7 原子核 の殻 模型 (Shell model of nuclei)
重い 原子核 に 対 する Schr¨ odinger 方 程式 ( 例 えば A = 200 体問題 ) は 解 けないので、平 均 場 近似 を 使 う。
平 均 ポテンシャルの概念: 原子核中 の 1 個 の 核子 に着 目 すると、そ の 核子 が 他 の A − 1 個 の 核子 との 相互作 用のため、 位 置 ~ r に 依存 する次の「平 均 ポテンシャル」を 感 じている:
U (~ r) =
A−1
X
i=1
Z
d 3 r i V (~ r − ~ r i ) P i (~ r i ) (7.1) ただし、 V は 核力 、 P i (~ r i ) は 核子 i を 位 置 ~ r i で 見出 す 確率 である。
U(r)= Σi=1
A-1
i r V(r-r )
ir
i核 力 の 到 達 距 離 は 原 子 核 の 大 きさのスケールで 短 い ( 短 距 離 の 力 ) ので、ここで delta 関 数 で 近似 する: V (~ r − ~ r i ) → −kδ (3) (~ r − ~ r i ).
ただし、 k > 0 は 定数 である。 従って、
U (~ r) ' −k
A−1
X
i=1
P i (~ r) = −kρ A−1 (~ r) ' −kρ A (~ r) (7.2)
となる。ただし、 ρ A−1 (r ) は、 質量 数 A − 1 の 原子核中 の 核子密 度
分 布であり、 A が 大 きいときに ρ A−1 (r ) ' ρ A (r) が成り立つ。 電子
散乱 の 実験 データから、その 密 度 分 布 ρ A (r) は Fermi 型 関 数 である
ことが 分 かっている ( 第 3 章に 参照 )ので、 平 均 ポテンシャルは次
の “Woods-Saxon” 型 ポテンシャル (U WS ) となる:
U (r) = U WS (r) = −U 0 1 + e (r−R)/a U 0 ' 50MeV, R = 1.1 A 1/3 fm
この Woods-Saxon 型 ポテンシャルを 使 って、 核子一個 々の Schr¨ odinger 方 程式を 解 けばよい。 それは 数値 計算で 可 能だが、 式で 表 せない
ので、ここで Woods-Saxon 型 ポテンシャルを 更 に調 和振動子 ポテンシャル (harmonic oscillator potential U HO (r)) で 近似 する 1 :
U HO (r) = −V 0 + 1
2 M ω 2 r 2
ただし、 図 のように r = R ( 原子核 の 半 径) のところで U HO (r) がゼ ロとなるように ω の 値 を 決定 する:
U HO (r = R) = 0 ⇒ 1
2 M ω 2 R 2 = V 0 ω =
r 2V 0
M R 2 ⇒ ~ ω = s
2V 0 ( ~ c) 2 (M c 2 )R 2
= s
2 × 50 × (197) 2
940 × (1.1 × A 1/3 ) 2 MeV = 58 A −1/3 MeV ( それは経 験的 な 値 ~ ω = 41A −1/3 MeV よりも少し 大 きい。 )
1M は核子の質量で、ω と古典力学の「バネ定数」(k)との関係はω=p k/M.
原子核 についての Schr¨ odinger 方 程式は、 平 均 場 近似 の範 囲 で次の ようになる:
A
X
i=1
H i (~ r i )
!
Ψ (~ r 1 , ~ r 2 , . . . , ~ r A ) = E Ψ (~ r 1 , ~ r 2 , . . . , ~ r A ) (7.3) ただし、 核子 i についての1粒 子 ハミルトニアンは
H i (~ r i ) = p 2 i
2M + M ω 2
2 r i 2 − V 0 (7.4)
ここで 波動 関 数 Ψ (~ r 1 , ~ r 2 , . . . , ~ r A ) は次の積で 書 けることを 仮定 する
( 「 変数分類 」の 方法 ) :
Ψ (~ r 1 , ~ r 2 , . . . , ~ r A ) = ψ 1 (~ r 1 ) · ψ 2 (~ r 2 ) · . . . ψ A (~ r A )
それを (7.3) 式に 代入 すると、 それぞれの1粒 子波動 関 数 は次の
Schr¨ odinger 方 程式を 満 たせばよい:
p 2 i
2M + M ω 2
2 r i 2 − V 0
ψ i (~ r i ) = ε i ψ i (~ r i ) (7.5) ただし、 原子核 の 全 エネルギー E は、1粒 子 のエネルギー ε i の 和 となる:
E = ε 1 + ε 2 + · · · + ε A
結局 、3次 元 調 和振動子 ポテンシャルに 対 する1粒 子 の Schr¨ odinger 方 程式 (7.5) を 解 けばよい。
