* 桐朋学園小学校 (186-0004 国立市中3–1–10)
** 中野区立中野昭和小学校(164-0002 中野区上高田1–2–28)
*** 東京学芸大学・大学院教育学研究科・理科教育専攻・理科教育分野(184-8501 小金井市貫井北町4–1–1)
**** 東京学芸大学附属竹早小学校(112-0002 文京区小石川4–2–1)
***** 東京学芸大学・教育学部・自然科学系・理科教育分野(184-8501 小金井市貫井北町4–1–1)
小学校理科への物質の粒子像導入の可能性
── 児童のもつ粒子像についての調査 ──
葉山 優 * ・小嶋 美也子 ** ・勝呂 創太 ***
圓谷 秀雄 **** ・金田 知之 **** ・下條 å 嗣 *****
理科教育学
(2006年5月26日受理)
HAYAMA, Y., KOJIMA, M., SUGURO, S., TSUBURAYA, H., KANETA, T., and SHIMOJO, T.: Possibility of introducing particulate picture of matter in elementary school science -Studies on particulate picture of children. Bull. Tokyo Gakugei Univ.
Natur. Sci., 58: 15–39 (2006) ISSN 1880–4330
Abstract: Everyone would need to develop particulate picture of matter as one of the most basic ideas in science for the sustainable development of the world. It will be necessary to develop the particulate picture from childhood to make it a part of the scientific literacy for citizen. However, the activities to develop the picture have not been introduced in Japanese elementary school science. The possibility of introducing the picture in the school science is considered through the following two studies.
1) Questionnaire was addressed to several classes of 4, 5, and 6 grade children to know their preconception of particulate picture of matter and possibility of introducing interventions to them to form the picture from school teachers. The questionnaire was designed to get replies from children concerning three phenomena, that is, dissolution of salt into water, wearing of lead of pencil by writing, and diffusion of scent of garbage in the air.
2) Series of activities were served for several children of 4 and 5 grades to let them image “every matter consists of particles” and to know ultimate image of particles, which each child was able to have in his/her developmental stage. At the same time, the reversibility of image about particulate picture was studied to check the ability of children imaging both decomposition and formation of matter through particulate picture.
The following results were found from the questionnaire (1). The phenomenon of dissolution of salt in water is easy for them to have image of particle. It is difficult, however, for them to interpret the phenomenon of diffusion of scent of garbage by particulate picture. A hint, such as “every matter consists of particles” is effective to let them have image of particles. Also, the following results were found from the series of activities (2). The sizes of particles imagined by children are visible ones which are by far larger than those of atoms or molecules. However, they have reversibility of image about particles, that is, decomposition of matter to particles and vice versa.
