レポート問題 (2020 年 7 月 30 日版 )
作成日: April 29, 2020 Updated : July 30, 2020 Version : 1.0 実施日: August 7, 2020
レポートの提出について:
• 提出期限は 2020 年 8 月 7 日 (金)24 時 (厳守) とします. (コロナの影響で変更 の可能性はあります .) 最後にまとめて提出してくださっても , こまめに提出し てくださってもどちらでも構いません .
• 原則として手書きの自筆レポートをスマホなどを用いてスキャンして提出して ください. (紙に記載したものでもタブレットなどに記載したものでも構いま せん .) パソコンで描図や数値計算を行い,それを参考資料として追加するの はかまいません . スキャンできない方は遠慮なくご相談ください .
• スキャンした提出物に表紙は不要ですが , 1ページ目の上部に学生番号・氏名 を明記してください.
• 参考にした文献や議論した友人がいれば,最後に引用するのが良いと思います.
問題 1. ( 落体の運動 ) 質量 m の物体 ( 質点 ) が , 速さの 2 乗に比例する空気抵抗力を受 けて落下する状況を考える. (比例定数を mµ > 0 と表す. ) 時刻 t での物体の位置を
⃗ r(t) = (x(t), y(t), z(t)), 速度を ⃗ v(t) = (v
x(t), v
y(t), v
z(t)) で表す . (z 軸は鉛直上向きにと る .) 初期条件 ⃗ r(0) = (0, 0, h), ⃗ v(0) = (0, 0, 0) の下 , 物体の落下運動を議論する .
(1) z 方向の運動方程式をたてよ . ( 抵抗力と物体の速度は逆向きであることに注意 .) (2) 終端速度 v
z( ∞ ) はいくらか .
(3) v
z(t) を t の関数として具体的に求め , グラフの概形を図示せよ . (4) z(t) を t の関数として具体的に求めよ .
(5) 実験データを調べ , 理論値と比較・考察せよ . ( 参考文献は必ず記載すること ) 問題 2. ( 曲線座標でのラグランジュ方程式 )
(1) 3 次元空間 R
3において,質量 m の 1 質点の運動を考える .
(a) Cartesian 座標から極座標への変換 (x, y, z) = (r sin θ cos φ, r sin θ sin φ, r cos θ) を考える. 質点の運動エネルギー T を, (r, θ, φ) の言葉で書き表せ.
(b) 球面振り子の設定 (r = l (定数), U = mgz = mgr cos θ) に対して, (θ, φ に関す る ) ラグランジュ方程式を書き下せ .
(2) 2 次元空間 R
2において,質量 m の 1 質点の運動を考える.
(a) Cartesian 座標系 (x, y) から回転座標系 (ξ, η) に以下の座標変換を行う.
( ξ η
)
= (
cos ωt sin ωt
− sin ωt cos ωt ) (
x y
) .
質点の運動エネルギー T を ( 陽に t を用いずに ) ξ, η の言葉で書き下せ .
(b) U = 0 とする. ラグランジュ方程式を書き下し,遠心力とコリオリ (Coriolis) の力が現れることを示せ .
標準 難易度 名古屋大学・理学部
問題 3. ( 最速降下曲線 ) 最速降下曲線とは,高さの異なる 2 点間を結ぶすべての曲線の うちで曲線上に軌道を拘束された物体に対して重力のみが作用する仮定の下,物体が速度 0 で高さの高い方の点を出発してからもう一方の点に達するまでの所要時間がもっとも短 いような曲線である.
最速降下曲線を求めよ . ( 変分法を用いることを推奨するが , 他の解法でもかまわない .) 問題 4. (N 次元等方調和振動子 ) ラグランジアンが以下で与えられる N 次元等方調和振 動子を考える .
L =
∑
N k=1m 2
( ( ˙ q
k)
2− ω
2(q
k)
2)
, (ω > 0).
(1) 一般化座標 q
iに対するオイラー・ラグランジュ方程式を求めよ .
(2) 任意の i, j の組について, (q
i, q
j) 平面での無限小回転に対して L は不変である . こ の対称性に関するネーターチャージ M
ijを求めよ .