この 問題 を1次 元 の Schr¨ odinger 方 程式に帰着できる (⇒ 講 義「量 子力学 I 」に 参照 ) 。なぜならば、 1粒 子 のハミルトニアン (7.4) を 次のように 書 けるからである 2 :
H = p 2
2M + M ω 2
2 r 2 = 1
2M p 2 x + p 2 y + p 2 z
+ M ω 2
2 x 2 + y 2 + z 2
= H x + H y + H z
2定数V0 は1粒子のエネルギー固有値のシフト(→−V0)だけ及ぼし、波動関数に影響しないから以下の式で は省略する。
従って、 1粒 子 の Schr¨ odinger 方 程式
H ψ(x, y, z) = ε ψ(x, y, z)
の 波動 関 数 は次の積で 書 ける (⇒ 変数分類 の 方法 ):
ψ(x, y, z) = X (x) · Y (y) · Z (z)
ただし、 関 数 X (x), Y (y), Z (z) はそれぞれ x, y, z 方向 についての1 次 元 調 和振動子 の Schr¨ odinger 方 程式を 満 たす:
H x X (x) = ε 1 X (x) H y Y (y) = ε 2 Y (y) H z Z (z) = ε 3 Z (z)
3次 元 調 和振動子 のエネルギー ε は1次 元 調 和振動子 のエネルギ ーの 和 である:
ε = ε 1 + ε 2 + ε 3
1次 元 の調 和振動子 の 波動 関 数 と 固有値 は 講 義「量 子力学 I 」で 勉 強した: 例 えば x 方向 について、
X (x) ≡ φ n (x) = N n e −M ωx
2 2~
H n (
r M ω
~ x)
ε 1 ≡ ε 1n = ~ ω( 1
2 + n)
但 し、 n = 0, 1, 2, . . . で、 波 動 関 数 は Gauss 関 数 と 多項 式 H n (x) (Hermite 多項 式 ) の積である。 n は 偶数 のときに H n (x) が 偶 のベキ のみ、 n は 奇数 のときに 奇 のベキのみをもつ。 例 えば、
H 0 (x) = 1 , H 1 (x) = 2x , H 2 (x) = 4x 2 − 1 , H 3 (x) = 8x 3 − 12x . . .
即 ち、 n = 偶数 のときの 波動 関 数 のパリティーが P = +1, n = 奇
数 のときの 波動 関 数 のパリティーが P = −1. 従って、 φ n (x) のパ
リティーは P = (−1) n である。
結局 、 3次 元 の調 和振動子 の 波動 関 数 と 固有値 が次のようになる:
ψ n1n
2n
3(x, y, z) = φ n1(x)φ n2(y)φ n3(z) ε n = ~ ω( 3
(x)φ n2(y)φ n3(z) ε n = ~ ω( 3
(z) ε n = ~ ω( 3
2 + n)
n = n 1 + n 2 + n 3 = 0, 1, 2, · · · : principal quantum number この 波動 関 数 のパリティーは P = (−1) n1(−1) n2(−1) n3 = (−1) n であ る。
(−1) n3 = (−1) n であ る。
波動 関 数 (状 態 )が (n 1 , n 2 , n 3 ) に 依存 するが、 エネルギーが 主 量 子数 n = n 1 + n 2 + n 3 のみに 依存 する。
「縮重度」 (degeneracy) とは、 同 じエネルギーをもつ状 態 の 数 で 定 義されている。 従って、 エネルギー 順 と縮重度は次のようになる
3 :
kdx
total
ここ、 (n 1 n 2 n 3 ) は 状 態 φ n1(x)φ n2(y)φ n3(z) を 表 している。 この 図 は、 最初 の3つの「殻」を示している。 即 ち、 原子核 の殻構 造 は 自 然 に 現 れた。 満杯 の殻のみをもつ 原子核 は特 別安定 である。
(y)φ n3(z) を 表 している。 この 図 は、 最初 の3つの「殻」を示している。 即 ち、 原子核 の殻構 造 は 自 然 に 現 れた。 満杯 の殻のみをもつ 原子核 は特 別安定 である。
3核子のスピン向きは2通りがあるので、純粋の調和振動子の縮重度を2倍にした。n= 3の場合は各自で状態 を記入して、縮重度(20)を確認しないさい。
原子核 の魔 法数 (magic number): 特 別安定 な 原子 核 の 陽 子 の 数 (Z ) および 中性子 の 数 (N ). 例 えば 中性子 の 数 (N ) が魔 法数 である 場 合 は、 その 原子核 から1 個 の 中性子 を抜け 出 すために必 要 なエ ネルギーは、 隣 りのアイソトープ ( 中性子 の 数 は N + 1) の場 合 よ りも非常に 大 きい。
殻 模型 では、「魔 法数 」をもつ 原子核 は、 完全 につまった 核子 の殻 をもつ。 従って、 上 の調 和振動子 の計算では、「魔 法数 」は次のよ うになる:
Z or N = 2, 8, 20, 40, 70, . . .