The results of the studies lead to the possibility of introducing particulate picture of matter in Japanese elementary school science. Teacher’s hints are quite effective for children in elementary school level by introducing interventions for enhancing particulate picture in children’s mind.
1 .はじめに
21世紀の科学教育にとって最も重要な目標の一つ は,人類が直面しつつある食料や水資源の確保などの サバイバル的課題への対応や持続可能な発展を支える ために,市民の科学技術リテラシーを高めることであ ると考えられる(下條,1997)。この目標の達成のため には,学校教育における科学教育カリキュラムの内容 も再考されねばならない。
「持続可能な発展」を科学教育カリキュラム構築の 基本理念の一つとしておくことは,自然との融合を文 化に持つ日本としてふさわしいものであり,それは国 際貢献にもつながると思う(下條,2005)。また,この ような時代に生きる人々に必要な科学技術リテラシー として,下條(1999)は以下の6点を提言している。
a.日常生活の身の回りの現象に関連する基礎・基本 的な科学知識や科学概念を把握していること b.正しい物質観・自然観(地球観・宇宙観)をもつ
こと
c.物事を科学的に考える習慣を形成すること d.サバイバル的課題を認識し,解決を指向する態度
を示すこと
e.科学的に問題解決する技能と態度を身につけること f.科学の性質,科学技術と社会の関係を認識すること これらの科学技術リテラシーの基礎となるのは科学 の基本的なアイデア,推論などの能力,そして多くの 事実を統一してみることを可能にするシステムなどの 基本的枠組みに関する知識などが考えられる。ジョー ジア州においてもこのような考え方のカリキュラムが 考えられつつあるが(小倉,1997),日本の学校教育に おける科学教育カリキュラムも,このような構造をも つものが望ましいと考えられる。
科学の基本的なアイデアとしては,応用範囲の広い
根本的な知識や,疑問を解決するときに役立つような 科学的な考え方が考えられる。一つとして,「全ての物 質は粒子からなる」という物質の粒子像がある。
物質の粒子性は,日常生活の中にも数多く見られる。
例えば,ビーカーに水を入れて,そこにインクを一滴 たらし,しばらくそっとしておくとインクは水全体に 一様に散らばる。散らばったインクをもとの一滴のイ ンクに戻すことはできない。この「拡散」と呼ばれて いる現象は,汚染物質の散らばりを防ぐなど環境保全 や持続可能な発展の追求において,市民として知って おかなかればならない基本的な知識の一つである。こ の現象をよりよく理解するためには,「物質はごく小さ な粒子から出来ている」という,粒子像を把握してお くことが望ましい。
児童・生徒が科学を学ぶ上での最も基本的な土台と なり,また持続可能な発展の基礎となる,このような 粒子像を獲得することは,あらゆる現象の仕組みを考 える基礎を獲得することであり,様々な科学的現象に ついて自ら考え理解していく力をつけることに繋がる と考えられる。
一方,現行の学習指導要領理科(平成10年改訂)で は,中学校で初めて「原子・分子」について学ぶこと になっている。しかし,中学校段階におけるこうした 粒子像の導入には,生徒の概念獲得の点から問題が指 摘されている。片平・荒川(1990)は,中高生で理科 にあまり関係のない日常的な物質や生物が原子や分子 からできているものだと捉えている者が非常に少ない と指摘している。これは今村(2001)が指摘している ように,「微視的な捉え方が日常とかけ離れているため,
非常に難解」であるためだと考えられる。「すべてのも のは粒子でできている」という基本概念が中高生に定 着してないことは,粒子についての多くの学習を積み 重ねていく上で,大きな問題である。そのため,塚本 Key words :particulate picture, preconception, naïve concept, intervention, sustainable development, elementary school science,
science and technology literacy
* Toho Gakuen Elementary School, Tokyo 186-0004, Japan
** Nakano Showa Elementary School, Tokyo 164-0002, Japan
*** Graduate School of Education, Department of Science Education, Tokyo Gakugei University, Koganei, Tokyo 184-8501, Japan
**** Takehaya Elementary School Attached to Tokyo Gakugei University, Koishikawa, Tokyo 112-0002, Japan
***** Department of Science Education, Tokyo Gakugei University, Koganei, Tokyo 184-8501, Japan
キーワード:粒子像,プリコンセプション,素朴概念,介入,持続可能な発展,小学校理科,科学技術リテラシー
ら(1996)が「中学校で原子・分子を学ぶ前に,目に 見えないものを視覚化して考えることは重要なことだ」
と述べているように,小学校段階での粒子像の導入の 是非を問う多くの研究や実践が行われている(例えば,
福島ら(2001)や宗近(2002)など)。一方,アメリカ では既に小学校第3学年の教科書で,水の三態変化に 粒子モデルが用いられており,小学校段階から粒子像 の導入が行われている(例えば「マグローヒル・サイ エンス(Moyer, et al., 2000)」など)。