(3) L は以下の変換に関して準不変である . q
k→ q
k+ ε
ij2
( q ˙
iδ
kj+ ˙ q
jδ
ki)
, (k = 1, 2, · · · , N ).
この対称性に関するネーターチャージが T
ij= m( ˙ q
iq ˙
j+ ω
2q
iq
j) となることを示せ . 問題 5. ( ケプラー運動 ) 惑星の運動に関するケプラーの法則を力学の法則から導け .
[ケプラー (Kepler) の法則]
• 第 1 法則:惑星は太陽を 1 つの焦点とする楕円軌道を運動する .
• 第 2 法則:惑星と太陽を結ぶ線が一定時間に描く面積は一定である.
• 第 3 法則:惑星の公転周期の 2 乗は軌道長半径の 3 乗に比例する . その比例定 数は惑星によらない .
以下ラグランジアンを用いたアプローチで誘導するが,別の方法で独自に解いてもかま わない . ( ただし記号などはなるべく合わせていただけると助かります .)
3 次元空間 R
3において,中心力により相互作用する 2 質点の運動 (2 体問題 ) を考える . 質点 1, 質点 2 の質量をそれぞれ m
1, m
2, 位置をそれぞれ ⃗ r
1, ⃗ r
2とおくと , このシステムの ラグランジアン L は, 以下のように与えられる.
L = m
12
⃗ ˙
r
12+ m
22
⃗ ˙
r
22− U ( | ⃗ r
1− ⃗ r
2| )
質点 1 を太陽, 質点 2 を惑星と同一視し, m
1≫ m
2の極限でケプラー問題に帰着する.
(1) 重心座標 R ⃗ と相対座標 ⃗ r および換算質量 m を以下で定義する : R ⃗ := m
1⃗ r
1+ m
2⃗ r
2m
1+ m
2, ⃗ r := ⃗ r
2− ⃗ r
1, m := m
1m
2m
1+ m
2.
L をこれらを用いて書き換え , 重心座標 R ⃗ が循環座標であることを示せ . ( この結果
より , 重心座標に共役な運動量 P ⃗ は保存する .)
(2) 座標並進に関する対称性を用いて,一般性を失うことなく , R ⃗ ˙ = 0 となる座標系 ( 重 心系) に移ることができる. このとき, L = (m/2) ˙ ⃗ r
2− U ( | ⃗ r | ) となる. この L は座標 回転に関する対称性を持つ . したがってネーターの定理より , 角運動量 L ⃗ = m⃗ r × ⃗ r ˙ は保存する . 角運動量の第 3 成分 L
3を極座標を用いて表せ . 極座標表示は以下を取 る:⃗ r = (x
1, x
2, x
3) = (r sin θ cos φ, r sin θ sin φ, r cos θ).
(3) 座標回転に関する対称性を用いて,一般性を失うことなく , x
3軸を L( ⃗ 一定 ) と平行 にとることができる. このとき ⃗ r はつねに x
1-x
2平面上を動くことに注意. L := | L ⃗ | とおく . (L = L
3である . ) 面積速度 h := (1/2)r
2φ ˙ を m, L を用いて表し , これが時 間によらず一定であることを示せ . ( ケプラーの第 2 法則 = 面積速度一定則 )
(4) 第 1 法則を証明するため , レンツ (Lenz) ・ベクトルというものを導入する:
⃗ e := 1 κ
⃗ ˙
r × ⃗ L − ⃗ r
r . · · · ( ∗ )
( 正確にはこれはレンツ・ベクトル A ⃗ を κ で割ったものであり , 離心 (eccentricity) ベ クトルとも呼ばれる .) (2) の相対運動のラグランジアンから導かれる運動方程式は 以下の通りである:
m ⃗ r ¨ = − κ ⃗ r r
3,
(
U (r) = − κ
r , κ := Gm
1m
2)
. (a) レンツ・ベクトル ⃗ e は保存量であることを示せ .
( ヒント: 3 次元ベクトル A, ⃗ ⃗ B, ⃗ C に関する恒等式 A ⃗ × ( B ⃗ × C) = ( ⃗ A ⃗ · B) ⃗ C ⃗ − ( A ⃗ · C) ⃗ B ⃗ および r r ˙ = ⃗ r · ⃗ r ˙ を用いてよい . ¨ r は運動方程式を用いて書き換えるとよい .) (b) レンツ・ベクトルの大きさ e は以下のようになることを示せ .
e
2= 1 + 2L
2mκ
2E,
ただし E は全エネルギーで定数 (保存量):E := T + U = (m/2) ˙ ⃗ r
2− (κ/r).
