」「終末期の意思決定 の記録について」「患者の終末期の意思を家族(スタッ フ)と共有することについて」「終末期ケアを家族(ス タッフ)と話し合うことについて」「経験不足の家族
(スタッフ)をサポートすることについて」「ケアへ家 族が参加する場を提供することについて」「家族のエ ンパワメントを強化することについて」「家族の思い を察知することについて」「患者の終末期の意思が尊 重されるよう家族(医師)と連携することについて」
「患者の終末期意思の優先について」の26項目であ り、「非常に可能である」「可能である」「どちらとも いえない」「困難である」「非常に困難である」の5選 択肢である。
4.分析方法
高齢患者の終末期意思の尊重とその関連について調 べるためにクロス集計および相関関係分析を行った。
データの分析にあたっては、統計ソフトSPSS PASW Statistics 18を使用した。
Ⅳ.倫理的配慮
対象医療機関の病院長および研究受付宛に、調査の 主旨および個人情報の保護についての説明文を添付 し、研究依頼を行った。研究に賛同した施設担当者 へ、書面により対象者への質問紙の配布時に任意性の 保証を依頼した。対象者には、施設担当者より研究の 目的と方法、研究協力の有無やその回答内容によって 不利益がいっさいないこと、研究参加の拒否や撤回の 自由、個人情報の保護、データの管理方法、データは 研究以外には使用しないことを書面および口頭で説明 してもらった。調査紙への回答をもって研究協力の同 意とし、個別に密封して研究者へ送付してもらった。
個人情報の保護のためにアンケートや封書の送り主は 無記名とした。
Ⅴ.結果
1.対象者の属性(表1)
研究の同意の得られた26施設から、235部回収し
(回収率82.2%)有効回答は214部であった(有効回答 率91.1%)。対象者は平均年齢32.9±11.3歳、40歳未
満の者が6割以上、看護教育課程は看護専門学校
(58.9%)が最も多かった。臨床経験年数は13.5±9.1 年で5年以上が8割以上、看取り数は38.3±51.2例、
看護師資格のみ87.3%であり、日勤担当患者数が5〜
8人(51.5%)の者が最も多かった。施設については、
一般病床82.7%、療養病床17.4%、病院病床数100床
以上が83.7%、ホスピスあり35.5%、複数診療科あ
り97.7%、受け持ち看護方式72.5%、終末期医療ガ
イドラインあり16.2%、診療報酬外の緩和ケアあり 13.7%、終末期の意思決定記載ツールあり63.7%で あった。
2.高齢患者の終末期意思の尊重についての看護職 の認識(表2)
まず、高齢患者の終末期の延命処置の有無の意思の みを設定している2項目がある。高齢患者に延命処置 の意思がある場合に、「延命処置をする」「どちらかと いえば延命処置をする」と答えた者は76.7%であっ た。また、高齢患者に延命処置の差し控え意思がある 場合に、「延命処置をしない」「どちらかといえば延命 処置をしない」と答えた者は72.3%であった。すなわ ち、高齢患者の意思のみの設定の場合には、延命処置 または延命処置の差し控えの意思がどちらであるかに 関わらず、7割強の看護職は高齢患者の終末期意思を 尊重すると認識していた。
次に、高齢患者の終末期の延命処置の有無の希望と 家族や医師の延命処置の考えが異なる設定をしている 4項目がある。そのうち、「延命処置をする」「どちら かといえば延命処置をする」と答えた者は、高齢患者 に延命処置の意思があり家族が延命処置の差し控えを 希望している場合に49.3%、高齢患者に延命処置の 意思があり医師が延命処置の差し控えの考えの場合に 53.5%であった。そして、「延命処置をしない」「どち らかといえば延命処置をしない」と答えた者は、高齢 患者に延命処置の差し控え意思があり家族が延命処置 を希望している場合に38.2%、高齢患者に延命処置 の差し控え意思があり医師が延命処置の考えの場合に 56.8%であった。すなわち、高齢患者が終末期に延命 処置または延命処置の差し控えの意思がどちらである かに関わらず、家族や医師の延命処置の考えが異なる 設定の場合には、3〜5割程度の看護職が高齢患者の 意思を尊重すると認識していた。
また、これら高齢患者の終末期意思の尊重の全6項 目についてKaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性の測度
は.69で、有意確率.000であり妥当性については問題
ないと考えられた。次にこの6項目に対して主因子 法・バリマックス回転による因子分析を行った。その 結果「高齢患者の延命処置の意思」が含まれる3項目 の下位項目のCronbach α=.79よりも、α=.80とわ ずかに上回る1項目「高齢患者に延命処置の意思があ る場合」があったが、高齢患者の終末期意思を尊重し ているかどうかを測るうえで必要と考えられ、削除し ないことで大きな統計上の問題がないことを確認して そのまま分析に用いた。因子分析は3回の反復で回転 が収束した。バリマックス回転後の最終的な因子パ ターンを表3に示す。なお、回転前の2因子で6項目 の全分散を示す割合は70.94%であった。高齢患者の 終末期意思の尊重の第1因子は3項目で構成され、全
て「高齢患者の延命処置の意思」が含まれる項目が高 い負荷量を示していたため、「延命意思」を尊重する 因子とした。第2因子は3項目で構成され、全て「高 齢患者の延命処置の差し控え意思」が含まれる項目が 高い負荷量を示していたため、「差し控え意思」を尊 重する因子とした。これら2つの下位項目の平均値を 算 出 し、 そ の 得 点 は「延 命 意 思」(M=3.73, SD=