しかしながら,それらの研究や実践はまだ数多くの 問題を含んでいる。例えば「児童のもつ(形成できた)
粒子像はどのようなものか,児童は目に見えないほど の粒子を想像できるのか」という研究は行われていな い。「極限としての微粒子(原子・分子)などが児童・
生徒にわかるのか」という認知的な課題も潜んでいる
(下條 2005)。従って,児童が実際に微視的な粒子像を
もつことができるかを調べ,小学校で粒子像を取り入 れることが可能であるかを検討する必要がある。
そこで本研究では,これらの課題を解決するために,
次のような点を目的としている。
ア)多数の小学校 4・5・6年生の児童を対象に,
児童のもつ日常生活に関する粒子像の実態を質問 紙調査によって明らかにする。また,教師の「介 入」によって児童のもつ日常生活に関する粒子像 を引き出せるかを明らかにする。
イ)少数の4・5年生の児童を対象に「すべてのも のは粒子でできている」という概念を形成させる ような簡単な作業やイメージ活動を行わせること を通して,児童がイメージできる粒子像を探る。
同時に,あるものが次第に小さな粒子に分かれて いく様子をイメージした後,それらの粒子が元の 連続体を形成しているというイメージが可能か
(粒子像の可逆性)についても探る。更に,本活動 が児童のもつ粒子像にどのように影響するかにつ いても考察する。
ウ)ア)イ)の調査の結果から,小学校理科におい て粒子像を導入することができるか,またその場 合,小学生にどの程度の粒子像を求めるのが妥当 であるかを考察する。
以下本稿第 2章において,様々な年齢層における粒 子像の実態調査や小・中学校における実践調査の先行 研究を紹介し,そこから見出せる粒子像に関する課題 について述べる。第3章では,日本の現行の学習指導 要領理科における粒子像に関係する単元や内容を追い ながら,実際に使用されている理科教科書において,
粒子像がどのように扱われているかを述べる。更にア
メリカの教科書との比較も行う。第4章では,児童の 持つ日常生活に関する粒子像の実態を探る質問紙調査 およびその結果と考察について述べる。第 5章では,
少数の児童を対象にした,児童のイメージできる粒子 像やイメージ能力に関する活動実践調査およびその結 果と考察について詳細に述べる。第6章では,以上の ことを踏まえて,結論と今後の課題を述べる。
2 .粒子像に関する先行研究
2 .1 粒子像に関する素朴概念の実態
これまで粒子像に関する研究は,学校現場や教育セ ンター,そして大学等で長年行われてきた。特に粒子 像に関する素朴概念については多くの報告がなされて いる。ちなみに「素朴概念」とは,子どもの既有の知 識や考えのことで,大人のそれとは質的に異なること が指摘されている。
片平・荒川(1990)は,外国における粒子概念に関 する素朴概念の研究を紹介しているが,その中で,英
国の13才から14才を対象に開発された科学学習プロジ
ェクトCLIS(Children’s Learning in Science)は,15才の 生徒を対象に行った調査から,粒子像に関する混乱が 6点存在することを示している(CLIS, 1987)。また,
ドーラン(Doran, R. L.)も粒子像に関して初等2年生 から6年生のミスコンセプションを6点確定している
(Doran, 1972)。片平・荒川(1990)は,CLISとドーラ ンの指摘を比較し,それらの共通点を示している。次 に小学生と大学生が共通にもつ素朴概念を4点紹介す る。
a.粒子の形状や大きさに関する素朴概念 b.粒子の動きに関する素朴概念
c.粒子間の結合や力に関する素朴概念 d.粒子と粒子の空間に関する素朴概念
aは粒子の形状や大きさを識別することの問題であ る。例えば,CLISでは「核」という用語の使用による 粒子と生物の細胞との間の混乱,あるいは「砂の粒子」
を原子や分子に類似したものと理解する混乱が指摘さ れている。bは「粒子を動かしたままにするには何か が必要であるという前提のもとに,粒子は加熱された 時のみ動く」あるいは,「0℃では粒子は運動を停止す る」「空気の粒子はいつも上へ動く」などの混乱が考え られることである。cは結合,あるいは固体から液体,
液体から気体への変化を粒子の数の変化によって説明 しようとする混乱である。dは,粒子間に存在する真 空についての認識の困難さの問題である。ちなみに真 空については小学校理科学習指導要領(平成元年度改
訂)の中では扱われておらず,教科書の記述の中でも,
真空と原子や分子の関係については扱われていない。
これらの4つの共通点から,小学生と大学生のもつ素 朴概念の一部が類似したものであることが考えられる。
高野ら(1990)は小学校 4年生から大学生までを対 象として,空気の温度による体積変化(現行の理科学 習指導要領では小学校第 4学年で学習)における粒子 像を調査し,その多様性を明らかにしている。調査者 は,児童に空気の熱膨張を粒子像を用いて説明させる ことで,児童のもつ粒子についての素朴概念を把握し ようとしたものである。結果として「空気の粒が上に 上がっている」と答えた者が小学生から中学生までは 50%〜75%,高校生で20%以上,大学生でも約 4% を占めていた。また「空気の粒が大きくなっている」
と答えた者は,小学4年生(5%)から徐々に増加し,
高校生でピーク(42%)となり,その後減少するもの の,大学生でも10%以上存在していた。「空気は温め られると膨張する」といった回答から,表面的には正 しく理解がなされていると思われる概念も,その理解 の仕方は多様である。このような粒子像における素朴 概念の多様性に関しては,大学生を対象に調査した渡 邊ら(1996)などによっても同様に指摘されている。
大野・戸北(2000)は中学校第2 学年で学習する
「化学変化と原子・分子」の学習が,生徒の粒子像に与 える影響について調査を行っている。ここでは中学 2 年生251人を対象に,ビーカーの中に水の分子が 6個 入っているとき,この水の分子が液体の状態である様 子を粒子モデルを用いて記述する問題と,同様にビニ ール袋の中の気体(窒素と酸素のみに着目)の様子を 記述する問題を回答させているが,以下の2点の結果 を挙げている。