( 恒等式 ( A ⃗ × B) ⃗ · C ⃗ = ( B ⃗ × C) ⃗ · A ⃗ = ( C ⃗ × A) ⃗ · B ⃗ を用いてよい .)
(c) ⃗ r と ⃗ e のなす角を ϕ とすると以下が成り立つことを示せ . (( ∗ ) の両辺と ⃗ r との 内積をとる . 前問の 3 次元ベクトルの恒等式を用いてよい . )
r = l
1 + e cos ϕ , l := L
2mκ .
(d) E < 0 のとき前問で得られた軌道の式は離心率がちょうど e となる楕円を与え ることを示せ . また楕円の長半径 a := (1/2)(r
min+ r
max) を κ, E で表せ . ( ケプ ラーの第 1 法則 )
(e) ( ケプラー問題とは無関係な設問 ) レンツ・ベクトル ( 保存量 ) の存在に対応する
対称性を見出そう . L が以下の変換 x
j7→ x
j+ ε
if
ij, (i, j = 1, 2, 3) に関して準 不変 δ L = ε
iY ˙
iであるとし , この対称性に関するネーター・チャージがレンツ・
ベクトルの 3 つの成分を与えるとする: e
i= (m/κ)(x
i( ˙ ⃗ r · ⃗ r) ˙ − x ˙
i(⃗ r · ⃗ r)) ˙ − x
i/r.
f
ij, Y
iを定めよ .
(5) 以上を用いて, E < 0 のとき, 公転周期 T と長半径 a との間には, T
2= 4π
2m
κ a
3の関 係が成り立つことを示せ. (短半径 b が b = a √
1 − e
2となることは既知としてよい.) これと κ = Gm
1m
2, m
1≫ m
2より , 比例定数が惑星 (m
2の値 ) によらず一定である ことが導かれる . ( ケプラーの第 3 法則 )
標準 難易度 名古屋大学・理学部
問題 6. ( ケプラー運動の対称性とポアソン括弧 ) 3 次元のケプラー運動を考える . ( 記 号はレポート問題 5 に準ずる . すなわち , A ⃗ := ˙ ⃗ r × ⃗ L − κ ⃗ r
r をレンツ (Lenz) ・ベクトル , L ⃗ = m⃗ r × ⃗ r ˙ = ⃗ r × ⃗ p を角運動量とする .) 正準変数として , (x
i, p
j) (i, j = 1, 2, 3) をとる .
(1) 角運動量の 3 つの成分 L
iに関して, ( ポアソン括弧による ) 関係式 { L
i, L
j} = ϵ
ijkL
k(i, j, k ∈ { 1, 2, 3 } ) が成り立つことを示せ . (ϵ
ijkはエディントンの完全反対称テンソルで ϵ
123= 1 とする . 下の式の右辺では k について和が取られていることに注意 .) (2) レンツ・ベクトル , 角運動量の 3 つの成分に関して,関係式 { A
i, L
j} = ϵ
ijkA
kが成
り立つことを示せ .
(3) レンツ・ベクトルの 3 つの成分に関して,関係式 { A
i, A
j} = − (2H/m)ϵ
ijkL
kが成 り立つことを示せ . ただし H はハミルトニアンで , H = p
2/2m − κ/r.
(4) H は保存量であるから , H = E ( 定数 ) とあらわし , E < 0 とする . ここでレンツ・
ベクトルをスケール変換した以下の量を定義すると: M
i:=
√ m
2 | E | A
i, 以下の関係 式が成り立つ:
{ L
i, L
j} = ϵ
ijkL
k, { M
i, L
j} = ϵ
ijkM
k, { M
i, M
j} = ϵ
ijkL
k.
SO(4) のリー代数の生成子の満たす関係式 ( ただし積は行列の交換子積 ) を書き下し , この関係式と一致する ( 同型である ) ことを示せ . (SO(4) のリー代数の生成子につい ては 7 月の講義で解説予定 .)