0.80)、「差し控え意思」(M=3.61, SD=0.87)であっ た。内的整合性を検討するために各下位項目のα係数 を算出したところ、「延命意思」α=.79、「差し控え意 思」α=.79と十分な値が得られた。下位項目の相関を
表3に示す。2つの下位項目は弱い負の相関を示した。
高齢患者の終末期意思の尊重についての因子分析結果 を表3に示す。
3.病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重 する看護能力について
病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重する 看護能力についての因子分析結果を、表4に示す。
病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重する 看護能力は全26項目からなり、Kaiser-Meyer-Olkin の標本妥当性の測度は.82で、有意確率.000であった 表1 対象者属性
n % 平均 Mode SD
性別 女 208 97.2 男 6 2.8
年齢 213 32.9 30.0 11.3 臨床経験年数 214 13.5 20.0 9.1 看取り数 186 38.3 10.0 51.2
n % n %
教育課程 准看護学校 24 11.2 進学コース 33 15.4
看護専門学校 126 58.9 短期大学 15 7.0 大学・大学院 16 7.5
看護資格取得後の スキルアップについて
看護師のみ 186 87.3 看護師以外の医療・福 祉系資格や指導者研修 等の終了あり
27 12.7
病床の種類 一般病床 177 82.7 療養病床 37 17.3
病床数 50床未満 12 5.6 50床以上100床未満 23 10.7
100床以上200床未満 80 37.4 200床以上500床未満 89 41.6
500床以上 10 4.7
診療科の種類 ホスピスなし 138 64.5 ホスピスあり 76 35.5 内科のみ 5 2.3 内科以外にも複数の
診療科あり
209 97.7
救急なし 194 90.7 救急あり 20 9.3 日勤担当患者数 患者1~2人 10 4.9 患者3~4人 58 28.2 患者5~6人 55 26.7 患者7~8人 51 24.8 患者9~10人 25 12.1 患者11人以上 7 3.4
看護体制 機能別看護 22 10.8 受け持ち看護 148 72.5
その他 34 16.7 施設の終末期に
おける体制
終末期医療ケアの ガイドラインなし
176 83.8 終末期医療ケアの ガイドラインあり
34 16.2
診療報酬外の 緩和ケアなし
177 86.3 診療報酬外の 緩和ケアあり
28 13.7
終末期意思決定記載 ツールなし
77 36.3 終末期意思決定記載 ツールあり
135 63.7
ため妥当性については問題ないと考えられた。次に、
この26項目に対して主因子法・バリマックス回転に よる因子分析を行った結果、十分な因子負荷量を示し ていないか、もしくは下位尺度の内的整合性として項 目が削除された場合のCronbachのαが上回る問題が あると考えられた「患者(家族)に患者のライフ・ス トーリーを聴くことについて」「ユーモアのセンスに ついて」「家族のエンパワメントを強化することにつ いて」の4項目を除外して22項目とした。そして、再 度主因子法・バリマックス回転による因子分析を行 い、8回の反復で回転が収束した。バリマックス回転 後の最終的な因子パターンを表4に示す。なお、回転 前の5因子で22項目の全分散を示す割合は70.92%で
あった。
高齢患者の終末期意思を尊重する看護能力の第1因 子は、「ケアカンファレンスへ患者(家族)が参加する ことについて」「ケア目標を患者と設定することにつ いて」「終末期ケアを家族(スタッフ)と話し合うこと について」「ケアへ家族が参加する場を提供すること について」の7項目で構成された。これらは、患者や 家族とのカンファレンス、目標設定、ケアへの参加、
話し合いなどが高い負荷量を示していたため因子名を
「終末期ケアの協働」とした。第2因子は、「患者(家 族)へ医師の所見の説明サポートをすることについ て」「患者(家族)へ治療選択のメリット・デメリット などを適切に判断できるような説明サポートをするこ
表2 高齢患者の終末期意思の尊重についての看護職の認識
%(n)
n=211 n=213 n=213 n=213 n=212 n=213
高齢患者の終末期医
療の意思 延命処置希望 延命処置の差し
控え希望 延命処置希望 延命処置希望 延命処置の差し 控え希望
延命処置の差し 控え希望
高齢患者と異なる家 族や医師の考え
家族が延命処置 の差し控え希望
医師の考えが延 命処置の差し控 え
家族が延命処置 希望
医師の考えが延 命処置
延命処置をする 39.3
(83)
2.3
( 5)
14.6
(31)
20.2
(43)
5.2
(11)
7.0
(15)
どちらかといえば延 命処置をする
37.4
(79)
5.6
(12)
34.7
(74)
33.3
(71)
13.2
(28)
7.5
(16)
どちらともいえない 15.2
(32)
19.7
(42)
39.4
(84)
34.7
(74)
43.4
(92)
28.6
(61)
どちらかといえば延 命処置をしない
6.2
(13)
31.5
(67)
9.9
(21)
9.9
(21)
30.7
(65)
34.7
(74)
延命処置をしない 1.9