a.単元の学習中で,球形モデルでの水分子モデルを 既習しているにもかかわらず科学的概念に近いモデ ルを使って表現できている生徒が50%前後に留まっ ていた。学習前の自分なりの球形モデルで表現して いたり,液体の状態に関する概念で表現していたり,
液体の状態に関する概念に誤りをもっている生徒が 三人中一人の割合で存在していた。
b.窒素や酸素を科学的概念に近い分子モデルで表す ことができ,さらに4:1の成分比まで考慮したモ デル図を書くことができた生徒は9人中1人の割合 しかいなかった。
これらのことから,当該単元の中で粒子モデルや状態 変化の違い等を学習しているにもかかわらず,新たな 課題に科学的概念に近い分子モデルで表現できる生徒 は少なく,原子・分子の存在を知識として理解してい
ても,科学的な意味での理解にまで至っていないこと が明らかとなった。
このように,これまでの先行研究から,粒子像に関 しては多くの素朴概念が指摘されているが,それらに ついては,割合は異なるものの小学生段階から大学生 段階に至るまでの全ての学習段階で保持されるものや,
ある学習段階から保持される割合が増加するものなど 多岐にわたる。一部の素朴概念においては,小学生段 階と大学生段階において,その特徴に類似性が見られ るものもある。また「空気の熱膨張」など,表面的に は正しい概念が保持されていると思われる現象につい ても,その根底に潜む粒子像の理解の仕方は生徒によ って非常に多様である。大野・戸北(2000)の調査か ら,このような科学的な意味での粒子像の理解は,中 学校における原子・分子に関する単元のみでは十分で はないと考えられる。
2 .2 粒子像の導入を試みた実践研究
塚本ら(1996)は小学校 4学年の水の三態に関する 単元の中で,粒子像の導入を行っている。そこでは
「水⇔氷」,「水⇔水蒸気」による変化において,児童が 粒子の役を演じ,実験・観察した事実をもとにどのよ うに動いていくことが的確かをグループで話し合い,
試行錯誤しながら粒子の動きを表現した。結果として,
児童が主体的であったこと,水→氷の体積増加や水蒸 気が冷めて再び水になっていく表現等で,児童の工夫 が見られたこと,粒子を提示したことで児童は様々な 考えを持ち,今までできなかった論理的な考え方に迫 ることができたことなどを挙げている。
なお,韓国の中学校理科においても,児童が粒子を 演じることで粒子像の理解を図る実践が行われている。
韓国では中学校1年生の「物質の三態」で粒子像が初 めて導入されるが,ここでは,砂糖をろ過する実験を 通して物質の構成粒子の大きさについて認識させたり,
融解・液化・気化などの現象を分子モデルで説明する だけにとどまらず,物質の状態を自分の体で表現する 活動を取り入れ実感的に理解させようとしている。教 科書にも,生徒が物質の三態を表現する活動をしてい る写真が記載されている(崔,2002)。
丹沢・佐藤・加藤(2001)は中学1年生「物質の構 造とその変化」の単元に Learning Cycle 教授モデルを 用いた実践を行い,それが生徒の粒子像獲得に与える 効果について報告している(注1)。授業の結果として,
次の5点を挙げている。
a.本授業の実施によって,生徒のほぼ全員が,物質 が粒子から成り立っており,その粒子間に隙間が存
在するという考え方を取り入れ,その粒子間の距離 の広がりによって物質の三態変化に伴う体積変化を 説明できるようになった。
b.いったん理解したと思われた科学的に正しい考え 方が,再び適切でない考えに戻るなど,概念の変容 が直線的に進むものではなかった。
c.生徒の素朴概念(バネや網のような状態で存在す る気体,物質を構成する粒子一粒一粒の変形や体積 変化など)に対して,その考えでは説明しにくい現 象の提示や論理的な反論,あるいは彼らの素朴概念 に繰り返し挑戦する機会を提供することによって,
彼ら自身が自分の考えを修正し,最終的にはほとん どの生徒が,科学的に適切な粒子像を獲得するに至 った。
d.粒子の運動という考え方を,気化熱・融解熱の現 象に応用することによって,相当程度の生徒が,粒 子の運動にはエネルギーが必要であるという考え方 にまで到達した。
e.粒子の膨張の考え方を否定すべく試みたが,決定 的な実験を組むことができず,それを払拭できなか った。一部の生徒の思考の中に,粒子間の距離の増 大と一粒一粒の体積膨張という二つの説明が共存し ていた。
福島ら(2001)は小学校6年生を対象に,ブラウン 運動を用いた動的粒子像を導入した授業実践を行って いる。授業の評価としては,児童一人一人の変容を追い かける方法をとり,以下のような結果を報告している。
a.授業を通じて子どもたちの認識は「インクが広が るのは水の粒に動かされるから」という認識に変容 し,インクの粒が動くことに抵抗がなくなってきた。
b.「水に動かされる」の説明内容を分類すると「対流」
を考えているもの,「水の粒の動き」という表現や水 の粒の図があるもの,粒という表現はないが「水の 動き」として一般的に表現しているものがあった。
それは次第に水が粒で出来ており,しかもそれが動 いていること,そして温度が高いとその動きが激し くなるという認識に遷移していった。
c.児童らの授業に対する興味,関心度については
「インクの広がり」で80%以上の児童が「予想外,
不思議,おもしろい,楽しかった」という高い関心 を示した。ブラウン運動の観察では60%,アルコー ルの蒸発・膨張実験観察では24%が印象に残ったこ ととして挙げた。内容については84%の児童が「と てもよくわかった,よくわかった」と答え,児童自 身も満足できる結果であったと判断される。
また,以下のような課題も挙げている。
a.物質は全て粒子でできていることをつかませるこ とはできなかったが,これをきっかけとして様々な 場面で,粒子像の育成をめざす必要がある。
b.ノートからは読み取れなかった表現を確かめるに も対面調査を行う必要がある。
宗近(2002)は小学校5年生を対象とし,CLIS の授 業モデルにあるポスター作成を取り入れた授業実践を 用いた粒子モデルの導入を行い,児童の溶解概念の変 容についての調査結果を報告している。粒子モデルの 有効性が見られたのは,溶液の均一性や濃度の違い,