なお, A
i= (1/2) (L
i+ M
i) , B
i= (1/2) (L
i− M
i) とさらに書き直すと, SU(2) の リー代数の直和と同型であることも分かる .
問題 7. (Lax 形式・戸田格子 )
(1) L(t) を n × n 対称行列に値をとる t についての関数とする . 以下の 3 つの命題は同 値であることを示せ .
(i) L(t) のすべての固有値は t によらない .
(ii) 直交行列 U (t) が存在し , L(t) = U (t)L(0)U(t)
−1と表される . (iii) 反対称行列 B(t) が存在し , ˙ L = BL − LB と表される .
(2) L(t) を n × n 対称行列 , B (t) を n × n 反対称行列とする . ˙ L = BL − LB を Lax 方程 式という . Lax 方程式を用いて TrL
k(k = 1, · · · , n) が保存量であることを示せ . (3) 戸田格子と呼ばれる自由度 n のハミルトン・システムを考える ( 周期条件 q
n+1= q
1を課す ) :
H =
∑
n i=11 2
{ p
2i+ exp(q
i− q
i+1) }
, (i = 1, · · · , n).
(a) ハミルトンの運動方程式を書き下せ. 次いで変数変換 a
i= (1/2) exp ((q
i− q
i+1)/2) , b
i= p
i/2 を施すと以下の方程式に書き換えられることを示せ (a
n= a
0, b
n+1= b
1) :
˙
a
i= a
i(b
i− b
i+1), b ˙
i= 2(a
2i−1− a
2i) (i = 1, · · · , n).
(b) n × n の対称行列 L および反対称行列 B を以下のように定義する:
L=
b
1a
10 · · · 0 a
na
1b
2a
2. .. 0
0 a
2b
3. .. .. .
.. . . .. . .. 0
0 . .. b
n−1a
n−1a
n0 · · · 0 a
n−1b
n
, B =
0 − a
10 · · · 0 a
na
10 − a
2. .. 0
0 a
20 . .. .. .
.. . . .. . .. 0
0 . .. 0 − a
n−1− a
n0 · · · 0 a
n−10
Lax 方程式 L ˙ = BL − LB が前問 (a) の方程式と一致することを示せ .
(c) L の異なる固有値 λ と µ がポアソン可換であることを示せ . ( ヒント: L の固 有値 λ, µ に属する ( 長さ 1 の ) 固有ベクトルをそれぞれ u, v とし , { λ, µ } を計算 する . L が対称行列であること , u 同士の内積が 1 であることより ∂λ/∂p
k= (1/2)u
2k, ∂λ/∂q
k= u
k+1u
ka
k− u
ku
k−1a
k−1などが分かるはず . 得られた { λ, µ } の式を Lu = λu, Lv = µv の第 k 成分の2式と比較してうまく変形するとゼロ になることが分かる .) TrL
k=
∑
n i=1λ
ki(k = 1, · · · , n) は n 個のポアソン可換な 保存量を与える . よって戸田格子は完全可積分系であることが示された . 問題 8. ( 質量とエネルギーの等価性 )
M M
M M-m
M+m M-m
v t=0
t
L -L O
L+l -(L-l)
ε,p
x
光量子仮説より質量とエネルギーの等価性を証明しよう . 両端にそれぞれ質量 M の発光体 ( 右 ) と吸収体 ( 左 ) の ついた筒を考える . 長さは 2L で筒自体の質量は 0 とする.
時刻 0 に右から放出された光子 ( エネルギー ε, 運動量 p) が , 筒の中を飛んで時刻 t に左で吸収されたとする ( 右図参照 ).
ここで「光子」とは光を粒子とみなしたときの名称である ( 光量子仮説 ). 光 ( 子 ) の速さを c とする .
(1) 運動量保存則によれば,筒は発光と同時にその反動で右に動き,吸収によって再び 静止する.その間の筒の速度を v ,移動距離を l(= vt) としたとき,その間の筒と光 子が移動した距離の関係式から,v/c を l, L で表せ.