( 4)
40.8
(87)
1.4
( 3)
1.9
( 4)
7.5
(16)
22.1
(47)
表3 高齢患者の終末期意思の尊重についての因子分析結果
Ⅰ.延命意思 Ⅱ.差し控え意思
固有値 2.14 2.11
分散の説明率 35.74 35.20
6 患者に終末期の延命処置の意思があり、医師が延命処置の差し控えの考えの場合 .885 -.073
5 患者に終末期の延命処置の意思があり、家族が延命処置の差し控えを希望する場合 .841 -.063
2 患者に終末期の延命処置の意思がある場合 .778 -.102
4 患者に終末期の延命処置の差し控え意思があり、医師が延命処置の考えの場合 -.025 .882
1 患者に終末期の延命処置の差し控え意思がある場合 -.020 .823
3 患者に終末期の延命処置の差し控え意思があり、家族が延命処置を希望する場合 -.216 .798
Ⅰ ― -.191**
Ⅱ ―
**p<.01
とについて」の4項目で構成された。これらは、患者 や家族へ医師の説明や治療の選択について説明のサ ポートをする項目が高い負荷量を示していたため、因 子名を「終末期の説明サポート」とした。第3因子は、
「身体的苦痛の緩和について」「精神的苦痛の緩和につ いて」「終末期の意思決定の記録について」「患者の終 末期の意思の確認について」の4項目で構成された。
これらは、患者の苦痛緩和や、意思決定の確認や記録 表4 病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重する看護能力についての因子分析結果
Ⅰ.終末期ケアの
協働
Ⅱ.終末期の説明 サポート
Ⅲ.終末期患者に 関する看護
Ⅳ.患者の思いに 関する他者との
連携
Ⅴ.患者を 取りまく人々の
サポート
固有値 3.90 3.46 2.99 2.70 2.56
分散の説明率 17.73 15.72 13.57 12.28 11.61
12 ケアカンファレンスへ患者が参加することに ついて
.812 .191 .099 .165 .026
13 ケアカンファレンスへ家族が参加することに ついて
.771 .158 .054 .299 .135
14 ケア目標を患者と設定することについて .651 .385 .143 .071 .015 19 終末期ケアをスタッフと話し合うことについ
て
.682 -.104 .357 -.037 .384
20 終末期ケアを家族と話し合うことについて .699 .138 .068 .283 .389 21 ケアへ家族が参加する場を提供することにつ
いて
.642 .325 .076 .281 .245
26 患者の終末期意思の優先について .443 .259 .373 .305 -.006 6 患者へ医師の所見の説明サポートをすること
について
.350 .700 .208 .076 .150
7 家族へ医師の所見の説明サポートをすること について
.205 .734 .084 .323 .234
8 患者へ治療選択のメリット・デメリットなど を適切に判断できるような説明サポートをす ることについて
.203 .827 .280 .066 .114
9 家族へ治療選択のメリット・デメリットなど を適切に判断できるような説明サポートをす ることについて
.107 .827 .150 .242 .230
1 身体的疼痛の緩和について -.014 -.013 .795 .151 .169
2 精神的疼痛の緩和について .167 .156 .752 .000 .076
4 終末期の意思決定の記録について .077 .233 .762 .175 .099 5 患者の終末期の意思の確認について .283 .280 .690 .157 -.124 24 患者の終末期意思が尊重されるよう医師と連
携することについて
.210 .366 .428 .613 -.089
25 患者の終末期意思が尊重されるよう家族と連 携することについて
.232 .393 .195 .730 .037
23 家族の思いを察知することについて .326 .159 .147 .679 .107 15 患者の終末期の意思をスタッフと共有するこ
とについて
.132 .026 .102 .552 .589
16 患者の終末期の意思を家族と共有することに ついて
.204 -.003 .048 .629 .571
17 経験不足のスタッフをサポートすることにつ いて
.155 .255 .099 -.013 .835
18 経験不足の家族をサポートすることについて .201 .339 .053 .088 .764
Ⅰ ― .576* .458* .584** .549*
Ⅱ ― .444** .578 .531**
Ⅲ ― .458* .347*
Ⅳ ― .507*
Ⅴ ―
*p<.05 **p<.01
の内容が高い負荷量を示していたため、因子名を「終 末期患者に関する看護」とした。第4因子は「患者の 終末期意思が尊重されるよう医師(家族)と連携する ことについて」「家族の思いを察知することについて」
の3項目で構成された。これらは、患者の終末期意思
についての医師や家族との連携や家族の思いの察知に ついて高い負荷量を示していたため、因子名を「患者 の思いに関する他者との連携」とした。第5因子は
「患者の終末期の意思を家族(スタッフ)と共有するこ とについて」「経験不足の家族(スタッフ)をサポート することについて」の4項目で構成され、家族やス タッフメンバーとの情報共有やサポートが高い負荷量 を示していたため、因子名を「患者を取りまく人々の サポート」とした。なお、情報共有に関する2項目に ついては第4因子においても近似した負荷量がみられ たが、回転後の空間成分プロットで確認したところ第 5因子で問題ないと考えられた。