食塩と珪藻土の混合物が分離できる理由を問う問題で,
いずれも状態について問う問題であった。著者は「視 覚を通して実感することができない,一見すると変化 のない状態でも,粒子モデルを導入することにより,
児童は溶解状況をイメージすることができたと考えら れる」と述べている。逆に,粒子モデルの有効性が見 られなかったのは,食塩と砂糖,食塩と粉ミルクを一 緒に水に溶かしたときの質量保存を問う問題であった。
著者は「質量保存は,それら微粒子が質量をもち,そ の質量の和が保存されるという理解がなされる必要が ある」と述べている。
このように,粒子像を導入した授業実践の結果とし て粒子像を保持する児童が報告されており,児童の粒 子像の導入に成果を得ている事実もある。それゆえ,
学校教育において,できるだけ早い時期に初歩的な粒 子像を導入し,身の回りの様々な現象を粒子モデルで とらえることに慣れていくことが,後々の粒子像の定 着につながると考えられる。そのためには,中学校と のつながりを重視した,小学校理科での粒子像導入の 可能性をより精密に研究していかなければならない。
一つは児童が極限としての微粒子(原子・分子)など がわかるかという認知的な課題(下條,2005)がある。
そして,福島ら(2001)が挙げている「物質は全て粒 子でできている」と捉えさせることや児童一人一人の 考え方を細部まで把握することも課題である。
堀(1984)は,「児童・生徒に,少しでも確実な物質 概念を形成させるためには,教師自身が『何を』『どの 程度』まで理解させるのかを明確にしておく必要があ る」と述べている。粒子像についてもこれと同じこと が言え,小学校理科への粒子像の導入の可能性を研究 するに当たり,「何をどの程度」まで理解させるのかが 重要になると考えられる。
3 .小・中学校理科教科書における粒子像の扱い
3 .1 わが国の学習指導要領及び理科教科書におけ る粒子像
現行の学習指導要領理科(小学校平成10年度改訂,
中学校平成10年度改訂,高等学校平成11年度改訂)に おける,粒子像が関係すると思われる単元・内容と,
さらに理科教科書にある単元・内容名を表にまとめた
(表3−1,表3−2)。なお教科書は全国的に採択率
の高いとされている一社のもの(三浦ら,2005a〜2005k)
を用いた。
対象とした教科書中で初めて粒子モデルが用いられ るのは,中学校理科の第 1分野上「水溶液の性質」に おいてであった。「ろ過のしかた」を説明した図中に,
2 種類の大きさの異なる粒子が描かれ,小さい方の粒 子だけがろ紙の隙間から通り抜けている様子がモデル で示されていた。その説明文には「ろ紙のあなより小 さい物質だけが,ろ紙のあなを通ることができる」と
表 3 − 1 小学校における粒子概念にかかわる単元・内容
表 3 − 2 中学校における粒子概念にかかわる単元・内容
あるのみで,粒子という用語は見られなかった。
次いで粒子モデルは「角砂糖の溶解」において用い られていた。その説明文には「角砂糖を水の中に入れ ると,水が砂糖の粒と粒との間に入りこみ,角砂糖は くずされてどんどん小さい粒になっていく。ついには,
顕微鏡でも見えない小さい粒となって,液は透明にな る」と述べられ,初めて「粒」という用語が登場して いた。ここでは溶質である角砂糖が溶解していく過程 で一部粒子的表現がされていた。しかし,ろ過の粒子 モデルや「粒」という用語が出てきたにもかかわらず,
溶解前の角砂糖や,溶解後に溶質が均一に分散してい る様子には粒子的表現がされていない。それ故,この 単元では,生徒が粒子モデルを用いて理解することは 難しいと言える。
中学校理科の「物質のすがたと状態変化」の単元も 同様に,状態変化の説明において粒子モデルは用いら れていない。水の状態変化を示した図からは,温度に よる連続体としての記述のみであるため,固体・液 体・気体とはどのような状態のことを言うのか,そし て,状態変化に伴う体積変化がなぜ起こるのかについ て理論的に理解することができない。更に,同じ質量 の水の状態変化と体積の変化を示したモデルのように,
粒子モデルを用いない上に,状態変化について水を中 心に学習することは,液体は凝固することで体積が大 きくなることが通常であるという誤解を招く危険性も 考えられる。
わが国で初めて,完全な粒子モデルが現れるのは,
中学校理科第1分野下「物質の変化」の単元内の「 3 物質はなにからできているか」における原子・分子の 説明及び,同第2分野下「空気中の水の変化」の章内 の「1霧や露はどのようにしてできるのか」における,
飽和水蒸気量についての説明においてである。その後,
粒子モデルを用いて化合や化学変化における質量保存 等が学習される。つまり,中学生までの段階で粒子モ デルを用いて学習する内容は,化学変化と水蒸気量の みである。水溶液や状態変化などは,粒子モデルで考 えた方が教えやすい上,生徒も本質を深く理解しやす いのではないだろうか。教科書における粒子モデルの 取り扱いに関する課題が見出せる。
3 .2 米国の理科教科書における粒子概念
米国において採択率の高いとされている一社の初等 理科教科書(Moyer, et al., 2000)について粒子概念の 取り扱いを見ていく。
この教科書に初めて粒子モデルが登場するのは小学 校第3学年である。初めて登場する粒子モデルは,密
度の説明についてである。次いで,物質の状態,水の 三態にも粒子モデルが用いられている。ここで用いら れる粒子は全て単体の形で表されており,日本の中学 校で習うような分子モデルではない。しかし,固体,
液体,気体の状態を粒子と真空の割合で表している点 が特徴的である。その後,混合物,「全ての物質は原子 からできている」こと,化合,周期表についても記述 されている。
このように,米国における粒子概念の取り扱いは小 学校第3学年から導入されていると言うことができる。
わが国では中学生でも学習しない粒子と真空の関係を 小学校3年生にして視覚的に学習している。子どもた ちにとってこのカリキュラムが最適であるかどうかは 明らかではないが,粒子概念の導入時期や内容,そし て表現方法などは参考になる。
4 .児童のもつ粒子像の実態調査とその結果
4 .1 調査の目的
小学校理科の粒子像の導入の可能性を調べるために,