しかし、 実験 で 観測 された魔 法数 (特 別安定 な 原子核 の 陽子 の 数 および 中性子 の 数 ) は
Z or N = 2, 8, 20, 28, 50, 82, 126 である。
この魔 法数 を殻 模型 で説 明 するために、 調 和振動子 ポテンシャル だけでなく、 更 に次の「スピン・ 軌道 ポテンシャル」 (spin-orbit potential) を 加 える必 要性 がある:
V `s = −α ~ ` · ~ s
ここは α > 0 は 定 数 、 ~ `, ~ s は1 粒 子 の 軌道角 運動 量 とスピン 演 算 子 である。 結局 、 V `s を調 和振動子 のハミルトニアンに 加 えて、
Schr¨ odinger 方 程式を 解 き 直 すことになる。
そのための 準備 として、まず調 和振動子 の 固有 状 態 (ψ n1n
2n
3(x, y, z)) を n 1 , n 2 , n 3 でなく、 軌道角運動 量 ` ~ (` = 0, 1, 2, . . . ) で 現 すことに する。そのために、 次のことを 思 い 出 す:
1. 軌道角運動 量の 大 きさは ` ~ のときに、状 態 の縮重度は 2(2`+1)
である。なぜならば、 軌道角運動 量 ` ~ の 向 きは 2l + 1 通 りが
あり、 更 にスピンの 向 きは2 通 りがあるので、 合 計 2(2` + 1) 個
の状 態 は 皆同 じエネルギーをもつ。
2. 軌道角運動 量 ` ~ の 波動 関 数 のパリティーは (−1) ` である。
それを 使 って、 3次 元 の調 和振動子 のエネルギー 順位 と縮重度は 次のようになることが 推測 できる 4 。
kdx
total
この 表 は、それぞれの殻 (n = 0, 1, 2, . . . ) に 含 まれている 軌道角運 動 量の状 態 を 表 している。 例 えば、 1 p とは、 n = 1, ` = 1 ~ の状 態 を 表 している。
以上 は調 和振動子 ポテンシャル (U HO ) についての 理 論だったが、
もっと 現実的 な Woods-Saxon ポテンシャル (U WS ) を 使 う場 合 はエ ネルギー 順位 は次のように 変 わってくる (p.2 の 図 に 参照 ):
• r が小さいときに |U WS | < |U HO | で、 逆 に r が 大 きいときに
|U WS | > |U HO | である。 即 ち、 U WS を 使 うと、 原子 核 の 中 心 (r = 0) に 近 い 軌道 のエネルギーが 上 がり、 原子核 の 中 心から 遠 い 軌道 のエネルギーが 下 がってくる。
• 軌道角運動 量が 高 いときに、 遠 心 力 の影響で 軌道 の 半 径が 大 きくなる。従って、 U WS を 使 うと、 軌道角運動 量が 大 きい 軌道 のエネルギーが 下 がってくる。
しかし、 それらの 効果 を 入 れても 原子核 の魔 法数 は説 明 できない
(次の 表 に 参照 。 )
4この表とp.5の表では、各nのとき同じ縮重度、同じパリティーになることを自分で確認して下さい。
total
原子核 の魔 法 を説 明 するために、 更 に スピン・ 軌道 ポテンシャル (spin-orbit potential) を 加 える:
H = p ~ 2
2M + U WS (r) + V `s V `s = −α ~ ` · ~ s (α > 0)
先 ず、 以前勉 強した 角運動 量について復習する:
• ~ ` = 軌道角運動 量の 演 算 子
~ ` 2 の 固有値 は ~ 2 `(` + 1) (` = 0, 1, 2, . . . )
• ~ s = スピンの 演 算 子
~ s 2 の 固有値 は ~ 2 s(s + 1) (s = 1 2 )
• 従って、 全角運動 量の 演 算 子 は、
~j = ~ ` + ~ s
~j 2 の 固 有 値 は ~ 2 j(j + 1) となるが、 ~ ` と ~ s は 平 行 のときに
j = ` + s で、 反 平 行 のときに j = ` − s である。
従って、 V ls の 固有値 (eigenvalue) を次のように計算できる:
V `s = −α~ ` · ~ s = − α 2
~j 2 − ~ ` 2 − ~ s 2 ⇒
eigenvalue = − ~ 2 α
2 (j (j + 1) − `(` + 1) − s(s + 1))
• 平 行 (j = ` + 1 2 ) の場 合 は 固有値 は次のようになる:
− ~ 2 α 2
(` + 1
2 )(` + 3
2 ) − `(` + 1) − 3 4
= − ~ 2 α
2 ` < 0
• 反 平 行 (j = ` − 1 2 ) の場 合 は 固有値 は次のようになる:
− ~ 2 α 2
(` − 1
2 )(` + 1
2 ) − `(` + 1) − 3 4
= ~ 2 α
2 (` + 1) > 0
即 ち、 j = ` + 1 2 の 軌道 のエネルギーが、 j = ` − 1 2 よりも 低 くなる。
この spin-orbit splitting は、 ` と 共 に 大 きくなる。
例 えば、 状 態 1p ( 即 ち n = 1, ` = 1) および 3f ( 即 ち n = 3, ` = 3) の 場 合 、 V `s の影響のため次の spin-orbit splitting が生じる:
l = 1
j=l-1/2=1/2
j=l+1/2=3/2
l = 3
j=l-1/2=5/2
j=l+1/2=7/2