高齢患者の終末期意思を尊重する看護能力について
の5つの下位項目の平均値を算出し、下位項目得点は
「終末期ケアの協働」(M=3.14, SD=0.70)、「終末期 の説明サポート」(M=3.22, SD=0.69)、「終末期患 者に関する看護」(M=3.39, SD=0.70)、「患者の思 いに関する他者との連携」(M=3.44, SD=0.68)、「患 者を取りまく人々のサポート」(M=3.61, SD=0.63)
であった。また、内的整合性を検討するために各下位 項目のα係数を算出したところ、「終末期ケアの協働」
α=.84、「終末期の説明サポート」α=.89、「終末期患 者に関する看護」α=.80、「患者の思いに関する他者 との連携」α=.84、「患者を取りまく人々のサポート」
α=.83と十分な値が得られた。下位項目の相関を表4 に示す。5つの下位項目は中程度の正の相関を示し た。
4.高齢患者の終末期意思の尊重に関連する項目に ついて
高齢患者の終末期意思の尊重とその他の項目につい て検討するために、クロス集計およびSpearmanの相 関関係分析を行った。このとき、各項目の得点が高い ものを高群、中程度のものを中群、低いものを低群に 分けて分析に用いた。その結果の抜粋を表5に示す。
1)高齢患者の終末期意思の尊重について
高齢患者の終末期意思の尊重についての因子分析結 果は表3に示している。第1因子「延命意思」および
第2因子「差し控え意思」は、それぞれ3項目で構成さ
れており、終末期意思を尊重していると認識している ほど高得点となり、最高点は15点、最低点は3点で ある。本調査では、第1因子「延命意思」の平均得点 が11.2±2.41、最頻値が12.0、第2因子「差し控え意 思」の平均得点が10.8±2.61、最頻値が11.0であっ た。そのため、得点3〜9点を低群、10〜12点を中
群、13〜15点を高群に分けて分析を行った。
2)病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重 する看護能力について
病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重する 看護能力についての因子分析結果は表4に示してい る。病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重す る看護能力については、その実践が可能であるほど高 得点となる。
終末期看護能力の第1因子の「終末期ケアの協働」
は7項目で構成され、最高点は35点、最低点は7点で
ある。第1因子「終末期ケアの協働」の平均得点は 22.0±4.91、最頻値は26.0であったため、得点7〜19 点を低群、20〜26点を中群、27〜35点を高群に分け た。そして、第2・3・5因子の「終末期の説明サポー ト」「終末期患者に関する看護」「患者を取りまく人々 のサポート」はそれぞれ4項目で構成され、最高点は
20点、最低点は4点である。第2因子「終末期の説明
サポート」の平均得点は12.9±2.74、最頻値は12.0で あったため、得点4〜10点を低群、11〜14点を中群、
15〜20点を高群に分けた。また、第3因子「終末期患
者に関する看護」の平均得点は13.5±2.74、最頻値
15.0であったため、得点4〜12点を低群、13〜15点
を中群、16〜20点を高群に分け、第5因子「患者を取 りまく人々のサポート」の平均得点は14.4±2.50、最 頻値16.0であったため、得点5〜12点を低群、13〜
15点を中群、16〜20点を高群に分けた。第4因子の
「患者の思いに関する他者との連携」は3項目で構成 され、最高点は15点、最低点は3点となる。第4因子 の「患者の思いに関する他者との連携」の平均得点は
10.3±2.04、最頻値は12.0であったため、得点3〜8
点を低群、9〜11点を中群、12〜15点を高群に分け た。
なお、病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊 重する看護能力についての分析には、各因子別に低 群、中群、高群に分けたデータを用いた。
3)高齢患者の終末期意思の尊重と関連する項目に ついて
クロス集計および相関分析の結果の抜粋は表5に示 している。相関関係について「高齢患者の終末期意思 の尊重」を従属変数とし、関連性があるのではないか と考えられる項目の「臨床経験年数」「教育課程」「看 取り数」「診療報酬外の緩和ケアの有無」「病院看護職 による高齢患者の終末期意思を尊重する看護能力」に ついて分析した結果である。
高齢患者の終末期意思の尊重と関連する項目との分 析結果について以下に示す。臨床経験3年未満の者 は、高齢患者の終末期の「延命意思」の尊重が中高群 89.3%と高い傾向にあったが、「臨床経験3年未満」の
標本数は12〜13と少なかった。看護の教育課程が准
看護学校であった者は、高齢患者の終末期の「延命意
思」の尊重が中高群91.7%と高い傾向にあり、高齢患 者の終末期の「差し控え意思」の尊重が低群50.0%と 低い傾向にあった。看護の教育課程が学士課程であっ た者は、高齢患者の終末期の「差し控え意思」の尊重 の中高群が84.7%と高い傾向にあったが、その標本数
は13と少なかった。看取り数0〜5例の者は、高齢患