(2) この 2 物体と筒よりなるシステムには外力が働いておらず,また最初は静止してい たのであるから,重心は不動のはずである.したがって,光子の移動に伴って,右 から左に質量が移動したと考えなければならない.すなわち,右での光子の発生 ( エ ネルギー ∆E = ε の発生 ) の際には, ∆M = m だけ発光体の質量が減少し,左での 光子の吸収 ( エネルギー ∆E = ε の消滅 ) の際には, ∆M = m だけ吸収体の質量が 増加したと考えなければならない.その途中は全体として質量 m が消滅し,それが 光子のエネルギーとなっていると考えられる.
システムの運動量保存則を M, m, v, p の言葉で書き表せ .
(3) システムの重心不動の条件を , M, m, L, l の言葉で書き表し,これを (1) の結果に代 入することで, v/c を m, M で表せ.
(4) (3) の結果を (2) の結果に代入し,ε = mc
2を導け. (cp = ε が成り立つことは既知と してよい .)
標準 難易度 名古屋大学・理学部
問題 9. ( 正準量子化 , 経路積分 ) (1) と (2) は独立した設問である .
(1) [ˆ q, p] = ˆ i ℏ を満たす状態空間上のオペレーター q, ˆ p ˆ を考える. λ ∈ R とする.
(a) n = 1, 2, 3, · · · に対して , [ˆ q
n, p] = ˆ ni ℏ q ˆ
n−1[ˆ q, p ˆ
n] = ni ℏ p ˆ
n−1が成り立つことを 示せ . ( たとえば帰納法 )
(b) ˆ pe
iλˆq= e
iλˆq(ˆ p + ℏ λ) を示せ . ただし exp(ˆ q) :=
∑
∞ n=01
n! q ˆ
nであり , 右辺の無限和 に関して項別微積分・項別四則演算を自由に行ってよい.
(c) ˆ p | p
′⟩ = p
′| p
′⟩ なる固有ベクトルを考える . このとき , e
iλˆq| p
′⟩ もまた p ˆ の固有ベ クトルであることを示し , 固有値を求めよ . ( この結果より p ˆ の固有値は実数値 全体を取ることが分かる.)
(2) ( 経路積分 ) 1 次元空間を運動する 1 粒子の ( 非相対論的 ) 量子力学を考える . システ
ムの時間発展はシュレーディンガー方程式 i ℏ ∂
∂t | ψ(t) ⟩ = ˆ H(ˆ q, p) ˆ | ψ(t) ⟩ で記述される . 時刻 t = 0 において位置 q = q
iを出発し時刻 t において位置 q = q
fに到達する確率
A := ⟨ q
f| e
−ℏiHtˆ| q
i⟩ · · · ( ∗ )
を作用積分 ( ラグランジアン ) を用いた形で書き表してみよう . (a) 時間 t を N 等分し , ∆t := t
N とする . 時刻 t
k:= k∆t における粒子の位置を q
k(k = 0, 1, · · · , N ) とすると, 以下が成り立つことを示せ:
A =
∫
dq
1· · · dq
N−1N
∏
−1 k=0⟨ q
k+1| e
−ℏiHˆ∆t| q
k⟩ . ( ヒント:完全性条件 ∫
dq
k| q
k⟩⟨ q
k| = 1 を用いる .) (b) (2)(a) の結果の ⟨ q
k+1| と e
−iℏH∆tˆの間に完全性条件 ∫
dp
k| p
k⟩⟨ p
k| = 1 を挿入す ることで , 求める確率は以下のように書けることを示せ:
A = 1 (2π ℏ )
N∫
dq
1· · · dq
N−1dp
0· · · dp
N−1exp [
i ℏ
N−1
∑
k=0
{ p
k(q
k+1− q
k) − H(q
k, p
k)∆t } ]
.
(H(q, p) = ⟨ p | H(ˆ ˆ q, p) ˆ | q ⟩ , ⟨ q | p ⟩ = (2π ℏ )
−1/2e
ℏipqに注意.) 最後の表式で N → ∞ をとると求めたい表式が得られる:
A =
∫
D q D p exp [ i
ℏ
∫
t 0(p q ˙ − H(q, p))dt ]
=
∫
D q D p e
iℏS. 作用積分 S := ∫
t0
L(q, q)dt ˙ とラグランジアン L(q, q) := ˙ p q ˙ − H(q, p) が自然に現れ た. 記号 ∫
D q D p は上記の極限として「定義」され, q
iと q
fを結ぶすべての経路につ
いての和を表す . これが経路積分の「定義」であり , 測度の定義を満たさないという
理由で一部の数学者には評判の悪いものであるが , 素朴な意味は上記の通りである .