どのくらいの割合の児童が日常生活などを通して,い かなる粒子像あるいはその現れをもっているのか,そ の実態を調査する。
調査の目的は以下の2つである。
ア)質問紙調査により,4・5・6年生の児童がも つ日常生活に関する粒子像のありのままの現状を 明らかにする。そして児童がそれを用いて様々な 現象について考えたり,説明したりする方法を考 察する。
イ)ヴィゴツキー(Vygotsuky, L. S.)によれば,発 達の最近接領域を意識的に超える教師の「介入」
が児童の知的発達に望ましいという(ヴィゴツキ ー,2003)。ここでは,粒子像に関する教師からの 教示を「介入」と見なし調査を行う。
質問紙を行う前に,教師から「全てのものは粒でで きている」と教示を与えられる実験群のクラスと,そ のような教示を与えられない統制群のクラスに分けて 調査し,教師の「介入」によって児童のもつ日常生活 に関する粒子像を引き出せるかを考察する。
4 .2 調査問題
児童のもつ日常生活に関する粒子像の実態調査を行 うにあたり,鉛筆の芯の磨耗,食塩の水への溶解,ゴ ミの匂いの拡散に関する計 3問を作成した。表4−1 に問題の説明文を記載する。
3つの問について,児童が各問に粒子的な表現を用
いて回答しているかどうか,即ち粒子像をもって回答 したかについて,問1〜3の特徴を考慮した基準を表 4−2のように設定した。
4 .3 調査の方法
2005年10月から11月にかけて,東京学芸大学附属 竹早小学校第4学年から第 6学年までの児童計234名 を対象に調査を行った。1クラスの児童数は40名前後 であった。児童の学習状況は,第4学年計81名が単元
「電気のはたらき」の学習中,第5学年計76名が単元
「もののとけかた」の学習中,そして第 6学年計77名 が単元「いろいろな水溶液」の学習中であった。
調査の流れは,各学年,各クラスとも,質問紙の問 1 から問3まで全てを同時に配布し,著者の一人が5 分程度の説明を行った後,質問紙に回答させた。質問 紙の回収は開始10分後以降とし,回答を終えた児童か ら回収した。また,質問紙回答時間は最長20分とした。
教師の「介入」が児童のもつ粒子像にどのような影 響を与えるかを考察するにあたり,各学年とも 2クラ スから成るため,質問紙調査の初めに同一学年ではク ラス毎に説明方法を変えることとし,「全てのものは粒 でできている」という教示を与えられる実験群のクラ スと,教示を与えられない統制群のクラスとに分けた。
4 .4 結果と考察
4.4.1 粒子的表現を用いた回答の概観
表4− 2の判断基準に従い,粒子的表現を用いた回 答1問につき1点とし,児童の粒子的表現の実態を数 量化した。ここでは4年,5年,6年の各学年における 粒子的表現を用いた回答の割合(以下回答率とする)
をグラフ化したものを図4−1に示す。
まず,質問1の鉛筆の芯や書かれた文字について粒子 的表現を用いた回答率は,図 4−1から明らかなよう に,どの学年においても,「全てのものは粒子から出来 ている」という教示ありのクラスの方が教示なしのク ラスよりはるかに高く,有意な差が見られた(4年生:
t (79) =8.23,P <0.01,5年生:t (74) =4.70,P<0.01,6 年生:t (75) =4.74,P<0.01)。教示を与えることで,よ り多くの児童が鉛筆の芯や文字について粒子像をもっ て考えることができたと言える。特に 4年生の教示あ りの回答率が最も高く,85%もの児童が粒子的表現を 用いた。更に,問 1において,教示ありと教示なしの 回答率の差は,問 2や問3の問のそれと比較すると大 きいことがわかる。このことから,鉛筆の芯や文字は,
教師の「全てのものは目に見えないほどの小さな粒で できている」という「介入」によって,児童が粒子像 をもって考えやすくなったものであると考えられる。
続いて問2の食塩の水への溶解についての回答率は,
各学年とも教示なしのクラスで50〜60%前後であっ た。このことから食塩の水への溶解は,4・5・6年生 を問わず,粒子像をもって考えやすい現象であると考 えられる。しかし,どの学年においても教示の有無に よる有意な差は見られなかった(4年生:t (75) =1.29,
P >0.05,5 年 生 :t (74) =0.23,P >0.05,6 年 生 : t (75) =1.04,P >0.05)。もともと粒子像をもって考えや 表 4 − 1 調査に使用した問
鉛筆の芯や書かれた字につ いて粒子的表現を用いたかど うかの判断基準に該当する表 現は,児童の回答文中から抜 き出した。文中に見当たらな かった場合は,図から判断した
水溶液について粒子的表現 を用いたかどうかの判断基準 に該当する表現は,塩がもと もと粒子状に見えることから,
「塩の粒」という表現だけで は曖昧なため,図に粒子的表 現かあるかを重視した。
匂いについて粒子的表現を 用いたかどうかの判断基準に 該当する表現は,児童の回答 文中から抜き出した。文中に 見当たらなかった場合は,図 から判断した。
表 4 − 2 各問における粒子的表現使用の有無の判断 基準
すい現象であっても,「全てのものは目に見えないほど の小さな粒でできている」という簡単な教示だけでは粒 子像を引き出すことが難しい現象であると考えられる。
最後に,問 3の匂いの拡散について,粒子的表現を 用いた回答率は,各学年とも教示なしのクラスで10% 前後,教示ありのクラスでも20〜30%前後であったこ とから,匂いの拡散は,児童が粒子像を持って考えに くい現象であると考えられる。児童の発達段階では,
ゴミから匂いの元となる分子が発生して拡散するとい う描図を描くことが困難であったとも考えられる。教 示の有無で結果を比較すると,4 年生は教示ありのク ラスの回答率が有意に高かった(4年生:t(79) =2.34,
P <0.05)。一方,5・6年生には有意な差が見られなか
った(5年生:t (74) =1.25,P>0.05,6年生:t (75) =1.20,
P >0.05)。このことから「全てのものは目に見えない
ほどの小さな粒でできている」という簡単な教示では,
水溶液同様,粒子像を引き出すことは難しいとわかる。