者の終末期の「延命意思」の尊重が中高群90.7%と高 い傾向にあった。一方看取り数101例以上の看護職 は、高齢患者の終末期の「差し控え意思」の尊重が低
群50.0%と低い傾向にあったが、標本数は4と少な
かった。
病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重する 表5 高齢患者の終末期意思の尊重との相関およびクロス集計
高齢患者の終末期意思の尊重
高齢患者の延命意思の尊重 高齢患者の延命処置の差し控え意思の尊重
%(n)
低群 中群 高群 相関係数
%(n)
低群 中群 高群 相関係数 臨床経験年数 3年未満 16.7(2) 33.3(4) 56.0(6) 38.5(5) 30.8(4) 30.8(4)
3年以上5年未満 4.8(1) 52.4(11) 42.9(9) 40.0(8) 35.0(7) 25.0(5)
5年以上10年未満 20.8(11) 50.9(27) 28.3(15) 22.6(12) 43.4(23) 34.0(18)
10年以上20年未満 27.4(17) 51.6(32) 21.0(13) 27.0(17) 46.0(29) 27.0(17)
20年以上 19.4(12) 53.2(33) 27.4(17) -.106 33.9(21) 35.5(22) 30.6(19) .008 教育課程 准看護学校 8.3(2) 50.0(12) 41.7(10) 50.0(12) 33.3(8) 16.7(4)
進学コース 31.3(10) 31.3(10) 37.5(12) 25.0(8) 34.4(11) 40.6(13)
看護専門学校 16.8(12) 56.8(71) 26.4(33) 30.4(38) 44.0(55) 25.6(32)
短期大学 35.7(5) 57.1(8) 7.1(1) 20.0(3) 40.0(6) 40.0(6)
学士課程 30.8(4) 46.2(6) 23.1(3) 15.4(2) 38.5(5) 46.2(6)
修士、博士課程 33.3(1) 33.3(1) 33.3(1) -.148* 0.0(0) 33.3(1) 66.7(2) .134 看取り数 0~5例 9.4(3) 46.9(15) 43.8(14) 27.3(9) 48.5(16) 24.2(8)
6~20例 17.5(11) 46.0(29) 36.5(23) 35.5(22) 37.1(23) 27.4(17)
21~50例 25.9(15) 51.7(30) 22.4(13) 22.4(13) 36.2(21) 41.4(24)
51~100例 28.6(8) 50.0(14) 21.4(6) 21.4(6) 50.0(14) 28.6(8)
101例以上 25.0(1) 50.0(2) 25.0(1) -.209** 50.0(2) 50.0(2) 0.0(0) .073 診療報酬外の
緩和ケアの 有無
診療報酬外の 緩和ケアなし
22.3(39) 52.0(91) 25.7(45) 28.4(50) 42.0(74) 29.5(52)
診療報酬外の 緩和ケアあり
11.1(3) 44.4(12) 44.4(12) .147* 29.6(8) 37.0(10) 33.3(9) .012
病院看護職に よる高齢患者 の終末期意思 を尊重する 看護能力
終末期ケアの 協働
低群 27.9(12) 39.5(17) 32.6(14) 18.6(8) 32.6(14) 48.8(21)
中群 19.4(18) 52.7(49) 28.0(26) 33.7(32) 41.1(39) 25.3(24)
高群 18.5(5) 40.7(11) 40.7(11) .070 18.5(5) 44.4(12) 37.0(10) -.097 終末期の説明
サポート
低群 33.3(12) 50.0(18) 16.7(6) 25.0(9) 38.9(14) 36.1(13)
中群 21.2(24) 53.1(60) 25.7(29) 26.3(30) 41.2(47) 32.5(37)
高群 11.3(6) 45.3(24) 43.4(23) .234** 38.9(21) 40.7(22) 20.4(11) -.139 終末期患者に
関する看護
低群 21.4(15) 47.1(33) 31.4(22) 30.0(21) 35.7(25) 34.3(24)
中群 27.0(24) 52.8(47) 20.2(18) 28.9(26) 44.4(40) 26.7(24)
高群 7.7(4) 53.8(28) 38.5(20) .084 30.8(16) 40.4(21) 28.8(15) -.033 患者の思いに
関する他者との 連携
低群 21.4(6) 53.6(15) 25.0(7) 25.0(7) 42.9(12) 32.1(9)
中群 23.5(24) 52.0(53) 24.5(25) 27.2(28) 42.7(44) 30.1(31)
高群 16.2(11) 50.0(34) 33.8(23) .096 34.8(24) 39.1(27) 26.1(18) -.078 患者を取りまく
人々のサポート
低群 25.0(10) 57.5(23) 17.5(7) 35.0(14) 40.0(16) 25.0(10)
中群 18.8(12) 56.3(36) 25.0(16) 30.8(20) 44.6(29) 24.6(16)
高群 16.5(14) 49.4(42) 34.1(29) .143 27.9(24) 40.7(35) 31.4(27) .074
*p<.05 **p<.01