問題 10. (1 次元調和振動子・コヒーレント状態 )
ハミルトニアンが以下で与えられる 1 次元調和振動子の量子力学を考える . H(ˆ ˆ q, p) = ˆ p ˆ
22m + mω
22 q ˆ
2.
定常状態でのシュレーディンガー方程式 H ˆ | φ ⟩ = E | φ ⟩ を以下の生成消滅演算子を用いて 解くことを考える.
ˆ a :=
√ mω
2 ℏ q ˆ + i
√ 2m ℏ ω p, ˆ ˆ a
†=
√ mω
2 ℏ q ˆ − i
√ 2m ℏ ω p. ˆ エルミート演算子 N ˆ := ˆ a
†a ˆ を定義するとハミルトニアンは H ˆ = ℏ ω
( N ˆ +
12) と書き表 される. N ˆ の固有値は 0 以上の整数 n であり , その固有関数を | n ⟩ と書くと ,
| n ⟩ = 1
√ n! (ˆ a
†)
n| 0 ⟩ , ˆ a | 0 ⟩ = 0, ⟨ n | n ⟩ = 1.
以上が講義で示されたことであり , 以下自由に用いてよい . (1) ˆ q および p ˆ を ˆ a と ˆ a
†の線形結合で表せ .
(2) 第 n 番目の固有状態の波動関数を φ
n(q) := ⟨ q | n ⟩ で表す . ξ := βq, β = √
mω/ ℏ と すると
φ
n(x) = N
n(
ξ − d dξ
)
ne
−ξ2/2, N
n=
√ β
π
1/2n!2
nが成り立つことを証明せよ . ( たとえば帰納法 )
(3) 第 n 番目の固有状態 | n ⟩ における不確定性が ∆q · ∆p = ℏ (n + 1/2) となることを 示せ. (期待値を計算する際の | ψ ⟩ として | n ⟩ をとる. すなわち ⟨ F ˆ ⟩ = ⟨ n | F ˆ | n ⟩ . また,
∆q := √
⟨ (∆ˆ q)
2⟩ , ∆ˆ q := ˆ q − ⟨ q ˆ ⟩ .)
(4) 消滅演算子 a ˆ の固有関数をコヒーレント状態をいう : ˆ a | α ⟩ = α | α ⟩ . ˆ a はエルミート ではないので固有値は実数とは限らない. {| n ⟩} が完全系であることを用いてよい.
(a) 規格化条件 ⟨ α | α ⟩ = 1 を用いて | α ⟩ = e
−|α|2/2e
αˆa†| 0 ⟩ を示せ.
( ヒント:まず完全性条件
∑
∞ n=0| n ⟩⟨ n | = 1 をコヒーレント状態に作用させる . 次 に与えられた規格化条件から ⟨ 0 | α ⟩ = e
−|α|2/2を示す.)
(b) 2 つのコヒーレント状態の内積を計算し以下を示せ . ⟨ α | β ⟩ = e
αβ−|α|2/2−|β|2/2. (c)
∫
| α ⟩⟨ α | d
2α = π を示せ . ただし d
2α は α = re
iθのとき d
2α = rdrdθ.
( 必要であれば ,
∫
∞0
e
−ax2x
2n+1dx = n!
2a
n+1を用いてよい .)
(d) コヒーレント状態の波動関数 φ
α(q) := ⟨ q | α ⟩ を具体的に求めよ . ( 規格化因子 は求めなくてよい .)
標準 難易度 名古屋大学・理学部
問題 11. (水素原子の波動関数とエネルギー準位) クーロン・ポテンシャル V (r) = − e
2/r の下で,エネルギー E を持つ荷電粒子に対するシュレーディンガー方程式
[
− ℏ
22m ∇
2+ V (r) ]
φ(⃗ r) = Eφ(⃗ r)
を級数展開の方法で解き,固有値 (エネルギー準位) と固有状態を求めたい.
