*Noboru TANIGUCHI
− 74 − 1961年11月生
大阪大学大学院工学系研究科応用化学専 攻修士課程修了(1987年)
現在、パナソニック株式会社 くらし環 境開発センター 環境デバイスグループ 主任技師 工学博士 無機材料化学、電 気化学
TEL:06-6906-5097 FAX:06-6904-7461
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材料開発現場におけるオープンイノベーション活用
Taking advantage of open innovation in the actual spot of material development
Key Words:open innovation, material development, protonic conductor, SOFC, sensor
生 産 と 技 術 第62巻 第1号(2010)
谷 口 昇
*1.はじめに
今日、テレビは各家庭に 1 台、いや 2 台はあるか もしれない。世界中でもっとも普及している家電製 品のひとつである。弊社はいち早くテレビの商品化 に着手し、今日のテレビ産業を牽引してきたが、こ のテレビ開発の歴史においても、オープンイノベー ションの活用がなされていた。弊社創業者は、欧米 の先進の真空管技術をいち早く手に入れることが、
世界中にテレビを普及させる基となると考え、自ら が技術の導入の交渉を海外と行った。企業において オープンイノベーションを活用する手段は、開発加 速をするうえで、きわめて重要な手段である。
企業においてオープンイノベーションを行う場合、
注意しなければならない点が二つある。ひとつは、
開発プロジェクトの守秘であり、もうひとつは知的 財産権の確保である。大学等産学連携で共同研究を 推進する場合、最初に取り交わす共同研究契約が重 要になってくる。もちろん、共同研究の目的は、製 品やデバイスの開発を加速するためであり、開発に 結びつかない共同研究は行わない。
共同研究の分野、推進方法も多岐にわたるが、今 回は特に材料、デバイス開発におけるオープンイノ ベーションについてのマネージメント、推進方法に ついて開発現場を担当する立場から考えてみた。
2.材料、デバイス開発
人気商品の創出には、製品の早期開発、商品化が 大きな成功要因となる。また、市場ニーズの多様化 の対応に応じ、企業においての製品のライフタイム はどんどん短命になり、開発期間も短縮化する傾向 にある。人気商品の創出には、開発加速が必要不可 欠である。
もちろん最終商品に至るまでには、何段階ものモ ノ作りが行われる。R & D での開発は、商品のコン セプトから原理モデル、実用化モデルまでを担うこ とになる。実用化モデルを想定した場合に、その商 品の特徴、差別化できる技術は、差別化できるデバ イスから成り立つ。さらに差別化できるデバイスは、
何がしかのズバ抜けた材料や、プロセス技術が必要 である。つまり、人気商品をつくるには、強いデバ イス、差別化できる材料やプロセスが必須となる。
とりわけ差別化できる新しい材料を開発する場合、
長い年月を要する。新規材料の開発を加速する手段 を考えた場合、一般的には人海戦術、高速計算機応 用、オープンイノベーション等が考えられる。潤沢 な予算があれば人海戦術も功を奏するであろう。既 存のシミュレーション技術、予測ソフトがあれば、
材料の推察もできるであろう。しかしながら、構想、
原理検証の段階で、無駄な投資は行えないし、推算 ソフトの使いこなしも困難である。となると、先進、
先端技術を早期に手元に導入するのが得策である。
開発初期段階では、低投資リスクであるオープンイ ノベーションの活用が費用対効果が大きいと考えら れる。オープンイノベーションの方法としては、産 学連携を始め、他社とのアライアンス、留学など、
いろんな方法が考えられる。
3.材料技術者
今までに材料技術者として、いろいろな材料の開
企業リポート図3 燃料電池発電性能 図2 開発した材料のイオン導電率 図1 開発したプロトン伝導体の結晶格子
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発に取り組んできた。主に環境エネルギーにかかわ る分野、技術に携わってきた。中でも、固体酸化物 型燃料電池や、ガスセンサの電解質として用いられ る、新規の酸化物プロトン伝導体材料の開発に長年 取り組んできた。新規材料の開発において、技術者 として最も苦労するところは、限られた人員、限ら れた時間、期間内に如何に材料を開発できるか、ま た、計画的に新規材料を創出できるかであろう。
今日できるかもしれない、しかしながら 10 年経っ てもできていないかもしれない。半年、1 年で結果 が求められる企業においては、材料開発は、魔物で ある。小職の場合、幸運にも開発初期に、プロトン を高導電率で伝導するペロブスカイト型酸化物 BaCe
0.8Gd
0.2O
3に遭遇できた。これは、広い見識や、
高い専門技術があったわけではない。あったのは無 謀に近い挑戦意欲だったように思う。とりわけ新規 分野に入る場合、勉強する必要があり、大学の門戸 をたたくことになり、長年この関連の材料の開発に 携わることになった(図 1) 。
4.酸化物プロトン伝導体の開発
開発当初、まず考えたことは、高効率で長持ちの 燃料電池をいち早く出したいという思いから、従来 1000℃で作動していたジルコニア型燃料電池の金 属部品が使える 650℃から 800℃で作動する中温作 動型燃料電池を考えた。そのためには、目標の温度 で機能する、ジルコニアに代わる電解質(イオン伝 導体)の開発が必要であった。文献、技術情報調査 から、材料開発の余地がある材料系(酸化物プロト ン伝導体)を見つけ出し、開発した先生に直接お話
できる機会を戴いた。最終的に、先生の研究室で留 学させて戴くことになり、伝導体の合成法、評価法、
およびプロトン伝導機構について一から学ばせて戴 き、技術を社内に導入することができた。その後、
社内で材料開発を行い、先生のご協力のもと、1 年 ほどで高プロトン伝導体を見出すことができた。新 たな材料開発するまでには時間を要したが、結果的 に早期に新しい材料を見出せたものと考えている(図 2) 。最終的にひとつの材料を世に送り出すのに、信 頼性、安定性確保のため、10 年ほどはかかったと 思いますが、新しい固体電解質型燃料電池の原理検 証(図 3)や、水素濃度をリニアに検出できるプロ トン伝導型限界電流式ガスセンサのデバイス化を行 うことができた(図 4)。いずれにせよ材料開発を 加速できたのは、最初の開発着手にあったと考えて いる。当時はオープンイノベーションという言葉が なかったが、産学連携が功を奏したと考えている。
材料開発現場にあっては、産学連携を始め、他社と
のアライアンス、留学などが有効な手段になろう。
図4 ガスセンサの外観
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5.オープンイノベーションの活用
既述産学連携で最も良かったことは何か、また開 発加速につながったものは何か考えてみた。技術的 には、ひとつは材料の精密合成技術、合成ノウハウ の習得、もうひとつは、大学で創られた正確な評価 方法であった。これらは、高い専門能力、技術と、
長年の研究で培われたノウハウがぎっしり詰まった ものである。合成装置にしろ、評価装置にしろ、そ こに行き着いた過程を考えると、昨日一昨日ででき たものではない。合成手段や、評価方法は、材料開 発にとってもっとも時間を要するところであり、重 要な習得ポイントであった。
次に、忘れてはならないことに、共同研究の進め
方がある。小職は、会社から派遣として大学に留学 させていただいた。どっぷりと研究室に入りこむこ とは、最新の研究情報の入手だけでなく、人的なネ ットワークを築けたことも、大きな成果だと思って いる。特に、その世界での第一人者や、教授との検 討会は極めて価値ある時間であった。先生のアドバ イス、ご教示は、企業にとっても、個人にとっても プライスレスな資産になりうる。いずれにせよ、教 授や第一人者との交流は、オープンイノベーション を通じて得られる価値ある成果のひとつである。
6.おわりに