看護能力の第1因子「終末期ケアの協働」が高群の者 は、高齢患者の終末期の「延命意思」の尊重が中高群 81.4%と高い傾向にあり、高齢患者の終末期の「延命 意思」の尊重が低群の者は高齢患者の終末期の「差し 控え意思」の尊重が81.4%と高い傾向にあった。ま た、病院看護職による高齢患者の終末期意思を尊重す る看護能力の第2因子「終末期の説明サポート」が高 群の者は、高齢患者の終末期の「延命意思」の尊重が 88.7%と高い傾向にあり弱い正の相関を示し(r=.23, p=.001)、第3因子「終末期患者に関する看護」が高 群の者は、高齢患者の終末期の「延命意思」の尊重が 中高群92.3%と高い傾向にあった。
Ⅵ.考察
1.高齢患者の終末期意思の尊重についての看護職 の認識
まず、本研究では高齢患者の終末期の意思決定のみ の設定の場合には、延命処置の可否に関わらず7割強 の看護職が高齢患者の終末期意思を尊重し、2割程度 の看護職が高齢患者の終末期意思を尊重しないとする と認識しており、自分の意思に応じた最期を迎えてい ない高齢患者が少なくとも存在していると考えられ る。これまでの研究においても、本研究と同様に高齢 者本人の意思が終末期医療ケアに十分に反映されてい
ない17‒19ことが示されていた。高齢者の終末期におけ
る医療ケアの選択は生死に関わり、予後が左右される ことが考えられ、高齢者本人の意思を反映することは 重要である。なぜなら、法的には持続可能な社会保障 制度の確立を図るための改革の推進に関する法律
(2013年12月13日号外法律第112号)として、医療 提供にあたり患者個人の尊厳や意思がより尊重され、
人生の最終段階を穏やかに過ごすための環境整備に努 めることが明記され、介護事業(1999年3月31日厚 生労働省令第37号、第40号)においては以前から、
要介護高齢者個々の意思および人格を尊重することが 基準化されている。かつ、全ての国民に対する基本的 な自己決定権として、日本国憲法第11条の基本的人 権の保障、第13条の生命・自由・幸福追求権、個人 としての尊重、臓器の移植に関する法律第2条の生前 の意思の尊重、医療法第1条の4の医療提供時に対象 者の理解を得ることが定められている。そして、治療 を受ける本人の自己決定権の重要性20や、本人の価値 観に合わせた医療の有益または無益の判断の必要性21 が示されており、終末期において高齢患者本人が意思 決定するという自律は、基本的には尊重されることが 当然といえる。また、本研究における調査項目は、治 る見込みがなく死が間近に迫っている状況を設定して おり、もはや医療は高齢患者にとって回復ではなく侵 襲を与える可能性もあり、善行や無危害とはいえない ことも考えられた。そのため、看護職の認識調査の結
果として、高齢患者の意思の尊重が3〜7割強程度と なっていたことは、看護の倫理的原則2に基づく終末 期医療ケアの遂行に課題があるのではないかと考えら れる。しかしながら、現実問題として患者本人への意 思 確 認 の 困 難 さ を4割 以 上 の 病 院 が 示 し て お り22
(p.100, 112)、高齢患者には病状や認知機能の変化に よる意思決定の困難さがあると考えられる。そのた め、高齢患者の傍らでケアする看護職は、ライフレ ビューや日々のケアを通して価値判断の背景を知
り23, 24、その人の望みを汲み取り25、医療意思決定に
介入する26ことは、高齢患者を尊重し人生の終盤を心 穏やかに過ごしてもらう支援になると考えられる。し たがって、看護職が高齢患者の終末期において、認知 症などの高齢患者の意思の汲み取る方法や、倫理的原 則に基づく終末期医療ケアを実践できるような学びを 深める機会の必要性が考えられる。
次に、高齢患者の終末期の意思決定のみの設定では 7割以上の看護職が高齢患者の終末期意思の尊重をす ると認識していたが、高齢患者の意思と家族や医師の 終末期の延命処置の考えが異なる設定の場合には、ど の設定においても高齢患者の終末期意思を尊重する割 合が3〜5割程度に低下していた。すなわち、高齢患 者の終末期の意思決定があっても、家族や医師の考え と異なる場合には、5〜7割の看護職が家族や医師の 方を優先すると認識していた。現状では、延命処置開 始に関する説明が病院の7割、延命処置の中止に関す る説明が病院の5割の実施22(p.67, 68)に留まってお り、説明がなかったケースや医療者主体の終末期医療 ケア27の存在があり、加えて認知症高齢者では治療に 伴う身体抑制28や過剰な医療の実施29, 30も認められて いる。本研究においても5〜7割の看護職が家族や医 師の終末期医療の考えを優先すると認識しており、医 療者主体になっている現状が含まれると考えられる。
また、高齢患者の終末期医療の意思と医師の考えが異 なる場合に5割以上、高齢患者の終末期医療の意思と 家族の考えが異なる場合に3〜4割程度の看護職が高 齢患者の終末期意思を尊重すると認識していた。すな わち、終末期医療の考えが医師との場合よりも家族と 異なっている場合の方が、高齢患者の意思決定を尊重 する割合が減っていたため、終末期医療が家族主体に なっている傾向もあるといえる。だが、終末期医療を 受ける患者・家族・医療職の間において価値観や価値 判断の異なりがあっても、各々が話し合える機会を持 つことで、状況に合わせた情報の伝達や共有が可能 に な り、 解 決 の 糸 口 が 得 ら れ る 可 能 性 が あ る31
(p.374)。たとえば、治療困難な末期がんの高齢患者 が自宅に戻りたいと訴えているが、家族は諸事情によ り在宅介護困難と考えている場合に、医療職が患者や 家族を含む話し合いの場を積極的に持つことにより、