水素原子に適用する場合,この式は電子の原子核 ( 陽子 ) に対する相対運動のハミルトニア ンに対応する.その場合, m は陽子 ( 質量 m
p) と電子 ( 質量 m
e) の換算質量 m
pm
e/(m
p+m
e) で, ⃗ r は原子核を原点としたときの電子の位置ベクトルである.
(1) ∇
2の極座標表示は以下のように計算されることを示せ .
∇
2= 1 r
2∂
∂r (
r
2∂
∂r )
+ 1
r
2sin θ
∂
∂θ (
sin θ ∂
∂θ )
+ 1
r
2sin
2θ
∂
2∂φ
2(2) φ(⃗ r) = R(r)Y (θ, φ) とおけば,シュレーディンガー方程式は変数分離でき, µ をあ る定数として次式に帰着することを示せ.
1 r
2d dr
( r
2dR
dr )
+ { 2m
ℏ
2(E − V (r)) − µ r
2}
R = 0, 1 sin θ
∂
∂θ (
sin θ ∂Y
∂θ )
+ 1
sin
2θ
∂
2Y
∂φ
2+µY = 0
(3) (2) の式が発散しない解を持つためには, l を負でない整数であるとして µ = l(l + 1)
となることが必要である.これを既知とすれば,束縛状態 E < 0 の場合, ρ :=
√ 8m | E |
ℏ
2r, λ := e
2ℏ c
√ mc
22 | E | のように変数変換したとき, R(ρ) に対する方程式は,
R
′′+ 2
ρ R
′− l(l + 1) ρ
2R +
( λ ρ − 1
4 )
R = 0 となる. ( 「ダッシュ」は ρ に関する微分. ) この式より, ρ → ∞ で R は漸近的に e
−ρ/2のように振る舞うことが分かる.そこで R := e
−ρ/2F (ρ) とおくと,
F
′′+ ( 2
ρ − 1 )
F
′+
( λ − 1
ρ − l(l + 1) ρ
2) F = 0
を満たすことを示せ . さらに, ρ ≪ 1 では. F (ρ) ∝ ρ
lと振る舞うことを示し,
F (ρ) := ρ
lL(ρ) とおいたとき,L(ρ) の満たす方程式が,以下となることを示せ.
ρL
′′+ (2l + 2 − ρ)L
′+ (λ − l − 1)L = 0.
(4) L(ρ) を L(ρ) = ∑
ν=0
c
νρ
ν(c
0̸ = 0) のように級数展開して,前問の微分方程式に代 入することで,R(ρ) → ∞ で発散しないためには,ある負でない整数 n
′を用いて
λ = l + 1 + n
′という条件が成り立たなければならないことを示せ.
(5) 以上の結果からボーア半径 a
0:= ℏ
2/(me
2) を用いて水素原子のエネルギー準位が以 下のようになることを示せ .
E
n= − e
22a
01
n
2(n = 1, 2, · · · )
(6) (n, l) = (1, 0), (2, 0), (2, 1) に対応する動径波動関数 R
10(r), R
20(r), R
21(r) を具体的に 計算せよ.ただし以下のように規格化すること.
∫
∞0
r
2| R
nl(r) |
2dr = 1.
問題 12. ( アインシュタイン係数とプランク分布 ) 以下の問いにしたがって,原子と輻射 場との平衡条件を考えることで黒体輻射に関する以下のプランクの公式を導いてみよう.
I(ν) = 8πh c
31
e
hν/kT− 1 ν
3.
ただし , ν は輻射光の周波数 , I(ν) は輻射強度を表し , T はシステムが熱平衡状態にあると きの温度 . c, h, k はそれぞれ光速度 , プランク定数,ボルツマン定数 .
2
状態 1 状態
hν B
12I B
21I A
21(E
2, g
2)
(E
1, g
1)
図のように,E
1と E
2(> E
1) の2つのエネルギー準位をもつ原子を考える.状態 1, 2 に ある原子の数密度をそれぞれ n
1, n
2とすると,温度 T の熱平衡状態では
n
2n
1= g
2exp( − E
2/kT ) g
1exp( − E
1/kT ) = g
2g
1exp (
− hν
12kT
)
(1) が成り立つ.(g
1, g
2は定数. また, hν
12= E
2− E
1.) この原子の状態 1 から状態 2, 状態 2 から状態 1 への単位体積単位時間あたりの遷移率は,吸収・放出する光子の強度を I (ν
12) とすると,それぞれ
dn dt
1→2
= B
12n
1I(ν
12), dn dt
2→1
= A
12n
2+ B
21n
2I(ν
12). (2) で与えられる.A
12, B
12, B
21をアインシュタインの A 係数, B 係数という.