しかし4年生は教示を与えた方の回答率が高かったこ とから,教示の与え方次第でより多くの児童の粒子像 を引き出せると考えられる。
以上より,問 1〜3について粒子像を用いた回答率 は,4・5・6年生の各学年間に大きな差は無く,教 示の有無による差に同じような傾向があり,その差の 大小は個別的な現象や物質の状態によることがわかる。
4.4.2 各問に対する回答の詳細
ここでは各問の回答内容について詳細に検討する。
ア)問1(鉛筆の芯の磨耗に関する問)に対する回答
の詳細
問1の回答を粒子的表現を用いたか否かで2群に分 類し,回答内容をまとめた(図4−2,図4−3)。
図4−2,図4−3のグラフより,粒子的表現の有 無を除き,回答内容には顕著な差異は見られなかった。
そこで更に,「紙の繊維や凹凸に着目し,そこに鉛筆の 芯が入り込む」といった微視的側面に着目した回答に 注目した。これはより科学的な回答である上,鉛筆の 芯や書かれた文字を微視的なものの集合だと捉えてい る回答であるとも言える。各学年とも粒子的表現を用 いて回答をした児童の方が,そうでない児童より芯が 図 4 − 1 粒子的表現を用いた回答率(クラス人数に対する割合)
図 4 − 3 問 1 に関する粒子的表現ありの児童
(112 名)回答内容
図 4 − 2 問 1 に関する粒子的表現なしの児童
(122 名)回答内容
紙の繊維に入り込むと回答している割合が有意に高か った(t(232) =3.35,P<0.01)。特に4年生は5,6年生 よりも多くの児童が回答していた。従って,鉛筆の芯 が粒子の集合体だと考えることができる児童は,「字が 書ける」という現象を,書かれるものに注目し,「小さ な粒が入る隙間がある」と微視的に捉える力が高いと 考えられる。一方,鉛筆の芯を一つの塊として捉えて いる児童は,紙の隙間の存在に着目しにくいと考えら れる。
イ)問2(食塩の溶解に関する問題)に対する回答の 詳細
a)粒子像と教師の「介入」との関係
問2の回答についても,問1の回答と同様に,粒子 的表現を用いたか否かで 2群に分類し,回答内容をグ ラフにまとめた(図4−4,図4−5)。
更に粒子的表現を用いた回答について,「水と食塩に 粒子的表現を用いた回答」と「食塩にのみ粒子的表現 を用いた回答」の2群に分けられた。問2における科 学的な回答とは,溶媒と溶質の両方を粒子像をもって 考えている回答である。従って,「水と食塩に粒子的表 現を用いた回答」が科学的な回答であると言える。こ れらをクラス人数に対する割合で示す(図4−6)。水 と食塩に粒子的表現を用いた回答率を比較すると,各
学年とも教示の有無による回答率に差は見られなかっ た(4年生:t (79) =1.66,P <0.05,5年生:t (74) =1.67,
P <0.05,6年生:t (75) =1.67,P <0.05)。
一方,水と食塩に粒子的表現を用いた回答率を学年 間で比較すると,4,5年生と6年生の回答率の差が大 きく,有意な差が見られた( 4 年生:t (156) =3.54,
P <0.01,5年生:t (151) =5.13,P <0.01)。従って,食 塩の溶解に関しては,水に対して粒子像をもって考え る力は,教示の有無よりも学年に関係し,4,5,6年 生の中では 6年生がもっとも高いと言える。これは第 5 学年,第6学年における「ものの溶け方」や「水溶 液の性質」に関する学習の効果であると考えられる。
b)食塩の溶解に関する誤概念の詳細
次に,問2に関する科学的とは言えない回答に注目 する。まず,水溶液に関する保存概念の不保持や,濃 度に関する先行研究(例えば,日永田ら(1999)・堀,
(1998))を参考に,本調査における科学的に正しくな い回答を4つの説にまとめた。以下の表4−3に示す。
そして問2の回答を,表4−3を元に分類した。以下 の図4−7に示す。
図4−7から,前述したように5年生は単元「もの のとけかた」,6年生は単元「いろいろな水溶液」を学 習中であるにもかかわらず,水溶液についての誤った 概念を保持している児童が少なくないと言える。
まず,水溶液中の溶質の保存概念が不保持である
「なくなる」説から見ていく。「なくなる」説を回答し
図 4 − 6 質問 2 における粒子的表現を用いた回答
(クラス人数に対する割合)
図 4 − 5 問 2 に関する粒子的表現ありの児童
(149 名)の回答内容
図 4 − 4 問 2 に関する粒子表現なしの児童
(85 名)の回答内容
表 4 − 3 水溶液に関する誤概念保持が考えられる回答
た児童の人数は,教示ありのクラスの方が教示なしの クラスよりも有意に少なかった(t (232) =1.66,P<0.05)。 水溶液を学習しても「なくなる」説を保持している児 童が少なからず存在するが,「全てのものは目に見えな いほどの小さな粒でできている」という簡単な教示を 与えることが,水溶液の溶質保存概念に影響を与える ことが考えられる。
次に「化学変化」説は,「塩酸と鉄が混ざって塩化鉄 になるように」という回答に代表されるように,溶解 を化学変化のように捉えている回答である。これは 6 年生のみに見られ,3名という少ない人数の回答であ った。しかしこれは6年生が学習中の「いろいろな水 溶液」において,塩酸に鉄等の金属を入れる実験を経 験したことに関係すると考えられ,無視できない。こ れは6年生になって初めて現れた誤概念といえる。
続いて「食塩の液体化」説は,食塩自体が液体にな ってしまうという,溶解を融解と混同している誤概念 であるが,各学年ともに存在していた。特に5年生は
「もののとけかた」を学習中であるにもかかわらず10% 以上の児童がそのように回答していた。そこで,回答 を更に粒子的表現の使用の有無の視点から見ていく。
各学年とも粒子的表現を用いて回答した児童の方が
「塩の液体化」説の保持率は少なく,有意な差が見られ た(4年生:t(79) =3.06,P<0.01,5年生:t(74) =3.32,
P<0.01,6年生:t(75) =2.31,P<0.05)。水溶液を粒子 像で考えられることは,溶解と融解を混同しないこと に繋がるものと考えられる。
最後に,下方が上方より溶質の濃度が高いという「下 方高濃度」説について見ていく。粒子的表現を用いて回 答した児童も用いていない児童も,「下方高濃度」説の 保持率に有意な差はみられなかった(4年生:t (79) =0.01,