外出・外泊案の試行につながることもある。よって、
異なる終末期医療の希望があった場合に、外出・外泊 などの具体的なシミュレーションを可能にする方法を 示すことは、終末期医療の選択後に生じる肯定的要素 や否定的要素を明確にでき、異なる希望を同じ方向性 へと導くこともあると考える。しかし、緩和ケアや看 取りに関する検討体制がある病院は5割程度22(p.95)
であり、倫理的な問題の解決方法を模索する機会は十 分といえない。したがって、病院看護職の認識では、
終末期医療における高齢患者本人の意思決定と家族や 医師の考えと異なる場合に、高齢患者本人の終末期医 療意思を尊重しない割合が増える傾向にあるため、患 者権利に関する問題の解決方法を模索する機会が必要 であると考える。
2.高齢患者の終末期意思の尊重と関連する項目に ついて
「高齢患者の終末期意思の尊重」と関連性が示唆さ れる項目を抜粋し、「臨床経験年数」「教育課程」「看 取り数」「診療報酬外の緩和ケアの有無」「病院看護職 による高齢患者の終末期意思を尊重する看護能力」と のクロス集計および相関関係分析結果を表5に示して いる。なお、分析では各項目の得点が高いものを高 群、中程度のものを中群、低いものを低群に分けて用 いている。
「教育課程」「看取り数」「病院看護職による高齢患 者の終末期意思を尊重する看護能力」との関連につい て以下に示す。
1) 「高齢患者の終末期意思の尊重」と「教育課程」の
関連について
本研究では、看護の教育課程が准看護学校であった 者は高齢患者の終末期の「延命意思」の尊重が中高群 91.7%と高く「差し控え意思」の尊重が低群50.0%と 低い傾向にあった。すなわち、看護の教育課程が准看 護学校の看護職の認識は、高齢患者が終末期に延命処 置を望む場合にはその意思を尊重するが、高齢患者が 終末期に延命処置を望まない場合にはその意思を尊重 しない傾向が示唆された。日本の准看護師制度は 1951年戦後の荒廃した状況下に発足し、基礎学歴の 要件が中学校卒業であるため教育内容は易しく、科目 履修時間は看護師養成所の規定時間数の63%になっ ている32。また、保健師助産師看護師法の第6条に は、准看護師の業務において医師や看護師の指示を受 けることが規定されている。そのため、准看護師の認 識として高齢患者の延命意思は尊重し、延命処置の差 し控え意思は尊重しない傾向があることは、准看護師 の業務基準である医師や看護師の指示に影響されてい る可能性もあるのではないかと考える。しかし、患者 はどのような教育課程を経て看護資格を得た者から医 療ケアを受けているかによって、終末期の医療意思決 定における看護支援を区別されるべきではない。全国
の看護学科の科目調査では、終末期の定義や高齢者の 終末期におけるQOLの維持向上のための生活史・人 生観に基づく支援が含まれていないことが課題とされ ている33。一方、認定看護師の教育課程では必修科目 の「看護倫理」を通して、既知の知識を活用した状況 分析や推論に基づく看護能力が育成されている34。だ が、看護倫理教育を受けた認定看護師の数は14,282 名(2014年12月)32で あ り、 就 業 看 護 職 者 総 数 1,445,516名(2012年)32の1%にも満たない。また、
実際に看取りの職員研修をしている病院は6割程度22
(p.65)、看取りの研修を受けた看護職は4割弱であ り22(p.91)、高齢患者の終末期に必要とされる倫理的 な教育は十分ではないと考えられる。そして、臨床看 護師には追加の倫理教育を受ける必要性が指摘されて おり35、さらに看護師からは高齢患者の終末期医療ケ
ア36‒39に関連する内容の追加教育の要望が高かった。
よって、特に高齢患者の終末期医療ケア選択の場面に 遭遇することの多い病院の看護職では、終末期におけ る看護能力が向上するような追加の倫理教育の必要性 が高いと考える。
2)「高齢患者の終末期意思の尊重」と「看取り数」の 関連について
本研究では、「看取り数0〜5例」の者は、高齢患者 の終末期の「延命意思」の尊重が中高群90.7%と高 く、看取り数の多い看護職は「延命意思」の尊重の高 群が2割程度と低い傾向にあった。すなわち、看取り 数の少ない看護職は高齢患者が終末期に延命処置を望 む場合に、その意思を尊重する傾向がある一方、看取 り数の多い看護職は高齢患者が終末期に延命処置を望 む場合に、その意思を尊重しない傾向が示唆された。
このように経験に関連する医療とは、医療職が症例経 験やデータベースによって、医療処置が患者の生命を 縮め無危害ではないと判断すると、患者の意思に反し た治療の中止があること40(p.303)が示されている。
そこには医療職のパターナリズムの存在も考えられ、
看取りの経験が増えることまたは看取りの経験の増加 によって形成された価値観としてパターナリズムもあ るのではないかと考える。一方、看取り数の少ない看 護職では、医療処置の適性を判断する経験やデータ ベースの活用が未熟であり、死に向き合うことに慣れ ておらず、パターナリズムも形成されていないため、
延命意思の尊重が高いことも考えられる。もっとも患 者の意思決定が見込める場合には、本人の価値判断が 尊重される必要があり41(p.89)、患者にとって自分の 価値判断を否定されてパターナリズムに従うことは、
精神的な影響やQOLの低下が危惧される。そのため、
患者を中心とした医療倫理を基本としながら、患者・
家族・医療者らが妥当な解決方法を得る機会や場が必 要と考える。
3)「高齢患者の終末期意思の尊重」と「高齢患者へ の終末期看護能力」の関連について