(1) この原子と輻射場のシステムが熱平衡状態にあると仮定したとき,式 (1) 〜 (2) を用 いて輻射強度 I(ν
12) を A
12, B
12, B
21, g
1, g
2, h, k, T, ν
12を用いて表せ.
(2) 前問で求めた表式が , hν
12≪ kT の極限で古典論から得られる Rayleigh-Jeans 分布 I
RJ(ν) = (8πkT /c
3)ν
2を再現するために , アインシュタイン係数が満たすべき関係式 を 2 つ導け.(1 つは B
12g
1= B
21g
2.)
(3) 以上の結果から,原子と輻射場が温度 T の平衡状態にある場合の輻射強度の式 I(ν) がプランク分布に一致することを示せ.
(4) 太陽からの輻射スペクトルはプランク分布とよく一致することが知られている.い ま「人類の視覚は太陽の強度が最大になる波長域に適応して発達した」という仮説 をたてて,太陽の ( 表面 ) 温度を推定せよ. ( 理科年表などのデータを参照すること.
なお人間の可視光の波長は 3.8 × 10
−7m 〜 7.5 × 10
−7m である .) その結果の一致・
不一致について理由を簡単に議論せよ.
標準 難易度 名古屋大学・理学部
問題 13. (マクスウェルの方程式) 時間座標を t, 3 次元空間の座標を ⃗ x = (x
1, x
2, x
3) とす る . ( 以後 , 矢印の記号 ⃗ は 3 次元ベクトルを表す .) 与えられた電荷密度を ρ, 電流密度を
⃗j とすると , 「真空中の」マクスウェルの方程式は次式で与えられる:
div B ⃗ = 0, rot E ⃗ = − 1 c
∂ ⃗ B
∂t , (3)
div E ⃗ = 4πρ, rot B ⃗ = 1 c
∂ ⃗ E
∂t + 4π
c ⃗j. (4)
ただし E, ⃗ B ⃗ はそれぞれ電場, 磁場を表す. c は正定数 (光速度). また, スカラーポテンシャ ル ϕ とゲージポテンシャル A ⃗ は E, ⃗ B ⃗ と以下の関係を持つ:
E ⃗ = − grad ϕ − 1 c
∂ ⃗ A
∂t , B ⃗ = rot A. ⃗ (5)
(1)〜(3) ではこれらを微分形式を用いて書き表すことを考える. そのために, 4 次元時空の
座標 x
µ:= (ct, ⃗ x), 4 元ポテンシャル A
µ:= ( − ϕ, ⃗ A) および 4 元電流密度 j
µ:= ( − cρ,⃗j) を 導入する . ( 以後 , 添え字は以下を走る: µ, ν = 0, 1, 2, 3. i, j = 1, 2, 3. )
(1) 1-form A := A
µdx
µおよび 2-form F := dA を定義する . F = (1/2)F
µνdx
µ∧ dx
νと表 したとき, F
i0= E
i, F
ij= ϵ
ijkB
kであることを示せ. ϵ
123= +1, F
νµ= − F
µνとする.
(2) d ◦ d = 0 より , dF = ddA = 0 である (Bianchi の恒等式 ). 式 (3) は , dF = 0 で表さ れることを示せ .
(3) 1-form j := j
µdx
µを定義する . 式 (4) は ∗ d ∗ F = (4π/c)j で表されることを示せ . ただし, ∗ はホッジ作用素 (Hodge operator) と呼ばれ,以下のように定義される.
(p-form の空間を (n − p)-form の空間に写す . ∗ : Ω
p→ Ω
n−p.)
∗ (dx
i1∧ · · · ∧ dx
ip) := 1
(n − p)! ϵ
i1,···,ipj1,···,jn−p