P >0.05,6年生:t (75) =0.49,P >0.05)。水溶液につい て下の方が濃いとする誤概念の保持は,粒子像で考え ることができることとは無関係であると考えられる。
一方,この誤概念は「もののとけかた」を学習前の 4 年生に多く,6年生に 2人存在するものの,学習によ
って下方高濃度の誤概念はほとんどなくなると言って よい(注2)。授業において水溶液の濃度は均一である ことを強調すれば下方高濃度の誤概念はほとんどなく なると考えられる。
ウ)問 3(匂いの拡散に関する問題)に対する回答の
詳細
問3の回答を粒子的表現を用いて回答したか否かの 2 群に分類した後,更に詳しく回答内容を分類した。
結果を図4−8,図4−9のグラフに示す。
これらのグラフより,粒子的表現の使用の有無にか かわらず,回答内容は類似した傾向を示すことが読み 取れる。特に,「空気の流れに乗る」という回答が多く,
匂いの原因物質自体の運動を回答する児童は少なかっ た。匂いの拡散について,粒子像をもって考えられて も,回答内容に影響を与えるわけではなく,気体の分 子運動は児童には捉えにくいと考えられる。
このことから,気体に関しては,粒子自体の運動よ りも,まずは「粒子が集まってできている」という構 成要素としての粒子を重要視し,捉えさせるとよいと 考えられる。
図 4 − 7 水溶液に関する誤概念保持が考えられる回 答(学年人数に対する割合)
図 4 − 8 問 3 に関する粒子的表現なしの児童(194 名)の回答内容
図 4 − 9 問 3 に関する粒子表現ありの児童(40 名)
の回答内容
5 .児童の粒子像に関する活動実践調査とその結果
5 .1 調査の目的と方法
児童のもつ粒子像やその形成について調べるために,
一連の作業を伴う数時間(約2時間程度)の調査を児 童館に来る児童5人を対象に調べた。
調査の目的は以下の3点である。
ア)小学校4・5年生の児童を対象に「すべて物は粒 子でできている」という概念を連想させる簡単な作 業やイメージ活動を行わせることを通して,児童は どの程度の小さな粒子をイメージすることができる のか,微視的イメージの極限を探るとともに,その 粒子像がどのようなものかを明らかにする。
イ)対象とする児童は具体的操作期にあると考えられ るため,教師による教授だけでなく,児童自らの体 験を元にして粒子像を形成させる可能性を探る。
ウ)頭の中で,あるものについてどんどん小さくして いくイメージをし,更にその小さな粒子で元のもの を形成していくイメージをする能力(ここでは「粒 子像についての可逆性」と呼ぶ)を児童は持ち得る かを探る。
調査時期と調査対象については,2005年9月から11 月にかけて,都内公立小学校の第4学年及び第5学年 の児童5名を対象として実践活動,質問紙調査,及び 面接調査から成るⅠからⅦまでの調査を行った。活動 の流れを表5−1に示す。
調査Ⅰ,Ⅱは「小さなものが集まって大きなものが できている」という概念の形成を意図した工作活動で ある。調査Ⅰでは,アイロンビーズを用いた「コース ター作り」と,色の付いた砂を用いた工作「夢の砂浜 作り」を行う。これらの工作は調査対象の児童に馴染 み深いものであるとともに,色とりどりのビーズや砂 を用い,児童自らが慎重に工作をすることでビーズや 砂の粒に注目できるよう工夫されている。
調査Ⅱでは大きなものを小さなものに分ける作業を 行う。木のネンドを用いて団子を作り,さらにその団 子の半分の大きさの団子を作るという活動を可能な限
り繰り返す。ここで用いた木のネンドは,製材所など からでるオガクズを微粉砕したセルロース成分と糊と を混合した製品である。溶剤は水なので無害であり,
環境に優しい素材である。一番小さくできた団子と,
水を加える前のネンドの粉を虫眼鏡で見比べることで,
木のネンドの粉の一粒の方がはるかに小さいことに気 づかせる。最後に,水を加える前のネンドの粉に水を加 え,粘土の塊を作らせる。児童はチャック付きポリ袋 に入った木のネンドに水を加え揉むことで,粉が徐々 に粘化していく様子を目と手の感触から実感するであ ろう。このようにして,粉のような小さな粒から粘土 が出来上がっていることを理解できると考えられる。
調査Ⅲ,Ⅳでは「大きなものを小さくしていく」作 業に加え,大きなものを小さくしていったり,逆に小 さなものを大きくしていったりするイメージ活動を行 う。また,調査Ⅲ以降,活動をさせながら,随時粒子 像に関する質問を行う面接法の形式をとる。質問内容 と,その意図を資料1に示す。
調査Ⅲでは,児童に角砂糖を虫眼鏡で観察させた後,
それをげんのうで砕いて小さな砂糖の粒を作らせる。
げんのうで叩いたりすりつぶしたりし,限界まで小さ くなった粒を顕微鏡で見せる。ここで用いる顕微鏡は 30倍のもので,小さくて手軽なものを使用する。児童 はこの観察から,自分で作った最小の粒が,まだ小さ くできそうだと思うだろう。そこで,もう一度小さな 粒作りの限界に挑戦させ,顕微鏡での観察を繰り返さ せる。これ以上小さくすることは無理だと児童が感じ てきたところで,イメージ活動に入る。まず目をつぶ らせ,元の角砂糖をイメージさせる。それを徐々に細 かくさせ,これ以上小さくできないところで挙手させ る。ここでイメージできた粒子の大きさや特徴につい て質問する。続いて,頭の中でイメージできた最小の 粒をもう一度思い出させ,それを元の角砂糖にしてい くイメージもさせる。この様にして,大きなものを小 さくしていくイメージ活動及び,小さなものから大き なものにしていくイメージ活動双方のイメージ能力,
即ち粒子的イメージについての可逆性を児童が持ち得 るかを調べる。
調査Ⅳでは氷を用いて調査Ⅲと同様の流れで行う。
なお,角砂糖は肉眼でも,砂糖一粒ひとつぶの集合体だ と見えるのに対し,氷はただの塊に見える点が異なる。
調査Ⅴは,一部の児童のみを対象に行う。本活動は 児童に「すべてものは粒子でできている」という概念 を形成させることを意図したものである。しかし,児 童は活動を全体的に「粒」というキーワードでくくる ことができないのではないかと考えられる。そこで活 表 5 − 1 活動の流れ