本研究では、高齢患者への終末期看護能力の第1因 子「終末期ケアの協働」が高群の者は、高齢患者の終 末期の「延命意思」の尊重が中高群81.4%と高い傾向 にあり、低群の者は高齢患者の終末期の「差し控え意 思」の尊重が81.4%と高い傾向にあった。また、第2 因子「終末期の説明サポート」が高群の者は高齢患者 の終末期の「延命意思」の尊重が88.7%と高い傾向に あり、弱い正の相関を示していた(r=.23, p=.001)。
そして、第3因子「終末期患者に関する看護」が高群 の者は、高齢患者の終末期の「延命意思」の尊重が中
高群92.3%と高い傾向にあった。これまで高齢者看
護の能力としては、高齢者の人権や意思を尊重した支 援、家族への支援、専門職間や地域との連携・協働が 示されていた12, 42, 43。しかしながら、それらの看護能 力が高齢患者の異なる意思決定状況においてどのよう に関連しているかについては明らかではなかった。本 研究では、高齢患者への終末期看護能力として「終末 期ケアの協働」「終末期の説明サポート」「終末期患者 に関する看護」の能力が高い看護職は、高齢患者の終 末期の延命処置の意思の尊重も高く、「終末期ケアの 協働」の能力が低い看護職は、差し控え意思の尊重が 高いことが示唆された。「高齢患者の終末期意思の尊 重」と「終末期ケアの協働」「終末期の説明サポート」
「終末期患者に関する看護」との関連について以下に 示す。
まず、「終末期ケアの協働」すなわち「ケアカンファ レンスへ患者(家族)が参加することについて」「ケア 目標を患者と設定することについて」「終末期ケアを 家族(スタッフ)と話し合うことについて」「ケアへ家 族が参加する場を提供することについて」の能力が高 い看護職は、高齢患者の終末期の延命処置の意思の尊 重は高いが、差し控え意思の尊重は低い認識の傾向が あった。これは、看護職が看護の対象を個のみではな く、家族の共同体や社会の変化も含む自然の中の存在 としての捉え方や関わる44ことによって、終末期医療 ケアを展開していることも考えられる。これに類似し て、ソーシャルワークにおける病理モデルから発展し た生活モデルがあり、人と環境は不分割で個人(ミク ロ)から自然環境(マクロ)までを包括した現実をシ ステムとしている45という視点がある。その視点にお いては、対象者を支援されるのみの存在ではなく、人 的資源も含む環境との相互作用によって双方が成長・
変容する可能性が潜在している。その生活モデルで考 えると、看護職と家族や他職種間の協働によって高齢 患者との間に新たな相互作用が生じ、家族等の希望す る患者の延命意思へ変容する可能性もあり、結果とし て看護職が患者の差し控えの意思を尊重しないことに なった可能性も考えられる。一方、看護職が家族や医
療職に高齢患者の英知を聴く機会を設けること等に よって、患者の自己肯定感や家族や医療職による看取 りの受容を促し、高齢患者の延命処置の差し控えの意 思尊重を可能にすることも考えられる。
次に、「終末期の説明サポート」すなわち「患者(家 族)へ医師の所見の説明サポートをすることについ て」「患者(家族)へ治療選択のメリット・デメリット などを適切に判断できるような説明サポートをするこ とについて」の能力が高い看護職は、高齢患者の終末 期の延命処置の意思の尊重も高い認識が示唆された。
このように終末期の説明サポートの能力が延命意思の 尊重を高めていることは、臨床経験3年以上の循環器 病棟看護師が医師の説明後に患者の理解度を確認し、
治療の理解とイメージ化への支援や患者の理解を促し 自発的意思決定を支えていた46ことと同様に、終末期 の説明サポートによって高齢患者の延命処置の意思を 支えていると考えられる。しかし、終末期の説明サ ポートの能力が差し控え意思の尊重を低くしているこ とは、治療困難ながん患者に対するインフォームドコ ンセントに関する調査において予後の説明は4割と消 極的である47ような説明サポートの前提となる医療者 の説明の消極性も考えられ、看護職による終末期の説 明サポートに困難さが内包されていると考えられる。
ただ、予後の説明を受けた治療困難ながん患者では、
その説明が自己の意思決定に役立ったと肯定的に捉え ており47、看護職が終末期の予後も含めて適切に説明 サポートすることは、高齢患者や家族が終末期に向き 合うことを可能にし、真の意思決定支援になると考え られる。
そして、「終末期患者に関する看護」すなわち「身体 的苦痛の緩和について」「精神的苦痛の緩和について」
「終末期の意思決定の記録について」「患者の終末期の 意思の確認について」の能力が高い看護職は、高齢患 者の終末期の延命処置の意思の尊重も高い認識の傾向 があった。このように終末期患者に関する看護の能力 が延命意思の尊重を高めているのは、延命を期待する 目標によって医療の無益性を認識しないことが意思確 認や記録を容易にさせ、延命処置自体も患者の苦痛の 緩和の1つとして捉えられているのではないかと考え る。一方、終末期患者に関する看護能力が差し控え意 思の尊重を高めていないため、非がん患者の改善の可 能性は皆無になり難く看取りへのギアチェンジの困難 さがある48(p.194)という認識が含まれていたのでは ないかと考える。だが、75歳以上では診療報酬内の 緩和ケアの対象となり得るがん患者の4.5倍の多さの 非がん患者が存在する49(p.23)ため、看護職は終末 期患者の看取りへギアチェンジするタイミングを認識 し、終末期の嚥下障害・せん妄・褥瘡・脱水・感染症 など様々な症状発生に伴う治療処置や緩和ケアとのバ ランスをとりながら、高齢患者の意思を尊重したケア